48 / 84
第二章:断罪決行
断罪決行 23
しおりを挟む
やがて、十分近くの時間が経過した頃に。
「白沼様!」
いなくなるとき同様に慌てたような足音を響かせながら、川辺さんが引き返してきた。
「鍵を持ってくるだけで随分遅かったな」
血相を変えて近寄ってきた川辺さんへ冷ややかな視線を向け、お兄ちゃんが言う。
「いえ……それが、無いのです」
「ん?」
ぜぇぜぇと息を切らしつつ吐き出す川辺さんの声に、あたしと伊藤さんも意識を集中する。
「保管されていたマスターキーが、無くなっているのです。……専用の保管庫に入れてロックされていたのですが、いつの間にか解除されていたようで、中が空になっていました」
「は? 何だそりゃ、誰かが持ち出したって言うのかよ?」
「そう、なりますかね。昨日の夜に確認したときは、異常なかったのですが……」
「その鍵を保管していた場所のロックと言うのは?」
「保管庫の鍵が六桁の数字を組み合わせるダイヤルになっていまして、それが解かれていたのです」
そう答える川辺さんに頷いて、お兄ちゃんは木ノ江さんの部屋へ視線を戻す。
「となると、ここを外から開けるのは不可能というわけか。……仕方ない。おい、悪いが手伝ってくれないか?」
「あ? どうするつもりだ?」
ポンと肩を叩かれた伊藤さんが、訝し気にお兄ちゃんを見やる。
「どうするも何もない。無理矢理ドアを開けるだけの話だ」
しれっとしながら告げられるその言葉に、伊藤さんだけでなくあたしと川辺さんまでもが、驚いたような顔になってしまった。
「いや、おいおいそれはまずいだろ。いくらなんでも、壊しちまうのは後から弁償とかになったりしないか? 木ノ江さんだって、ただ寝てるだけかもしれないんだ。いきなりドアをぶち破って侵入したら、驚くで済む話じゃないぞ」
ドアとお兄ちゃんの間に立ち塞がるようにして移動しながら、伊藤さんは考え直せと言いたげに腕を広げる。
「問題ない。驚かせてしまうことは申し訳ないが、今はあくまでも緊急事態だ。ドアが壊れても空き部屋に移ってもらえば済む話だし、こんな状況に陥っての判断だ。弁償する必要だってない」
それに、と言ってお兄ちゃんは、伊藤さんの目を真っ直ぐに見つめ返す。
「万が一、木ノ江医師の身にも何かあったとしたなら、悠長なことは言っていられない」
「万が一って……」
絶句して背後のドアを振り返る伊藤さんの表情が、ホラー漫画の一コマみたいに見えた。
「もたもたしていても埒があかない。やるぞ」
「……あ、ああ」
まだ躊躇う気持ちを残しているように見受けられるも、渋々了承したように伊藤さんはお兄ちゃんと並ぶ。
「マリネは少し離れていろ」
「あ、うん……」
言われるまま後ろへ下がるあたしを守るように、川辺さんが側に寄り添ってくれた。
大人二人がドアに向かって体当たりを繰り返す、大きな音が廊下中に鳴り響く。
これで木ノ江さんの身に何もなかったとしたなら、今頃ドアを見つめながら怯えてるのではないだろうか。
数十回に及ぶ体当たりの末に、鈍い音を立ててドアが外れた。
「よ、良し――っ!」
痛めたらしい右肩を擦りながら伊藤さんは呟き、そのまま三歩ほど中へと足を進める。
そのすぐ後ろにお兄ちゃんが続き、あたしと川辺さんもドアの前まで移動して中の様子を窺った。
「……?」
これだけ大きな音を立てていたにも関わらず、室内はしんと静まり返っている。
無人なのかと言うとそうでもないようで、ベッドには人が寝ているのが一目でわかるような、大きな膨らみができていた。
だけど。
――何、あれ?
