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生きるために
生きるために
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自分のことなんて、今まで深く考えたことがなかった。
自分は悪魔で、異世界に迷い込んで、記憶を無くして、でもどうにかすれば絶対元の世界に帰ることができる。そう信じていたし、疑う余地もなかったのに。
まさかそれが一瞬で裏切られることになるなんて。
今、こうして山の中を走る自分は、何者なんだろう。
人間、ではない。雄治みたく、この世界で普通に生まれたわけじゃないから。
なら、やっぱり悪魔?
そう納得したいけど、それはもう無理。真実を知った以上は、無理だと思う。
あたしは、悪魔っていう設定で創られた何か。
曖昧な存在。
これでも生き物なのか、それともただの無なのか。難しくてよくわからない。
考えれば考えるほど、悲しくなりそうになる。
あたしが生まれてきた意味は、いったい何だったのだろう。生まれてくる必要性なんて、あったのか。
「違う……こんなこと考えちゃ駄目」
邪念を振り払い、あたしは走る。なるべく音を立てず、気配も消して。
雄治が思いついた作戦を成功させるために。
そうしなければ、あたしは殺されてしまうらしいから。
「まだ、死にたくない……」
目立たないように前傾姿勢を保ちながら疾走して、あたしは雄治の言葉を思い出す。
生きていれば、桜が見れる。
自分と同じ名前の、可愛らしく雄大な花。写真でしか見たことのないその花を、自分の目に映せるのは楽しみだ。
「約束してくれた。雄治が一緒に行ってくれるって。頑張らないと……」
言葉に出すことで、僅かに士気が高まる。
例え自分に存在理由がなくとも、生きていたいと思える目的があればそれに向かって生きられる。
記憶探しなんていう有りもしなかった幻想の代わりに、雄治が用意してくれた新しい道しるべ。この世界で唯一信頼できる彼が示してくれた。
今はそれを信じて進むしかないし、進みたい。
そのためにも、あたしは言われた役割を果たさないと――。
「まだ足りないかな? もう少し範囲を広げて準備した方が、雄治のこと安心させられるかも」
ずっと走り回りながら、彼に頼まれたことをやってきた。
草木に覆われた視界の狭い周囲を注意深く観察して、あたしは片桐って人がいる場所までの方角と距離を計算する。
雄治だったらたぶん弱音を言いそうだけど、あたし的にはそれほど大した距離じゃない。敵に見つかることさえなければ、まだすぐに戻れる範囲内。
「もうちょっとだけ。念には念を入れよう」
これだけ動き回っておけば成果はありそうな気もするけど、せっかくの計画が失敗したら雄治ががっかりしそうだし。
――あと少しだけ。
周辺に拡散していた注意を、正面一点に戻す。目の前に迫るのは、何かモコモコした植物の密集地。
突っ込んで突破するか無難に飛び越えるかで悩み、音を立てないことを優先するため飛び越えることにした。
屈んでいた姿勢を僅かに戻して、跳躍のために足に力を込める。
目立たないように最小限のジャンプをするため、最近学校の体育で遊んだハードル走をする感覚で、モコモコを飛び越えようとした、まさにその瞬間。
「――?」
五感に、空気が揺れる気配を感じた。その原因が何かを察知するより遥かに速く。
眼前に、上空から会いたくないモノが落ちてきた。
「あ……っ……」
反射的に、身体が竦む。
飛び出しかけた格好のまま身を固くして、あたしは現れた相手に目を大きくすることしかできない。
すぐ目の前。手を伸ばせば届く距離。
そんな場所に降り立ったのは、紛れもなくガーディアン。自分では絶対に倒せない敵。
動揺と恐怖で頭が真っ白になる。
――こんなタイミングで……。
あたしを信じて待つ、彼の顔が頭に浮かぶ。このまま死んだら、計画は失敗。
そしたら、彼は悲しむだろうか。
――嫌だ……そんなの。
どうにかしなければ。
そんなあたしの焦る気持ちなんか汲むこともせず、ガーディアンの腕が、ゆっくりと動いた。
――雄治……。
竦む身体を動かすこともできないまま、あたしは自分に残された猶予がもはやゼロに等しいことを自覚した――。
自分のことなんて、今まで深く考えたことがなかった。
自分は悪魔で、異世界に迷い込んで、記憶を無くして、でもどうにかすれば絶対元の世界に帰ることができる。そう信じていたし、疑う余地もなかったのに。
まさかそれが一瞬で裏切られることになるなんて。
今、こうして山の中を走る自分は、何者なんだろう。
人間、ではない。雄治みたく、この世界で普通に生まれたわけじゃないから。
なら、やっぱり悪魔?
