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第8章
08-209 傲慢不遜
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里崎杏には、香野木恵一郎に対して疑問があった。
「香野木さん、もし、団長がハゲじゃなかったら……?」
香野木には、ティターン側の出方がわからなかった。ただ、ノイリンでの経験は大いに役立った。選民思想や優生思想に毒されたヒトの思考パターンを理解できていた。
宗教がかっていれば「神に祝福されない民」とか、似非科学に染まっていれば「進化の隘路に陥った民」とか。
どちらにしても、根拠はない。根拠のない議論に巻き込まれると、無意味な時間を費やしてしまう。
香野木はテシレアから「ティターンは私たちを蛮族と呼びます」と聞いていた。蛮族と呼ばれたら、間髪入れず相手の身体的特徴を揶揄するつもりだった。
ハゲでも、デブでも、チビでも、貧乳でも、何でもよかった。
香野木は、里崎の問いには答えなかった。「里崎さん、北部を守るのは簡単じゃない。脅しが、どこまで通じるかわからない。所詮、多勢に無勢。
ティターンが本気で侵略を始めたら、とてももたない。
次の一手が必要だ」
里崎が即答する。
「それならば、私と花山さんが……」
香野木が驚く。
「どんな?」
「偶然の発見なんだけど、レムリアの南岸南端に逃亡奴隷の村があった。
周囲は岩ばかりで、農業には不向き。それで、食料に困っていた。彼らに友好の証として、コムギ10トンを贈ったの」
「それで?」
「ティターンは奴隷制度に立脚した社会だから、市民よりも奴隷のほうが多いの。
数百年にわたって、奴隷は逃亡を続け、ティターン軍に追われ続け、岩の多い東岸南端に追い詰められていた。
だけど、マルーンという共同体を作って、抵抗を続けていたそうよ。
で、武器と食料があれば、逃亡奴隷を受け入れて、勢力の拡大ができると……」
「それには、有能な指導者が必要だよ。
いまの指導者は?」
「役不足ね。
だけど、副司令官は若くて才知に富み、教養もある……」
「彼をトップに?」
「えぇ」
「では、その作戦でいこう。
ティターンを内部から攻撃する」
ファング村は廃村で、誰も住んでいない。井戸が枯れたからだが、もっと深く掘れば水は出るだろう。
北部緒族はこの廃村に戦士を派遣し、国境を守ることにした。彼らには本来、国境という概念はなかったが、否応なく境界を意識しなければならなくなった。
当然、ズラ村も派遣することになった。
花山真弓は、健昭の顔をまだ見ていない。健昭が逃げ回っているからだ。しかし、行動は把握していた。
彼は同年齢の子供たちを集め、“ズラ村防衛隊”を編制した。根城は故障車置き場で、ここで3輌のオート三輪を修理。物資の輸送業を始めたのだ。
ズラ村に荷を運び、その荷の代金の1割を運賃として受け取る商売。親を亡くしたり、生き別れてしまった子供たちにとって、健昭の試みは重要だった。
北部緒族には身寄りのない子供を育てるシステムが村単位であるが、村全体がティターンに殲滅されている場合は保護のシステムがない。ルテニ族のように極めて弱体化された部族も存在する。
健昭は、保護システムから漏れた、自立が難しい年齢の子供たちを集めている。健昭のグループに参加すれば、物乞いをしなくてもすむ。
だから、健昭の施策を花山真弓は止めなかったし、香野木恵一郎は裏から、長宗元親は表だって支援していた。
しかし、幼い健昭には隙も多い。香野木は健昭の背後にいつもいた。
ズラ村がティターンの逃亡奴隷共同体マルーンを支援し始めると同時に、ティターンは北部と隣接する中北部に4個軍を増派する。
2個軍を北部との国境付近、ファング村の南に派遣し、北進の様子を見せている。2個軍はその後方にいる。
中北部には、この4個軍以外に3個軍が常駐している。中北部の諸部族を支配するためだ。
さらに、中南部に駐屯している4個軍のうち2個軍を中北部まで北進させた。