そのベッドから出ている頭が、あまりにも不自然に見えあたしは眉を顰めた。
顔は反対側を向いているため、見ることができない。
できないんだけれど、その頭部が木ノ江さんのものとは、どうしても考えにくい。
何故なら、その頭部には髪の毛が生えていないから。
剃ったとか、そんな次元の話じゃない。
「白沼様!」
いなくなるとき同様に慌てたような足音を響かせながら、川辺さんが引き返してきた。
「鍵を持ってくるだけで随分遅かったな」
血相を変えて近寄ってきた川辺さんへ冷ややかな視線を向け、お兄ちゃんが言う。
「いえ……それが、無いのです」
「ん?」
ぜぇぜぇと息を切らしつつ吐き出す川辺さんの声に、あたしと伊藤さんも意識を集中する。
「保管されていたマスターキーが、無くなっているのです。……専用の保管庫に入れてロックされていたのですが、いつの間にか解除されていたようで、中が空になっていました」
「は? 何だそりゃ、誰かが持ち出したって言うのかよ?」
「そう、なりますかね。昨日の夜に確認したときは、異常なかったのですが……」
「その鍵を保管していた場所のロックと言うのは?」
「保管庫の鍵が六桁の数字を組み合わせるダイヤルになっていまして、それが解かれていたのです」
そう答える川辺さんに頷いて、お兄ちゃんは木ノ江さんの部屋へ視線を戻す。
「となると、ここを外から開けるのは不可能というわけか。……仕方ない。おい、悪いが手伝ってくれないか?」
「あ? どうするつもりだ?」
ポンと肩を叩かれた伊藤さんが、訝し気にお兄ちゃんを見やる。
「どうするも何もない。無理矢理ドアを開けるだけの話だ」
しれっとしながら告げられるその言葉に、伊藤さんだけでなくあたしと川辺さんまでもが、驚いたような顔になってしまった。
「いや、おいおいそれはまずいだろ。いくらなんでも、壊しちまうのは後から弁償とかになったりしないか? 木ノ江さんだって、ただ寝てるだけかもしれないんだ。いきなりドアをぶち破って侵入したら、驚くで済む話じゃないぞ」
ドアとお兄ちゃんの間に立ち塞がるようにして移動しながら、伊藤さんは考え直せと言いたげに腕を広げる。
「問題ない。驚かせてしまうことは申し訳ないが、今はあくまでも緊急事態だ。ドアが壊れても空き部屋に移ってもらえば済む話だし、こんな状況に陥っての判断だ。弁償する必要だってない」
それに、と言ってお兄ちゃんは、伊藤さんの目を真っ直ぐに見つめ返す。
「万が一、木ノ江医師の身にも何かあったとしたなら、悠長なことは言っていられない」
「万が一って……」
絶句して背後のドアを振り返る伊藤さんの表情が、ホラー漫画の一コマみたいに見えた。
「もたもたしていても埒があかない。やるぞ」
「……あ、ああ」
まだ躊躇う気持ちを残しているように見受けられるも、渋々了承したように伊藤さんはお兄ちゃんと並ぶ。
「マリネは少し離れていろ」
「あ、うん……」
言われるまま後ろへ下がるあたしを守るように、川辺さんが側に寄り添ってくれた。
大人二人がドアに向かって体当たりを繰り返す、大きな音が廊下中に鳴り響く。
これで木ノ江さんの身に何もなかったとしたなら、今頃ドアを見つめながら怯えてるのではないだろうか。
数十回に及ぶ体当たりの末に、鈍い音を立ててドアが外れた。
「よ、良し――っ!」
痛めたらしい右肩を擦りながら伊藤さんは呟き、そのまま三歩ほど中へと足を進める。
そのすぐ後ろにお兄ちゃんが続き、あたしと川辺さんもドアの前まで移動して中の様子を窺った。
「……?」
これだけ大きな音を立てていたにも関わらず、室内はしんと静まり返っている。
無人なのかと言うとそうでもないようで、ベッドには人が寝ているのが一目でわかるような、大きな膨らみができていた。
だけど。
――何、あれ?
そのベッドから出ている頭が、あまりにも不自然に見えあたしは眉を顰めた。
顔は反対側を向いているため、見ることができない。
できないんだけれど、その頭部が木ノ江さんのものとは、どうしても考えにくい。
何故なら、その頭部には髪の毛が生えていないから。
剃ったとか、そんな次元の話じゃない。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
私の優しいお父さん
有箱
ミステリー
昔、何かがあって、目の見えなくなった私。そんな私を、お父さんは守ってくれる。
少し過保護だと思うこともあるけれど、全部、私の為なんだって。
昔、私に何があったんだろう。
お母さんは、どうしちゃったんだろう。
お父さんは教えてくれない。でも、それも私の為だって言う。
いつか、思い出す日が来るのかな。
思い出したら、私はどうなっちゃうのかな。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる