桜の喪失を救うために

雪鳴月彦

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 方向を誤らなかったのは、素直に運が良かったと言える。

 自分にガーディアンの害はないと言われているが、警戒だけは怠らぬよう意識しながら廃墟へと戻った。

 夏休みに入ってすぐのあの日にも見た、黒く大きなシルエット。あのときは、まさか自分がこんなふざけた面倒事に巻き込まれるなど、微塵も予測していなかったが。

 ――人生一寸先は闇ってのは、まさにこういうことを言うんだろうな。

 そんな皮肉を胸中の中だけで浮かべ、俺は草むらから周囲の様子を窺った。

 元は駐車場だったであろう場所。その隅の方に積まれた廃材へ腰掛けている片桐の姿を見つける。

 薄暗いので明確ではないが、下を向いて何やら書き物をしているように見える。また新しく設定を創り出しているのか、それとも変更でもしているか。

「……」

 まさか桜に関する設定をいじっているのではという、焦燥のようなものがせり上がる。

 それをどうにか自制して、俺は茂みの中から抜け出す。そのままゆっくりと時間をかけて前へと進み、片桐とは二十メートル程の距離をおいて足を止めた。

 こちらに気づいていなかったわけでもないのだろう。片桐はわざとらしく動かしていた手を止めると、澄ました態度で顔を上げてきた。

「おかえり……と言ったらおかしいか。サクラは一緒じゃないようだけど、見つからなかったのかな?」

 パタリと手帳を閉じて立ち上がると、片桐は軽く尻を叩き埃を払う。

「でも、ガーディアンが引き返してこないってことは、まだサクラは生きてるはずだ。すぐ死ぬかと思ってたけど、なかなか頑張るな」

 相変わらず余裕綽々な声を一旦無視して、辺りを眺めて他に敵がいないことを確かめる。

 見える範囲には気配はない。自分ごときの五感がどれほど役に立つか疑問ではあったが、少なくとも姿は確認できなかった。

 とは言うものの、それで安心できる相手ではない。

「……ついさっき思いついたんだけどよ」

 片桐の会話には付き合うことなく、俺は俺で口を開く。

「桜にはお前を倒せないらしいけど……もっと単純に、俺がお前をぶん殴って黙らせることは可能だったりするんじゃないのか?」

 睨み付け、それが相手に見えているのかは判断できなかったが、返ってきたのは見下すような嘲笑だった。

「そうだね。サクラじゃなく、きみが僕を殴ればとりあえず攻撃としては通じるだろうね。……殴れれば、の話だけど」

 パチンと鳴らされる片桐の指の音。それに反応するように、地面から何かが突き出してきた。

「……!」

 巨大なミミズのようにも見える。そのグロテスクな異形は、まるで片桐を守るように、その周囲でうねうねと身体をくねらせる。

「サンドワーム。僕に敵意を向け攻撃を仕掛けた者を襲うように設定してある。身体を食べられて穴だらけにされても良いんなら、いつでもかかってきなよ。一発くらいは殴れるかもよ?」

 忌々しさに苦笑が漏れる。

「あんな惜し気もなく翼竜を消して見せたんだ、なんかは隠してると思ったよ。予想したより気持ち悪ぃもん出しやがって」

「そうだね、こいつらは今後見た目に変更が必要かな。あ、でも……こういうグロいキャラも少しは必要か。他のキャラの引き立て役には便利かも」
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