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第4章
第107話 深部
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ノイリンに戻った俺は、毎日、終日、ミーティングに明け暮れていた。
疲れて帰ると、健太と翔太が待ち構えていて、お話をせがまれる。2人が寝るまで、お話が続く。そして、2人は簡単には寝ない。
健太は来年、13歳になる。労働の年齢だ。午前中は学校、午後は農場や養魚場で働く。
なのに翔太と一緒に甘える。俺を本当の父親と思っているかのように……。それが嬉しくもあり、恐くもある。
今日は8時から中央議会の予算委員長と議会内でサシの面談がある。
翔太が朝食をぐずって食べず、保育室に連れていく時間に遅れた。その玉突きで、走って議会に向う。
俺はただの素浪人だ。中央議会予算委員会委員長のお呼び出しに、遅れるわけにはいかない。
俺が会議室に入ると、委員長は席を立ち深々と頭を垂れた。
「ハンダさん、忙しいのに呼び立ててもうし訳ない」
「委員長、お騒がせしております」
「例の件ですか。
あれは、北地区で処理してください」
委員長は、ブロウス・コーネインの一件には、関知する意思がないことを端的に表した。
そして、続ける。
「ご存じとは思いますが……。
カンスクのことです。
カンスクが、カラバッシュの飛び地領になります。街の名も変わり、北カラバッシュとなります」
「街名までも……」
「はい。
ここまでは……、ノイリンには直接関係のないこと……。
ですが……。
カンスクの一部住民が、カラバッシュとの併合を嫌い、ノイリンへの移住を求めています。
事実上の亡命です」
「亡命……。
物騒ですね。
何があったのですか?」
「亡命を求めているのは、エンジンの技術者たちです」
「しかし……」
「おっしゃりたいことはわかります。
技術者を失ったカンスクに何の魅力があるのか、と……。
カラバッシュはガソリンエンジンに特化するようです。
その理由はノイリンにあり、我が街がディーゼルとガスタービンに力を注いでいることへの対抗策らしいのです。
その結果として、重油や軽油を燃料とするカンスクの動力、焼玉エンジンの開発や製造を禁止するというのです」
「そんな乱暴な……」
「乱暴……。
その通りです。
焼玉エンジンは電気系統が不用。現状を鑑みれば、これほど便利な動力はないのです。
揚水ポンプに使っているケロシン・エンジンと合わせて、地域一帯の機械化に貢献しています。
それを捨てろと……。
カラバッシュの方針に反発した、カンスクの住民がノイリンへの集団移住を希望しています」
「なぜ、それを私に……」
「北地区で受け入れていただけませんか?」
「どれほどの数……」
「現状は500ですが、おそらく最終的には2000に達するでしょう」
「それは……」
「北地区ならば、どうにか受け入れられるのではないかと……」
「西地区はどうです?」
「西地区よりは、北地区でしょう。
西地区はタービン機関、北地区はレシプロ機関……。
そのように認識していますが……」
「その通りですが……。
どちらにしても、持ち帰って相談してみます」
「よろしくお願いします」
俺は「持ち帰る」といったが、大いに乗り気だった。2000の技術者だ。食いつかない選択肢なんてない。
11時からは、車輌班で視察。視察という名の現状把握だ。
工場では、ノイリンを守るための新型ロンメル戦車が数輌作られているだけだった。
作業服を着た金沢壮一が説明する。
「ノイリン用の戦車の製造までは、とても手が回らない状況だ。
フルギア、フルギア系、東方フルギア、ヴルマン、北方人は、急速に機械化を進めている。
フルギア、東方フルギア、北方人は、カンガブルやシェプニノの戦車を導入しているが、ヴルマンとフルギア系はノイリンのお得意さんだよ。
ヴルマンとフルギア系は、居住地域の関係でセロとは直接対峙している。
そのためか、戦車の数を欲しがるんだ。状況はフルギアも同じなんだけど、予算に余裕があるためか、シェプニノ製を導入している」
俺は、超小型戦車を唖然と見ている。金沢壮一が少し笑った。
「フルギア系とヴルマンは、スカニア戦車を補助するさらに小型の“戦車”を要求しているんだ」
俺が問う。
「これは戦車か?」
「戦車ではないね。戦車みたいなもの、かな。そもそも、スカニア戦車もノイリンでは“戦車”には分類していない……」
「これで戦うのか?
日本製の小型乗用車よりも小さいぞ」
「あぁ、サイズ的には第二次世界大戦期の九七式軽装甲車と同じくらいだ。
最近のノイリン製装甲車輌は、偶然見つけたイスラエル製メルカヴァ戦車の影響が強いんだ。
トランスミッションとエンジンを車体前部に配置し、戦闘室を車体後部に設けている。
エンジンは横置き。縦置きは完コピしたヘグランド装甲車くらいかな」
「エンジンは?」
「いすゞのH型ディーゼルの生産に成功している。4気筒と6気筒がある。
いまのところ、最大250馬力を発揮できる。
ターボの過給圧を上げれば、280馬力まで上げられると予想している。
150馬力くらいなら、インタークーラーの省略も可能なんだ」
「すごいな……」
「でも、量は作れないんで……。
そこがネックだ」
「このちっこい戦車は砲を積むのか?」
「35口径の37ミリ砲がほとんど。
でも、60口径20ミリ機関砲も積めるし、12.7ミリや7.62ミリも装備可能だ」
俺は話題を変える。
「カンスクからノイリンへ、移住の希望があるらしい」
俺は意図的に“亡命”という言葉を避けたが、金沢壮一のほうがこの件に詳しかった。
「知っている……。
というよりは、最初の相談は車輌班にあったんだ。
ノイリン北地区に住みたいって。
俺や相馬さんは大賛成。だが、この件が顕在化することは避けていた。
ブロウス・コーネインが支持者を増やし始めたんで、警戒していてね。カンスクの住民は、精霊族の系統でもあるから、あの種の連中がどういう反応をするか、想像できるし……。
カンスクからの移住者2000の受け入れを北地区行政府が発表したら、どうなると思う」
俺は答えられなかった。
「……?」
金沢壮一が当惑する俺の顔を見て微笑む。
「あぶり出せる。
差別主義者を……ね。
あぶり出して、ノイリンから叩き出す」
「過激だな」
金沢壮一の声は小さく低い。作業の音が、俺たちの声をかき消す。
彼が呟く。
「相馬さんにもそういわれたよ。
だけど、必要なことだ。
ノイリン北地区を本来の姿に戻す」
俺は金沢壮一の考えを理解できるのだが、何もそこまで……、という思いもあった。
そんな俺の心を見透かすように、金沢壮一が話を変える。
「ディーノさんのお孫さん、シルヴァだけど……。
西アフリカ行きを希望している」
俺は慌てた。
「だけど……」
金沢壮一はすべてを知っているといいたげに、頷く。ディーノは寝込んではいないが、体調がよくない。高齢でもある……。
「シルヴァは、北欧系だ。白い肌、金髪、碧眼、背も高い。
典型的な北欧系だし、モデルさん体形でもある。誰が見ても美人だよ。
で、彼女は容姿から、ブロウスの仲間じゃないかって、疑われるんだ」
俺は驚いた。
「そんなこと、ならばアビーだって……。
アビーはイギリス出身の白人なんだから、アングロサクソン系だろう?」
金沢壮一が声を出して笑う。
「サクソン系、ノルマン系、デーンかもしれない。あるいはケルト系か、フランク系、ゲルマン系の可能性もあるし、ラテンやアラブの血を引いているかもしれない。
容姿ではわからないよ」
俺はその通りであることを知っている。
「どちらにしても容姿が基準なら、アビーだって疑われる……」
「あぁ、アビーも疑われている。
優生思想は、受け入れやすいからね。根拠がないから、どうにでも解釈できるし、1つの差別意識は、新たな差別を生む。
だから根絶やしにしなければならない。
暴力を使っても……」
「そのために、カンスクの移住問題を使うのか?」
「その通り。
カンスクは精霊族とヒトとの混血が多い。しかし、ものの考えや習慣はヒト的だね。
彼らの移住を考えると、住居とか、そんなことくらいしか問題点を感じない。
でも、アーリア人種なんてものを持ち出す輩〈やから〉にこの話をしたら、発狂するだろう?
で、発狂させてやるんだ。
騒がせて、一網打尽にして、ノイリンから追い出す」
俺は、ことはそれほど単純じゃないと考えている。
「車輌班からも出るぞ」
金沢壮一は、下を向いた。
「承知しているよ。
だから、するんだ。
徹底的にやる。それをしなければ、ヒトは生き残れない。
半田さんはいつもいっている。
ヒトは200万年の進化の洗礼を受けていない、って。
200万年の進化の洗礼を受けていないヒトが、200万年後のこの世界で生きていくには団結と、協力が必要なんだ。
それを阻害する思想信条は、宗教を含めて完全に潰す。
この世界にはドラキュロがいる。あの動物は、そのための装置じゃないのか?
そう思うことがある。あり得ないけどね」
「そのための装置?」
「あぁ。
ドラキュロの存在は、ヒトが万物の霊長でないことを示している。
ドラキュロの脅威から生き残るために、ヒトは団結する。
400年前、ライン川以東の2つの街で抗争があった。ムルティアとティヒラ。ムルティアが、ティヒラを攻めたんだ。
ティヒラは包囲され、完全に孤立した。包囲は3カ月に及び、食料の枯渇が心配になり始める。
そんなとき、街の周囲にドラキュロが現れるんだ。
ムルティアは、一気に危機に陥る。城壁の外は、阿鼻叫喚の地獄に変わる。
ティヒラは、城門を開いて、ドラキュロから逃げるムルティア兵を街内に入れるんだ。
包囲されながらも、窮地にあるムルティア兵を助ける。同じヒトとして。
だが、街内に逃げ込んだムルティア兵は、ティヒラ街人への殺戮を始める。
ムルティアは、ヒトの善意を踏みにじり、ティヒラ攻略に成功する。
ティヒラの街人は皆殺しになった。
問題は、その後に起きたんだ。
周辺の街が連合軍を組織して、ムルティアを攻め、短期間で攻略、街を徹底的に破壊する。ティヒラに籠もるムルティア兵にも容赦はなかった。
ムルティアのわずかな生き残りは、ライン川を渡って西に逃げた。
そして、この物語を伝説として伝えている。
非道はダメだよ、と」
俺は金沢壮一がいいたいことがわからなかった。
「ムルティアとティヒラの物語と、ノイリンは……」
金沢壮一がワゴンに載る工具を無意味に整理しながら答える。
「非道はダメなんだよ。
どうであれ。
200万年前なら、ヒトは同族同士で抗争する余裕があった。
だけど、200万年後の世界には、そんな余裕はない。200万年前の人々みたいに、暇じゃないんだ。
くだらない差別思想に寄っている連中は、ドラキュロのなかに放てばいい。そうすれば、自分が何なのか理解できる。
言葉で教えるんじゃダメだ。身体に刻まないと」
「例外なく死ぬぞ」
「それでいい。
問題ない。
幸運にも生き残ったヒトは、正しい考えができるようになる。
俺たちもそうだった」
俺は考え込んだ。
金沢壮一がいう通りかもしれない。もし、ドラキュロに追われる経験をしていなかったなら、現在の俺になってはいないかもしれない。
たぶん、なっていない。
ノイリンは安全な街だ。内郭ではドラキュロに襲われる可能性はない。ゼロではないが……。外郭は少し危険だが、侵入したとしても1体か2体だ。大量の侵入はあり得ない。
安全だから、暇をもてあまし、非現実的な思想信条に取りつかれるのだ。
金沢壮一が話題を変える。
「西アフリカに白魔族が現れた……。
本当にそうなのだろうか?
