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第8章
08-208 和平会談
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香野木恵一郎は花山真弓から「ティターンに艦砲射撃を加えるから」と宣言されて、頭を抱えてしまった。
反対すれば、花山はむきになる。賛成すれば、いい気になる。扱いにくいのだが、それは香野木に対してだけで、真は誠実で温厚で思慮深い。
帝都攻撃は意味がある。船員と船の安全を担保できるならば、実行する価値がある。永遠の戦争はありえない。和平は無理でも停戦か休戦に持ち込みたい。
「あっ、いやぁ~、そうか」
賛成とも反対とも言わず、当惑を声音にしたつもりだが、花山には通用しない。
「あとはよろしく」
香野木は以後、帝都攻撃後の展開をどうするか思案し続けることになる。
加賀谷真梨は、FV433アボット自走105ミリ砲とは別に、同系のFV432トロージャン装甲兵員輸送車を入手していた。どちらも、シャーシを含む基本構造は同じ。極論すれば、車体の形状が違うだけ。
この2車種をベースに、歩兵戦闘車、自走砲、戦車、自走対空砲を開発する計画が進行している。
武器・兵器が貧弱な王冠湾を含む南島は、セロの攻撃に対して脆弱だった。ヒトの兵器は不足気味で、移住時に失った生産力は立ち直っておらず、南島は自給するしかなかった。
それに、ズラ村を維持するには、武器が必要だ。
ズラ村に配備された軽戦車“スカニア”は、相当に使い込まれた車輌を再生したもの。再生と言っても完全なレストアではなく、動く部品を集成している。
50輌配備されたが、作戦を実施するたびに10輌ずつ可動不能になる。原因はいろいろ。エンジンの各種故障、トランスミッションのギアの歯欠損、サスペンションの折損など。
これは、深刻な状況だった。
現地修理では、追い付かない。1カ所直すと、別の部分が壊れる。
花山真弓は、代替車輌をすぐに必要としていた。
テシレアとイルメラは、ズラ湾を出港する探検船キヌエティを見ている。
「あの船に乗って、ヒトの世界を見てみたい」
テシレアの言葉にイルメラも同意だった。
西ユーラシアから北アフリカと西アフリカへの移住が終わり、多くの船が余剰となった。特に移住末期に大量建造された“標準船”の評判は悪かった。
王冠湾でも80メートル級と90メートル級の標準船を多数建造した。
長宗元親は、王冠湾建造の標準船を廉価で買い戻す商談を進めている。すでに4隻を購入し、1隻がドック入り、1隻が湾内に繋留されている。
標準船は船体の設計が標準化されているが、動力は使えるものをあてていた。多くは蒸気レシプロで、一部は蒸気タービン船だ。
王冠湾の船は例外で、全船がディーゼルを使っている。また、減速ギアの製造能力が限られることから、王冠湾の標準船はディーゼルで発電し、電動モーターで推進するディーゼル・エレクトリック方式を採用している。この推進方式は、通常動力潜水艦と同じ。
「ドックの80メートル級は、まもなく進水できる。
しかし、香野木さんの要求を受け入れたら、駆逐艦になってしまったぞ。魚雷を積んでいないだけだ」
庁舎内で井澤貞之と面会した長宗元親は、やや当惑の表情だった。
「駆逐艦……?
香野木さんは海戦でもするつもり……?」
井澤は、駆逐艦と戦艦の区別がない。そのことは、長宗は承知していた。
「第二次世界大戦の頃だが、海防艦というシーレーン防衛用の小型フリゲートがあったのだが、その戦闘艦に似た船を造ったんだ。
砲装はかなり強力だ。105ミリ主砲、背負い式に連装40ミリ機関砲、20ミリリボルバーカノンは両舷に各2門」
「自衛隊の船並み?」
「いいや、海自や海保のどちらとも違うね。船体の規模や兵装は旧海軍の鵜来型海防艦に近い」
井澤は、かねてから懸念していた。
「レムリアからの穀物がなければ、飢えは始まっていただろう。
香野木さんが、ギリギリのところで回避してくれた。
そのことを理解しているヒトの指導者は少ない。香野木さんは、精霊族、鬼神族、半龍族、黒魔族からは英雄視されているようだ。しかし、ヒトはどうだ?
香野木さんを正当に評価しているか?」
長宗もそのことに気付いていた。
「フルギアの統領は、香野木さんの存在さえ知らない。
香野木さんを注視しているのは、ヴルマンと北方人だけだ。
それは、好都合なんじゃないか?
香野木さんにはね。注目されていない分、好き勝手に動けるし。
それに、香野木さんが好き勝手に動けば、王冠湾の利益にもなる。穀物での利益はそこそこだが、シルクとカカオはぼろ儲けだ。最近では、高収益商品にパーム油が加わった」
長宗は得心していない。
「あの船を何に使うつもりなのか?
香野木さんは、同型船を4隻ほしいと言っている。護衛に使うつもりなのか?
