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07-002 御蔵島
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相模洋佑たちの船には定員がない。同級の船の場合だと20人程度。その程度の船に32人が乗っている。
明らかに定員オーバーだ。
洋佑たちのメンバーは、18歳以上の成人は11人、13歳から17歳が10人、6歳から12歳までが11人もいる。
6歳から17歳のうち、父母のどちらかが存命なのは最年少の風間幹夫の娘だけ。
ゾンビ事変発生時、彼らは2歳前から13歳ほどの年齢だった。旅客機の乗降客か仕事や用事で空港を訪れていた。
そして、両親は若かった。
航空会社の執行役員だった植松久司は、ゾンビ事変の発生時に空に逃れることを提案、行き場を失っていた空港にいたヒトたちの一部をエアバスA320に乗せて、強行離陸する。
ゾンビから逃れる目的で、航空機を使った例は希だろうが、このグループの特異な点はここではなかった。
150人ものグループは、ごく短期間に分裂してしまう。短期的な目的の違い、状況判断の違い、各個人・家族の事情も違う。
だから、大きなグループは維持できない。
しかし、飛行機という乗り物の影響か、意見の対立が顕在化しながらもグループとしては分裂しなかった。
グループの分裂は、細胞分裂に似ている。1が2、2が4、4が8、8が16、16が32、32が64、64が128、128が256とごく短期間に分裂する。
家族単位での維持も難しい。極限の状況では、意見が対立すれば家族であってもまとまってはいられなくなる。生死に関わるからだ。
規模の大小、構成メンバーの特徴に関わらず、最大の問題は食糧の確保になる。
人数が多いと一度に大量の食糧が必要で、結果として大型の商業施設を狙わなくてはならなくなる。
死人の特性を見極めていない事変後初期にこれを実施すると、多くの生命を失うことになる。
植松をリーダーとする旅客機グループは、この罠にはまった。
静岡空港に降りた際、植松の指揮下でモールに侵入し、一気に50人を失い。その直後、さらに20人を失った。
それでも、エアバスA320があるうちは分裂せず、八丈島空港の滑走路上で擱座し、飛行困難となって初めて分裂している。
結果として、旅客機という圧倒的有利な避難機材があるうちは、分裂しなかった。
洋佑は、食糧を除いて、個人の荷物は1人で運べるだけに限定している。
理由は船を軽くするため。漁具など不要な機材はすべて捨てたし、備え付けの什器なども取り外している。
船体への負担は、可能な限り減らした。
洋上で夜明かしする。八丈島の海岸から5キロほど離れている。波は穏やかで、船はゆっくりと揺れている。
船首の亀裂は拡大していない。
「柿木さん、行きましょう」
LCCの貨物機パイロットだった柿木忠志が頷く。
「予定通り、航海速力25ノット、御蔵島まで2時間で?」
「そうですね。
お願いします」
船首の左右に2人の男の子。亀裂の拡大があれば、すぐに報告する係だ。
最初の1時間は順調な航海だった。
誰も言葉を発しない。全員が前方を見ている。キャビンに入っている年少者たちも、交代で甲板に上がってくる。
年少者の誰かが叫ぶ。
「御蔵島?」
御蔵島が見えてきた。だが、距離がある。 船首右側の男の子が立ち上がる。
目にはこぼれ落ちそうな涙。
「亀裂が5センチ!」
左側の男の子も叫ぶ。
「こっちもだよ!」
洋佑がキャビンの子たちを甲板に上げる。
全員が救命胴衣を着けている。
御蔵島は見えているが、泳いでいける距離ではない。
亀裂が拡大した。しかも、前触れなく一気に5センチも。
取り得る行動は3つ。
船を止める。
このまま航海を続ける。
御蔵島に短時間で近付くために増速する。
柿木はどの判断もしなかった。
「航海速度を5ノットに下げる!」
全員にそう叫ぶ。時速で10キロ程度だが、船首にあたる波の衝撃はかなり和らぐはず。そう期待したい。
眼前の島がどんどん大きくなる。
「3センチ拡大!」
「こっちもだよ!」
忠志はスロットルを開いた。彼らの船が増速する。
「島の北側には回れない!
船を座礁させられる場所を探してくれ!」
御蔵島の港は島の北側にある。計画では、できるだけ港に近い場所に上陸するつもりだった。
だが、船首が切断・脱落する前に、どこでもいいから上陸しなければならなくなった。島の南側か、南西岸のどこか。
「あそこは!」
洋佑が指差す方向を見て、忠志が頷く。
川が海に注ぐ場所。河口だが、河口のイメージとはかけ離れている。水量が多ければ、滝に近い。
その近くの崖が崩れたような場所。海岸にはヒトの頭大の石が多いが、そこは砂が狭い浜を作っていた。
「また3センチ伸びた!」
「こっちもだよ!」
最も幼い幹夫の子が父親にしがみつく。
「大丈夫。
もうすぐ岸だ」
忠志がスロットルを絞り、船速を緩め、惰性で岸に近付ける。
エンジンと風を切る音が消える。
「何かにつかまるか、身体を伏せろ!