西アフリカには、もともと白魔族がいた……。
その可能性は?」
俺もその可能性を考えてはいたが、クマンは白魔族を知らない。西アフリカにはいなかった、と判断している。
「クマンは白魔族を知らないからね。
可能性は低いと思う。
サハラ南端かサブサハラ北辺のどこかに拠点があるんだ。
チュニジアは白魔族の出店の可能性もある。本拠地は、別にあるんじゃないか、と思うんだ。
白魔族は、北アフリカを失いかけている。その代替として、西アフリカに侵出しようとしているんだ」
金沢壮一は、セロよりも白魔族を重視している。白魔族と黒魔族は、ヒトが有する技術に依存している。だが、どのように依存しているのか、詳細がわからない。
白魔族(オーク)はヒトを食い、黒魔族(ギガス)はヒトを奴隷にする。
そんな単純なことではないことは、わかり始めている。どうも、我々と交流のない一部のヒトは黒魔族と共生関係にあるようだ。白魔族とヒトの関係は、完全に白魔族が上位にある。
ヒトは白魔族の“家畜”である可能性がある。食用としても、役畜としても、利用されている様子がある。
白魔族と黒魔族の関係もわからない。ホモ・サピエンス以前、ホモ・ネアンデルタールレンシスは、白魔族や黒魔族と激しく戦ったらしい。
その情報は、サビーナたちがもたらしたが、断片的ではっきりしない。だが、サビーナたちが知っている白と黒の魔族でないことも明らかだ。200万年の歳月を経て変化したのか、我々と同様に時渡りをしたのか、そこはわからない。
黒魔族が操るドラゴンは、自然な生物ではない。このことから、黒魔族とドラキュロの関係も気になるが、白魔族も生命工学的技術を持っている可能性がある。
黒魔族はヒトに一目置いている。だが、白魔族はヒトを見下している。
それも捕虜の尋問や接触によって、わかっている。
金沢壮一が俺を見る。
「西アフリカから、白魔族を一掃し、セロも駆逐する。
そうするには、何が必要?」
俺には答えがある。
「装甲車輌と航空機」
「そのほかには?」
「生きたいヒト」
「この世界に死にたいヒトはいない。
いつでも好きなときに死ねるんだから。
野原をほっつき歩けば、いつでも死ねる」
彼の説明の通りだ。
野原を散歩すれば、死体は残らない。ドラキュロが始末してくれる。
金沢壮一が促す。
「来てくれ、見せたいものがある」
工場から出る。そして、別棟の工場に向かう。最初期の工場で木造、車輌班では最も小さい建屋だ。
工場の内部には、何人かいた。粗末な外観とは異なり、内部は明るく、整然としている。
中央に戦車が1輌。
俺が問う。
「ロンメル戦車のようだが、砲塔が違う……かな」
金沢が説明する。
「車台はロンメル戦車だが、砲塔はM24軽戦車の3人用が原型だ。
車体の正面下部と上部の装甲は50ミリ、砲塔の防盾は75ミリ、砲塔周囲は50ミリ。
主砲は、65口径76.2ミリ砲だ。
小さいメルカヴァだよ。
この世界では、無敵だ」
俺は、核心を突く。
「で、どれだけ作れる?」
金沢壮一がうなだれる。
「作れない。
技術者が足りないんだ。
特に製造技術者が……」
俺は話を戻す。
「ノイリンを守るためにも、カンスクの移住者が必要なんだろう?」
金沢壮一は即答した。
「その通り。
彼らが必要。
そして差別主義者は不要。
街の進化は“要不要説”が正しい」
「用不用ではなく……」
「あぁ、要不要だ」
ラマルクの進化論“用不用説”は否定されている。獲得形質、つまり、親の努力は子に遺伝しない。しかし、街は“要不要説”が適用される。街の存続には、いろいろなヒトは必要だが、差別主義者だけは不要だ。
昼食は相馬悠人とともにする。
おそらく、同じ話だ。カンスクの移住者を受け入れ、差別主義者を追い出す算段だ。
相馬悠人は、昼間から焼酎をすすめてきた。
彼の関心は西アフリカの情勢にあった。西アフリカの話から入ろうとするので、俺からカンスクの移住を振った。
「西アフリカよりも、カンスクの問題はどうするの?」
相馬悠人は、何事もないかのように答える。
「反対する連中ははっきりしている。
リストがあるんだ。
そのリストはブロウス・コーネインが作ったんだが、我々が手に入れている。そして、ヤツのリストに、独自の情報を加味したんだ。
ブロウスにシンパシーを感じているだけのバカ者もいるだろうけど、カンスクからの移住者受け入れを発表したら、リストの連中がどう動くかだ。
動いたものを捕らえ、ノイリンから追放する」
俺は、相馬悠人の計画が乱暴だと感じた。
「しかし、反対しただけで、拘束なんてできないだろう?」
相馬悠人は、焼いた肉を切るナイフの動きを止める。
「半田さん……。
ブロウスに同調しているヒトは、少なくない。北地区以外にも同調者が出始めている。
各地区の指導者は最初は眉をひそめる程度だったが、いまじゃ、相当な危機感があるんだ。
私も、だ。
ここで始末しないと、厄介なことになる」
俺は、ブロウス・コーネインにそれほどの影響力を感じなかった。
「すまない、認識が違っていたら……。
ブロウスは言葉巧みかもしれないが、たいした人物には感じなかった。……のだが……」
相馬悠人は肯定する。
「その通り。
ブロウスは、扇動はできても、組織を率いるほどの実力はない。
だが、元世界で政治家の経験がある何人かが同調しているんだ。こいつらは、扇動以上のことができる。
中心になっているのは4人。
4人とも40歳以上男性。1人は西欧系、1人は東欧か南欧系、1人はインドかパキスタン系、最後の1人はアラブかペルシャ系ではないかと推測している。
4人とも第1世代で、事故、病気、それ以外でも家族は欠けていない。ドラキュロに追われた経験もないらしい。
この4人とその家族が本命だ」
俺はようやく、本質が見えてきた。
「その4家族が、ブロウスを利用した?」
相馬悠人は少し考えた。
「それは違うと思う。
ブロウスの主張は受け入れられやすいんだ。
斉木先生の受け売りなんだが、ラマルク進化論“用不用説”は、よく使う器官は発達し、使わない器官は後退する。それが世代を重ねることによって、よく使う器官は機能的に進化し、使わない器官は退化する。
親が獲得した形質は遺伝し、それが連続することで進化を促す、獲得形質の遺伝による進化論だ。
この説と、フランシス・ゴルトンの優生学が結びついて、優秀な親から優秀な子が産まれ、親の才能や努力は子に遺伝すると解釈された。
しかし、獲得形質は遺伝しないし、優生学はまったくの似非科学だ。
ブロウスの主張は、最初から根拠はない。
でも、受け入れられやすいんだ。
特に、政治家、軍人、成功した商人には……。
優生思想の目的は多々あるが、人種を改良することで遺伝的な病気を克服すること、優秀な民族に他民族の遺伝子が入り込まぬよう人種を保護すること、身体的・知性的に優秀な個体を創造すること。
これが、生殖制限となり、異なる人種間の婚姻を制限したり、遺伝的な病気を抱えるヒトに産児制限を課したり、果ては優秀ではないとされた民族を皆殺しにしようとしたり、とバカな真似に走るんだ。
優生思想=差別思想なんだ。
遺伝子は多様なほど、生存確率が高くなる。つまり、ヒト祖先は別種と出会えば挨拶代わりにセックスして、子を産み、遺伝子を多様化させてきたから、生き残れたんだ。
それと、真逆なことをブロウスの同調者たちはしたいわけだ。
これは、ノイリンの存続にかかわる重大な問題だ」
俺は、斉木五郎の影響が大きいことは知っている。斉木五郎がいなければ、西ユーラシアのヒト、精霊族、鬼神族、黒魔族は饑餓に陥っていた。
相馬悠人であっても、斉木五郎からの思想的影響は排除できないということだ。
彼がいうノイリンの存続とは、5年、10年のスパンではない。数百年、数千年のことだ。
俺が問う。
「説得はできない?」
相馬悠人が答える。
「斉木先生が試みた。科学的に、子供でもわかるように、かつ論理的に。
でも、ダメだった。
結局は、でも、でも、だって、だ」
俺は心配していた。
「ある意味、暴力を使うことになる。
思想弾圧でもある。
思想と心情の自由は認められるべきだ。
多くの街人は支持しないんじゃないか?」
相馬悠人は即答した。
「支持してくれる。
連中は、すでに問題を起こしているからね」
俺は驚いた。
「問題?」
相馬悠人が笑う。
「一部の外見的特徴を持つヒトを、追い出せと主張しているんだ」
俺は唖然とした。
「外見?」
相馬悠人は、ジャガイモ焼酎を一気に飲み干す。
「黒髪以外の体毛のヒト……」
俺は、口を開けっ放しにしてしまった。
「なぜ?」
ブロウス・コーネインは、金髪・碧眼を尊んでいた。
「ブロウスの同調者は、ブロウスと完全に同調しているわけではない。
ブロウスの信奉者は10代男女が中心だったが、同調者は高齢の男性が多い。
彼らは精霊族を嫌っていて、黒髪以外は精霊族の血が混じっている疑いがあるから、ノイリンから追放すべきだと考えている。
実際に、その主張を声高に主張し始めている。
私は、ブロウスの信奉者と同調者を一緒くたにして、ノイリンから追い出すつもりだった。
それを、半田さんが邪魔した」
俺は驚いた。
「邪魔した?」
相馬悠人が少しだけ口角を上げる。
「せっかく居館を襲わせたのに、半田さんは健太とブロウスの喧嘩に矮小化してしまった。
ブロウスと信奉者たちによるクーデターとすれば、似た主張をしている同調者たちも捕らえて問答無用で追い出せたんだ。
連中を追い出してから、カンスクからの移住者受け入れを発表するつもりだった。
半田さんのおかげで、何もかも台無しだ!
健太のがんばりも、親が潰した」
俺は健太の名を聞き、口元からテーブルにグラスを置く。
「健太は?」
相馬悠人が呆れる。
「健太が、ヒトをぶっ殺すなんていいふらすと思うか?
あの子が?
