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第4章

第106話 籠城

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 半田千早は、RPG-7の発射を待っていた。少しじらされ気味になっていたが、RPG-7の発射音と暗闇でもわかる激しいバックブラスト、そしてわずかな閃光が見えた。
 半田千早は、躊躇わずに上体を起こし、片膝立ちでRPG-7を構える。
 すでに目標を決めている。
 狙い、発射。
 すかさず、匍匐で斜面を登り始める。白魔族の戦車が、主砲を発射する。闇雲に撃ち始め、半田千早は地面に俯せになったまま頭を低くし、ゆっくりとミエリキが掩護する位置まで向かう。

 ミエリキは、半田千早がRPG-7を発射した瞬間を確認していた。
 だが、その後、白魔族が全周に向かって発射を始めたことから、彼女の所在を見失っていた。
 白魔族がパニックに陥りやすい精神的に不安定な種であることは、よく知られている。同時に、そこからの立ち直りも早い。
 この時もそうだった。
 白魔族はいったんパニックに陥るが、すぐに立ち直り、地雷原をヒトに歩かせて啓開した通路を進んで、続々と山の斜面を登り始める。
 白魔族の身体能力はヒトと大差ない。黒魔族のようにドラゴンを操るような異能もない。
 だからといって、侮れない。群(集団)になると、統制された攻撃を行う。
 ヴルマンであるミエリキは、白魔族の行動特性を教えられてきた。ヴルマンにとって、白魔族は滅すべき敵でありながら、常に苦杯をなめさせられてきた。
 ロワール川上流の人々とは、フルギアによって遮断され、孤立して戦ってきた。
 ノイリンが白魔族を空から襲い、セロと組んだフルギア皇帝を下したことから、ロワール川流域中流および上流との交流が生まれた。
 ミエリキが武器を持てる年齢になった頃には、すでに白魔族は一掃されていた。
 白魔族と戦い続けてきたヴルマンだが、ミエリキ自身にとっては初めての戦いだった。

 ミエリキに向かって、白魔族の歩兵が斜面を登ってくる。
 恐怖からRPK軽機関銃を発射したいが、その射線に半田千早がいる可能性がある。ミエリキは、発射を躊躇っていたし、半田千早の安全を確認するまでは、後退する意思はなかった。
 しかし、後退しなければ、ここで死ぬことになる。

 半田千早は、立ち上がって走るべきか、匍匐を続けるべきか、判断に迷っていた。
 半田千早が匍匐で進む3倍以上の速度で、白魔族の歩兵が斜面を登ってくる。
 数分で追いつかれる。この暗さ、この距離ならば、まだ走って逃げられるかもしれない。
 一か八かの判断だった。

 ミエリキは、草むらから黒い影が起き上がる瞬間を見た。
 判別はできないが、半田千早であると確信する。
 彼女を避けて、RPK軽機関銃を発射する。このAK-47アサルトライフル(突撃銃)を原型とする軽機関銃は、本体重量がわずか5キロと軽量。75発ドラム弾倉を装着しても、ベルト給弾式汎用機関銃の半分程度の重さだ。

 半田千早は、ミエリキが発する発砲炎を目標に射線を避けながら進む。
 遮蔽物にしている倒木の背後に駆け込み伏す。
「ミエリキ!
 逃げるよ!」
「うん!」
 ミエリキは、予備のRPG-7の弾頭を半田千早に渡す。
 半田千早は、手に持っていた発射機に弾頭を差し込む。
「ミエリキ!
 私が掩護するから、中腹の窪地まで下がって!」
 ミエリキが全力で斜面を登り始める。
 ミエリキが目標とする窪地まで半分進んだところで、半田千早はRPG-7を肩に担ぐ。そして、発射。
 弾頭が爆発すると同時に発射機をスリングで背負い、ワルサーPP自動拳銃を抜く。
 半田千早が必死で斜面を登る。
 2人が窪地で合流。2人は一緒に後退を始める。

 太陽は姿どころか、まだその強い光の一部さえも現していなかった。

 石垣にはミエリキが先にたどり着く。彼女は石垣に背を押し付け、銃口を麓に向ける。
 黒い影がいくつも斜面を登ってくる。
 半田千早が石垣に手をのせる。そして乗り越えようとする。石垣の内部から何人かが彼女を助ける。
 ミエリキは振り返り、RPK軽機関銃を誰かに渡した。
 そして、石垣を乗り越えた。

