200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚

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第1章

第二五話 ドラゴン

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 相馬と斉木は、エスコー川は元世界のローヌ川だと主張している。
 それは、ほぼ正しいだろう。そして、二人が想定する現在位置、元世界ではフランス第二の都市リヨンの南一五キロ付近だということも、確かなことだと思う。
 北から南に流れるローヌ川を下れば、地中海に至る。
 ここがリヨンの南だとしても元世界と違うことも多い。
 ローヌ川西岸は丘陵地帯のはずだが、大きく侵食されていて、台地があった場所は平坦な草原に変貌している。丘陵の東端は河岸から二〇キロ西にある。
 そして、東岸、西岸とも野生動物の楽園だ。草食動物はシカや野牛の類、肉食動物は青狼と巨大アメショーが闊歩している。
 だから、ドラキュロは少ない。
 ここは、安全で生活しやすい。

 当然、そういう土地にはヒトの営みがあるはず。
 だが、ヒトは少ない。付近一帯の総人口は一万に達しないだろう。その少ない人口を鑑みれば、経済規模も小さいはず。
 実際、飢餓と紙一重の状況だ。
 それゆえの誤算を彼らは抱えていた。
 ヴェンツェルの農業生産高は低く、他所に食料を売る余裕はない。それどころか、プリュールを手放したことで、経済的破綻は時間の問題になっている。

 斉木と相馬は、エスコー川下流域に住んでいるであろう人々との交易に期待している。
 物資は消費すればなくなる。消費しきる前に、次の態勢に移行しなくてはならない。そのためにも交易は絶対に必要なのだ。

 この世界には三種類のヒトが住む。二〇〇万年前の記憶を完全に失っている人々。二〇〇万年前の記憶を伝説として伝える人々。二〇〇万年前の記憶を情報として保有する人々。
 記憶は三世代を過ぎ、四世代目に入ると急速に希薄化していく。
 中央平原の人々のように、一二〇〇年間にわたって、ほぼ正確に自分たちのルーツを伝承している人々は極端に少ない。
 一〇〇年あれば、過去は忘れられてしまう。歴史は日々新しく作られている。

 FV601サラディンのトランスミッションが、完全に壊れた。ギア抜けが頻発する厄介な状態だったが、交換しない限り、二度と走行できない。
 こうして、物資は消えていく。

 この日の全体会議は紛糾した。
 金沢は、「北の伯爵よりも、ヴェンツェルやディジョンの略奪を警戒すべきだ」と主張する。
 それに若年者グループが同調し、ことさらに対立を煽りたくない大人たちと奇妙な対立関係になってしまった。
 正直、スコーピオンとチャーフィーがエスコー川西岸を北上していくと同時に、ヴェンツェルの人々がプリュールに侵入してくるようになる。
 ディジョンは、プリュールの東一〇キロ地点で軍の機動演習を行った。
 プリュールの出方をうかがっているのだ。
 もし、サラディンが不動と知られれば、侵攻してくる可能性もある。
 同じ心配と不安は、ヴェンツェルからの移住者にもあるようだ。
 それと、プリュールが狙われる大きな理由がある。
 燃料だ。
 燃料事情が非常に悪い世界で、プリュールで製造するバイオ燃料のことは周辺に知れ渡っている。
 この世界では、真に欲しい物は奪うのだ。だから、金沢たちの情勢判断は間違っていない。
 奪われないためには、強力な軍備で身を固めるしか方法はない。
 その方法は二つ。一つは北方低層平原で物資を探す。もう一つは武器を製造する。
 金沢は、その両方を主張している。広大な北方低層平原で、必要とする物資を発見できる可能性は低い。車輌は広範囲に散らばっていて、二メートルを超える草の中に隠されている。
 そして、ドラキュロの密度が高い。
 危険度は高く、成果の期待は低い。
 武器を作るとは言っても、砲弾の補充がやっと。榴弾の炸薬には黒色火薬を、装薬(発射薬)には小銃弾を分解して使っている。試験的にコルダイト(ニトログリセリンとニトロセルロースが主成分の無煙火薬)の製造に成功しているが、量産にはほど遠い。
 砲弾の薬莢は、リロードしている。新造は、七五ミリ野砲弾だけだ。
 これが、現状の精一杯。

