この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 出会いと別れ 】

人間世界へ向けて 前編

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 道中は山頂から下りる時にも乗った浮遊式輸送板。
 ふわりと浮き上がり、意外と速い速度で動く。時速は50キロから60キロと言った所だろうか。
 操縦者も同じく下乳のお姉さんだ。
 他の同乗者は、後部に相変わらずほぼ全裸の男2人、オルコス、それに沢山の負傷兵と救護隊らしき白い服の兵士が数名。

 オルコスが付いてきたのは、自分がやはり訳ありだからだろうか。
 負傷兵と会話するわけにもいかず、オルコスと「あれ何ですか?」「鳥だよ」「あれ何ですか?」「木だよ」「あれ何ですか?」「草だよ」などと全く意味のない会話をしながら時間だけが過ぎて行く。

 話によると、途中リアンヌの丘で負傷兵を下ろして一泊。翌日代わりに帰還人員を乗せその日の夜に到着するらしい。
 負傷兵を乗せ続けないのは、さすがにこれで連続して移動させると危険だからであろうか。

 前回と違い、今回は床の上には麻布がかけられ、上には天幕もつけられている。
 それでも日差しはきつく、地面との照り返しが鉄板をじりじりと焼いて熱い。
 健康な自分でもきついのだから、負傷兵にはなお堪えるだろう。手持無沙汰なので、たまに後ろの救護兵の手伝いをしては、また暇を持て余す。

 それにしても――人骨が多い。
 道中は起伏にとんだ、少し草がある程度の荒れ地の連続だ。何も変わり映えのしない景色が永遠と続く。
 だが、そこにはあちらこちらに人骨が散乱していた。しかも山のように積まれている場所が幾つもある。何千……いや、何万人死ぬと、これほど沢山の人骨が残るのだろう。

「この辺りは腐肉喰らいの領域と呼ばれていたんだ……」

 負傷兵の一人が言う。

「もう解除されているはずだが、死体を片付ける余裕なんてないからな。ああやって放置してあるのさ……」

 領域と解除、聞きたい事ではあったが負傷兵に聞くの憚られるのでオルコスに――寝てるし。
 そんな訳で、“仕方なく”操縦席のお姉さんの所へお邪魔することにした。
 決して、やましい気持ちがあったわけでは無いと念押ししておこう。

「どうも、お邪魔します」

「ああ、あんたかい。たしかティランド連合の国王様やコンセシールの評議委員長と一緒にいたやつだったね。一人だけ浮いてたからよく覚えてるよ。聞いたよ、あんた記憶がないんだってね。まあ新しい人生歩めるって考えれば悪くないよ、気にすんなって!」

 相変わらず、見た目は清楚で美人なのに口が悪いな……。

「お忙しいところすみませんが、お尋ねしたいことがあるんですよ」

「んん? 何だい? あたしの旦那の事かい? いやー運がいいねぇ、今いないんだよ。あんたどうだい? あははははは」

 ――ものすごい勢いで捲し立てる。

「いや、確かにお姉さん美人だけどそっちゃじゃなくてね――」

 言い終わらないうちにキョトンとして真顔になると、突如――

「あーーはっはっはっは! あはは、あははっははっあははははは! あははははははははははははっ!」

 大笑いをはじめ、負傷兵たちが一斉に死んだような目でこっちを見る。
 何かそこまで笑われるようなことを言ったのだろうか?

「本当の美人ってのはね、街に行かなきゃいないんだよ」

 ニヤリと歯を見せて笑う。

「戦場じゃどうやったって肉なんて削げ落ちちまう、筋肉は付く、目つきも悪くなる。まあ兵役に出たら男は美形に、女は不美人にってのは常識さね。あたしゃなんとかこれだけは維持してるけどねぇ」

 そう言って、右手で操縦用のレバーの様なものを握ったまま、左手で自分の乳を揉む。

「アンタも触るかい? あーはっはっはっはっは!」

 ――見た目に反してホント豪快だこの人。

 いやいや、お姉さんもお嬢様っぽくて綺麗ですよ、本当に。
 そう、言う予定だった。頭でそう考えた。だが――

(( あぁ!? お前今なんつった! ))
(( え、いやちょっと…… ))
(( こちらは後2年で兵役が終わるんだよ! ここまでやってきたんだ! 生きてきたんだよっ! それを何だってぇ!? ))
( 突然操縦をほっぽりだし、右手で胸ぐらをつかむと渾身の左ストレート。床の鉄板に叩きつけられ息が止まる。そしてもう一度胸ぐらをつかむと浮遊式輸送板から投げ落とした。 )
(( 魔族のクソになっちまえ! 糞野郎! ))
( 地面に叩き落され首の骨が折れる。意識が遠くなり視界の全てが消えていく…………… )


「しょ、少々お待ちください」

 時間としては1秒もたっていない。お姉さんは相変わらず自分の乳を掴んだままだ。
 しかし待って、待ってください。過去にも2回こんなことがあった。しかしあれはお互い生と死の天秤の間に揺らめいていた時であり、落ち度即死亡が納得できた。

 しかし今回、これは何だ! おそらく悪口を言ったのだ。そして相手を怒らせたのだ。
 だがそれにしてもそれで殺されるって……しかも、誰一人として、それを気に留めた様子も見られなかった。
 いくらなんでも命が軽すぎやしないか?
 それに、前の時と違って死ぬまでの出来事も長かった。

 やはり死に方……そんなのに係わっているんだろうか。
 彼女の兵役があと2年で終わる。それは、自分が持っていない知識のはずだった。

 キョトンとするお姉さんに待ったをかけ、急ぎオルコスを起こす。
 流石はベテランの兵士だけの事はある。少しゆすって小声で名を呼ぶだけで、無駄な動きを一切せず左手で剣の柄を握り、周囲を目で確認しながら『敵か』と確認してくる。
 頼もしいが、今必要なのはそっちじゃない。

「オルコス……お嬢様って何?」

 小さな声で尋ねると、何を言っているんだこいつはという顔をされる。だがすまない、こちらも今後の命を考えると、知っておきたい情報であった。

「お嬢様ってのはそうだな、まあ悪口だ」

 やはり誉め言葉にこう言った落とし穴があったのか。ありがとうオルコス。

「金やコネを使って兵役から逃げ回っている連中、その中でも100歳を超えてなお逃げ回っているようなクズ連中をお嬢様とかお坊ちゃまって言うんだよ」

 この世界の兵役にどれほどの重みがあるかはわからない。しかし、これまで見たものを考える限り、決して軽いもので無い事はよく理解できた。
 それで兵役に期限ってあるの――と聞こうとしたが、これをオルコスから聞くのは違う気がした。

 それに命の価値……消えゆく意識の中で見た浮遊式輸送板の上では、何の騒ぎも起きていなかった。たった今、一人の人間を突き落としたにも拘らずだ。聞きたいとは思うが、まさかこの怪しい身分の男が『殺人ってどのくらいの罪?』なんて尋ねる方が問題だろう。今は納得しておくしかない。
 代わりに「ありがとう、お休み」というと、彼は再び眠りについた。
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