200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚

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第1章

第一八話 北方低層平原

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 我々がキャンプを設営した北方低層平原が、どのようにして形成されたのか、その地質学的な過程は想像すらできない。
 二〇〇万年間に何があったのか?
 どんな、地殻変動があったのか?
 アフリカ大陸とユーラシア大陸が衝突するその現場で、プレートのわずかな揺らぎでどんなことでも起こるということだ。
 ならば、二億年後に至った人々の苦難は、我々の比ではないだろう。

 全員が屋外に集まっている。
 立っているものもいるし、クルマの車体に身体を預けているもの、空き箱に座っているもの。
 周囲への警戒は怠らないが、議論には全員が参加している。
 納田が、「半田さん、こんな寒いところで、冬を越すの?」と俺に尋ねた。
 相馬が俺に代わって、「この寒さが、我々を守ってくれる。冬になれば、誰も近づけなくなるよ」と答えた。
 片倉が提案をする。
「この一帯には、村が残っているでしょ。それは、この場所が生活に向いていたからだと思うの。
 アラスカやシベリアにもヒトは住んでいるし、日本だって旭川はマイナス四〇度まで下がったことがあるし。
 問題は、その寒さをどうやって乗り切るかでしょ。
 この村の家屋を調べたんだけど、壁と床はコンクリートでできているの。壁の厚さは二〇から二五センチもある。これなら、外気を防げる」
 能美が、「鉄筋コンクリートなの?」と尋ねる。
 片倉はその疑問に丁寧に答えた。
「鉄筋はないの。鉄筋があると、錆びてコンクリートを破壊してしまう。
 ここの家屋は、コンクリートと大きさが異なる砂利を混ぜて造られている……。
 だから、何百年もの耐久性があるの。ローマの遺跡と同じ工法……」
 能美が片倉に尋ねる。
「屋根はどうするの?」
「単管パイプを組み合わせれば、三棟分の屋根の骨組みにできる。
 その骨組みに細い丸太を載せて、屋根を葺くのが一番簡単かな」
 能美がさらに尋ねる。
「それじゃ。雨漏りがするでしょ」
 金沢が「ブルーシートで覆えば」というと、納田が「強い風には耐えられないよ」と反対する。
 片倉は少し思案していた。
「相馬さんが粘土、陶芸に使うような粒子の細かい土を見つけてくれた。これを丸太と丸太の凹みに押し込めば、雨漏りはしないかも。
 少なくとも、壁の隙間にはこの粘土が使えると思う。
 日本の古民家の泥壁と同じ……」
 片倉は金沢を見た。
「金沢くん。あのトラックは直る?」
「ボンネットの泥を洗い流さないと。簡単じゃないですよ。エンジンとトランスミッションはともかく、電装品は全取っ替えしないと」
 由加が片倉に尋ねる。
「片倉さんは、あのトラックに固執しているけど……」
「建設には八トン車のクレーンが必要なんだけど、オムスビを付けていると車高が上がってしまうので、アウトリガーが地面まで届かないことがあるの。ギリギリの状態じゃ、事故を起こしかねない。
 車輪に付け替えたら、丸太を運ぶトラックがなくなる。
 それに物資は増える一方。それを運ぶ方法も考えておかないと」
 由加は納得したようだ。
 金沢が応じる。
「三台とも直しますよ。ウニモグの六輪トラック、同じくウニモグの工作車、それにOT64もね」
 ディーノが金沢に、「OT64?」と尋ねる。
「あの、八輪装甲車ですよ。あれは、ポーランド製のOT64装甲兵員輸送車です。水陸両用だし、いいものを見つけました。車体後部は座席を撤去してあって、完全な物資輸送用に改造されています」
 ディーノが手を上げて「いいですか?」と断ってから、発言を始めた。
「私が参加した隊の募集では、車両の重量制限がありました。
 車体と積荷の合計が八トンまで。
 しかし、隊の事務局が用意した車輌のなかには、どうみても一〇トンを軽く超える車輌もあったんです。
 あの六輪トラックもその一台。工作車も一〇トン以上あるでしょう。
 もともと〝ゲート〟に入る民間車には、横幅と重量に制限があったんです。
 幅三メートル以下。総重量二〇トン以下。
 隊の参加者のうち、自前の車輌を用意した人々は、重量八トン以下の制約を受けて、ほとんどがランドローバーやゲレンデワーゲン、あるいはピックアップ・トラックで参加しました。
 そういった車輌が七〇台くらい。三〇台は事務局が用意しました。
 うち一〇台は、二〇トンに達しようかという大型車でした。
 私たちが〝ゲート〟を出ると、他の隊の人たちがすでにいました。
 その後、別の隊もやって来て、車輌の総数は一二〇台を超えたと思います。
 別の隊の二隊か三隊に民間人でありながら、軍用車を用意してきた人たちがいたのです。
 あの八輪装甲車は、その人たちが持ってきたものです。装甲車のことは覚えています。六輪が四輌、八輪装甲車も四輌。
 ヘリコプターで吊り上げる際、大騒ぎになりましたから……」
 私がディーノに尋ねる。
「戦車はありましたか?」
 由加が笑った。戦車などあるわけない。履帯の装甲戦闘車輌で、時速六〇キロを維持できる、つまり最大時速七五キロを発揮できる車輌は最新型に限られる。戦車でも歩兵戦闘車でも、そんなものを民間人が手に入れる方法などほとんどない。俺も純粋な戦車はないだろうと考えている。
 しかし、俺と由加の予測とは異なる答えが返ってきた。
「二台見ました。戦車なのか、戦車ではないのかわかりませんが……。
 スコーピオンよりも少し大きいものと、かなり大きい戦車……。小さい戦車はイギリス人が、大きい戦車はチェコ人が乗ってました。
 それと、戦車みたいに大砲が付いていて、車輪で走るものが二台ありました。
 車輪の戦車は、オランダのグループが持ってきたようです」
 金沢が「機動戦闘車……」と呟く。
 由加が「まさか……」と返した。
 俺が「どちらにしても、ディーノさんたちのグループの物資は、詳しく調べないと」というと、ディーノが「車輌と物資の集積場所は、もっと南、ここからだと南東方向だと思います。大きなコンテナが二つありました。あれが残っていれば、目印になると思います」と返した。