 その直後、アクムスと装甲トラックのガンナーのチームが帰還する。
 息を切らしている。
 2人は、石垣内に飛び込むと地面に仰向けになった。
 ガンナーがいう。
「4人で2輌の戦車を破壊したぞ」

 白魔族の歩兵は、中腹で進撃を止めた。

 夜が明けていく。
 白魔族は薄暮になる頃には、体勢を立て直して登坂を再開する。斜面北側東寄りから……。
 明らかにマルユッカ隊が攻撃目標だ。斜面北側全域に部隊を配置しているが、登坂の方向は東寄りだ。
 戦車4輌を先頭に、歩兵1個小隊規模が登ってくる。戦車と歩兵は、その他にもまだまだいる。
 登坂を開始したのは、敵のごく一部だ。全軍を投入するほど、地雷原の通路と山麓は広くない。

 マルユッカは野砲がないことが幸運だと感じていた。
 調査によれば、白魔族は砲身長20口径37ミリ砲しか装備していない。この砲を戦車にも積み、小径の車輪を付けた砲架にも積む。
 大砲と呼べるものはこれしかない。
 過去、機関銃を製造した様子はない。
 しかし、西アフリカの白魔族は、機関銃らしき兵器を使用している。
 75ミリ級の野砲がない、と断定はできない。

 アクムスがマルユッカに報告する。
「隊長、できましたが、あれで本当に発射できるんですか?」

 半田千早は、それを見てビックリしていた。驚く、呆れる、唖然とする、よりはビックリだ。
 排気管延長用の長さ1メートルの鋼管パイプ、有孔鉄板、L字鋼材、木材、その辺の石で、迫撃砲みたいなものができあがっていた。

 半田千早は不安を感じた。
「隊長……、これって……、まさか……」
 マルユッカが微笑む。
「迫撃砲だ。小銃の撃針を鋼管の底に取り付けてある。
 ガス溶接機が荷台に積んであったんだが、それで砲尾を作り、砲身を溶接したんだ」
 半田千早は当惑する。
「撃てるの……」
 マルユッカは面白そうな表情をする。
「わからないから、1発撃ってみる」
 駐板は、有孔鉄板と木材で作られている。砲身を支える脚は、有孔鉄板とL字鋼材。鋼管を有孔鉄板の穴に通して支持架とし、L字鋼材で補強と安定の加工を施している。
 仰角は駐板を前後にずらすことで、変更する。
 ただし、すべて目見当だ。
 マルユッカが命じる。
「初弾は発射できるかどうかわからないから、安全ピンを抜かずに装填しろ」

 急造迫撃砲は、ポンという乾いた音を残して60ミリ弾を発射した。
 飛びすぎて、白魔族本隊と山の麓の中間あたりに落ちる。もちろん、爆発はしない。
 駐板をやや前方にずらし、射程を伸ばす。山麓の白魔族ではなく、本隊を狙うためだ。
 60ミリ迫撃砲弾の安全ピンが外され、半装填される。
 発射。
 今度は、白魔族本体右翼に着弾。
 白魔族が混乱に陥る。
 それから、16発、駐板が壊れるまで撃ち続ける。
 駐板を修理し、撃針が折れるまで、さらに12発を発射した。

 急造迫撃砲は壊れたが、頂上に迫った戦車4輌をRPG-7で破壊し、村人が守る頂上に突入した白魔族を機関銃と手榴弾で撃退し、8時までは死傷者なしで乗り切った。
 だが、弾薬は減り続け、RPG-7の弾頭は数発しか残っておらず、手榴弾も残りわずかとなってしまった。
 マルユッカと隊員は残弾から、あと4時間しか持ちこたえられないと、予測している。
 朝になれば、バンジェル島から攻撃機が発進してくれると信じていたが、飛行機のエンジン音さえ聞こえてこない。
 ミエリキが半田千早に泣き出しそうな表情で問いかける。
「何で、ララは助けに来てくれないの?」
 その理由を、半田千早も知りたかった。

