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第四章:<CONVICT>
<CONVICT> 4
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「嘘だろ……。こんな子が、五人も人を殺したってのか? しかも、あんな残酷な方法で」
お兄ちゃんの告げた真犯人、月見坂 葵。
そのすぐ側に座っていた伊藤さんが、信じられないといった表情で席を立ちそっと距離を取る。
少し離れた場所に座る美九佐さんも腰を浮かし、葵さんを凝視していた。
「月見坂様が……そんな……」
狼狽したような川辺さんの呟き。
「驚かれても、これが事実だ。絵馬たちを殺したのはそいつで間違いない」
軽く顎をしゃくって葵さんを示し、お兄ちゃんは淡泊な口調で断言する。
「…………や、やだ、ちょっと待ってくださいよ。そんな、いきなりあたしが犯人だなんて言われても困ります。船の上でお茶を配っただけで犯人扱いされるのも、納得がいきませんし。大体、あれは船に積んであったものを、操縦士の人に許可を取って配っていただけですよ?」
暫く呆然としたままだった葵さんが、引きつった笑顔を貼りつけながら固い声を吐き出してきた。
「許可を取るも何も、お前が事前に用意して船に積ませていたものだろう。自分で配る際に言っていたな? この研究所の持ち主が用意してくれていたものだと。あのときお前は善意でお茶を配るふりをしながら、最初に殺す予定でいた絵馬へ毒を渡し、ついでに呼んでもいないオレたち兄妹の素性を確認していた。自己紹介を兼ねていれば、特に怪しまれるような行動でもないからな」
そんな葵さんの顔を真っ直ぐに見つめ返して、お兄ちゃんは淡々と言葉を返していく。
「あれだけ自然にやられたら、何も事件が起きていない段階では疑えと言う方が難しかった」
「そんな……違います。あたしは本当にたまたま船に積んであったお茶の箱を見つけて、それで許可をもらって配っただけですって。白沼さん、あなたの言っていることは、あたしが犯人だというのを前提にした仮説で、ただの憶測じゃありませんか。あんまりにも強引ですよ」
スッと席から立ち上がり、葵さんはテーブルに両手を付きながら反論をしてきた。
「強引か。それなら、これはどうだ?」
そう言って、お兄ちゃんがポケットから出してきたのは、笠島さんが残していたダイイング・メッセージの付箋。
片面が乱雑に塗りつぶされたあれだ。
「それは……笠島さんの部屋に落ちていたやつですか? そんなのが一体何だって言うんです」
僅かに目を細めどこか不快そうに首を傾げる葵さんへ、お兄ちゃんは更に笠島さんが所持していた三色ペンと付箋の束を取出してみせる。
そして、それらをみんなにも見えるように掲げ、静かに説明をし始めた。
「これらは、全て笠島の部屋にあったものだ。この黒く塗りつぶされた付箋、これは笠島が殺される間際に、生き残っているオレたちへ向けたダイイング・メッセージであるとオレは気がついた」
「そんな塗りつぶした付箋がダイイング・メッセージって、どういうことだ?」
訝し気にしかめっ面をしながら伊藤さんが訊ねると、お兄ちゃんは付箋をテーブルに置いて
「犯人の名前だ」
と答えた。
「名前? これがか? こんな黒く塗りつぶした付箋をどう解釈すれば、月見坂さんの名前を表すことのなるんだよ?」
置かれた付箋へ顔を近づけ、マジマジと伊藤さんは眺める。
「そう、オレも最初はお前のように考えていたせいで、このメッセージの意味に気がつくことができなかった。だがしかし、これはある勘違いを修正することができれば、簡単に意味が理解できるようになる」
「勘違いの修正……?」
意味がわからないと言いたげな、美九佐さんの呟き。
「ああ。この塗りつぶしている色が黒だという認識が、実は錯覚を起こしているだけと気がつけば、謎を解くのは容易だ」
「え? 錯覚、ですか? わたくしにはどう見ても黒にしか見えませんが……」