海路での北上を無理と考えたティターン軍は、陸路から北部との国境を目指す。
計8個軍もの大軍で、北部に雪崩れ込む作戦だった。
北アフリカおよび西アフリカで生きていくためには、輸送力が必要。西ユーラシアからの移住に際して、増産された貨物船は完全に余剰だが、車輌と航空機はまったく不足している。
航空機の不足は著しい。航空機の製造は、ノイリン、クフラック、カラバッシュに限られていて、もともと製造数も少なかったからだ。
くじらちゃん以外の双発輸送機を持たない王冠湾は、双発輸送機の入手を図ったが、まったく無理な状況だった。
唯一、西アフリカに移住を完了したカラバッシュが、かなり使い込まれた中古4発機をエンジンレスならコムギと交換すると伝えてきた。
この機のエンジンは1200馬力の空冷星型14気筒で、1600馬力のターボプロップに置き換えれば、機体重量の軽減と積載能力の向上が期待できた。
土井将馬は、このコンソリデーテッドB-24爆撃機にルーツがある高翼単胴双尾翼機の機体を3カ月かけてレストア。エンジンを換装して4機を進空させた。
うち2機をヴルマンに売却し、何とか資金不足の帳尻を合わせる。
全長20メートル、全幅33.5メートルに達し、5トンの物資を積載できる。ただ、ランプドアがないので、物資の積み込みにはフォークリフトが不可欠だった。
農作物のうち穀物の大半はカルタゴで荷卸ししたが、一部は王冠湾まで輸送していた。南島は農地の開発を進めてはいるが、需要を満たすには数年を要する見込みだった。
不足分は、レムリアとの交易によって補うしかなく、それ自体は成功していた。
だが、王冠湾・南島の経済は脆弱なままだ。稼いでいる仕事は、軽車輌の製造・販売と造船だけ。航空機分野は、なかなか難しい。
整備や改造の仕事で、どうにか食いつないでいる。
2トン積みオート三輪と、ロングシャーシのジムニーはよく売れている。水冷4気筒OHVエンジンは共通するが、排気量1.5リットルはオート三輪に、その他はジムニーに振り向けた。
新造車の販売よりも、整備や改造のほうが利益になった。
だが、レムリアから運んでくる穀物以外のカカオ、コーヒー、パーム油、シルクは、いかなる工業生産よりも利益が圧倒的に大きかった。
王冠湾・南島の経済を維持するには、レムリアとの交易は絶対に手放せない。最低3年は半独占したい。
北部を失ったティターンは、中北部の締め付けを強化した。ゲドリクスが指揮するガバリ族に対しても同じで、新しい中北部総督は中北部最大部族のガバリ族に対しても容赦しなかった。
ゲドリクスは部族を率いて抵抗の意思を示すが、戦えなかった。北部のガバリ族が分派し、北ガバリ族を名乗って、北部諸族に自ら編入したからだ。
これを望んだのは北ガバリ族自身だが、過去のいきさつから簡単ではなかった。
この難しい交渉を実現したのは香野木恵一郎で、副次的な目的としてゲドリクスの戦力を削ぎ取ることにあった。
この策動は、ティターンの中北部総督にとっても歓迎だった。
香野木恵一郎は、新しい中北部総督の詳細な情報を得ていない。名前は、カルルス・アフリカヌス。年齢は、35歳前後。職業は、軍務官僚。
それ以上のことは、わかっていない。
中北部には、農耕民だけでなく、採集狩猟民や遊牧民も多い。新総督の厳しい徴税を逃れて、北部に逃げ込む難民が増えていた。
多くは中北部北辺に住む半採集狩猟民や遊牧民で、北部諸族は越境してくる彼らを保護した。森での狩りを認め、ヒツジの放牧地を与える。
香野木恵一郎はレムリアに留まっている。ティターンの次の一手が見えないからだ。
そして、難民は多くはないが、ここを突いてくる可能性を感じていた。難民の発生は予測しておらず、越境者の扱いは協定に規定がないからだ。
香野木は新総督からの“抗議”を期待していたが、花山真弓は違った。
「ティターンは単純だから、そんな面倒なことはしないよ。
一切の通告なく、越境してくるよ」
香野木は、反論しなかった。2人の会話を第三者は聞いていないし、反論してもやり込められるだけだから。