そうではないように思うんだ。
まさか、レムリア攻略なんて考えていないよね」
井澤が笑う。
「香野木さんにそんなメンタルはないよ。支配欲とは無縁なヒトだから」
長宗は、井澤を訪ねた理由を告げる。
「井澤さん、頼みがある。
しばらくの間、王冠湾を離れたい。あの船で、香野木さんに会いに行く。香野木さんの真意を確かめたい」
井澤の顔色が変わる。
「それは、ありがたい。
気になっていたんだ。香野木さんが変わってしまっていたら、と少し心配だったんだ」
80メートル級輸送船を改装した駆逐艦に似た武装船は“ザンベジ”と命名された。計画では、さらに同型船3隻が建造される。
長宗元親は、カルタゴに着いた。
なかなか発展しない西アフリカ移住組に対して、急速に発展する北アフリカの状況に驚く。
ジブラルタル海峡を通過して西地中海に入ると、風景が一変するのだ。北アフリカの中心都市はカルタゴで、その繁栄ぶりは驚異的だ。
そんなカルタゴの近くに王冠湾の“海外領土”パレルモがあった。
パレルモはカルタゴと異なり、静かな港町なのだが、精霊族、鬼神族、半龍族(トーカ)、黒魔族(ギガス)の大使館のような出先機関がある。
ヒトでは、ヴルマンと北方人が“大使館”を置いている。他のヒトの勢力は無視のような状態。重要視されていないのだ。
パレルモ湾は天然の良港で、150メートル級大型船が接舷できる桟橋が1つある。
北には西ユーラシアが見える。ドラキュロの渡海を阻止する最前線でもある。
住民は多様だ。ヒトが飯屋を開き、鬼神族が肉屋を営み、精霊族がパンを焼き、半龍族が野菜を売り、黒魔族の鍛冶屋がいる。
文明の交差点ではなく、何もかもがごちゃ混ぜなのだ。
「香野木さんの頭の中を具現化したような街だな」
それが、長宗元親の感想だった。
香野木の宿舎はレンガ造りの戸建てで、実に質素だ。近くに入植したフルギアの農家の老婦人が、切り盛りしている。
義理の父親と住む花山健昭は、見事なほどの悪ガキになっていた。西ユーラシアに渡り、機械などを回収してくる“サルベージ屋”の使いパシリをしている。
サルベージ屋の親方と港で話したが、健昭の父親が何者なのかまったく知らない様子だった。
長宗元親は、香野木恵一郎から先制攻撃を受ける。
「長宗さん、近々、里崎さんがティターンを艦砲射撃するんだ。
それで、一気に緊張が高まる。
それまでに、輸送船の積荷とあの船をズラ湾に入れたい」
長宗が驚く。
「艦砲射撃!」
香野木恵一郎は慌ててはいないが、その後の展開が予測できない。
「里崎さんが計画して、花山さんが承認した。
ティターンの本拠地を叩くから、その後はどうにかしろってことらしい」
長宗は理解できない。
「里崎さんからの報告では、アデン湾の出口にあるソコトラ島やマダガスカルにもヒトかヒトに似た生物が存在した痕跡がある。
たぶんヒト。つまり、時渡りをした移住者だ。ソコトラ島、マダガスカル、レムリアには、ドラキュロはいない。陸棲ワニや巨大トカゲもいない。
ヒトが生きていくには、理想的な場所だ。
実は、レムリアの最南端付近にヒトがいた痕跡が残っている。ティターンはヒトの文明を吸収して、帝国を築く礎にした可能性がある。
思うに、ティターンがヒトから学んだことは、建築技術と戦争の仕方だけらしいが……。
それと、軽度の選民思想がある。
これも、ヒト由来だろう」
長宗は、香野木が言いたいことがわからない。
「それと、艦砲射撃とどんな関係が?」
香野木が頷く。
「レムリア北部は大穀倉地帯だ。
北部が独立していて、我々と商取引をしてくれるなら、赤道以北のアフリカは助かる。
ティターンは北部の攻略を狙っている。北部諸族はティターンに抵抗し、ズラ村は北部に与している。
だが、ティターンは強大。簡単には退けられない。だから、艦砲射撃をするんだ。
北部の牙と爪がティターンの喉元に届くことを教える。そうすれば、ティターンも安易に手を出さなくなる」
長宗は里崎たちの考えを理解はした。
「しかし、それで諦めるか?
帝国主義とは、侵略がとまらないものだ」
同じことを香野木も危惧していた。
「そこなんだ。
花山さんと里崎さんも、そこを心配している。
で、和平は無理でも、停戦か休戦に持ち込みたい。
そこで、問題が出てくる。
ティターンの選民思想だ。
レムリアに住む種族だが、東方フルギアは丸耳族と呼んでいた。丸耳族は精霊族と同じ頃にヒトから別れたらしい。確定していないけどね。
丸耳族は宗教的概念が希薄だ。だが、ティターンは全レムリアを支配する権利を自然から与えられたと信じている。
自然を神に置き換えるとわかりやすい。神の概念がないので、自然に置き換えたのだろう。
ティターンは正当な権利として、ティターンがレムリア全土を支配し、レムリアに住むティターン以外の部族を駆逐してもいいと考えている。
同時に、レムリアに住む以上、ティターンに奉仕することは当然で、ティターンが殺生与奪を握ることも自然なことと考える。
ティターンの要求を拒むなら、死しか選択肢はないと」
長宗が考え込む。
「それは、無茶苦茶だな」
香野木は、瞬間瞑目する。
「で、ティターンの本拠地を突いたらどうなるか、がテーマなんだ。花山さんと里崎さんの作戦は、北部を攻めるなら、ティターンの帝都が壊滅することを覚悟しろ、と教えることにある。
だが、それは無理だ。
必ず、現実を見ないヤツが現れる。それに、ヒト属動物共通の傾向として強硬な意見に引きずられやすい。
帝都を壊滅し、ティターンの政治家と軍人を捕らえ、かなりの数を公開処刑しない限り、ティターンの民は状況を理解できないさ。
そんなことはしたくないから、停戦か休戦に持ち込み時間を稼ぐ。交渉の過程で、こちらの実力を見せつけて、手を出せば怪我をすることを教える。
それしかない」
長宗は、その先を考える。
「北部は、レムリアの北4分の1くらいなのだろう?
その他の地域はどうなんだ?」
香野木は長宗と井澤に対して、全幅の信頼を置いている。
「そこなんだ。
ティターンはもともと、ティターン周辺の小部族だった。これは確か。
ティターンはレムリアを、南から、南部、中南部、中北部、北部の4行政区に区分している。
ティターンは南部の小部族にすぎなかったが、いつの頃からかレムリア統一を指向するようになった。
南部には奴隷制があるらしく、ティターンも奴隷制社会だ。他の部族を従えながら、他の部族から奴隷を得て、社会を維持している。
一方、ティターンの支配が長く続き、ティターン化した部族も多い。ティターンに同化した部族は、ティターンと同じような行為をする。ティターンは同化した部族を準ティターンとして受け入れ、勢力を拡大していった。
ただし、同化しなければ民族浄化の対象となり、同化したとしても部族として維持されていれば、いつかは殲滅の対象となる。
中南部の南側までは、ティターンへの同化が進んでいる。しかし、それ以北は文化の違いもあって、同化は進んでいない。
当然、非同化部族からは恨みを買っている。
北部は、完全にはティターンの支配下にない。ルテニ族が滅ぼされかけてからは、抵抗は萎んでいたが、ズラ村ができてからは反攻に転じた。
同時に、北部に刺激された中北部では、抵抗が活発化している。
北部からティターンを退ければ、その波紋は南に向かう。そうすれば、大戦乱になる。
できれば、それは避けたい。
ティターンに対する効果的な抑止力は、軍事力しかない。だから、ある程度の戦力が必要なんだ」
長宗は、彼自身で状況を確認する必要を感じた。
「おおよそはわかった。
で、レムリアに行きたい」
香野木も同意。
「あぁ、レムリアに行こう。
そのまえに健昭を何とかしないと」
護衛船ザンベジは、90メートル級輸送船1隻を伴っていた。この船には、燃料や弾薬など通常の補給物資以外に車体を延長したジムニー5ドア型10輌を載せていた。
長宗元親がザンベジを降り、海岸に向かっていくと、砂浜に建てられたバラックから花山健昭が出てきた。
子供のくせにいっぱしの男を気取っている。長宗の姿を見ると、子供らしい笑顔を見せる。
「健昭、何をしている?」
「ここで働いている」
屈託なく笑う。
大柄な男が出てきた。
「おまえは何だ?
文句でもあるのか?」
長宗は大柄な男を無視する。
「健昭、帰るぞ」
大柄な男は、少なくとも若者ではない。同時に分別のある大人ではない。
長宗ににじり寄ってきた。健昭は笑っている。
「ケンは、俺たちの仲間だ。
何者かは知らねぇが、ケンに何の用だ?」
長宗は、少し呆れている。
「健昭が何者か知らないのか?
