200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚

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第8章

08-207 ティターン狂乱

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 ティターン本国にとって“北部の反乱”は、遠い場所の出来事だった。北部総督の現任者と前任者は、総統府にも元老院にも正しい状況を報告していない。
 アスマ村での戦闘など、詳報は提出しているのだが、“小競り合い”程度まで矮小化していた。
 だが、アリギュラが解放され、総督府が占拠されると、そんな偽りの対処では誤魔化せなくなる。
 そして、総統府と元老院に“真実”が報告される。多くは下級指揮官や一般兵の証言であったり、個人的な書簡であったりする。
 だが、総統や元老院議員は、ティターン軍は世界最強、ティターン兵は精強無比、ティターンの文明は比類なく高度だと信じて疑わなかった。
 軍事力を背景にした優越思想があり、高い文明は低い文明を支配できると考えている。ティターンの民が考える文明とは、軍事力そのもののことだった。
 当然、下級指揮官や一般兵士が報告した“雷鳴の魔法”や“ドラゴンの炎”は敗北した言い訳のための偽りとされた。
 ティターンは、宗教的発想が弱く、論理的思考に優れているが、同時に迷信深くもあった。
 この時期、ティターンに抵抗している勢力は、複数存在した。
 ティターンの逃亡奴隷が大陸南東部に立て籠もっている、マルーンの反乱。北部が総督を追放した、北部の反乱。ゲドリクスが王を名乗った、ガバリ族の反乱。
 ティターンでは、この3つが大規模反乱とされていた。
 マルーンの反乱は、立て籠もった地域が天然の要害で攻めにくく、鎮圧の目処がたっていない。だが、ティターンからすると、追い詰めた感があり、危機感が薄い。
 ガバリ族の反乱は、野蛮な半狩猟民が起こした無謀な反乱とされていて、鎮圧は簡単だと判断されていた。
 問題は北部の反乱で、実態がよくわからない。農耕民のモリニ族が主体となる反乱だとされているが、きっかけはルテニ族の殲滅にある。
 モリニ族以外の北部諸族が多数連携しているらしいが、部族単位に調略したり、各個撃破すればいいものを、なぜそれができないのかわからなかった。
 総統府と元老院は、北部の反乱の放置は危険である、との点で一致していた。ただ、送り込む戦力では、対立があった。
 総統府は5個軍5万、元老院は2個軍2万を主張した。これは派兵予算をめぐる対立であり、元老院は総統府に多額の戦費を与えたくなかった。
 結局、双方妥協し、3個軍3万の派兵が決まった。

 ティターンはガレー船によく似た帆走と櫂走の軍船を北に向けて送り出した。
 兵力5万を主張した総統府であったが、実際のところ兵力3万でも十分に平定できると考えていた。
 海を埋めつくすほどの軍船を見れば、北部諸族は戦わずに降伏するとも考えていた。

 ティターンの港から続々と軍船が出港している頃、ズラ湾には6隻の大型船が入港した。
 城島由加は、重体の半田健太と重傷のキュッラをともなって、C-1改輸送機“くじらちゃん”でドミヤート地区への帰還の途についていた。
 健太救出のために集められた部隊は、上陸を開始している。

 テシレアとイルメラは、海岸段丘からズラ湾を見下ろしている。
「たくさん、だね」
 テシレアの率直な感想に、イルメラは不安の声音が混じっていると感じた。
「ガバリ族は、バカなことしたね」
 イルメラも不安を感じていた。

「大袈裟だよ。いくらなんでも」
 半田千早の感想は、確かにその通りであった。
 司令官棟には、花山真弓、里崎杏、フィー・ニュン、ベアーテ、半田千早がいる。
 花山真弓が「ヴルマン兵3000、ドミヤートの軽戦車50と1トン積みピックアップトラック60、王冠湾の4輪装甲車20は確かに過剰だ」と言った。
 ここまで運んでは来たが、回収についてはあまり考えてはいなかった。
 ベアーテが「この村を守るためにも兵3000は必要だ。3カ月ほどで交代できるよう、考えたい」と意見し、フィー・ニュンは「軽戦車は、すべて再生車輌だから故障したら部品を共食いさせながら使っていけばいい」と。
 千早は「トラックは置いてってほしいよ。どうせ、全部中古でしょ」と。実際、車体の塗装はバラバラ、錆や傷がある車輌も少なくない。正直、最後のご奉公的なポンコツを送り込んできた感がある。
 一方、王冠湾の4輪装甲車は、すべてが新造車に近かった。
 それと、ドミヤートの軽戦車を改造したブルドーザやバケットドーザは、貴重な建設機械だ。
 また、同じシャーシのトラクターも貴重だ。このトラクターならば、2トン積みレーラーを3輌を牽引できる。