香野木は、花山と里崎杏、長宗元親の4人での会議を行った。
花山と里崎の対応策は同じだった。
里崎が「30メートル級とハンマーヘッド級武装艇各2隻をファング村沖に派遣しよう」と提案すると、花山は賛成を即答した。
新たに派遣されたハンマーヘッド級には、3連装大型ロケット発射基が船体後部に装備されている。
対地攻撃に使えば、絶大な威力を発揮する。
王冠湾地区は、ドミヤート地区ともめ事を抱えていた。ズラ村に派遣されている60輌の軽戦車“スカニア”は、ドミヤートに所有権がある。
つまり、ドミヤート所有の軽戦車を王冠湾が砲塔を外し、王冠湾所有の車体に移植したのだ。
これは、重大な問題だった。
王冠湾側はフルギア金貨での購入を打診したが、ドミヤート地区はコムギとの交換を提案してきた。
ドミヤート地区とタザリン地区は、コムギの確保に苦労していた。そのことは、王冠湾地区は知っていた。
しかし、コムギは貴重。安易に交換には応じられない。金貨を握りしめて、餓死したくはない。
王冠湾の区長である井澤貞之は、花山真弓に「至急コムギ50トンを送れ」と連絡する。
幸運にもカルタゴに向かっていた輸送船には、コムギ200トンを積んでいた。カルタゴへの寄港を取りやめ、王冠湾に直行する。
北アフリカでは、コムギの確保に困ることは少なかった。だが、ジブラルタル海峡以西では十分な需要を満たしていない。
アトラス山脈以東、西サハラ湖西岸との交易が成立していない現状では、安定供給は難しい。西サハラ湖東岸では、農作物の増産が行われているが、十分な供給量ではない。
土井将馬は「クフラックの提案は乗るべきだよ」と主張するが、井澤貞之は「う~ん」と唸ったまま。
「土井さん、飛行機が足りないことは理解しているけど、クフラックはガラクタを押し付けて、代わりにコムギがほしいって言ってるんだろう?
それって、かなり図々しい提案だよ」
「わかっているよ、井澤さん。
だけど、リストを見る限り、悪くはない」
「全部、グラマンって言うメーカーの飛行機みたいだけど……」
「意味はないと思います。たまたま、でしょう。
G-44ヴィジョンは5人乗りの飛行艇、C-1トレーダーは1.6トン積みの輸送機、G-164アグキャットは複葉の農業機。
トレーダー輸送機は、ノイリンから買ったみたい」
「複葉機は……、いる?」
「いらないかも、だけど部品取りにはなるかも……」
「ガラクタ……」
井澤の言葉を土井が遮る。
「ポンコツ……」
「そのポンコツ3機とコムギ50トンは、適正な交換レートかな?」
「……ではないかな。
払いすぎだよ」
「では土井さん、30トンで交渉して。
40トンまでは妥協してもいいかな」
土井はカナリア諸島に向かい、クフラック政府と交渉を重ねた。
クフラックは、コムギ50トンを緊急に必要としており、ルーマニア製Yak-52練習機を加えると通知した。
王冠湾側はP&WC PT6ターボプロップエンジンを希望したが、クフラック側は応じなかった。代案として、ワルターM601系4基を提案してきた。回収後、使うことなく死蔵していたものだ。
この提案に王冠湾は同意する。G-44ヴィジョン双発飛行艇1機、C-1トレーダー双発輸送機1機、ワルターM601ターボプロップエンジン4基とコムギ50トンとの交換が成立する。
ズラ村の維持は、王冠湾にとって大きな負担だった。移住後の混乱で、王冠湾以外はレムリアに関心を示さないが、数年後にはたくさんの船が訪れる。
レムリアの中心は、浅海に囲まれる西岸であり、この海域では吃水の深い大型船は座礁の危険が高い。
ヴルマンはクレタ島を確保しているが、航空機による輸送では量に限界がある。
移住に際して、たくさんの船舶を建造したが、これら移住用急造船の多くは、航続距離が2000キロ前後と短い。
ズラ湾からクレタ島まででも3000キロ近くあるのだから、これら急造船は使えない。エンジンも強力ではなく、船速は遅い。
だが、混乱から抜け出したグループは、時を置かずにレムリアにやって来る。
