200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚

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第7章

07-187 創造主西征

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 セロとの戦いどころか、黒服との決着さえついていないのに、新たな問題が起こった。
 北アフリカ、200万年前のアレクサンドリア付近に、突如、オークの大軍が現れたのだ。 しかも、移住したばかりのギガスの村を襲った。村1つを焼き、ギガス数体を殺して、食料を奪い撤収していた。
 ギガスの幼体を掠うことはしなかった。

 香野木恵一郎は、揚陸船キヌエティとともに急遽北アフリカに戻ることにする。
 南島の近くにいながら、立ち寄る時間の余裕はなかった。
 このとき、揚陸船キヌエティには2頭のドラゴンと1機のヒューイが残っているだけだった。水陸両用車は残っていない。
 揚陸船キヌエティが運んできた1000の義勇兵は、王冠湾に事後を託した。
 香野木恵一郎は、無線から流れる花山真弓の罵詈雑言と罵倒の数々を聞きながら、心底思った。
「だから、帰りたくなかったんだ。
 怒られるから……」

 パレルモ近くの母港に帰還すると、2日後には出港する予定で、物資の積み込みを急ぐ。
 用意できた水陸両用トラックは6輌だけ。不足分はヒギンズボートと軽車輌で補うしかない。
 今回の作戦に同行してくれたトーカは、ギガスの村を襲ったオークの調査に参加してくれることになった。
 トーカとギガスの外見は似ているが、内実はかなり異なる。トーカがギガスを助ける義理はないが、見捨てられるほど無縁でもない。

 トラックの不足分を軽車輌で補うとしても、どんな車輌であれ、入手は困難だ。困難であるなら、作るしかない。
 揚陸船キヌエティの母港周辺には、各街が放棄したり搬出できなかった機材・物資を集めるガラクタ屋が集まっていた。
 ドラキュロの危険を顧みない、生命知らずの連中だ。
 これらの機材を買い入れ、母港近くの木造倉庫を工場にして、揚陸船キヌエティ搭載用の車輌を修理・整備・改造・製造していた。
 本来は車輌修理工場だが、十分な設備があることから、自然とクルマの製造に傾いていた。

「何台あるの?」
 香野木恵一郎の質問に、若いエンジニアは自信満々だった。
「4台だけど、もっと作れるよ」
 香野木は、このクルマをどこかで見たことがあった。
「モデルは?」
 若いエンジニアは、ニッと笑って答える。
「ワーゲン・ビートル・タイプ1の派生形で、シュビムワーゲンという水陸両用型があった。
 それがボディデザインの原型。中身は別物だけどね。
 エンジンは空冷水平対向4気筒なんて、カラバッシュ製の航空機用エンジンしかないから、毎度お馴染みの水冷4気筒OHVにしてある。このエンジンなら、いくらでも手に入る。
 バスタブ型のモノコックボディはそのままだけど、ホイールベースは少し延長したんだ。
 海は無理だけど、流れの緩やかな川や湖なら航行できるよ」
 香野木は即決した。
「こいつをもらっていく。
 それ以外の車輌は雑多でいい。動くなら、何でも使う。それと、揚陸のためにヒギンズボートがいる。
 すぐに集めるんだ。集まり次第、出港する」

 香野木恵一郎は、強権的な指導者ではない。無理は言わないし、何でもできるとの過信もない。常に自然体だが、もめ事に首を突っ込む癖がある。

 半田千早は、西サハラ湖南のNキャンプからヘリコプターでチュニジアまでやって来た。
 西サハラ湖東岸の平定がほぼ終わり、スパルタカスを中心とするヒトの政権が動き出していた。
 彼女はこの機会に、世界がどうなっているのか、を知るために西地中海沿岸までやって来た。
 黒服との航空戦を知っていたし、出撃したパウラが決戦に間に合わなかったことも知っている。
 だが、もっと深いことを知りたかった。
 そして、チュニジアで揚陸船キヌエティの噂を聞いた。
「キヌエティが白魔族と戦うらしい」
 揚陸船キヌエティの船長がマトーシュだということにも驚くが、その船にはチュールも乗っているらしい。ポンコツのヒューイのパイロットとして……。
 揚陸船キヌエティの活躍は噂で知っていたが、彼女に近しいヒトが関わっているとは思ってもいなかった。
 パレルモまでは航続距離ギリギリだが、兄と幼なじみに会いたい重いだけで、550キロの空の旅を決める。
 当初計画では、パレルモのヘリポートに降りるつもりだった。
 だが、空からだと、揚陸船キヌエティの特異な船形がすぐにわかった。
「あの船に降りられる?」
 パイロットは船に降りたことはなかったが、航行中ではないし、船体上面がまったくの平坦であることから、着船する自信があった。
 それに、船首側にヘリコプターが1機着船している。船尾側なら安全に降りられる。