まぁ、いい。
どちらにしても、邪魔はするな。邪魔をするなら、あれの主砲を使うことになる」
長宗の視線の先には、護衛船ザンベジがあった。船首側105ミリ主砲が都合よく砂浜のバラックを狙っている。実際は、砲口が向いているだけだが……。
長宗が続ける。
「健昭は、あの船でしばらく旅に出る」
健昭が喜ぶ。
「本当!」
長宗が微笑む。
「あぁ。おまえの親父殿は、おまえに手を焼きすぎた。
だから、お袋様のところに連れていく」
健昭の顔が一瞬で曇る。
「やだよぅ」
健昭は長宗ににらまれて、それ以上は何も言えなかった。
王冠湾は食糧の不足解消を、レムリアとの交易にかけていた。この意見は、ベルーガ由来のメンバーは共有している。香野木恵一郎、井澤貞之、長宗元親の3人は、これを強力に推し進めている。
花山真弓と里崎杏は「行政府に従う」との意志を明確にし、他のメンバーはズラ湾とズラ村の確保を最優先課題とするための施策に邁進している。
南島における農地開拓は緒に就いたばかりで、本格的な収穫にはまだ歳月を要する。
加賀谷真梨は小型の農業トラクターと小型のブルドーザーを開発。この2車種がなければ、収穫の目処など遠い未来のことになっていた。
ブルドーザーの下部車体は、軽戦車と同じもので、トランスファーをHIGHにすれば、時速40キロで路上走行ができた。自力での中距離移動ができるので、トランスポーターが不要なことも大きなメリットだった。
輸送船には、農業トラクターとブルドーザーも積まれていた。
ズラ村で行動不能になっている、故障した20輌の軽戦車の代替として、軽戦車の砲塔を移植できる歩兵戦闘車の車体10も積んでいた。
車体全長6メートル弱、全幅3メートル弱と戦闘車としては小柄だが、乗員3以外に兵員6を乗せることができた。
健昭は、護衛船ザンベジを走り回っていた。同行している輸送船の船倉にも行った。目を輝かせて、長宗元親に「あれは何?」と質問攻めにする。
2隻は東地中海からシナイ海峡を抜け、紅海に入り、ズラ湾まで半日の距離にいた。
香野木恵一郎は、またしても船酔いに苦しんだが、紅海に入ってからはだいぶ落ち着いていた。
「長宗さん、たいへんだ!」
香野木が船首付近にいる長宗に走り寄る。健昭も一緒だ。
「砲撃ですか?」
長宗は悟っており、香野木は頷いた。
「里崎さんがティターン帝都を艦砲射撃した。
丘の総統府と思われる建物に10発、街郊外の大型建物に10発。郊外の建物は元老院議事堂と推測している」
長宗は合点がいかない。
「使った船は?」
香野木も不思議だった。
「キヌエティだそうだ」
長宗がため息をつく。
「無茶をする。
里崎さんには驚かされる」
探検船キヌエティはインド洋を南下。赤道を越えた。
里崎杏はマダガスカルの調査に心を引かれたが、グッと堪えてアフリカ内陸水路に南側から入るようマトーシュ船長に命じた。
船の全長が110メートルもあるキヌエティでは吃水が深く、浅海のアフリカ内陸水路は危険な海だ。
水深は10メートル程度。場所によっては、ヒトが立てるほどの深さしかない。
里崎はソナーで水深を測りながら、あまりにも浅い場合は大航海時代と同じように錘を付けたロープを海底に下ろす方法で水深を量らせた。
マトーシュ船長は過度の緊張で顔を青ざめさせていたが、里崎提督は平然としている。
船員たちは「座礁したらどうするんだ。ティターンの首狩り野郎と戦うのはイヤだぞ」と動揺した。
キヌエティの侵入は、早い段階でティターンに知られていた。だが、これほどの巨船に対して、ティターン側には対抗手段がなかった。
巨船がソロリソロリと北上するのを見ている以外になかった。
実際、10隻以上の監視船を出したが、取り巻くだけで何かをしてくることはなかった。
そして、昼間に堂々とティターン湾に侵入する。
「街の後背の丘にある建物が総統府。
南側郊外の高台が元老院議事堂です」
アクシャイは興奮していた。
レムリアのいかなる部族もティターンの本拠地に乗り込んだことはない。ティターン以外の部族は、彼らの土地で戦い多大の犠牲を払わされていた。対して、ティターン側は戦死傷は兵士・軍人に限られる。
ティターンの総督、元老院議員、市民は、領土拡大における“痛み”を感じたことがない。遠くの地で身内が死に、その死にあたって関係があった他部族を憎むことはあっても、それは実感ではなかった。
キヌエティには、島型船橋を挟んで、前後に105ミリ砲が各1門、背負い式に40ミリ連装機関砲が各1基が装備されている。
前部側105ミリ砲は総督府を、後部側105ミリ砲は元老院議事堂を狙った。
ごく短時間に各砲は10発を発射。総督府と元老院議事堂は崩落する。
発射を終えるとキヌエティは、北に向けていた船首をゆっくりと南に回頭し、湾を出た。
そして、遠巻きされたティターン船をかき分けるように、侵入した航路を南に向かう。
ズラ湾には、4隻の大型船が停泊している。提督が座乗する90メートル級貨客船、探検船キヌエティ(110メートル級)、護衛船ザンベジ(80メートル級)、90メートル級輸送船だ。
キヌエティの飛行甲板上では、修理不能な軽戦車から砲塔が外され、新しい車体に載せられていく。
23.5口径76.2ミリ砲搭載の歩兵戦闘車が組み立てられていく。
アクシャイは、この車輌がさらに10輌送られてくると知り、ティターンが北部の支配を放棄することを確信した。
花山健昭は、ズラ村到着直後に悪童ぶりを発揮した。現地の悪童と喧嘩したわけでも、盗みを働いたわけでもない。
デポに集められていたショートシャーシのオート三輪の後輪を外して、おむすび型履帯を無断で取り付け、無断で動かし、水を撒いてわざと泥濘を作り、そこで走行テストを演じたのだ。
現地悪童は水撒き付近から参加。大人たちは、感心して見物している。
その機動性は抜群で、ハーフトラックだから誰でも運転できる。
気付けば、悪童仲間ができ、そして英雄視されている。健昭の厄介なところはここで、行為自体は正しいが、行為に至る過程が完全なルール無視なのだ。
珍しく数日間連続で雨が降り、アリギュラに至る道の一部がひどく泥濘んでしまった。