クマンや湖水地域は、西サハラ湖方面との交易に全力を傾けている。しかし、それが落ち着けば、レムリアにも目を向ける。
王冠湾がレムリアとの交易を独占できるのは、極めて短い。
だが、レムリアの北部以外、マダガスカル、アフリカ東岸の全貌は、まったくわかっていない。わかったことは、アフリカ内陸海路の海中は無酸素状態であることくらいだ。全域で海水が無酸素であることから魚が棲息せず、魚を餌とする海棲爬虫類がまったくいない。
レムリアでは、漁労は湖と河川で行われる。
誰もが体系的な調査の必要性は十分に感じているが、ティターン対策でその余裕がない。北部に対するティターンの野心を打ち砕かないと、すべきことが進まない。
香野木を含めて、誰もが焦りを感じていた。誰も声高に強硬論を唱えることはないが、誰もが内心ではその必要性を感じていた。
ティターン中北部総督からの使者が、ファング村に現れた。使者の書簡は、香野木恵一郎宛だった。
書簡は、陸路でアリギュラを経て、ズラ村にもたらされた。書簡が到着するのに5日を要した。
アクシャイが書簡を読み、翻訳して内容を口頭で伝える。場所は、司令官棟だ。
「短い内容です。
ズラ村の長に中北部総督府に出頭するよう命じています。
要請ではありません。
命令です」
アクシャイは深刻な顔をしているが、香野木は微笑んだ。長宗元親は呆れ顔で、花山真弓と里崎杏はウンザリしている。
花山が「ティターンって、理解しがたいところがあるね」と言い、里崎は「何をされたら、理解できるんだろう」とやや困惑気味に答えた。
長宗が香野木を見て「行くのか?」と問う。ノコノコ出向くなんてしないよね、と声音が告げている。
「行ってみよう。
カルルス・アフリカヌスを見てみたい。
里崎さん、スピードの出る船は?」
「哨戒艇はアリギュラに入港している」
香野木は少し考える。
「陸路でアリギュラに向かい、そこから哨戒艇4隻で総督府に行こう。
で、総督府はどこにあるの?」
アクシャイが答えた。
「ブティバという街です。
中北部最大の街だと聞いています」
花山が地図を出す。空白だらけの地図だ。
「ざっと、1600キロね。アリギュラから……」
香野木は里崎に「哨戒艇4隻で向かいたい」と告げる。
アクシャイには「すまないけど、通訳として同行してもらえないかな?」と頼む。
アクシャイは恐ろしかった。ティターンの残虐さはよく知っていたし、総督府に乗り込んで何事もなく帰れるとは思えない。
「ティターンは、私たちを蛮族と呼びます。家畜と同じに見ています。
無事に帰れるとは……」
香野木が里崎を見る。
「里崎さん、哨戒艇の装備は?」
里崎には別の心配があった。
「30メートル級哨戒艇の航続距離は、1000キロ程度。2回補給しないと、往復できない」
花山が提案する。
「補給部隊とともに、戦闘車10輌、装甲車10輌の部隊で南下する。補給部隊は、オート三輪20輌で編制し、燃料、食料、弾薬を運ぶ。
海岸に沿って道があるけど、整備状況はわからないから、装輪車よりも装軌車のほうがいいけど、装甲車は装輪しかない……。
オート三輪のうち1輌は、健昭の後部履帯車を使う」
香野木が顔を崩す。
「健昭が、連れていけ、と駄々を捏ねるぞ」
花山も顔を崩す。
「あの子は、あなたが躾ることになっているでしょ」
香野木は、そんなことがいつ決まったのか知らない。だが、反論はしない。反論しても、負けるし……。
この作戦において、最大の問題は、やはり花山健昭の処遇だった。
「ズラ村に残れ」
「ヤダ!」
この応酬で、たいへんだったが、長宗の頭頂部への拳骨で解決した。口を尖らし、半べそをかく、香野木には健昭がかわいそうに思えた。
「父さんも、母さんも、死んでしまったらどうしたらいいの?」
そう言われて香野木はグッときたが、すぐに嘘と気付く。健昭は、それほど殊勝ではない。
ファング村を発し、境界とされている幅2メートルほどの小川を渡ると、当然だが、ティターン軍守備隊が誰何する。