健太は、アビーやシルヴァの一部ヨーロッパ系、ララやその他の精霊族に対する、すれ違い様に放たれる悪口・侮辱に我慢できなかったんだ。
で、私が頼んだ」
俺は、心底驚いた。
「健太が感じるほど……、ひどくなっていた……?」
「急速に。
健太は、同調者の子や孫に目を付けられて、殴られたりもしたんだ。
パパとママはいないし、幼い翔太を守らなくてはいけないし、それでも両親の代わりに役立とうと必死だった」
俺は、震えていた。
「健太が殴られた……。
誰にだ?」
相馬悠人が声を出して笑う。
「その件は終わり。
珠月ちゃんがしっかりと対応した。
10代の男の子4人を相手に大立ち回りをして、4人とも地面に這いつくばらせた。
須崎くんが、わざとらしく止めに入って、4人は逃げていった。
どちらにしても、子の努力を親が台無しにした。
で、新たな策を考えた。
それが、カンスクからの移住者受け入れ発表だ。
それで反対者が現れたら、ブロウスの一味として、しょっ引く。
そして、追放。
めでたし、めでたし……」
俺は、肝心なことを尋ねる。
「移住発表はいつ」
相馬悠人が即答。
「明日」
俺が尋ね返す。
「明日!」
相馬悠人が皮肉な笑いをする。
「あぁ、子の努力を親が台無しにしたんだ。その落とし前をつけてもらわないと。
半田さんに……」
俺は頭を抱えた。
イロナがAK-47の弾倉を半田千早に渡す。
半田千早は、弾倉を素早く交換する。イロナはミエリキにも弾倉を渡す。ミエリキはRPK軽機関銃の75発ドラム弾倉を外し、30発箱型弾倉を取り付ける。
王女パウラは石垣に身を隠し、弾倉に弾込している。石垣の隙間から麓を見ると、4輌の戦車と2輌の戦車が砲撃戦を始める瞬間を見た。
長い砲身の2輌が停止し、先に発射。短い砲身の戦車2輌がガクッと音が聞こえたと錯覚するほど、急停止した。
短い砲身の2輌が発射する。1発は外れたが、1発は命中。だが、命中弾を受けた砲身の長い戦車は、何事もなかったように前進を始める。
擱座した短い砲身の戦車の砲塔から、1体が這い出る。それを長い砲身の戦車が同軸機関銃を発射して、撃ち殺す。
短い砲身の戦車は、1輌しか残っていない。
砲身の長い戦車が左右に回り込むと、短い砲身の戦車は急停止し、全速で後進を始める。長い砲身の戦車は2輌が同時に停止し、2輌はわずかな誤差で主砲を発射する。
砲身の短い戦車は、爆発炎上し、砲塔が高々と舞い上がる。
同時に、王女パウラは弾倉に弾を満たした。弾倉を取り付け、コッキングボルトを引き、石垣の切れ間から白魔族に向かって発射する。
プカラ双発攻撃機の機首には、7.62ミリ機関銃4挺と20ミリ機関砲2門が装備されている。
この20ミリ機関砲弾でも、白魔族の戦車を破壊できた。白魔族の小さな戦車は、猛禽に襲われる小動物のように逃げ惑い、プカラ双発攻撃機はやや鈍重な機体をものともせず、獲物に襲いかかる。
稼働している白魔族の戦車と装甲車が皆無になると、山頂を攻め切れていない白魔族の歩兵は浮き足立つ。
特有の甲高い奇声のようなものを発し、歩兵が山を下っていく。
プカラ双発攻撃機が飛び去っていく。
半田千早は、それを見送っていた。
ミエリキが走り寄る。
そしてポツリといった。
「また、私たちだけになっちゃったね」
半田千早が答える。
「そんなことないよ。
戦車がいる」
ミエリキが微笑む。
「すごく強そうな戦車だね」
半田千早が答える。
「うん。
きっと、金沢さんが作ったんだ」
ミエリキが尋ねる。
「カナザワ?」
2人の会話を聞いていたアクムスが教える。
「ノイリンのカナザワ。
車輪の精霊に守護された男……。
ヒトで初めて、ヒトが作った道具に宿る精霊に守護された男だ。
クラシフォンの高位呪術師は、車輪の精霊を800年ぶりに誕生した新生精霊とした。
チハヤはカナザワを知っているのか?」
半田千早は少し自慢げに答えた。
「知ってるよ。
小さいときから。
金沢さんに自転車を作ってもらったんだ」 アクムスは自転車を知らなかったが、車輪に守護された男が少女に作ったものとは、何なのか非常な興味があった。
アクムスが自転車について尋ねようとすると、上空を旋回していた単発機から何かが落ちた。
それがヒトとわかるまで、少しの時間を要した。
パラシュートが開き、ヒトが地上に降りてくる。
クマンの驚き様はたいへんなもので、フルギアやヴルマンも大騒ぎとなる。
空からヒトが降ってきたのだから……。
半田千早には本能で誰かわかった。
「ママだ!」
マルユッカが叫ぶ。
「全員乗車!」
バギーと装甲トラックが穴から引き出され、残り少ない物資を回収し、ゆっくりと山頂から麓に下る。
すでに降下したヒトは着地していて、パラシュートを回収している。
地上を進んできた部隊が、降下したヒトに向かっている。
バギーと装甲トラックは、かなり遅れて地上を進んできた部隊と合流する。
半田千早は城島由加に抱きつきたかったが、非常な努力でその衝動に耐えた。
マルユッカが敬礼しそうになる。
「司令官」
城島由加が頷く。
「損害は?」
マルユッカが応える。
「負傷者6。うち重傷2。死者はいません」
城島由加が賞賛する。
「この状況で、死者がいないなんて……。
さすが先生」
「司令官のお教えを守りました」
「真希先生の教えの成果ね」
「司令官からは戦い方を、マキ先生からは医学を学びました」
城島由加が促す。
「ここから20キロ、西に移動する」
マルユッカが応える。
「了解しました。最後部につきます」
数本の木立がある開けた草原の一画に、全車が集合する。
城島由加が報告を求める前に、マルユッカが発言の許可を求める。
「司令官。
白魔族が、この一帯に進出しています。
海に出ようとしているのだと思います。
それと白魔族は、相当以前からこの一帯の情報を集めていた形跡があります。
クマン領内の勢力、黒羊騎士団は、白魔族と関係があります。
想像ですが、西ユーラシアの北の伯爵配下黒羊旅団と同系ではないかと……。
白魔族の全容がわからないので、何とも判断できませんが、今後、白魔族が最大の脅威になるのでは、と思うのですが……」
城島由加も同じ考えだった。
「クマンの人々にはすまないことだけど、セロの調査は後回しにしないと。
白魔族は新型の戦車を使っていた。白魔族は何百年間もほとんど変化を見せていないと聞いていたけど、今回は明らかな変化がある。
わずかな改良ではない。車体もサスペンションもまったくの新型だった。
なぜ、白魔族に変化が起きたのか、知る必要がある。
それと、白魔族の戦車は、航空攻撃を受けると、明確な回避行動をとった。
と、いうことは、航空攻撃を受けたことがあるのだと思う。それも何度も戦っている相手がいる。ヒト、黒魔族、セロ、そのどれもがあてはまる。
西アフリカには、黒魔族もいるのかもしれない。もしかすると、人食いだって……」
マルユッカも同じ心配をしていた。
「セロが西ユーラシアと西アフリカに侵攻したことで、何かのバランスが崩れたのではないかと……。
ハンダさんのいう、ニッチ(生態的地位)が崩壊したのかも……」
城島由加は、俺が常々いっていることを彼女に伝える。
「半田隼人は、ニッチは簡単に崩れたりしないって……。かなり強固なものだといっていた。
だから、崩壊はしていないのだと思う。……思いたい。でも、生態系の頂点付近は、猛烈な嵐に見舞われているのでしょう。
食物連鎖の頂点には、人食いがいる。これは不動。2番手争いを多くの種がやっているのかもしれない。
ヒトはそんな争いに参加したくないけど、白魔族やセロが放っておいてはくれない。
ならば、戦わなければ……」
マルユッカは自分の計画を話す。
「私にできることは……。
白魔族の拠点を探り出さないと。そして、何をしようとしているのか探り出せれば、対抗策が見つけられると思うのです。
どうか、私に調査をお命じください」
城島由加が驚く。
「いや、いったんバンジェル島に戻り、準備を整えてから……」
マルユッカは、すぐに動きたい気持ちが強かった。
「この近くに白魔族の拠点があるはず。発見できれば、何かわかるかもしれません」
半田千早が発言。
「もう少し東に行けば、きっと何かわかるよ」
城島由加は、少し考えた。
そして、マルユッカに問う。
「何が必要?」
マルユッカが答える。
「機動力のある車輌があれば……」
城島由加が尋ねる。
「まさか、1人で行く気では?」
マルユッカが動揺する。
「そのつもりですが……」
城島由加が呆れる。
「それは許可できない」
マルユッカは引き下がらない。
「危険な任務ですから、私1人で……」
城島由加が全員に尋ねる。
「現在よりもさらに内陸を調査する。距離は100キロ程度。期間は1週間以内。
志願者はいるか?」
半田千早、ミエリキ、王女パウラが即座に手を上げる。
やや遅れて、アクムスとイロナも手を上げた。救出部隊からクマンのトウガン、ブルマンのギャエルが手を上げた。
王女パウラが発言。
「司令官。
クマンの危機なのです。私は行かねばなりません」
ミエリキが疲れた表情で一言。
「やられっぱなしじゃ、帰れない」
アクムスは、現実的な意見。
「地上に地形上の目印がほとんどない状態では、位置は天測に頼らなくては……。
私は天測ができる。ぜひ参加したい」
イロナは、微笑むだけ。
クマンのトウガンは、「私は、王宮に使えていた。ただ1人となった王家直系のお供がしたい」
ブルマンのギャエルは、「私はノイリンで学んだ。植物の知識がある。役に立てると思う。それに、西アフリカの植物には、とても興味がある。
いや、これは調査の目的とは別なことだが……。
それから、装軌車の操縦ができる」
マルユッカが許可を求める。
「8人いれば十分です。
バギーと装軌車2輌で、さらに深部を調査します。
許可いただけますか?」
城島由加は逡巡していた。半田千早だけダメとはいえず、マルユッカの提案自体を却下するかを考えた。しかし、彼女の理性は、調査の必要を認めている。
「調査を許可する。
ただし、5日で調査を打ち切り、7日で帰還すること」
マルユッカは周囲を見回して、軽く敬礼する。戦場では敬礼はしないと定められている。城島由加は、マルユッカが命令に従順であることをよく知っていた。
「7日で必ず帰還します」
マルユッカが選んだ車輌は、新型のロンメル戦車、ジューコフ装甲車ではなく、牽引車として使われているスカニア戦車とヘグランド装甲車だった。
その理由をマルユッカが城島由加に説明する。
「山頂から見ていると、スカニア戦車は実に軽快に動いていました。
この調査には、本格的な装甲車輌が必要だとは思いません。ですが、一定の武装は必要かと……。
スカニア戦車の主砲ならば、白魔族の戦車を破壊できます。そして、前面装甲は白魔族戦車の主砲弾を跳ね返しました。
スカニア戦車でも白魔族の戦車と正面から戦えます」
城島由加は少し考えた。
「ヘグランド装甲車はともかく、スカニアよりもロンメル戦車のほうが……、よくはない……?」
マルユッカはどう答えるか考えた。
「ロンメル戦車は、パワーウエイトレシオ(馬力重量比)は高いようですが、車体が大きいのでやや取り回しに難があるように感じました。
その点、スカニア戦車はちょこまかとよく動くというか……。小型なので、燃費もよさそうにも思いますし……。
我々は機甲戦の専門家ではありませんし……」