 モリニ族の拠点であるハルダール村から続々とコムギが運ばれてくる。
 いろいろな部族から、いろいろな産物が届く。コムギやオオムギだけでなく、絹織物、綿織物、パーム油、アーモンドなどナッツ類、カカオ豆、豆類など、あらゆる産物がズラ村に集まっている。
 街道を整備したことから輸送時間の短縮ができ、遠方からも訪れる。
 ズラ村周辺は、ごく短期間で北部でも屈指の商業地域に変貌していた。

 ティターンの地域区分ではあるが、レムリア北部は短期的な食糧確保だけでなく、チョコレートの原料となるカカオやマーガリンの原料や燃料になるパーム油まで、従前は欠損していた物資が確保できる貴重な地域になり始めていた。
 ベアーテは「北部の安定は我々の利益に直結する」と断言し、フィー・ニュンは「ズラ村周辺の防衛は我々の要だ」とした。
 半田千早は、ティターンに対する報告書を提出するよう命じられていたが、アクシャイからの伝聞情報以外はよく知らなかった。

 ズラ村の繁栄は、北部を越えて中北部にも伝わっていた。中北部には半農半漁や半採集狩猟の半農耕民などが多いが、完全な農耕民もいた。
 北部の村は自給自足の閉鎖的社会ではなく、広く交易する貨幣経済が発達していた。
 中北部の交易は物々交換が多く、多くの村は自給自足の生活をしている。だが、ティターンの影響を受けており、貨幣経済が広範に伝播していて、銀貨金貨を持たない住民は貧困に向かっていた。
 ガバリ族に関しては、北部に居住するグループは北部諸族からの影響によって、高度な貨幣経済を取り入れた“北部化”が進行していた。
 狩猟は補助的な食料調達手段で、農耕と漁労が経済の根幹にあった。
 一方、中北部のガバリ族は、ティターンの影響も、北部の影響も薄く、昔ながらの半農半採集生活を続けている。一部は、採集の比率が高く、半移動性の生活形態だった。
 そのためか、ガバリ族としての統一性は失われつつあり、ゲドリクスによって再統合されたものの、北部との抗争によって再度分裂の気運が高まっていた。
 北部のガバリ族は“北ガバリ”を名乗り、中北部の“南ガバリ”とは一線を画すと主張し始める。
 居住領域がどこであれ、完全定住型農耕民となったガバリ族は、ゲドリクス派から離脱し、北部諸族との“同盟”に大きく舵を切り始めていた。

 最初の一報はモリニ族を介してだった。
「海を埋めつくすほどの大船団が、中北部の海岸線を北上している」
 そんな大軍を出せるのはティターンだけなので、ティターン軍の船団であることは明かだ。
 順当に考えれば、アリギュラ奪還のための戦力投入だ。
 この情報をモリニ族に伝えたのは、中北部西岸一帯に住む漁労を生業とするガバリ族だった。
 アリギュラの街はパニック状態で、モリニ族を中心に北部諸族が会合を重ねた。この会合には、ルテニ族の族長としてテシレアが参加した。
 花山真弓はテシレアから会合の状況を聞いていた。ティターン軍は推定3万。これに対向する戦力は、簡単には集められない。
 ティターン軍は戦闘訓練を極めた正規軍であり、北部諸族は戦闘要員を集めたとしても武器を持った農民にすぎない。
 北部諸族はティターン軍の精強さを骨身にしみて知っている。そして、大軍が送られたからといって、ただちに戦争とはならないことも知っていた。

 アスマ村の会所には、付近一帯の大小各部族の代表が集まっている。いまや数十しかいないルテニ族から、数万のモリニ族まで、顔ぶれは多彩だ。部族を代表する族長や長老、居住地を代表する村長や街長など立場もいろいろ。
 ルテニ族の族長としてテシレアが、ズラ村の長として花山真弓が会所を訪れた。
 アリギュラの街長は、当初は落ち着いていたが、話し出すと平静を失った。
「ティターンの野蛮な連中が、またやってくる!
 どうしたらいいんだ!
 妻や娘を洞窟に隠すのか!
 隠すといってもいつまでだ?」
 会所内は静まりかえった。思いは、全部族が共有している。ルテニ族のようにはなりたくないし、されど無抵抗でも過酷な扱いを受ける。
 一家族から誰かを奴隷として差し出せ、という命令は必ずある。この命令に従わなければ、高齢の祖父母から乳飲み子の曾孫まで、
家族全員が広場で吊される。
 それが嫌なら、誰かを犠牲にしなければならない。一度、屈服すると要求は穏当になる。実際は過酷なのだが、穏当に感じるようになるのだ。
 花山真弓は、彼らの苦悩をよく理解していた。
 花山はテシレアに通訳を頼む。まず、テシレアが挙手をする。会所のざわつきが静まる。
 議長役のモリニ族長老がテシレアに発言を促す。
「ルテニの若き女族長、何事かな?」
 テシレアが粗末な長椅子から起立する。
「ズラ村の長、司令官からお話があります。
 偉大なる長老様、私が通訳することをお許しいただけますか?」
「よい。許す」
 花山が起立する。会所は中央に長テーブルがあり、そこに有力部族の長や長老、大きな街の長が座る。その周囲に発言力が強くはない部族の長などが座る。

 花山が小声で話し始め、テシレアがよく通る声で通訳する。
「ズラ村は、ティターンの要求には一切応じない。
 水一杯飲むにも代金を請求する。
 応じなければ、飲み逃げ食い逃げ盗人〈ぬすっと〉として捕らえ罰する。
 3万の兵など恐れることはない。
 我々は村の総力を結集して、ティターンの軍船を迎え撃つ」
 長老たちは、テシレアの言葉に驚く。
「軍船の数は、いまだ不明なのだぞ。だが、海を埋めつくすほどだという。
 そのような大軍船団をどうやって迎え撃つのだ?」
 テシレアは、すでに作戦を知っていた。しかし、ここは通訳に徹した。
「ズラ村の提督が小船団を率いて、狭い海に進入する。
 船の数は12隻。この12隻でティターンの大軍船団を待ち受ける。場所はメテマ沖」
 議長役の長老は呆気にとられている。
「ルテニの若長よ。
 ガバリからの知らせでは、ティターンの船は見たこともないほど大きいらしい。
 1隻に200の兵が乗っているならば、150隻にもなる。漕ぎ手は奴隷だが、もし不利となれば、ティターンは自由を餌に奴隷に戦うよう仕向ける。
 3万の軍であっても、実際の戦力はさらに多い。奴隷兵は必死になって戦うぞ」
 テシレアは動じない。
「メテマの南には、開けた海岸が続く。
 ティターン軍は海岸に沿って北上している。
 提督は海上で決戦を挑み、司令官は陸上から支援する。空からも攻撃を加える。
 陸海空の3兵力を結集して、ティターンの大軍船団を撃破する」
 議長役の長老は、得心していない。
「では、我らには見ていろと?」
 テシレアは、ここからは通訳以上の仕事をしなければならないと覚悟していた。
「ズラ村だけでは、この戦いには到底勝てない。各部族、村や街に協力をお願いしたい」
 テシレアは一度言葉を切り、事前の打ち合わせの通りに支援の依頼を行う。
「この作戦の要諦は、ティターンの軍船を殲滅し、3万の大軍を壊滅させながら、北部諸族は死者はもちろん、負傷者さえ出さないことにある。
 しかも、短期で戦いを終える。
 アリギュラには、港を開いていただきたい。アリギュラでズラ湾の船が補給して、決戦に向かう。
 諸部族は、弓の使い手を集めてほしい。なるべくたくさん。
 サトザキ提督は、ティターン軍船団の頭を押さえ、北上を阻止する。航空隊は、沖から陸に向けて圧迫する。
 ティターン軍は上陸を指向するでしょう。
 陸に隠れているハナヤマ司令官指揮の部隊は、陸に近付いたティターン軍船団に対して雷鳴の魔法による攻撃を行い、軍船を破壊する。
 それでもティターン兵は上陸してくる。
 そこを、大落射角で矢の雨を降らす。
 我々は、ティターン兵を殲滅する」
 議長役の長老が小首をかしげた。
「チハヤ殿の役目は?」
 テシレアは、それも知っていた。
「チハヤには秘密の任務がある」
 議長役の長老は、何かを悟ったように口角を上げた。

