この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 滅び 】

北へ

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 闇の空に輝く魔王の渦。そこから延びる魔力が、空中の一点へと消えていく。

「ルヴァン、上空! あれを!」
「あれは間違いない……魔王だ! あの下に魔王がいる!」

 これは間違いなく千載一遇のチャンス。
 おそらくだが、無事に辿り着く重飛甲母艦は無いだろう。
 地上部隊も、どれだけ生き残っているか分からない。全滅だってあり得る。
 しかし今、目の前に魔王がいる。奴さえ倒せば全てが終わるのだ!

「オベーナス、行くぞ!」
「ええ、仲間の遺志は我らが遂げる!」

 螺旋を描くように、二騎の飛甲騎兵が突撃する。
 二人は世界最強の飛甲騎兵。この世界に、空中で彼らに勝る人間など居ない。
 その魔力は凄まじく、普通に剣や鎧の白兵戦であったとしても、今まで魔王が出会ってきた勇士たちに劣りはしなかっただろう。そう、そうであったのなら――。

 二人の飛甲騎兵がグシャリと――まるで捻じったように潰れ、ただの金属塊となって落ちていく。
 鎧であれば、あるいは重甲鎧ギガントアーマーであれば防げただろう。
 しかし、飛甲騎兵はただの金属製品だ。テルティルトの魔法を防ぐ事は出来なかったのであった。
 そしてそんな脅威が迫っていたこと自体、魔王相和義輝あいわよしきは気が付いていなかった。




 天から降りた魔力が、俺を焼く。これは俺自身。俺の一部。
 しかし、まるでこの肉体を消し去ろうとするかのように、容赦なく肌を焼く。これでは、完全なる接続とやらには程遠い。

「あづづづづづづづづづ!」

 肉体が死んでいた時には気が付かなったが、やはり生身では相当にきつい。
 軽い接続程度ならここまでの苦労はないが、今はそんな甘い事は言っていられない。

「魔王、無理はしないで」

「ここでやらずしてどうするんだよ。とにかくエヴィアだ」

 魔人はその姿が文字で見える。エヴィアがまだエヴィアであるのなら、見えるはずだ。
 普段の時でも見える。実際に、テルティルトやアン・ラ・サムはこうして見つけたのだ。
 魔王の魔力を使って拡張すれば、必ずや見つかるはず――いた!

「ボンボイル!」

 いうより早く、魔人ボンボイルは動いていた。言われるまでもない。魔王がしたいことは聞かなくとも……いや、心を読まなくとも分かるのだから。

 まだ所々焼け、白や黒の煙が漂う中にそれはあった。
 半ば溶けた、丸い餅のような姿。

「エヴィア……」

 触るが、柔らかすぎて持ち上げられない。
 話しかけても返事は無く、また反応も無い。
 しかしエヴィアだ。この姿はエヴィアとしか読めない。

「修復中だ、魔王。元の姿になるには時間がかかる」
「他の生き方に切り替えるなら逆に早いのよ。でもエヴィアはエヴィアである事を選んだみたい」

「そうか……ボンボイル、運んでくれ」

 尾の先を器用に使い、俺の乗る尻尾に一緒に乗せる。
 後はヨーツケールMk-II8号改だが、こちらは思ったよりも大丈夫だった。
 その姿は上半身がほぼ吹き飛んだ蟹の像。真っ白で、骨のような質感だ。
 自重のせいだろうか、次第にそれも崩れ始めている。
 ではあるのだが、その下半身をもこもこと掘りながらヨーツケールMk-II8号改は現れた。
 大きさは4メートルほど。先ほどまで30メートルあったのだから、相当に縮まった事になる。


 元々、あの巨大な姿は人間の兵器に対抗する為である。
 浄化の光レイ、揺り籠に攻撃されたとしても、本体をどんどん小さくして生存する。
 死というものに興味を示す魔人としては珍し生存能力といえるだろうが、全ては魔王の為に選んだ生き方だ。
 そう、彼をもう一度悲しませることはしたくなかったのだ。


「二人とも何とか無事だな。じゃあ後は……」

 意識を北へ。壁を越え、魔族領へ。
 浮遊城はまだ北へと移動しており、その周辺には大量の魔人がいる。
 どれだけの数が戦闘に参加しているのかは不明だが、迂闊に声をかけて邪魔をするのも悪い。下手をすれば、俺の迂闊さが原因でが殺してしまう。こちらはまだそっとしておこう。

 その下へと目をやると……いた、人間の集団だ。人数は500人程度だろうか。世界全体からすれば、まるで砂粒だ。魔王の力が無ければ発見は不可能だっただろう。
 時速は40キロ程か。目的地まで真っ直ぐ進んだとして、まだ50時間はかかる。
 一方、こちらはボンボイルなら15時間あればいい。なんだ、結構余裕だったか。
 しかしそれは結果論だ。やらなければ分からなかったのだから仕方が無い。

