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第4章
第121話 争奪戦
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そもそも、なぜ西ユーラシアは西アフリカに興味を持ったのか?
単純に、そこにヒトが住んでいる、という事実もある。また、セロへの対抗という戦略的な目的もある。
だが、根本は暖かくならない西ユーラシアにおいて、穀物の作況が不安でならないからだ。ここ数年“夏のない年”が続いている。かつてのパリ付近まで張り出した氷床は、真夏でも北に後退しない。
西地中海沿岸でさえ、コムギの生育が不安でならない。ロワール川北岸や標高の高い土地は、戦々恐々の状態だ。
3食のうち2食はイモだ。街によっては、3色ともイモだ。パンは滅多に食べられなくなりつつある街だってある。
だから、食料を求めて西アフリカまでやって来た。
しかし、セロの侵略は、西ユーラシアの藁にもすがる期待を打ち砕いてくれた。
戦乱に疲れたクマンにも食料は必要だ。
白魔族は東からやって来た。そして、赤道以北のアフリカ内陸にはヒトが住む土地があるらしいことが知らされる。同時に白魔族の存在も疑われる。
ヒトと白魔族の存在を確認することを目的に、内陸への探検が始まる。
そして、湖水地帯にたどり着く。
そこには、ヒトが数十万人も住んでいた。水に恵まれ、畑は豊かで、豊穣の地であった。
となると、西ユーラシアから続々とヒトがやってくる。
飛行機に乗って……。
カラバッシュがカナリア諸島とバルカネルビ間1800キロに4発レシプロエンジン輸送機の定期運航を開始。カラバッシュとジブラルタル間1300キロにも定期便を飛ばす。また、高速客船も運航を開始。
ジブラルタルとカナリア諸島までの洋上飛行は不定期便だが、この路線にはノイリン西地区が高速貨客船を投入した。
バンジェル島は、わずか数カ月の間に忘れ去られ始めている。
俺はノイリンにいた。雑事が多く、西アフリカまで手が回らない。北地区には、ブロウス・コーネインの残党問題もある。
相馬悠人はカンスクからの1800もの移住受け入れを発表したが、残党炙り出しは行わなかった。
ノイリンを追放されれば、それは死でしかない。意味のない差別に理がないことはわかるが、その差別が正しいことと認識したヒトの考えを変えることは容易ではない。
悲劇が起きていた。
ネオ・ブロウスニズムとも呼ぶべき、黒髪・黒瞳のヒトを優生種とする考えに染まった娘を、父親が殺したのだ。自分と娘を除く、妻と3人の子を守るために……。家族ごと追放される危険を排除するためだった。
ブロウスニズムも健在だ。こちらは、金髪・碧眼・白い肌。
両者には共通点もある。異種を嫌うこと、家系・血統を重視すること。
「朝起きたら、息子(娘)が冷たくなっていた」とか、「妻が外出して帰ってこない」とか、「祖父が川に落ちた」とか、病気や不慮の事故を装った家族による殺害も起きている。
ドラキュロの恐ろしさを知っていれば、そうする理由はわかる。
だが……。
結果、相馬悠人は、何ら手を打たずにいた。
それは、責められない。俺でも同じだろう。
クフラックがバルカネルビの防空を理由に、戦闘爆撃機機4機を地上の支援部隊とともに派遣した。
ノイリンには戦闘機がないから、反対はできない。
そんな時、半田千早から半田隼人宛に秘密電が入る。
須崎金吾が店の奥に俺を呼ぶ。
「半田さん、これ。
ちーちゃんからの秘密電。
怪しい日本語だけど、意味はわかる」
ローマ字で綴られた奇妙な日本語だが、意味はわかる。忘れかけている日本語を、必死に思い出しながら書いたのだ。
「戦車を送れって。
バルカネルビの街長が、戦車部隊の駐留を求めているらしい」
「本当なら、一発逆転でしょう。
ここのところ、カラバッシュとクフラックに先行されてるからね」
「千早と無線で話せるかな?」
「危険だよ。
確実に傍受される」
「どうする?」
「行くしかないよ」
「いまは、ノイリンから離れられない」
「2日くらいどうにかなるでしょ」
「2日で行って帰るなんて不可能だ」
「できるよ」
「どうやって」
「これから、金沢のところに行こう」
車輌班の航空機格納庫には、美しく塗装されたプカラがあった。
金沢壮一が説明する。
「プカラ・アイ。
偵察機だ。武装は自衛用に7.62ミリ機関銃を2挺搭載している。
武装はそれだけ。
燃料タンクを拡大・増設していて、機外タンクと合わせると4700キロ飛べる。
計算上、湖水地域までの3500キロを7時間だ。
朝発てば、1泊して翌日昼には戻れる」
俺が金沢壮一をにらむ。
「それをやれと、俺に……」
金沢壮一が笑う。
「金吾がやればいいさ。
通信士の役目もできるし、航法士もできる」
須崎金吾が気色ばむ。
「こんな燃料タンクそのものみたいな飛行機に乗れって?
冗談じゃない!」
俺が須崎金吾を見詰める。
「わかりました。
行きます。
その代わり、帰りはバンジェル島に寄るよ。
それから、半田さんの名代ってことにするからね」
俺は了解した。
200万年後には、GPSはない。航空機、船舶の航法は、天測と電波灯台を頼るしかない。
天測はともかく、長距離まで到達する電波灯台の数は極端に少ない。ノイリン、ジブラルタル、カナリア諸島、ベルデ岬諸島、バンジェル島しかない。
これに、バルカネルビを加えようとしている。これらビーコンを開発したのは、須崎金吾と彼の開発チームだ。
実は、これも銃器班の主要な仕事だ。中古のスマホやパソコンの買い取り・修理・販売から始まったのだが、現在はノイリンの電子機器の開発・製造を担っている。
須崎金吾には、バルカネルビに超長距離電波灯台の設置という重要任務もあった。
プカラ・アイは、日の出と同時にノイリンを離陸。巡航高度6000メートルを時速500キロで飛行し、距離3500キロを6時間でバルカネルビ上空に達した。
途中、アフリカ上空高度7500メートルで風に乗り、対地速度は時速750キロを超えている。
バルカネルビには、クフラックとカラバッシュの飛行機も駐機していた。
ノイリンの大飛行は、クフラックとカラバッシュに衝撃を与える。
半田千早は須崎金吾をともない、新しい街長の私邸を尋ねる。街役場は、リットン子爵軍の略奪を受けており、いまだ修復できていない。
新街長の名はケティル。彼の長男は、リットン子爵の将校に私邸の庭で頭を撃ち抜かれている。16歳になったばかりだった。妹は地下室に隠れ、助かっている。
ケティルは、彼の息子と同い歳の少女にシンパシーを感じている。
「街長様、突然の訪問にもかかわらず、お会いいただきありがとうございます」
ケティルが微笑む。
「いつでも歓迎です。
こちらの方は?」
半田千早と須崎金吾、200万年前の動乱を生き抜いた同志であり、半田千早にとっては兄であった。
「私の兄です。
本日、兄は養父〈ちち〉の名代として、街長様にお目通りをお願いしています」
「チハヤさんのお父様?」
須崎金吾が説明を始める。
「お初にお目にかかります。ノイリンの金吾ともうします。
千早に戦車の駐留について、お話をいただいたと……」
「その件ですか。
もし、すべての戦車を引き上げられてしまったら、救世主は必ず舞い戻ってきます。
どうか、残していただきたいのです」
「戦車4輌を新たに派遣しますが、現在の部隊は西に引き上げます。
戦車4輌に整備員や警備員などで、100ほどが随伴しますが、許可いただけますか?」
「あなたに、それをする権限があると?」
「私にはありませんが、半田は了解しています。
西にいる司令官を説得すればいいだけです」
「司令官閣下を説得できる目算は?」
「城島司令官は千早には厳しいですが、私の意見にはよく耳を傾けてくれます。
大丈夫でしょう」
半田千早はムッとした。確かに、養母〈ママ〉は彼女に厳しいが、須崎金吾には滅茶苦茶優しい。
「空白を作らないように、していただけますか?