海に落ちるな!」
忠志がそう叫んでから、しばらくしてゴリゴリと船底に何かがあたる音がする。
「衝撃に備えるんだ!」
だが、期待したほどの衝撃はなく、すんなりと浜に乗り上げる。船の傾きもひどくはない。
誰も海に落ちなかった。年少者何人かが恐怖から泣いていたが、誰も怪我をしなかった。
アルミのラダーを使って、最初に下船したのは元気のいい男の子2人。次は女性で最年長の大仏早苗。
若年者が次々と陸に上がり、洋佑たちが荷物を船外に出していく。
ここで、船を捨てなければならない。
曳航していた20フィート級の小型漁船を、海人が陸に近付ける。
洋佑、アシュリー、陽鞠、海人の4人で、島の北部にある御蔵島村中心部と漁港の偵察を行う。
長谷博史が「無理はするな」と洋佑に伝え、大仏洋二が「きみたちを全員が頼りにしていることを忘れないでくれ」と。
4人は御蔵島に来たことはない。土地勘はまったくない。島の様子は、八丈島にあった観光地図で知ったのみ。
埠頭の岩壁が見える位置まで近付き、船を岸に上げる。岸は石が多く、船底が傷付くことを海人が気にする。
しかし、埠頭や漁港に泊めることは、危険が多すぎる。エンジン音で、死人を呼ぶ可能性もある。
死人が音に反応することは知っていた。ただ、どれほど敏感なのか、どの程度の音ならば反応しないのかなど、詳しいことはわかっていなかった。
4人は埠頭の陸側に身を隠す。村の中心に向かう道路を見る。
この時点で、4人は驚きを隠せなかった。
道路を塞ぐように飛行機が横たわっている。 海人が「飛行機があるよ。不時着したのかな」と言ったが、洋佑には飛行機が壊れているようには見えなかった。
アシュリーが「飛行艇よ」と説明し、陽鞠が「だけど自衛隊の飛行艇じゃないね。自衛隊の飛行艇は4発だけど、あれは双発」と。
洋佑が「行ってみよう。飛行機があるんだから、船だってあるさ」と根拠のない希望的観測を口にする。
飛行艇は胴体で道を塞いでいたが、尾翼の下を潜れば通過できた。
飛行艇がいつからここにあるのかわからないが、洋佑にはきれいに見えた。廃棄された飛行機ではないように感じる。
飛行機に詳しいはずのアシュリーと陽鞠は、飛行艇にはほとんど興味を示さない。
洋佑には、その理由がわからない。
ここでの議論は無意味だし、声を発すれば死人を呼ぶ可能性が上がるので、慎んだ。
西側の漁港には船がない。
埠頭には70メートル近い全長の貨物船が停泊している。接舷してはおらず。港内で浮遊している。埠頭や護岸に何度も衝突したようで、船体は傷だらけだ。
東側の漁港には、20隻近い20フィート(約6メートル)以下の漁船があった。すべてが、座礁半沈か全没状態。
洋佑は言葉が出ない。
海人、アシュリー、陽鞠も同じ。
「もっと、東に向かおう」
海岸に沿って東に進むが、船が接舷できる施設はなかった。
つまり、4人が見たものがすべてだ。
陽鞠が「ヘリポートに行ってみよう」と提案。
死人を避けるために、村の東辺に沿って、陸側に進む。陽鞠は御蔵島に東邦航空のヘリポートがあることを知っていた。
何か移動に使えそうなものがあるかもしれない。
ヘリポートの真向かいに学校があった。小学校と中学校の合同校舎のようだが、4人は校庭を見てギョッとする。
校庭に数百体の死人がいたからだ。
海人が「島のヒト?」と呟き、陽鞠が頷く。
たぶん、島民は避難か会合か理由はわからないが学校に集まり、そこで死人になった。
校門が閉じていて、学校に死人が閉じ込められた。
島民のすべてではないだろうが、これは洋佑たちには歓喜すべきことだった。死人が一カ所に集まっていて、その場所が閉鎖されているのだから、校外は一定の安全を期待できる。
そして、島という閉鎖空間なので、外部から死人が入り込む恐れが少ない。
食糧確保・生産の問題がなければ、小さな島は死人が彷徨う世界においては、最良の生存圏だ。
ヘリポートには、かなり離れた位置に4つの死体があった。死人ではなく、死体だ。
洋佑が「誰かがゾンビを殺したんだ」と呟く。
陽鞠が「ひどいことをどうしてできるんだろう?」と涙ぐむ。
だが、海人は少し違った。彼は、死人に噛まれなくても、誰でも死んだら死人になるのだとすれば、死人はすでに死んでいるのではないかと考えていた。確信ではなく、迷いだ。
善人である彼は、死んでいるかもしれないというだけで、死人を無力化しようとは考えない。また、その方法も知らないし、知ろうとも思わなかった。
洋佑たちは、死人は病気であり、生きていると信じている。この考えに固執しているわけではなく、歩くのだから生きているはず、というある種の常識に基づくとらわれだった。
ヘリポートには、死体以外何もなかった。ヘリポートを過ぎ、坂を上っていくと自動車整備工場があり、さらに進むとダンプカーや建設機械が止められているスペースがある。
その先にも自動車整備工場がある。こちらの方が規模が大きい。
ヒトの気配がない。まったくない。しかし、油断はできない。死人はヒトの気配を出さないからだ。
工場の内部は暗く、4人は外から眺めるだけだった。先の工場は2棟あり、1棟は観音扉が開いていたが、もう1棟は閉じていた。
洋佑が片方の扉に手をかけたが、開くことを躊躇う。他の3人も怯える。扉を動かせば音が出る。内部に死人がいれば、扉に向かってくる。
洋佑が扉から手を放す。
他の3人が同時に息を吐く。
死人に出会ったら、逃げる以外の選択肢しかないグループだから、死人と出会うことを極端に恐れていた。
洋佑が「戻ろう」と提案。
4人が頷く。
次は32人が雨露をしのげる場所を探すこと。
学校は村の中心から外れた北東側にある。ならば、しばらくの隠れ家は、村の中心から外れた南西側がいい。
南西側には、数棟の集合住宅がある。集合住宅は、室内に死人がいても出てくることがない。理由がない限り、ドアは開けないほうがいい。
それと、裏口がないので、危機になっても逃げ場に困る。
船を心配している海人と、隠れ家を探す3人が行動を別にする。
集結場所として、御蔵島港船客待合所を使うことにする。内部は無人で、32人には十分な広さがある。多すぎず、少なすぎずの出入口は2カ所。
この施設は、飛行艇の近くにある。
トイレの水は出るが、飲料水の入手には困る。
そこで、短期間生活できる家屋を探し、500メートルほど離れた駐在所を利用することにした。
海人が5人ずつ、船で6回往復して、全員を待合所に移動させる。
船外機用のガソリンは、ほぼ使い果たしてしまった。
この作業だけで、14時までかかった。
朝食と昼食を食べていなかった。大人は我慢できるし、緊張しているので食欲がなかった。
だが、年少者は待合所に入ると、安心したのか「お腹すいたね」と言い始める。
アシュリーと陽鞠は、駐在所にいた。防弾チョッキや盾、警丈はあるが、拳銃はない。
2人は、拳銃を求めていたのではない。もし、年少者が見つけて、触ることがあれば危険だと考え探しただけだ。
居住部には、10キロの未開封コメ袋が2つあった。コメびつにも残っている。
電気炊飯器とガス炊飯器があり、もちろん電気はないが、プロパンガスが使えるので、ご飯を炊ける。
キッチンの水も出た。最初は茶色く濁っていたが、すぐに透明になる。水の出が悪いのは、水圧が低いからだ。
2人はご飯を炊きながら、掃除を始めた。キッチンではカレールーを1箱見つけた。それと、うずらの卵とヤングコーンの缶詰。
