桜の喪失を救うために

雪鳴月彦

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夜が明けて

夜が明けて

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 部屋に入り私服に着替え、鼻から息を吐きつつ椅子へと座り込む。

 時刻はまだギリギリ正午前。これが普段の休日ならば、士気も高らかにゲームを起動させているところなのだが。

「……やっぱ、はっきりさせないと気分悪ぃな」

 桜の件が頭にこびりつき、とても休日を満喫できる気分にはなれない。

 とにかく、一度会って話をしておかなければ。

 自分が何かを手伝うとか助けるというのは別として、桜が片桐とのやり取りをどう処理する決断をしたのか。まずはそこを明確にしたい。

 彼女が下そうとする最終的な判断。それを本人から直接聞かせてもらわないと、落ち着けそうもない。

「……よし」

 気持ちを固め、立ち上がる。そして、スマホを手に取りまずは桜へ連絡を入れようとしたその矢先――。

 家のインターホンが鳴った。

 はーいという姉貴の声が僅かに聞こえる。

 それから玄関先で何事かをやり取りするような気配を感じたが、生憎細かい部分は聞き取れなかった。どうせ何かの集金か近所の人だろうと適当に見当をつけ、またスマホへ目を戻す。

 再び指を動かしかけて、俺はピクリと眉をしかめた。階段をリズミカルに上がってくる足音が耳に届く。

 一瞬、姉貴かと思ったが違和感がある。

 誰か客でも訪ねてきたのか。訝しく思いつつ部屋のドアへ視線を向けていると、足音はその向こうでピタリと止んだ。

 それと同時に、勢いよくドアが開かれる。

 そして――。

「やっほー」

 元気に手を挙げ入ってきたのは、まさに今電話をかけようとしていた相手だった。

「……どうしたの? 鳥が何かくらったような顔して」

「は?」

 おそらく鳩が豆鉄砲をくらったと言いたかったのだろうが、いきなり現れた桜に面食らい脳の回転が鈍ってしまい、瞬時に反応ができなかった。

「どうしたんだ、いきなり?」

 まさか、このタイミングで桜から訪ねて来るとは想定の範囲外だ。

「どうしたって、用があるから来たんでしょ。ご飯、もう食べたの?」

「……あ、ああ。今済ませたとこ」

「そっか。じゃあちょうど良いや。少し付き合ってくれない? 話したいこととかあるから」

「話?」

 何となく、と言うかほとんど直感的に昨夜のことだと把握する。

「うん。ここで話しても良いんだけど、どうせなら外歩きながらの方が話しやすいかなって思って」

「……?」

 気のせいかもしれないが、どことなく桜の様子がいつもと違う。

 昨日あんなことがあったせいで無意識にそう見えてしまっているだけかもしれないが、何というか普段の彼女よりも微妙に雰囲気が異なるように感じる。

「行かない?」

 僅かに首を傾げて訊いてくる悪魔少女へ、俺は小さく頷いた。

「わかった。ちょうど俺も、お前に会いに行こうと思ってたところだったし」

 スマホをポケットに入れ、机に置いていた財布を手に取る。

「あたしに? なんだ、じゃあわざわざ来なくても良かったんじゃん」

 来て損したなぁと呟く彼女に、無言で部屋を出るよう訴えて退室を促す。

 その後に続くように俺も部屋を出ると、そのまま階段を下りた。

「ん? あれ? 桜ちゃんもう帰るの?」

 玄関に向かいかけた俺たちに気づき、姉貴がぽかんとしたように声をかけてきた。

「はい、雄治くん迎えに来ただけなので。お邪魔しました」

 律義にお辞儀をする桜の横で、俺は姉貴と目を合わせる。

「ちょっと出かけてくるわ」

「あら、デート? やっぱり良い関係なんじゃないの。頑張れ、弟!」

「お前が頑張れよ」

 三年近く彼氏のいない姉貴に言い捨てて、履き慣れた靴に足を入れ外へ出る。外の気温は高いが、我慢できない程でもない。

「で? どこに行くんだ?」

 まばらに雲の浮かぶ空から桜に顔の向きを変え、訊ねる。

 話をするというからにはどこかの喫茶店か人気の少ない静かな場所か。まさか、また本屋を調べたいとはさすがに言わないだろう。

 そんな風にあれこれ考えながら返事を待つと、桜は俺の前に歩み出て振り向いた。

「一応、あたしにとっての思い出の場所になるのかな。とりあえず付いてきて」

 そう言って微かに笑う彼女の顔は、やはりいつもと違いどこか影があるように感じられた。
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