 タザリン地区は、軽フェリーとして利用するため、ヒギンズボートを製造していた。
 島嶼に移動したノイリンは、この合板製小型上陸用舟艇を大量に必要としていたが、その要求を満たせるほどの建造数はなかった。
 やむを得ず、王冠湾地区は自製することにした。毎度お馴染み土佐造船の歴史的データベースから、該当する船の資料を引っ張り出す。
 大発動艇(大発)の建造資料はいとも簡単に出てきた。
 どうも土佐造船は海軍の艦船は建造したことがないらしい。ほとんどが陸軍関係だ。小発動艇や戦車揚陸艇の機動艇(SS艇)の資料も出てきた。
 大発の設計を簡易に改定し、数艇建造したが、この凌波性に優れた鋼製舟艇は評価が高く、南島ではあらゆる輸送で広く使われるようになっていた。
 ズラ湾には、ヒギンズボート4艇(全長11メートル)のほか大発(全長15メートル)が4艇送られていた。
 その他、30メートル級高速哨戒艇2艇、15メートル級高速警備艇2艇、複合艇2艇がある。
 大発はそのまま“大発”と呼ばれていた。特徴は、車重20トンまでの車輌を積載できること。今回の作戦では、軽戦車を搭載する。軽戦車を船体に固定し、砲艇として使う。

 軽戦車は、最も生産数の多い装軌トラクターの車体を流用している。この車体は、ルーツをたどると1930年代に当時のチェコスロバキアで開発されたLT-38戦車に由来する。
 この戦車はスウェーデンでライセンス生産され、第二次世界大戦後にPbv301という装甲兵員輸送車に改造された。この車輌が200万年後への移動に使われた。
 サスペンションが単純なリーフスプリングだったことから、200万年後において最も成功した装軌車輌となった。
 軽戦車は、この車体の後部に動力パックを配置し、砲塔と主砲はFV101スコーピオン軽戦車と同じものを車体中央より少し前方に搭載した。
 主砲は砲身長23.5口径76.2ミリ砲、前面装甲は45ミリあり、白魔族(オーク)の戦車に対して、十分な攻撃力と防御性能を備えている。
 軽戦車には名前や開発番号はないが、スウェーデンのメーカーであったスカニア社に由来して、しばしば“スカニア”と呼ばれる。
 結局、ヒトの戦車の主力は、この型式に落ち着いた。戦車は非生産的な車輌なので、高額になることが嫌われる。これも、この戦車が好まれた理由のひとつだ。
 ドミヤートだけは、M24チャーフィー軽戦車の車体に、2輪連動式横置きコイルスプリングで懸架するサスペンションを組み合わせた戦車を製造・配備している。
 この戦車にはフランス製AMX-13系列の揺動砲塔に最大105ミリ砲を搭載したが、バランスが悪く、最終的には砲身長60口径75ミリ砲に至った。
 この戦車は、車体はアメリカ、サスペンションは日本、砲塔はフランス、砲はアメリカ、エンジンは日本、トランスミッションはアメリカにルーツがある。
 そして、白魔族の戦車相手ではオーバースペックだった。だから、多くは製造されない。

 ティターン軍船団の北上は、想定よりも急速だった。
 そして、北部所属の弓の使い手の集結も想定よりも早かった。
 決戦地であるメテマに続々と集まっている。北部諸族でも遊牧を生業としている部族は、農耕が主体の部族との交流が少ないのだが、彼らもウマや馬車で射手を送ってくれた。
 北部北方の部族の中にはアリギュラから海路でメテマを目指すものも少なくなかった。
 推定200隻の大船団を迎え撃つために、北部諸族は過去にないほどの団結を見せている。

 ララとアネリアは、ターボコブラを飛ばして、ハルダール村の滑走路に進出した。
 総重量250キロのナパーム弾“ドラゴンの炎”8発は陸路で運ばれた。
 里崎杏の小艇隊は、出発が遅れた。アリギュラで補給する燃料の輸送に手間取り、陸上輸送の予定をヒギンズボートによる海上輸送に切り替えた。
 別な問題もあった。大発に積んだ軽戦車から主砲を発射すると、艇の揺動が数分間治まらず次弾の発射ができない。
 それでも、積んでいくしかない。

