この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

文字の大きさ
114 / 425
【 儚く消えて 】

戦いの終わり 後編

しおりを挟む
「う……うーん……俺は寝ていたのか?」

 辺りはすっかり暗くなっているが、かつてよりは油絵の具の空に切れ間が見える。
 そこから入る僅かな月の明かりに照らされ、ただの荒れ地も微かに幻想的な空気を漂わせていた。

「すまないな、ヨーツケールは歩き続けているのに……」

 ヨーツケールが頭をスースィリア程ではないが柔らかくしてくれたため、ドスドス移動しているのも関わらず寝てしまったのだ。

「魔王は疲れていたかな。もう少し休むと良いよ」

「そうだ、魔王。今は休め」

 二人の気遣いには感謝するしかない。
 一応エヴィアの傷は見た目では治っているが、実際の程度は俺にはわからない。
 それに左側を2回も斬られたせいで、元々帯を巻いていだけの服の上は取れてしまい、左の小さな膨らみが露になっている。

 ヨーツケールはただでさえ疲労困憊の状況だったのに、追い打ちをかけるような軍隊蟻との追いかけっこ。そのせいで暫く真っ白い泡を吹き動けなくなっていた。
 鋏は今は見かけ上くっついているが、こちらも実質的な怪我の程度は不明である。

「あの珊瑚っぽいのが全部寄生虫ってのは驚いたけどな」

「魔王よ、ヨーツケールはアレが無いと擬態が出来ない。共生関係だ」

 ヨーツケールの体を覆っていた赤と白の珊瑚状の甲殻、それに灰紫の血は全て共生体やらの物だった。
 だが貫かれた頭や斬られた腕は間違いなく本体だ。今は戻ったように見えても心配にもなる。

 だがまあ……人の心配ばかりもしていられない。
 俺は右腕を失い、脇腹にも深い傷。細かい擦り傷とかも含めれば中々に満身創痍だ。
 取り敢えず暫くはエヴィアの膝枕と、ヨーツケールクッションで体を休めるとしよう。

「そうだ、魔王城に入る前に魔王ポストに寄ってくれよ。何か入っているかもしれない」

「魔王よ、入っているとしたら虫かゴミだ」

「エヴィアもそう思うかな。夢を見るほど現実が辛くなるって誰かが言ってたよ」

「お前達、酷い……」




 ◇     ◇     ◇




 魔王が眠りについている頃、遥か沖合にムーオス自由帝国の豪華客船『パリュード号』が航行していた。
 全長302メートル。乗員乗客合わせて5200人。
 槍を持つ乙女の像を船首に付けている一方で、外装は金属製の近代的な造り。船首上部には豪華なプールが備え付けられている他、中にはカジノやスポーツ施設などの遊戯場も完備されている。貧しい者には一生無縁の海の楽園だ。

 ムーオス自由帝国は世界でも珍しい奴隷制度の無い国であり、また一方で貧富の格差は世界でも最悪の部類に入る。
 一般市民が飢えか兵役かで死ぬ一方、裕福な身分の者は豪華客船のクルーズを楽しんでいた。

「ねえ、聞きました? リアンヌの丘に魔族が攻めてきたんですって」

「ほおー、まあ今度は人類が勝つでしょう。あそこを守るのは、なんと言ってもユーディザード王国ですからな」

「どちらが勝ったところで大した事は無いでしょう。魔族領などちっぽけな土地に過ぎませんからな」

「それなら賭けませんか? どちらが勝って、何人くらい死ぬかを」

「面白そうですわね、ホッホッホ」


 海もまた領域で分けられているが、地上と違いその見分けが難しい。
 しかし人類は長い歴史の中で、安全な航路を幾つも発見していた。
 この様なクルーズなどは全体から見れば些細な利用だが、漁業に海運と、地上だけでなく海上もまた人類にとって重要な土地であった。

