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雪鳴月彦

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第四章:<CONVICT>

<CONVICT> 3

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「は、はい。その通りです。迅速に屋上の掃除を終わらせるようにと。わたくしも、どうしてこんな指示がと不思議には感じておりましたが……」

 首を傾げながらお兄ちゃんの指摘を肯定する川辺さん。

 それに頷いて、お兄ちゃんは話を続けた。

「その指示は、お前にコップの片づけを後回しにさせるための口実だ。絵馬の死に誰かが気がつくまでの時間稼ぎの一つだろう。おそらく、それでも上手くいかなそうな事態になっていたら、犯人が直接お前に何かしらの用件を申し付けたりして更に時間を調整してたのかもしれない」

「そんなまさか。犯人はいちいちそんな細かいとこまで考えていたってのか?」

 信じられないと言いたげに伊藤さんが首を振ると、お兄ちゃんは皮肉気な笑いをその顔に浮かべた。

「それだけ慎重で計画性のある犯人ということだ。さて、本題に戻そう。犯人があのコップに毒を入れたのは今説明した通りだが、ではそうなると絵馬はいつ体内に毒物を取り込んだのかという疑問が残る」

「そうですね。このままでは、絵馬さんは毒を飲んでいないことになる」

 首肯して美九佐さんが同意を示すと、お兄ちゃんはスッと人差し指を立てて全員を見回す。

「いや、飲んでいたさ。絵馬が毒を飲む機会は談話室の他にも、もう一度あった。この研究所に到着する前。……島へ向かう船の上でな」

「船の上?」

 この呟きは、あたしのもの。

 那鵙島へ向かうチャーター船に乗っているときのことを、あたしは思い返してみる。

 確か、甲板の上でお兄ちゃんと絵馬さんの三人でお喋りをしながらはしゃいでいたはずだ。

「そう、船の上。ついさっき、マリネが部屋でペットボトルのお茶を飲んだのを見て思い出したんだ」

「え? ……あ!」

 そこまで言われて、あたしも思い出した。

 そう言えばそうだ。船に乗っているとき、確か絵馬さんは貰ったお茶を飲んでいたはず。

「ああ、そう言えばそんなものを配られましたね」

 美九佐さんも、白髭に手をやりながらうんうんと頷く。

「そう……。あのとき渡されたペットボトルのお茶。あれにこそ、絵馬を死に追いやった原因である毒が仕込まれていたんだ。その証拠の一つに、マリネは覚えているか? 島へ上陸してからこの研究所に向かうまでの間、絵馬は妙に息を切らしながら汗を拭っていたのを。途中からは喋るのを止めて、神妙な表情で黙り込んでいただろう。船から降りるまではそんなことはなかったのに、だ」

「…………あー、そう言えば」

 言われればそんな気がする。

 船から降りてここまで歩く間、絵馬さんは確かに息切れをしながらハンカチで顔を拭ったりしていた。あたしはてっきり、暑さのせいだと思い込んでいたけど。

「あれは、既に毒が身体に回り始めていた合図だったんだろう。今更気づいたところで、手遅れも甚だしいがな」

 最後の一言は呟くようにポツリと言って、お兄ちゃんは唐突に顔の向きを変えた。

 あたしに向けていた視線が、別の人物へと移動する。

 僅かに目を見開き、警戒する野生動物みたいに身体を硬直させた一人の人物へと。

「一応訊くが、船に乗っているとき、全員誰からお茶を受け取ったのかを覚えているか?」

 その人物から目を逸らすことがないまま、お兄ちゃんは問う。

「あ、ああ。覚えてるぜ」

「私も、覚えていますが……」

 あのとき船に乗っていなかった川辺さんだけは、無言で成り行きを見守っている感じだけど、伊藤さんと美九佐さんは同時に同じ方向へと振り向き、呆然とする人物へ視線を固定させた。

「お兄ちゃん……犯人の正体って、まさか……」

 あたしも、その人物を見たまま信じられない気持ちで呟く。

「ああ、そうだ。ここへ集まったメンバーたちを次々に断罪していった真犯人、CONVICTの正体は……月見坂 葵、お前だ」
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