「小さくなったとはいえ、さすがにヨーツケールMk-II8号改を運ぶのは無理だな。もうしばらくこの辺りを守って貰おう。とはいえ……」

 世界全体を見れば、残っている人間は結構いる。特にムーオスの南方は連絡を取りようもなかったのだろう。まだ数億人の生存者がいる。
 そして東から来たであろうティランド連合王国軍は、そこそこの数が残っている。奮闘している様だ。
 後は最果てにあった浮遊城。これは南下中だ。南方で生き残っている人間と合流した時、動くのか止まるのかは分からない。
 だけど、もうそれ以外に残っているムーオスの人間はいない。
 彼等は魔族の包囲を抜けることは出来なかった。案外、東に近い所にいた人間はティランドと合流できたかもしれないが、その程度は仕方が無いだろう。
 まあ、そちらは情報待ちだ。

「とにかく、俺達は揺り籠を満載しているとかいう船に行く。ただその前に休憩をいれないとダメだな」

「魔王よ、こちらはまだ問題は無いぞ。十分に飛べる」

「いや、エヴィアをユニカたちに預けたい。それに十分間に合う事は分かった。監視しながらにはなるが、特に動きが無ければ休もう」

 そう、焦ったところで仕方が無い。
 ただ一緒にいたというだけで、俺も相当に疲れている。まあほとんどは最後にやったこれ魔王の魔力のせいではあるが。
 とにかく合流して食事をして……うん、そうだな。少し寝るとしよう。

 魔王達一行を乗せた魔人ボンボイルは、北へ向けて飛び立ったのであった。




     ◇     ◇     ◇




 商業都市ブロトトンから更に西へ200キロメートル。
 既に辺りは暗くなる中、ティランド連合王国軍本隊は更に奥へと進行していた。
 既に多くのムーオス人部隊と合流し、後方へと逃がしている。
 戦線としては、カルタ―率いる本隊が異常に突出した形だ。最強の部隊とは言え、これ以上伸びては戦線維持は困難だろう。

「各地からの状況は?」

「最初はそれなりに戦えていましたが、各地で押されています。やはり民兵団で魔族の相手をするのは厳しいですね」

「だがやらせるしかないだろう。進むにしろ退くにしろ、数がいなけりゃどうにもならねぇ」

 とは言っても、カルタ―の戦略眼はそろそろ限界点を見据えていた。
 軍としては、これ以上進む理由も価値もない。パフォーマンスとしては十分であり、人員の削減も順調だ。後はどのくらい得るものがあったかだが、これは今後の解析待ちだろう。

 ――潮時だな……。

 ここらが退き時だと、カルタ―は考えた。参謀連中も同じだろう。
 戦闘は進むよりも下がる方が難い。引き返すのなら、余裕のある内にだ。
 そう考えていたカルタ―の周囲が、急にざわつき始める。
 敵襲とは違う、なにかもっと、浮ついたざわめきだ。

「何があった?」

 尋ねながら傍に控えていたミューゼ参謀長を見る。

「しょ、少々お待ちください」

 いつもは堂々とした男気溢れるミューゼにしては珍しい。
 まあ女性に対してその表現もどうかと思うが、実際に動揺が見られる。普段の様子からは考えられない事だった。
 彼女を囲むように、多数の参謀や情報員、通信士オペレーターが集まっている。
 ああだこうだと言い合っているが、その中に出てきた単語――魔王。
 カルタ―ははやる心を抑え、静かに待った。


「お待たせ致しました、陛下」

 ミューゼ参謀長が大量の書類をもってやってくる。

「それで――状況は?」

 意識して、出来る限り冷静に聞く。しかしその凶悪な風貌とドスの利いた冷静な声が相まって。部下達は気が気ではない。
 当の本人は決して脅しているつもりは無いが、こんな時のカルタ―とまともに会話できる人間はそうはいない。
 幸いにも、ミューゼがその一人であったことに皆感謝した。

「先行偵察隊からの報告です。ここからおよそ210キロほど先の地点の空に、魔王の印を発見致したとの事です」

 そう言って、ミューゼが提出した写真。それには闇夜の中、輝く渦から魔力が下へと折りている状況であった。
 間違いない。かつてカルタ―が一介の将軍だった頃、第一次炎と石獣の領域で見たものだ。

「210キロか……目のいい奴なら、ここからでも視認できるか?」

「さすがに厳しいかと。しかしもう100キロも進めば、我等も視認できるかと」

「その位の明るさか……」

 炎と石獣の戦いは何日にも及んだ。その時、昼も夜も上空に魔王の印があったのを覚えている。
 推定だが、それに比べても遜色は無いだろう。間違いは無い。
 かつての戦いを思い出す。何も知らずに戦った領域戦。
 そして王となって初めての戦いと敗北。
 奴の仮面を忘れない。奴の声を忘れない。奴から感じる魔力を忘れてなどいない。
 意識せず、書類を握りしめる。凶悪な笑みから、噛みしめた白い牙がのぞく。

「よし、決まりだな。これより――」

「なりません!」

 カルタ―の決断を、一人の女性の凛とした声が遮る。
 王の決定を――それも軍に関する事に異を唱えるなど、一体どこの命知らずか。一斉に、声の主へと視線が集中する。
 そこに立つのは、堂々とした一人の女性。
 背は170センチ。ガリガリと言って良いほどに痩せた体に麻色のローブ。
 薄茶色の髪に、低く丸い鼻に大きな瞳の狸顔。
 かつてのカルタ―付き魔術師にして、現お茶酌み係。エンバリ―・キャスタスマイゼンの姿だった。
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