 すべきことは多く、できることは少ない。
 誰もが焦りを感じ始めていたとき、思いもかけない客がやって来た。

 一艘の動力船が、エスコー川を遡り、川筋の合流点からマルヌ川に入り、ルミリー湖まで誰にも見られずにやって来た。しかも、全長二五メートル、全幅四メートルに達する決して小さくない船が、だ。
 我々は陸路ばかりに気をとられ、水路に対する警戒を怠っていた。
 完全に虚を突かれたわけではない。だが、十分に注意していたわけではなかった。少ない人数では、十分な警戒ができるはずはない。
 そのことを、思い知らされた。

 来訪者は、身長二メートル以上の痩躯、銀色の長髪、肌の色は白、純白の衣を羽織った四人の使者だった。操船要員は二人で、彼らはライトブラウンの衣を身に着け、武装している。
 六人とも身長は二メートルを軽く超えている。

 精霊族だ。

 ルサリィが山荘の玄関前で応対する。俺たちにはまったく言葉が解せない。
 精霊族の顔立ちはヒトに近いのに、年齢を想像することは無理なのだが、それでも六人とも老人でないことは何となくわかる。
 特に長身の男がいった。
「私は貴方たちの言葉を解します。貴方たちの言葉で、お話ししましょう」
 ルサリィが「承知した」と応じると、長身の男は無表情な軽い会釈をした。
 俺は動揺していた。
 斉木が「ご用件は、何でしょうか?」と尋ねた声音で、我に返った。
 長身の男が「種から作る燃料を分けていただきたい」と答えると、斉木は「無償というわけにはいきませんが……」と返す。
「我々は、貴方たちのように黄金を財とはしておりません。ですが、黄金は用意できます。黄金で支払いたい」
「その前に、尋ねたいことがあります」
「何でしょう?」
「種から作る燃料のことはどこで?」
「そのことは西にそびえる峰々から、東の東西を別つ大河まで、すべての種族が知っています。
 石炭から液体の燃料を作り出す西の種族が、大慌てとか?」
「……」
 斉木は絶句している。
「植物の種から燃料を作る種族が、南からやって来たと……」
 俺は黙っていられなかった。
「私たちは、大量には作っていないのです。自分たちが使う分だけです」
「しかし、貴方たちは同族の商人に燃料を売りましたね?」
「それは、我々が欲しているものを、商人が持っていたのです。物々交換です」
「黄金がダメならば、ムギはどうですか?」
「ムギは少しあります。十分足りています」
「毛皮はどうですか?」
 俺は答えを失った。
 相馬が「いや、黄金と交換しますよ」と言う。
 俺と斉木が相馬を見る。
 相馬は「その代わり、この地域全体の情勢を教えてください」といった。
 そして、屋外に据え置いている木製のテーブルに彼らを誘導する。
 ちーちゃんが、テーブルに地図帳を広げた。場所はフランス。ちーちゃんが、精霊族を見上げている。
「ほう。きれいな地図ですね。
 海岸線がだいぶ違いますね。でも、この世界の地図ですね。
 あの金属の樽に四本分いただきたい。
 黄金は燃料の重量と同じでいいですか?」
 俺が「油の一滴は血の一滴、か?」というと、斉木が「古いねぇ~」と呆れた。金沢は意味が解せず、ポカンとしている。
 しかし、我々はこのときはまだ、八〇〇キロの純金では八〇〇リットルの燃料は買えないことを知らなかった。この世界での燃料は、金よりも価値がある。
 金沢が船に向かって走り、樽を採寸する。
 走り戻り、「約二〇〇リットル、ほぼドラム缶一本分です」と俺たちに告げる。
 俺は斉木を見た。斉木が頷く。残量は八〇〇リットル以上あるということだ。