 俺たち三〇人は、建設チーム、捜索チーム、車輌修理チームの三隊に分かれた。
 俺は、物資を探す捜索チームを指揮することになった。人数はさけないので、その都度、一人か二人に参加してもらう。

 探査初日は、俺、デュランダル、斉木の三人でハンバー・ピッグで向かった。ハンバー・ピッグの車輪を履帯に付け替えている。
 捜索のほとんどは、ドローンによる上空からの観測で、車輌が密集している場所は見当たらず、広範囲に点在している。
 クロカン四駆ならばあらゆる車種がある。だが、小型車の荷には目当ての物資はなく、バッテリーなどが主な回収品になる。

 こんな捜索が何日も続き、捜索範囲は徐々に南に移っていく。
 捜索開始から一二日目、初めて中型以上のトラックを発見した。
 しかも車体には損傷が見られない。ドアが開いており、車内は泥だらけだが、エンジンルームは意外なほどきれいだ。
 車体は低床のロングボディ。四輪駆動だが、悪路走破性は低いだろう。
 積荷は各種道具類。チェーンソー、草刈り機、高圧洗浄機、揚水ポンプ、小型発電機など。頑丈そうな業務用小型洗濯機と掃除機もある。
 俺たちにとっては、貴重な物資ばかりだ。
 ドラキュロとの接触を恐れていることもあり、車輌ごと回収することにした。

 俺たちが北方低層平原と呼んでいるこの一帯は、東西最大九〇キロ、南北最大五〇キロほどの広さがある。
 面積はざっと二〇〇〇平方キロ。これは、東京都の面積に匹敵する。
 ディーノの情報だけでは〝最初の集積地〟を探し出すことは不可能に近い。
 日々、この現実を突きつけられ始めていた。
 小さな収穫はあるが、大きな成果はない。小さな成果の積み重ねは必要だが、それだけでは現状を打破できない。
 特に、俺が恐れている白魔族の襲撃を退けるには、我々は脆弱すぎる。