アクシャイが「中北部総督から招かれている」と告げ、出頭命令書を見せると、守備隊長が呆れ顔をする。
香野木たちにではない。中北部総督に対して。現実を知る彼らからすれば、強大な敵を本拠に招き入れるなど、正気の沙汰ではない。
中北部総督府は、ティターンの総統府ほどではないが、十分に贅をつくした石造建築だ。総督府としては、もっとも豪華とされる。
カルルス・アフリカヌスは、この総督府を見れば、北部の蛮族が地にひれ伏すことを確信していた。
しかし、北部に“出頭命令書”を渡したとの報告は受けていたが、ズラ村からの返答はなかった。
境界を越えたとの報告もないし、関所を越えたという情報もない。
カルルス・アフリカヌスは“出頭命令書”が無視されたと、判断する。ズラ村が無視した以上、越境攻撃の正当な理由になると考えていた。
それと、無視すると予想していた。恐怖は足をすくませる。総督の“出頭命令書”を受け取り、怯えきっているズラ村の長を気の毒にさえ思っていた。
カルルス・アフリカヌスは早朝、副官の報告に耳を疑った。
「ズラ村の長がブティバの北、ウマで1日の距離に現れました」
一瞬、彼は沈黙してしまった。
「なぜ、いままで報告がなかったのだ」
務めて落ち着いた口調で問うが、内心は驚愕していた。
「境界を越えたのが4日前、早馬を飛ばしても4日では……」
「船か?」
「いいえ、馬車とか」
「馬車……?」
「総督閣下、明日の昼前には城外に達するかと」
「そうか、迎える準備をせよ。
蛮族を迎える支度だ。
わかっているな」
「御意!」
だが、副官が次に総督の前に現れたとき、彼はひどく狼狽していた。
「総督閣下、蛮族が城外に達しました!」
明日の昼との予想が、今日の昼になってしまった。
香野木恵一郎は4輪装甲車を降りて、固く閉じられた城門を眺めている。
門衛は、30輌の自動車化部隊を目視すると、大慌てで城門を閉じた。城外には城内の住民や物売りの商人たちが、取り残されてしまった。
ここに至るまで、いくつかの関所が封鎖を試みたが、すべて強行突破してきた。今回も城門を破壊すればいいだけだが、関所の薄っぺらな防御とは異なり、ブティバの城壁は7メートルの高さがある。城内の様子がわからないので、花山真弓は強行策を躊躇った。
城門が開かない。
まもなく日没。
香野木は、大きなあくびをした。
カルルス・アフリカヌスは、ウマのいない馬車を初めて見たし、鉄板で囲まれた馬車も初めてだった。
どうしたらいいのかわからず、無為に時が過ぎていく。追い返せば、臆したと噂される。迎え入れたら、どうなるのか不安だ。
彼は、ドラゴンの炎と雷鳴魔法を信じていなかった。しかし、ウマが牽かなくても走る馬車があるなら、噂ほどではないにしても何かしらあるかもしれないと案じた。
香野木は、イラついていた。
「アクシャイ、一緒に来てくれる?」
アクシャイは、ぎこちなく頷く。2人とも迷彩服を着て、ボディアーマーを装着し、ヘルメットを被る。
花山が制止するが、香野木は振り返って微笑み、歩みを止めなかった。
カルルス・アフリカヌスは、奇妙な模様の軍装をした2人の男が近付いてくる様子を、戸惑いながら見ていた。
副官に尋ねる。
「冑はわかる。
身体に巻いているのは甲冑か?」
副官にもわからない。
「布では、刃を防げませんが……。
それにしても、華のない具えですね。
蛮族らしく、みすぼらしい」
そうは言ったが、副官は戦いに徹した軍装と感じていた。
香野木はレンズがミラーのサングラスをしていた。城門の上から見下ろすティターン兵たちには、香野木の目が見えない。
見上げている男の目が見せないことで、見下ろしている兵士たちを威圧している。
香野木は、アクシャイに「適当に訳せ」と言った。
「そこに総督閣下はいるか?
いないなら伝えろ!」
香野木は、アクシャイが訳しやすいように言葉を短く切る。
「俺は、わざわざズラ村から来た。
にもかかわらず、出迎えもしない。
無礼だろう!」
ここで区切る。アクシャイは十分に声を張っている。
「どうしたい。
城内には入れてもらえす、帰るか?
