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第二章:断罪決行
断罪決行 22
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「……確かに。言われてみればこのドアには隙間らしい隙間もないな。元研究所と言うだけあって、設備自体はしっかりと作られていたということか」
ドアの下や周りを軽く調べながらお兄ちゃんが言うのとほぼ同時、階段の方から数人分の足音が近づいてくるのが耳に届いた。
何だろうかと思いつつ、あたしは足音の主たちが視界に現れるのを待つ。
「白沼様、木ノ江様は……?」
最初に階段から姿を現したのは川辺さん。その後ろには伊藤さんもついてきている。
「ちょうど良いところへ来てくれた。ドアに鍵がかかっていて開けることができない。どうにかならないか?」
「まだ寝てるんじゃないのか? 昨日あんなことがあったばかりだし、不安とかで寝つくのが遅くなったってのもあり得るだろ」
親指でドアを指すお兄ちゃんの横に立ち、伊藤さんは握った拳をドアへと強めに叩きつけた。
「おい! 木ノ江さん、寝てるんだったら起きてくれ! また大変なことが起きたんだよ!」
静かだった廊下に、伊藤さんの声とドアを叩く音が反響し、床や壁へと吸い込まれていく。
「……駄目だな。聞こえてねぇのか?」
中からの反応がないことを認め舌打ちをする伊藤さんと入れ替わりに、またお兄ちゃんはドアノブをいじり開かないことを確認する。
「ここは、外からカギを開けることはできないのか?」
側に立ったまま成り行きを見ていた川辺さんに訊ねると、問われた本人はハッとしたように小刻みな頷きを返してきた。
「調理場の奥に、全ての部屋に対応したマスターキーが一つ保管してあります。それを使えば……」
「今すぐ持ってきてくれ」
「は、はい……!」
貴道さんの死体を見ていたせいで、まだ気分が不安定なままなのだろう。
川辺さんは落ち着かない様子で返事をすると、一瞬だけ木ノ江さんの部屋へ視線を向け、すぐに方向転換して今来たばかりの廊下を戻っていった。
「それにしても、一体どうなってるんだろうな。あそこにあったのって、本当に本物の死体なのかよ」
走り去る川辺さんの背中を見つめつつ、伊藤さんはどこか憔悴したような声音で呟いた。
「焼かれていた肉料理は定かでないが、大皿に乗せられていた頭部と丸焼きにされていた手足、これらは本物だろう。……これを見てくれ」
言って、お兄ちゃんがポケットから取り出したのは一枚のカード。
貴道さんの部屋のドアに貼られていた、<晩餐>のカードだ。
「それは、おれたちに配られたカードか?」
「いや、それとは似て非なる別のもの。これは、殺された男の部屋の前に貼られていたカードだ。晩餐の文字の下と裏側に、絵馬のときと同様の追記が書かれている」
「Lv.2、CONVICT……。これって、まさか連続殺人ってことなのか?」
お兄ちゃんから受け取ったカードを調べ、伊藤さんはわかりやすいくらいに頬を引きつらせて呻く。
「間違いないだろうな。これでもう、絵馬の死が自殺という僅かな可能性も完全に潰された。この島には、常軌を逸した殺人鬼が紛れ込んでいると認識すべきだろう」
何お兄ちゃんの言い方は、すごく軽くて大したことないことを言っているように聞こえてしまうけど、その内容はどうしようもなく絶望的で救いがない。
「マジかよ……」
「絵馬だけで終われば、まだ強引に自殺や事故死と押し通すこともできたかもしれないが、貴道と言う男の死に方にそれは通用しない。自分の身体を解体し、それを調理した挙句盛り付けてから死ぬなんて芸当、できる人間は存在しない」
「…………」
そこで、糸が切れたかのように会話が途切れた。
これ以上話を膨らませても、気分が悪くなるだけ。
恐らく、伊藤さんはそれを感じ取ったのかもしれない。