私もですが、街人は救世主が恐ろしいのです。私たちには銃はあっても、戦車がありません。銃では戦車に太刀打ちできません」
「新しい戦車はいつ……」
「私は明日、西に向かいます。
数日後には、千早から結果をお伝えいたします」
「キンゴ様、大変失礼ですが、おいくつでしょう」
「年齢ですか?
28です」
「私の息子も、あなたのようになるはずだった」
ドアの向こうから、嗚咽が聞こえる。街長ケティルの妻が泣いているのだ。
「戦車は必ず手配します。
それとお願いがあります」
「どのような」
「街から少し離れた場所に高い塔を建てたいのです」
「なぜ?」
「その塔から信号を出して、飛行機をこの街に誘導したいのです。
塔を建てるための土地を用立てていただけませんか?
地代はお支払いします」
「いや、街が管理している土地を用意しましょう。
その代わりに、戦車は必ず……」
半田千早と須崎金吾がケティルの館を辞去する。彼の妻が走り寄る。
「チハヤ様をぜひ当家の嫁に……」
「無理だ。あの子は死んでしまった」
プカラ・アイの飛来は、クフラックとカラバッシュに衝撃を与え、至急電が発信された。クフラックには3500キロを一気に飛べる航空機はなかったが、カラバッシュは保有していた。
カラバッシュの4発機は2500キロの貨物を積載した状態で、3200キロの航続距離があり、何も積まなければそれ以上飛べる。
カラバッシュは、ノイリンよりもバルカネルビに300キロほど近い。
ノイリンへの対抗心から、翌日には直接派遣の準備に入る。
そして、2日後、燃料を満載し、クルー4と使者団4を乗せたレシプロエンジンの4発機“ミストラル”号は、カラバッシュを離陸した。
バルカネルビでは、須崎金吾は小型単発輸送機のボナンザでバンジェル島に向かうことになり、プカラ・アイは整備と燃料補給が完了次第、別の航法士を乗せて、ジブラルタル経由でノイリンに帰還することになった。
この飛行には、アトラス山脈越えの航路開拓の目的があった。
須崎金吾はバルカネルビに2日間滞在し、バンジェル島に向かった。
その日の夕方、カラバッシュから「ミストラル号、行方不明」の一報が入る。
すでに、日没が迫っていた。
空からの捜索は不可能で、陸からでは範囲が限られる。
対処の方法がない。
翌早朝、クフラックのツカノ戦闘爆撃機2機が捜索のために離陸。
バンジェル島は、ミストラル号捜索のため、ボナンザを4機バルカネルビに派遣する。
午後からは、ツカノ戦闘爆撃機2機が捜索に追加され、ボナンザ4機も燃料補給後、直ちに離陸する。
7日間捜索を続けたが、バルカネルビを中心に半径800キロから1000キロの地域には手がかりがなかった。
西ユーラシア側からも空から捜索が続けられたが、こちらも一切の手がかりを得られなかった。
捜索は、遭難から7日目の日没と同時に打ち切られた。
プカラ・アイもミストラル号の捜索に何度か加わった。
プカラ・アイのパイロットは、自身の経験から、中高度を飛行したとすれば、大気の流れを過度に予測して、東に進路をとりすぎたのではないか、と想像していた。
だが、彼の仮説は想像の部分が多すぎた。
ミエリキは穀物の買い付けに一段落しており、プカラ・アイのバックシートに乗り、ミストラル号の捜索に加わった。
父親が海洋交易商人であり、船の航法の経験があり、天測もできる。彼女自身は優秀な航海士だとは思っていないが、パイロットから航空機の航法について学びながら、任務を果たしていた。
捜索が打ち切られた日の夜、ミエリキは「もう飛行機には乗れないんだ」と少し悲しくなっていた。
半田千早は、穀物の買い付けでココワに行った。ノイリンの作業にヴルマンのミエリキが参加するのも、おかしなことだ。商館にとどまっても、楽しくはない。
だから、朝から滑走路に行った。ここは、まもなく“バルカネルビ飛行場”と呼ばれることになる。
プカラ・アイを眺めていると、パイロットのグラウベルが飛行服姿で現れる。25歳の黒髪で小柄な男だ。
「やぁ、ミエリキ」
「どこに行くの?」
「明日、ジブラルタルに向かう。
今日、バンジェル島経由で航法士が来るんだ。
これから東に飛ぶ。2000キロは無理だが、1800キロくらいは進出するつもりだ」
「ミストラル号……のこと」
「あぁ、やはり、東に偏向したんじゃないかと思うんだ」
「私も一緒に飛んでいい?」
「いいよ、飛行服を着ておいで。1時間後に離陸する」
ミエリキはアフリカの地図を見ている。グラウベルが説明する。
「東に1000キロまでは捜索している。
だから、俺たちはもっと東に向かう。
これがチャド湖だ」
チャド湖は縦長の楕円で描かれている。形状がわからないのだ。
「チャド湖まで飛ぶ。チャド湖の南端に達したら、東岸を南から北に向かって飛び、湖の北端で進路を西に変え帰投する」
「わかった。
私たちが、チャド湖を初めて見る西ユーラシアのヒトになるのかな?」
「たぶん……」
バルカネルビ飛行場には、即製の管制塔と中距離ビーコンが追加されている。
相当な距離を飛行しても、バルカネルビから半径300キロ以内まで到達すれば、信号を捕らえることができる。
グラウベルは、飛行場の指揮官が決まる前にチャド湖までゲリラ飛行をするつもりでいた。ミストラル号捜索は、気持ち的には諦めている。1度飛んだ程度で、見つかるはずはないと……。
グラウベルは巡航速度を上げるため、いったん高度6000メートルまで上昇し、バルカネルビからの距離が1000キロに達するまで、緩降下していく。