それとも城門を破壊し、城内に入ろうか?」
アクシャイは少し怯えている。それが声音に出たのか、「城門を壊す」と訳して笑われた。調子に乗った兵士が囃し立てる。
香野木は花山の気の短さに危険を感じることがある。だが、花山に言わせれば、香野木のほうが短気。香野木はそうは思わない。
背後でドンと発射音がした。
同時に76.2ミリ榴弾が城壁に命中。城壁の石が飛び散り、ごく一部だが崩れた。
やはり、花山真弓は短気だ。無線を通じて香野木の言葉を聞き、即断した行動だろうが、やり方が荒っぽい。
轟音のあとの静寂は長かった。
「もう一度言う。
城門を壊して城内に突入するか、城門を開いて総督府まで案内するか、どちらか選べ」
カルルス・アフリカヌスは、香野木の要求をどちらも選択しなかった。
城外の草原に豪奢なターフを設置して、会見場を設けたのだ。この会見場ならば、城外であるので、蛮族を招き入れなくてすむ。
一方、四方が解放されているので、会見の様子が丸見え。カルルス・アフリカヌスにとっては、賭けになる。臆した様子を寸分でも見せたなら、彼の地位は危うくなる。
その点、香野木は気楽だ。花山真弓が戦闘車の主砲を発射した際にも、驚いて首をすくめ頭を抱えている。
会見は衆人環視の下で始まる。城壁には、多くの下級兵士たちが群がっている。
城門側には、完全装備の重騎兵が400。会見場を挟んで北側には、花山真弓率いる自動車化部隊30輌が2列横隊を作る。
花山は完璧な横隊を見せるため、戦闘車と4輪装甲車を互い違いに並べさせ、オート3輪は後列に配置する。
各車の前には、休めの姿勢で車体前方に車長だけが立つ。
会談は、重厚な木製のテーブルを挟んで始まる。香野木恵一郎とカルルス・アフリカヌスとの距離は約2メートル。
香野木は着座する前にヘルメットを脱ぎ、テーブルの上に置く。
真似をしたわけではないのだろうが、カルルス・アフリカヌスも赤い鶏冠付きの冑を脱ぎ、香野木と同様にテーブルに置く。
香野木は左手で日本刀を腰から鞘ごと抜き、右手に持ち替えて肘掛けのあるダイニングチェアーのような椅子に座る。
テーブルとチェアーの造作は、とんでもなく精緻だ。大災厄前の家具センターには、これほどの品は売っていないだろう。
給仕が彫刻を施した銀の杯に赤ワインを注ぐ。
カルルス・アフリカヌスが杯を掲げて、一口飲む。
「毒など入っていない。
飲め」
香野木恵一郎は、どう答えるか考えた。名案が思いつかないので、飲むことにする。
杯を掲げ、一口飲む。十分に発酵しておらず、糖度の高いワインのような飲み物は、水で割っているが美味くない。
カルルス・アフリカヌスがもう一口飲む。「どうだ、美味いだろう?
ティターンでも最高のワインだ」
耳元で通訳のアクシャイがささやく。
「馳走になった。
我々の酒を何本か届けよう」
カルルス・アフリカヌスが笑う。
「蛮族の酒か?」
香野木は、見下されていることは承知している。だが、カルルス・アフリカヌスには、見下すための材料がない。
「総督閣下の冑は、鉄か?」
カルルス・アフリカヌスは、この問いに対して明確に見下した態度を見せた。
「蛮族の冑は鉄ではないのか?」
香野木は、この反応を予測していた。
「私のテッパチは鉄製ではない。
88式鉄帽2型はアラミド繊維製だ。鉄よりも防護性能に優れ、なおかつ軽い」
カルルス・アフリカヌスの目が泳ぐ、どう反応していいかわからないのだ。唐突に“アラミド”と言われても、何のことだか皆目わからない。
だから、無視する。
「北の蛮族と戦った我がほうの兵は、雷鳴の魔法やドラゴンの炎といった呆けた話を持ち出して、敗北を正当化している。
それについては、蛮族であるおまえはどう思う?」
香野木は、この情報を得ていた。
「雷鳴の魔法は、先ほど見せたものだ。城壁の一部を壊したあれだ。
ドラゴンの炎とは、航空機から投下するナパーム弾のことだ。我々のターボコブラは、ナパーム弾を2発搭載できる。
空からの攻撃に対して、ティターン兵は無力だ。ドラゴンに襲われたと考えても仕方あるまい」