ジャガイモを加えて、オリジナルカレーを作る。
洋佑は待合所を出て、アシュリーと陽鞠の手伝いに向かったが、2人から「邪魔!」と言われてしまった。
カレールー1箱で11皿分のカレーライスをどうやって作るか、頭を悩ませている。
年上のお姉さんの逆鱗に触れてはたまらないと思い、彼は別のことをすることにした。
それが、駐在所周辺の安全確認だ。
御蔵島の家は、なぜか施錠されていない。八丈島は違った。施錠されている民家は多かった。
避難するにあたって、当然のこととして施錠していったのだろう。
しかし、御蔵島は違った。
島民はゾンビ事変の発生後しばらくして、今後の行動を話し合うために学校に集まった。誰かが発症し、あるいは何か他の原因で複数人が死に至り、次々と死人に転化した。
推測はいろいろできるが、学校の校庭で立ち尽くす死人の数からして、島民のほとんどがそこにいる。
だが、島民すべてではないはず。
ならば、周辺の偵察は必要だった。
坂を上っていくと、いくつかの戸建てがある。1軒の掃き出し窓が開いていたので、洋佑は敷地内に立ち入って、室内をうかがう。
ヒトがいる様子はない。だが、死人はヒトの気配を発しない。
靴を履いたまま、室内に入る。善良な若者である洋佑は、この行動にも罪悪感を感じる。他人の家に土足で入るなど、彼本来の行動ではない。
2階は調べないが、1階には誰もいない。キッチンを調べると、カセットガスコンロとカセットガス4本を見つける。3本パック+使用途中1本。
それと、缶詰が11缶。白桃、黄桃、ミカン、サバ缶×2、ツナ缶×3、コンビーフ、ポークランチョンミート×2。
缶詰を入れる袋か容器を探すが見つからず、庭にあったきれいではないポリバケツに入れて運ぶことにする。
洋佑が駐在所のキッチンに顔を出すと、アシュリーがジロリとにらむ。
洋佑がポリバケツを見せる。
アシュリーの顔がほころぶ。
「ランチョンミートがあるよ。
肉抜きカレーよりいいでしょ」
缶詰をダイニングテーブルに並べ終わると、アシュリーは洋佑に「その汚いバケツ、外に出して!」と告げる。
女性慣れしない洋佑は、万人向け美形のアシュリーとアニメ的かわいい系の陽鞠がとにかく苦手だった。会話するだけで、緊張してしまう。
口が裂けても言えないが普通にかわいい真緒が、洋佑がどうこうできる上限だった。
リビングとダイニングは、12歳以下の年少者の微笑みで満ちている。大声は発しないが、それでもおしゃべりが止まらない。
カレーライスが食べられるとは、誰も考えていなかったのだから当然だ。単調な食事が何カ月も続いていたので、喜びも大きい。
洋佑は、この様子だけで御蔵島に来てよかったと感じている。
風間幹夫が1時間もかからずに、軽トラックと軽バンを修理して使えるようにする。
軽トラに乗って、大仏早苗と入瀬真緒が駐在所にやって来て、その軽トラに乗って因幡アシュリー、岩代陽鞠、相模洋佑が待合所に戻る。
待合所で、深刻な打ち合わせが待っている。それは明確。何しろ、この小さな島に閉じ込められたからだ。
移動手段は全長6メートル弱のキャビンがない漁船しかない。
だが、三宅島まで10キロしかない。三宅島なら、船がある可能性が高い。身動きできなくなったわけじゃない。
洋佑はそう考えていた。楽観的にならなければ、狂いそうなほど不安だったからだ。
最年長の大仏洋二が打ち合わせの口火を切る。場所は待合所の2階。
「残念だが、船はなかった。
だが、飛行機があった」
柿木忠志が「外見上、壊れてはいない。だけど、私では飛ばせない」と否定的。
この時点で、洋佑は意見の対立を感じる。
風間幹夫が「素人が言うべきではないとは思うけど、あの飛行機きれいだよ」と。
岩代陽鞠が「グラマン・アルバトロスなんて、骨董機でしょ。博物館に飾ってあるような代物よ」と否定的。
因幡アシュリーは肯定的。
「機齢60年以上だろうけど、そんな機がそのまま飛んでるはずはないから、完全にレストアされているはず。
整備すれば飛べるんじゃないかな」
大仏洋二も修理を否定しない。
「飛行機のエンジンは触ったことはないが、基本は発電用ガスタービンと一緒だ。
少なくとも、修理できるか調査はしようよ」
アシュリーが洋二の意見に呼応。
「外見からだけど、エンジンがPT6に換装されている。
私の一番の整備経験がこのPT6。よく知っているエンジン。調べれば、動くか動かないか判断できる……」
最上篤志が核心に触れる。
「ヘリポートがあるんだろ。でも空港はない。滑走路がないのに、どうやって離陸するの。
平地のないこの島に滑走路は造れないよ。俺たちだけでなく、誰でもね」
陽鞠が篤志を見る。
「あの飛行機だけど、飛行艇なの。水上を滑走して、飛び立てる……」
篤志が「マジかよ」と普段は使わない言葉を発する。
肥後海人には疑問がある。
「海から飛び立つ飛行機だけど、胴体の下に細長いタンクみたいな浮きを2本取り付けているよね。
だけど、あの飛行機にはないよ」
陽鞠が「それは、水上機。あの飛行機は飛行艇。胴体が船になっているの。胴体が船体なわけ。翼端の小さなフロートは、翼が水面に接しないようにするもの。
フライングボート。空飛ぶ船」
篤志が驚く。
「マジで、ヤバいぞ」
柿木忠志が当惑する。
「いや、ダメだ。
ただの一度も水面から飛び立ったことがない。絶対に無理だ。
よくわからない飛行機を整備された滑走路から飛ぶんだって生命がけなのに、水の上を滑走するなんて無茶だ」
篤志は動じない。
「誰だって、何だって、最初はあるさ。
機長ならできるって。
自信を持てよ」
忠志はその意見を否定。
「32人の生命だぞ。
もし失敗したら、みんな死ぬんだぞ。悲惨な事故になる。
救助はないんだ。
助かる可能性はほぼない!」
篤志は平然としている。
「このままでも、いつかは死ぬ。
1人、2人、3人と減っていくか、一気に減るか、その違いだけだよ。
だけど、飛ぶ前に行き先を決めないと」
篤志の意見に洋佑が同意。
「篤志の言う通りだ。
飛ぶ前に行き先を決めないと」
陽鞠が「茨城空港は?」と提案する。離発着が少ないので、死人の数が少ない可能性があった。
アシュリーは否定的。
「どうかな、茨城空港は百里基地でしょ。航空自衛隊の。保護を求めて周辺の住民が集まったんじゃないかな。
最初の数日間、生き残ったヒトたちは安全な場所を探して動いたから……。
もう少し、ヒトがいないほうがいいと思う」
海人が「水に降りたら」との意見に、忠志が全否定。
「海になんて、降りられるわけないだろ」
海人は「じゃぁ、湖とか川は?」と尋ねると、忠志が「最低でも3キロの直線が必要なんだぞ。湖なら霞ヶ浦か猪苗代湖、川なら利根川の河口くらいだ。橋が架かっていたらアウトだぞ」と完全否定。
海人は腹が立ってきた。
「それなら、猪苗代湖に行こうぜ。
で、猪苗代湖ってどこなんだ?」
篤志が呆れる。
「福島県だよ。
そこまで飛べる?
燃料足りる?」
アシュリーが説明する。
「ギリギリだね。
無理だと考えたほうがいいよ。
入手できている燃料は300リットルくらいだから。
この燃料で飛べる正確な距離はわからないけど、300キロから400キロくらいじゃないかな。甘く見積もっても450キロ。
猪苗代湖までは直線で400キロはあるから……。まったく、余裕がないよ。
霞ヶ浦までなら、飛べるかも」
海人が口を尖らせる。
「じゃぁ、霞ヶ浦まで行こうぜ!