 バンジェル島では、混乱が起きていた。降り続いた雨によって、滑走路の簡易舗装は用をなさず、ぬかるんでいた。
 滑走路に砂を撒き、網を張り、有孔鉄板を敷き直し、どうにか航空機の運用ができるようになったのは夜明けから4時間を経ていた。

 爆装したプカラ双発攻撃機が次々と離陸していく。
 そして、最後に西地区のボナンザが離陸する。機体右側の乗降ドアが外され、機内がむき出しになっている。
 その機にパラシュートを背負った城島由加が乗り込んでいる。

 ララは独房代わりのテントの中にいた。
 マーニを手伝った“罪”を問われている。
 プカラ隊が離陸しない理由を察していたが、同じ理由で自分も飛べないことも理解していた。
 プカラが離陸するエンジン音を聞いた瞬間、涙がこぼれた。
「チハヤ、ミエリキ、パウラ、無事でいて……」

 マーニはテントの隙間から、滑走路を片目で見ている。
 プカラが離陸していく。
「よし!
 行けー!」と絶叫した。
 その声は、司令部テントまで達していた。

 西アフリカに白魔族が現れた事実は、西ユーラシアのヒト社会に衝撃を与えた。
 この事態を重視したクフラックは、カナリア諸島テネリフェ島に駐留するブロンコ双発攻撃機2機にノイリンへの支援ではなく、独自作戦による偵察を命じる。

 2機のブロンコは偵察過荷状態で日の出の2時間前に離陸。時速350キロの経済巡航速度を保ちながら海岸線に沿って南下し、その後東に向きを変え、1900キロを飛行して饅頭山の上空に達しようとしていた。
 離陸から5時間30分を経過している。

 饅頭山上空に達したのは、クフラックのブロンコ隊のほうが早かった。
 マルユッカはブロンコとの接触を試みたが、このときは交信できなかった。
 だが、ブロンコ隊は、饅頭山上空を周回し、翼を振ってくれた。
 機関銃弾1発さえ発射しなかったが、マルユッカ隊は大いに勇気付けられる。
 ブロンコ2機は5分ほどで、西に向かって飛び去った。バンジェル島に向かったのだ。

 プカラ隊は東から飛んでくる2機の双発双胴機を発見し、慌てる。
 ブロンコ隊が一方的に伝えてきた。
「ノイリン隊は健在!
 ノイリン隊は健在!」
 クフラックとノイリンの飛行隊は、ごく至近ですれ違う。
 ブロンコ隊の報告を聞いたプカラ隊は、スロットルを開け、増速する。

 ブロンコ隊の通信は、地上を進む救出部隊も受信。森と湖沼・湿地を避けながら、東進する速度をわずかに上げる。

 プカラ隊が饅頭山の上空に達したのは、9時30分。
 すでに、頂上が戦場になっていた。頂上西側に戦車3輌が進出していて、山頂東側を砲撃している。
 山頂東側は、RPG-7の榴弾が発射されている。

 マルユッカ隊は、装甲トラックの無線機に被弾。無線は、バギー搭載だけになっていた。 4人が負傷しているが、戦死者はいない。 山頂の一画に追い詰められつつあるが、白魔族にも甚大な損害を与えている。

 プカラ隊は乱戦状態にある山頂のどこに、マルユッカ隊がいるのか精確に把握できないでいた。無線は通じず、地上からの信号もない。

 マルユッカは発煙弾がないことを知っていた。その代替にと発煙筒を残していたが、乱戦のなかで失ってしまった。

 プカラ隊は、バギーと装甲トラックを探したが、巧妙に隠されているのか、発見できないでいた。

 プカラ隊が上空に現れてから10分が経過し、ようやく車輌2輌を発見する。
 その周辺で、機関銃を発射するヒトの姿も確認する。

 山頂には村人も残っていた。彼らは、抵抗と呼べるほどの行動はしなかった。
 白魔族は村人の一部を捕らえ、麓に連行し始めている。少しでも抵抗すれば、殺した。
 山頂の西側には、白魔族の捕虜となったヒトがいた。