 家屋は三棟に屋根が載った。当初の予定では単管パイプを使う予定だったが、切り出した木材で代用できた。
 そして、単管パイプは短波通信のアンテナに使われた。
 ジブラルタルと思われる相手との交信が回復し、我々以外の情勢・情報が手に入るようになった。
 通信の途絶中、ジブラルタルは我々を案じていたらしい。それもあってか、白魔族に関する情報を以前より豊富に伝えてくれる。
 彼らの情報によれば、白魔族の戦車は我々が見た軽戦車だけではない。
 総重量四五トンに達する五砲塔の重戦車、総重量二八トンの三砲塔の中戦車がある。
 中央平原方面には、軽・中・重戦車を合わせて二〇〇輌に達することも知らされた。
 ジブラルタルは、白魔族と長年にわたり戦闘を継続しており、それだけに情報も多かった。
 特に重要な情報は、過去数百年間、白魔族の兵器はまったく進歩していないことだ。ジブラルタルが白魔族と接触して以来、白魔族の兵器は一切の変化を見せていない。
 戦術も画一的で、一切の変化がないそうだ。そのため、無勢であってもジブラルタルは白魔族に対抗しえた。
 このことから推測して、白魔族は固定化された文明しか持たない種族のようだ。

 デュランダルによれば、過去一〇〇〇年間、中央平原の人々は機械文明を取り戻そうと躍起になっていた。
 しかし、それを白魔族と結びつく勢力が阻止してきた。白魔族は変化を嫌う種族なのか、それとも変化できない種族なのか?
 どちらにしても、白魔族を無意味に恐れる必要はない。

 建設チームは、キャンプの周囲に空壕を作り始めていた。また空壕の内側には柵を巡らした。規模の小さい環壕集落であり、ドラキュロには有効だが、白魔族には効果が薄い。
 また、集落周辺の積もった土砂を剥ぐと、石畳が現れた。平滑な石を組み合わせて作った見事なもので、この集落の人々の技術的な高さを垣間見た。
 また、排水の機能もある。これも利用させてもらうことになった。
 四棟目の屋根葺きが始まり、温泉浴場もできた。
 少しずつだが、生活の基盤ができていく。

 雨は何日も降らず、労働は過酷で、誰もが疲れていた。
 片倉の発案で、まる一日の休日となった。子供たちが柵の外でサッカーを始め、それに大人たちが加わり、全員が楽しんでいた。
 ボールがそれて、外周の草むらの方角に転がった。
 それをマーニが追いかけ、すかさず大人数人がマーニを追う。
 一瞬のことだった。
 マーニが呆然と立っている。
「誰かいたよ」とマーニがライマにいった。
 マーニが指差す方向を見ると、草むらが揺れていた。
 ベルタは、ボールが弾んでいることを確認していた。ボールは草むらまで転がっていき、そこで跳ねた。自然と跳ねるわけはない。誰かが持ち上げたのだ。

 この瞬間、サッカー大会は中止となり、子供たちは何もない家の中に入り、大人たちは銃を手にした。

 マーニの目撃証言は詳細で、錯覚と主張するものはいなかった。だが、冬支度は急がなくてはならない。翌日からは警戒しつつ、通常の活動に戻った。

 相馬は釣りの名人だ。二メートル級のサケ科の魚を釣ってくることもある。イサイアスとアンティは狩りの達人。中型のシカを仕留めてくる。
 イサイアスとアンティは、キャンプから一キロほど南にキルベースを設営して、ここで獲物を解体している。
 我々が利用しない部位は、他の動物の餌になる。
 肉と魚は、消費しない分は燻製にした。胡椒などのスパイスは枯渇していたが、ライマが香草やショウガに似た根茎を利用する方法を伝授してくれた。
 ライマは薬草に通じており、能美、納田、ライマで医療チームを構成している。これにユリアナとアマリネが三人の弟子として加わり、医薬品の整理が進んでいる。
 また、五人によって、食用にできる野草の採取も進められた。

