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【 大火 】
商国の二人 前編
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碧色の祝福に守られし栄光暦218年1月18日。
快進撃を続けるゼビア王国はエルグシス・リオンやラプサラントの街を陥落させ、ハルタール帝国の国境から東へ700キロ程の侵攻を果たしていた。
「いやあ、ようこそいらっしゃいました。さぁどうぞ、外は寒かったでしょう」
ゼビア王国国王、”無眼の隻腕”ククルスト・ゼビアは、新たに侵略したボロネオの街でコンセシール商国からの来客を出迎えていた。
元は人口75万人を抱える巨大都市であり、建ち並ぶ金属の建物に上下水道を完備。他国との交易をおこなうために道路網も整備されており、郊外には様々な物資保管施設が整備されている。
当然のように、都市規模や重要性に見合うだけの防御設備や人員を配置。ほんの数日前には、100万を超える正規軍に200万以上の民兵からなる防衛隊が配備されていた。
だが、その抵抗はわずか4日余りで終結した。
100騎を超える飛甲騎兵も投入されたが、人馬騎兵の進撃を止めることは出来なかったのである。
案内された建物はかつての高級ホテルだ。3階建ての金属ドーム。その外見には多少の焼け目が残っていたが、調度品などは比較的無傷で揃っている。天井のシャンデリアには魔法により明かりが灯され、冬の寒さにも関わらず暖房により中はコートを脱げるほど暖かい。
絨毯は全て剥がされていたが、理由は聞くまでもないだろう。こういった場所は、民兵や民間人が立てこもって最後の抵抗をする場所なのだから。
「お初にお目にかかります、陛下。私はキスカ商会ゼビア王国担当、サイレーム・キスカでございます」
きっちり整えた薄グレーの髪。切れ長の紅蓮の瞳。その身に纏うのは濃いグレーのスーツとベスト。右襟にはコンセシール商国の階級章、左にはキスカ商家の紋章を付けている。背は158センチとさほど高くはなく、見た目は15歳程度と童顔だ。だがこれでも、キスカ商家の中でも敏腕で知られる営業マンであり、同時に技術屋でもある。
「今回は人馬騎兵22騎の組み立てが完了いたしましたので、ご報告に上がりました。こちらが受領書でございます」
そう言って数枚の書類を国王に渡す。それはこれまでに確認したゼビア王国の大臣、将軍、整備官などが確認した書類の数々だ。それにゼビア王が捺印し、ようやく受け渡しがが完了する。
リッツェルネールがゼビア王国に売った人馬騎兵は300騎。だが、その全てが一括で渡されるわけではない。したのはあくまで契約までだ。
これまでにゼビア王国に納入されたのは62騎。そして今日22騎が新たに納入された。残りは今現在輸送中であったり組み立てテスト中であったり生産中だ。
そしてこの国は、その一部を周辺国に供与することで近隣諸国と連携して、ハルタール帝国に反旗を翻したのだった。
「いやあ、良いね、実に良い。人馬騎兵は素晴らしい。あれだけの性能なのに、飛甲騎兵よりも安い所がまた良い」
ククルスト王は実に機嫌が良い。何と言っても人馬騎兵の強さは圧倒的だった。
人間の城塞は、全て同じ人間を相手にする事を前提に作られている。それ故に、人馬騎兵の巨体に対抗する術を持たない。
そして飛行機関のような複雑で高価な機器を使わないため、飛甲騎兵に比べて量産に向いている点も大きかった。
「これからの主力は人馬騎兵になるよ。うん、間違いないだろうね。さて、そろそろ座ってくれても構わないよ」
「お喜びいただき光栄です。生産・開発を行っている我らが党首、キスカ・キスカもお喜びになられるでしょう。それでは、失礼いたします」
そう言ってサイレームはククルスト王の前に座る。
細長いテーブルと長いソファ。まだ人が座る余裕は十分にある。
「君も座ってくれて構わないよ、さぁ遠慮せずに。我々は君達を客人としてもてなしたいのだよ」
