復讐の技を磨くため、俺は大都会静岡へと征く

ばたっちゅ

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【 用宗港決戦 】

初陣

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 少し気まずくなってしまったので、俺は部屋に戻る事にした。
 さすがに此処に彼女を残しておくのもどうかと思ったが、何せお隣さんだ。
 この状況で一緒に帰るのも色々とアレだろう。
 誰かに見られたらどんな誤解を招くか分からん。

「それじゃあ、先に戻るな」

「う、うん……」

 本当にいけない事をしてしまった様な気がしてきた。
 さて、今は戻って明日に備えよう。
 と言っても寝るには早すぎる。銃の手入れをして、もう一度パンフを見て、改めて話しを整理しよう。

 <ビー、ビー、ビー>

 そんな思考を遮るように、突然警報のような音が響き渡る。
 というか分かりやすい程に警報だ。

「これは……」

『動ける戦闘要員は、全員武装してガレージに集合。繰り返す――』

「いったい」

「早く行きましょう!」

 考えるよりも早く、高円寺が手を掴むとダッシュで階段を上る。
 というより登る? これは空を飛んでいる感覚だ。
 俺を掴んだまま、10段以上の階段を一足て飛び上がる。
 いや抜ける、抜ける、肩が抜ける!
 急カーブの部分では俺を壁に叩きつけない様に配慮してくれるが、その代わりに捻って角度を変える。
 痛い! 筋が千切れる!
 特殊な連中はともかく、共に戦う連中は彼女らを嫌う理由は無いだろうとか思っていたが、なんか“この普通の人間と自分たちを同じ感覚で扱う”という行為が怖がられているのではないだろうか。

 ほぼ一瞬で2階まで上がると、俺は部屋の前にいた。
 マジで痛いしか記憶がないが――、

「すぐに支度してガレージに!」

 そういうと隣の部屋へと入っていった。
 いきなり開けたところを見ると、鍵をかけていなかったな。
 うら若き女性の部屋としては不用心すぎるが、危機感が無いんだろうな。
 それよりあの急ぎ様、緊急事態なのは間違いない。
 駅での戦いを思い出す。状況としては、おそらく似たようなものか。

「たとえ嫌われても、自分はあそこまで必死になるのか」

 何となく、彼女の事を1つ好きになった気がする。もちろん恋愛感情じゃないけどな。
 そんな事を考えながら、俺もまた鍵を開けて部屋へと入った。
 出かける予定だったから、実はもう支度は出来ているんだよね。
 ただ必要なのは銃と弾。それにサバイバルキットが入ったリュック。それだけで良いだろう。
 ガレージの場所は事前に見取り図で確認したな。廊下の端から降りた先にある地下部分だ。
 取り敢えず必要な物だけ持って急いだが――、

「遅いぞ、新兵! 何をしていた」

 教官にいきなり怒られた。
 しかしあれでも全速だったんだがな。

「説教は後だ。とにかく乗れ!」

 示した先にあるのは1台の軽トラック。
 一応バンパー、フロント、それに荷台も金属板や鉄パイプで補強されている。
 とはいえ、何と言うかどこぞのおっさんが魔改造したような印象を受けるな。
 ただ眺めていても仕方がないので後ろから荷台に乗り込むが――、

「遅いわよ」

「これだから一般人と組まされるのは嫌なんだ」

「……」

 三者三様。まあねちねちとした嫌味を感じたのは杉林ポレンすぎばやしぽれんだけだが、高円寺こうえんじの沈黙も……って――、

 高円寺さん、その格好は?

「いえ、その、急いでいたので。それにあたしの防刃コートはまだ修理中で」

 よほど急いでいたのだろう。
 ただ単に巫女装束を脱いで、その代わりに薄手の私服を着てきたような印象だ。
 というよりも、本当にそのまま羽織って来ただけという感じで、これ下着を付けていないんじゃないか?

「言ってくれれば私の予備を貸したのに」

「嬉しいけど装備は完全オーダーメイドだから……その……サイズが」

「それよりマシでしょうが!」

 まあ確かに。
 来栖くるすのサイズだって負けてはいないのだが、やはり並んでしまうと明確な差があるな。

「何?」

「いや、何でもない」

 ついつい見比べてしまったのがばれた。
 当たり前だが、視線には敏感だな。
 まあそうでなければハンターは務まらない。
 ハンターじゃないけどね……。

「大丈夫。あたしは基本的に後方支援だから」

「どっちしても今から取りに行く時間も無いでしょうけど、初陣で味方に戦死者が出るのは嫌よ」

「心配してくれてありがとう」

 ああ、だよな。ちょっと言い方はあれだけど、心配している事は伝わって来る。
 駅でこちらを気遣ってくれたこともそうだけど、やっぱり根は良い奴だな。
 少し失礼な所はあるが……。

「では出発だ。乗り込め―!」

 はいはい……と思ったがこれどっから乗るんだよ。
 取り敢えずジャンプして装甲版を掴んでから、懸垂の要領で荷台からよじ登ったが――、

「おい、本当にこんな一般人を連れて行くつもりか!?」

 杉林は気に入らない様だ。
 確かに3人の身体能力を見てしまうと、少し気後れするのは事実だ。
 自分の場違い感も分かっている。
 だが軍曹は運転席でくるりと振り向くと、サムズアップしながら「安心しろ、そいつは群馬県人だ」と白い歯を見せて言い切った。
 関係ねえ!
 つか県民だろうが。県人ってなんだよ。初めて聞いたわ。

 ただ今はそんな思考は捨てて良い。
 深呼吸をし、ケースから5052式歩兵小銃を取り出す。
 手入れは怠ってなどいないが、慎重に動作を確認する。
 これは俺のルーティーン。
 本来はこれに加えてえ死にゆく獲物への鎮魂の祈りを捧げるのだが……いらんな。
 どう考えても野生動物を狩りに行くわけじゃないし。

 それにしても、日は落ちても町中が明るい。
 さすがに車や人通りは動画で見たよりも少ないが、こうして外に出ると、改めてここが日本の首都だと実感する。
 ただ――、

「それで軍曹、何処に向かっているんだ?」

「用宗だ。かなり大規模な兆候があったそうでな。これからそれの殲滅に行く。死ぬなよ、うはははは」

 ある程度の地名は頭に入れて来たが、全く分からん。聞いた事も無い。

「用宗と言ったら用宗港よ。大規模な兆候って事は、確実に海岸近くだもの」

 へえ。この近辺には焼津港と清水港くらいしかないと思っていたが、そんな場所があったのか。
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