 アンティとイサイアスが見つけた農業トラクターに似た車輌は、再度の発見ができていない。
 雪が降り出す前に、集中しての捜索を行う予定だ。

 由加とベルタの発案で、防衛の目的で周囲の草を刈ることになった。半径五〇〇メートルを目標に少しずつ面積を広げていく。
 その作業の途中、キャンプからわずか二〇〇メートルの位置に戦車があった。
 深さ八〇センチほどの窪みのなかで、枯れ草に埋まっていた。草刈りでもしなければ発見できなかった。
 ディーノが見た〝小さい戦車〟だ。
 だが、発見は失望でもあった。あまりにも旧式なのだ。
 由加が、「自衛隊の駐屯地に展示された車輌を見たことがあるけど……。第二次世界大戦の頃の戦車だね。クラッシック・タンクだよ」といった。
 ベルタは、「鉄屑だよ」と一言。
 だが、男の子たちは興味津々。女の子たちは興味なし。
 一人、冷静に観察している男がいた。
 金沢だ。
 発見の夜、金沢は俺を「話がある」と呼び出した。場所は、俺の寝床のタンクローリーのキャビン。
「あの戦車ですが、確かに第二次世界大戦時に開発されたM24軽戦車です。
 車体は!」
「車体は?」
「えぇ、車体はM24なんですが、中身は違います。
 M24はV型八気筒のガソリンエンジンを二基搭載しているんですが、あの戦車は直列六気筒のターボディーゼル一基でした。
 トランスミッションは、オリジナルは車体最前部に搭載していますが、あの戦車はクロスドライブのオートマチックで、エンジンと一緒に車体後部に搭載しています。操縦の仕方は基本は74式戦車と同じです。
 エンジンルームと車体後部の形状も変化していて、エンジンとトランスミッションは車体後部から引き出して整備できるようになっています。
 システム的には最新の戦車と同じなんです。
 燃料タンクも増量されていて、走行距離もオリジナルの一六〇キロから大幅に増加しているはずです。
 砲はオリジナルの口径七五ミリM6ではなく、イギリス製の七六・二ミリL37A1でした。
 これ、スコーピオンと同型ですから、砲弾は同じなんです。砲弾の供給状況から換装したんだと思います。
 射統装置もスコーピオンと同じでした。
 車体の正面装甲が強化されていて、防御力も高いです。
 直せば役に立ちますよ!」
 俺は逡巡した。
「金沢くんは、あの戦車を直してどうするの?」
「白魔族が、ほっといてくれますかね?」
「俺は、ないと思っている」
「なら、やりましょうよ!
 連中が現れてからじゃ、遅いんですから」
「だけど、それを理解させることはたいへんだよ。冬支度だけで、四苦八苦しているわけだし……」
「工作車を動くようにするか、六輪のウニモグを直せば片倉さんは黙ります。
 城島さんとベルタさんは何もいわないでしょう。自分から一〇メートル以内のことしか興味ないですから。
 斉木さんと医療チームは厄介ですね」
 俺は可笑しかった。金沢は人物をよく見ている。
「まかせるよ。何かあればいってほしい」

 翌日から、金沢の車輌修理が始まった。まずは、六輪ウニモグから始めるようだ。
 戦車は柵内に移動され、子供たちのジャングルジムになった。

 イサイアスとアンティが見たという、バケットの付いた車輌の捜索は、成果がなかった。アンティとイサイアスは同行はするが、興味の八割は狩りであった。
 俺たちは、一五キロ南東に進出した。あてがあったわけではないし、この一帯を捜索していなかっただけだから。
 すでに、バケットつき車輌の再発見は半分諦めていた。
 草の丈が高く、視界が悪い。ドラキュロと鉢合わせはごめんだが、その危険は大いにある。
 イサイアスとアンティは、ハンバー・ピッグの上部ハッチから周囲を観察している。
 イサイアスが屋根を叩いて止めろと指示した。
「二時の方向にトラックの屋根が見える」と告げた。
 アンティが屋根に登り、確認している。俺もアンティが指差す方向を見る。
 確かに車輌のルーフが見える。
 そちらに向かう。
 草むらに置き忘れたミニカーのように、イヴェコ社製四輪駆動キャブオーバートラックが乗り捨てられていた。
 ウィンドウは砂に覆われ、キャビンのなかは見えない。アンティが再度ウィンドウ砂を払うと車内には誰も乗っていない。
 俺は積荷を見ていた。
 小型のホイールローダーだ。
 二人に「これを見たのか?」と問うと「違う」と答えた。
 二人が見たのは、キャビンがあったという。このホイールローダーにキャビンはない。
 車体色は赤だったそうだが、これは青と緑のツートンだ。
 イヴェコ・トラックのドアを開けると、埃が舞った。
 牽引ロッドをつなぎ、ハンドブレーキを解除して、ゆっくりと牽引を始める。
 アンティがイヴェコ・トラックに乗るといったが、やめさせた。立ち往生したところで、ドラキュロに襲われたら、助ける術がない。
 ゆっくり牽引すれば、おとなしく付いてくる。