 花山真弓は戦車に随伴する歩兵として、ヴルマン兵に期待していた。しかし、ウマに乗れるヴルマン人は少なくなっており、トラックをかき集めても兵500の輸送が限界だった。
 それと、作戦上の問題もあった。
 メテマの南には50キロもの美しい砂浜が続く。この砂浜への上陸を誘導することが、ティターン軍殲滅の成否を決めるのだが、50キロという戦域は歩行の兵には広すぎるのだ。
 50キロもの砂浜のどこに上陸するかわからない状況なので、ティターン軍が海岸に橋頭堡を築いてしまう可能性があった。
 そうなると、多勢に無勢となり、北部は危機的な状況に陥りかねない。
 この作戦は機動力が勝敗を決めるが、その機動力に問題があった。

 花山真弓はメテマには入城せず、砂浜の中間地点に軽戦車50輌とヴルマン兵500を集結させた。
 メテマに集結していた弓矢の使い手も呼び寄せる。射手は2000を超えていた。北部に住むガバリ族も射手を送ってきた。
 北部諸族は過去にない団結を見せ、ティターン軍に対する乾坤一擲の反撃を行う覚悟を決めていた。

「思ったよりも早いね」
 里崎杏の“感想”に単身やって来たマトーシュはどう答えるべきか思案した。
「4時間でメテマ沖まで北上してきます。
 偵察機によると、帆走しているそうです」
「風は、ティターンの味方をしている?」
「そうです」
「すぐに出港する」

 里崎艇隊のバランスは悪かった。高速艇と複合艇は35ノットから40ノットの速度が出るが、ヒギンズボートと大発は15ノットが限界。
 マトーシュが高速艇と複合艇を指揮し、ヒギンズボートと大発は里崎が指揮した。

 マトーシュは、手長族(セロ)の飛行船とは何度も対空戦を行っていたが、海上での戦いに経験がない。
 さらに、ティターンの軍船は帆走で6ノットから8ノット、櫂走なら4ノット程度。ごく短時間なら6ノットは出せる。
 つまり、時速7キロから15キロ程度の相手と戦う。一方、高速哨戒艇は35ノット(時速64キロ)、複合艇は40ノット(時速74キロ)を発揮する。
 速度差を利用した戦いをすることになるが、どう利用したらいいのか見当が付かなかった。
 里崎からは「走り回って混乱させればいいの」と言われたが、たった4艇で200隻の足止めができるとは思えなかった。
 里崎は、アフリカ東岸とレムリア西岸に挟まれた最大幅200キロの浅くて狭い海を“アフリカ内陸海路”と名付けた。
 偵察機からの報告では、ティターンの軍船は全長35メートルから40メートルのガレー船だ。アクシャイからの情報では、水面下の船首先端には衝角が備え付けられている。
 ということは、木造船であっても相応の堅牢性があるはず。

 マトーシュは、穏やかな浅海でティターンの大船団を簡単に見つけた。赤と白の縦縞の帆は、遠方からでもよく見えた。温暖な地方の陽気さを感じさせる。
 マトーシュは、4艇の速度を落とさず接近し、船団の西側に回り込む。
 船団は縦列にはなっておらず、ややばらけている歪な団子状態だ。4艇は単縦列で、ティターン軍船団の直近を通過する。
 マトーシュはすぐに気付いた。4艇が生み出す波で、ティターンの軍船は簡単に制御を失う。
 里崎が「走り回ればいいのよ」と言った理由がわかった。大型船や高速艇が生み出す波は、小さなボートには致命的に危険だが、全長40メートル近いガレー船は吃水が浅いためか小船のように揺れる。
 マトーシュは各艇に小刻みに進路を変えるように命じる。
 ティターンの軍船は面白いように揺れた。
 ティターン軍船団と反航すると、右に回頭し、再度、船団に急接近する。そして、高速哨戒艇は40ミリ機関砲を、複合艇は12.7ミリ機関銃を発射する。
 40ミリ榴弾の威力はもちろん、12.7ミリ弾でも容易に舷側を破壊・貫通し、航行不能にした。
 そして、ティターンの軍船には対抗手段がない。逃げも反撃もしない獲物を狩るのと同じ。実に簡単だ。

 里崎杏は、小型上陸用舟艇であるヒギンズボートと大発で、ティターン軍船団の頭を押さえた。大発に軽戦車を搭載する計画は、アリギュラで放棄した。軽戦車は陸に揚げられ、大発には81ミリ迫撃砲が据えられた。

 船団の中心付近にある少し大型のガレー船が、81ミリ迫撃砲弾の直撃で真っ二つとなって沈む。
 ヒギンズボートからはRPG-7が発射される。

 空飛ぶ軽トラ“サファリ”を操縦して、長時間の偵察を敢行している井澤加奈子は、ティターン軍船団が獰猛な肉食魚に追われる小魚の群に見えた。
 実際は、ズラ湾の船のほうが小型なのだが、動力船と帆走・櫂走船では対等な戦いにはならない。