そこで燃料見つけりゃいいじゃん」
忠志は、絶対に水上には降りたくなかった。自信の有無ではなく、滑走路への着陸に比べたらはるかに危険だからだ。彼を含む32人の生命を預かるのだから当然だ。
「利根川の河川敷には、いくつかの飛行場がある。
降りられる場所がどこかにあるさ。
着水は最後の選択でどう?」
洋二が「それでいいよ」と賛意を示し、反対はなかった。
18歳以上の総意として、12歳以下は駐在所で過ごしてもらうつもりだったが、それは納得してもらえなかった。
年少者たちは、年長者と離れることを異常なほど嫌った。
アルバトロスの機内はとても豪華で、バーカウンターまである。シートも豪華だ。
これら無駄な装備をすべて取り外す。そうしないと、全員が乗れない。乗員用のジャンプシートを除いて、すべて撤去する。
乗客は床に直に座る。
こんな状態なのだから、パイロットである柿木忠志が水上への降着を嫌うことは当たり前だった。
この機内改造作業に年少者たちも加わりたいと希望している。
年少者でも、できることは多い。
年少者も待合所に移動し、メンバー全員が作業に参加することになった。
作業はアルバトロスの180度回頭から始まる。アルバトロスの機首は陸側、つまり海岸の崖側に向いており、いったん海側に押し出してから、少しずつ機首を海に向けなければならない。
微妙な移動なので、すべてが人力。一番幼い風間幹夫の娘と、足に障害がある長谷博史以外の全員が、この作業に加わる。
可能な限り後方に押し出し、何度も切り返しをしながら、機首を海に向ける。
この作業だけで、丸1日を要した。
翌日は、豪華な座席の取り外し。6人分の座席を撤去すれば、全員がどうにか乗り込める。
この座席が大きく厚く、かつ異常なほど重い。組み立てた状態では乗降ドアから機外に出せず、背もたれ、座面、肘置きに分解しなければならない。
その手順がわからず、無為に時間を要した。それでも、日没までにどうにか6脚すべての撤去を終えた。胴体に沿って設置されていたロングソファーも撤去。
外し方がわからないバーカウンターは残したが、グラスはすべて撤去した。トイレは残された。
全員が乗り込んでみると、かなり無理があるが、体育座りでどうにかなる。
3日目。
エンジンと機体の点検・整備が始まる。
幹夫や洋佑たちが、外部電源とするための工事現場用ディーゼル発電機をクレーン付き4トントラックで運ぶ。
ディーゼル発電機の作動音は大きく、学校に閉じ込められている死人を刺激しかねない。
しかし、長期間放置されていたアルバトロスは、外部電源がなければ何もできない。エンジンの始動どころか、燃料計さえ動かせない。
計器は古風なアナログだが、これは見かけだけ。実際はデジタル化されている。10インチほどの液晶モニターが2カ所ある。
通電させないと、液晶モニターが何なのか皆目わからない。
この機に関するマニュアルは、コックピット内にあった。
これを機長の柿木忠志と副操縦士を務める岩代陽鞠が読み込む。
陽鞠は航空会社のグランドスタッフだったが、軽飛行機の操縦訓練を受けていた。教官を乗せての飛行経験がある。
整備マニュアルもあった。これは、因幡アシュリー、大仏洋二、風間幹夫が読み込む。
機内の設備撤去の目的には、機体の軽量化もあった。
アルバトロスは、全長19メートル、全幅29メートルを超える。全幅で比較すると、国産旅客機のYS-11よりも3メートル短いだけ。全長だと7メートル短い。
かなり大きな双発機だ。
駐在所の近くにあるガソリンスタンドで確保してきたエアコンプレッサーを使って、タイヤに空気を補充する。
単気筒の6馬力空冷エンジン付きなので、強力なのだが、エンジン音が大きい。
死人を刺激する。
3日目夕方、洋佑は忠志に声をかけた。
「機長、こんなに音を出したらヤバイよ」
「わかっている。
200か、300か、わからないが、学校のゾンビが押し寄せてきたら、どうにもならない。
小さな島だ。逃げ場がない」
「機長、わかったことがある。
想像なんだけど……」
忠志が洋佑を見詰める。洋佑が続ける。
「カウンターバーにはグラスが残っていた。
アイスペールとかも。
だけど、酒はまったくなかった。持っていったんだ。
つまり、この飛行機の元の持ち主は酒を持ち出す余裕があった。衣類や寝具も持ち出しているし、本も持ち出している」
「本?」
「バーカウンターの最下段には、本が置かれていた。本を置いてあった跡がある。
雑誌じゃなくて、たぶん書籍。かなり厚い本」
「重い本を持っていった?」
「あぁ。
だから、クルマじゃない。
最初からクルマという選択はないけどね」
「船か?」
「この島にあったんだ。
メガヨットとか……」
「それで、ここに降りたのか」
「だと思う。
乗り換えたんだ」
「俺でも、メガヨットと飛行艇なら、迷わずメガヨットを選ぶね」
「当然だよ。
飛行機は降りる場所が限定されるから……」
「エンジンが止まれば飛行機は墜落だけど、船は浮いているからね」
「出発は早いほうが……」
「同感だ。
天候次第だけどね」
4日目、風は強くないが雨が降る。雨脚が強く、全島が音に満ちる。
これは幸運だった。
一部の作業はできないが、ディーゼル発電機が発する騒音をかき消してくれる。
5日目、雨がやむ。しかし、風がやや強い。
忠志が代表して、全員に告げる。場所は、待合所の2階待合室。
「準備万端じゃないけど、できることはすべてやった。
島にはジェット燃料がない。
燃料は、灯油とガソリン1対1で混合したものを使う。灯油はガソリンスタンドの地下タンクから汲み上げた。
ガソリンも。
だけど、ゾンビが現れた時期が、暖房の季節が終わっていたので、灯油の量が多くない。
400リットルだけ。
ガソリン400リットルと混合して、800リットル。
燃料タンクの容量は1500リットル。だから、燃料半載の状態で飛ぶことになる」
忠志は全員が理解しやすいように、メートル法で説明を続ける。
「この燃料は、現在では使われていないけど、数十年前は標準的なジェット燃料だったんだ。だから、滅茶苦茶危険なわけではない。
ジェットエンジンは、燃料の幅が広い。軽油でも動く。
燃料は大丈夫だ」
実際のところ、忠志たちは燃料の質についてかなり心配していた。
入瀬真緒が質問する。
「どれくらい飛べるの?」
忠志が少し考える。
「はっきりとはわからない。
だけど、800キロから1000キロは飛べる。
青森までなら飛べる」
場が少しざわつく。当初の予測の倍以上飛べるとわかったからだ。
最年少の幹夫の娘が問う。
「どこに行くのぉ?」
これは、重要な問いだ。
「東日本には、降りられる空港はない。
いままでの経験から、ほぼ間違いない。
西日本はどうか?