城島由加は微笑んだ。
「では、隊員8名、スカニア戦車、ヘグランド装甲車、装甲バギー各1輌を使った、海岸線から500キロ圏までの内陸調査をマルユッカ隊に命じる」
マルユッカは衝動的に、半田千早たちには真似できない立派な敬礼をした。
マルユッカ隊3輌は50キロ東進した。ここからさらに50キロ東へ行けば、許可された海岸線から500キロとなる。
マルユッカは命令に忠実な指揮官であった。特段の事情がない限り、興味本位で許可されていない領域に踏み込むような行為はしない。
それと、彼女は海岸線から500キロまでとされた意味をよく理解している。
500キロ圏内であれば、バンジェル島からの航空支援が得られる。そして、ヘグランド装甲車には出力の大きい無線が装備されている。
周囲の風景は大きく変わっていた。森は川の岸辺付近だけとなり、それ以外は草原となった。起伏はあるが、ほぼ平坦な大地が続く。草の丈は30センチから3メートルほど。丈の高い草の原は視界が悪く、走行に難渋する。
どこまでも続く草原であっても、快適に走れるわけではない。選択できるルートは、限られる。
道を見つける。
車輌が通ることで固められた自然道だが、履帯のパターンがくっきりと残る。白魔族の戦車の履帯痕だ。多数の車輌が通過しただけの獣道のようなものだ。
草原に一直線の赤土の露出が続く。明確に道だ。
その道は、北から西に向かっている。西に向かっている理由は、先ほど渡渉した浅い川のためだろう。
マルユッカは、この道を使うか、それとも避けるか迷った。
闇雲に草原を進んでも、白魔族の手がかりを得られる可能性は低い。白魔族の痕跡があるのだから、それをたどることは理にかなっている。
だが、同じルートを進めば不期遭遇戦がありえる。彼女の隊は、威力偵察部隊ではないし、そもそも戦闘部隊でもない。ただの調査隊だ。
不期遭遇戦となれば、一方的に叩かれる可能性だってある。
眼前の手がかりをどうすべきか考えた。
クマンのトウガンが跪いて履帯痕を観察している。
「隊長、車列は北に向かっている。我々と戦った部隊かもしれない」
ヴルマンのギャエルは、徒歩でかなり北まで進んでいたが、走り戻る。
「マルユッカ隊長、履帯は3種類、2つは金属、1つはゴムだ。
鋲打ちのちっこい戦車とやたら頑丈そうな戦車の履帯だ。履帯のパターンは、饅頭山の麓で確認しておいたから、確実だ。
ゴムは装甲自動車。それと蹄の痕もあった。荷馬車だろう」
アクムスが意見を具申する。
「この道を北に向かいましょう。警戒しながら、進めば、敵と遭遇しても対処できます。
脚は我々の方が速いのですから……」
マルユッカが決断する。
「そうしよう。
この轍痕は、重要な手がかりだ。見過ごすことはできない」
半田千早が運転するバギーは、兵装を交換していた。7.62ミリ電動ガトリング砲のミニガンでは、弾薬の消費が激しすぎ、補給がままならない今回の調査では不適当なためだ。
7.62ミリ汎用機関銃MG3を車体上面簡易銃塔に装備している。この簡易銃塔は上部に頑丈な金網が張ってあり、ドラキュロの侵入を阻止でき、手榴弾を投げ込まれることも防げる。
同じ簡易銃塔は、ヘグランド装甲車の展望塔も装備している。ヘグランド装甲車は、12.7ミリNSV重機関銃を簡易銃塔に装備する。
スカニア戦車は、車体最前部がトランスミッション、その直後が横置き直列4気筒ディーゼルエンジン、その後部中央に操縦席、最後部が戦闘室、戦闘室の真上に砲塔が載る。
砲塔はおなじみのFV101スコーピオン戦車と同型で、2人用。車長は装填手を兼ねる。砲手は60口径76.2ミリ戦車砲と主砲の旋回俯仰と連動する同軸機関銃を操作し、このスカニア戦車には砲塔の車長用ハッチに7.62ミリ汎用機関銃を増備している。同軸機関銃と装備された汎用機関銃は、どちらもMG3だ。
スカニア戦車とヘグランド装甲車の乗員には、折りたたみ銃床のAK-47アサルトライフルが支給されている。
隊長のマルユッカは、ヘグランド装甲車で指揮をする。通信手はアクムスが担当。
スカニア戦車の車長は、イロナが務める。
マルユッカが命じる。
「チハヤ、5キロ北上し、障害物の有無を確認」
半田千早は戦場と心得て敬礼せず、ミエリキ、王女パウラとともに、バギーに乗り込む。
道幅2メートル50センチほどしかないが、平坦で固く締まり走りやすい。路面が乾燥しているので、速度を出すと土煙が上がる。
そのため、バギーは時速30キロほどで進む。存在を秘匿するためだ。
ちょうど5キロ進むと、前方200メートルに倒木が横たわっている。直径1メートルもある巨木だが、周囲にはこんなに太い木はない。
ミエリキが「進もう」といい、半田千早がゆっくりと前進させる。
フロントウィンドウは土埃で汚れており、視界はあまりよくない。
助手席の王女パウラが息を呑む音が聞こえた。
5メートルまで近付くと、その倒木が動き出す。
その動きは早く、後端に向かって細くなっていく。
ミエリキがいった。
「いまのヘビだよ」
半田千早は前方を凝視したまま、何もいわない。
助手席の王女パウラがポツリといった。
「戻りましょう」
半田千早は、無言でUターンをする。草原に強引に入っての方向転換ではなく、路上で何度も切り替えした。
バギーの帰りを路上で待つマルユッカたちは、別な動物を見て、車内に逃げ込んでいた。
体長5メートル以上のワニに似た爬虫類と思われる動物で、後肢が発達しており、後脚で立ち上がって歩く。
姿は恐竜に似ているが、足の指が5本あり、3本の恐竜とは明確に異なっていた。
クマンのトウガンは、「見たことはないが、ポストスクスと呼ばれている陸棲ワニではないか?」と。
ポストスクスは、装甲車と戦車に近付いてきたが、すぐに立ち去った。その動きは敏捷で、とてつもなく恐ろしい動物と感じた。
半田千早たちは、装甲車輌2輌と合流したが、誰も車内から出てこない。
しかも、彼女たちにも車内にとどまるよう指示があった。
半田千早たち3人も胴体だけだが巨大なヘビを見ていて、この草原がひどく恐ろしげな場所であることは承知していたので、金属の車体から外に出ようとは思っていない。
3輌は無線で会話したが、胴体の直径が1メートルもあるヘビや、2本足で立ち上がるワニの話で、奇妙に盛り上がった。
長い四肢を持ち群で行動する、草を食むワニも見たという。
大西洋沿岸部と異なり、この一帯は爬虫類が支配する世界。
このことをクマンはよく知っていたし、バンジェル島でも、この情報は広く共有されていた。ただ、表現が悪く“内陸深部はジュラシック・パークみたいだ……”は、スティーヴン・スピルバーグ監督の作品を見たことがない人々にはまったく伝わらない。
そして、どういうわけか“ジュラシック・パーク”シリーズの映像は、少なくともノイリンでは発見されていない。
半田千早を含めて、全員が恐れおののき、全員がワクワクしている。恐怖から装甲内からは出ないが、面白くて無線はにぎやかだ。
マルユッカが命じる。
「これより北に向かう。
各車車間をとり、時速30キロで前進」
20キロ北上すると、草原の植生が少し変化する。丈嵩があるイネ科から、30センチほどのキク科やケシ科の草本に替わる。
同時に視界が開け、異様な世界が露になる。
恐竜のような二足歩行のワニに似た爬虫類。体長5メートルに達する草食のイグアナ。メガラニアを彷彿とする体長10メートルに達するオオトカゲ。全長20メートルに達する巨大ヘビ。
鳥もいる。
羽毛恐竜と見間違う、体高2から5メートルに達する各種の走鳥類だ。ダチョウやエミューのような姿ではなく、嘴と羽毛のあるティラノサウルスのようなスタイルだ。
もちろん肉食。恐竜絶滅直後に現れた恐鳥のようでもある。
まるで、新生代第三紀と中生代三畳紀をシャッフルしたような異様な世界……。
マルユッカは、「こんな怪物の棲む土地でヒトは生きられない」と呟いた。
草原を30キロ北進すると、また風景が変わる。シマウマやガゼル、ヌーなど、アフリカ固有の草食獣が群を作る。その数は、数万なのか数十万なのか見当がつかないほど。
キリン、ゾウ、サイ、水辺にはカバもいる。風景は半田千早が知っている典型的なアフリカに近い。
彼女には、遥か東にあるセレンゲティ平原の風景が、西アフリカに移植されたように思えた。
しかし、何かが不自然だ。
「何だろう、何かヘン……」
揺れる車内で、隣に座る王女パウラに語りかける。
王女パウラにとって、見るものすべてが新鮮だ。半田千早がいう“ヘン”がわからない。
無線に応答がある。
マルユッカだ。
「確かに……。
何かが足りない……、気がする……」
マルユッカが命じる。
「全車停止」
車間を詰め、全車が停止する。
マルユッカの声が無線から聞こえる。
「わかった。
哺乳類の捕食動物がいない!
捕食者は、爬虫類と鳥類だけ!」
半田千早も同意する。
「ライオン、チーター、ヒョウ、ハイエナ、リカオン、サーバル、カラカル……。
肉食の哺乳類がいない!」
半田千早は極度の緊張を感じ始めている。ここは、200万年前とは異なる生態系だ。
マルユッカは前進を命じ、10キロ北進して低いなだらかな丘の頂に達する。
半田千早の眼前には、異様な光景が広がっている。数百輌に達する戦車の残骸だ。
周囲に動物の姿はない。
丘の頂から北を見る。草原ではなく、土がむき出しになっている。土漠にも見えるが、それほど乾燥してはいない。
低い丘が連なる谷のような地形で、幅2キロ、奥行き5キロほど。
丘を降りて、戦場に向かう。
南に車体前方を向けているのは、白魔族のルノーFT-17似の2人乗り軽戦車。北向きは白魔族が使っていた、新たに確認された戦車だ。
数量の多砲塔戦車も残る。
新たに確認された戦車は、バンジェル島からの連絡によれば、オチキスH35という第二次世界大戦直前にフランスによって開発された2人乗りの軽戦車に酷似していることがわかっている。
おそらく、同一設計と思われる。主砲は、どちらも砲身長21口径37ミリ砲だ。装甲貫徹力は距離1000メートルで15ミリの圧延装甲板を貫徹できる程度。砲口初速は秒速600メートルと低く、高速で移動する目標に命中させることは得手ではない。
これらは、白魔族との戦闘によって鹵獲した車輌や兵器の調査によって、判明している。
ただ、新型オチキス戦車の前面装甲は、最大40ミリもあり、防御は固い。ルノー戦車では破壊できないが、オチキス戦車は最大装甲厚22ミリのルノー戦車を距離500メートル以内ならば破壊できる。
しかし、この戦場には、ほぼ同数のオチキス戦車とルノー戦車が残されている。
オチキス戦車は、多砲塔戦車の75ミリ主砲によって撃破された可能性が高い。
車体の塗装が残っていることから、戦闘は数年前かもしれないが、数十年前ではないだろう。
半田千早は、この戦車の墓場のような古戦場を観察しながら、冷静でいられる自分に呆れていた。
白魔族と思われる骨も散見できるのに……。
マルユッカがいった。
「薄気味の悪いところね。
私がいってはいけないことだけど……。
どの戦車も損傷が激しいけど、オチキス戦車は装甲を撃ち抜かれた車輌は少ないみたい。
たぶん、歩兵の肉迫攻撃に殺られたのでしょう。
だけど、白魔族は誰と戦ったの?
オチキス戦車は白魔族の戦車なの、それともヒトかヒト以外の種の戦車なの?