そう納得したいけど、それはもう無理。真実を知った以上は、無理だと思う。
あたしは、悪魔っていう設定で創られた何か。
曖昧な存在。
これでも生き物なのか、それともただの無なのか。難しくてよくわからない。
考えれば考えるほど、悲しくなりそうになる。
あたしが生まれてきた意味は、いったい何だったのだろう。生まれてくる必要性なんて、あったのか。
「違う……こんなこと考えちゃ駄目」
邪念を振り払い、あたしは走る。なるべく音を立てず、気配も消して。
雄治が思いついた作戦を成功させるために。
そうしなければ、あたしは殺されてしまうらしいから。
「まだ、死にたくない……」
目立たないように前傾姿勢を保ちながら疾走して、あたしは雄治の言葉を思い出す。
生きていれば、桜が見れる。
自分と同じ名前の、可愛らしく雄大な花。写真でしか見たことのないその花を、自分の目に映せるのは楽しみだ。
「約束してくれた。雄治が一緒に行ってくれるって。頑張らないと……」
言葉に出すことで、僅かに士気が高まる。
例え自分に存在理由がなくとも、生きていたいと思える目的があればそれに向かって生きられる。
記憶探しなんていう有りもしなかった幻想の代わりに、雄治が用意してくれた新しい道しるべ。この世界で唯一信頼できる彼が示してくれた。
今はそれを信じて進むしかないし、進みたい。
そのためにも、あたしは言われた役割を果たさないと――。
「まだ足りないかな? もう少し範囲を広げて準備した方が、雄治のこと安心させられるかも」
ずっと走り回りながら、彼に頼まれたことをやってきた。
草木に覆われた視界の狭い周囲を注意深く観察して、あたしは片桐って人がいる場所までの方角と距離を計算する。
雄治だったらたぶん弱音を言いそうだけど、あたし的にはそれほど大した距離じゃない。敵に見つかることさえなければ、まだすぐに戻れる範囲内。
「もうちょっとだけ。念には念を入れよう」
これだけ動き回っておけば成果はありそうな気もするけど、せっかくの計画が失敗したら雄治ががっかりしそうだし。
――あと少しだけ。
周辺に拡散していた注意を、正面一点に戻す。目の前に迫るのは、何かモコモコした植物の密集地。
突っ込んで突破するか無難に飛び越えるかで悩み、音を立てないことを優先するため飛び越えることにした。
屈んでいた姿勢を僅かに戻して、跳躍のために足に力を込める。
目立たないように最小限のジャンプをするため、最近学校の体育で遊んだハードル走をする感覚で、モコモコを飛び越えようとした、まさにその瞬間。
「――?」
五感に、空気が揺れる気配を感じた。その原因が何かを察知するより遥かに速く。
眼前に、上空から会いたくないモノが落ちてきた。
「あ……っ……」
反射的に、身体が竦む。
飛び出しかけた格好のまま身を固くして、あたしは現れた相手に目を大きくすることしかできない。
すぐ目の前。手を伸ばせば届く距離。
そんな場所に降り立ったのは、紛れもなくガーディアン。自分では絶対に倒せない敵。
動揺と恐怖で頭が真っ白になる。
――こんなタイミングで……。
あたしを信じて待つ、彼の顔が頭に浮かぶ。このまま死んだら、計画は失敗。
そしたら、彼は悲しむだろうか。
――嫌だ……そんなの。
どうにかしなければ。
そんなあたしの焦る気持ちなんか汲むこともせず、ガーディアンの腕が、ゆっくりと動いた。
――雄治……。
竦む身体を動かすこともできないまま、あたしは自分に残された猶予がもはやゼロに等しいことを自覚した――。
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