わからない。まったく情報がない。
いろいろと考えたんだ。
海上にある長崎空港なら降りられるかもしれない。だけど、燃料が足りるかどうか不安だ。関空や伊丹は絶対に無理だろうね。
だから、最悪は水上に降りることも考慮することにした。
海ではなく、湖。
西日本には湖が少ないから、東日本に向かうことになる。
とりあえずは、大利根飛行場に向かう。
小さな飛行場で1000メートルの滑走路があるんだ。利根川の河川敷にあるし、周囲は田んぼだから降りられる可能性が高い」
真緒が「ゾンビがいたら?」と、根源的な不安を伝える。
陽鞠が即答。
「そのときは、霞ヶ浦に降りる。
機長がイヤがっても、私が説得する」
忠志は陽鞠の言に答えなかった。
「天候が回復したら、出発だ。
エンジンを始動したら、ゾンビは押さえられない。
もう、飛ぶしかない」
明らかに定員オーバーだ。
洋佑たちのメンバーは、18歳以上の成人は11人、13歳から17歳が10人、6歳から12歳までが11人もいる。
6歳から17歳のうち、父母のどちらかが存命なのは最年少の風間幹夫の娘だけ。
ゾンビ事変発生時、彼らは2歳前から13歳ほどの年齢だった。旅客機の乗降客か仕事や用事で空港を訪れていた。
そして、両親は若かった。
航空会社の執行役員だった植松久司は、ゾンビ事変の発生時に空に逃れることを提案、行き場を失っていた空港にいたヒトたちの一部をエアバスA320に乗せて、強行離陸する。
ゾンビから逃れる目的で、航空機を使った例は希だろうが、このグループの特異な点はここではなかった。
150人ものグループは、ごく短期間に分裂してしまう。短期的な目的の違い、状況判断の違い、各個人・家族の事情も違う。
だから、大きなグループは維持できない。
しかし、飛行機という乗り物の影響か、意見の対立が顕在化しながらもグループとしては分裂しなかった。
グループの分裂は、細胞分裂に似ている。1が2、2が4、4が8、8が16、16が32、32が64、64が128、128が256とごく短期間に分裂する。
家族単位での維持も難しい。極限の状況では、意見が対立すれば家族であってもまとまってはいられなくなる。生死に関わるからだ。
規模の大小、構成メンバーの特徴に関わらず、最大の問題は食糧の確保になる。
人数が多いと一度に大量の食糧が必要で、結果として大型の商業施設を狙わなくてはならなくなる。
死人の特性を見極めていない事変後初期にこれを実施すると、多くの生命を失うことになる。
植松をリーダーとする旅客機グループは、この罠にはまった。
静岡空港に降りた際、植松の指揮下でモールに侵入し、一気に50人を失い。その直後、さらに20人を失った。
それでも、エアバスA320があるうちは分裂せず、八丈島空港の滑走路上で擱座し、飛行困難となって初めて分裂している。
結果として、旅客機という圧倒的有利な避難機材があるうちは、分裂しなかった。
洋佑は、食糧を除いて、個人の荷物は1人で運べるだけに限定している。
理由は船を軽くするため。漁具など不要な機材はすべて捨てたし、備え付けの什器なども取り外している。
船体への負担は、可能な限り減らした。
洋上で夜明かしする。八丈島の海岸から5キロほど離れている。波は穏やかで、船はゆっくりと揺れている。
船首の亀裂は拡大していない。
「柿木さん、行きましょう」
LCCの貨物機パイロットだった柿木忠志が頷く。
「予定通り、航海速力25ノット、御蔵島まで2時間で?」
「そうですね。
お願いします」
船首の左右に2人の男の子。亀裂の拡大があれば、すぐに報告する係だ。
最初の1時間は順調な航海だった。
誰も言葉を発しない。全員が前方を見ている。キャビンに入っている年少者たちも、交代で甲板に上がってくる。
年少者の誰かが叫ぶ。
「御蔵島?」
御蔵島が見えてきた。だが、距離がある。 船首右側の男の子が立ち上がる。
目にはこぼれ落ちそうな涙。
「亀裂が5センチ!」
左側の男の子も叫ぶ。
「こっちもだよ!」
洋佑がキャビンの子たちを甲板に上げる。
全員が救命胴衣を着けている。
御蔵島は見えているが、泳いでいける距離ではない。
亀裂が拡大した。しかも、前触れなく一気に5センチも。
取り得る行動は3つ。
船を止める。
このまま航海を続ける。
御蔵島に短時間で近付くために増速する。
柿木はどの判断もしなかった。
「航海速度を5ノットに下げる!」
全員にそう叫ぶ。時速で10キロ程度だが、船首にあたる波の衝撃はかなり和らぐはず。そう期待したい。
眼前の島がどんどん大きくなる。
「3センチ拡大!」
「こっちもだよ!」
忠志はスロットルを開いた。彼らの船が増速する。
「島の北側には回れない!
船を座礁させられる場所を探してくれ!」
御蔵島の港は島の北側にある。計画では、できるだけ港に近い場所に上陸するつもりだった。
だが、船首が切断・脱落する前に、どこでもいいから上陸しなければならなくなった。島の南側か、南西岸のどこか。
「あそこは!」
洋佑が指差す方向を見て、忠志が頷く。
川が海に注ぐ場所。河口だが、河口のイメージとはかけ離れている。水量が多ければ、滝に近い。
その近くの崖が崩れたような場所。海岸にはヒトの頭大の石が多いが、そこは砂が狭い浜を作っていた。
「また3センチ伸びた!」
「こっちもだよ!」
最も幼い幹夫の子が父親にしがみつく。
「大丈夫。
もうすぐ岸だ」
忠志がスロットルを絞り、船速を緩め、惰性で岸に近付ける。
エンジンと風を切る音が消える。
「何かにつかまるか、身体を伏せろ!
海に落ちるな!」
忠志がそう叫んでから、しばらくしてゴリゴリと船底に何かがあたる音がする。
「衝撃に備えるんだ!」
だが、期待したほどの衝撃はなく、すんなりと浜に乗り上げる。船の傾きもひどくはない。
誰も海に落ちなかった。年少者何人かが恐怖から泣いていたが、誰も怪我をしなかった。
アルミのラダーを使って、最初に下船したのは元気のいい男の子2人。次は女性で最年長の大仏早苗。
若年者が次々と陸に上がり、洋佑たちが荷物を船外に出していく。
ここで、船を捨てなければならない。
曳航していた20フィート級の小型漁船を、海人が陸に近付ける。
洋佑、アシュリー、陽鞠、海人の4人で、島の北部にある御蔵島村中心部と漁港の偵察を行う。
長谷博史が「無理はするな」と洋佑に伝え、大仏洋二が「きみたちを全員が頼りにしていることを忘れないでくれ」と。
4人は御蔵島に来たことはない。土地勘はまったくない。島の様子は、八丈島にあった観光地図で知ったのみ。
埠頭の岩壁が見える位置まで近付き、船を岸に上げる。岸は石が多く、船底が傷付くことを海人が気にする。
しかし、埠頭や漁港に泊めることは、危険が多すぎる。エンジン音で、死人を呼ぶ可能性もある。