何もわからない。
謎は深まるばかり……」
半田千早は、損傷の少ないオチキス戦車を探していた。
白魔族の戦車は、ヒトが作っているといわれている。しかし、その証拠はない。単なる噂だ。
オチキス戦車も白魔族の戦車ならば、何かわかるかもしれない。
半田千早は、白魔族の正体を無性に知りたくなった。
疲れて帰ると、健太と翔太が待ち構えていて、お話をせがまれる。2人が寝るまで、お話が続く。そして、2人は簡単には寝ない。
健太は来年、13歳になる。労働の年齢だ。午前中は学校、午後は農場や養魚場で働く。
なのに翔太と一緒に甘える。俺を本当の父親と思っているかのように……。それが嬉しくもあり、恐くもある。
今日は8時から中央議会の予算委員長と議会内でサシの面談がある。
翔太が朝食をぐずって食べず、保育室に連れていく時間に遅れた。その玉突きで、走って議会に向う。
俺はただの素浪人だ。中央議会予算委員会委員長のお呼び出しに、遅れるわけにはいかない。
俺が会議室に入ると、委員長は席を立ち深々と頭を垂れた。
「ハンダさん、忙しいのに呼び立ててもうし訳ない」
「委員長、お騒がせしております」
「例の件ですか。
あれは、北地区で処理してください」
委員長は、ブロウス・コーネインの一件には、関知する意思がないことを端的に表した。
そして、続ける。
「ご存じとは思いますが……。
カンスクのことです。
カンスクが、カラバッシュの飛び地領になります。街の名も変わり、北カラバッシュとなります」
「街名までも……」
「はい。
ここまでは……、ノイリンには直接関係のないこと……。
ですが……。
カンスクの一部住民が、カラバッシュとの併合を嫌い、ノイリンへの移住を求めています。
事実上の亡命です」
「亡命……。
物騒ですね。
何があったのですか?」
「亡命を求めているのは、エンジンの技術者たちです」
「しかし……」
「おっしゃりたいことはわかります。
技術者を失ったカンスクに何の魅力があるのか、と……。
カラバッシュはガソリンエンジンに特化するようです。
その理由はノイリンにあり、我が街がディーゼルとガスタービンに力を注いでいることへの対抗策らしいのです。
その結果として、重油や軽油を燃料とするカンスクの動力、焼玉エンジンの開発や製造を禁止するというのです」
「そんな乱暴な……」
「乱暴……。
その通りです。
焼玉エンジンは電気系統が不用。現状を鑑みれば、これほど便利な動力はないのです。
揚水ポンプに使っているケロシン・エンジンと合わせて、地域一帯の機械化に貢献しています。
それを捨てろと……。
カラバッシュの方針に反発した、カンスクの住民がノイリンへの集団移住を希望しています」
「なぜ、それを私に……」
「北地区で受け入れていただけませんか?」
「どれほどの数……」
「現状は500ですが、おそらく最終的には2000に達するでしょう」
「それは……」
「北地区ならば、どうにか受け入れられるのではないかと……」
「西地区はどうです?」
「西地区よりは、北地区でしょう。
西地区はタービン機関、北地区はレシプロ機関……。
そのように認識していますが……」
「その通りですが……。
どちらにしても、持ち帰って相談してみます」
「よろしくお願いします」
俺は「持ち帰る」といったが、大いに乗り気だった。2000の技術者だ。食いつかない選択肢なんてない。
11時からは、車輌班で視察。視察という名の現状把握だ。
工場では、ノイリンを守るための新型ロンメル戦車が数輌作られているだけだった。
作業服を着た金沢壮一が説明する。
「ノイリン用の戦車の製造までは、とても手が回らない状況だ。
フルギア、フルギア系、東方フルギア、ヴルマン、北方人は、急速に機械化を進めている。
フルギア、東方フルギア、北方人は、カンガブルやシェプニノの戦車を導入しているが、ヴルマンとフルギア系はノイリンのお得意さんだよ。
ヴルマンとフルギア系は、居住地域の関係でセロとは直接対峙している。
そのためか、戦車の数を欲しがるんだ。状況はフルギアも同じなんだけど、予算に余裕があるためか、シェプニノ製を導入している」
俺は、超小型戦車を唖然と見ている。金沢壮一が少し笑った。
「フルギア系とヴルマンは、スカニア戦車を補助するさらに小型の“戦車”を要求しているんだ」
俺が問う。
「これは戦車か?」
「戦車ではないね。戦車みたいなもの、かな。そもそも、スカニア戦車もノイリンでは“戦車”には分類していない……」
「これで戦うのか?
日本製の小型乗用車よりも小さいぞ」
「あぁ、サイズ的には第二次世界大戦期の九七式軽装甲車と同じくらいだ。
最近のノイリン製装甲車輌は、偶然見つけたイスラエル製メルカヴァ戦車の影響が強いんだ。
トランスミッションとエンジンを車体前部に配置し、戦闘室を車体後部に設けている。
エンジンは横置き。縦置きは完コピしたヘグランド装甲車くらいかな」
「エンジンは?」
「いすゞのH型ディーゼルの生産に成功している。4気筒と6気筒がある。
いまのところ、最大250馬力を発揮できる。
ターボの過給圧を上げれば、280馬力まで上げられると予想している。
150馬力くらいなら、インタークーラーの省略も可能なんだ」
「すごいな……」
「でも、量は作れないんで……。
そこがネックだ」
「このちっこい戦車は砲を積むのか?」
「35口径の37ミリ砲がほとんど。
でも、60口径20ミリ機関砲も積めるし、12.7ミリや7.62ミリも装備可能だ」
俺は話題を変える。
「カンスクからノイリンへ、移住の希望があるらしい」
俺は意図的に“亡命”という言葉を避けたが、金沢壮一のほうがこの件に詳しかった。
「知っている……。
というよりは、最初の相談は車輌班にあったんだ。
ノイリン北地区に住みたいって。
俺や相馬さんは大賛成。だが、この件が顕在化することは避けていた。
ブロウス・コーネインが支持者を増やし始めたんで、警戒していてね。カンスクの住民は、精霊族の系統でもあるから、あの種の連中がどういう反応をするか、想像できるし……。
カンスクからの移住者2000の受け入れを北地区行政府が発表したら、どうなると思う」
俺は答えられなかった。
「……?」
金沢壮一が当惑する俺の顔を見て微笑む。
「あぶり出せる。
差別主義者を……ね。
あぶり出して、ノイリンから叩き出す」
「過激だな」
金沢壮一の声は小さく低い。作業の音が、俺たちの声をかき消す。
彼が呟く。
「相馬さんにもそういわれたよ。
だけど、必要なことだ。
ノイリン北地区を本来の姿に戻す」
俺は金沢壮一の考えを理解できるのだが、何もそこまで……、という思いもあった。
そんな俺の心を見透かすように、金沢壮一が話を変える。
「ディーノさんのお孫さん、シルヴァだけど……。
西アフリカ行きを希望している」
俺は慌てた。
「だけど……」
金沢壮一はすべてを知っているといいたげに、頷く。ディーノは寝込んではいないが、体調がよくない。高齢でもある……。
「シルヴァは、北欧系だ。白い肌、金髪、碧眼、背も高い。
典型的な北欧系だし、モデルさん体形でもある。誰が見ても美人だよ。
で、彼女は容姿から、ブロウスの仲間じゃないかって、疑われるんだ」
俺は驚いた。
「そんなこと、ならばアビーだって……。
アビーはイギリス出身の白人なんだから、アングロサクソン系だろう?」
金沢壮一が声を出して笑う。
「サクソン系、ノルマン系、デーンかもしれない。あるいはケルト系か、フランク系、ゲルマン系の可能性もあるし、ラテンやアラブの血を引いているかもしれない。
容姿ではわからないよ」
俺はその通りであることを知っている。
「どちらにしても容姿が基準なら、アビーだって疑われる……」
「あぁ、アビーも疑われている。
優生思想は、受け入れやすいからね。根拠がないから、どうにでも解釈できるし、1つの差別意識は、新たな差別を生む。
だから根絶やしにしなければならない。
暴力を使っても……」
「そのために、カンスクの移住問題を使うのか?」
「その通り。
カンスクは精霊族とヒトとの混血が多い。しかし、ものの考えや習慣はヒト的だね。
彼らの移住を考えると、住居とか、そんなことくらいしか問題点を感じない。
でも、アーリア人種なんてものを持ち出す輩〈やから〉にこの話をしたら、発狂するだろう?
で、発狂させてやるんだ。
騒がせて、一網打尽にして、ノイリンから追い出す」
俺は、ことはそれほど単純じゃないと考えている。
「車輌班からも出るぞ」
金沢壮一は、下を向いた。
「承知しているよ。
だから、するんだ。
徹底的にやる。それをしなければ、ヒトは生き残れない。
半田さんはいつもいっている。
ヒトは200万年の進化の洗礼を受けていない、って。
200万年の進化の洗礼を受けていないヒトが、200万年後のこの世界で生きていくには団結と、協力が必要なんだ。
それを阻害する思想信条は、宗教を含めて完全に潰す。
この世界にはドラキュロがいる。あの動物は、そのための装置じゃないのか?
そう思うことがある。あり得ないけどね」
「そのための装置?」
「あぁ。
ドラキュロの存在は、ヒトが万物の霊長でないことを示している。
ドラキュロの脅威から生き残るために、ヒトは団結する。
400年前、ライン川以東の2つの街で抗争があった。ムルティアとティヒラ。ムルティアが、ティヒラを攻めたんだ。
ティヒラは包囲され、完全に孤立した。包囲は3カ月に及び、食料の枯渇が心配になり始める。
そんなとき、街の周囲にドラキュロが現れるんだ。
ムルティアは、一気に危機に陥る。城壁の外は、阿鼻叫喚の地獄に変わる。
ティヒラは、城門を開いて、ドラキュロから逃げるムルティア兵を街内に入れるんだ。
包囲されながらも、窮地にあるムルティア兵を助ける。同じヒトとして。
だが、街内に逃げ込んだムルティア兵は、ティヒラ街人への殺戮を始める。
ムルティアは、ヒトの善意を踏みにじり、ティヒラ攻略に成功する。
ティヒラの街人は皆殺しになった。
問題は、その後に起きたんだ。
周辺の街が連合軍を組織して、ムルティアを攻め、短期間で攻略、街を徹底的に破壊する。ティヒラに籠もるムルティア兵にも容赦はなかった。
ムルティアのわずかな生き残りは、ライン川を渡って西に逃げた。
そして、この物語を伝説として伝えている。
非道はダメだよ、と」
俺は金沢壮一がいいたいことがわからなかった。
「ムルティアとティヒラの物語と、ノイリンは……」
金沢壮一がワゴンに載る工具を無意味に整理しながら答える。
「非道はダメなんだよ。
どうであれ。
200万年前なら、ヒトは同族同士で抗争する余裕があった。
だけど、200万年後の世界には、そんな余裕はない。200万年前の人々みたいに、暇じゃないんだ。
くだらない差別思想に寄っている連中は、ドラキュロのなかに放てばいい。そうすれば、自分が何なのか理解できる。
言葉で教えるんじゃダメだ。身体に刻まないと」
「例外なく死ぬぞ」
「それでいい。
問題ない。
幸運にも生き残ったヒトは、正しい考えができるようになる。
俺たちもそうだった」
俺は考え込んだ。
金沢壮一がいう通りかもしれない。もし、ドラキュロに追われる経験をしていなかったなら、現在の俺になってはいないかもしれない。
たぶん、なっていない。
ノイリンは安全な街だ。内郭ではドラキュロに襲われる可能性はない。ゼロではないが……。外郭は少し危険だが、侵入したとしても1体か2体だ。大量の侵入はあり得ない。
安全だから、暇をもてあまし、非現実的な思想信条に取りつかれるのだ。
金沢壮一が話題を変える。
「西アフリカに白魔族が現れた……。
本当にそうなのだろうか?