明確ではないが、香野木から「空を飛べる」と解せる言質を得て、そのような嘘が通じると考える蛮族の愚かさにカルルス・アフリカヌスは哀れを感じた。
「空を飛ぶ、か」
カルルス・アフリカヌスは、声を上げて笑った。
香野木は、どう対処するか考える。名案がないので、ポケットからスマホを出した。
「戦闘爆撃機のターボコブラではないが、ターボマスタングの動画がある」
セロの飛行船を攻撃するターボマスタングの動画を再生し、スマホをテーブルで滑らせて渡す。
カルルス・アフリカヌスは、明確に動揺している。空を飛ぶ機械に対してなのか、それとも絵が動くことに驚いているのか、そこはわからない。
香野木はとどめを刺す。
「我々は、ティターンよりも高度な科学技術を持っている。
蛮族なので、野蛮な行為は大好きだ。
北には手を出すな。
総督閣下の手柄は、北では得られない。手を出せば、軍歴に傷が付くことになる。ティターンに凱旋できなくなるぞ。蛮族の地で生涯を終えたくはないだろう?」
見事なほどの偉丈夫であるカルルス・アフリカヌスは、貧相な体格の蛮族に脅された。そして、打ちのめされるほどの威圧を感じていた。
「香野木さん、もし、団長がハゲじゃなかったら……?」
香野木には、ティターン側の出方がわからなかった。ただ、ノイリンでの経験は大いに役立った。選民思想や優生思想に毒されたヒトの思考パターンを理解できていた。
宗教がかっていれば「神に祝福されない民」とか、似非科学に染まっていれば「進化の隘路に陥った民」とか。
どちらにしても、根拠はない。根拠のない議論に巻き込まれると、無意味な時間を費やしてしまう。
香野木はテシレアから「ティターンは私たちを蛮族と呼びます」と聞いていた。蛮族と呼ばれたら、間髪入れず相手の身体的特徴を揶揄するつもりだった。
ハゲでも、デブでも、チビでも、貧乳でも、何でもよかった。
香野木は、里崎の問いには答えなかった。「里崎さん、北部を守るのは簡単じゃない。脅しが、どこまで通じるかわからない。所詮、多勢に無勢。
ティターンが本気で侵略を始めたら、とてももたない。
次の一手が必要だ」
里崎が即答する。
「それならば、私と花山さんが……」
香野木が驚く。
「どんな?」
「偶然の発見なんだけど、レムリアの南岸南端に逃亡奴隷の村があった。
周囲は岩ばかりで、農業には不向き。それで、食料に困っていた。彼らに友好の証として、コムギ10トンを贈ったの」
「それで?」
「ティターンは奴隷制度に立脚した社会だから、市民よりも奴隷のほうが多いの。
数百年にわたって、奴隷は逃亡を続け、ティターン軍に追われ続け、岩の多い東岸南端に追い詰められていた。
だけど、マルーンという共同体を作って、抵抗を続けていたそうよ。
で、武器と食料があれば、逃亡奴隷を受け入れて、勢力の拡大ができると……」
「それには、有能な指導者が必要だよ。
いまの指導者は?」
「役不足ね。
だけど、副司令官は若くて才知に富み、教養もある……」
「彼をトップに?」
「えぇ」
「では、その作戦でいこう。
ティターンを内部から攻撃する」
ファング村は廃村で、誰も住んでいない。井戸が枯れたからだが、もっと深く掘れば水は出るだろう。
北部緒族はこの廃村に戦士を派遣し、国境を守ることにした。彼らには本来、国境という概念はなかったが、否応なく境界を意識しなければならなくなった。
当然、ズラ村も派遣することになった。
花山真弓は、健昭の顔をまだ見ていない。健昭が逃げ回っているからだ。しかし、行動は把握していた。
彼は同年齢の子供たちを集め、“ズラ村防衛隊”を編制した。根城は故障車置き場で、ここで3輌のオート三輪を修理。物資の輸送業を始めたのだ。
ズラ村に荷を運び、その荷の代金の1割を運賃として受け取る商売。親を亡くしたり、生き別れてしまった子供たちにとって、健昭の試みは重要だった。
北部緒族には身寄りのない子供を育てるシステムが村単位であるが、村全体がティターンに殲滅されている場合は保護のシステムがない。ルテニ族のように極めて弱体化された部族も存在する。
健昭は、保護システムから漏れた、自立が難しい年齢の子供たちを集めている。健昭のグループに参加すれば、物乞いをしなくてもすむ。
