この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 滅び 】

差し出された未来 前編

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「なるほどねぇ……それでこんな所まで来たのか」

 泥だらけになってふうふう言いながらここまで来たマリッカには頭が下がる。
 生き方は漬物石の様だが、やることはやるものだ。

 それに何より、遂にここまで来たという感慨に涙がこぼれそうになる。
 あれだけ殺して、ここまでやって、ようやく人類と話し合えるかもしれない所まで辿り着いたわけだ。これも仕方ないだろう。
 だけど――まだ早い。

 というか、ここは泥と強酸の霧、そして多くの凶悪な怪物モンスターの巣だ。
 魔族領は何処も人間にとっては厳しい環境だが、ここはその中でも特にひどい。実際、俺はテルティルトがいなければ入る事も出来なかった。
 そこで平然としている彼女には、ものすごい違和感を感じる。さすがは先代魔王の娘……いや。研究の成果というべきか。
 プログワードが泥から引き上げると、どうやら下半身はスカートの様だ。泥だらけでよく判らんが。
 それにしても……。

「積もる話は出てからするとして、飛甲騎兵? それとも浮遊式輸送板? いやどっちでもいいけど、どうしてそれで来なかったんだ?」

「それで来ましたよ。一応は商国の最新版です。ただ、連れてくれば途中で戦闘になっていると思われます」

 あ―確かに。人間が入ってきて、そうそう素直に通すとは思えないな。

「というより、その様子だと連れて来たのは普通の人間か。めんどうくさそうだな」

「本当にめんどうくさいですし、時間もありません。さっさと要件を済ませましょう。では改めて、リッツェルネールは貴方との会見を望んでいます。目的はまあ、平和なのでしょうかね? 彼としてはその様です」

「当然、実際に会うまで詳細は秘密……なんてことは無いんだろう? 当然細かい点や出せる手札なんかも聞いてると思う。教えてくれ、彼は俺に何をさせたいんだ?」

 魔王と現在の人類軍を率いる者。事前協議なしで、いきなり会って話そうなどありえない。
 先ずはお互いに求めるもの、出せるものを事前に提示し、直接会うまでに出来る限り詰める。それが基本だ。
 もっとも、お互い特殊な立場である。大手を振って互いに外交官を送るようなことは出来はしない。
 となれば、こうした事前協議すら何度も出来るものではない。可能な限り、ここで決めないといけないな。

「先ずは、このままムーオス自由抵抗を滅ぼして欲しいそうです」

「……人類軍司令の言葉とは思えないな」

 頭を押さえそうになる。いきなり何てこと言い出したんだこいつは。

「正しくは、中央から派遣された主席幕僚ですよ。それに彼の所属は中央ではなく、あくまでコンセシール商国となります。現在の彼の立場は……」

「いや、政治とか軍組織の話は書面でもらえればいいよ。しかし予想外だったよ。てっきり、あそこからの撤退が担保になると思ったんだが……」

「担保ですか?」

「そう。そちらも魔王が約束を果たす保証が無ければ、どんな交渉も意味がない。だから俺に出来る何かをそちらが要求し、それを実行して見せる。当然の事だ」

「……」

「そこで俺が知りたいのは、そちらの実現性だ。仮にリッツェルネールと交渉したとして、そこに何処までの真実味がある? 何か決まったとして、それが実現すると何を担保にして言えるんだ?」




 なるほど――と、マリッカは思った。
 事と次第によっては、すぐさま魔王を始末する考えであたった。
 当然ながら後ろに控えるエヴィアともう一人、そしておそらく、服はテルティルトだろう。彼ら魔人が魔王を殺させるとは思わない。
 そして魔王の命と先代魔王の子供の命、秤にかけるまでもない。殺されるのは間違いなく自分だ。
 だが、それでも仕掛ける価値はある。もし魔王が、この時点で人類を滅ぼすつもりならば当然だろう。
 魔王を殺したら人は滅びるという話だが、どうせ魔王が滅ぼすのなら、殺しておいた方が脅威を一つ減らせるというものなのだから。

 しかし、どうやら彼にその気は無い様である。なぜなら、真剣に考えていることがマリッカには理解できたからだ。
 その気が無いならそもそも話は聞かなし、退屈しのぎ程度なら深くは考えないだろう。
 だがその一方で、少し気になる点もある。

 ――随分と雰囲気が変わりましたね……。

 以前に出会った時の魔王は、どう見ても幼い人間が精一杯に大人ぶっている感じだった。
 しかし今の魔王は全く逆だ。何千年も生きて来た人間が、無理して若くあろうとしている様に見える。

 ちらりと背後の魔人達を見る。当然ながら、これが魔王の策略の一端であれば彼らは何も言いはしない。或いは、嘘でも平気でつくだろう。
 だがそれでも聞かない選択肢はない。

「その前に一つ確認します。彼は私が以前出会った魔王に間違いないのですか?」

「その点に関してはエヴィアが保証するよ。魔王は魔王かな。他の何者でもないし、代わりもいないよ」

 飄々ひょうひょうとした風体の魔人。ハルタール帝国領でも同行していた魔王付きの魔人。
 確かに、それが魔王から離れることは考え難い。以前なら有り得たが、今の情勢でそれは無いだろう。
 だがそれも全て、針葉樹の森で魔王が死んだという情報が事実ならだ……いや――

「魔王のシステムは私には分かりかねますが、それなりに大変なものだとは理解しています。それが原因ですか?」

「ですかと言われても自分じゃわからないよ。だけど、俺が俺であることは間違いない。まだね……。それよりも、話を続けてくれ」


 魔王……父もそうだった。空に漂う魔王の本体。それは歴代魔王の意識の集合体だと言っていた。
 幾万の人間が歩んできた人生、そしてこの世界に召喚されてからの新しい人生と――死。そこに加わる自らの死……可能性という名の無数の終わり。
 それがどれほど重いのか、あくまで人間である自分には分からない。
 確かな事は、目の前の存在は間違いなく本来の“魔王”になったのだろう。


 果たして目の前の男との交渉は、人類に利をもたらすのか。マリッカは少しだけ考えたが、面倒なのでやめた。

人類側リッツェルネールは浮遊城ジャルプ・ケラッツァを差し出します。まあ、表向きは違いますけどね。ですが、陥落には全面的に協力します。これの落城をもって、今後は魔王と良い関係を作りたいと考えています」
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