この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 滅び 】

おでかけ 前編

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 やれやれとは思うが、さすがにそんな所まで手は伸びない。こちらは魔族領の事だけで手一杯だ。
 結局コンセシール商国の国境には、ティランド連合王国の軍が監視と警戒に赴く事となった。
 しかし手は出せない。どう考えても、対応できる数ではないからだ。
 もう少し――最低でも1年は準備出来れば、対抗するための軍備も物資も、また戦略を立てる事も出来るだろう。

「これが戦争であれば完敗だね。あの数と質への対応をしながら戦力を整え、反攻に転ずる……不可能だ」

「党首殿でも?」

「当然だろう? いや……僕がムーオスやティランドの国主であればまだ手は打てるさ。しかしその後の展望が見えない。今見えている相手が全てだろうか? おそらく違うだろう?」

「まだ海には戦力があると思いますか?」

「いや……」

 リッツェルネールは静かに、奥の壁に掛かった地図を指さした。
 それは今この城が滞在している場所を示している。そこは壁に囲まれた小さな世界。本来、この地を攻め、魔王と魔族を倒すためにここに来た。
 この土地の名は、魔族領。

「……この地域の魔族も動き出すと予想しているのですか?」

「当然だね。僕が魔王ならそうするよ」




     ◇      ◇     ◇




 話は一度休憩となり、リッツェルネールは大事な資料を確認するという名目で自室に戻ってきていた。勿論、直属の護衛武官であるマリッカ・アンドルスフを伴ってである。

 リッツェルネールの私室は城主の部屋でもあるため、十分に広い。そして調度品も机や椅子、ベッドやカーテン、絨毯やシャンデリア、飾られた花瓶など、あらゆるものが芸術品といえる最高級品が揃えられていた。
 その一方で、城主の仕事は多忙を極める。リッツェルネールもまた、寝る時以外にこの部屋を利用する事は無い。

「それで、どのような御用件なのでしょうか?」

 他の護衛を廊下に残し、部屋に入った早々にマリッカはそう切り出した。
 この部屋は毎日清掃係の民兵が入り、また城主が不在の時は、常に複数人の護衛官が配属されている。
 にもかかわらず、マリッカは絨毯に残る微かな痕跡から、リッツェルネールの行動範囲を確認していた。
 その結果、彼がこの部屋を全く利用していない事が分かる。
 そして同時に、人が出入りするようなところに、わざわざ自分が取りに来なければいけないようなものを置くだろうかと考える。結論はノーだ。
 ずぼらなマリッカではあるが、こういった点は鋭い。というより、本来なら護衛対象であり、また味方であるはずのリッツェルネールを信じていない警戒心所以ゆえんであろう。


 そしてリッツェルネールもまた、その質問に十分満足していた。
 下手な事をべらべらと話すつもりは無い。時間もないし、言葉を多くするほどにリスクが高まるからだ。

「さすがは君だね。話が早い。君に特別な任務を与える。君にしか出来ない事だ」

 もうマリッカは嫌な予感しかしない。いつの世も「君にしか~」だの「君だから~」とついは話にはろくなものがない。

「魔王と繋ぎを取ってもらいたい。出来る限り、迅速にだ」

 ――とはいえ、ここまで酷い指示を出されるとは思わなかった。

「それで、繋ぎを取ってどうしようというのです?」


『出来ない』ではなく『どうするのか』。その答えもリッツェルネールとしては大満足だった。この時点で100点を与えたい。やはり彼女マリッカは相当な切れ者であり、状況をよく理解していると考えた。


 一方で、マリッカとしてはそこまで深く考えていたわけではない。
 魔族関係者と接した生活に慣れ過ぎて、リッツェルネールもまたそっち側の人間だと認識していただけだ。
 普通に考えたら、魔王と繋ぎを取れる存在だなどと匂わせるだけでもご法度だろう。

「交渉をしたい。これは、人類と魔族、全てに係わる重大事項だよ」

「それ程の大事を、貴方個人で決めるのですか?」

「決めるのは魔王さ。一応、オスピア帝には話しても良いと思っている。その判断は君がしてくれて構わない」

 まるで全て丸投げしているようにも聞こえるが、実際にはそうでは無い。この行動には彼の命がチップとして掛かっている事は明らかだ。
 場合によっては、ここで人類の裏切り者として自分に処分される事も覚悟の上なのだろう。
 普段と何も変わらない彼の言動が、それを雄弁に物語っていた。




    ◇      ◇     ◇




 ムーオス自由帝国とコンセシール商国の国境近辺に、ヨーツケールMk-II8号改は来ていた。
 本当なら、魔王の近くにいたかったと思う。
 しかし魔王がこの計画を考えていた時、最も重要な部分がここであった。だからここに来た。魔王の為に。
 しかしそれだけであれば、他の魔人に任せたかもしれない。だがヨーツケールMk-II8号改には事情があった。それは魔王の過保護っぷりである。

 どうも以前存在したという魔人ヨーツケールの面影を、今の自分に感じている様だ。
 とはいえ、ヨーツケールとヨーツケールMk-II8号改は全く別の魔人である。微かな記憶の継承はあるが、根本的には全く違う。そこを、どうも魔王は理解していない様だ。
 そんな訳で、自分の存在が魔王の今後における活動の阻害になるかもしれない。その危険を考え、あえて離れたのだった。

 ここにはヨーツケールMk-II8号改と同様に、浄化の光レイを使える魔人達も集まっていた。
 目的は一つ。ムーオス自由帝国から、如何なるモノも外に出さない為に。
 これは揺り籠の機密を絶対に拡散させないためだ。
 空も地上も完全に封鎖しつつ、内側に向けて侵攻する。注意すべきは通信機だろう。物理的に封鎖したとしても、遠距離通信までは防げない。
 しかし魔王は、その可能性は極めて低いと見ていた。なんといってもあれだけの威力だ。拡散などしたらどうなるか、分からないほど愚かではない。
 他国に流すとしたら、本格的に追い詰められてからだろう。そしてその時にはもう、通信機の通信範囲は魔族によって制圧されている。その予定だ。




 燃え盛る街を、30メートルを超えるヨーツケールの巨体が進む。周囲に追随するのは、赤と青、炎のような模様を持つ2メートル程の蟹の群れ。数は数万といったところだろうか、上空から見れば、まるで大地自体が蠢いているかのようだ。
 人間ならば魔族と呼ぶが、これらは普通の生き物だ。単に魔人の命令で追随しているだけである。
 だがそれでも、ムーオス自由帝国の人間にとってはかつてないほどの脅威であった。

 同様に、多数の魔人が無数の生き物を従え進む。
 禁断の技に手を出してしまった巨大な帝国を飲み込むために。




 キイィー、キキィィィー。
 巨大な金属が軋みを上げ、ゆっくりと浮上する。

 アレハ、ナンダロウカ――ヨーツケールMk-II8号改の瞳がきらりと光る。

 距離はまだ2キロメートル以上先だ。しかしその金属の輝きは、ヨーツケールMk-II8号改を魅了した。かつてヨーツケールがそうだったように、こちらも金属を叩くのは大好きだ。
 今目の前に出現したモノは、その興味を満足させるのに十分な代物だったのだ。
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