 だが今、巨大な海の盛り上がりが、この豪華な船を襲う。嵐ではない。雨は一粒も降らず、空には僅かに月も見える。

「な、なんだ! 何が起こっておるか!」

「乗務員! 早く来て説明しなさい!」

 悲鳴と怒声が交錯するが、いくら騒いだところで状況は何も変わらない。
 船は45度にまで傾き、船内ホールは滑り落ちてきた人間が塊になっている。
 最初にいた人間は運悪く圧迫死だ。だが結局、その死は平等に与えられた。

 体長1000メートルを超える海の怪物。それが、この豪華客船を一飲みにしたのだった。


 一人、その様子を目撃している者がいた。
 巨大な一つの目玉、密集し魚のような形状になった芋虫の群れ、背に張り付く全裸のふくよかな女性……
 海をのんびりと移動していた魔人ウラーザムザザだ。

「これは少し大事になっているずぬ……」




 ◇     ◇     ◇




「ゴホッ! ゴホッ!」

「ああ、気が付きましたか。大丈夫ですか?」

「ここは……」

 ルフィエーナ・エデル・レストン・ユーディザードは浮遊式輸送板の上で目を覚ました。
 油絵の具の空の切れ目から、僅かに見える白い月。時間は深夜だ。
 浮遊式輸送板の上には魔道の明かりが灯され、四つの角では衝突防止のために白と赤の光が点滅している。
 通常であれば、動力士の負担を考えて飛甲版の夜間移動は行われない。それをするのは緊急の事態や、撤退する時くらいだ。

 ルフィエーナは、自分達が敗れた事をハッキリと認識した。
 体には添え木と包帯が巻かれ、僅かにでも動くと全身に激痛が走る。

「浮遊式輸送板の上ですよ。大丈夫、もう大丈夫ですからね」

 白い救護服を着た女性兵士が、ルフィエーナの脈拍などを調べ書き写す。周りのも同様の救護兵士や負傷兵が見える。
 生き残った……あの激戦で生き残ったのだ……。

「うっ、うう、うわあぁぁぁぁぁぁぁ」

 生きて帰る罪悪感と、戦いの恐怖からの解放感。様々な感情が入り混じり、ルフィエーナは浮遊式輸送板の上で子供の様に泣きじゃくった。

 リアンヌの丘に布陣していた将兵、ユーディザード王国160万2115名。ハーノノナート公国42万5513名。
 生存者は、ユーディザード王国は浮遊式輸送板上に10万4011名、チェムーゼ隊が19万3215名と、合計帰還者は29万7226名。
 ハーノノナート公国はユベント・ニッツ・カイアン・レトー公爵旗下10万3210名が帰還。

 全参加将兵202万7628人中、戦死・行方不明者162万7192名、生存者40万436人。
 リアンヌの丘も失い魔王も魔神も倒せず、人類にとっては完全なる大惨敗と言える結果であった。




 ◇     ◇     ◇




「やったああ! 入っているぞー! 何か入ってる!」

 少しの不安はあったが、魔王ポストは作った場所にしっかりと残っていた。
 まあ壊されたとしても、よほど酷くない限りは周りに撒いた彷徨う白骨スケルトンがこっそり直す手はずにはなっていたのだが……。

 中に入っていたのは白い布。風やなんかで飛ばされて偶然入ったのではない、しっかりと畳んで置いてある。
 これが人類からの和平文書で無い事は明白だが、人類側から何らかのメッセージが貰えた事自体が嬉しくなる。

「では早速……」

 いそいそと広げてみる。ラブレターだったりしたらどうしよう。一応そんな微かなときめきもあったのだが――ああ、まあこんなもんだよな。

「なんて書いたあったかな?」

「魔王よ、どんな内容だった」

「いやもうお前ら大体解ってるだろ……ほれ」

 その白い布には、『死ね!』と炭で大きく書かれていた。

「そんなの捨てちゃうかな。気にしない方が良いよ」

「いや……まあ最初に貰った記念品だ。一応とっとくよ。そうだ、倉庫に置いてある木の看板に張り付けておこう」

「何でそんなことするかな。悪口だよ?」

「いいんだよ、たとえ悪口でも。初めての品だしな。それよりも魔王の居城へ急ごう。スースィリアも待っている頃だ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

処理中です...