その後、高度100から200メートルで、地上を捜索していく。
高度3000メートルから眺めるチャド湖は、楕円とは程遠い複雑な形状をしている。この高度からだと、半径200キロを見通せる。
だが、チャド湖の全貌はわからない。それほど大きいのだ。
グラウベルは南に旋回し、湖の南岸を目指す。南岸に達すると、湖岸に沿って東に向かう。
心配していた迎撃はない。高度3000メートルを選んだ理由は、飛行機雲ができにくい高度だからだ。
グラウベルは徐々に高度を下げ、東岸の捜索準備に入る。
湖の西岸、南岸、東岸には、ヒトの家らしき建造物が、狭い地域にかなりの密度で建てられている。
街と呼んでいいのだろうが、街と街を結ぶ道路は貧弱だ。道と呼んでいいものか、迷うほどだ。
南岸は様相が異なる。城壁をめぐらした規模の大きい街が複数あり、街間の街道はよく整備されている。
南岸は、東岸と西岸とは明確に雰囲気が異なる。
東岸は平屋が多く、農場や牧場が多いように感じる。牧歌的な雰囲気だ。
西岸は、城壁や濠で囲まれた街はなく、単に建物が集中しているだけ。都市設計のような計画性を感じない。
ミエリキは、地上を注意深く観察し、グラウベルから借りた手持ちのカメラで撮影を続ける。
グラウベルは、地上に向けて取り付けられているカメラの自動シャッターのスイッチを入れた。
今回の飛行の目的は、ミストラル号の捜索で、チャド湖付近の偵察ではないことから、通過以外の飛行はしなかった。
それでも、多くの情報を得た。
ミエリキとグラウベルは、沈黙を続けている。地上の風景に、正体不明の重苦しさ、あるいは禍々しさを感じる。
2人は、互いの感じるところを言葉にはしなかった。
憚〈はばか〉る何かがあったのだ。
チャド湖東岸から離れ、さらに東に向かう。東岸を左側に見ながら、高度を下げて北上する。
湖畔から20キロほどの草原で、大型の陸棲ワニを発見。2足歩行で、何かを追っている。
ミエリキはワニの獲物を探す。
ヒトだった。
「ヒトだよ。
ワニがヒトを追っている!」
クラウベルが確認。
「4人いる。
このままじゃ、食われるぞ」
ワニは1体だけ。ワニは群を作らず、常に単独行動する。
クラウベルが機体の角度を変える。
「ミエリキ、我慢しろ!」
急降下に驚き、ミエリキは悲鳴を上げた。
「アッ、ギャァー」
ヴルマンらしからぬ、みっともない自分の声に驚く。
自衛用の7.62ミリ機関銃を発射。
ワニは機関銃弾を多数受けても、10秒以上立っていた。
倒れる。
振り返り、ヒトの腰まである草が一面に広がる草原で、4人が振り返りワニを見る。
次に空。
4人の様子が期待とは違う。
飛行機に驚き、逃げると思っていたのに、飛び跳ねながら手を振っている。
プカラ・アイは、4人の上空を旋回する。
1人が背負っていたザックを降ろし、何かを引っ張り出す。
4人が布の端を1人ずつ持ち、それを広げる。
ミエリキが叫ぶ。
「旗だよ。カラバッシュの旗!」
クラウベルも興奮していた。
「見つけたぞ!
奇跡だ」
1人が両手を広げて、円を描きながら走る。
彼らの喜びがわかる。
1人が指差す。
その方向に岩場がある。周囲より少し高く、丘のようになっている。
そこならば、ワニは登ってこないだろう。彼らはそこに向かっている。
クラウベルがいった。
「ミエリキ、帰るぞ。
どうやって救出するか、ない知恵を絞りに」
バルカネルビまで1000キロに迫ってから、ミエリキはヴルマンの言葉で「遭難者発見!」の第一報を発信。
救世主の傍受を警戒したからだ。
バルカネルビは大騒ぎとなった。
カラバッシュの捜索隊は、すでに引き上げており、ノイリンとクフラックの航空機だけがバルカネルビ飛行場にあった。
救出作戦の立案が開始されるが、チャド湖まで飛び、帰還できる機体なんて、プカラ・アイしかない。
復座のプカラ・アイでは救出はできない。そもそも、着陸できない。
ノイリン側は、フェニックス輸送機による救出案を出す。フェニックス輸送機から、軽車輌と物資を空中投下し、陸路で帰還するというもの。
車輌の空中投下案に、クフラック側は驚く。ノイリンにそんな能力があることを知らなかったのだ。
クフラック側は、ブロンコ双発攻撃機による救出案を出す。
双発双胴のブロンコは、中央胴体の後方が荷室になっている。貨物なら1500キロ、ヒトなら6人ほどが乗れる。
離着陸距離はごく短く、不整地でも降りられる。ノイリンは、ブロンコのそういった性能を知らなかった。
両翼外翼と、胴体下面に燃料タンクを懸吊すれば、3200キロほど飛べるという。
遭難地点に着陸。遭難者を救出し、離陸。500キロから800キロ飛行して、中継地に着陸。燃料を補給して、帰還するという計画だ。
プカラ・アイが誘導し、ブロンコ2機が救出する。ミストラル号の乗員乗客は8なので、救出にはブロンコ2機が必要だ。
ミエリキは興奮していた。
彼女が興味本位で撮影した写真が重要な情報となり、ブロンコの着陸適地の探索に役立っている。
ノイリンとクフラックの搭乗員は、誰もが最も若いミエリキを“仲間”として扱っている。そして、この救出作戦の重要な要員として遇してくれる。
それが嬉しい。
翌朝、クフラックが立案した作戦が決行される。
変更点もある。中継地への燃料輸送は、ブロンコから偶然飛来していたノイリンの長胴型スカイバンに変更になった。
この新型双発機は、胴体を延長して搭載量を体積比で2倍とし、航続距離は2000キロ。エンジンも強化されていて、ブロンコほどではないが短距離離着陸が可能で、頑丈な固定脚によって荒れた滑走路でも運用できる。