そう言って、サイレームの後ろに立つ少女にも座るように促す。しかし—―
「お心遣いありがとうございます。ですが大丈夫です。職務上、こうせよと言われておりますので」
青いスーツに清楚な白のブラウス、それに青いミニのタイトスカートを履いた少女。
背は決して高くはないが、スーツに押さえつけられた双胸は今にも弾けて飛び出しそうに見える。
如何にも武官といった、自然体だが警戒を怠らない姿勢を崩さないまま、マリッカ・アンドルスフは目の前の凶悪そうな男に恐縮する素振りも全くなく、サラッと言い切った。
「ああ、すみません。彼女は融通といったものが一切できませんので」
サイレームは慌てた様子で言い訳をする。だがゼビア王には気を悪くした様子が無い。それだけ上機嫌なのだ。
「それで、リッツェルネール君は来ていないのかな? これを勧めてくれたのは彼でね、是非お礼を言いたいのだよ。いや彼は慧眼だね、実に良い。」
「大変申し訳ございません。彼は今現在、国防軍最副委員長の地位に付いております。それ故に、紛争中の四大国への出入りは法で禁止されておりますので……」
ぺこぺことにやけた笑みと共にお辞儀をして誤魔化すサイレーム。
四大国に対する軍事介入は、いかなる場合であっても禁止する条約が世界連盟で結ばれている。
だがコンセシール商国は正式には世界連盟に加盟していない。あくまでティランド連合王国の属国であり、対外的には独立国家とは認められていない立場だ。
従って、戦時に赴くことは実際には禁止されていない。
だが一方で、元独立国であった事は誰もが認めている。
名目上や対外的はどうあれ、行動自体は条約に従わねば色々と海外での活動に支障が出る。そのため、中央の指示でもない限り、軍務に就いている者の行動は厳しく制約されていた。
従って、リッツェルネールのような軍の重責がこの場所に赴く事は許されない。動けるのはせいぜい民間職くらいなものだ。
一方で、マリッカの職責はあくまでアンドルスフ商家所属警護武官であり、軍属ではない。
腕の立つ護衛を求めた結果、紹介されたのが彼女だったわけなのだが……。
快進撃を続けるゼビア王国はエルグシス・リオンやラプサラントの街を陥落させ、ハルタール帝国の国境から東へ700キロ程の侵攻を果たしていた。
「いやあ、ようこそいらっしゃいました。さぁどうぞ、外は寒かったでしょう」
ゼビア王国国王、”無眼の隻腕”ククルスト・ゼビアは、新たに侵略したボロネオの街でコンセシール商国からの来客を出迎えていた。
元は人口75万人を抱える巨大都市であり、建ち並ぶ金属の建物に上下水道を完備。他国との交易をおこなうために道路網も整備されており、郊外には様々な物資保管施設が整備されている。
当然のように、都市規模や重要性に見合うだけの防御設備や人員を配置。ほんの数日前には、100万を超える正規軍に200万以上の民兵からなる防衛隊が配備されていた。
だが、その抵抗はわずか4日余りで終結した。
100騎を超える飛甲騎兵も投入されたが、人馬騎兵の進撃を止めることは出来なかったのである。
案内された建物はかつての高級ホテルだ。3階建ての金属ドーム。その外見には多少の焼け目が残っていたが、調度品などは比較的無傷で揃っている。天井のシャンデリアには魔法により明かりが灯され、冬の寒さにも関わらず暖房により中はコートを脱げるほど暖かい。
絨毯は全て剥がされていたが、理由は聞くまでもないだろう。こういった場所は、民兵や民間人が立てこもって最後の抵抗をする場所なのだから。
「お初にお目にかかります、陛下。私はキスカ商会ゼビア王国担当、サイレーム・キスカでございます」
きっちり整えた薄グレーの髪。切れ長の紅蓮の瞳。その身に纏うのは濃いグレーのスーツとベスト。右襟にはコンセシール商国の階級章、左にはキスカ商家の紋章を付けている。背は158センチとさほど高くはなく、見た目は15歳程度と童顔だ。だがこれでも、キスカ商家の中でも敏腕で知られる営業マンであり、同時に技術屋でもある。