「親方、いいものが来たよ」
 マトーシュの舌なめずりに、香野木恵一郎が微笑む。
「親方、パイロットごと拿捕してもいいよな」
「好きにしろ」
 マトーシュは腰からM1911ガバメント自動拳銃を抜くと、弾倉を外して空弾倉に変え、薬室から弾を抜く。
 拳銃をホルスターに戻すと、船橋の外階段を駆け下りた。

 マトーシュよりも先にチュールと数人が卵形をした小型ヘリコプターに到着していた。
 なぜかチュールが固まっている。
 理由はすぐにわかった。
 そして、マトーシュも固まる。
「どうして、チハヤがいるんだ?」
 マトーシュの問いに、チュールは「知らねぇよ」と答える。

「兄貴、マトーシュ、久しぶり」
 マトーシュはハグすべきか考えたが、やめた。チュールが他人行儀に手を差し出したからだ。
 半田隼人の後継者は誰か?
 この疑問はチュールにはない。絶対的に半田千早だからだ。
「2人はここで何してるの?」
 チュールが答える。
「一応、働いている。
 俺はパイロットで、マトーシュは船長だ」
「ちゃんと、給料もらってる?」
 2人が沈黙。
 船にいれば、食うには困らないし、物資はいろいろと手に入る。月に金貨数枚で生きていける。
 ここでは、誰もがそうだ。

 船内の質素な会議室で、香野木恵一郎と半田千早は面会する。
「千早さん、久しぶりですね」
「香野木さん、ちーちゃんは元気ですか?」
「たぶん……。
 で、どんな御用かな?」
「単に兄とマトーシュに会いに来ただけ。
 他意はないよ」
「お兄さんとマトーシュとゆっくりしてほしいのだが、そうもいかないんだ。
 白魔族が攻めてきた。
 で、しばらくの間、付き合ってもらいたいんだ。あなたのヘリを使いたいしね」
「白魔族は大軍なの?」
「いまのところ、詳細はわかっていない。
 だけど、戦車を10輌以上投入しているから、小さな部隊ではないと思う。
 戦車の車種はわかっていない。リベット打ちか、溶接か?
 それらを調べ、できれば排除する。
 そのために、明日早朝に出港する」
「私は何を?」
「……すればいいのか?
 だね。
 まぁ、それは現地に行ってから考えよう」

 半田千早は通称“バスタブ”と呼ばれている4人乗りの小型水陸両用車に破顔していた。
「装甲は?」
「装甲はないけど、厚さ5ミリの均質圧延鋼板製だから、一定の防弾性はあるよ」
「武装は?」
「MG34改を2挺装備できる」
「水上航行は?」
「ホイールに取り付けた螺旋のキャップで漕ぐんだ。外輪船だね。オールも付いているし、方向はハンドルを回せばいい」
「車体、重いんじゃない?」
「チビのくせに、かなり重い。
 1500ccのエンジンじゃパワー不足だけど、鈍重なわけじゃない」
 エンジニアの説明に、千早は納得する。バンジェル島4島から遠く離れた地中海地域で、王冠湾のヒトたちは必要なものを自給自作していることに驚く。

 集められた車輌は多くはなかった。ほとんどが、ノイリン製小型オフロード車で、このクルマの原型はFJ40系ランドクルーザーだった。
 ショートシャーシとロングシャーシがあるが、どちらもフルクローズド。ドラキュロの脅威がある以上、これは当然のこと。
 これら車輌の多くは、事情はいろいろだが西ユーラシアに残置されていたもの。それを、スクラップ屋が回収してきた。
 エンジンの載せ替えを含む大規模な改修を行って、ボディは北アフリカ仕様としてオープンになっていた。
 車体形状は、個々に異なる。ドア付きがあれば、ドアなしもある。ピックアップトラックがあるし、ジープタイプもある。
 そして、11メートル級木造揚陸艇のヒギンズボートに載せられる。