特徴的な矩形断面の胴体はそのままだが、小さな双垂直尾翼は廃され、一般的な1枚の垂直尾翼になっていた。鼻詰まりのショート360といったデザインだ。
ノイリンでは、短距離から中距離での、貨物と旅客輸送の主力になっている。
そして、ミエリキが見る初めての機種だった。ミエリキは、2トンの貨物を積んで、1500キロ以上飛行できると聞き、高翼配置で支柱のある半片持翼の新型機を羨望の眼差しで見ている。
「これからの交易は、飛行機だ!」
彼女は、心の中で叫んでいた。
救出作戦の準備は、深夜まで続く。ディーゼル発電機はうなりを上げ、煌々と電気が点灯し、車輌が行き交う。
ミエリキは、22時、クフラックの作戦指揮官から睡眠をとるよう命令される。
岩場の上空を旋回すると、遭難者4が姿を現し、手を振る。
1機のブロンコが地上すれすれを何度も飛行して、着陸地点の状態を確認する。
着陸予定地は、草が生えていない土がむき出しの直線。道のようだが、ヒトの道か獣道か判断できない。ミエリキには、放牧されているウシの通り道に見えた。
ブロンコが降りていく。
岩場からは東に3キロの距離。
遭難者4は、走って着陸地点に向かっている。
もう1機のブロンコは着陸せず、上空で待機。プカラ・アイは、周囲を警戒する。
遭難者は1時間近くかかって、ブロンコにたどり着く。
ブロンコの中央胴体後部ハッチが開かれ、そこに乗せられていく。
1人は、体力を使い果たしているようで、引っ張り上げられている。
ハッチが閉まった。
離陸を始める。数十メートル滑走しただけで、簡単に飛び立った。
ミエリキがクラウベルに「凄いね」というと、パイロットは「あぁ」とだけ答えた。
ブロンコから無線が入る。
「生存者4。他は不明」
クラウベルが突然叫ぶ。
「左前方下方に機影、全力退避!」
ミエリキは、南の低空に黒い点4を確認。迎撃機が急上昇してくる。
2機のブロンコとプカラ・アイは、上昇しながら西に向かって逃走する。
ミエリキは、何度も後方を振り返り、ブロンコを確認する。
美しい三角形の3機編隊は、チャド湖から可能な限り早く遠ざかろうと、西に飛行した。
燃料を輸送したスカイバン改は、遭難者を乗せてバルカネルビに帰投した。
彼らを診察したのは、ミルシェだった。
「軽い脱水症状と、切り傷や擦り傷はあるけど、それ以外は何も……。
でも、極度に疲労しているから、眠らせてあげて……」
遭難者はまだいる。
翌早朝から機長に対する事情聴取が始まる。残されている遭難者の情報を得るためだ。
ミエリキは、昼食時にミストラル号の機長が語った証言をクラウベルから聞いた。
「機長によれば、岩場から東10キロの草原に不時着したそうだ。
主脚は折れたが、主翼と機体はほぼ無傷だった。
乗員乗客は全員が無事だった。
ここからが、不気味な話になる。
不時着から2日後、ウマに乗った男たちが白い服を着た徒歩の男女を北に向かって移動していく姿を見た。
ウマに乗っていたのも、歩いていたのもヒトだったそうだ。
ウマに乗った連中は、剣と弓で武装していた。
機長には、ウマに乗った連中は、牧童か、羊飼いに見えたそうだ。
不時着したミストラル号には興味を示さなかったとか……。
ヒトなのに、ヘンだろ。
その様子を見て、機長は接触を躊躇った。
だが、作戦指揮官は、そう判断しなかった。現地人に救助を頼もうと……。
指揮官と副官が、機外に出た。そして、声をかけながらゆっくりとウマに乗った男に近付いた。
カラバッシュでは、精霊族の言葉と異教徒の言葉が使われる。異教徒の言葉で、助けを求めていた。
指揮官と副官、随員2は、上級市民だそうだ。上級市民は街の外、カラバッシュの城壁と濠の外に出ることはほとんどない。出る場合は、次の街まで装甲車のなか。
だから、外界がどれほど危険なのか体感的に知らないらしい。
クルーは下級市民。だから、外のことをよく知っていた。
航法士が強く反対し、航空整備士が逃げようと、小声で呟いた。
副操縦士は、クルーが密かに持ち込んだ非常用キットを引っ張り出した。
指揮官が手招きし、随員2が指揮官と副官に従った。
クルーは、機首下面の乗降ハッチから機外に出て、森まで走り隠れた。
機長は見ていないが、他のクルーは見たそうだ。
指揮官、副官、随員2は、ウマに乗った男に頭をはねられた。
一瞬だった。
1人で、一瞬で、4体の頭を切り落とした。
信じられるか?」
「ヴルマンの戦士でも無理」
「クルーは丸1日、森に隠れ、西に移動した。
移動中、ワニに追われた。
そこに、俺ときみが出くわしたんだ」
「他に見たものは?」
「クルーは、牧場を見たそうだ」
「牧場?」
「あぁ、ヒトを飼っていたそうだ……」
ミルシェは半田千早を説得している。
「チハヤ、一緒に東に行って欲しいの」
「でも、コムギの買い付けが……。
一昨年の収穫なんだけど、質がいいの。
これをノイリンに送れば、誰もが白いパンを食べられる……」
「それは、誰か他のヒトに頼んで、私たちは東に行くの。
それも大事な仕事」
「黒羊と白羊の遺伝子サンプル……」
「そう、それがあればノイリンを救える。
ブロウスの残影を消せる……」
「本当?」
「確信はない。
心の業病だから……。
でも、感染しにくいヒトは、納得してくれるはず」
「伝染するの?」
「えぇ、心の伝染病。
食い止めるには、理論武装が必要。
誰もが、ブロウス・コーネインは嘘つきだったとわかる証拠が……」
「それが、チャド湖にあるの?」
「たぶん……。
チハヤのお父さんとソウマさんを掩護できる」