西アフリカには、もともと白魔族がいた……。
その可能性は?」
俺もその可能性を考えてはいたが、クマンは白魔族を知らない。西アフリカにはいなかった、と判断している。
「クマンは白魔族を知らないからね。
可能性は低いと思う。
サハラ南端かサブサハラ北辺のどこかに拠点があるんだ。
チュニジアは白魔族の出店の可能性もある。本拠地は、別にあるんじゃないか、と思うんだ。
白魔族は、北アフリカを失いかけている。その代替として、西アフリカに侵出しようとしているんだ」
金沢壮一は、セロよりも白魔族を重視している。白魔族と黒魔族は、ヒトが有する技術に依存している。だが、どのように依存しているのか、詳細がわからない。
白魔族(オーク)はヒトを食い、黒魔族(ギガス)はヒトを奴隷にする。
そんな単純なことではないことは、わかり始めている。どうも、我々と交流のない一部のヒトは黒魔族と共生関係にあるようだ。白魔族とヒトの関係は、完全に白魔族が上位にある。
ヒトは白魔族の“家畜”である可能性がある。食用としても、役畜としても、利用されている様子がある。
白魔族と黒魔族の関係もわからない。ホモ・サピエンス以前、ホモ・ネアンデルタールレンシスは、白魔族や黒魔族と激しく戦ったらしい。
その情報は、サビーナたちがもたらしたが、断片的ではっきりしない。だが、サビーナたちが知っている白と黒の魔族でないことも明らかだ。200万年の歳月を経て変化したのか、我々と同様に時渡りをしたのか、そこはわからない。
黒魔族が操るドラゴンは、自然な生物ではない。このことから、黒魔族とドラキュロの関係も気になるが、白魔族も生命工学的技術を持っている可能性がある。
黒魔族はヒトに一目置いている。だが、白魔族はヒトを見下している。
それも捕虜の尋問や接触によって、わかっている。
金沢壮一が俺を見る。
「西アフリカから、白魔族を一掃し、セロも駆逐する。
そうするには、何が必要?」
俺には答えがある。
「装甲車輌と航空機」
「そのほかには?」
「生きたいヒト」
「この世界に死にたいヒトはいない。
いつでも好きなときに死ねるんだから。
野原をほっつき歩けば、いつでも死ねる」
彼の説明の通りだ。
野原を散歩すれば、死体は残らない。ドラキュロが始末してくれる。
金沢壮一が促す。
「来てくれ、見せたいものがある」
工場から出る。そして、別棟の工場に向かう。最初期の工場で木造、車輌班では最も小さい建屋だ。
工場の内部には、何人かいた。粗末な外観とは異なり、内部は明るく、整然としている。
中央に戦車が1輌。
俺が問う。
「ロンメル戦車のようだが、砲塔が違う……かな」
金沢が説明する。
「車台はロンメル戦車だが、砲塔はM24軽戦車の3人用が原型だ。
車体の正面下部と上部の装甲は50ミリ、砲塔の防盾は75ミリ、砲塔周囲は50ミリ。
主砲は、65口径76.2ミリ砲だ。
小さいメルカヴァだよ。
この世界では、無敵だ」
俺は、核心を突く。
「で、どれだけ作れる?」
金沢壮一がうなだれる。
「作れない。
技術者が足りないんだ。
特に製造技術者が……」
俺は話を戻す。
「ノイリンを守るためにも、カンスクの移住者が必要なんだろう?」
金沢壮一は即答した。
「その通り。
彼らが必要。
そして差別主義者は不要。
街の進化は“要不要説”が正しい」
「用不用ではなく……」
「あぁ、要不要だ」
ラマルクの進化論“用不用説”は否定されている。獲得形質、つまり、親の努力は子に遺伝しない。しかし、街は“要不要説”が適用される。街の存続には、いろいろなヒトは必要だが、差別主義者だけは不要だ。
昼食は相馬悠人とともにする。
おそらく、同じ話だ。カンスクの移住者を受け入れ、差別主義者を追い出す算段だ。
相馬悠人は、昼間から焼酎をすすめてきた。
彼の関心は西アフリカの情勢にあった。西アフリカの話から入ろうとするので、俺からカンスクの移住を振った。
「西アフリカよりも、カンスクの問題はどうするの?」
相馬悠人は、何事もないかのように答える。
「反対する連中ははっきりしている。
リストがあるんだ。
そのリストはブロウス・コーネインが作ったんだが、我々が手に入れている。そして、ヤツのリストに、独自の情報を加味したんだ。
ブロウスにシンパシーを感じているだけのバカ者もいるだろうけど、カンスクからの移住者受け入れを発表したら、リストの連中がどう動くかだ。
動いたものを捕らえ、ノイリンから追放する」
俺は、相馬悠人の計画が乱暴だと感じた。
「しかし、反対しただけで、拘束なんてできないだろう?」
相馬悠人は、焼いた肉を切るナイフの動きを止める。
「半田さん……。
ブロウスに同調しているヒトは、少なくない。北地区以外にも同調者が出始めている。
各地区の指導者は最初は眉をひそめる程度だったが、いまじゃ、相当な危機感があるんだ。
私も、だ。
ここで始末しないと、厄介なことになる」
俺は、ブロウス・コーネインにそれほどの影響力を感じなかった。
「すまない、認識が違っていたら……。
ブロウスは言葉巧みかもしれないが、たいした人物には感じなかった。……のだが……」
相馬悠人は肯定する。
「その通り。
ブロウスは、扇動はできても、組織を率いるほどの実力はない。
だが、元世界で政治家の経験がある何人かが同調しているんだ。こいつらは、扇動以上のことができる。
中心になっているのは4人。
4人とも40歳以上男性。1人は西欧系、1人は東欧か南欧系、1人はインドかパキスタン系、最後の1人はアラブかペルシャ系ではないかと推測している。
4人とも第1世代で、事故、病気、それ以外でも家族は欠けていない。ドラキュロに追われた経験もないらしい。
この4人とその家族が本命だ」
俺はようやく、本質が見えてきた。
「その4家族が、ブロウスを利用した?」
相馬悠人は少し考えた。
「それは違うと思う。
ブロウスの主張は受け入れられやすいんだ。
斉木先生の受け売りなんだが、ラマルク進化論“用不用説”は、よく使う器官は発達し、使わない器官は後退する。それが世代を重ねることによって、よく使う器官は機能的に進化し、使わない器官は退化する。
親が獲得した形質は遺伝し、それが連続することで進化を促す、獲得形質の遺伝による進化論だ。
この説と、フランシス・ゴルトンの優生学が結びついて、優秀な親から優秀な子が産まれ、親の才能や努力は子に遺伝すると解釈された。
しかし、獲得形質は遺伝しないし、優生学はまったくの似非科学だ。
ブロウスの主張は、最初から根拠はない。
でも、受け入れられやすいんだ。
特に、政治家、軍人、成功した商人には……。
優生思想の目的は多々あるが、人種を改良することで遺伝的な病気を克服すること、優秀な民族に他民族の遺伝子が入り込まぬよう人種を保護すること、身体的・知性的に優秀な個体を創造すること。
これが、生殖制限となり、異なる人種間の婚姻を制限したり、遺伝的な病気を抱えるヒトに産児制限を課したり、果ては優秀ではないとされた民族を皆殺しにしようとしたり、とバカな真似に走るんだ。
優生思想=差別思想なんだ。
遺伝子は多様なほど、生存確率が高くなる。つまり、ヒト祖先は別種と出会えば挨拶代わりにセックスして、子を産み、遺伝子を多様化させてきたから、生き残れたんだ。
それと、真逆なことをブロウスの同調者たちはしたいわけだ。
これは、ノイリンの存続にかかわる重大な問題だ」
俺は、斉木五郎の影響が大きいことは知っている。斉木五郎がいなければ、西ユーラシアのヒト、精霊族、鬼神族、黒魔族は饑餓に陥っていた。
相馬悠人であっても、斉木五郎からの思想的影響は排除できないということだ。
彼がいうノイリンの存続とは、5年、10年のスパンではない。数百年、数千年のことだ。
俺が問う。
「説得はできない?」
相馬悠人が答える。
「斉木先生が試みた。科学的に、子供でもわかるように、かつ論理的に。
でも、ダメだった。
結局は、でも、でも、だって、だ」
俺は心配していた。
「ある意味、暴力を使うことになる。
思想弾圧でもある。
思想と心情の自由は認められるべきだ。
多くの街人は支持しないんじゃないか?」
相馬悠人は即答した。
「支持してくれる。
連中は、すでに問題を起こしているからね」
俺は驚いた。
「問題?」
相馬悠人が笑う。
「一部の外見的特徴を持つヒトを、追い出せと主張しているんだ」
俺は唖然とした。
「外見?」
相馬悠人は、ジャガイモ焼酎を一気に飲み干す。
「黒髪以外の体毛のヒト……」
俺は、口を開けっ放しにしてしまった。
「なぜ?」
ブロウス・コーネインは、金髪・碧眼を尊んでいた。
「ブロウスの同調者は、ブロウスと完全に同調しているわけではない。
ブロウスの信奉者は10代男女が中心だったが、同調者は高齢の男性が多い。
彼らは精霊族を嫌っていて、黒髪以外は精霊族の血が混じっている疑いがあるから、ノイリンから追放すべきだと考えている。
実際に、その主張を声高に主張し始めている。
私は、ブロウスの信奉者と同調者を一緒くたにして、ノイリンから追い出すつもりだった。
それを、半田さんが邪魔した」
俺は驚いた。
「邪魔した?」
相馬悠人が少しだけ口角を上げる。
「せっかく居館を襲わせたのに、半田さんは健太とブロウスの喧嘩に矮小化してしまった。
ブロウスと信奉者たちによるクーデターとすれば、似た主張をしている同調者たちも捕らえて問答無用で追い出せたんだ。
連中を追い出してから、カンスクからの移住者受け入れを発表するつもりだった。
半田さんのおかげで、何もかも台無しだ!
健太のがんばりも、親が潰した」
俺は健太の名を聞き、口元からテーブルにグラスを置く。
「健太は?」
相馬悠人が呆れる。
「健太が、ヒトをぶっ殺すなんていいふらすと思うか?
あの子が?
