この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 大火 】

新たな魔人

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「やっぱり廃墟感すげえ。使うならもっと手を入れないとダメだな」

 死霊レイス達の明かりでほんのり黄緑色に照らされた魔王の居城。その大ホールは、相変わらず殺風景で寂しい所だ。
 ただでさえ何もないのに、暗闇の中ぽつんと置かれている黄金の玉座。それは豪華さよりも、ある種の哀愁を漂わせている。
 何度か来ることになるなら、せめて明かりと家具くらいは何とかしたい。

 改めて魔王の私室に行くが、新しい何かがあるわけでもない。
 ただ、ここを使っていたのは歴代の魔王達だったのか、それとも自分の前の彼だけだったのか……以前と違い、今はそんなことを考える。

「スースィリアはまだ戻っていないのか?」

「まだかな。食事に出ているだけの可能性もあるから待つしかないね」

 エヴィアからはあまり心配そうな感じはしない。実際にスースィリアは強い。
 そう簡単に負ける事は無いだろうし、自分の身を第一にとも言ってある。死ぬまで戦う――そんな事は無いだろう。

「そうか……そうだな。暫く待とう」


 ――だが、それから3日経っても魔人スースィリアは戻ってこなかった。

「もう待てない! 総動員して探しに行くぞ!」

 魔王の玉座で食っちゃ寝しながら待っていたが、もう忍耐の限界だ。
 死霊レイス首無し騎士デュラハン辺りのフットワークの軽い連中だけでなく、こうなったら石獣や亜人を動員してでも探すしかない!

 しかしそんな心配をよそに、カカカカカカッ! と大きな音を響かせながら魔王の居城に飛び込んでくる体長80メートルの巨大ムカデ。魔人スースィリアだ。

「スースィリア、心配してたんだぞ!」

 姿を見た途端に、どんよりと俺を覆っていた重い空気が吹き飛んで行く。無事でよかった……。
 そう考えた途端、居城の大ホールに聞いた事もない声が響く。

「まーーーおーーーーうーーーーー♪」

 ……は? 小さな子供の、高くよく通る声。
 今誰が言った? いや、考えるまでもの無く声の主は解る。しかし……。

われが魔人スースィリアであるぞーーー♪」

 ――目が点になり、一瞬体が固まった。


「え、スースィリア……?」

 見た目は無いも変わらない。しかし声が付くだけでこれ程に印象が変わるのか。

「まーーおーーうーーー♪」
「あ、ああ、スースィリア」

「まーーおーーうーーー♪」
「スースィリア?」

「まーーおーーうーーー♪」
「スースィリア……」

 まるで恋人同士のように何度も互いの名を呼び合うと、感極まったようにわしょわしょと甘咀嚼あまそしゃくをしてくる。
 うん、中身はいつものスースィリアだ。

 エヴィアもヨーツケールもこれといった反応は無いが、魔人達はそもそも会話を必要としない。
 動かないように見えて、実際には様々な情報のやり取りをしているのだろう。
 だが俺にはわからんぞ!

「なあ、スースィリア。その……」


 ――パチパチパチパチ……。

 だが聞こうとする前に、突然として拍手の音が魔王の居城に響く。誰だ――?

 大ホールにある穴の一つから、それは両手を叩きながらゆっくりと入ってきた。
 すぐに見やすいように、死霊レイス達が集まって照らす。

 全てを入れた体高は190センチを少し超える位だろうか。
 やじろべえの様な、濃い紫色をした逆三角錐の体の上には、人の頭ほどある薄い緑色の大豆のような物体が乗っていた。
 あれは頭だろうか? だが首のようなものはない。本当に乗っているだけだが、まるで磁石で吸い付いているかのように安定している。

 体からは4本の手が生えており、拍手しているのはその手だ。
 ゆっくりとこちらに移動しているが、水平移動で一切の上下運動が無い。どうやって動いているかは、暗くてさっぱりだ……浮いてはいないようだが。

 それに漂ってくる麝香じゃこうの甘い香り……。

 姿を見て名前が判る。魔人だ……魔人ゲルニッヒ。
 外見を見る限りでは、人間に興味があると見て良いのだろうか……。

 相和義輝あいわよしきがそんな事を考えている内に、魔人達はそれぞれ僅かな動作だけで魔人ゲルニッヒとの会話を済ませていた。

 ――いつから見ていたのかな? 出てくるのなら、もう少し早い方が良かったよ。そうすれば魔王もエヴィアも助かってたのに。これまで大変だったんだよ。
 大体ゲルニッヒは先代魔王の傍にいた魔人でしょ? 今までどこに行っていたの?