「でも、食料のほうが……。
食料の争奪戦になってるんだ。カラバッシュやクフラックだけでなく、北方人やヴルマン商人もいる。フルギアだってやって来る。
精霊族や鬼神族だって……」
「ノイリンには2つの危機がある。
1つは食糧問題。
もう1つは北地区の心の病。
ブロウスニズムとネオ・ブロウスニズムを食い止めないと……。
チハヤは食糧問題を解決した。
凄いよ。
私にはできない。チハヤは凄いよ。
ノイリンの英雄だよ。
でも、ここは他のヒトに任せて、私と一緒にチャド湖まで行って!」
半田千早は、ミルシェにいわれたことをミエリキに相談する。
ミエリキの答えは、半田千早には意外なものだった。
「チハヤ、ごめん。
私、プカラ・アイの航法士として、ジブラルタルに向かうことにした。
これからの交易は、飛行機が重要になる。
私、ノイリンで、操縦と航法を学ぶんだ……」
半田千早は、ミエリキの手を握る。
「頑張って」
「うん」
単純に、そこにヒトが住んでいる、という事実もある。また、セロへの対抗という戦略的な目的もある。
だが、根本は暖かくならない西ユーラシアにおいて、穀物の作況が不安でならないからだ。ここ数年“夏のない年”が続いている。かつてのパリ付近まで張り出した氷床は、真夏でも北に後退しない。
西地中海沿岸でさえ、コムギの生育が不安でならない。ロワール川北岸や標高の高い土地は、戦々恐々の状態だ。
3食のうち2食はイモだ。街によっては、3色ともイモだ。パンは滅多に食べられなくなりつつある街だってある。
だから、食料を求めて西アフリカまでやって来た。
しかし、セロの侵略は、西ユーラシアの藁にもすがる期待を打ち砕いてくれた。
戦乱に疲れたクマンにも食料は必要だ。
白魔族は東からやって来た。そして、赤道以北のアフリカ内陸にはヒトが住む土地があるらしいことが知らされる。同時に白魔族の存在も疑われる。
ヒトと白魔族の存在を確認することを目的に、内陸への探検が始まる。
そして、湖水地帯にたどり着く。
そこには、ヒトが数十万人も住んでいた。水に恵まれ、畑は豊かで、豊穣の地であった。
となると、西ユーラシアから続々とヒトがやってくる。
飛行機に乗って……。
カラバッシュがカナリア諸島とバルカネルビ間1800キロに4発レシプロエンジン輸送機の定期運航を開始。カラバッシュとジブラルタル間1300キロにも定期便を飛ばす。また、高速客船も運航を開始。
ジブラルタルとカナリア諸島までの洋上飛行は不定期便だが、この路線にはノイリン西地区が高速貨客船を投入した。
バンジェル島は、わずか数カ月の間に忘れ去られ始めている。
俺はノイリンにいた。雑事が多く、西アフリカまで手が回らない。北地区には、ブロウス・コーネインの残党問題もある。
相馬悠人はカンスクからの1800もの移住受け入れを発表したが、残党炙り出しは行わなかった。
ノイリンを追放されれば、それは死でしかない。意味のない差別に理がないことはわかるが、その差別が正しいことと認識したヒトの考えを変えることは容易ではない。
悲劇が起きていた。
ネオ・ブロウスニズムとも呼ぶべき、黒髪・黒瞳のヒトを優生種とする考えに染まった娘を、父親が殺したのだ。自分と娘を除く、妻と3人の子を守るために……。家族ごと追放される危険を排除するためだった。
ブロウスニズムも健在だ。こちらは、金髪・碧眼・白い肌。
両者には共通点もある。異種を嫌うこと、家系・血統を重視すること。
「朝起きたら、息子(娘)が冷たくなっていた」とか、「妻が外出して帰ってこない」とか、「祖父が川に落ちた」とか、病気や不慮の事故を装った家族による殺害も起きている。
ドラキュロの恐ろしさを知っていれば、そうする理由はわかる。
だが……。
結果、相馬悠人は、何ら手を打たずにいた。
それは、責められない。俺でも同じだろう。
クフラックがバルカネルビの防空を理由に、戦闘爆撃機機4機を地上の支援部隊とともに派遣した。
ノイリンには戦闘機がないから、反対はできない。
そんな時、半田千早から半田隼人宛に秘密電が入る。
須崎金吾が店の奥に俺を呼ぶ。
「半田さん、これ。
ちーちゃんからの秘密電。
怪しい日本語だけど、意味はわかる」
ローマ字で綴られた奇妙な日本語だが、意味はわかる。忘れかけている日本語を、必死に思い出しながら書いたのだ。
「戦車を送れって。
バルカネルビの街長が、戦車部隊の駐留を求めているらしい」
「本当なら、一発逆転でしょう。
ここのところ、カラバッシュとクフラックに先行されてるからね」
「千早と無線で話せるかな?」
「危険だよ。
確実に傍受される」
「どうする?」
「行くしかないよ」
「いまは、ノイリンから離れられない」
「2日くらいどうにかなるでしょ」
「2日で行って帰るなんて不可能だ」
「できるよ」
「どうやって」
「これから、金沢のところに行こう」
車輌班の航空機格納庫には、美しく塗装されたプカラがあった。
金沢壮一が説明する。
「プカラ・アイ。
偵察機だ。武装は自衛用に7.62ミリ機関銃を2挺搭載している。
武装はそれだけ。
燃料タンクを拡大・増設していて、機外タンクと合わせると4700キロ飛べる。
計算上、湖水地域までの3500キロを7時間だ。
朝発てば、1泊して翌日昼には戻れる」
俺が金沢壮一をにらむ。
「それをやれと、俺に……」
金沢壮一が笑う。
「金吾がやればいいさ。
通信士の役目もできるし、航法士もできる」
須崎金吾が気色ばむ。
「こんな燃料タンクそのものみたいな飛行機に乗れって?
冗談じゃない!」
俺が須崎金吾を見詰める。
「わかりました。
行きます。
その代わり、帰りはバンジェル島に寄るよ。
それから、半田さんの名代ってことにするからね」
俺は了解した。
200万年後には、GPSはない。航空機、船舶の航法は、天測と電波灯台を頼るしかない。
天測はともかく、長距離まで到達する電波灯台の数は極端に少ない。ノイリン、ジブラルタル、カナリア諸島、ベルデ岬諸島、バンジェル島しかない。
これに、バルカネルビを加えようとしている。これらビーコンを開発したのは、須崎金吾と彼の開発チームだ。
実は、これも銃器班の主要な仕事だ。中古のスマホやパソコンの買い取り・修理・販売から始まったのだが、現在はノイリンの電子機器の開発・製造を担っている。
須崎金吾には、バルカネルビに超長距離電波灯台の設置という重要任務もあった。
プカラ・アイは、日の出と同時にノイリンを離陸。巡航高度6000メートルを時速500キロで飛行し、距離3500キロを6時間でバルカネルビ上空に達した。
途中、アフリカ上空高度7500メートルで風に乗り、対地速度は時速750キロを超えている。
バルカネルビには、クフラックとカラバッシュの飛行機も駐機していた。
ノイリンの大飛行は、クフラックとカラバッシュに衝撃を与える。
半田千早は須崎金吾をともない、新しい街長の私邸を尋ねる。街役場は、リットン子爵軍の略奪を受けており、いまだ修復できていない。
新街長の名はケティル。彼の長男は、リットン子爵の将校に私邸の庭で頭を撃ち抜かれている。16歳になったばかりだった。妹は地下室に隠れ、助かっている。
ケティルは、彼の息子と同い歳の少女にシンパシーを感じている。
「街長様、突然の訪問にもかかわらず、お会いいただきありがとうございます」
ケティルが微笑む。
「いつでも歓迎です。
こちらの方は?」
半田千早と須崎金吾、200万年前の動乱を生き抜いた同志であり、半田千早にとっては兄であった。
「私の兄です。
本日、兄は養父〈ちち〉の名代として、街長様にお目通りをお願いしています」
「チハヤさんのお父様?」
須崎金吾が説明を始める。
「お初にお目にかかります。ノイリンの金吾ともうします。
千早に戦車の駐留について、お話をいただいたと……」
「その件ですか。
もし、すべての戦車を引き上げられてしまったら、救世主は必ず舞い戻ってきます。
どうか、残していただきたいのです」
「戦車4輌を新たに派遣しますが、現在の部隊は西に引き上げます。
戦車4輌に整備員や警備員などで、100ほどが随伴しますが、許可いただけますか?」
「あなたに、それをする権限があると?」
「私にはありませんが、半田は了解しています。
西にいる司令官を説得すればいいだけです」
「司令官閣下を説得できる目算は?」
「城島司令官は千早には厳しいですが、私の意見にはよく耳を傾けてくれます。
大丈夫でしょう」
半田千早はムッとした。確かに、養母〈ママ〉は彼女に厳しいが、須崎金吾には滅茶苦茶優しい。
「空白を作らないように、していただけますか?
私もですが、街人は救世主が恐ろしいのです。私たちには銃はあっても、戦車がありません。銃では戦車に太刀打ちできません」
「新しい戦車はいつ……」
「私は明日、西に向かいます。
数日後には、千早から結果をお伝えいたします」
「キンゴ様、大変失礼ですが、おいくつでしょう」
「年齢ですか?
28です」
「私の息子も、あなたのようになるはずだった」
ドアの向こうから、嗚咽が聞こえる。街長ケティルの妻が泣いているのだ。
「戦車は必ず手配します。
それとお願いがあります」
「どのような」
「街から少し離れた場所に高い塔を建てたいのです」
「なぜ?」
「その塔から信号を出して、飛行機をこの街に誘導したいのです。
塔を建てるための土地を用立てていただけませんか?
地代はお支払いします」
「いや、街が管理している土地を用意しましょう。
その代わりに、戦車は必ず……」
半田千早と須崎金吾がケティルの館を辞去する。彼の妻が走り寄る。
「チハヤ様をぜひ当家の嫁に……」
「無理だ。あの子は死んでしまった」
プカラ・アイの飛来は、クフラックとカラバッシュに衝撃を与え、至急電が発信された。クフラックには3500キロを一気に飛べる航空機はなかったが、カラバッシュは保有していた。
カラバッシュの4発機は2500キロの貨物を積載した状態で、3200キロの航続距離があり、何も積まなければそれ以上飛べる。
カラバッシュは、ノイリンよりもバルカネルビに300キロほど近い。
ノイリンへの対抗心から、翌日には直接派遣の準備に入る。
そして、2日後、燃料を満載し、クルー4と使者団4を乗せたレシプロエンジンの4発機“ミストラル”号は、カラバッシュを離陸した。
バルカネルビでは、須崎金吾は小型単発輸送機のボナンザでバンジェル島に向かうことになり、プカラ・アイは整備と燃料補給が完了次第、別の航法士を乗せて、ジブラルタル経由でノイリンに帰還することになった。
この飛行には、アトラス山脈越えの航路開拓の目的があった。
須崎金吾はバルカネルビに2日間滞在し、バンジェル島に向かった。
その日の夕方、カラバッシュから「ミストラル号、行方不明」の一報が入る。
すでに、日没が迫っていた。
空からの捜索は不可能で、陸からでは範囲が限られる。
対処の方法がない。
翌早朝、クフラックのツカノ戦闘爆撃機2機が捜索のために離陸。
バンジェル島は、ミストラル号捜索のため、ボナンザを4機バルカネルビに派遣する。
午後からは、ツカノ戦闘爆撃機2機が捜索に追加され、ボナンザ4機も燃料補給後、直ちに離陸する。
7日間捜索を続けたが、バルカネルビを中心に半径800キロから1000キロの地域には手がかりがなかった。
西ユーラシア側からも空から捜索が続けられたが、こちらも一切の手がかりを得られなかった。
捜索は、遭難から7日目の日没と同時に打ち切られた。
プカラ・アイもミストラル号の捜索に何度か加わった。
プカラ・アイのパイロットは、自身の経験から、中高度を飛行したとすれば、大気の流れを過度に予測して、東に進路をとりすぎたのではないか、と想像していた。
だが、彼の仮説は想像の部分が多すぎた。
ミエリキは穀物の買い付けに一段落しており、プカラ・アイのバックシートに乗り、ミストラル号の捜索に加わった。
父親が海洋交易商人であり、船の航法の経験があり、天測もできる。彼女自身は優秀な航海士だとは思っていないが、パイロットから航空機の航法について学びながら、任務を果たしていた。
捜索が打ち切られた日の夜、ミエリキは「もう飛行機には乗れないんだ」と少し悲しくなっていた。
半田千早は、穀物の買い付けでココワに行った。ノイリンの作業にヴルマンのミエリキが参加するのも、おかしなことだ。商館にとどまっても、楽しくはない。
だから、朝から滑走路に行った。ここは、まもなく“バルカネルビ飛行場”と呼ばれることになる。
プカラ・アイを眺めていると、パイロットのグラウベルが飛行服姿で現れる。25歳の黒髪で小柄な男だ。
「やぁ、ミエリキ」
「どこに行くの?」
「明日、ジブラルタルに向かう。
今日、バンジェル島経由で航法士が来るんだ。
これから東に飛ぶ。2000キロは無理だが、1800キロくらいは進出するつもりだ」
「ミストラル号……のこと」
「あぁ、やはり、東に偏向したんじゃないかと思うんだ」
「私も一緒に飛んでいい?」
「いいよ、飛行服を着ておいで。1時間後に離陸する」
ミエリキはアフリカの地図を見ている。グラウベルが説明する。
「東に1000キロまでは捜索している。
だから、俺たちはもっと東に向かう。
これがチャド湖だ」
チャド湖は縦長の楕円で描かれている。形状がわからないのだ。
「チャド湖まで飛ぶ。チャド湖の南端に達したら、東岸を南から北に向かって飛び、湖の北端で進路を西に変え帰投する」
「わかった。
私たちが、チャド湖を初めて見る西ユーラシアのヒトになるのかな?」
「たぶん……」
バルカネルビ飛行場には、即製の管制塔と中距離ビーコンが追加されている。
相当な距離を飛行しても、バルカネルビから半径300キロ以内まで到達すれば、信号を捕らえることができる。
グラウベルは、飛行場の指揮官が決まる前にチャド湖までゲリラ飛行をするつもりでいた。ミストラル号捜索は、気持ち的には諦めている。1度飛んだ程度で、見つかるはずはないと……。
グラウベルは巡航速度を上げるため、いったん高度6000メートルまで上昇し、バルカネルビからの距離が1000キロに達するまで、緩降下していく。
その後、高度100から200メートルで、地上を捜索していく。
高度3000メートルから眺めるチャド湖は、楕円とは程遠い複雑な形状をしている。この高度からだと、半径200キロを見通せる。
だが、チャド湖の全貌はわからない。それほど大きいのだ。
グラウベルは南に旋回し、湖の南岸を目指す。南岸に達すると、湖岸に沿って東に向かう。
心配していた迎撃はない。高度3000メートルを選んだ理由は、飛行機雲ができにくい高度だからだ。
グラウベルは徐々に高度を下げ、東岸の捜索準備に入る。
湖の西岸、南岸、東岸には、ヒトの家らしき建造物が、狭い地域にかなりの密度で建てられている。
街と呼んでいいのだろうが、街と街を結ぶ道路は貧弱だ。道と呼んでいいものか、迷うほどだ。
南岸は様相が異なる。城壁をめぐらした規模の大きい街が複数あり、街間の街道はよく整備されている。
南岸は、東岸と西岸とは明確に雰囲気が異なる。
東岸は平屋が多く、農場や牧場が多いように感じる。牧歌的な雰囲気だ。
西岸は、城壁や濠で囲まれた街はなく、単に建物が集中しているだけ。都市設計のような計画性を感じない。
ミエリキは、地上を注意深く観察し、グラウベルから借りた手持ちのカメラで撮影を続ける。
グラウベルは、地上に向けて取り付けられているカメラの自動シャッターのスイッチを入れた。
今回の飛行の目的は、ミストラル号の捜索で、チャド湖付近の偵察ではないことから、通過以外の飛行はしなかった。
それでも、多くの情報を得た。
ミエリキとグラウベルは、沈黙を続けている。地上の風景に、正体不明の重苦しさ、あるいは禍々しさを感じる。
2人は、互いの感じるところを言葉にはしなかった。
憚〈はばか〉る何かがあったのだ。
チャド湖東岸から離れ、さらに東に向かう。東岸を左側に見ながら、高度を下げて北上する。
湖畔から20キロほどの草原で、大型の陸棲ワニを発見。2足歩行で、何かを追っている。
ミエリキはワニの獲物を探す。
ヒトだった。
「ヒトだよ。
ワニがヒトを追っている!」
クラウベルが確認。
「4人いる。
このままじゃ、食われるぞ」
ワニは1体だけ。ワニは群を作らず、常に単独行動する。
クラウベルが機体の角度を変える。
「ミエリキ、我慢しろ!」
急降下に驚き、ミエリキは悲鳴を上げた。
「アッ、ギャァー」
ヴルマンらしからぬ、みっともない自分の声に驚く。
自衛用の7.62ミリ機関銃を発射。
ワニは機関銃弾を多数受けても、10秒以上立っていた。
倒れる。
振り返り、ヒトの腰まである草が一面に広がる草原で、4人が振り返りワニを見る。
次に空。
4人の様子が期待とは違う。
飛行機に驚き、逃げると思っていたのに、飛び跳ねながら手を振っている。
プカラ・アイは、4人の上空を旋回する。
1人が背負っていたザックを降ろし、何かを引っ張り出す。
4人が布の端を1人ずつ持ち、それを広げる。
ミエリキが叫ぶ。
「旗だよ。カラバッシュの旗!」
クラウベルも興奮していた。
「見つけたぞ!
奇跡だ」
1人が両手を広げて、円を描きながら走る。
彼らの喜びがわかる。
1人が指差す。
その方向に岩場がある。周囲より少し高く、丘のようになっている。
そこならば、ワニは登ってこないだろう。彼らはそこに向かっている。
クラウベルがいった。
「ミエリキ、帰るぞ。
どうやって救出するか、ない知恵を絞りに」
バルカネルビまで1000キロに迫ってから、ミエリキはヴルマンの言葉で「遭難者発見!」の第一報を発信。
救世主の傍受を警戒したからだ。
バルカネルビは大騒ぎとなった。
カラバッシュの捜索隊は、すでに引き上げており、ノイリンとクフラックの航空機だけがバルカネルビ飛行場にあった。
救出作戦の立案が開始されるが、チャド湖まで飛び、帰還できる機体なんて、プカラ・アイしかない。
復座のプカラ・アイでは救出はできない。そもそも、着陸できない。
ノイリン側は、フェニックス輸送機による救出案を出す。フェニックス輸送機から、軽車輌と物資を空中投下し、陸路で帰還するというもの。
車輌の空中投下案に、クフラック側は驚く。ノイリンにそんな能力があることを知らなかったのだ。
クフラック側は、ブロンコ双発攻撃機による救出案を出す。
双発双胴のブロンコは、中央胴体の後方が荷室になっている。貨物なら1500キロ、ヒトなら6人ほどが乗れる。
離着陸距離はごく短く、不整地でも降りられる。ノイリンは、ブロンコのそういった性能を知らなかった。
両翼外翼と、胴体下面に燃料タンクを懸吊すれば、3200キロほど飛べるという。
遭難地点に着陸。遭難者を救出し、離陸。500キロから800キロ飛行して、中継地に着陸。燃料を補給して、帰還するという計画だ。
プカラ・アイが誘導し、ブロンコ2機が救出する。ミストラル号の乗員乗客は8なので、救出にはブロンコ2機が必要だ。
ミエリキは興奮していた。
彼女が興味本位で撮影した写真が重要な情報となり、ブロンコの着陸適地の探索に役立っている。
ノイリンとクフラックの搭乗員は、誰もが最も若いミエリキを“仲間”として扱っている。そして、この救出作戦の重要な要員として遇してくれる。
それが嬉しい。
翌朝、クフラックが立案した作戦が決行される。
変更点もある。中継地への燃料輸送は、ブロンコから偶然飛来していたノイリンの長胴型スカイバンに変更になった。
この新型双発機は、胴体を延長して搭載量を体積比で2倍とし、航続距離は2000キロ。エンジンも強化されていて、ブロンコほどではないが短距離離着陸が可能で、頑丈な固定脚によって荒れた滑走路でも運用できる。
特徴的な矩形断面の胴体はそのままだが、小さな双垂直尾翼は廃され、一般的な1枚の垂直尾翼になっていた。鼻詰まりのショート360といったデザインだ。
ノイリンでは、短距離から中距離での、貨物と旅客輸送の主力になっている。
そして、ミエリキが見る初めての機種だった。ミエリキは、2トンの貨物を積んで、1500キロ以上飛行できると聞き、高翼配置で支柱のある半片持翼の新型機を羨望の眼差しで見ている。
「これからの交易は、飛行機だ!」
彼女は、心の中で叫んでいた。
救出作戦の準備は、深夜まで続く。ディーゼル発電機はうなりを上げ、煌々と電気が点灯し、車輌が行き交う。
ミエリキは、22時、クフラックの作戦指揮官から睡眠をとるよう命令される。
岩場の上空を旋回すると、遭難者4が姿を現し、手を振る。
1機のブロンコが地上すれすれを何度も飛行して、着陸地点の状態を確認する。
着陸予定地は、草が生えていない土がむき出しの直線。道のようだが、ヒトの道か獣道か判断できない。ミエリキには、放牧されているウシの通り道に見えた。
ブロンコが降りていく。
岩場からは東に3キロの距離。
遭難者4は、走って着陸地点に向かっている。
もう1機のブロンコは着陸せず、上空で待機。プカラ・アイは、周囲を警戒する。
遭難者は1時間近くかかって、ブロンコにたどり着く。
ブロンコの中央胴体後部ハッチが開かれ、そこに乗せられていく。
1人は、体力を使い果たしているようで、引っ張り上げられている。
ハッチが閉まった。
離陸を始める。数十メートル滑走しただけで、簡単に飛び立った。
ミエリキがクラウベルに「凄いね」というと、パイロットは「あぁ」とだけ答えた。
ブロンコから無線が入る。
「生存者4。他は不明」
クラウベルが突然叫ぶ。
「左前方下方に機影、全力退避!」
ミエリキは、南の低空に黒い点4を確認。迎撃機が急上昇してくる。
2機のブロンコとプカラ・アイは、上昇しながら西に向かって逃走する。
ミエリキは、何度も後方を振り返り、ブロンコを確認する。
美しい三角形の3機編隊は、チャド湖から可能な限り早く遠ざかろうと、西に飛行した。
燃料を輸送したスカイバン改は、遭難者を乗せてバルカネルビに帰投した。
彼らを診察したのは、ミルシェだった。
「軽い脱水症状と、切り傷や擦り傷はあるけど、それ以外は何も……。
でも、極度に疲労しているから、眠らせてあげて……」
遭難者はまだいる。
翌早朝から機長に対する事情聴取が始まる。残されている遭難者の情報を得るためだ。
ミエリキは、昼食時にミストラル号の機長が語った証言をクラウベルから聞いた。
「機長によれば、岩場から東10キロの草原に不時着したそうだ。
主脚は折れたが、主翼と機体はほぼ無傷だった。
乗員乗客は全員が無事だった。
ここからが、不気味な話になる。
不時着から2日後、ウマに乗った男たちが白い服を着た徒歩の男女を北に向かって移動していく姿を見た。
ウマに乗っていたのも、歩いていたのもヒトだったそうだ。
ウマに乗った連中は、剣と弓で武装していた。
機長には、ウマに乗った連中は、牧童か、羊飼いに見えたそうだ。
不時着したミストラル号には興味を示さなかったとか……。
ヒトなのに、ヘンだろ。
その様子を見て、機長は接触を躊躇った。
だが、作戦指揮官は、そう判断しなかった。現地人に救助を頼もうと……。
指揮官と副官が、機外に出た。そして、声をかけながらゆっくりとウマに乗った男に近付いた。
カラバッシュでは、精霊族の言葉と異教徒の言葉が使われる。異教徒の言葉で、助けを求めていた。
指揮官と副官、随員2は、上級市民だそうだ。上級市民は街の外、カラバッシュの城壁と濠の外に出ることはほとんどない。出る場合は、次の街まで装甲車のなか。
だから、外界がどれほど危険なのか体感的に知らないらしい。
クルーは下級市民。だから、外のことをよく知っていた。
航法士が強く反対し、航空整備士が逃げようと、小声で呟いた。
副操縦士は、クルーが密かに持ち込んだ非常用キットを引っ張り出した。
指揮官が手招きし、随員2が指揮官と副官に従った。
クルーは、機首下面の乗降ハッチから機外に出て、森まで走り隠れた。
機長は見ていないが、他のクルーは見たそうだ。
指揮官、副官、随員2は、ウマに乗った男に頭をはねられた。
一瞬だった。
1人で、一瞬で、4体の頭を切り落とした。
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「クルーは丸1日、森に隠れ、西に移動した。
移動中、ワニに追われた。
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「他に見たものは?」
「クルーは、牧場を見たそうだ」
「牧場?」
「あぁ、ヒトを飼っていたそうだ……」
ミルシェは半田千早を説得している。
「チハヤ、一緒に東に行って欲しいの」
「でも、コムギの買い付けが……。
一昨年の収穫なんだけど、質がいいの。
これをノイリンに送れば、誰もが白いパンを食べられる……」
「それは、誰か他のヒトに頼んで、私たちは東に行くの。
それも大事な仕事」
「黒羊と白羊の遺伝子サンプル……」
「そう、それがあればノイリンを救える。
ブロウスの残影を消せる……」
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「伝染するの?」
「えぇ、心の伝染病。
食い止めるには、理論武装が必要。
誰もが、ブロウス・コーネインは嘘つきだったとわかる証拠が……」
「それが、チャド湖にあるの?」
「たぶん……。
チハヤのお父さんとソウマさんを掩護できる」
「でも、食料のほうが……。
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チハヤは食糧問題を解決した。
凄いよ。
私にはできない。チハヤは凄いよ。
ノイリンの英雄だよ。
でも、ここは他のヒトに任せて、私と一緒にチャド湖まで行って!」
半田千早は、ミルシェにいわれたことをミエリキに相談する。
ミエリキの答えは、半田千早には意外なものだった。
「チハヤ、ごめん。
私、プカラ・アイの航法士として、ジブラルタルに向かうことにした。
これからの交易は、飛行機が重要になる。
私、ノイリンで、操縦と航法を学ぶんだ……」
半田千早は、ミエリキの手を握る。
「頑張って」
「うん」
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王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
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