 容易に牽引するために帰りのルートを北寄りに変えた。
 時速五キロの徒歩と大差ない速度でキャンプに向かう。早ければ三時間、要しても四時間でキャンプに到着する。

 途中、イサイアスとアンティが、「見たことのある木がある」と言い出した。
 その木のそばにトラクターがあったという。いままでも同じようなことが多かった。似た枝振りの木が多いのだ。
 ハンバー・ピッグを停止し、イサイアスが屋根に登る。
 遠方にドラキュロを見つけ、身を屈めて、車内に飛び降りる。
 俺が「移動しよう」と提案すると、二人が反対する。二人は「トラクターを見つけた場所だ」と言い張り、木の周りを周回するように要求した。

 最初に見つけたのは、牽引砲だった。砲身の短い大砲で、人間の背丈と比べて小さいと感じる。
 牽引していた車輌がない。
 車輪と履帯で草を踏み倒し、周囲の視界を広げていく、いつドラキュロが飛び出してきても不思議ではない。

 見つけた!
 だが、農業用トラクターではなかった。四輪単座の大型バギーだ。円形ハンドル付き乗用車型のATVで、FRP製のキャビン付きだ。
 車体前面に除雪用ブレードが付いている。これをドーザーブレードと見間違えたのだ。
 車体を調べると、燃料タンクが空。ガス欠で放棄したらしい。
 ATVと大砲を牽引して戻ることにする。今度見失うと、再発見は不可能だ。

 キャンプに戻ったのは、夕暮れ間近だった。ミニホイールローダーを積んだイヴェコ製二トントラック、中型乗用車並の大きさがあるATV、それに大砲まで牽引してきたのだ。
 時速は二キロから三キロがやっと。よく牽引できたと思う。
 ホイールローダーは片倉が喜んだ。
 ATVは金沢が調べたところ、車体後部に油圧機構があり、農作業用アタッチメントがつなげそうだという。
 これに斉木が喜んだ。
 大砲は、由加はM1A1、ベルタはパック・ハウザー、金沢はアメリカ製M116七五ミリ榴弾砲だとした。
 まぁ、七五ミリの旧式牽引砲らしい。砲弾はATV後部の狭い荷台に三発ずつ収めた木箱が三つあった。砲弾はこれだけだ。

 五棟目の屋根葺きが始まったが、これが最後だという。すでに、日中の気温が五度程度まで下がっている。
 以後は、暖炉の整備などの暖房に力点が置かれる。
 それでも、石油ストーブのある一棟は、子供たちに人気だ。コンクリートの床の上に輸送用パレットを敷き、その上を厚手のマットで覆った。
 窓にガラスはないが、木製の鎧戸を取り付け、外気の侵入を防いでいる。
 日没前になると、子供たちはその一棟に逃げ込む。
 大人たちの半分は、まだ車中泊だ。

 再度、マーニが〝誰か〟を見たという。今回は後ろ姿だがシルヴァとアビーも見た。
 マーニは「恐ろしいお面を被っていた」と怯え、シルヴァとアビーは「服を着ていたから人間だ」と主張した。
 我々以外に人間がいることは確かなようだ。シルヴァとアビーは「大人の身長はなかった」といい、「人間の子供だと思う」と推測している。