死人が音に反応することは知っていた。ただ、どれほど敏感なのか、どの程度の音ならば反応しないのかなど、詳しいことはわかっていなかった。
4人は埠頭の陸側に身を隠す。村の中心に向かう道路を見る。
この時点で、4人は驚きを隠せなかった。
道路を塞ぐように飛行機が横たわっている。 海人が「飛行機があるよ。不時着したのかな」と言ったが、洋佑には飛行機が壊れているようには見えなかった。
アシュリーが「飛行艇よ」と説明し、陽鞠が「だけど自衛隊の飛行艇じゃないね。自衛隊の飛行艇は4発だけど、あれは双発」と。
洋佑が「行ってみよう。飛行機があるんだから、船だってあるさ」と根拠のない希望的観測を口にする。
飛行艇は胴体で道を塞いでいたが、尾翼の下を潜れば通過できた。
飛行艇がいつからここにあるのかわからないが、洋佑にはきれいに見えた。廃棄された飛行機ではないように感じる。
飛行機に詳しいはずのアシュリーと陽鞠は、飛行艇にはほとんど興味を示さない。
洋佑には、その理由がわからない。
ここでの議論は無意味だし、声を発すれば死人を呼ぶ可能性が上がるので、慎んだ。
西側の漁港には船がない。
埠頭には70メートル近い全長の貨物船が停泊している。接舷してはおらず。港内で浮遊している。埠頭や護岸に何度も衝突したようで、船体は傷だらけだ。
東側の漁港には、20隻近い20フィート(約6メートル)以下の漁船があった。すべてが、座礁半沈か全没状態。
洋佑は言葉が出ない。
海人、アシュリー、陽鞠も同じ。
「もっと、東に向かおう」
海岸に沿って東に進むが、船が接舷できる施設はなかった。
つまり、4人が見たものがすべてだ。
陽鞠が「ヘリポートに行ってみよう」と提案。
死人を避けるために、村の東辺に沿って、陸側に進む。陽鞠は御蔵島に東邦航空のヘリポートがあることを知っていた。
何か移動に使えそうなものがあるかもしれない。
ヘリポートの真向かいに学校があった。小学校と中学校の合同校舎のようだが、4人は校庭を見てギョッとする。
校庭に数百体の死人がいたからだ。
海人が「島のヒト?」と呟き、陽鞠が頷く。
たぶん、島民は避難か会合か理由はわからないが学校に集まり、そこで死人になった。
校門が閉じていて、学校に死人が閉じ込められた。
島民のすべてではないだろうが、これは洋佑たちには歓喜すべきことだった。死人が一カ所に集まっていて、その場所が閉鎖されているのだから、校外は一定の安全を期待できる。
そして、島という閉鎖空間なので、外部から死人が入り込む恐れが少ない。
食糧確保・生産の問題がなければ、小さな島は死人が彷徨う世界においては、最良の生存圏だ。
ヘリポートには、かなり離れた位置に4つの死体があった。死人ではなく、死体だ。
洋佑が「誰かがゾンビを殺したんだ」と呟く。
陽鞠が「ひどいことをどうしてできるんだろう?」と涙ぐむ。
だが、海人は少し違った。彼は、死人に噛まれなくても、誰でも死んだら死人になるのだとすれば、死人はすでに死んでいるのではないかと考えていた。確信ではなく、迷いだ。
善人である彼は、死んでいるかもしれないというだけで、死人を無力化しようとは考えない。また、その方法も知らないし、知ろうとも思わなかった。
洋佑たちは、死人は病気であり、生きていると信じている。この考えに固執しているわけではなく、歩くのだから生きているはず、というある種の常識に基づくとらわれだった。
ヘリポートには、死体以外何もなかった。ヘリポートを過ぎ、坂を上っていくと自動車整備工場があり、さらに進むとダンプカーや建設機械が止められているスペースがある。
その先にも自動車整備工場がある。こちらの方が規模が大きい。
ヒトの気配がない。まったくない。しかし、油断はできない。死人はヒトの気配を出さないからだ。
工場の内部は暗く、4人は外から眺めるだけだった。先の工場は2棟あり、1棟は観音扉が開いていたが、もう1棟は閉じていた。
洋佑が片方の扉に手をかけたが、開くことを躊躇う。他の3人も怯える。扉を動かせば音が出る。内部に死人がいれば、扉に向かってくる。
洋佑が扉から手を放す。
他の3人が同時に息を吐く。
死人に出会ったら、逃げる以外の選択肢しかないグループだから、死人と出会うことを極端に恐れていた。
洋佑が「戻ろう」と提案。
4人が頷く。
次は32人が雨露をしのげる場所を探すこと。
学校は村の中心から外れた北東側にある。ならば、しばらくの隠れ家は、村の中心から外れた南西側がいい。
南西側には、数棟の集合住宅がある。集合住宅は、室内に死人がいても出てくることがない。理由がない限り、ドアは開けないほうがいい。
それと、裏口がないので、危機になっても逃げ場に困る。
船を心配している海人と、隠れ家を探す3人が行動を別にする。
集結場所として、御蔵島港船客待合所を使うことにする。内部は無人で、32人には十分な広さがある。多すぎず、少なすぎずの出入口は2カ所。
この施設は、飛行艇の近くにある。
トイレの水は出るが、飲料水の入手には困る。
そこで、短期間生活できる家屋を探し、500メートルほど離れた駐在所を利用することにした。
海人が5人ずつ、船で6回往復して、全員を待合所に移動させる。
船外機用のガソリンは、ほぼ使い果たしてしまった。
この作業だけで、14時までかかった。
朝食と昼食を食べていなかった。大人は我慢できるし、緊張しているので食欲がなかった。
だが、年少者は待合所に入ると、安心したのか「お腹すいたね」と言い始める。
アシュリーと陽鞠は、駐在所にいた。防弾チョッキや盾、警丈はあるが、拳銃はない。
2人は、拳銃を求めていたのではない。もし、年少者が見つけて、触ることがあれば危険だと考え探しただけだ。
居住部には、10キロの未開封コメ袋が2つあった。コメびつにも残っている。
電気炊飯器とガス炊飯器があり、もちろん電気はないが、プロパンガスが使えるので、ご飯を炊ける。
キッチンの水も出た。最初は茶色く濁っていたが、すぐに透明になる。水の出が悪いのは、水圧が低いからだ。
2人はご飯を炊きながら、掃除を始めた。キッチンではカレールーを1箱見つけた。それと、うずらの卵とヤングコーンの缶詰。
ジャガイモを加えて、オリジナルカレーを作る。
洋佑は待合所を出て、アシュリーと陽鞠の手伝いに向かったが、2人から「邪魔!」と言われてしまった。
カレールー1箱で11皿分のカレーライスをどうやって作るか、頭を悩ませている。
年上のお姉さんの逆鱗に触れてはたまらないと思い、彼は別のことをすることにした。
それが、駐在所周辺の安全確認だ。
御蔵島の家は、なぜか施錠されていない。八丈島は違った。施錠されている民家は多かった。
避難するにあたって、当然のこととして施錠していったのだろう。
しかし、御蔵島は違った。