 バギーの無線は、途切れがちだが受信はできる。足を負傷した隊員が、無線を聞いている。
 プカラ隊の隊内通信を傍受する。
「……やむを得ない、北側の部隊を爆撃……」
 それだけは聞こえた。
 すると、北側の森縁にいる白魔族本隊に向かって、2機のプカラが降下していく。

 王女パウラは、これほど恐ろしい火炎を見たことがない。森が一瞬で炎に包まれたと思った。恐ろしくて、蹲りそうだ。
 半田千早が王女パウラに微笑む。
「ナパーム弾攻撃だ!」

 西の彼方に戦車が現れた。
 白魔族の戦車ではない。ノイリンの戦車だ。

 プカラ2機が西側の草原に向かって降下を始める。
 翼下には多数の小型爆弾が懸吊されている。
 爆弾が投下される。
 広範囲に次々と着弾し、草原が爆炎と土煙に覆われる。
 半田千早が王女パウラの不安そうな顔に向けて微笑む。
「地雷原を吹き飛ばしたんだ!
 これで安全に通れる!」

 攻撃を終了したプカラ4機は、そのまま戦場上空に留まる。

 ボナンザが戦場上空に飛来。
 城島由加は山頂全域が戦場であることは、すぐに理解した。そして、東側の一画が最も激しく抵抗していることも視認する。
 しかし、バギーと装甲トラックが見えない。

 マルユッカは白魔族の砲撃が激しくなると、車輌を守るために床が抜けた、かつては地下室だった穴に入れた。深さは2.5メートルあり、3方は石積みで囲まれているが、階段があったと思われる1方は崩れ斜面となっていた。斜度が35度近くあったが、バギーと装甲トラックなら自力で登れる。
 穴の幅は5メートル、奥行きは8メートルあり、地上部の建物外壁は6メートルほど残っていた。
 このため、上空からは見えなかった。
 同時に、車載無線は、受信は不完全ながらできるが、送信は無理だった。

 少女はイロナのいいつけを忠実に守っていた。怯える幼い2人の子を守り、泣かずに装甲トラックのキャビンで耐えていた。

 イロナはAK-47を操り、白魔族を退けている。彼女の前には敵歩兵の死体が、折り重なっている。

 手榴弾は使い切っていたが、60ミリ迫撃砲弾は残っていた。
 銃弾はあるが、弾倉が足りない。負傷者3人が弾倉に弾を詰めているが、消費に追いつかない。

 マルユッカはAK-47の弾倉を使い切り、ワルサーPP自動拳銃を発射している。
 だが、グリップ内の弾倉が最後だった。

 ミエリキは、上空で旋回するノイリンの飛行機が白魔族に攻撃を加えない理由がわからなかった。
「早く、助けて!」
 彼女の空への叫びは、他の隊員も同じ思いだった。

 城島由加は東側の一画がマルユッカ隊であることは、ほぼ確信していた。だが、そこは、戦場のど真ん中にある。
 爆撃をした場合、誤爆してしまう危険が高い。すべてのプカラは、爆装していた。爆弾よりも命中精度の高いロケット弾を装備している機はない。

 城島由加は、ヘルメットを被り、迷彩の作業服にボディアーマーを着けた小柄な人物が、拳銃を発射している様子を機上から見た。
 インカムがONであることを知りながら、「まずいな」と一言。
 投弾を終えた4機のプカラに命じる。
「山頂西側を掃射」

 4機は単縦列で南側から北側に向かって、4挺の7.62ミリ機関銃を掃射する。

 マルユッカは叫んだ。この乱戦で、自分の声が通るとは思えなかった。
 王女パウラは、ヒトに似たヒトと比べるとやや小柄なヒトではない生き物に、AK-47を夢中で発射している。
 彼女は、自分にこれほどの勇気があるとは、思ってもいなかった。怒りも悲しみも感じない。一緒に旅をしてきたヒトたちを守りたい。その一念だった。
 そして、マルユッカの声を聞いた。
「伏せろ!」
 王女パウラは隊長マルユッカの命令に、反射的に従った。

