この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 大火 】

魔族領撤退

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 リアンヌの丘で人類軍が大惨敗をしたニュースは、世界中の新聞を賑わせた。
 いや、それだけではない。どちらかと言えば海路が壊滅したというニュースの方が深刻であった。
 巨大な魚、怪物、嵐や竜巻などの災害など、今まで安全だった航路で大規模に発生したのである。
 その為に、人類は海という巨大な食料源を失ってしまう。しかも海洋国家は一切の輸送が出来ず、機能不全に陥っていた。

「いったいこの事態をどうするつもりなんだ!」

「そもそも魔族領侵攻自体が無謀だったのだ!」

「我が国から海が無くなったら滅びるしかない! 中央はどのように対応するつもりなのか!」

「魔族領にいる部隊は全て引き上げるべきだ! 和平を結ぼう」

「貴様ぁ! 人類としての誇りは無いのか! 衛兵、あいつは魔族だ! 捕らえろ!」

 もはや中央は糾弾会どころではない。いよいよ尻に火が付いたのだ。
 こうなると、もはや建設的な意見など出ない。
 否定、否定、否定……こうすれば良い――そんな確実な事が何一つ無いため、出てきた意見は全否定しての罵り合い。

「心に余裕が無い、もはやそんな言葉ではすまんなぁ、これは」

 その様子を議会場の柱から眺めていた男、ビルバック・アルドライトはあまり面白くいなさそうに呟いた。
 コンセシール商国は海に面している部分は僅かで、あまり海洋は重視されていない。
 だがそれでも国家経済の数パーセントである。それを失う事はただ事ではない。

「先ほどペルカイナ商家から今後どうすればいいのかと打診がありましたわ。海運の全てを失って、相当慌てていた様子……フフフ、かの家はアルドライト商家に近いのでしょう? どうするのかしら」

 イェア・アンドルスフは相変わらずの美貌を、踊り子のような衣装に包んでいる。
 だがビルバックはこの女性を女としては見ていない。互いに同じ国の協力者であると同時に、最も危険な商売敵なのである。

「当面、ペルカイナ商家は全体で支えるしかなかろう。ハッキリ言えば、さっさと魔王とは停戦して欲しいものだ。言葉が通じるうちにな」

「あら、随分と弱気……フフ、臆しましたか?」

 イェアの楽しそうな感じが、多少ビルバックの癇に障る。だがこの女はいつもこうだ、気にしても仕方がない。

「我々にとっては経済こそが全てだ。順調に進んでいるなら良いが、マイナスになるならさっさと打ち切ってもらわねば困る」

「まあ、その点はお互い様……」

 そのイェアの視線の先には最上段、何とか取り纏め様としている4大国の大臣達が見える。だがこんな罵り合いでは何も決まらないだろう。
 決めるのは結局、トップなのだから。



 ◇     ◇     ◇



 その頃、忌憚なき意見を実現する部屋には、3つの大国のトップが集まっていた。
 ティランド連合王国元首であるカルターに加え、北の大国ハルタール帝国のオスピア女帝と、南の大国ムーオス自由帝国のザビエブ皇帝の2名だ。

 この部屋は余計な調度品は一切置いていない。照明は薄暗く、暖房もない。更に壁は黒ときては、風はないのに外よりも寒く感じられる。
 だがカルター一人の暑苦しさで、それが微妙に解消されているのをオスピア女帝は面白く思っていた。

「それで、どうするつもりなんだこの状況を!」

 カルターの怒声と共に叩かれたテーブルが、軋みを上げ少し跳ねる。

 カルターは黒を基調に赤と金でティランド連合王国のマークを刺繍したシャツに真っ黒い軍服のズボン。それに立った襟元から小動物のファーが覗くグレーの厚手のコートを纏っている。
 どれも軍服そのままであり、首脳会談に着てくるような衣装ではないが、他のメンツは気にしてはいない。

 ザビエフ皇帝はグレーと茶の縦縞のスーツに派手で艶やかな茶色い毛皮のコート。
 オスピア女帝に至っては膝下丈の白いポロシャツ一枚。さっきまで寝ていたのではないかと疑いたくなる。
 当の本人が知ってか知らずか、その中央には失われた古代の文字で『暇人』と書かれていた。
 一応頭に宝石をあしらった豪華なティアラを付けているが、背格好の問題でおもちゃにしか見えないのが難点だ。

 東の大国、ジェルケンブール王国のクライカ国王は今は国に帰っている。
 かの国は海洋に面する国土が多く、国内には魔族領も残っている。ここで実らぬ会議などしている場合ではなかったのだ。

 カルターの言に、最初に答えたのはオスピアであった。

「どうもこうもなかろう。戦い敗れた。それだけの事」

 女帝には何の動揺も見られない。何時もの様に静かな口調だ。
 だが一方で、もう一人の男――ザビエフ皇帝は焦りと困惑を隠せないでいる。

「しかし魔王の本気具合も解りましたな。このまま魔族領に拘り続ける限り、奴は今以上の事をするでしょう。もはや、全戦力を以て魔族領を消し去るしかあるまい」

「これは面白い。第八次魔族領侵攻までは本気でなかったかの様だ。はて何千万人死んだのであろうな」

 女帝の辛辣しんらつな言葉にザビエブは押し黙る。
 だが彼としては、この状況は何とかしなくてはいけない。

 四大国はそれぞれに海洋の利用度は異なる。この大陸は南北両極に延びる菱形だが、上は広く下が狭い。
 上の広い面を北、中央、東で分け、下の細い部分が南方のムーオス自由帝国となる。
 北のハルタール帝国は、元々北面は極地のせいで重要性は高くない。西は魔族領に面しており、使っている海岸線は実質東の僅かな海岸線だけだ。

 中央のティランド連合王国にも海はあるが、国家全体からすれば重要性は小さい。

 一方で東のジェルケンブール王国、南のムーオス自由帝国は海岸に面する地域が多い。この世界の海岸線は、実質この2国が支配しているのだ。それ故に、これらの国にとっては海は最重要地域であった。

「分かった、本気で行こう……」

「本気だと? 今までは遊んでいたとでもいうつもりか?」

 カルターとしては聞かざるを得ない。何と言ってもムーオス自由帝国は、人類最強の決戦兵器である浮遊城を二つも失っているのだ。
 あれが本気ではなかったと言うなら、一体何が本気なのか。

「遊んでいたとは言わぬ、だが……いや、暫く時間がかかる。1年はかからぬが、それまでは現状維持しかあるまい」

「現状維持か……海を1年失えば数千万が飢えて死のう。特に東と南はの。それで良いと言うのなら止めまいて」

「まあ、ティランド連合王国としても、そちらが良いなら構わんがね。だが魔族領にいる部隊は撤収させる、それでいいな」

 二人の言葉を受けて、ザビエブの拳が強く握られる。だが、今はまだ忍耐が必要だ。最終決戦のその時まで……。

「分かった、撤収だ……。だがどのような変化が起きるかは分からぬ。常に少数の調査部隊は配備し、万が一に備えて壁の外周には機動部隊を配備する。それで良いな」

「当方もそれで良いの。さて、東がなんと言うかは判らぬが……」

 こうして東の意見を放置したまま、人類側は魔族領から部隊を撤収させ、他は現状維持と決まる。
 魔族領に、束の間の平和が訪れようとしていた。
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