島民はゾンビ事変の発生後しばらくして、今後の行動を話し合うために学校に集まった。誰かが発症し、あるいは何か他の原因で複数人が死に至り、次々と死人に転化した。
推測はいろいろできるが、学校の校庭で立ち尽くす死人の数からして、島民のほとんどがそこにいる。
だが、島民すべてではないはず。
ならば、周辺の偵察は必要だった。
坂を上っていくと、いくつかの戸建てがある。1軒の掃き出し窓が開いていたので、洋佑は敷地内に立ち入って、室内をうかがう。
ヒトがいる様子はない。だが、死人はヒトの気配を発しない。
靴を履いたまま、室内に入る。善良な若者である洋佑は、この行動にも罪悪感を感じる。他人の家に土足で入るなど、彼本来の行動ではない。
2階は調べないが、1階には誰もいない。キッチンを調べると、カセットガスコンロとカセットガス4本を見つける。3本パック+使用途中1本。
それと、缶詰が11缶。白桃、黄桃、ミカン、サバ缶×2、ツナ缶×3、コンビーフ、ポークランチョンミート×2。
缶詰を入れる袋か容器を探すが見つからず、庭にあったきれいではないポリバケツに入れて運ぶことにする。
洋佑が駐在所のキッチンに顔を出すと、アシュリーがジロリとにらむ。
洋佑がポリバケツを見せる。
アシュリーの顔がほころぶ。
「ランチョンミートがあるよ。
肉抜きカレーよりいいでしょ」
缶詰をダイニングテーブルに並べ終わると、アシュリーは洋佑に「その汚いバケツ、外に出して!」と告げる。
女性慣れしない洋佑は、万人向け美形のアシュリーとアニメ的かわいい系の陽鞠がとにかく苦手だった。会話するだけで、緊張してしまう。
口が裂けても言えないが普通にかわいい真緒が、洋佑がどうこうできる上限だった。
リビングとダイニングは、12歳以下の年少者の微笑みで満ちている。大声は発しないが、それでもおしゃべりが止まらない。
カレーライスが食べられるとは、誰も考えていなかったのだから当然だ。単調な食事が何カ月も続いていたので、喜びも大きい。
洋佑は、この様子だけで御蔵島に来てよかったと感じている。
風間幹夫が1時間もかからずに、軽トラックと軽バンを修理して使えるようにする。
軽トラに乗って、大仏早苗と入瀬真緒が駐在所にやって来て、その軽トラに乗って因幡アシュリー、岩代陽鞠、相模洋佑が待合所に戻る。
待合所で、深刻な打ち合わせが待っている。それは明確。何しろ、この小さな島に閉じ込められたからだ。
移動手段は全長6メートル弱のキャビンがない漁船しかない。
だが、三宅島まで10キロしかない。三宅島なら、船がある可能性が高い。身動きできなくなったわけじゃない。
洋佑はそう考えていた。楽観的にならなければ、狂いそうなほど不安だったからだ。
最年長の大仏洋二が打ち合わせの口火を切る。場所は待合所の2階。
「残念だが、船はなかった。
だが、飛行機があった」
柿木忠志が「外見上、壊れてはいない。だけど、私では飛ばせない」と否定的。
この時点で、洋佑は意見の対立を感じる。
風間幹夫が「素人が言うべきではないとは思うけど、あの飛行機きれいだよ」と。
岩代陽鞠が「グラマン・アルバトロスなんて、骨董機でしょ。博物館に飾ってあるような代物よ」と否定的。
因幡アシュリーは肯定的。
「機齢60年以上だろうけど、そんな機がそのまま飛んでるはずはないから、完全にレストアされているはず。
整備すれば飛べるんじゃないかな」
大仏洋二も修理を否定しない。
「飛行機のエンジンは触ったことはないが、基本は発電用ガスタービンと一緒だ。
少なくとも、修理できるか調査はしようよ」
アシュリーが洋二の意見に呼応。
「外見からだけど、エンジンがPT6に換装されている。
私の一番の整備経験がこのPT6。よく知っているエンジン。調べれば、動くか動かないか判断できる……」
最上篤志が核心に触れる。
「ヘリポートがあるんだろ。でも空港はない。滑走路がないのに、どうやって離陸するの。
平地のないこの島に滑走路は造れないよ。俺たちだけでなく、誰でもね」
陽鞠が篤志を見る。
「あの飛行機だけど、飛行艇なの。水上を滑走して、飛び立てる……」
篤志が「マジかよ」と普段は使わない言葉を発する。
肥後海人には疑問がある。
「海から飛び立つ飛行機だけど、胴体の下に細長いタンクみたいな浮きを2本取り付けているよね。
だけど、あの飛行機にはないよ」
陽鞠が「それは、水上機。あの飛行機は飛行艇。胴体が船になっているの。胴体が船体なわけ。翼端の小さなフロートは、翼が水面に接しないようにするもの。
フライングボート。空飛ぶ船」
篤志が驚く。
「マジで、ヤバいぞ」
柿木忠志が当惑する。
「いや、ダメだ。
ただの一度も水面から飛び立ったことがない。絶対に無理だ。
よくわからない飛行機を整備された滑走路から飛ぶんだって生命がけなのに、水の上を滑走するなんて無茶だ」
篤志は動じない。
「誰だって、何だって、最初はあるさ。
機長ならできるって。
自信を持てよ」
忠志はその意見を否定。
「32人の生命だぞ。
もし失敗したら、みんな死ぬんだぞ。悲惨な事故になる。
救助はないんだ。
助かる可能性はほぼない!」
篤志は平然としている。
「このままでも、いつかは死ぬ。
1人、2人、3人と減っていくか、一気に減るか、その違いだけだよ。
だけど、飛ぶ前に行き先を決めないと」
篤志の意見に洋佑が同意。
「篤志の言う通りだ。
飛ぶ前に行き先を決めないと」
陽鞠が「茨城空港は?」と提案する。離発着が少ないので、死人の数が少ない可能性があった。
アシュリーは否定的。
「どうかな、茨城空港は百里基地でしょ。航空自衛隊の。保護を求めて周辺の住民が集まったんじゃないかな。
最初の数日間、生き残ったヒトたちは安全な場所を探して動いたから……。
もう少し、ヒトがいないほうがいいと思う」
海人が「水に降りたら」との意見に、忠志が全否定。
「海になんて、降りられるわけないだろ」
海人は「じゃぁ、湖とか川は?」と尋ねると、忠志が「最低でも3キロの直線が必要なんだぞ。湖なら霞ヶ浦か猪苗代湖、川なら利根川の河口くらいだ。橋が架かっていたらアウトだぞ」と完全否定。
海人は腹が立ってきた。
「それなら、猪苗代湖に行こうぜ。
で、猪苗代湖ってどこなんだ?」
篤志が呆れる。
「福島県だよ。
そこまで飛べる?
燃料足りる?」
アシュリーが説明する。
「ギリギリだね。
無理だと考えたほうがいいよ。
入手できている燃料は300リットルくらいだから。
この燃料で飛べる正確な距離はわからないけど、300キロから400キロくらいじゃないかな。甘く見積もっても450キロ。
猪苗代湖までは直線で400キロはあるから……。まったく、余裕がないよ。
霞ヶ浦までなら、飛べるかも」
海人が口を尖らせる。
「じゃぁ、霞ヶ浦まで行こうぜ!