健太は、アビーやシルヴァの一部ヨーロッパ系、ララやその他の精霊族に対する、すれ違い様に放たれる悪口・侮辱に我慢できなかったんだ。
で、私が頼んだ」
俺は、心底驚いた。
「健太が感じるほど……、ひどくなっていた……?」
「急速に。
健太は、同調者の子や孫に目を付けられて、殴られたりもしたんだ。
パパとママはいないし、幼い翔太を守らなくてはいけないし、それでも両親の代わりに役立とうと必死だった」
俺は、震えていた。
「健太が殴られた……。
誰にだ?」
相馬悠人が声を出して笑う。
「その件は終わり。
珠月ちゃんがしっかりと対応した。
10代の男の子4人を相手に大立ち回りをして、4人とも地面に這いつくばらせた。
須崎くんが、わざとらしく止めに入って、4人は逃げていった。
どちらにしても、子の努力を親が台無しにした。
で、新たな策を考えた。
それが、カンスクからの移住者受け入れ発表だ。
それで反対者が現れたら、ブロウスの一味として、しょっ引く。
そして、追放。
めでたし、めでたし……」
俺は、肝心なことを尋ねる。
「移住発表はいつ」
相馬悠人が即答。
「明日」
俺が尋ね返す。
「明日!」
相馬悠人が皮肉な笑いをする。
「あぁ、子の努力を親が台無しにしたんだ。その落とし前をつけてもらわないと。
半田さんに……」
俺は頭を抱えた。
イロナがAK-47の弾倉を半田千早に渡す。
半田千早は、弾倉を素早く交換する。イロナはミエリキにも弾倉を渡す。ミエリキはRPK軽機関銃の75発ドラム弾倉を外し、30発箱型弾倉を取り付ける。
王女パウラは石垣に身を隠し、弾倉に弾込している。石垣の隙間から麓を見ると、4輌の戦車と2輌の戦車が砲撃戦を始める瞬間を見た。
長い砲身の2輌が停止し、先に発射。短い砲身の戦車2輌がガクッと音が聞こえたと錯覚するほど、急停止した。
短い砲身の2輌が発射する。1発は外れたが、1発は命中。だが、命中弾を受けた砲身の長い戦車は、何事もなかったように前進を始める。
擱座した短い砲身の戦車の砲塔から、1体が這い出る。それを長い砲身の戦車が同軸機関銃を発射して、撃ち殺す。
短い砲身の戦車は、1輌しか残っていない。
砲身の長い戦車が左右に回り込むと、短い砲身の戦車は急停止し、全速で後進を始める。長い砲身の戦車は2輌が同時に停止し、2輌はわずかな誤差で主砲を発射する。
砲身の短い戦車は、爆発炎上し、砲塔が高々と舞い上がる。
同時に、王女パウラは弾倉に弾を満たした。弾倉を取り付け、コッキングボルトを引き、石垣の切れ間から白魔族に向かって発射する。
プカラ双発攻撃機の機首には、7.62ミリ機関銃4挺と20ミリ機関砲2門が装備されている。
この20ミリ機関砲弾でも、白魔族の戦車を破壊できた。白魔族の小さな戦車は、猛禽に襲われる小動物のように逃げ惑い、プカラ双発攻撃機はやや鈍重な機体をものともせず、獲物に襲いかかる。
稼働している白魔族の戦車と装甲車が皆無になると、山頂を攻め切れていない白魔族の歩兵は浮き足立つ。
特有の甲高い奇声のようなものを発し、歩兵が山を下っていく。
プカラ双発攻撃機が飛び去っていく。
半田千早は、それを見送っていた。
ミエリキが走り寄る。
そしてポツリといった。
「また、私たちだけになっちゃったね」
半田千早が答える。
「そんなことないよ。
戦車がいる」
ミエリキが微笑む。
「すごく強そうな戦車だね」
半田千早が答える。
「うん。
きっと、金沢さんが作ったんだ」
ミエリキが尋ねる。
「カナザワ?」
2人の会話を聞いていたアクムスが教える。
「ノイリンのカナザワ。
車輪の精霊に守護された男……。
ヒトで初めて、ヒトが作った道具に宿る精霊に守護された男だ。
クラシフォンの高位呪術師は、車輪の精霊を800年ぶりに誕生した新生精霊とした。
チハヤはカナザワを知っているのか?」
半田千早は少し自慢げに答えた。
「知ってるよ。
小さいときから。
金沢さんに自転車を作ってもらったんだ」 アクムスは自転車を知らなかったが、車輪に守護された男が少女に作ったものとは、何なのか非常な興味があった。
アクムスが自転車について尋ねようとすると、上空を旋回していた単発機から何かが落ちた。
それがヒトとわかるまで、少しの時間を要した。
パラシュートが開き、ヒトが地上に降りてくる。
クマンの驚き様はたいへんなもので、フルギアやヴルマンも大騒ぎとなる。
空からヒトが降ってきたのだから……。
半田千早には本能で誰かわかった。
「ママだ!」
マルユッカが叫ぶ。
「全員乗車!」
バギーと装甲トラックが穴から引き出され、残り少ない物資を回収し、ゆっくりと山頂から麓に下る。
すでに降下したヒトは着地していて、パラシュートを回収している。
地上を進んできた部隊が、降下したヒトに向かっている。
バギーと装甲トラックは、かなり遅れて地上を進んできた部隊と合流する。
半田千早は城島由加に抱きつきたかったが、非常な努力でその衝動に耐えた。
マルユッカが敬礼しそうになる。
「司令官」
城島由加が頷く。
「損害は?」
マルユッカが応える。
「負傷者6。うち重傷2。死者はいません」
城島由加が賞賛する。
「この状況で、死者がいないなんて……。
さすが先生」
「司令官のお教えを守りました」
「真希先生の教えの成果ね」
「司令官からは戦い方を、マキ先生からは医学を学びました」
城島由加が促す。
「ここから20キロ、西に移動する」
マルユッカが応える。
「了解しました。最後部につきます」
数本の木立がある開けた草原の一画に、全車が集合する。
城島由加が報告を求める前に、マルユッカが発言の許可を求める。
「司令官。
白魔族が、この一帯に進出しています。
海に出ようとしているのだと思います。
それと白魔族は、相当以前からこの一帯の情報を集めていた形跡があります。
クマン領内の勢力、黒羊騎士団は、白魔族と関係があります。
想像ですが、西ユーラシアの北の伯爵配下黒羊旅団と同系ではないかと……。
白魔族の全容がわからないので、何とも判断できませんが、今後、白魔族が最大の脅威になるのでは、と思うのですが……」
城島由加も同じ考えだった。
「クマンの人々にはすまないことだけど、セロの調査は後回しにしないと。
白魔族は新型の戦車を使っていた。白魔族は何百年間もほとんど変化を見せていないと聞いていたけど、今回は明らかな変化がある。
わずかな改良ではない。車体もサスペンションもまったくの新型だった。
なぜ、白魔族に変化が起きたのか、知る必要がある。
それと、白魔族の戦車は、航空攻撃を受けると、明確な回避行動をとった。
と、いうことは、航空攻撃を受けたことがあるのだと思う。それも何度も戦っている相手がいる。ヒト、黒魔族、セロ、そのどれもがあてはまる。
西アフリカには、黒魔族もいるのかもしれない。もしかすると、人食いだって……」
マルユッカも同じ心配をしていた。
「セロが西ユーラシアと西アフリカに侵攻したことで、何かのバランスが崩れたのではないかと……。
ハンダさんのいう、ニッチ(生態的地位)が崩壊したのかも……」
城島由加は、俺が常々いっていることを彼女に伝える。
「半田隼人は、ニッチは簡単に崩れたりしないって……。かなり強固なものだといっていた。
だから、崩壊はしていないのだと思う。……思いたい。でも、生態系の頂点付近は、猛烈な嵐に見舞われているのでしょう。
食物連鎖の頂点には、人食いがいる。これは不動。2番手争いを多くの種がやっているのかもしれない。
ヒトはそんな争いに参加したくないけど、白魔族やセロが放っておいてはくれない。
ならば、戦わなければ……」
マルユッカは自分の計画を話す。
「私にできることは……。
白魔族の拠点を探り出さないと。そして、何をしようとしているのか探り出せれば、対抗策が見つけられると思うのです。
どうか、私に調査をお命じください」
城島由加が驚く。
「いや、いったんバンジェル島に戻り、準備を整えてから……」
マルユッカは、すぐに動きたい気持ちが強かった。
「この近くに白魔族の拠点があるはず。発見できれば、何かわかるかもしれません」
半田千早が発言。
「もう少し東に行けば、きっと何かわかるよ」
城島由加は、少し考えた。
そして、マルユッカに問う。
「何が必要?」
マルユッカが答える。
「機動力のある車輌があれば……」
城島由加が尋ねる。
「まさか、1人で行く気では?」
マルユッカが動揺する。
「そのつもりですが……」
城島由加が呆れる。
「それは許可できない」
マルユッカは引き下がらない。
「危険な任務ですから、私1人で……」
城島由加が全員に尋ねる。
「現在よりもさらに内陸を調査する。距離は100キロ程度。期間は1週間以内。
志願者はいるか?」
半田千早、ミエリキ、王女パウラが即座に手を上げる。
やや遅れて、アクムスとイロナも手を上げた。救出部隊からクマンのトウガン、ブルマンのギャエルが手を上げた。
王女パウラが発言。
「司令官。
クマンの危機なのです。私は行かねばなりません」
ミエリキが疲れた表情で一言。
「やられっぱなしじゃ、帰れない」
アクムスは、現実的な意見。
「地上に地形上の目印がほとんどない状態では、位置は天測に頼らなくては……。
私は天測ができる。ぜひ参加したい」
イロナは、微笑むだけ。
クマンのトウガンは、「私は、王宮に使えていた。ただ1人となった王家直系のお供がしたい」
ブルマンのギャエルは、「私はノイリンで学んだ。植物の知識がある。役に立てると思う。それに、西アフリカの植物には、とても興味がある。
いや、これは調査の目的とは別なことだが……。
それから、装軌車の操縦ができる」
マルユッカが許可を求める。
「8人いれば十分です。
バギーと装軌車2輌で、さらに深部を調査します。
許可いただけますか?」
城島由加は逡巡していた。半田千早だけダメとはいえず、マルユッカの提案自体を却下するかを考えた。しかし、彼女の理性は、調査の必要を認めている。
「調査を許可する。
ただし、5日で調査を打ち切り、7日で帰還すること」
マルユッカは周囲を見回して、軽く敬礼する。戦場では敬礼はしないと定められている。城島由加は、マルユッカが命令に従順であることをよく知っていた。
「7日で必ず帰還します」
マルユッカが選んだ車輌は、新型のロンメル戦車、ジューコフ装甲車ではなく、牽引車として使われているスカニア戦車とヘグランド装甲車だった。
その理由をマルユッカが城島由加に説明する。
「山頂から見ていると、スカニア戦車は実に軽快に動いていました。
この調査には、本格的な装甲車輌が必要だとは思いません。ですが、一定の武装は必要かと……。
スカニア戦車の主砲ならば、白魔族の戦車を破壊できます。そして、前面装甲は白魔族戦車の主砲弾を跳ね返しました。
スカニア戦車でも白魔族の戦車と正面から戦えます」
城島由加は少し考えた。
「ヘグランド装甲車はともかく、スカニアよりもロンメル戦車のほうが……、よくはない……?」
マルユッカはどう答えるか考えた。
「ロンメル戦車は、パワーウエイトレシオ(馬力重量比)は高いようですが、車体が大きいのでやや取り回しに難があるように感じました。
その点、スカニア戦車はちょこまかとよく動くというか……。小型なので、燃費もよさそうにも思いますし……。
我々は機甲戦の専門家ではありませんし……」
城島由加は微笑んだ。
「では、隊員8名、スカニア戦車、ヘグランド装甲車、装甲バギー各1輌を使った、海岸線から500キロ圏までの内陸調査をマルユッカ隊に命じる」