「今回は人馬騎兵22騎の組み立てが完了いたしましたので、ご報告に上がりました。こちらが受領書でございます」
そう言って数枚の書類を国王に渡す。それはこれまでに確認したゼビア王国の大臣、将軍、整備官などが確認した書類の数々だ。それにゼビア王が捺印し、ようやく受け渡しがが完了する。
リッツェルネールがゼビア王国に売った人馬騎兵は300騎。だが、その全てが一括で渡されるわけではない。したのはあくまで契約までだ。
これまでにゼビア王国に納入されたのは62騎。そして今日22騎が新たに納入された。残りは今現在輸送中であったり組み立てテスト中であったり生産中だ。
そしてこの国は、その一部を周辺国に供与することで近隣諸国と連携して、ハルタール帝国に反旗を翻したのだった。
「いやあ、良いね、実に良い。人馬騎兵は素晴らしい。あれだけの性能なのに、飛甲騎兵よりも安い所がまた良い」
ククルスト王は実に機嫌が良い。何と言っても人馬騎兵の強さは圧倒的だった。
人間の城塞は、全て同じ人間を相手にする事を前提に作られている。それ故に、人馬騎兵の巨体に対抗する術を持たない。
そして飛行機関のような複雑で高価な機器を使わないため、飛甲騎兵に比べて量産に向いている点も大きかった。
「これからの主力は人馬騎兵になるよ。うん、間違いないだろうね。さて、そろそろ座ってくれても構わないよ」
「お喜びいただき光栄です。生産・開発を行っている我らが党首、キスカ・キスカもお喜びになられるでしょう。それでは、失礼いたします」
そう言ってサイレームはククルスト王の前に座る。
細長いテーブルと長いソファ。まだ人が座る余裕は十分にある。
「君も座ってくれて構わないよ、さぁ遠慮せずに。我々は君達を客人としてもてなしたいのだよ」
そう言って、サイレームの後ろに立つ少女にも座るように促す。しかし—―
「お心遣いありがとうございます。ですが大丈夫です。職務上、こうせよと言われておりますので」
青いスーツに清楚な白のブラウス、それに青いミニのタイトスカートを履いた少女。
背は決して高くはないが、スーツに押さえつけられた双胸は今にも弾けて飛び出しそうに見える。
如何にも武官といった、自然体だが警戒を怠らない姿勢を崩さないまま、マリッカ・アンドルスフは目の前の凶悪そうな男に恐縮する素振りも全くなく、サラッと言い切った。
「ああ、すみません。彼女は融通といったものが一切できませんので」
サイレームは慌てた様子で言い訳をする。だがゼビア王には気を悪くした様子が無い。それだけ上機嫌なのだ。
「それで、リッツェルネール君は来ていないのかな? これを勧めてくれたのは彼でね、是非お礼を言いたいのだよ。いや彼は慧眼だね、実に良い。」
「大変申し訳ございません。彼は今現在、国防軍最副委員長の地位に付いております。それ故に、紛争中の四大国への出入りは法で禁止されておりますので……」
ぺこぺことにやけた笑みと共にお辞儀をして誤魔化すサイレーム。
四大国に対する軍事介入は、いかなる場合であっても禁止する条約が世界連盟で結ばれている。
だがコンセシール商国は正式には世界連盟に加盟していない。あくまでティランド連合王国の属国であり、対外的には独立国家とは認められていない立場だ。
従って、戦時に赴くことは実際には禁止されていない。
だが一方で、元独立国であった事は誰もが認めている。
名目上や対外的はどうあれ、行動自体は条約に従わねば色々と海外での活動に支障が出る。そのため、中央の指示でもない限り、軍務に就いている者の行動は厳しく制約されていた。
従って、リッツェルネールのような軍の重責がこの場所に赴く事は許されない。動けるのはせいぜい民間職くらいなものだ。
一方で、マリッカの職責はあくまでアンドルスフ商家所属警護武官であり、軍属ではない。
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