 長身の精霊族の男は、地図を指差しながら説明を始めた。
「南の海の海岸線から高地が私たちの住まう地域です」と言って、ローヌ川西岸下流域一帯を指し示した。
 そしてパリの南付近を指差す。
「この付近が〝黒い鎧〟の拠点です。貴方たちが黒魔族と呼ぶ、二足歩行の動物たちのテリトリーです」
 次にランス。
「貴方たちの同族がたくさんいます。
 貴方たちは北の伯爵と呼んでいます。
 北の伯爵は知ってますね。
 貴方たちと同族ですからね」
 続けてビスケー湾北部のナント。
「ここは、私たちの同族が住んでいます」
 彼は、ボルドー、トゥールーズまでの一帯を指でなぞった。
「貴方たちが鬼神族と呼ぶ種族が住んでいます。
 鬼神族は石炭から燃料を作ります。その製法を他の種族には教えません。
 一〇〇年前、南の海の対岸の油田が奪われました。
 貴方たちが白魔族と呼ぶ動物に……。
 それ以来、鬼神族が作る燃料だけが、全種族の供給元でした。
 そこに貴方たちがやって来た……。
 植物の種から暖房用の燃料を作る人たちが……。
 もし、貴方たちが車輌用の燃料を作れば、この地域一帯の勢力図は代わるのです」
 斉木は、長身の精霊族に少しおどけて尋ねた。
「この世の燃料のすべてを鬼神族が握っていると?」
「そうです。使えるものはすべて。しかし、貴方たちがやって来ました。
 これからは、鬼神族も無理難題を要求しないでしょう」
「無理難題?」
「えぇ」
「どんな?」
「冬を越すには暖房用の燃料が必要です。
 そして食料も。
 でも、燃料を得るために、食料の多くを渡さなくてはなりません。
 鬼神族は温かい家と、豊富な食料で冬を越します。
 私たちはそうではありません」
 ルミリー湖付近に残る山荘の住人のほとんどが集まっていた。
 片倉が「ちょっと小さいけど、座って貰ったら」と、椅子を勧めた。
 由加が「お茶を入れるね」と、その場を立ち去る。能美が由加を追う。
 相馬が躊躇いがちに発言する。
「知っていれば教えて欲しい。
 貴方は先ほど、我々の存在は地域一帯が知っている、といった。
 だとするならば、北の伯爵や黒魔族も知っていると言うことですか?」
「北の伯爵は知っているでしょう。貴方たちとは同族ですから。
 しかし、黒魔族はどうでしょう。意思の疎通ができない動物ではありませんが、複雑な情報の伝達ができるとは思えません」
 デュランダルが「それは厄介だ」と言うと、ルサリィが「北の伯爵とか言う盗賊が、私たちを襲う動機がありすぎるということね」と応じた。
 斉木が「車輌用の燃料事情は?」と尋ねると、精霊族の男は「不用意には動かせません」と答えた。
 ウルリカがフィルに「石炭からガソリンは作れるのですか」と尋ねたが、答えたのはイアンだった。
「作れるよ。お嬢さん。
 いくつか方法があるんだ。ベルギウス法とか、フィッシャー・トロプッシュ法とかね。
 ガソリンや軽油の類似品が、大量に作れるよ。実際に稼働した製造プラントがあったからね」
「イアン様は、作れますか?」
「作れないよ。もし作れたら、誘拐されるかもしれないし……」
 我々の言葉を話していた男が、彼らの言葉で他の三人にイアンの言葉を伝えた。
 その言を、ルサリィが同時通訳してくれる。
 他の精霊族三人の顔色が変わる。
 斉木が「金と交換でどう?」と確認すると、長身の男は頷いた。
 斉木が「使っている燃料のサンプルがあれば、それに性質を合わせられるけど」と言うと、長身の男は「用意します」と答えた。
 また、「少量でいいので、サンプルをいただけないか」と要求した。
 斉木がイアンに「一缶分あげよう」と言うと、イアンが「そうだね」と同意した。
 この時期、二キロリットルの車載タンクは、金沢が製作した四輪トレーラーに載せられていた。
 金沢がダンプでタンク・トレーラーを牽引し、精霊族の船が接岸している木製の桟橋直近まで移動する。
 そして、ホースを伸ばして、給油を開始。その間、一〇分とかからなかった。
 この機動性と給油の迅速性に、四人の精霊族は動揺している様子だった。
 斉木は、「こちらから、サンプルを受け取りに伺いましょう」と告げ、「お住まいは?」と尋ねた。
「川を下ってください。高い塔があります。そこが私たちの街です」
「どなたを伺えば?」
「来ていただければ、すぐにわかります」
「承知しました」
 我々と交渉した長身の男は、インスタントの紅茶に口を付けなかったが、他の三人は無表情に飲んでいた。無表情ではあったが、嫌々という感じではない。
 顔の筋肉の動きが悪いのか、喜怒哀楽の表情に乏しい人たちだ。だが、驚きの表情は、何度か見た。