 現れたのは、大柄な黒人だった。子供を連れている。中央平原では混血が進み、単一の民族になっている。人種は消滅していた。
 デュランダルたちは、黒い肌のヒトのことは知っていたが、出会ったことはなかった。
 男と子供は北から両手を挙げて、「撃たないで」と声をかけながら近付いてきた。歩哨はネミッサだったが、彼女は黒い肌のヒトに怯えてしまった。
 相馬が駆けつけると、引き金を引く直前であった。
 相馬が「止まれ」と叫ぶ。俺は、薄着のままタンクローリーから駆けつけた。
 男は「娘に熱がある。怪我をしている」と叫ぶ。距離は五〇メートル以上離れている。
 こんなところをドラキュロに襲われたら、男と子供はひとたまりもない。
 俺は男に向かって走った。相馬に「男が撃ったら、撃ち殺せ」と言い残した。
 俺が男の眼前に立つと、男は自動拳銃を尻のポケットから抜いて、ゆっくりと地面に置いた。
 俺は男を先に歩かせ、拳銃を拾う。
 キャンプの半分が北の出入口付近に集まっている。他は周囲の警戒にあたっている。
 男と子供が柵のなかに入る。
「あれを見たんだ」といって指差す。
 医療チームが立てた木柱に赤十字の旗が翻っている。
「この子の脇腹が化膿しているんだ」と怯えた声音で告げる。
 納田が「こっちに来て」というと、ライマが診療所のドアを開ける。能美が走ってくる。

 男は怯えていた。最初、高齢かと思ったが、三〇歳を少し過ぎたくらいだ。
 斉木が「腹は減っているか?」と尋ねると、男は力なく頷いた。
 少しのパンを見せると、「娘にやってくれないか」と涙声になる。斉木が「君が食べなさい」と勧めると、男は食べ始めた。
 ディーノが声をかけた。
「貴方のこと、覚えていますよ。
 ウィル・ハーマンさんでしょう?」
「貴方は?」
「この世界に一緒に来た一人です」
 ディーノは「ハーマンさんは、自動車の技術者です」とその場の全員に紹介する。
 金沢が「では、ぜひ協力してください。貴方の手助けが必要です」と下手な英語で伝える。
 俺は、「そんなことより、かなり疲れているようだ。少し休んでもらおう」といった。金沢が微笑んで頷いた。

 ウィルと娘のヘーゼルが現れてから、二日間は何事もなかった。
 ヘーゼルは三七度強の体温があったが、一時は三八度を過ぎるまで上昇した。しかし、抗生剤の効果か、回復に向かっている。
 ウィルによれば、彼のグループにイアンという六五歳の男性がおり、相当に弱っているらしい。
 ウィルはヘーゼルが見つけた我々のキャンプについて、誰にも伝えなかったという。
 その理由を尋ねると、「リーダーのルネと彼の妻ゴルダは善人ではない」と答えた。
 ウィルはイアンを助けたいと思っているが、それはイアンの子のアルベルト次第だということも理解していた。
 ウィルは我々の存在をルネに伝えなかったが、同時に我々にルネ・グループについての詳しい情報を与えなかった。
 誠実ではあるが、同時に危険で愚かな行為だ。しかし、それをウィルに対して責めても詮ない。こういうことは、身体で覚えるしかないのだ。
 俺は、ルネという男のおおよそを理解していた。グループができると、それを支配しようとする人物が現れる。支配の方法はいろいろある。一番多いのが暴力。次に言葉による洗脳。秩序で縛る方法も一般的だ。
 だから、俺たちはどんなグループにも属さず、六人だけで生き抜いてきた。
 このキャンプにもリーダーはいない。

 夕食後、斉木が声をかけてきた。
「ルネという男が現れたら、どうする?
 問答無用で殺す?」
 俺もそれは考えた。名案だが……。
 相馬が斉木の後にやってきた。
「ルネという男、どうします?
 殺るなら協力しますよ」
 その一〇分後、デュランダルがやって来た。
「ルネという男、厄介だと思う。
 ゴタゴタを起こされる前に、殺すという方法もあるぞ?」
 その三〇分後、片倉と能美がやって来る。
「ルネさんだけど、犠牲者が出る前に、ね?」
 由加の考えはわかる。俺と同じだ。金吾と珠月も同じだろう。その証拠に、三人とも何もいってこない。

 そして、ウィルが現れてから三日目の朝、ルネがやって来た。
 砲を搭載した装輪装甲車に乗って。
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