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【 滅び 】
おでかけ 後編
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「オンド艦長、視界よし、魔導炉よし。しかし――」
「言いたい事は分かってんだよ! だがやるしかねえだろうが! ほら、突貫だ! 飛甲騎兵も全部上げろ!」
それは巨大な金属であった。幅50メートル、全長290メートル。地上からの浮遊高度は10メートルで、その上にあるのは厚さ20メートルの本体だ。
その中央、先端近くには更に高さ30メートルの丸っこい艦橋が付いている。
後ろには巨大な鉄球をつけたクレーンが取り付けられ、艦橋とクレーンの間は平坦だ。
浮遊城を小型化したようにも見えるが、実際にはまるで設計が違う。
浮遊城の飛行機関は専用で、出力が高い分複雑で高価だ。それに対し、こちらは浮遊式輸送板と同様のモノの寄せ集め。必要とされる膨大な魔力は、艦底に集まった動力士により支えられている。
その様子は、まるで古代のガレー船の様だ。おおよそ近代的な効率とは懸け離れている。
陸上戦艦。だがこの世界に、火薬が無ければ大砲も無い。用途といえば、精々飛甲騎兵を格納する程度。陸上戦艦というより、陸上空母といった方が正しそうだ。
ムーオス自由帝国でも、何で作ったのか分からないトンデモ兵器。オンド・バヌーは第二次炎と石獣の領域戦での非積極的な戦闘行為の咎で、今はこの艦の艦長に任ぜられていた。
「俺はな、こいつの艦長になった時、もう引退だと思ったんだよ。戦場から離れて、こんな博物館行きのオンボロの管理をしろってんだ、当然だろう。もう家族も呼んで、これからのんびり過ごして、時期が来たら希望塚。それでいいじゃねえか。悠々自適な生活だよ!」
「蟹、接近!」
「ぶつけちまえ!」
叩きたいヨーツケールMk-II8号改、倒したい陸上戦艦のオンド・バヌー。二人の考えが一つとなった時、燃える戦場に鐘をついたような轟音が響き渡った。
◇ ◇ ◇
碧色の祝福に守られし栄光暦219年2月37日。
コンセシール商国首都ヤハネバにある飛甲騎兵発着場に、一騎の飛甲騎兵が降り立った。
「お疲れ様です、商国中央議会議長殿」
「普通にテリアスと呼べばいいだろう。さて、あんたはこれからイェアの所かい?」
カチャカチャとベルトを外し、テリアス・アーウィンは外に出る。
そこには同様に飛甲騎兵から降りたマリッカが、既に待機していた。
「事が事だけに、イェア……というより、アンドルスフに確認を取る必要がありますからね」
「まあ、精々踏んでやりな」
手を振りながら去っていくテリアスの様子を見ながら、代わって貰えないだろうかと溜息をつくマリッカであった。
その日の夜、地下に深々と掘られた螺旋階段を、マリッカは一人で黙々と降りていた。
ここはアンドルスフ本邸の地下。魔人アンドルスフの住処へと続く一本道だ。
降りるたびにアンドルスフを殴りたくなるが、登った時にはそんな気は起きない。疲れ切って、それどころではないからである。
そんな場所に向かっているだけに、マリッカの心は憂鬱だ。
しかし同時に多少の興味も沸いている。あの変態魔人は、果たして素直に取り次ぐのであろうかと。
付き合いは長いが、未だにその真意は計り知れていない。
魔人とは、大元は一つの体。今は多数存在するといっても、それは同一生物の同一個体である。
では全員同じ考えを持っているかといえば、決してそんな事は無い。
全く同じ人間でも、違う人生を歩めば別の個体といって良いほどに変わるだろう。
ましてや魔人だ。いったい、普段はどんなことを考えて生きているのか……。
「アンドルスフ、入りますよ」
相手は魔人だ。当然、マリッカが来た事には気が付いている。実際には宣言など要らないだろう。だが習慣でそう言うと、目の前にある分厚い金属扉を開けた。
中は中央が窪んだ浴槽のような形状の部屋。中央には丸いテーブルが置かれ、その中央から天井までは一本の細い柱が伸びている。
周囲には蛇口があり、そこからはチロチロとお湯が流れていた。そのせいか、部屋全体は温かく白い湯気が立ち込めている。
ここが、普段魔人アンドルスフが住まう場所だ。
中に入るが、ただでさえ普段は透明になっている魔人。見つける事は困難だ。
だが踏まれる事が大好きな魔人でもある。特にミニスカートの女性に。
実際、不意打ち的に踏んで喜ばせた事は数知れない。姿を見せないところを見ると、今回もそのパターンだろうか。
軽く視線を動かし床を見る。
しかし今、ここは湯が張っている。たとえ透明になれたとしても、この状態での擬態は困難だろう。
軽く水の端を足で蹴る。だが水面に浮いた波紋は、全く不自然なところなく広がっていった。
――どこに隠れているのでしょうか……。
慎重に、水を蹴る様にザバザバと中央へ進む。
お椀のような形状の床だ。奥へ進むほどに深くなる。とはいえ、別にプールという訳ではない。中央のテーブルについた時点で、水深は15センチほど。ヒールを入れても踝程度の深さだ。
「アンドルスフ……?」
少し心配そうに声をかけるが、どこからも返事は無い。ふと見ると、机の上には一枚のプレートが置かれていた。
陶器の板で、普段はメッセージ用に壁に嵌め込まれている。とはいえマリッカの記憶にある限り、使われたのは初めてだ。
そこには『お出かけするね』とだけ、短い文字が刻まれていた。
ガコン!