香野木恵一郎は、仕方なく後輪にクローラーを取り付けたオート三輪に乗った。
健昭が憎たらしいほど自慢げに、香野木を見ている。
北部最大の街アリギュラは、ティターン総督が支配していた時代の暗さはなく、活気に溢れていた。
もともとが交易にのために開かれた北部諸部族の共同管理地で、街内への武器の持ち込みと街内での争いは法度となっている。
アリギュラは急速に本来の状態に回帰していた。
香野木は靴の泥を落とし、迷彩のシャツを着替えたが、そのままの姿で交易商人の会所に向かう。この会所は、ティターン支配下では北部総督府として使われていた。
木造だが立派な建築物だ。
海路で向かっていた里崎杏は、先に到着していた。吃水の浅い護衛船は、この浅海には最適な武装船だった。2隻の30メートル級哨戒艇も同行している。
ちょっとした艦隊だ。
ティターン側使者は10隻の軍船でやって来た。彼らは彼らの価値観ではみすぼらしい木造の建物が並ぶメインストリートを歩いて、会所に向かう。
「蛮族の家は、木と泥でできている、と聞いていたが、その通りだな」
上陸した直後、交渉団団長である元老院副議長はそう言って、団員を笑わせた。
だが、通りを進むにつれ、沈黙する。早朝まで雨だったのに、足下が泥濘んでいない。彼らの足下はレンガで舗装されている。舗装にモルタルで基礎を造り、焼成レンガを敷き詰めて舗装している。レンガ道は大通りだけでなく、路地まで及ぶ。
ティターンの敷石舗装と比べたら、ずっと歩きやすい。
みすぼらしい木と泥の家は、色彩豊かでティターンのようなモノトーンではない。ティターンの街並みは、石の色だ。多くは灰色。
団長たる元老院副議長、副団長たる総統府親衛隊副隊長は、上陸した時点で交渉などするつもりはまったくなかった。
ティターンの偉大さを示せば、蛮族はひれ伏すと考えていた。そう、教えられてもいた。
だが、アリギュラの街並みを見ていると、ティターンの偉大さは決定的とは言えなかった。
港外に停泊する巨船も気になる。総統府と元老院議事堂を破壊した船とは形が違う。巨船が1隻でないことは明らかだ。
会所には、北部緒族の長や長老、有力な街や村の代表が集まっている。ズラ村の臨時代表は香野木恵一郎、次席は里崎杏。
香野木は、会所に集まる誰にとっても初見だった。
最初の発言は、ティターンの団長だった。
「ティターンは、この大陸すべてを所有している。おまえたちは、この大陸に巣くう害獣だ。こうして生かしておいてやるのは、ティターンの寛大な慈悲なのだ。
なのに、我らの寛大さをいいことに、我らに刃向かうなど言語道断。
これ以上は、許さぬぞ」
場が白けている。団長の言葉は通訳されているのだが、北部側はため息しか出ない。
アクシャイは緊張していた。香野木が大物と聞いていたからだ。正確な通訳を求められていた。余計なことは付け加えるな、と。
香野木は、大きく息を吐くと立ち上がる。
「この大陸はティターンのものだと言ったな。
ならば、ティターンをこの大陸から追い出すしかなくなる。我々はここを立ち退くつもりはない。
そうであろう、ご諸兄方!」
「そうだ!」と合いの手。
団長は怒りを露わにする。
「蛮族が、無礼であろう!」
香野木は、この種の暴論には慣れていた。
「ハゲが一人前のことを言うな!」
香野木は、団長の身体的特徴を揶揄した。そして隣に座る長老に「ご無礼いたした」と謝る。長老は「ふぉふぉ」と笑い「痛快じゃ」と褒める。
蛮族と罵るなら、ハゲと言って何が悪い。
香野木が「ハゲていないやつをだせ!」と大声を出してティターン側を威嚇するが、瞬時の間を置いて、香野木が声を出して笑う。
「それでは、蛮族とハゲの話し合いを始めよう」
香野木は、一瞬にしてティターン側と対等の立場に立つ。
「ファング村以北は、北部緒族の領土だ。ファング村以北にいるすべてのティターン軍は撤退しろ」
「蛮族が我らに命じるか!」
「ハゲの分際で、我らに言葉を発するのか!」
香野木の作戦は明確。蛮族と蔑めば、ハゲと辱める。香野木は優位に立った。
「団長殿、いい話もある。
もし、我々の要求を受け入れるなら、ティターンの街は焼き払わない」
これには説得力がある。すでに、総統府と元老院議事堂は艦砲射撃の標的になっていた。
団長は返答に困るが、何も答えないわけにはいかない。だが、何も言えない。
代わりに香野木が声を発する。
「我々の牙と爪がティターンの心臓まで届くことは、理解しているな?」
団長の目が泳いでいる。
香野木が続ける。
「ティターンを滅亡させることは簡単だ。だが、そんな野蛮なことはしない。
俺たち蛮族は、ティターンほど野蛮ではないからね。しかし、ティターンが蛮行を続けるつもりなら、我々も対処しなければならない。
今日この瞬間から、ティターン軍がファング村よりも北に侵入した場合、直ちに対応する。
次からは海からの攻撃ではなく、空からになる。
団長閣下のご令嬢は、ティターン湾が一望できる丘の上の邸宅にお住まいだ。お孫さんと婿殿と一緒にね。その家が総統府のようになったら、悲しいだろう?」
副団長は軍人だ。香野木の“脅し”は通じない。だが、使う言葉を間違えた。
「ティターンは屈しないぞ!」
この瞬間、立場が変わる。ティターンが下位になったのだ。
香野木は、この交渉に勝ったことを確信する。
「ならば、ファング村よりも北には来るな。
副団長殿の愛妾がドラゴンの炎で焼かれたくなければ、ね」
団長と副団長が顔を見合わせる。ティターンは何も知らずに交渉に臨んだが、北部緒族側はティターン側メンバーの身の上も身の下もすべてを調べ上げていた。
諜報活動は、北部緒族側が数段上手だった。ティターンでの諜報活動はアクシャイだけでなく、いろいろな部族がいろいろな方法で行っていたのだ。
この時点で、北部緒族の勝利だった。
香野木恵一郎は、モリニ族の言葉で相互不可侵の条約文を用意させた。
要約すれば、ティターン軍はファング村以北には侵入しない。侵入した場合はいかなる報復をも受け入れる、という内容だ。
だが、それ以上にこの文書には意味があった。
団長が驚く。
「これは!
何て書いてあるんだ?
蛮族の言葉と文字だ……」
香野木が古風な万年筆を団長に見せる。
「サインしろ」
団長が躊躇う。
「何て書いてあるのか読めない」
香野木が笑う。
「安心しろ、ヘンなことは書いていない。
ファング村以北にティターン軍が侵入したら、おまえの娘を殺すとしか書いていない」
団長が目を剥き、副団長が何かを言いかける。
ティターンはモリニ語の文書に署名した。
ティターンが他部族を対等の存在として認めた瞬間だった。
それと、ティターンが他部族を陥れてきた方法と、同じ手を北部緒族は使った。
ティターンはティターン語で書かれた文書を多用して、不平等な契約を結び続けてきたが、それも今日で終わる。
一時的ではあるが、北部はティターンからの侵略を食い止めた。
反対すれば、花山はむきになる。賛成すれば、いい気になる。扱いにくいのだが、それは香野木に対してだけで、真は誠実で温厚で思慮深い。
帝都攻撃は意味がある。船員と船の安全を担保できるならば、実行する価値がある。永遠の戦争はありえない。和平は無理でも停戦か休戦に持ち込みたい。
「あっ、いやぁ~、そうか」
賛成とも反対とも言わず、当惑を声音にしたつもりだが、花山には通用しない。
「あとはよろしく」
香野木は以後、帝都攻撃後の展開をどうするか思案し続けることになる。
加賀谷真梨は、FV433アボット自走105ミリ砲とは別に、同系のFV432トロージャン装甲兵員輸送車を入手していた。どちらも、シャーシを含む基本構造は同じ。極論すれば、車体の形状が違うだけ。
この2車種をベースに、歩兵戦闘車、自走砲、戦車、自走対空砲を開発する計画が進行している。
武器・兵器が貧弱な王冠湾を含む南島は、セロの攻撃に対して脆弱だった。ヒトの兵器は不足気味で、移住時に失った生産力は立ち直っておらず、南島は自給するしかなかった。
それに、ズラ村を維持するには、武器が必要だ。
ズラ村に配備された軽戦車“スカニア”は、相当に使い込まれた車輌を再生したもの。再生と言っても完全なレストアではなく、動く部品を集成している。
50輌配備されたが、作戦を実施するたびに10輌ずつ可動不能になる。原因はいろいろ。エンジンの各種故障、トランスミッションのギアの歯欠損、サスペンションの折損など。
これは、深刻な状況だった。
現地修理では、追い付かない。1カ所直すと、別の部分が壊れる。
花山真弓は、代替車輌をすぐに必要としていた。
テシレアとイルメラは、ズラ湾を出港する探検船キヌエティを見ている。
「あの船に乗って、ヒトの世界を見てみたい」
テシレアの言葉にイルメラも同意だった。
西ユーラシアから北アフリカと西アフリカへの移住が終わり、多くの船が余剰となった。特に移住末期に大量建造された“標準船”の評判は悪かった。
王冠湾でも80メートル級と90メートル級の標準船を多数建造した。
長宗元親は、王冠湾建造の標準船を廉価で買い戻す商談を進めている。すでに4隻を購入し、1隻がドック入り、1隻が湾内に繋留されている。
標準船は船体の設計が標準化されているが、動力は使えるものをあてていた。多くは蒸気レシプロで、一部は蒸気タービン船だ。
王冠湾の船は例外で、全船がディーゼルを使っている。また、減速ギアの製造能力が限られることから、王冠湾の標準船はディーゼルで発電し、電動モーターで推進するディーゼル・エレクトリック方式を採用している。この推進方式は、通常動力潜水艦と同じ。
「ドックの80メートル級は、まもなく進水できる。
しかし、香野木さんの要求を受け入れたら、駆逐艦になってしまったぞ。魚雷を積んでいないだけだ」
庁舎内で井澤貞之と面会した長宗元親は、やや当惑の表情だった。
「駆逐艦……?
香野木さんは海戦でもするつもり……?」
井澤は、駆逐艦と戦艦の区別がない。そのことは、長宗は承知していた。
「第二次世界大戦の頃だが、海防艦というシーレーン防衛用の小型フリゲートがあったのだが、その戦闘艦に似た船を造ったんだ。
砲装はかなり強力だ。105ミリ主砲、背負い式に連装40ミリ機関砲、20ミリリボルバーカノンは両舷に各2門」
「自衛隊の船並み?」
「いいや、海自や海保のどちらとも違うね。船体の規模や兵装は旧海軍の鵜来型海防艦に近い」
井澤は、かねてから懸念していた。
「レムリアからの穀物がなければ、飢えは始まっていただろう。
香野木さんが、ギリギリのところで回避してくれた。
そのことを理解しているヒトの指導者は少ない。香野木さんは、精霊族、鬼神族、半龍族、黒魔族からは英雄視されているようだ。しかし、ヒトはどうだ?
香野木さんを正当に評価しているか?」
長宗もそのことに気付いていた。
「フルギアの統領は、香野木さんの存在さえ知らない。
香野木さんを注視しているのは、ヴルマンと北方人だけだ。
それは、好都合なんじゃないか?
香野木さんにはね。注目されていない分、好き勝手に動けるし。
それに、香野木さんが好き勝手に動けば、王冠湾の利益にもなる。穀物での利益はそこそこだが、シルクとカカオはぼろ儲けだ。最近では、高収益商品にパーム油が加わった」
長宗は得心していない。
「あの船を何に使うつもりなのか?
香野木さんは、同型船を4隻ほしいと言っている。護衛に使うつもりなのか?
そうではないように思うんだ。
まさか、レムリア攻略なんて考えていないよね」
井澤が笑う。
「香野木さんにそんなメンタルはないよ。支配欲とは無縁なヒトだから」
長宗は、井澤を訪ねた理由を告げる。
「井澤さん、頼みがある。
しばらくの間、王冠湾を離れたい。あの船で、香野木さんに会いに行く。香野木さんの真意を確かめたい」
井澤の顔色が変わる。
「それは、ありがたい。
気になっていたんだ。香野木さんが変わってしまっていたら、と少し心配だったんだ」
80メートル級輸送船を改装した駆逐艦に似た武装船は“ザンベジ”と命名された。計画では、さらに同型船3隻が建造される。
長宗元親は、カルタゴに着いた。
なかなか発展しない西アフリカ移住組に対して、急速に発展する北アフリカの状況に驚く。
ジブラルタル海峡を通過して西地中海に入ると、風景が一変するのだ。北アフリカの中心都市はカルタゴで、その繁栄ぶりは驚異的だ。
そんなカルタゴの近くに王冠湾の“海外領土”パレルモがあった。
パレルモはカルタゴと異なり、静かな港町なのだが、精霊族、鬼神族、半龍族(トーカ)、黒魔族(ギガス)の大使館のような出先機関がある。
ヒトでは、ヴルマンと北方人が“大使館”を置いている。他のヒトの勢力は無視のような状態。重要視されていないのだ。
パレルモ湾は天然の良港で、150メートル級大型船が接舷できる桟橋が1つある。
北には西ユーラシアが見える。ドラキュロの渡海を阻止する最前線でもある。
住民は多様だ。ヒトが飯屋を開き、鬼神族が肉屋を営み、精霊族がパンを焼き、半龍族が野菜を売り、黒魔族の鍛冶屋がいる。
文明の交差点ではなく、何もかもがごちゃ混ぜなのだ。
「香野木さんの頭の中を具現化したような街だな」
それが、長宗元親の感想だった。
香野木の宿舎はレンガ造りの戸建てで、実に質素だ。近くに入植したフルギアの農家の老婦人が、切り盛りしている。
義理の父親と住む花山健昭は、見事なほどの悪ガキになっていた。西ユーラシアに渡り、機械などを回収してくる“サルベージ屋”の使いパシリをしている。
サルベージ屋の親方と港で話したが、健昭の父親が何者なのかまったく知らない様子だった。
長宗元親は、香野木恵一郎から先制攻撃を受ける。
「長宗さん、近々、里崎さんがティターンを艦砲射撃するんだ。
それで、一気に緊張が高まる。
それまでに、輸送船の積荷とあの船をズラ湾に入れたい」
長宗が驚く。
「艦砲射撃!」
香野木恵一郎は慌ててはいないが、その後の展開が予測できない。
「里崎さんが計画して、花山さんが承認した。
ティターンの本拠地を叩くから、その後はどうにかしろってことらしい」
長宗は理解できない。
「里崎さんからの報告では、アデン湾の出口にあるソコトラ島やマダガスカルにもヒトかヒトに似た生物が存在した痕跡がある。
たぶんヒト。つまり、時渡りをした移住者だ。ソコトラ島、マダガスカル、レムリアには、ドラキュロはいない。陸棲ワニや巨大トカゲもいない。
ヒトが生きていくには、理想的な場所だ。
実は、レムリアの最南端付近にヒトがいた痕跡が残っている。ティターンはヒトの文明を吸収して、帝国を築く礎にした可能性がある。
思うに、ティターンがヒトから学んだことは、建築技術と戦争の仕方だけらしいが……。
それと、軽度の選民思想がある。
これも、ヒト由来だろう」
長宗は、香野木が言いたいことがわからない。
「それと、艦砲射撃とどんな関係が?」
香野木が頷く。
「レムリア北部は大穀倉地帯だ。
北部が独立していて、我々と商取引をしてくれるなら、赤道以北のアフリカは助かる。
ティターンは北部の攻略を狙っている。北部諸族はティターンに抵抗し、ズラ村は北部に与している。
だが、ティターンは強大。簡単には退けられない。だから、艦砲射撃をするんだ。
北部の牙と爪がティターンの喉元に届くことを教える。そうすれば、ティターンも安易に手を出さなくなる」
長宗は里崎たちの考えを理解はした。
「しかし、それで諦めるか?
帝国主義とは、侵略がとまらないものだ」
同じことを香野木も危惧していた。
「そこなんだ。
花山さんと里崎さんも、そこを心配している。
で、和平は無理でも、停戦か休戦に持ち込みたい。
そこで、問題が出てくる。
ティターンの選民思想だ。
レムリアに住む種族だが、東方フルギアは丸耳族と呼んでいた。丸耳族は精霊族と同じ頃にヒトから別れたらしい。確定していないけどね。
丸耳族は宗教的概念が希薄だ。だが、ティターンは全レムリアを支配する権利を自然から与えられたと信じている。
自然を神に置き換えるとわかりやすい。神の概念がないので、自然に置き換えたのだろう。
ティターンは正当な権利として、ティターンがレムリア全土を支配し、レムリアに住むティターン以外の部族を駆逐してもいいと考えている。
同時に、レムリアに住む以上、ティターンに奉仕することは当然で、ティターンが殺生与奪を握ることも自然なことと考える。
ティターンの要求を拒むなら、死しか選択肢はないと」
長宗が考え込む。
「それは、無茶苦茶だな」
香野木は、瞬間瞑目する。
「で、ティターンの本拠地を突いたらどうなるか、がテーマなんだ。花山さんと里崎さんの作戦は、北部を攻めるなら、ティターンの帝都が壊滅することを覚悟しろ、と教えることにある。
だが、それは無理だ。
必ず、現実を見ないヤツが現れる。それに、ヒト属動物共通の傾向として強硬な意見に引きずられやすい。
帝都を壊滅し、ティターンの政治家と軍人を捕らえ、かなりの数を公開処刑しない限り、ティターンの民は状況を理解できないさ。
そんなことはしたくないから、停戦か休戦に持ち込み時間を稼ぐ。交渉の過程で、こちらの実力を見せつけて、手を出せば怪我をすることを教える。
それしかない」
長宗は、その先を考える。
「北部は、レムリアの北4分の1くらいなのだろう?
その他の地域はどうなんだ?」
香野木は長宗と井澤に対して、全幅の信頼を置いている。
「そこなんだ。
ティターンはもともと、ティターン周辺の小部族だった。これは確か。
ティターンはレムリアを、南から、南部、中南部、中北部、北部の4行政区に区分している。
ティターンは南部の小部族にすぎなかったが、いつの頃からかレムリア統一を指向するようになった。
南部には奴隷制があるらしく、ティターンも奴隷制社会だ。他の部族を従えながら、他の部族から奴隷を得て、社会を維持している。
一方、ティターンの支配が長く続き、ティターン化した部族も多い。ティターンに同化した部族は、ティターンと同じような行為をする。ティターンは同化した部族を準ティターンとして受け入れ、勢力を拡大していった。
ただし、同化しなければ民族浄化の対象となり、同化したとしても部族として維持されていれば、いつかは殲滅の対象となる。
中南部の南側までは、ティターンへの同化が進んでいる。しかし、それ以北は文化の違いもあって、同化は進んでいない。
当然、非同化部族からは恨みを買っている。
北部は、完全にはティターンの支配下にない。ルテニ族が滅ぼされかけてからは、抵抗は萎んでいたが、ズラ村ができてからは反攻に転じた。
同時に、北部に刺激された中北部では、抵抗が活発化している。
北部からティターンを退ければ、その波紋は南に向かう。そうすれば、大戦乱になる。
できれば、それは避けたい。
ティターンに対する効果的な抑止力は、軍事力しかない。だから、ある程度の戦力が必要なんだ」
長宗は、彼自身で状況を確認する必要を感じた。
「おおよそはわかった。
で、レムリアに行きたい」
香野木も同意。
「あぁ、レムリアに行こう。
そのまえに健昭を何とかしないと」
護衛船ザンベジは、90メートル級輸送船1隻を伴っていた。この船には、燃料や弾薬など通常の補給物資以外に車体を延長したジムニー5ドア型10輌を載せていた。
長宗元親がザンベジを降り、海岸に向かっていくと、砂浜に建てられたバラックから花山健昭が出てきた。
子供のくせにいっぱしの男を気取っている。長宗の姿を見ると、子供らしい笑顔を見せる。
「健昭、何をしている?」
「ここで働いている」
屈託なく笑う。
大柄な男が出てきた。
「おまえは何だ?
文句でもあるのか?」
長宗は大柄な男を無視する。
「健昭、帰るぞ」
大柄な男は、少なくとも若者ではない。同時に分別のある大人ではない。
長宗ににじり寄ってきた。健昭は笑っている。
「ケンは、俺たちの仲間だ。
何者かは知らねぇが、ケンに何の用だ?」
長宗は、少し呆れている。
「健昭が何者か知らないのか?
まぁ、いい。
どちらにしても、邪魔はするな。邪魔をするなら、あれの主砲を使うことになる」
長宗の視線の先には、護衛船ザンベジがあった。船首側105ミリ主砲が都合よく砂浜のバラックを狙っている。実際は、砲口が向いているだけだが……。
長宗が続ける。
「健昭は、あの船でしばらく旅に出る」
健昭が喜ぶ。
「本当!」
長宗が微笑む。
「あぁ。おまえの親父殿は、おまえに手を焼きすぎた。
だから、お袋様のところに連れていく」
健昭の顔が一瞬で曇る。
「やだよぅ」
健昭は長宗ににらまれて、それ以上は何も言えなかった。
王冠湾は食糧の不足解消を、レムリアとの交易にかけていた。この意見は、ベルーガ由来のメンバーは共有している。香野木恵一郎、井澤貞之、長宗元親の3人は、これを強力に推し進めている。
花山真弓と里崎杏は「行政府に従う」との意志を明確にし、他のメンバーはズラ湾とズラ村の確保を最優先課題とするための施策に邁進している。
南島における農地開拓は緒に就いたばかりで、本格的な収穫にはまだ歳月を要する。
加賀谷真梨は小型の農業トラクターと小型のブルドーザーを開発。この2車種がなければ、収穫の目処など遠い未来のことになっていた。
ブルドーザーの下部車体は、軽戦車と同じもので、トランスファーをHIGHにすれば、時速40キロで路上走行ができた。自力での中距離移動ができるので、トランスポーターが不要なことも大きなメリットだった。
輸送船には、農業トラクターとブルドーザーも積まれていた。
ズラ村で行動不能になっている、故障した20輌の軽戦車の代替として、軽戦車の砲塔を移植できる歩兵戦闘車の車体10も積んでいた。
車体全長6メートル弱、全幅3メートル弱と戦闘車としては小柄だが、乗員3以外に兵員6を乗せることができた。
健昭は、護衛船ザンベジを走り回っていた。同行している輸送船の船倉にも行った。目を輝かせて、長宗元親に「あれは何?」と質問攻めにする。
2隻は東地中海からシナイ海峡を抜け、紅海に入り、ズラ湾まで半日の距離にいた。
香野木恵一郎は、またしても船酔いに苦しんだが、紅海に入ってからはだいぶ落ち着いていた。
「長宗さん、たいへんだ!」
香野木が船首付近にいる長宗に走り寄る。健昭も一緒だ。
「砲撃ですか?」
長宗は悟っており、香野木は頷いた。
「里崎さんがティターン帝都を艦砲射撃した。
丘の総統府と思われる建物に10発、街郊外の大型建物に10発。郊外の建物は元老院議事堂と推測している」
長宗は合点がいかない。
「使った船は?」
香野木も不思議だった。
「キヌエティだそうだ」
長宗がため息をつく。
「無茶をする。
里崎さんには驚かされる」
探検船キヌエティはインド洋を南下。赤道を越えた。
里崎杏はマダガスカルの調査に心を引かれたが、グッと堪えてアフリカ内陸水路に南側から入るようマトーシュ船長に命じた。
船の全長が110メートルもあるキヌエティでは吃水が深く、浅海のアフリカ内陸水路は危険な海だ。
水深は10メートル程度。場所によっては、ヒトが立てるほどの深さしかない。
里崎はソナーで水深を測りながら、あまりにも浅い場合は大航海時代と同じように錘を付けたロープを海底に下ろす方法で水深を量らせた。
マトーシュ船長は過度の緊張で顔を青ざめさせていたが、里崎提督は平然としている。
船員たちは「座礁したらどうするんだ。ティターンの首狩り野郎と戦うのはイヤだぞ」と動揺した。
キヌエティの侵入は、早い段階でティターンに知られていた。だが、これほどの巨船に対して、ティターン側には対抗手段がなかった。
巨船がソロリソロリと北上するのを見ている以外になかった。
実際、10隻以上の監視船を出したが、取り巻くだけで何かをしてくることはなかった。
そして、昼間に堂々とティターン湾に侵入する。
「街の後背の丘にある建物が総統府。
南側郊外の高台が元老院議事堂です」
アクシャイは興奮していた。
レムリアのいかなる部族もティターンの本拠地に乗り込んだことはない。ティターン以外の部族は、彼らの土地で戦い多大の犠牲を払わされていた。対して、ティターン側は戦死傷は兵士・軍人に限られる。
ティターンの総督、元老院議員、市民は、領土拡大における“痛み”を感じたことがない。遠くの地で身内が死に、その死にあたって関係があった他部族を憎むことはあっても、それは実感ではなかった。
キヌエティには、島型船橋を挟んで、前後に105ミリ砲が各1門、背負い式に40ミリ連装機関砲が各1基が装備されている。
前部側105ミリ砲は総督府を、後部側105ミリ砲は元老院議事堂を狙った。
ごく短時間に各砲は10発を発射。総督府と元老院議事堂は崩落する。
発射を終えるとキヌエティは、北に向けていた船首をゆっくりと南に回頭し、湾を出た。
そして、遠巻きされたティターン船をかき分けるように、侵入した航路を南に向かう。
ズラ湾には、4隻の大型船が停泊している。提督が座乗する90メートル級貨客船、探検船キヌエティ(110メートル級)、護衛船ザンベジ(80メートル級)、90メートル級輸送船だ。
キヌエティの飛行甲板上では、修理不能な軽戦車から砲塔が外され、新しい車体に載せられていく。
23.5口径76.2ミリ砲搭載の歩兵戦闘車が組み立てられていく。
アクシャイは、この車輌がさらに10輌送られてくると知り、ティターンが北部の支配を放棄することを確信した。
花山健昭は、ズラ村到着直後に悪童ぶりを発揮した。現地の悪童と喧嘩したわけでも、盗みを働いたわけでもない。
デポに集められていたショートシャーシのオート三輪の後輪を外して、おむすび型履帯を無断で取り付け、無断で動かし、水を撒いてわざと泥濘を作り、そこで走行テストを演じたのだ。
現地悪童は水撒き付近から参加。大人たちは、感心して見物している。
その機動性は抜群で、ハーフトラックだから誰でも運転できる。
気付けば、悪童仲間ができ、そして英雄視されている。健昭の厄介なところはここで、行為自体は正しいが、行為に至る過程が完全なルール無視なのだ。
珍しく数日間連続で雨が降り、アリギュラに至る道の一部がひどく泥濘んでしまった。
香野木恵一郎は、仕方なく後輪にクローラーを取り付けたオート三輪に乗った。
健昭が憎たらしいほど自慢げに、香野木を見ている。
北部最大の街アリギュラは、ティターン総督が支配していた時代の暗さはなく、活気に溢れていた。
もともとが交易にのために開かれた北部諸部族の共同管理地で、街内への武器の持ち込みと街内での争いは法度となっている。
アリギュラは急速に本来の状態に回帰していた。
香野木は靴の泥を落とし、迷彩のシャツを着替えたが、そのままの姿で交易商人の会所に向かう。この会所は、ティターン支配下では北部総督府として使われていた。
木造だが立派な建築物だ。
海路で向かっていた里崎杏は、先に到着していた。吃水の浅い護衛船は、この浅海には最適な武装船だった。2隻の30メートル級哨戒艇も同行している。
ちょっとした艦隊だ。
ティターン側使者は10隻の軍船でやって来た。彼らは彼らの価値観ではみすぼらしい木造の建物が並ぶメインストリートを歩いて、会所に向かう。
「蛮族の家は、木と泥でできている、と聞いていたが、その通りだな」
上陸した直後、交渉団団長である元老院副議長はそう言って、団員を笑わせた。
だが、通りを進むにつれ、沈黙する。早朝まで雨だったのに、足下が泥濘んでいない。彼らの足下はレンガで舗装されている。舗装にモルタルで基礎を造り、焼成レンガを敷き詰めて舗装している。レンガ道は大通りだけでなく、路地まで及ぶ。
ティターンの敷石舗装と比べたら、ずっと歩きやすい。
みすぼらしい木と泥の家は、色彩豊かでティターンのようなモノトーンではない。ティターンの街並みは、石の色だ。多くは灰色。
団長たる元老院副議長、副団長たる総統府親衛隊副隊長は、上陸した時点で交渉などするつもりはまったくなかった。
ティターンの偉大さを示せば、蛮族はひれ伏すと考えていた。そう、教えられてもいた。
だが、アリギュラの街並みを見ていると、ティターンの偉大さは決定的とは言えなかった。
港外に停泊する巨船も気になる。総統府と元老院議事堂を破壊した船とは形が違う。巨船が1隻でないことは明らかだ。
会所には、北部緒族の長や長老、有力な街や村の代表が集まっている。ズラ村の臨時代表は香野木恵一郎、次席は里崎杏。
香野木は、会所に集まる誰にとっても初見だった。
最初の発言は、ティターンの団長だった。
「ティターンは、この大陸すべてを所有している。おまえたちは、この大陸に巣くう害獣だ。こうして生かしておいてやるのは、ティターンの寛大な慈悲なのだ。
なのに、我らの寛大さをいいことに、我らに刃向かうなど言語道断。
これ以上は、許さぬぞ」
場が白けている。団長の言葉は通訳されているのだが、北部側はため息しか出ない。
アクシャイは緊張していた。香野木が大物と聞いていたからだ。正確な通訳を求められていた。余計なことは付け加えるな、と。
香野木は、大きく息を吐くと立ち上がる。
「この大陸はティターンのものだと言ったな。
ならば、ティターンをこの大陸から追い出すしかなくなる。我々はここを立ち退くつもりはない。
そうであろう、ご諸兄方!」
「そうだ!」と合いの手。
団長は怒りを露わにする。
「蛮族が、無礼であろう!」
香野木は、この種の暴論には慣れていた。
「ハゲが一人前のことを言うな!」
香野木は、団長の身体的特徴を揶揄した。そして隣に座る長老に「ご無礼いたした」と謝る。長老は「ふぉふぉ」と笑い「痛快じゃ」と褒める。
蛮族と罵るなら、ハゲと言って何が悪い。
香野木が「ハゲていないやつをだせ!」と大声を出してティターン側を威嚇するが、瞬時の間を置いて、香野木が声を出して笑う。
「それでは、蛮族とハゲの話し合いを始めよう」
香野木は、一瞬にしてティターン側と対等の立場に立つ。
「ファング村以北は、北部緒族の領土だ。ファング村以北にいるすべてのティターン軍は撤退しろ」
「蛮族が我らに命じるか!」
「ハゲの分際で、我らに言葉を発するのか!」
香野木の作戦は明確。蛮族と蔑めば、ハゲと辱める。香野木は優位に立った。
「団長殿、いい話もある。
もし、我々の要求を受け入れるなら、ティターンの街は焼き払わない」
これには説得力がある。すでに、総統府と元老院議事堂は艦砲射撃の標的になっていた。
団長は返答に困るが、何も答えないわけにはいかない。だが、何も言えない。
代わりに香野木が声を発する。
「我々の牙と爪がティターンの心臓まで届くことは、理解しているな?」
団長の目が泳いでいる。
香野木が続ける。
「ティターンを滅亡させることは簡単だ。だが、そんな野蛮なことはしない。
俺たち蛮族は、ティターンほど野蛮ではないからね。しかし、ティターンが蛮行を続けるつもりなら、我々も対処しなければならない。
今日この瞬間から、ティターン軍がファング村よりも北に侵入した場合、直ちに対応する。
次からは海からの攻撃ではなく、空からになる。
団長閣下のご令嬢は、ティターン湾が一望できる丘の上の邸宅にお住まいだ。お孫さんと婿殿と一緒にね。その家が総統府のようになったら、悲しいだろう?」
副団長は軍人だ。香野木の“脅し”は通じない。だが、使う言葉を間違えた。
「ティターンは屈しないぞ!」
この瞬間、立場が変わる。ティターンが下位になったのだ。
香野木は、この交渉に勝ったことを確信する。
「ならば、ファング村よりも北には来るな。
副団長殿の愛妾がドラゴンの炎で焼かれたくなければ、ね」
団長と副団長が顔を見合わせる。ティターンは何も知らずに交渉に臨んだが、北部緒族側はティターン側メンバーの身の上も身の下もすべてを調べ上げていた。
諜報活動は、北部緒族側が数段上手だった。ティターンでの諜報活動はアクシャイだけでなく、いろいろな部族がいろいろな方法で行っていたのだ。
この時点で、北部緒族の勝利だった。
香野木恵一郎は、モリニ族の言葉で相互不可侵の条約文を用意させた。
要約すれば、ティターン軍はファング村以北には侵入しない。侵入した場合はいかなる報復をも受け入れる、という内容だ。
だが、それ以上にこの文書には意味があった。
団長が驚く。
「これは!
何て書いてあるんだ?
蛮族の言葉と文字だ……」
香野木が古風な万年筆を団長に見せる。
「サインしろ」
団長が躊躇う。
「何て書いてあるのか読めない」
香野木が笑う。
「安心しろ、ヘンなことは書いていない。
ファング村以北にティターン軍が侵入したら、おまえの娘を殺すとしか書いていない」
団長が目を剥き、副団長が何かを言いかける。
ティターンはモリニ語の文書に署名した。
ティターンが他部族を対等の存在として認めた瞬間だった。
それと、ティターンが他部族を陥れてきた方法と、同じ手を北部緒族は使った。
ティターンはティターン語で書かれた文書を多用して、不平等な契約を結び続けてきたが、それも今日で終わる。
一時的ではあるが、北部はティターンからの侵略を食い止めた。
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だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
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