 ララとアネリアは、ナパーム弾を2発ずつ翼下に懸吊している。
 計画では、ティターン軍船団の西側、つまり沖の船に対して攻撃を行う。巨大な炎の壁を見せて、船団を陸に向かわせる作戦だ。
 ララは、ティターン軍船団とズラ湾艇隊が予定よりも接近していることに慌てた。ここで投弾すると、味方の艇が危害圏内に入ってしまう。
 彼女は船団のど真ん中に投下する。

 巨大な炎の壁が、海上を走る。炎よりも東側の船が陸に舳先を向ける。必死の櫂走が始まる。

 里崎杏は、全艇に後退を命じる。アネリアの投弾を支援するためだ。

 アネリアは、上空で待機していた。ララが投弾した改良型ナパーム弾の威力は絶大で、炎は海上に留まっていた。
 高速艇の後退を確認して、作戦に沿った攻撃を始める。
 ティターン軍船団の西端付近に2発のナパーム弾を投下。アネリアは炎に巻き込まれないよう、最大速度で通過する。

 ティターン軍船団は、全体としてはパニックに陥ってはいなかった。船団は広範囲にばらけており、距離があればナパーム弾攻撃に対する恐怖を感じても、平常心を失わせるほどの衝撃を与えはしなかった。
 だが、同時に、この攻撃を反復されたら、全滅が必至であることは明白だった。だから、一斉に東に向けて回頭し、陸を目指した。
 船団の行動は角笛に従っており、統率を欠いてはいない。

 ズラ湾の艇隊は、ティターン軍船団が陸に向かうよう西から圧迫をかける。
 最初の船が美しい砂浜に着底すると、陸側から50輌の軽戦車が現れる。
 これは、ティターン軍はまったく予測していなかった。
 ティターン軍の総指揮官は、ドラゴンの炎が実在した以上、雷鳴の魔法もあるかもしれないと予想していたが、それに対する対応策はなかった。

 花山真弓は、ティターン軍船団の上陸地点が予測できず、北へ南へ20キロも移動していた。
 北部諸族の弓隊は、ウマ、ラバ、馬車などあらゆる移動手段を馳駆ししたが、足りてはいなかった。
 気付けば、弓兵の多くが軽戦車にしがみついている。1輌に10もの射手が鞍上している車輌もある。
 計画では、海岸に着底上陸される前に、海上で撃破することになっていたが、砂質の低い海岸段丘を越えた時点で、すでに20隻が接岸しており、ティターン兵が砂浜に上陸していた。

 花山真弓が「戦車前へ」と命じると、各車の車長は弓兵に「降りろ!」と叫んだ。
 1列横隊で砂丘のような傾斜の緩い段丘を乗り越え、ヒトには相応にきつい傾斜を海岸に向かって進む。
 斜面を降りきると、各車は停止。ティターンの軍船に向けて主砲を発射する。23.5口径76.2ミリ砲は、確実にティターンの軍船を破壊していく。通常の榴弾だけでは足りず、粘着榴弾を発射している車輌もある。
 弓兵は戦車の後方に位置し、最大射程で投射を始める。上陸していたティターン兵が剣や槍を構えて、突撃してくるが、大落射角の矢が阻止する。
 軽戦車1輌が着底していたティターンの軍船の横腹に突入し、真っ二つに砕く。
 花山真弓の意図とは違うが、一部の軽戦車は少しずつ前進して、波打ち際に達する。
 5キロ沖の軍船をも破壊し始める。戦車の前進に伴って、弓兵も同行する。この弓兵が、戦車を守る随伴歩兵の役目を果たす。

 ティターンの軍船の一部は、ズラ湾艇隊とズラ村軽戦車隊の攻撃をすり抜けて、南に向かった。だが、無傷の船はなく、ティターンへの帰還は無理。とりあえず、中北部のティターン支配地を目指す以外になかった。

 北部諸族はこの勝利に歓喜していたが、花山真弓と里崎杏は違った。
 2人は海岸に立ち、惨状を見ている。
「次の一手をうたないと」
 花山の言葉に里崎が頷く。
「いい手がある」
 花山が里崎を見る。里崎には案があった。
「首都攻撃。
 ティターンの本拠地を叩く」
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