プレートを握り潰すとともに放たれた右ストレートが、自分の腕よりも太い金属の柱に炸裂する。
「あの変態両生類! 何処に遊びに行ったんですか!」
ヘシ曲がった柱を後に、マリッカはうんざりしながら30階に相当する螺旋階段を上り始めたのだった。
「言いたい事は分かってんだよ! だがやるしかねえだろうが! ほら、突貫だ! 飛甲騎兵も全部上げろ!」
それは巨大な金属であった。幅50メートル、全長290メートル。地上からの浮遊高度は10メートルで、その上にあるのは厚さ20メートルの本体だ。
その中央、先端近くには更に高さ30メートルの丸っこい艦橋が付いている。
後ろには巨大な鉄球をつけたクレーンが取り付けられ、艦橋とクレーンの間は平坦だ。
浮遊城を小型化したようにも見えるが、実際にはまるで設計が違う。
浮遊城の飛行機関は専用で、出力が高い分複雑で高価だ。それに対し、こちらは浮遊式輸送板と同様のモノの寄せ集め。必要とされる膨大な魔力は、艦底に集まった動力士により支えられている。
その様子は、まるで古代のガレー船の様だ。おおよそ近代的な効率とは懸け離れている。
陸上戦艦。だがこの世界に、火薬が無ければ大砲も無い。用途といえば、精々飛甲騎兵を格納する程度。陸上戦艦というより、陸上空母といった方が正しそうだ。
ムーオス自由帝国でも、何で作ったのか分からないトンデモ兵器。オンド・バヌーは第二次炎と石獣の領域戦での非積極的な戦闘行為の咎で、今はこの艦の艦長に任ぜられていた。
「俺はな、こいつの艦長になった時、もう引退だと思ったんだよ。戦場から離れて、こんな博物館行きのオンボロの管理をしろってんだ、当然だろう。もう家族も呼んで、これからのんびり過ごして、時期が来たら希望塚。それでいいじゃねえか。悠々自適な生活だよ!」
「蟹、接近!」
「ぶつけちまえ!」
叩きたいヨーツケールMk-II8号改、倒したい陸上戦艦のオンド・バヌー。二人の考えが一つとなった時、燃える戦場に鐘をついたような轟音が響き渡った。
◇ ◇ ◇
碧色の祝福に守られし栄光暦219年2月37日。
コンセシール商国首都ヤハネバにある飛甲騎兵発着場に、一騎の飛甲騎兵が降り立った。
「お疲れ様です、商国中央議会議長殿」
「普通にテリアスと呼べばいいだろう。さて、あんたはこれからイェアの所かい?」
カチャカチャとベルトを外し、テリアス・アーウィンは外に出る。
そこには同様に飛甲騎兵から降りたマリッカが、既に待機していた。
「事が事だけに、イェア……というより、アンドルスフに確認を取る必要がありますからね」
「まあ、精々踏んでやりな」
手を振りながら去っていくテリアスの様子を見ながら、代わって貰えないだろうかと溜息をつくマリッカであった。
その日の夜、地下に深々と掘られた螺旋階段を、マリッカは一人で黙々と降りていた。
ここはアンドルスフ本邸の地下。魔人アンドルスフの住処へと続く一本道だ。
降りるたびにアンドルスフを殴りたくなるが、登った時にはそんな気は起きない。疲れ切って、それどころではないからである。
そんな場所に向かっているだけに、マリッカの心は憂鬱だ。
しかし同時に多少の興味も沸いている。あの変態魔人は、果たして素直に取り次ぐのであろうかと。
付き合いは長いが、未だにその真意は計り知れていない。
魔人とは、大元は一つの体。今は多数存在するといっても、それは同一生物の同一個体である。
では全員同じ考えを持っているかといえば、決してそんな事は無い。
全く同じ人間でも、違う人生を歩めば別の個体といって良いほどに変わるだろう。
ましてや魔人だ。いったい、普段はどんなことを考えて生きているのか……。
「アンドルスフ、入りますよ」
相手は魔人だ。当然、マリッカが来た事には気が付いている。実際には宣言など要らないだろう。だが習慣でそう言うと、目の前にある分厚い金属扉を開けた。
中は中央が窪んだ浴槽のような形状の部屋。中央には丸いテーブルが置かれ、その中央から天井までは一本の細い柱が伸びている。
周囲には蛇口があり、そこからはチロチロとお湯が流れていた。そのせいか、部屋全体は温かく白い湯気が立ち込めている。
ここが、普段魔人アンドルスフが住まう場所だ。
中に入るが、ただでさえ普段は透明になっている魔人。見つける事は困難だ。
だが踏まれる事が大好きな魔人でもある。特にミニスカートの女性に。
実際、不意打ち的に踏んで喜ばせた事は数知れない。姿を見せないところを見ると、今回もそのパターンだろうか。
軽く視線を動かし床を見る。
しかし今、ここは湯が張っている。たとえ透明になれたとしても、この状態での擬態は困難だろう。
軽く水の端を足で蹴る。だが水面に浮いた波紋は、全く不自然なところなく広がっていった。
――どこに隠れているのでしょうか……。
慎重に、水を蹴る様にザバザバと中央へ進む。
お椀のような形状の床だ。奥へ進むほどに深くなる。とはいえ、別にプールという訳ではない。中央のテーブルについた時点で、水深は15センチほど。ヒールを入れても踝程度の深さだ。
「アンドルスフ……?」
少し心配そうに声をかけるが、どこからも返事は無い。ふと見ると、机の上には一枚のプレートが置かれていた。
陶器の板で、普段はメッセージ用に壁に嵌め込まれている。とはいえマリッカの記憶にある限り、使われたのは初めてだ。
そこには『お出かけするね』とだけ、短い文字が刻まれていた。
ガコン!
プレートを握り潰すとともに放たれた右ストレートが、自分の腕よりも太い金属の柱に炸裂する。
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