そこで燃料見つけりゃいいじゃん」
忠志は、絶対に水上には降りたくなかった。自信の有無ではなく、滑走路への着陸に比べたらはるかに危険だからだ。彼を含む32人の生命を預かるのだから当然だ。
「利根川の河川敷には、いくつかの飛行場がある。
降りられる場所がどこかにあるさ。
着水は最後の選択でどう?」
洋二が「それでいいよ」と賛意を示し、反対はなかった。
18歳以上の総意として、12歳以下は駐在所で過ごしてもらうつもりだったが、それは納得してもらえなかった。
年少者たちは、年長者と離れることを異常なほど嫌った。
アルバトロスの機内はとても豪華で、バーカウンターまである。シートも豪華だ。
これら無駄な装備をすべて取り外す。そうしないと、全員が乗れない。乗員用のジャンプシートを除いて、すべて撤去する。
乗客は床に直に座る。
こんな状態なのだから、パイロットである柿木忠志が水上への降着を嫌うことは当たり前だった。
この機内改造作業に年少者たちも加わりたいと希望している。
年少者でも、できることは多い。
年少者も待合所に移動し、メンバー全員が作業に参加することになった。
作業はアルバトロスの180度回頭から始まる。アルバトロスの機首は陸側、つまり海岸の崖側に向いており、いったん海側に押し出してから、少しずつ機首を海に向けなければならない。
微妙な移動なので、すべてが人力。一番幼い風間幹夫の娘と、足に障害がある長谷博史以外の全員が、この作業に加わる。
可能な限り後方に押し出し、何度も切り返しをしながら、機首を海に向ける。
この作業だけで、丸1日を要した。
翌日は、豪華な座席の取り外し。6人分の座席を撤去すれば、全員がどうにか乗り込める。
この座席が大きく厚く、かつ異常なほど重い。組み立てた状態では乗降ドアから機外に出せず、背もたれ、座面、肘置きに分解しなければならない。
その手順がわからず、無為に時間を要した。それでも、日没までにどうにか6脚すべての撤去を終えた。胴体に沿って設置されていたロングソファーも撤去。
外し方がわからないバーカウンターは残したが、グラスはすべて撤去した。トイレは残された。
全員が乗り込んでみると、かなり無理があるが、体育座りでどうにかなる。
3日目。
エンジンと機体の点検・整備が始まる。
幹夫や洋佑たちが、外部電源とするための工事現場用ディーゼル発電機をクレーン付き4トントラックで運ぶ。
ディーゼル発電機の作動音は大きく、学校に閉じ込められている死人を刺激しかねない。
しかし、長期間放置されていたアルバトロスは、外部電源がなければ何もできない。エンジンの始動どころか、燃料計さえ動かせない。
計器は古風なアナログだが、これは見かけだけ。実際はデジタル化されている。10インチほどの液晶モニターが2カ所ある。
通電させないと、液晶モニターが何なのか皆目わからない。
この機に関するマニュアルは、コックピット内にあった。
これを機長の柿木忠志と副操縦士を務める岩代陽鞠が読み込む。
陽鞠は航空会社のグランドスタッフだったが、軽飛行機の操縦訓練を受けていた。教官を乗せての飛行経験がある。
整備マニュアルもあった。これは、因幡アシュリー、大仏洋二、風間幹夫が読み込む。
機内の設備撤去の目的には、機体の軽量化もあった。
アルバトロスは、全長19メートル、全幅29メートルを超える。全幅で比較すると、国産旅客機のYS-11よりも3メートル短いだけ。全長だと7メートル短い。
かなり大きな双発機だ。
駐在所の近くにあるガソリンスタンドで確保してきたエアコンプレッサーを使って、タイヤに空気を補充する。
単気筒の6馬力空冷エンジン付きなので、強力なのだが、エンジン音が大きい。
死人を刺激する。
3日目夕方、洋佑は忠志に声をかけた。
「機長、こんなに音を出したらヤバイよ」
「わかっている。
200か、300か、わからないが、学校のゾンビが押し寄せてきたら、どうにもならない。
小さな島だ。逃げ場がない」
「機長、わかったことがある。
想像なんだけど……」
忠志が洋佑を見詰める。洋佑が続ける。
「カウンターバーにはグラスが残っていた。
アイスペールとかも。
だけど、酒はまったくなかった。持っていったんだ。
つまり、この飛行機の元の持ち主は酒を持ち出す余裕があった。衣類や寝具も持ち出しているし、本も持ち出している」
「本?」
「バーカウンターの最下段には、本が置かれていた。本を置いてあった跡がある。
雑誌じゃなくて、たぶん書籍。かなり厚い本」
「重い本を持っていった?」
「あぁ。
だから、クルマじゃない。
最初からクルマという選択はないけどね」
「船か?」
「この島にあったんだ。
メガヨットとか……」
「それで、ここに降りたのか」
「だと思う。
乗り換えたんだ」
「俺でも、メガヨットと飛行艇なら、迷わずメガヨットを選ぶね」
「当然だよ。
飛行機は降りる場所が限定されるから……」
「エンジンが止まれば飛行機は墜落だけど、船は浮いているからね」
「出発は早いほうが……」
「同感だ。
天候次第だけどね」
4日目、風は強くないが雨が降る。雨脚が強く、全島が音に満ちる。
これは幸運だった。
一部の作業はできないが、ディーゼル発電機が発する騒音をかき消してくれる。
5日目、雨がやむ。しかし、風がやや強い。
忠志が代表して、全員に告げる。場所は、待合所の2階待合室。
「準備万端じゃないけど、できることはすべてやった。
島にはジェット燃料がない。
燃料は、灯油とガソリン1対1で混合したものを使う。灯油はガソリンスタンドの地下タンクから汲み上げた。
ガソリンも。
だけど、ゾンビが現れた時期が、暖房の季節が終わっていたので、灯油の量が多くない。
400リットルだけ。
ガソリン400リットルと混合して、800リットル。
燃料タンクの容量は1500リットル。だから、燃料半載の状態で飛ぶことになる」
忠志は全員が理解しやすいように、メートル法で説明を続ける。
「この燃料は、現在では使われていないけど、数十年前は標準的なジェット燃料だったんだ。だから、滅茶苦茶危険なわけではない。
ジェットエンジンは、燃料の幅が広い。軽油でも動く。
燃料は大丈夫だ」
実際のところ、忠志たちは燃料の質についてかなり心配していた。
入瀬真緒が質問する。
「どれくらい飛べるの?」
忠志が少し考える。
「はっきりとはわからない。
だけど、800キロから1000キロは飛べる。
青森までなら飛べる」
場が少しざわつく。当初の予測の倍以上飛べるとわかったからだ。
最年少の幹夫の娘が問う。
「どこに行くのぉ?」
これは、重要な問いだ。
「東日本には、降りられる空港はない。
いままでの経験から、ほぼ間違いない。
西日本はどうか?
わからない。まったく情報がない。
いろいろと考えたんだ。
海上にある長崎空港なら降りられるかもしれない。だけど、燃料が足りるかどうか不安だ。関空や伊丹は絶対に無理だろうね。
だから、最悪は水上に降りることも考慮することにした。
海ではなく、湖。
西日本には湖が少ないから、東日本に向かうことになる。
とりあえずは、大利根飛行場に向かう。
小さな飛行場で1000メートルの滑走路があるんだ。利根川の河川敷にあるし、周囲は田んぼだから降りられる可能性が高い」
真緒が「ゾンビがいたら?」と、根源的な不安を伝える。
陽鞠が即答。
「そのときは、霞ヶ浦に降りる。
機長がイヤがっても、私が説得する」
忠志は陽鞠の言に答えなかった。
「天候が回復したら、出発だ。
エンジンを始動したら、ゾンビは押さえられない。
もう、飛ぶしかない」
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第五話「肉人さん」
第六話「悪夢」
最終話「触穢」
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