こうしている間にも、木ノ江さんが目を覚ましてドアを開けてくれたら。
そんな希望を抱いてドアノブを見つめるも、動く気配すら伝わってはこない。
ドアの下や周りを軽く調べながらお兄ちゃんが言うのとほぼ同時、階段の方から数人分の足音が近づいてくるのが耳に届いた。
何だろうかと思いつつ、あたしは足音の主たちが視界に現れるのを待つ。
「白沼様、木ノ江様は……?」
最初に階段から姿を現したのは川辺さん。その後ろには伊藤さんもついてきている。
「ちょうど良いところへ来てくれた。ドアに鍵がかかっていて開けることができない。どうにかならないか?」
「まだ寝てるんじゃないのか? 昨日あんなことがあったばかりだし、不安とかで寝つくのが遅くなったってのもあり得るだろ」
親指でドアを指すお兄ちゃんの横に立ち、伊藤さんは握った拳をドアへと強めに叩きつけた。
「おい! 木ノ江さん、寝てるんだったら起きてくれ! また大変なことが起きたんだよ!」
静かだった廊下に、伊藤さんの声とドアを叩く音が反響し、床や壁へと吸い込まれていく。
「……駄目だな。聞こえてねぇのか?」
中からの反応がないことを認め舌打ちをする伊藤さんと入れ替わりに、またお兄ちゃんはドアノブをいじり開かないことを確認する。
「ここは、外からカギを開けることはできないのか?」
側に立ったまま成り行きを見ていた川辺さんに訊ねると、問われた本人はハッとしたように小刻みな頷きを返してきた。
「調理場の奥に、全ての部屋に対応したマスターキーが一つ保管してあります。それを使えば……」
「今すぐ持ってきてくれ」
「は、はい……!」
貴道さんの死体を見ていたせいで、まだ気分が不安定なままなのだろう。
川辺さんは落ち着かない様子で返事をすると、一瞬だけ木ノ江さんの部屋へ視線を向け、すぐに方向転換して今来たばかりの廊下を戻っていった。
「それにしても、一体どうなってるんだろうな。あそこにあったのって、本当に本物の死体なのかよ」
走り去る川辺さんの背中を見つめつつ、伊藤さんはどこか憔悴したような声音で呟いた。
「焼かれていた肉料理は定かでないが、大皿に乗せられていた頭部と丸焼きにされていた手足、これらは本物だろう。……これを見てくれ」
言って、お兄ちゃんがポケットから取り出したのは一枚のカード。
貴道さんの部屋のドアに貼られていた、<晩餐>のカードだ。
「それは、おれたちに配られたカードか?」
「いや、それとは似て非なる別のもの。これは、殺された男の部屋の前に貼られていたカードだ。晩餐の文字の下と裏側に、絵馬のときと同様の追記が書かれている」
「Lv.2、CONVICT……。これって、まさか連続殺人ってことなのか?」
お兄ちゃんから受け取ったカードを調べ、伊藤さんはわかりやすいくらいに頬を引きつらせて呻く。
「間違いないだろうな。これでもう、絵馬の死が自殺という僅かな可能性も完全に潰された。この島には、常軌を逸した殺人鬼が紛れ込んでいると認識すべきだろう」
何お兄ちゃんの言い方は、すごく軽くて大したことないことを言っているように聞こえてしまうけど、その内容はどうしようもなく絶望的で救いがない。
「マジかよ……」
「絵馬だけで終われば、まだ強引に自殺や事故死と押し通すこともできたかもしれないが、貴道と言う男の死に方にそれは通用しない。自分の身体を解体し、それを調理した挙句盛り付けてから死ぬなんて芸当、できる人間は存在しない」
「…………」
そこで、糸が切れたかのように会話が途切れた。
これ以上話を膨らませても、気分が悪くなるだけ。
恐らく、伊藤さんはそれを感じ取ったのかもしれない。
こうしている間にも、木ノ江さんが目を覚ましてドアを開けてくれたら。
そんな希望を抱いてドアノブを見つめるも、動く気配すら伝わってはこない。
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