 揚陸船キヌエティは、船員40と上陸隊員150を乗せて出港する。
 ヘリコプターが1機増えたことに、誰もが心強く感じていた。ポンコツ1機では心細かったから……。
 ギガスは200万年前のシドラ湾全域に広く住んでいる。200万年後はシドラ湾はほとんどなく、広い平原が広がっている。河川が多く、農業用水に困ることはない。内陸はサハラ大森林帯だ。
 海岸部は農業に適している。トーカはギガスよりも西に住み、ヒトはさらにその西、200万年前のチュニジア付近を拠点にしている。なお、アフリカとシチリア島は陸続きで、シチリアとイタリアの間に海峡がある。
 このメッシーナ海峡がティレニア海と東地中海を結ぶ唯一の海路だ。

 揚陸船キヌエティはメッシーナ海峡を抜けると、航海速力25ノットでギガス住地の東端を目指す。200万年前のリビア東部国境付近だ。

 襲撃現場には、ギガスの軍事組織、国境警備隊のような部隊がいた。
 ヒトが作った戦車6輌を装備している。ギガスの武器の大半はヒト製なのだが、多くはトーカと行動をともにするヒトが製造している。

 半田千早は香野木恵一郎がギガスと話す様子を見ていて、養父を思い出してしまった。半田隼人もギガスと会話できた。養父の死が悲しくて、泣き出したかったが、どうにか堪えた。

「黒魔族の指揮官によれば、東に550キロほど轍を追ったそうだ。
 もっと東まで逃げたようだ。
 ここから850キロ東に集結しているという噂は、正しいかもしれない。
 その付近は平地で集結しやすいし、ヒトや黒魔族の勢力圏からは離れているからね。
 それと白魔族は、純粋に食料を狙ったようだ。交易用の魚の干物を大量に奪っている。白魔族は空腹になれば魚を食べる。
 それは、200万年前にも確認されている」
 ギガスは草食で、動物食はしない。だが、ヒトとの交易目的で、漁労をするようになっていた。
 香野木が「東に向かう」と説明すると、550キロ東までを確認したギガス数体を同行させると提案してきた。
 香野木はその提案を受け入れる。

 水陸両用車は陸路を東に向かい、陸上車はヒギンズボートに載って海岸沿いを進むことになった。
 湿気の多い地面には、オークの戦車の轍がしっかりと残っている。履帯のパターンから、溶接車体の戦車が10輌以上と推測できた。
 遭遇すれば、厄介な敵だ。揚陸船キヌエティ側には戦車がないのだから。

「対戦車兵器はこれだけ?」
 揚陸船キヌエティから運ばれてきたのは、RPG-7だけ。この対戦車ロケットは、いろいろな街が製造し、いろいろな弾頭がある。成形炸薬弾(対戦車榴弾)、榴弾、焼夷弾など。
 そして、発射機と弾頭は互換性がある。
 対戦車戦を想定していたので、運んできた弾頭はすべてが成形炸薬弾だった。
「対戦車砲はないの?」
 香野木の問いに、なぜか半田千早が答える。
「対戦車砲は、防御用陣地なら使えるけど、今回のような偵察任務には不向きだよ。
 RPGなら白魔族の戦車を撃破できるから、問題ない。射程が短いけど、機動力はこちらが上。どうにかなるよ」
 香野木は千早の説明に納得する。

 揚陸船キヌエティは単船で東進し、200万年前のトゥブルク付近の沖合に展開する。
 ヒギンズボート隊は海上輸送いてきた軽車輌を、渡渉不能な無名の大河東岸に揚陸する。
 この大河がギガスの東方偵察を阻んだ。

 半田千早はご機嫌だった。
 バスタブと呼ばれる開放的な軽水陸両用車は、軽快に走る。水冷4気筒1500ccのエンジンだが、ターボチャージャーによって適度なパワーを発揮している。ギアが低めに設定されていて、登坂力もある。
 機関銃は助手席と前後の座席の中間にあるロールバーに備え付けられている。
 後席はベンチシートで、大柄でもゆったりしている。
 千早は路外走行の醍醐味を感じて、少し油断した。開放的なバスタブを気に入ったし、頼りなげな水上航行には愛情さえ感じる。