マルユッカは衝動的に、半田千早たちには真似できない立派な敬礼をした。
マルユッカ隊3輌は50キロ東進した。ここからさらに50キロ東へ行けば、許可された海岸線から500キロとなる。
マルユッカは命令に忠実な指揮官であった。特段の事情がない限り、興味本位で許可されていない領域に踏み込むような行為はしない。
それと、彼女は海岸線から500キロまでとされた意味をよく理解している。
500キロ圏内であれば、バンジェル島からの航空支援が得られる。そして、ヘグランド装甲車には出力の大きい無線が装備されている。
周囲の風景は大きく変わっていた。森は川の岸辺付近だけとなり、それ以外は草原となった。起伏はあるが、ほぼ平坦な大地が続く。草の丈は30センチから3メートルほど。丈の高い草の原は視界が悪く、走行に難渋する。
どこまでも続く草原であっても、快適に走れるわけではない。選択できるルートは、限られる。
道を見つける。
車輌が通ることで固められた自然道だが、履帯のパターンがくっきりと残る。白魔族の戦車の履帯痕だ。多数の車輌が通過しただけの獣道のようなものだ。
草原に一直線の赤土の露出が続く。明確に道だ。
その道は、北から西に向かっている。西に向かっている理由は、先ほど渡渉した浅い川のためだろう。
マルユッカは、この道を使うか、それとも避けるか迷った。
闇雲に草原を進んでも、白魔族の手がかりを得られる可能性は低い。白魔族の痕跡があるのだから、それをたどることは理にかなっている。
だが、同じルートを進めば不期遭遇戦がありえる。彼女の隊は、威力偵察部隊ではないし、そもそも戦闘部隊でもない。ただの調査隊だ。
不期遭遇戦となれば、一方的に叩かれる可能性だってある。
眼前の手がかりをどうすべきか考えた。
クマンのトウガンが跪いて履帯痕を観察している。
「隊長、車列は北に向かっている。我々と戦った部隊かもしれない」
ヴルマンのギャエルは、徒歩でかなり北まで進んでいたが、走り戻る。
「マルユッカ隊長、履帯は3種類、2つは金属、1つはゴムだ。
鋲打ちのちっこい戦車とやたら頑丈そうな戦車の履帯だ。履帯のパターンは、饅頭山の麓で確認しておいたから、確実だ。
ゴムは装甲自動車。それと蹄の痕もあった。荷馬車だろう」
アクムスが意見を具申する。
「この道を北に向かいましょう。警戒しながら、進めば、敵と遭遇しても対処できます。
脚は我々の方が速いのですから……」
マルユッカが決断する。
「そうしよう。
この轍痕は、重要な手がかりだ。見過ごすことはできない」
半田千早が運転するバギーは、兵装を交換していた。7.62ミリ電動ガトリング砲のミニガンでは、弾薬の消費が激しすぎ、補給がままならない今回の調査では不適当なためだ。
7.62ミリ汎用機関銃MG3を車体上面簡易銃塔に装備している。この簡易銃塔は上部に頑丈な金網が張ってあり、ドラキュロの侵入を阻止でき、手榴弾を投げ込まれることも防げる。
同じ簡易銃塔は、ヘグランド装甲車の展望塔も装備している。ヘグランド装甲車は、12.7ミリNSV重機関銃を簡易銃塔に装備する。
スカニア戦車は、車体最前部がトランスミッション、その直後が横置き直列4気筒ディーゼルエンジン、その後部中央に操縦席、最後部が戦闘室、戦闘室の真上に砲塔が載る。
砲塔はおなじみのFV101スコーピオン戦車と同型で、2人用。車長は装填手を兼ねる。砲手は60口径76.2ミリ戦車砲と主砲の旋回俯仰と連動する同軸機関銃を操作し、このスカニア戦車には砲塔の車長用ハッチに7.62ミリ汎用機関銃を増備している。同軸機関銃と装備された汎用機関銃は、どちらもMG3だ。
スカニア戦車とヘグランド装甲車の乗員には、折りたたみ銃床のAK-47アサルトライフルが支給されている。
隊長のマルユッカは、ヘグランド装甲車で指揮をする。通信手はアクムスが担当。
スカニア戦車の車長は、イロナが務める。
マルユッカが命じる。
「チハヤ、5キロ北上し、障害物の有無を確認」
半田千早は戦場と心得て敬礼せず、ミエリキ、王女パウラとともに、バギーに乗り込む。
道幅2メートル50センチほどしかないが、平坦で固く締まり走りやすい。路面が乾燥しているので、速度を出すと土煙が上がる。
そのため、バギーは時速30キロほどで進む。存在を秘匿するためだ。
ちょうど5キロ進むと、前方200メートルに倒木が横たわっている。直径1メートルもある巨木だが、周囲にはこんなに太い木はない。
ミエリキが「進もう」といい、半田千早がゆっくりと前進させる。
フロントウィンドウは土埃で汚れており、視界はあまりよくない。
助手席の王女パウラが息を呑む音が聞こえた。
5メートルまで近付くと、その倒木が動き出す。
その動きは早く、後端に向かって細くなっていく。
ミエリキがいった。
「いまのヘビだよ」
半田千早は前方を凝視したまま、何もいわない。
助手席の王女パウラがポツリといった。
「戻りましょう」
半田千早は、無言でUターンをする。草原に強引に入っての方向転換ではなく、路上で何度も切り替えした。
バギーの帰りを路上で待つマルユッカたちは、別な動物を見て、車内に逃げ込んでいた。
体長5メートル以上のワニに似た爬虫類と思われる動物で、後肢が発達しており、後脚で立ち上がって歩く。
姿は恐竜に似ているが、足の指が5本あり、3本の恐竜とは明確に異なっていた。
クマンのトウガンは、「見たことはないが、ポストスクスと呼ばれている陸棲ワニではないか?」と。
ポストスクスは、装甲車と戦車に近付いてきたが、すぐに立ち去った。その動きは敏捷で、とてつもなく恐ろしい動物と感じた。
半田千早たちは、装甲車輌2輌と合流したが、誰も車内から出てこない。
しかも、彼女たちにも車内にとどまるよう指示があった。
半田千早たち3人も胴体だけだが巨大なヘビを見ていて、この草原がひどく恐ろしげな場所であることは承知していたので、金属の車体から外に出ようとは思っていない。
3輌は無線で会話したが、胴体の直径が1メートルもあるヘビや、2本足で立ち上がるワニの話で、奇妙に盛り上がった。
長い四肢を持ち群で行動する、草を食むワニも見たという。
大西洋沿岸部と異なり、この一帯は爬虫類が支配する世界。
このことをクマンはよく知っていたし、バンジェル島でも、この情報は広く共有されていた。ただ、表現が悪く“内陸深部はジュラシック・パークみたいだ……”は、スティーヴン・スピルバーグ監督の作品を見たことがない人々にはまったく伝わらない。
そして、どういうわけか“ジュラシック・パーク”シリーズの映像は、少なくともノイリンでは発見されていない。
半田千早を含めて、全員が恐れおののき、全員がワクワクしている。恐怖から装甲内からは出ないが、面白くて無線はにぎやかだ。
マルユッカが命じる。
「これより北に向かう。
各車車間をとり、時速30キロで前進」
20キロ北上すると、草原の植生が少し変化する。丈嵩があるイネ科から、30センチほどのキク科やケシ科の草本に替わる。
同時に視界が開け、異様な世界が露になる。
恐竜のような二足歩行のワニに似た爬虫類。体長5メートルに達する草食のイグアナ。メガラニアを彷彿とする体長10メートルに達するオオトカゲ。全長20メートルに達する巨大ヘビ。
鳥もいる。
羽毛恐竜と見間違う、体高2から5メートルに達する各種の走鳥類だ。ダチョウやエミューのような姿ではなく、嘴と羽毛のあるティラノサウルスのようなスタイルだ。
もちろん肉食。恐竜絶滅直後に現れた恐鳥のようでもある。
まるで、新生代第三紀と中生代三畳紀をシャッフルしたような異様な世界……。
マルユッカは、「こんな怪物の棲む土地でヒトは生きられない」と呟いた。
草原を30キロ北進すると、また風景が変わる。シマウマやガゼル、ヌーなど、アフリカ固有の草食獣が群を作る。その数は、数万なのか数十万なのか見当がつかないほど。
キリン、ゾウ、サイ、水辺にはカバもいる。風景は半田千早が知っている典型的なアフリカに近い。
彼女には、遥か東にあるセレンゲティ平原の風景が、西アフリカに移植されたように思えた。
しかし、何かが不自然だ。
「何だろう、何かヘン……」
揺れる車内で、隣に座る王女パウラに語りかける。
王女パウラにとって、見るものすべてが新鮮だ。半田千早がいう“ヘン”がわからない。
無線に応答がある。
マルユッカだ。
「確かに……。
何かが足りない……、気がする……」
マルユッカが命じる。
「全車停止」
車間を詰め、全車が停止する。
マルユッカの声が無線から聞こえる。
「わかった。
哺乳類の捕食動物がいない!
捕食者は、爬虫類と鳥類だけ!」
半田千早も同意する。
「ライオン、チーター、ヒョウ、ハイエナ、リカオン、サーバル、カラカル……。
肉食の哺乳類がいない!」
半田千早は極度の緊張を感じ始めている。ここは、200万年前とは異なる生態系だ。
マルユッカは前進を命じ、10キロ北進して低いなだらかな丘の頂に達する。
半田千早の眼前には、異様な光景が広がっている。数百輌に達する戦車の残骸だ。
周囲に動物の姿はない。
丘の頂から北を見る。草原ではなく、土がむき出しになっている。土漠にも見えるが、それほど乾燥してはいない。
低い丘が連なる谷のような地形で、幅2キロ、奥行き5キロほど。
丘を降りて、戦場に向かう。
南に車体前方を向けているのは、白魔族のルノーFT-17似の2人乗り軽戦車。北向きは白魔族が使っていた、新たに確認された戦車だ。
数量の多砲塔戦車も残る。
新たに確認された戦車は、バンジェル島からの連絡によれば、オチキスH35という第二次世界大戦直前にフランスによって開発された2人乗りの軽戦車に酷似していることがわかっている。
おそらく、同一設計と思われる。主砲は、どちらも砲身長21口径37ミリ砲だ。装甲貫徹力は距離1000メートルで15ミリの圧延装甲板を貫徹できる程度。砲口初速は秒速600メートルと低く、高速で移動する目標に命中させることは得手ではない。
これらは、白魔族との戦闘によって鹵獲した車輌や兵器の調査によって、判明している。
ただ、新型オチキス戦車の前面装甲は、最大40ミリもあり、防御は固い。ルノー戦車では破壊できないが、オチキス戦車は最大装甲厚22ミリのルノー戦車を距離500メートル以内ならば破壊できる。
しかし、この戦場には、ほぼ同数のオチキス戦車とルノー戦車が残されている。
オチキス戦車は、多砲塔戦車の75ミリ主砲によって撃破された可能性が高い。
車体の塗装が残っていることから、戦闘は数年前かもしれないが、数十年前ではないだろう。
半田千早は、この戦車の墓場のような古戦場を観察しながら、冷静でいられる自分に呆れていた。
白魔族と思われる骨も散見できるのに……。
マルユッカがいった。
「薄気味の悪いところね。
私がいってはいけないことだけど……。
どの戦車も損傷が激しいけど、オチキス戦車は装甲を撃ち抜かれた車輌は少ないみたい。
たぶん、歩兵の肉迫攻撃に殺られたのでしょう。
だけど、白魔族は誰と戦ったの?
オチキス戦車は白魔族の戦車なの、それともヒトかヒト以外の種の戦車なの?
何もわからない。
謎は深まるばかり……」
半田千早は、損傷の少ないオチキス戦車を探していた。
白魔族の戦車は、ヒトが作っているといわれている。しかし、その証拠はない。単なる噂だ。
オチキス戦車も白魔族の戦車ならば、何かわかるかもしれない。
半田千早は、白魔族の正体を無性に知りたくなった。
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