復讐の技を磨くため、俺は大都会静岡へと征く

ばたっちゅ

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【 群馬から静岡へ 】

いざ静岡へ

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 静岡県静岡市葵区静岡駅。そこまでノンストップの直通リニア。通称群馬エクスプレス。
 ここから静岡までは40分の旅路だ。
 静かに動き出したリニアは高崎市までは普通に地上を進む。
 その後は地下に入り、いよいよリニアとしての本領発揮だ。
 景色が真っ暗になって何も見えなくなるのが難点ではあるが、全体が磁気シールドに覆われると高速で移動を開始する。
 振動も無ければ音もない。ただ黒い世界が延々と続き、まるで止まっているかのようだ。
 だが確実に進んでいる。俺の銃には変わらぬ良さがあるが、最先端の文明の利器もまた凄いなと思う。

 このまま山梨県の端を通ってから長野県に入る。
 そこからは真っ暗な世界の左右に光のラインが見えるようになる。
 ようやく動いているという実感が湧くが、ラインが動かないので実はあまり変わらない。
 このまま長野を突っ切って、静岡の北部に入る。
 地下だから分からないが、この頭上は山岳地帯。確か韮崎にらさき市だったか。
 大都会の静岡といえども、北部は山間部。富士山もあるしな。
 来るのは初めてだが、ちゃんとその辺りは予習しているさ。

 そして出発して56分。そろそろ葵区北浅間せんげん神社のすぐ横に出る頃だ。
 ここからは減速しながら静岡駅まで一直線。
 もう子供ではないが、ワクワク感はやはり抑えられない。
 大都会。日本の首都。一体どんな所なのだろうか。
 当然ながら何度もニュースで見ているし、ネットで調べもした。
 だけど、生で見るのはやはり違うからな。




 ◆     ◆     ◆




「こちらCKー02。ターゲットを発見した」

 ここは空港の管制室。通信機から聞こえてくるのは男の声。だが若い。大学生か、ともすれば高校生だろう。
 彼が今いる状況を考えると、多くの者が不自然と考えるかもしれない。
 彼がいる場所は一人乗りのセスナ機の中。それもコクピットだ。
 機体は赤く、両翼の下にはいかにも後から取り付けましたという形で機銃とロケット弾が設置されている。

「こちらCKー01。こちらもだ。いつもの奴だな」

 こちらも若い男だ。だが少しだけ沈着さを感じさせる。大学生か、あるいは大人びているだけか。
 機体も同じだが、翼が黄色い点だけが違う。

「こちら地上管制。相変わらずレーダーに反応なし。規模は?」

 それに対し、地上管制の声は少し年配の女性だろうか。
 しかしどことなく、男勝りな――いや、その声質と圧力は、たった今リンゴを握り潰していると言われても信じてしまいそうな迫力を感じさせる。

「相手は毎度のギラントだな。推定数は40。大きさは6メートルから8メートル。現在高度420メートルを優雅に飛行中だよ」

 しかしそんな声にも、一切物怖じする様子はない。
 慣れているというよりも、まるで家族であるかのような余裕すら感じさせる。

「現在は満観峰まんかんほう近辺上空から北東に向けて移動している。地上班の観測では、焼津港方面から出現したと聞いたが」

「報告に間違いはない」

「妙だな。随分と遅い飛行だ。時間的には、もう静岡市上空に移動していても良いものだが」

「大方巣に適した場所を探しているのだろう。拠点を作られては面倒だ。排除できるか?」

「余裕だね」

「CKー01。これより殲滅戦に入る」

 同時に2セスナが降下を開始する。
 その前方には鳥――いや、翼竜の群れ。
 彼らの言う様に、その大きさはかなりのものだ。
 全身を灰色に覆われ、その皮膚はワニの様。
 長い口はくちばしではなく、長く伸びた普通の口。無数の牙が飛び出している点も、本当にワニを思わせる。
 その鼻先から背中、そして長い尾の先端まで、2列に並んだ無数の赤い目が実に特徴的だ。

 ごく自然な動きで2機のセスナは高度を群れの下へと落とし、下部から発砲する。
 命中率を考えれば相手の面積は広い方が良い。とはいえ、それが同じなら上を取った方がずっと有利に違いない。
 しかも高度は僅か400メートル程度。更にここは山間で正確な高度は常に変動する。
 降下するリスクは大きい。
 だが上空からの銃撃は、地上に被害をもたらす可能性が高い。
 山間部とはいえ、偵察隊はもちろん民間人だってるのだ。
 それ故の基本的な戦術であって、特別珍しい事ではない。
 それにその流れるような動きから、若い声の彼らが体に身に付くほどに、この行動に慣れている事が分かる。

 いかにもお手製の12.7ミリ機銃がパパパパパパパと軽い音を立てると同時に、尾を引いて流れてゆくオレンジの光。
 それが当たると同時に、ギラントと呼ばれた翼竜は紫の煙の様な血を吹きだし落下していく。

「CKー01、撃墜7」

「CKー02、撃墜11」

「順調だな」

「ですが散開を始めました」

「構わん。掃討しろ。残弾には注意しろよ」

「了か――」

 CKー02からの返答が終わる寸前、通信機から衝撃音が鳴り響く。

「う、ああああああー」

「どうした! CKー02! CKー01、報告しろ!」

清峰きよみね! 清峰―!」

「CKー02! CKー01! さっさと答えないとぶっ殺すよ!」

 何の予兆も無く、CK-02の通信機が切れる。

「こちらCKー01。CKー02の翼に何かが突き抜けた。群れだ! 先頭に赤い奴。形は――昆虫、カブトムシの様に見える。アラルゴスの可能性有り! 現在回避行動中だが追って来る! 早い! 回避できない!」

 CKー02は突如として下から来た昆虫の様な――だが数メートル級の群れ右翼を貫かれた。
 いや、貫いたというより真っ二つにしたという壊れ方だか。
 そしてそのまま、きりもみ回転しながら落下して爆発となって消えた。

「離脱して帰投せよ! 無理なら御前崎防衛圏か三保防空圏へ行け!」

「現在位置が分からない! 確認する余裕が――ダメだ! 特に赤い奴が! クソ、なんでよりによって」

 その通信を最後に、ぷつんと通信が切れる。
 砂嵐を思わせる音もない。ただの無音。そしてそれは、機体の喪失を意味していた。




 ◆     ◆     ◆




「ピンポーン。当車両はこれより地上に出ます。静岡駅到着まで3分となります」

 さすがに地上に出たら後は早いな。
 さて、変わり映えの無い景色もここまでだ。
 暗かった景色が一瞬で明るくなる。
 この周辺の周りはまだ緑に囲まれている。
 ほんの数十分なのに、もう故郷を思いだしてしまうよ。我ながら少し女々しい。
 だけどそんな事をよりも、先ずは市街地だ。
 目的はスキルと更に上の免許の取得だが、やはり大都会は憧れだ。
 初めてのその景色、しっかりと目に焼き付けないとな。

 そしてそんな俺の目に最初に目に飛び込んできたのが、炎に包まれ落下していく何かであった。
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