 オークとの遭遇は、完全に不期遭遇戦だった。
 森の中から突然現れたオークの戦車と、草原を走ってきたヒトの部隊がごく至近で遭遇する。
 否も応もなく、作戦は何もなく、衝動的に戦闘が始まる。

 香野木は水陸両用トラック“ダック”の荷台で揺られていた。居眠りをするつもりはなかったが、軽くウトウトしてしまった。
 そこで、戦闘が始まる。
 オーク側も慌てたらしく、やたらと戦車砲を撃つ。そのはずで、オークは機関銃を持っていない。そして、オークには歩兵がいない。オークは装甲化された騎兵だけだ。
 相も変わらずだが、香野木の“戦闘態勢”は絵に描いたような屁っ放り腰だ。
 だが、屁っ放り腰なのに動きは妙に速い。他者が見ると寝ぼけているのか、と疑問を感じるほど、オークの戦車の死角を突いて近付いていく。

 香野木は寝ぼけていたが、荷台にいた他の隊員と同様にダックから飛び降りた。
 かなりの高さがあるので、無様に転んだが、最短のオークの戦車に接近する。
 ガムテープで結束した柄付き手榴弾を、オークの戦車のエンジンルーム上に置く。

 千早は驚いていた。肉迫攻撃で戦車を仕留める様子を初めて見たからだ。多くの場合、接近する前に撃ち殺されてしまう。
 オークの装甲騎兵は、リボルバーを携帯していて、接近するヒトをピストルポートから撃つ。

 香野木は結束手榴弾で破壊した戦車からジャッキのレバーを取り外すと、次の戦車に向かう。
 戦車の背後に回り込むと、牽引ワイヤーに足をかけて、車体に登った。そして、砲塔ハッチのノブにレバーを差し込んで開かないようにし、砲塔の上に仁王立ちする。
 そして、小銃を撃った。
 ハッチの開閉は無動力なので、重量には制限がある。当然、ハッチの鋼板は薄い。至近なら小銃弾でも撃ち抜ける。
 さらにレバーを外してハッチを開けると、手榴弾を放り込む。
 肉迫攻撃で戦車2輌を破壊した。
 RPG-7でも2輌を破壊した。オークの戦車は不利と見たのか、すぐに背を向けて撤退する。その背後から何発ものRPG-7が発射される。
 さらに2輌を破壊する。

 ヒト側にも損害があった。
 6人が負傷し、軽車輌4が破壊された。
 香野木は、揚陸船キヌエティに負傷者を運ぶためのヘリコプター派遣を命じた。

「もっと、東だな」
 千早は不安だった。
「香野木さん、深追いは危険だよ」
 だが、香野木の意志ははっきりしていた。
「危険は承知。
 憂いは断つべきだ。
 食人動物は徹底的に叩く」

 負傷者はヒューイが揚陸船キヌエティに運び、カイユースは東方の偵察任務に就く。

 航空偵察は効果的だ。
 東120キロの海岸近くにオークの戦車15ほどが集結している。
 偵察でわかったことがある。多くの戦車に弾痕があるのだ。つまり戦闘の痕跡がある。
 チュニジアでヒトと戦ったオークは、チャド湖の北岸を目指しいたはずだが、行方を見失っている。
 東に逃れた可能性もあるが、この時期にはシドラ湾方面には移住が始まっていた。
 当然、ギガスとオークの接触があったはずだが、その報告はない。また、ヒトの航空偵察でも、オークが東進したとの報告はない。
 となると、このオークはどこから現れたのか、が問題になる。
 千早は気になったが、香野木は関心を示していない。
 千早は香野木に対して、何となく「大雑把なヒトかな」との印象を持った。彼女の養父なら、こういう細かいところに気持ちがいく。

 香野木恵一郎たちは、高速フェリーであるベルーガを使って、200万年後に時渡りした。その目的は、オークと戦うため。
 香野木はこの原初的な目的を忘れてはいなかった。同時に、200万年後が想定していた世界とは異なっていることを理解している。
 それと、この方面に現れたオークの部隊は、想定とは異なり小さな兵力らしい。
 香野木は直感で、威力偵察ではないようだし、食料強奪の山賊行為以外の目的がわからない。オークは、戦術的、戦略的に意味のない攻撃を仕掛けて、存在を暴露してしまった。
 200万年後のオークは、200万年前に出現した頃とはかなり変質している。オークの技術的退行は著しく、現在はヒトの技術に頼っている。このまま退行していけば、数百年後には単なる野生動物になっているだろう。
 だが、現在のオークは、論理性のある行動ができる。で、あるのに、戦術的にも、戦略的にも、何の意味のない山賊行為を、なぜ行ったのか?
 香野木は、ここに注目していた。
 彼の中では回答がすでにあった。
「サハラ大森林帯で、何かあったな。
 何かに襲われて物資を失ったか、仲間割れか?
 襲ったとしたら何か?
 チャド湖以西にいるという“不死の軍団”か?」