伊藤さん同様、川辺さんもテーブルに近づき置かれた付箋を観察する。
「嘘だろ……。こんな子が、五人も人を殺したってのか? しかも、あんな残酷な方法で」
お兄ちゃんの告げた真犯人、月見坂 葵。
そのすぐ側に座っていた伊藤さんが、信じられないといった表情で席を立ちそっと距離を取る。
少し離れた場所に座る美九佐さんも腰を浮かし、葵さんを凝視していた。
「月見坂様が……そんな……」
狼狽したような川辺さんの呟き。
「驚かれても、これが事実だ。絵馬たちを殺したのはそいつで間違いない」
軽く顎をしゃくって葵さんを示し、お兄ちゃんは淡泊な口調で断言する。
「…………や、やだ、ちょっと待ってくださいよ。そんな、いきなりあたしが犯人だなんて言われても困ります。船の上でお茶を配っただけで犯人扱いされるのも、納得がいきませんし。大体、あれは船に積んであったものを、操縦士の人に許可を取って配っていただけですよ?」
暫く呆然としたままだった葵さんが、引きつった笑顔を貼りつけながら固い声を吐き出してきた。
「許可を取るも何も、お前が事前に用意して船に積ませていたものだろう。自分で配る際に言っていたな? この研究所の持ち主が用意してくれていたものだと。あのときお前は善意でお茶を配るふりをしながら、最初に殺す予定でいた絵馬へ毒を渡し、ついでに呼んでもいないオレたち兄妹の素性を確認していた。自己紹介を兼ねていれば、特に怪しまれるような行動でもないからな」
そんな葵さんの顔を真っ直ぐに見つめ返して、お兄ちゃんは淡々と言葉を返していく。
「あれだけ自然にやられたら、何も事件が起きていない段階では疑えと言う方が難しかった」
「そんな……違います。あたしは本当にたまたま船に積んであったお茶の箱を見つけて、それで許可をもらって配っただけですって。白沼さん、あなたの言っていることは、あたしが犯人だというのを前提にした仮説で、ただの憶測じゃありませんか。あんまりにも強引ですよ」
スッと席から立ち上がり、葵さんはテーブルに両手を付きながら反論をしてきた。
「強引か。それなら、これはどうだ?」
そう言って、お兄ちゃんがポケットから出してきたのは、笠島さんが残していたダイイング・メッセージの付箋。
片面が乱雑に塗りつぶされたあれだ。
「それは……笠島さんの部屋に落ちていたやつですか? そんなのが一体何だって言うんです」
僅かに目を細めどこか不快そうに首を傾げる葵さんへ、お兄ちゃんは更に笠島さんが所持していた三色ペンと付箋の束を取出してみせる。
そして、それらをみんなにも見えるように掲げ、静かに説明をし始めた。
「これらは、全て笠島の部屋にあったものだ。この黒く塗りつぶされた付箋、これは笠島が殺される間際に、生き残っているオレたちへ向けたダイイング・メッセージであるとオレは気がついた」
「そんな塗りつぶした付箋がダイイング・メッセージって、どういうことだ?」
訝し気にしかめっ面をしながら伊藤さんが訊ねると、お兄ちゃんは付箋をテーブルに置いて
「犯人の名前だ」
と答えた。
「名前? これがか? こんな黒く塗りつぶした付箋をどう解釈すれば、月見坂さんの名前を表すことのなるんだよ?」
置かれた付箋へ顔を近づけ、マジマジと伊藤さんは眺める。
「そう、オレも最初はお前のように考えていたせいで、このメッセージの意味に気がつくことができなかった。だがしかし、これはある勘違いを修正することができれば、簡単に意味が理解できるようになる」
「勘違いの修正……?」
意味がわからないと言いたげな、美九佐さんの呟き。
「ああ。この塗りつぶしている色が黒だという認識が、実は錯覚を起こしているだけと気がつけば、謎を解くのは容易だ」
「え? 錯覚、ですか? わたくしにはどう見ても黒にしか見えませんが……」
伊藤さん同様、川辺さんもテーブルに近づき置かれた付箋を観察する。
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