又行旅(またいくたび)

覇道たすく

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小型通話機との又旅(ケイタイデンワとのまたたび)

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とても機械技術が発達している国がありました。
その技術は世界で10番には入るほどと言われています。

しかし、その国はもうありません。

つい先日、なくなってしまったのです。


















ボクは気持ちいいほどまっすぐな道の上を歩いていた。

ボクはボクの旅の方角をまっすぐに歩いていただけだ。道のほうからボクの旅の方角の道になってきたのだ。



こういう瞬間は、ちょっと面白い。


道の開拓者たちと、時を越えて打ち解けていったような気分だ。




こんな考えになるのも、周りの環境がそうさせるのだと思う。




まっすぐの道。


その両脇は広い草原。木はそよそよと歌い。蝶が舞い蜂が通る。



穏やかである。




手持ちの携帯食料をかじりながら水筒の水を飲み、穏やかな風をうけて歩いていた。



このところ厳しい環境の旅が続いていたせいで、たまの安定が心地よい。





厳しい環境は厳しい環境で楽しさはある。





まぁ、今はこの環境の楽しさを味わおう。





環境のその瞬間は、いつも一期一会(いちごいちえ)。一度目をもう一度・・・、などとはいかない。










生きものが必ず死ぬように。
環境も永遠には続かない。

穏やかな環境がある日突然に厳しい環境へと変わってしまうことだってある。







先日見た、国だったあの場所のように。




















ボクがちょうど携帯食料を食べ終えたところで、旅人らしからぬ旅人に会った。
遠くからこちらへ歩いて来る姿は、厳しい環境とは無縁な、なんというかパリッとした服を着て、ピッとしていた。



「やあ、こんにちは。」



その男は言った。



その男は、ここの環境と同じような穏やかな雰囲気の持ち主で、旅人というくくりの者ではないのだなとすぐにわかった。



この道は穏やかとはいえ人の住む場所からは遠く、旅人ぐらいしか歩いていないだろうと決めつけていた。



この男は、旅行者だ。

旅という文字がついているが、旅人ではない。


その男の髪は服と同じくパリッとしていて、首から下げているお洒落なガラの布もピッとしていた。
左手に黒いピカピカの鞄を持って、

右手には見たことがない小さな機械を大事そうに持っていた。




ボクは挨拶にこたえながら、男が右手に持つ小さな機械を見ていた。



「この携帯電話がどうかしたかい?」

男は言った。




「ケイタイデンワ?」




ボクは聞いたことがなく、口にしたことがない単語を発した。




「おや、君は携帯電話を知らないのかい?

私の国は機械技術が発達していてね。
これは、遠くの人と会話ができる機械をできるだけ小さくして、持ち運べるようにしたものなんだよ。

うーん、小型通話機・・・でつうじるかな。」












うれしいことだ。





どうやらこの世界には、まだまだボクが聞いたことがなく、口にしたことがない単語の世界が広がっているようだ。
当たり前かと思うところもあるが、もしかしたらもうそういった世界はない可能性だってあるのだ。

まぁ、魔法があったのだから、魔法のような機械装置もそれはそれはまだまだあるかと思うところもある。





男はなんでも、国から迎えに来るはずだっ
た乗り物が約束の日には来ず、勢いで自分の国へ向かって歩き出したのだとか。




「数日前から、携帯電話で家族と通信ができないんだ。
国の友人ともしばらく会話を交わしていないし・・・。」



そう言って男は小型通話機をいじると、小型通話機にあいているいくつかの小さな穴に耳をあてた。




同じ調子の音が小型通話機にあいているいくつかの小さな穴からもれてくる。

「その国は何という国ですか?
もしかしたらボクが寄ってきた国かもしれませんよ。
ご家族やご友人にも、もしかしたら会っているかも。」

そうボクが言うと男は小型通話機を少し耳から離して、


「ああ、◯◯◯◯という国さ。とてもいい国だよ。
憲法で戦争を放棄した、反独裁の立派な国さ。
この星で1番と言っていいほどのいい国だと思うよ。

なんと国から国民全員へこの携帯電話をくばっていてね。いつでもみんなと通信して、コミュニケーションをたくさん取ろうという国の決まりがあるんだ。


コミュニケーションは平和へとつながっている。

私はそう思っているよ。



だからこそ心配なんだ。どうしてみんな揃って通信できないのだろう・・・。」





また通信がつながらなかったらしく、男はため息をした。
ボクはすぐに言った。



「早く国へ帰ってあげて下さい。
みなさん揃って、待っていると思いますよ。」







男はまた小さな機械をいじっているようで、ボクの言葉は男につながらなかった。














男はボクに別れを言うと、ボクの来た道を歩いていった。














すでにない国を目指して。
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