 プカラ隊の隊長機は、司令官の命令に反して、白魔族が攻め立てる一画の最前線ギリギリを狙うつもりでいた。
 防戦側はすでに弾を撃ちきっている様子だからだ。

 王女パウラは伏せようとして転び、仰向けになってしまった。その彼女の真上を、リベットが見えるほどの高さで北方人の双発機が飛び去る。
 慌てて起き上がり、石垣の西を見る。
 立っている白魔族は、皆無だった。王女パウラは地面に死体が敷き詰められていると見えたが、違っていた。
 白魔族の歩兵は伏しているだけだった。半分が立ち上がり、突進してくる。
 王女パウラはコッキングボルトを引いた。

 城島由加は、北の麓付近への爆撃を命じる。
 同時に西からノイリンの装甲部隊が突入する。
 セクメト戦車は、全長5メートル、全幅3メートルで、車体サイズはM24チャーフィー軽戦車とほぼ同じ。車体重量は15トン。
 エンジン出力は240馬力。整地ならば最大時速65キロを発揮する。

 整地での最高時速45キロの4輌の戦車風と装甲兵員輸送車風のトラクターは、置き去りにされた。

 ノイリンは制度としては皆兵だが、専業の“軍人”はいない。全員がパートタイムの兵隊だ。他の街から“戦女神”と称えられる城島由加もパートタイマーの“非正規戦闘員”の1人だ。
 だが、パートタイマーとはいえ、兵科はある。セクメト戦車は機甲科、ホルス装甲車は歩兵科の隊員が運用している。
 対するスカニア戦車とヘグランド装甲車は、輸送用のトラクターであることから輸送科の隊員が使っている。
 輸送科も戦闘訓練をするが、目的は自己防衛に限られる。機甲科のように敵陣に向かって突撃などしない。

 ノイリンの装甲部隊が西から進出してくると、最初に反応したのは白魔族の装甲自動車部隊だった。
 この古色蒼然とした半装軌式装甲自動車は、滑稽なほどの挙動をしながら、驚くべき速度でノイリン装甲部隊に向かっていく。
 白魔族の戦車部隊も動く。
 ルノーFT-17によく似た軽戦車、よく似ているというよりも、同じ設計の車輌は、トコトコと老婆が歩く速度で西に向かっていく。

 ノイリンのスカニア戦車は車重に比して馬力が大きく、軽くウイリーを見せながら敵が陣取る北に向かう。

 半田千早は、北東の森の切れ目から、南に回り込んでくる見慣れない戦車8輌を発見する。
 意図は明確だ。ノイリンの装甲部隊の背後に回りこんで、挟み打ちにする作戦だ。
 半田千早は泣き出しそうだった。
 この危機を連絡する術がないのだ。

 上空の城島由加は、機長から「北東を見てください。10時の方向です」といわれ、その方向を見る。ボナンザは、司令官が北東方向を視認しやすいようにバンクする。
 城島由加が命じる。
「攻撃機隊、北東の戦車隊の進出を阻止」
 だが、新たに登場した白魔族の戦車が、小刻みに不規則な機動をして、プカラ攻撃機の爆撃を巧みにかいくぐる。
 結局、4機で4輌を破壊した。

 この結果は、城島由加にとって意外だった。航空攻撃を機動で回避する装甲車輌の運用を白魔族が行った例がないからだ。
 航空攻撃を回避したということは、航空攻撃を頻繁に受けているということだ。

 城島由加は思わず呟く。
「誰から……」

 スカニア戦車とヘグランド装甲車は、2.5トントレーラーを牽引したままだった。
 スカニア戦車は、大急ぎで牽引を解き、ヘグランド装甲車は、貴重な補給物資を守る態勢をとる。

 スカニア戦車は、白魔族の未知の戦車に向かっていった。
 その様子は、城島由加には死角となっていて、まったく見えない。

 ミエリキが叫ぶ。
「別な戦車!」
 2輌の戦車が、4輌の戦車に向かって突進していく。
 どちらの戦車が敵なのか、ミエリキにはわからない。
 彼女の叫びに、誰も反応しない。
 防戦で手一杯なのだ。

 半田千早は、斜面を登ってくる白魔族に石垣の周囲に転がる石を投げつけた。
 撃つべき弾がなかった。
 空からの機銃掃射がなければ、とっくに殺されている。
 マルユッカは、白魔族が落とした剣を握っている。

 救出部隊は到着したが、マルユッカ隊は絶望的な状況に陥りつつあった。
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