27 / 425
【 出会いと別れ 】
人間世界へ向けて 後編
しおりを挟む
「すみません、お待たせしました」
「何、急にどうしたの? アレ? もしかしてアレ? さっきので? いやー、アンタ元気すぎるでしょ。あはははははは。それであの兵隊さんに? あーはっはっはっはっはっ!」
「絶対に違います!」
とりあえず、最初に聞きたかった質問に戻る。
「領域とか解除とかって何ですか?」
「領域ってのは魔族が生む土地さ」
彼女は続ける。
「魔族領ってのはでたらめな土地でね、燃える大地の隣に氷の平野がある、滝を下ったら砂漠だった、そんな感じに無茶苦茶に土地がくっついてんのさ。そんで、それらの土地をそれぞれ何々の領域って呼んでるわけ。アンタが居たところが炎と石獣の領域、ここが腐肉喰らいの領域の跡地さ」
「跡地?」
「そう、跡地。領域は粗方の魔族を倒し終わったら解除士って連中が解除するんだよ。大体20年くらいかけてね。そうすると、こうした普通の土地になるんだ。もう今までの魔族は環境が合わなくて住めない、人間の土地さね。」
人間の土地か――もちろん新しい土地は欲しいのだろう。だが、この地を追われた生き物はどうしたのだろう。ひっそりと生きているのか、それとも死滅してしまうのか……。
だが、部外者である自分にそれを口にする権利は無い。魔族領の広さも、人類圏の広さも、この世界の人口も社会も、まだ何も知らないのだ。
「壁を作る前は、人間領も領域だらけでね。そりゃもう酷かったそうだよ。壁様々だねぇ」
「もう人間の世界に領域ってのは残っていないの?」
「あぁ、まだ東の方には少しだけ残ってるそうだよ、宗教の違いてやつかねぇ。だからかねぇ、病気も災害も無くなりゃしないのさ。でも壁の中が全部終わったら、最後はそこさ。世界中の軍隊がぜーんぶ押し寄せて、全部きれいさっぱり無くしてくれるよ。あはははははは」
まだ戦うんだ……多くの人が傷つき、あれほどの白骨の山を築き、悪い魔王とやらも死んで、それでもまだ殺し合うのか。
それに、生物の多様性は元いた世界では基本中の基本だ。魔族って言われても、それがどんな生き物なのかも分からない。だが、そうやって殺し尽くした結果残ったのが、この荒れ地と骨だけなんじゃないのか……。
下乳のお姉さんは気さくで豪快、話しやすく親しみやすく、下手をすれば殺される危険は別として楽しい道中であった。
そうこうするうちにやたら広い、だだっ広いという表現がふさわしい場所に出る。
そこには大小無数のテントや土で出来た建築物が立ち並び、単なる駐屯地というより大きな町の様相だった。
「着いたよ。ここが本日の終点、リアンヌの丘さね」
建物は土造りの1階建てから3階建てで、兵舎や野戦病院として用いられているようだった。
負傷兵の搬送を手伝い中に入った時も、床も壁も石を混ぜ込んだ、漆喰よりもなお土っぽい風合いである。建築物の技術はさほど高くないのだろうか?
話にちょくちょく出てきた壁も城壁みたいなものを想像していたが、この様子だと日干し煉瓦を積んだような粗末なものかもしれない。
一方で駐屯地としては壮観だった。
見たことも無い鎧を着、武器を持った兵士が各所を行軍している。
数も規模も活気も、出発地点とは比べ物にならない。
特に目を引いたのは白銀に青の鎧、それに人の背丈よりも大きな巨大盾や長大な長槍を持った一団であった。数も多く、それがここの主力部隊のように見える。
女性の兵士が思ったよりも多いことも驚いた。皆一様に若い外見だが、自分が知るような華やかさは無い。全員鋭い目つきで動きにも無駄が無く、兵士なんだなと感じさせる。
男女比は2:1位だろうか。有利不利で考えれば、男が多くなるのは当たり前だ。だから普通は兵士ってのは男ばっかりだ。なのにこの比率……
消耗品……赤紫の鎧を着た兵士が言っていた言葉。どうせ死ぬなら、男も女も関係無いのかもな……。
「そういえばオルコス、なんでリアンヌの丘って名前なの?」
素朴な疑問を訪ねる。
「ああ、以前ここが領域だった頃にエメラルドドラゴンってのが住み着いていたんだよ。それを退治して死んだのがリアンヌって訳さ。英雄的な行為で死ぬと、その名が地名になる。兵士全員の憧れさ。自分が生きた証がこの世界に残ることになるんだ」
オルコスもやはり憧れているんだろうか……そして自分は、この世界に何を残すのだろうか。
頭がぼんやりする。考えるな、係わるな、静かに生きろと誰かに言われているような気がする……。
夕飯は固く小さなパンとほうれん草のような野菜、それに足が6本の斑模様の蛙が丸のまま入ったスープであった。
見た目はアレだが、うん、骨が少なくて意外と食べやすい。
周りの兵士達も黙々と食べている。これが普通の食事なのか、それとも戦場だから仕方がないのかはわからなかった。
◇ ◇ ◇
夜、夢を見た。
目の前には小さな丸い窓。その向こうには幸せそうな自分がいる。
晴れの日も雨の日も、春も夏も秋も冬も、ずっとずっと幸せそうに笑っている自分がいる。
後ろにも小さな丸い窓。そこから誰かが聞いてくる。
――幸せかい?
誰が? 窓の向こうの俺かい? ああ、彼は幸せそうだ。何も考えず何も知らず、いつでもずっと笑っている。
だけど……あれは俺じゃないだろ?