 ――今スースィリアは魔王と楽しいひと時を過ごしているの。用事なら後にして頂戴。久々に魔王成分を補給しているんだから!
 そもそも、ゲルニッヒは今までどこで何してたのよ。

 ――会うのは初めてだが、この感覚はスースィリアと分化した魔人か。色々と面白い知識を持っているようだが、ヨーツケールの興味を惹くようなものではない。
 だがゲルニッヒは先代魔王に付いていたはずだ。これまでどこで何をやっていた。

 パンッ! パンッ!

 突然、拍手から大きく手を叩く音に変わる。
 軽く叩いているように見えたが、その音は大ホール全てに響き渡るほど大きい。

「いけまセンネ、皆サン。魔王の前ではきちんと会話する取り決メ。ソウでなければ、我々の意志は魔王には伝わらナイ……そうデショウ?」

 4本の腕を大きく広げながら言葉を発すると、大豆の頭がパクパクと裂ける。
 しゃべっているようにも見えるが、断面は平らで腹話術の人形の口のようだ。
 しかも息継ぎの様に会話が途切れるたび、裂ける場所が変わる。

 ――また濃いのが来たなー……。

 それに動きはオーバーアクションなのに声に抑揚が全くない。動きは無いが声だけに感情があるエヴィアとは、完全に正反対のタイプだな。


「ゲルニッヒは以前、吾と分化した魔人であるー。人間への興味を全て引き受けた存在であるぞー」

 スースィリアは甘咀嚼あまそしゃくをしながらも、親切に教えてくれる。なるほど、人間への興味の塊があの姿になったのか。だがエヴィアとは違う。興味と言っても色々なアプローチがあるのだろう。

「ハイ、ソノ通り。私は人間への興味、慈シミ、愛、ソシテ憎悪などの全てを引き受け、この世に誕生致しマシタ」

 ――憎悪。不穏な言葉だ。

「フフフ、なるほどナルホド、ご安心クダサイ、魔王。ソノ気持ちは既に切り離しマシタ。
 今はありマセン」

 そう言って二本の手を下に、二本の手を腰に当てて仰々しくお辞儀をする。

「いやまて、するとこの世界の何処かにいるって事か?」

 ――人間への憎悪だけを秘めた魔人が!?

「ハハハ、大丈夫デス。ソレは小さく細カク、欠片として放出しマシタ。魔人としての力はありマセン」

 上の両手を大きく広げ、下の両手は腹を押さえる。肩も揺らしているところを見ると、笑っている事を表しているのだろうか。

 しかしそんなパターンもあるのか。それに興味も出る。その細分化された、魔人の力を持たない魔人はどうなるのか。
 そんな考えを見透かし、ゲルニッヒは言葉を続ける。

「細分化された憎しみは海を越え、人間側に入りマシタ。ソコで黒骨病という病の元とナリ……ソウデスネ、800万人くらい殺したのではないでショウカ。オヤ、ドウしました、魔王」

 頭を抱えるしかない。これまでは病気に魔族は関係ないだろとか思っていたが、結構やらかしていたのだ。これでは人類だけを一方的にダメだと言うには無理がある。

「その黒骨病とやらを流行らせた魔人の欠片は、結局どうなっているんだ?」

「今は力を失っていると思われマス。マア百年もスレバ、マタ活動を再開するデショウ。ハハハ」

 ――ハハハじゃねぇー! 人類との和平のためには、こちらもこちらでしっかりしなければダメな様だ。
 だが、スースィリアが戻ってようやく落ち着けた。それに魔人が増えたし、この魔人は知識が豊富な様だ。
 魔王の前では会話する取り決め……その言葉から察するに、魔王の事にも詳しいだろう。

「じゃあ、そろそろ教えてくれ。魔王に関しての全てをだ」
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