 千早は重ねて意見具申すべきと考えた。
「香野木さん、この兵力での深追いは危険だよ。オークの大軍と接触したら、全滅しかねないよ」
 香野木には、千早の懸念が理解できた。
「大丈夫。
 オークは大軍じゃない。
 それと、今回の襲撃は威力偵察じゃない。単なる山賊行為だ。オークには食い物がない。オークは飢えない限り、魚は食わない。
 なのに、ギガスから干した魚を奪った。
 飢えているんだ。
 放置すると、また襲う。繰り返されると、地域の不安定化を誘引しかねない。
 だから、叩くんだ」
 千早は納得できなかったが、香野木の判断に従うことにする。

 海岸部に集結しているオークは、多くなかった。ヘリコプター2機で広範囲に捜索したが、千早が心配したような大軍ではなく、孤立した小部隊であることは明らかだった。
 オークの戦車の航続距離は150キロ以下なので、補給部隊が随伴していると予想したが、それもなかった。
 戦車でドラム缶を積んだ木製の橇を牽引するという、かなり荒っぽい輸送方法をとっている。
 オークは100体近くいて、戦車の数と合致しない。その理由は不明だ。オークは重量10トン程度の軽戦車2種を運用しているが、これ以外の車輌では大型の全装軌輸送車を保有している。
 オークは雌雄老若関係なく兵士だが、当然、老体や幼体、傷病体は戦えない。物資の輸送も必要。この大型全装軌輸送車は、トレーラーを最大3輌牽引できる。
 北アフリカ東部に現れたオークは、こうした装備を欠いている。

 香野木の作戦は単純だった。
「我々が追っている白魔族は、間違いなく孤立している。
 本隊からはぐれたか?」
 千早が助言。
「白魔族はヒトと違って、脱走はしない。そういう例は過去にない」
 香野木が頷く。
「ならば、はぐれたのだろう。
 どうであれ、これを叩く。
 放置はできない」
 千早は香野木の方針に納得したが、どこかに“私怨”のようなものを感じた。
 だが、オークに怨みがあるヒトは多い。精霊族や鬼神族も同じだし、ギガスも同様。
 香野木の決定を香野木自身がトーカに説明し、トーカから説明を受けたギガスが、数瞬遅れて歓声をあげた。

 揚陸船キヌエティが搭載する2機のヘリコプターは、武装していない。だが、機内に機関銃を装備し、ガンシップとして離船する。

 攻撃は2門の81ミリ迫撃砲による制圧射撃から始まった。
 波打ち際からそう遠くない平坦地に集結していたオークの部隊に対して、内陸側から間断なく迫撃砲弾を浴びせる。
 同時に、森を背にRPG-7を抱えた兵が近付き、砲撃が終わると同時に戦車に向けて発射する。ヒトは海を正面にU字形に包囲攻撃を仕掛ける。

 半田千早もこの攻撃に参加する。彼女の役割は、対戦車ロケットの射手の護衛。

 制圧は10分もかからなかった。勝ち戦とはそういうもので、負傷者は軽傷が2しかいなかった。
 一方的な攻撃であり、虐殺に近い。

 オークの戦車は12輌。うち4輌が攻撃により全損。4輌が修理可能な損傷。4輌が無傷だった。
 ギガスが戦車を欲しがり、一部に反対があるものの香野木はその要求に応じることにする。
 問題は戦車の状態で、どの戦車にも真新しい弾痕があった。最近、どこかで、激しい戦闘を行った証だ。
 さらに、全車輌合わせても6発しか残弾がなかった。各車100発以上搭載可能なので、射耗していたと解することができた。これも、激しい戦闘を行った証になる。

 香野木が「何と、誰と戦ったんだ?」と呟くと、千早が聞き逃さなかった。
「私たちが知らない何か?」
 香野木が千早を見る。
「それが何か知りたい」
「私もだよ」
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