「何、急にどうしたの? アレ? もしかしてアレ? さっきので? いやー、アンタ元気すぎるでしょ。あはははははは。それであの兵隊さんに? あーはっはっはっはっはっ!」
「絶対に違います!」
とりあえず、最初に聞きたかった質問に戻る。
「領域とか解除とかって何ですか?」
「領域ってのは魔族が生む土地さ」
彼女は続ける。
「魔族領ってのはでたらめな土地でね、燃える大地の隣に氷の平野がある、滝を下ったら砂漠だった、そんな感じに無茶苦茶に土地がくっついてんのさ。そんで、それらの土地をそれぞれ何々の領域って呼んでるわけ。アンタが居たところが炎と石獣の領域、ここが腐肉喰らいの領域の跡地さ」
「跡地?」
「そう、跡地。領域は粗方の魔族を倒し終わったら解除士って連中が解除するんだよ。大体20年くらいかけてね。そうすると、こうした普通の土地になるんだ。もう今までの魔族は環境が合わなくて住めない、人間の土地さね。」
人間の土地か――もちろん新しい土地は欲しいのだろう。だが、この地を追われた生き物はどうしたのだろう。ひっそりと生きているのか、それとも死滅してしまうのか……。
だが、部外者である自分にそれを口にする権利は無い。魔族領の広さも、人類圏の広さも、この世界の人口も社会も、まだ何も知らないのだ。
「壁を作る前は、人間領も領域だらけでね。そりゃもう酷かったそうだよ。壁様々だねぇ」
「もう人間の世界に領域ってのは残っていないの?」
「あぁ、まだ東の方には少しだけ残ってるそうだよ、宗教の違いてやつかねぇ。だからかねぇ、病気も災害も無くなりゃしないのさ。でも壁の中が全部終わったら、最後はそこさ。世界中の軍隊がぜーんぶ押し寄せて、全部きれいさっぱり無くしてくれるよ。あはははははは」
まだ戦うんだ……多くの人が傷つき、あれほどの白骨の山を築き、悪い魔王とやらも死んで、それでもまだ殺し合うのか。
それに、生物の多様性は元いた世界では基本中の基本だ。魔族って言われても、それがどんな生き物なのかも分からない。だが、そうやって殺し尽くした結果残ったのが、この荒れ地と骨だけなんじゃないのか……。
下乳のお姉さんは気さくで豪快、話しやすく親しみやすく、下手をすれば殺される危険は別として楽しい道中であった。
そうこうするうちにやたら広い、だだっ広いという表現がふさわしい場所に出る。
そこには大小無数のテントや土で出来た建築物が立ち並び、単なる駐屯地というより大きな町の様相だった。
「着いたよ。ここが本日の終点、リアンヌの丘さね」
建物は土造りの1階建てから3階建てで、兵舎や野戦病院として用いられているようだった。
負傷兵の搬送を手伝い中に入った時も、床も壁も石を混ぜ込んだ、漆喰よりもなお土っぽい風合いである。建築物の技術はさほど高くないのだろうか?
話にちょくちょく出てきた壁も城壁みたいなものを想像していたが、この様子だと日干し煉瓦を積んだような粗末なものかもしれない。
一方で駐屯地としては壮観だった。
見たことも無い鎧を着、武器を持った兵士が各所を行軍している。
数も規模も活気も、出発地点とは比べ物にならない。
特に目を引いたのは白銀に青の鎧、それに人の背丈よりも大きな巨大盾や長大な長槍を持った一団であった。数も多く、それがここの主力部隊のように見える。
女性の兵士が思ったよりも多いことも驚いた。皆一様に若い外見だが、自分が知るような華やかさは無い。全員鋭い目つきで動きにも無駄が無く、兵士なんだなと感じさせる。
男女比は2:1位だろうか。有利不利で考えれば、男が多くなるのは当たり前だ。だから普通は兵士ってのは男ばっかりだ。なのにこの比率……
消耗品……赤紫の鎧を着た兵士が言っていた言葉。どうせ死ぬなら、男も女も関係無いのかもな……。
「そういえばオルコス、なんでリアンヌの丘って名前なの?」
素朴な疑問を訪ねる。
「ああ、以前ここが領域だった頃にエメラルドドラゴンってのが住み着いていたんだよ。それを退治して死んだのがリアンヌって訳さ。英雄的な行為で死ぬと、その名が地名になる。兵士全員の憧れさ。自分が生きた証がこの世界に残ることになるんだ」
オルコスもやはり憧れているんだろうか……そして自分は、この世界に何を残すのだろうか。
頭がぼんやりする。考えるな、係わるな、静かに生きろと誰かに言われているような気がする……。
夕飯は固く小さなパンとほうれん草のような野菜、それに足が6本の斑模様の蛙が丸のまま入ったスープであった。
見た目はアレだが、うん、骨が少なくて意外と食べやすい。
周りの兵士達も黙々と食べている。これが普通の食事なのか、それとも戦場だから仕方がないのかはわからなかった。
◇ ◇ ◇
夜、夢を見た。
目の前には小さな丸い窓。その向こうには幸せそうな自分がいる。
晴れの日も雨の日も、春も夏も秋も冬も、ずっとずっと幸せそうに笑っている自分がいる。
後ろにも小さな丸い窓。そこから誰かが聞いてくる。
――幸せかい?
誰が? 窓の向こうの俺かい? ああ、彼は幸せそうだ。何も考えず何も知らず、いつでもずっと笑っている。
だけど……あれは俺じゃないだろ?
4
あなたにおすすめの小説
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる