200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚

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第8章

08-192 レムリアへ

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 カルタゴではお馴染みのキヌエティだが、アイランド型船橋の追加と船尾の形状が変更されたことから、新造船のような印象を当地のヒトたちに与えた。
 香野木恵一郎も、一回り大きくなったように感じて、驚いている。

 香野木恵一郎には、想定外があった。
 半田千早が装甲車輌3を伴って、カルタゴに現れたのだ。彼女以外にも想定外の志願者が多数現れる。装備を持つもの、無条件で資金を出すというもの、地理の研究者や探検家など情報を持つものたち。
 当初は、100人ほどの探検隊だったが、カルタゴでさらに100人が乗り込むことになる。

 里崎杏が激怒する。その怒りは、不運にも花山真弓に向けられた。
 そして香野木、またしても花山に怒られる。
「バカじゃないの!」

「食料の増載が必要ですが、冷蔵庫が足りません。
 缶詰や乾物を使うことになります」
 マトーシュ船長の報告を里崎提督は背中で聞いていた。場所は、飛行甲板の最先端。
 キヌエティは、カルタゴで100人を乗せる余裕がある。だが、長期航海は100人で計画していた。
 それが200人になるのだ。そもそもキヌエティは、近距離を往復航海する目的で造られた船だ。
 もともと調理設備はないし、飲料水の精製装置もなかった。
 船室に窓がなく、居住性が悪い。
 近距離ならともかく、長距離を長期間航海するようには造られていない。
 それを乗員・乗客100人ならば、どうにか快適な船旅ができるようにしたのだ。
 乗員・乗客が倍になった。
「できるだけ多くのドライフルーツを集めて。不足分は瓶詰で補いましょう。
 缶詰工場はまだ稼働していないのでしょう?」
「はい提督。
 缶詰工場は、どこも動いていません。
 古い缶詰しか手に入りません。
 あと水ですが……」
「白く塗ったドラム缶に真水を……。
 それと、シャワーは交代制で3日ごと」
「ドラム缶は200個、40キロリットル分用意しました」
「提督、コウノギは強引ですね」
「だけど、彼が選んだ100人はこの探検の成否を左右するかもしれない。
 いずれはドミヤートを背負う半田千早、クマンの旧王族で資本家のパウラ、ヴルマンの政権中枢と結びついているミエリキ、湖水地域の若き大商人ヨランダ。
 あと、救世主のお姫様。
 アルベルティーナだっけ。
 あの子は、香野木さんが呼んだんでしょ。カルタゴに。ブリッドモア辺境伯次男カリーの正室で、ヴィルヘルム選帝侯の次女なんでしょ。
 ややこしいことに辺境伯の愛人だとか。息子の妻を愛人にする義父って?
 軟禁されていたブリッドモア辺境伯を湖水地域からカルタゴまで呼びつけて、お姫様の参加を促した?
 事実上、命令したわけね。
 香野木さんには、驚かされてばかり。
 その他にも、ナイル川を遡上した地理学者やイタリア南端に至った探検家もいる。
 あと、シルクの繊維が動物性だって突き止めた錬金術師とか。
 香野木さんは、普通じゃない。
 あのヒトは異常よ」
「提督、コウノギが嫌いですか?」
「その逆。
 退屈しないから好き」
 マトーシュは、半田隼人も「退屈させない」とよく評されていたことを思い出していた。

 アルベルティーナは、ブリッドモア辺境伯のそばを離れたくなかった。彼の老いが深まっていたからだ。
 ブリッドモア辺境伯は自身の死が近いことを察していたし、自身の死後、アルベルティーナの身が危ういことも理解していた。
 カリーが辺境伯となれば、伯の正室であり、先伯の愛人は邪魔でしかない。
 それに、彼女を囚われ人のままで朽ち果てさせたくはなかった。
 ブリッドモア辺境伯の要求は1つ。
「息子の妻を自由の身にせよ」
 アルベルティーナの要求も1つ。
「義父をバンジェル島で最高の医療によって療養させよ」
 その両方を香野木恵一郎は了解した。

 アルベルティーナは、カルタゴの街で刀剣商を探していた。
 被服や銃は支給されると聞いたが、刀剣は自弁する決まりだからだ。
 地面に敷物を広げ、その上に刃物を並べる商人に声をかける。
「ダマスカス鋼の刀はないか?」
 老いた商人が顔を上げる。
「お嬢さんがなぜ、ダマスカス鋼の刀を探すのじゃ。
 そなたの容姿ならダマスカス鋼の刀よりも、シルクのベールのほうが似合うぞ」
「無礼な年寄りだな」
「その態度、西ユーラシアの出ではないな」
「そうだ」
「クマンか?
 まぁいい。
 ダマスカス鋼の刀を探し出すことは簡単ではないが……」
 そう言ってから、老商人が鞘に入ったナイフを渡す」
 アルベルティーナが鞘からナイフを少しだけ抜く。
「この木目模様、ダマスカス鋼か?」
「いいや、残念だが。
 私の息子が造った。
 ダマスカス鋼を再現しようとしているが、道半ばだ。
 偽物だ」
「反りの浅い、細身の刀を探している」
「偽物でいいのか?」
「本物は100年探しても見つからぬだろう」
「明日、ここに来い。
 希望に添うかはわからぬが、何振か用意しよう」

 探検隊員に宿舎は用意されていなかった。しかも、カルタゴ入港後、わずか1週間で出港になる。

 半田千早は、食堂の隅にいるアルベルティーナに驚く。
 ゆっくりと近付く。
「アルベルティーナ、だよね」
 彼女が上目遣いで、立ったままの千早を見る。
「ハンダの娘か。
 おまえも行くのか」
「うん。
 パウラやヨランダもいる」
「私は自分の立場を理解していない。
 が、どうも救世主の代表ということらしい。
 我が夫は絶対に認めないだろうが……」
「何だっていいよ。
 こっちに来なよ」
「私は敵だぞ」
「昔はね」
「殺し合いをしたのだぞ」
「昔ね」
「水に流せるとでも?」
「水に流さなくてもいいじゃん」
「なぜ?」
「互いに目的があって、あの時は敵だっただけなんだから……。
 おいでよ」
 アルベルティーナは半田千早に促され、新たな仲間と同席した。

 隔壁の関係で、食堂は3つに別れていた。1つは乗員用。2つが乗客用。乗客とは操船に関わらない探検隊員のこと。
 出航前に、乗客用食堂の1つが、酒保に変わる。特段、売るものはないので、実質的には船内居酒屋だ。
 船室は、船長と提督以外は大部屋。2段や3段ベッドではなく、1人用なので狭苦しくはない。
 ベッドの間隔も広い。

 アフリカとシチリア島は陸続きだ。マルタ島も存在しない。ユーラシアとはメッシーナ海峡で隔てられているのみ。
 この海峡は最短3キロしかなく、オーク(白魔族)はここに砲座を備えた高い防壁を築いていた。
 この防壁の目的は、ドラキュロの侵入を防ぐため。
 ヒト科動物であるオークもドラキュロに襲われるからだ。
 ヒトはオークとは異なる方法で、ドラキュロの進入を阻止しようとしていた。
 シチリア側を削って、海峡の幅を広げる大工事を行っている。
 メッシーナ海峡に面する海岸から内陸2キロから7キロまでを掘って、海面下にしようという大工事が行われている。
 この工事によって、海峡の幅は8キロまで広がる。これならば、ドラキュロは渡れない。その上で、オークの防壁を強化延長・一部新設して、万全を期す。

 この工事の影響で、メッシーナ海峡の手前で、探検船キヌエティは3日間待たされた。

 その後は順調に航海を続け、クレタとキプロスが島であることを確認し、ナイル川の河口を調査した。
 そして、シナイ半島が消滅した紅海を南に進む。紅海と東地中海の境界から1800キロまでは、順調な航海だった。
 ここで、未知の海峡を発見する。

 飛行甲板に探検隊員全員が集まっている。
「グレート・リフト・バレーだ。
 海になっている。
 右がアフリカ、左がアフリカから分裂した未知の大陸だ」
 若い地理学者の意見に、誰もが息を飲む。

 キヌエティは、アラビア半島沖にいた。2つの大陸は狭い海で分かたれている。
 フルギアの隊員が「シルクはどっちの大陸にあるんだ」と呟くと、ヴルマンの隊員が「それも大事だが、そんなことよりもここに何があるのか、だ」と答える。
 大地を裂く圧倒的な力を目の当たりにして、誰もが息を飲んでいた。

「投錨できそうな場所はないかな」
 左舷船橋で里崎杏提督が発した問いは、その場の誰もが無視した。彼女自身、そんな場所がないことをよく知っているからだ。
 紅海はあまりにも深く、アフリカ側、アラビア側とも海岸付近でも数百メートルの水深があった。
 しかも、流れ込む川がまったくない。河口を探して、投錨することもできない。

 船首船橋では、マトーシュ船長も投錨できる場所を探していた。
「海峡の東側は浅いようだが……」
 確かに海の色が違う。そもそも紅海と眼前の海峡と呼んでいいのかも不明な幅200キロほどの海とでは、海面の色が違う。
 そして、海峡の西側は絶壁が続き、海の色が濃い。
 東側の海面は薄い青で、浅い印象だ。
「ボートを出して、水深を調べよう」
 船長の決定は、即座に提督に伝えられた。

「うゎ~、化け物がいるぞ」
 アフリカから分離した東側の大陸は、レムリアと名付けられていた。
 レムリアの北端に近付くと急速に浅くなる。
 ダフラク諸島は存在していて、キヌエティはその島々とレムリアの間に入る。
 そして深い入り江を見つけ、そこに入る。錨を下ろす。
 この入り江で、全長18メートルにも達する四肢が鰭化した巨大トカゲを目撃する。大西洋側にいる同種よりも大型だ。
 一方、海棲ワニはまったく見ない。サメは多い。体長10メートル級はざらで、20メートル超もいる。
 この巨大サメは動きの速い魚を補食できない。魚に比べれば鈍重な、各種海棲爬虫類が主な獲物だ。
 海棲爬虫類は多様なのだが、大別すれば、海棲ワニ、海棲トカゲ、ウミヘビ、ウミガメの4類しかいない。
 さらに、ヘビとカメは劣勢だ。爆発的に適応放散したのは主竜類で、トカゲが続く。
 哺乳類は全体的に劣勢で、有袋類のうちオポッサムだけが爆発的な多様性を示している。
 アフリカはガゼルが多い。哺乳類の捕食動物もいるが、食物連鎖の頂点にいるのはドラゴンと呼ばれる二足歩行のワニだ。
 この二足歩行のワニは厄介で、草食もいるのだが、肉食との区別が付きにくい。そして、原則として草食ではあるが、まれに獲物を捕らえることもある。
 ドラゴンは水を恐れないが、海水は嫌う。嫌うが、短距離ならば泳ぐ。
 アフリカでヒトが住むならば、ドラゴンを丹念に駆除する必要がある。確かに、ドラゴンは厄介だが、ドラキュロよりは数が少ないし、不気味ではない。
 何をするにしても、ドラゴンの存在を確認しなければならない。

「明日の朝、ヘリを飛ばそう」
 左舷船橋の里崎杏提督が船首操舵室のマトーシュ船長に伝えた。

「誰かいるよ」
 夕日が浜辺に長い影を作る。
 探検船キヌエティは、波打ち際から3キロ沖にいる。空気の透明度が高く、この距離でも影がヒトに似た何かであることだけはわかった。マーニが使う光学双眼鏡では、限界を超えた距離だった。
 マーニに代わり、ララが双眼鏡を受け取る。
「マーニ、ヘリで海岸に向かおう」
 井澤加奈子が反対する。
「もうすぐ陽が沈む。
 これからの飛行は危険。
 それに、ヘリの爆音で逃げてしまう。
 高速艇がいい」

「ほんとうね。
 誰かいる……。
 舟艇はすぐに用意できる?」
 船内通信で、マトーシュと里崎は会話するが、マトーシュがいる船首操舵室からは人影らしきものは確認できていない。
「高速艇のほうが速いですが……」
「舟艇のほうが静か。
 舟艇がいい」
「了解しました。
 すぐに出します」

「マーニ、船尾のランプが開くよ。
 舟艇が出るみたい。
 行こうよ」
 ララに促されて、マーニは水線付近の車輌デッキに急ぐ。

「怪我人かもしれないでしょ!
 それに、言葉を少しだけ習ったの。
 カートから」
 百瀬未咲は救急バッグを抱え、腰のホルスターからシグ・スーパーP226を抜くと、弾倉を引き抜き確認する。
 そして、スライドを引き薬室に装弾すると、セーフティをかけた。

 マーニとララが車輌デッキに着くと、すぐに自動小銃を渡される。
「乗るなら、持っていけ」

 舟艇の速度は10ノットほどだが、マフラーの効果で排気音が低い。この消音化改造は、王冠湾が行った。

「提督、ヒトかな?」
「半田さんは、行かなかったの?」
「マーニとララが行ったよ」
「だから、我慢した?」
「こういうことは、私の仕事なんだけど……」
「仕事を盗られた?」
「まぁね」
 左舷船橋で、里崎提督と半田千早はこれからの展開に期待はしていなかった。

 ヒト影は舟艇の接近を見ているようだった。逃げる様子がない。
 ビーチングして、艇首のランプドアを下げると、ヒト影は2、3歩後退った。
 しかし、逃げない。
 ヒト影は、明らかに小さかった。鬼神族なら4、5歳、ヒトならば6、7歳くらいだ。
 この体格で成人もあり得る。
 200万年後は、すべてがあり得る世界だ。

 百瀬未咲は、カート・タイタンの制止を振り切り、真っ先にレムリアの大地を踏んだ。
「大丈夫。怖くないよ」
 現地の言葉で問いかけてみる。
「お姉ちゃん、知らない?」
 カート・タイタンが通訳する。
 だが、真意がわからない。
 カート・タイタンは大きな身体を目一杯丸めて、百瀬の背後にいる。声は明らかに子供で、巨漢が胸を張れば怖がらせかねないためだ。
「お姉ちゃんとはぐれたの?」
 小さな影は、少し考えてコクリと頷いた。
「お腹すいている?」
 影はまた頷く。
「近くに行っていい?」
 影は反応しない。
 百瀬はゆっくりと近付く。
 影は逃げないが、怯えている。
 すでに周囲は暗く、ライトがなければよく見えない。だが、舟艇の艇長はライトの使用を禁じた。この探検隊は、誰もが思慮深い。

「お水飲む?」
 眼前の小柄なヒトに似た何かは、コクリと頷く。
 百瀬は、使い回しのペットボトルのキャップを開け、渡す。
 両手で持ち、飲み始める。小さな身体なのに、一気に半分ほど飲む。
「食べる?」
 クッキーを見せると、コクリと頷く。1枚食べ、2枚目に手を伸ばす。
 空腹なのだ。
 百瀬は小さなライトを点ける。足を怪我している。
 顔を見る。6、7歳の女の子だ。
 百瀬が女の子を抱き寄せる。
 艇長がその様子を確認し、艇員に「前照灯を点けろ」っと命じる。周囲が明るくなる。
 女の子はヒトのようだが、やや違う。
 カート・タイタンが「丸耳族の子だ」と呟く。確かに耳が大きい。ヒトの耳と比べると、面積比で倍はある。
 耳が寝ている。不安を表しているのか、それとも恐怖か?
 ポジティブな感情ではなさそうだ。
「艇長、この子、足を怪我しているの!
 船に連れていきたい!
 船長に許可をもらって!」

 浜辺には、艇長と3人の艇員が残った。女の子を探しに誰かが来ることを、想定したからだ。
 流木や枯れ木を集めて、焚き火を始める。

 百瀬未咲と女の子は、ごく簡単なことは意思の疎通ができていた。
 足の怪我はひどくないが、化膿し始めている。抗生剤を飲ませ、包帯を巻く。
 身体はひどく汚れていて、数日間、放浪していたか、どこかに隠れていたようだ。
 カート・タイタンが直接事情を聞いたが、幼いからなのか、ショックなのか、言葉数が少なく、要領を得ない。
「お姉ちゃんがいないの」
 これを繰り返す。
 お姉ちゃんとはぐれたのか、それともお姉ちゃんが去ったのか、皆目わからない。
 そもそも、なぜお姉ちゃんと2人だったのか、その理由もわからない。

 里崎杏は迷っていた。
 女の子を保護したが、家族の元に返さなければならないが、浜辺には誰も現れなかった。
 浜辺は小さな砂浜で、切り立った崖がある。この崖をこの子が降りたとは思えない。
 浜辺を調査すると、崖を下る小道があった。それと洞窟とは呼べないような、崖下の窪み。この窪みに新しい焚き火の跡があり、女の子がここにいたことは明らかだった。
 わずかな荷物もあった。だが、旅をする装備ではないし、食べ物がないのでピクニックでもない。
 カート・タイタンは、もっと南に漂着し、その地の丸耳族は豊かだったそうだ。絹は輸出用の産品で、鮮やかに染めた綿の衣を着ていたという。
 女の子の服は染めていない綿で、豊かには思えない。
 カート・タイタンは「ヘンだ。北部だって、貧しいはずはないんだ」と説明する。

 里崎提督はインド洋側の調査を一時中断し、女の子の家族を探すことにする。
 見つからない場合は、保護することにした。
 女の子は百瀬未咲になついていて、彼女の存在を常時目で追っている。

 マーニとホティアは、ヘリコプターによる空中からの偵察を里崎提督に意見具申する。
 里崎杏も航空偵察の必要性を感じていたが、ローター音の大きいヘリコプターよりも静音化した軽飛行機を選択する。

 偵察は、パイロットはララ、コパイロットにはミエリキが決まる。
 制止した船上からの離船は、難しい。偵察員を乗せたかったが、重量軽減のために諦めた。船首を風上に向け、海上を吹くそよ風を利用する。

 ララは最船尾から70メートル滑走して、離船した。滑走開始時、尾翼は船尾船外に出ていた。

 里崎杏は女の子の年齢から、彼女が近くから海岸までやって来たと推測していた。
 数キロ圏内を特に詳しく偵察するように、ララは指示されていた。

「海岸付近には村や街はありません」
 ララ機からの報告は、まったくの想定外だった。
 無線を聞いた里崎提督が呟く。
「なら、あの子はどこから来たの?」
 ララ機は「内陸に向かいます」と続けた。

 ララは、海岸から20キロ内陸に村を発見する。戸数は40ほど。舗装されていない森を抜ける道に沿って、木造らしい家屋が整然と並んでいる。
 森の奥深くに、果樹園のような耕地がある。
 耕地の近くに、家屋よりも大きい倉庫らしい建物跡が十数戸ある。すべてが完全に焼け落ちている。
 村の家屋も焼かれているが、倉庫ほど徹底していない。それと、村の道に倒れたヒトがいる。
 間違いなく死体だ。

 キヌエティの会議室は、重苦しい空気に包まれていた。
「道には20ほどの死体がありました」
 ミエリキの報告は、むなしかった。
 村内の大きな建物が完全に焼け落ちている。
「死体ね。
 焼けた死体……」
 里崎杏が黒く焼けたヒトの形を数える。
「クソッ!
 建物に閉じ込めて、火を放ったんだ!
 これは、セロの手口だ!」
 ガレリア・ズームが否定する。
「ヒトもやる」
 カート・タイタンは首をひねる。
「部族争いは確かにあった。
 だが、こんなことはしない。
 おかしい。何かがヘンだ。
 俺が知っている丸耳族じゃない」
 マトーシュ船長が提案する。
「提督、調査隊を送りましょう。
 船はしばらくこの入り江に留まり、ダックを上陸させたらどうですか」
 里崎提督は少し考える。
「あの子を連れ去ることはできない。
 家族がいるかもしれないのに。
 だけど、村が襲われていたことは確か。
 火を使うのだから、普通の動物ではない。
 上陸しましょう。
 その前に、空からもっと広域を偵察する」

 翌早朝から航空偵察が始まる。
 ララとミエリキは、偵察員を乗せて2機で船を発った。
 レムリアは南北4000キロ、東西最大1600キロと推定されている。
 キヌエティは最北部付近にいて、この地方の事情について、カート・タイタンは何も知らない。彼は、レムリア西岸のもう少し南に漂着している。
 だが、彼が知る限り、レムリアにおいて、村を襲い皆殺しにするといった暴挙は聞いたことがなかった。
「盗賊だって、そんなことはしない」
 カート・タイタンの言は、自信に溢れている。無視はできない。
 彼は「丸耳族は温厚だ」と何度も言った。

 航空偵察で60キロ圏内に、新たに4つの村を見つける。そのうち、3つの村に襲撃の痕跡があった。
 1つの村には、磔にされた3体を確認している。計4つの村が全滅した可能性がある。

「これは、軍の野営地ね」
 画像を見る里崎杏の見解に異を唱えるものはいなかった。明らかに軍の野営地だからだ。
「中隊規模ね。
 ミエリキ、見つかった?」
「いいえ、提督。
 高度があったし、飛行機に気付いた様子はありませんでした」
「純粋な軍隊ね。
 カートさん、こういった軍隊の存在は?」
 カート・タイタンは戸惑っていた。
「丸耳族は基本は農民で、商や工を生業としているものも多い。
 戦いはあるが、職業軍人は存在しない。
 俺が知っている限りは、だが……」
「とするならば、レムリアに変化が起きたのでしょうね。
 その原因は何か?」
「俺がレムリアを離れてから、5年しか経っていない。
 社会が根底から覆るような変化って何なんだ。何が原因なんだ」
「まさか、北辺に至ると同時にこんなことになるとは思っていなかったけれど……。
 目立たないよう小規模な調査隊を上陸させましょう」

 調査隊の志願者は多い。
 ラダ・ムーは人選を迷った。学術中心にすべきか、戦闘の可能性を重視するか、で。
 結局、彼の判断は、戦闘はあり得る、だった。
 隊長はラダ・ムー、通訳にカート・タイタンは自動的に決まる。
 車輌は水陸両用トラックではなく、半田千早が持ち込んだ装輪装甲車を使うことになった。
 これで、半田千早と彼女の仲間も同行することになる。キュッラと半田健太だ。
 ガレリア・ズームは当然のように志願。救世主の姫であるアルベルティーナが名乗り出る。
 きな臭い、初上陸が決まった。
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