 四人の精霊族が船に乗り、粗末な桟橋から離れる直前、齢を重ねたと感じさせる男が、交渉役の長身の男に何かを告げた。
「お伝えすることを一点忘れておりました。
 北の伯爵の多くは黒魔族の奴隷になりました。指導者の行方はわかりません」
 船がゆっくりと離岸する。
 ワン太郎とちーちゃんが一〇歩ほど、船を追う。マーニは怖かったようで、由加にしがみついている。

 その夜の全体会議は、いつになく荒れた。
 すぐに結論が出た事柄は、第一と第二の両偵察隊の即時帰還だけ。
 それ以外は推測を交えてのことだらけで、〝もし〟と〝たら〟の連続だった。
 この会議には、ヴァリオの官吏二人が精霊族の来訪理由を確認しにやって来て、我々にそのまま留め置かれて黒魔族の情報を引き出されていた。
 二人は、明らかに怯えていた。我々にではなく、黒魔族に対して。
 我々の質問には年配の官吏が答えた。質問は斉木が担当した。俺や相馬では、詰問口調になってしまうからだ。
「黒魔族を見たことは?」
「いいえ」
「一回も?」
「はい。例外はあるでしょうが、黒魔族と取り引きをしている人間以外で、黒魔族を見たものはいません。
 黒魔族は、人間を捕らえて家畜のように使役すると伝えられていますが、奴隷となった人間が逃げ出して、助けられた例はないのです。
 死ぬまで働かされるのでしょう」
「その情報自体、どこから?」
「たぶん、黒魔族と取り引きをしている人間からでしょう。
 すべて、伝聞と想像です」
「黒魔族の戦力は?」
「わかりません。
 ただ、数百年前、精霊族との合戦では、数万の軍勢を集めたとか。
 この戦いで、精霊族は数を減らして、一時は全滅の危機に陥ったと伝えられています」
「黒魔族は、いまでも勢力を維持して?」
「わかりません。
 でも、そう思ったほうがいいでしょう」
「武器とか、わかりますか?」
「鉄製の剣と槍、木製の盾、弓、弩、でしょうか。
 弩は、人間の商人から手に入れた銃で一部を置き換えているとか」
「たいした武器ではないですね?」
「ええ。
 でも、黒魔族はドラゴンを操ります。
 空を飛ぶドラゴンもいます。
 私は幼い頃、翼のあるドラゴンを見ました」
 会議の場は、ざわつきし始めた」
「ドラゴンがいる?」
「ええ、ドラゴンは恐ろしい生き物です。人食い避けの濠や城壁は、飛ぶドラゴンには無力です」
「飛ばないドラゴンもいる?」
「ええ、小さいものは子イヌくらい。巨大なドラゴンもいます」
「ドラゴンが現れたら?」
「洞窟に隠れます」
「洞窟がなければ?」
「兵士であろうとなかろうと、関係なく食われます。
 洞窟に隠れても、小さいドラゴンに食われます」
「ドラゴンは火を吐き出しますか?」
「はい、吐き出します。
 尻から」
「尻?」
「はい、屁だと思います。
 尻から炎を吐き出し、すべてを焼き尽くします」
 かなりの人数が笑った。
 語った本人も笑っている。
 そして、続けた。
「でも、精霊族の街がいくつも全滅したと、伝えられています。
 銃を持つ我々ならば、走るドラゴンには対抗手段があるでしょうが、空飛ぶドラゴンには我々も無力でしょう」
「走るドラゴンにはどうやって?」
「戦車で。
 最初の戦車は、走るドラゴンに対抗する目的で、数十年前に作られました。
 その後、人間同士の争いに使われるようになりました」
「精霊族は銃を持っていますか?」
「精霊族に銃の作り方が伝わってから、数百年が経ちます。
 鬼神族も銃を持っています。精霊族から手に入れています」

 ここで、会議はいったん終わった。
 二二時を過ぎており、子供たちの何人かは眠ってしまった。
 しかし、ちーちゃんとマーニよりも年齢の上の子供たちは、ドラゴンの話題でとても眠れる状態ではない。
 しかも、口から炎を噴くのではなく、総排泄腔から火炎放射するのだ。
 子供たちは、おならの話しで盛り上がっている。

 二四時から余人を交えず、山荘の住人だけで会議を再開した。
 マルユッカは当然のことのようにドラゴンの存在を不可欠な知識として、この地に長いミランダとオクタビアも伝説程度の話しとして、知っていた。
 一方、中央平原出身者は、聞いたこともない、そうだ。彼らは黒魔族の存在さえ知らなかった。
 住民の世界観は、中央平原よりもマルヌ川流域のほうが圧倒的に広い。中央平原出身者は、そのことに大きな衝撃を受けている。
 特に、デュランダルとウルリカは……。
 街と街を結ぶ道さえろくにないのに、閉鎖的な村社会の集合体ではないのだ。
 かなり、粗暴な世界ではあるが……。

 ちーちゃんは、ドラゴンと聞いて大興奮でとても眠れるような状態ではない。
「おならブーッってしたら、ボーって火着けてドラゴン丸焼け」と何度も言っている。
 自分のアイデアに酔っているのだ。
 当然、再開した会議にも参加した。マーニは寝てしまった。他の子供たちも寝ている。
 ちーちゃんの大はしゃぎとは裏腹に、由加とベルタは深刻な顔をしている。
 ベルタが「対空兵器が何もない……」と嘆くと、由加が「空から攻撃されたら、逃げる以外の選択肢はない……」と言う。
 相馬が「ドラゴンの放屁はどれほど飛ぶんだろうね?」と俺に問うた。
「いやぁ~、まったくわからないよ。でも、一〇〇〇メートルとかはないんじゃないの。
 最大でも体長の一〇倍くらい?
 最大級の翼竜ケツァルコアトルスは、翼を展張すると一二メートルに達したというから、放屁火炎の射程距離は一二〇メートル?」
 由加が「軍用の火炎放射器の射程は三〇メートルくらいね。最大でも五〇メートル」と言うと、ベルタが「サーモバリック弾をRPGから発射できれば、一五〇メートルの距離から攻撃できる」
 相馬が「サーモバリック弾って?」と尋ねると、ベルタが「焼夷弾の一種で、気体爆薬ね。固体から気体に変化する際に爆発的な相変化を起こして、その次に分子間の歪みから自己分解して爆発、さらに空気中の酸素を使って燃焼爆発するの」と答えた。
 イアンは、「爆燃すればいいのなら、そういった混合物は作れるよ。ここでもね」といった。
 ルサリィが「戦車砲とかじゃダメなの?」と質問すると、ベルタが「仰角がとれないから、対空射撃はできないの」と答えた。
 俺は、「近接の対空戦闘以外の対抗手段はないということか。
 深刻だな。
 焼夷弾を発射するRPGと、四挺のNSV重機関銃で戦うことになるのか」といった。
 由加が「NSV重機関銃の対空銃架が必要ね」と言うと、ウィルが「どういうものが必要か言ってください。作りますから」と応えた。
 ちーちゃんの「おならブーッってしたら、ボーって火着けてドラゴン丸焼け」は、俺たちの対ドラゴン戦の基本になりそうだ。

 会議で決まったことは五点。
 偵察二隊の即時帰還。
 RPG‐7用の爆燃焼夷弾の製造。
 NSV重機関銃用対空銃架の製作。
 ドラゴンの正体の調査。
 黒魔族の動向を間接的に監視。

 俺は、ドラゴンの正体を調べるチームを率いることになった。
 メンバーは、通訳のルサリィ、そしてドラゴン大好きのちーちゃん。
 会議の三日後、俺たち三人は履帯付きダブルキャブトラックで、最も近い精霊族の街を目指した。

 ドラゴンの情報は、我々に新たな脅威を予感させた。
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