だから、健昭の施策を花山真弓は止めなかったし、香野木恵一郎は裏から、長宗元親は表だって支援していた。
しかし、幼い健昭には隙も多い。香野木は健昭の背後にいつもいた。
ズラ村がティターンの逃亡奴隷共同体マルーンを支援し始めると同時に、ティターンは北部と隣接する中北部に4個軍を増派する。
2個軍を北部との国境付近、ファング村の南に派遣し、北進の様子を見せている。2個軍はその後方にいる。
中北部には、この4個軍以外に3個軍が常駐している。中北部の諸部族を支配するためだ。
さらに、中南部に駐屯している4個軍のうち2個軍を中北部まで北進させた。
海路での北上を無理と考えたティターン軍は、陸路から北部との国境を目指す。
計8個軍もの大軍で、北部に雪崩れ込む作戦だった。
北アフリカおよび西アフリカで生きていくためには、輸送力が必要。西ユーラシアからの移住に際して、増産された貨物船は完全に余剰だが、車輌と航空機はまったく不足している。
航空機の不足は著しい。航空機の製造は、ノイリン、クフラック、カラバッシュに限られていて、もともと製造数も少なかったからだ。
くじらちゃん以外の双発輸送機を持たない王冠湾は、双発輸送機の入手を図ったが、まったく無理な状況だった。
唯一、西アフリカに移住を完了したカラバッシュが、かなり使い込まれた中古4発機をエンジンレスならコムギと交換すると伝えてきた。
この機のエンジンは1200馬力の空冷星型14気筒で、1600馬力のターボプロップに置き換えれば、機体重量の軽減と積載能力の向上が期待できた。
土井将馬は、このコンソリデーテッドB-24爆撃機にルーツがある高翼単胴双尾翼機の機体を3カ月かけてレストア。エンジンを換装して4機を進空させた。
うち2機をヴルマンに売却し、何とか資金不足の帳尻を合わせる。
全長20メートル、全幅33.5メートルに達し、5トンの物資を積載できる。ただ、ランプドアがないので、物資の積み込みにはフォークリフトが不可欠だった。
農作物のうち穀物の大半はカルタゴで荷卸ししたが、一部は王冠湾まで輸送していた。南島は農地の開発を進めてはいるが、需要を満たすには数年を要する見込みだった。
不足分は、レムリアとの交易によって補うしかなく、それ自体は成功していた。
だが、王冠湾・南島の経済は脆弱なままだ。稼いでいる仕事は、軽車輌の製造・販売と造船だけ。航空機分野は、なかなか難しい。
整備や改造の仕事で、どうにか食いつないでいる。
2トン積みオート三輪と、ロングシャーシのジムニーはよく売れている。水冷4気筒OHVエンジンは共通するが、排気量1.5リットルはオート三輪に、その他はジムニーに振り向けた。
新造車の販売よりも、整備や改造のほうが利益になった。
だが、レムリアから運んでくる穀物以外のカカオ、コーヒー、パーム油、シルクは、いかなる工業生産よりも利益が圧倒的に大きかった。
王冠湾・南島の経済を維持するには、レムリアとの交易は絶対に手放せない。最低3年は半独占したい。
北部を失ったティターンは、中北部の締め付けを強化した。ゲドリクスが指揮するガバリ族に対しても同じで、新しい中北部総督は中北部最大部族のガバリ族に対しても容赦しなかった。
ゲドリクスは部族を率いて抵抗の意思を示すが、戦えなかった。北部のガバリ族が分派し、北ガバリ族を名乗って、北部諸族に自ら編入したからだ。
これを望んだのは北ガバリ族自身だが、過去のいきさつから簡単ではなかった。
この難しい交渉を実現したのは香野木恵一郎で、副次的な目的としてゲドリクスの戦力を削ぎ取ることにあった。
この策動は、ティターンの中北部総督にとっても歓迎だった。
香野木恵一郎は、新しい中北部総督の詳細な情報を得ていない。名前は、カルルス・アフリカヌス。年齢は、35歳前後。職業は、軍務官僚。
それ以上のことは、わかっていない。
中北部には、農耕民だけでなく、採集狩猟民や遊牧民も多い。新総督の厳しい徴税を逃れて、北部に逃げ込む難民が増えていた。
多くは中北部北辺に住む半採集狩猟民や遊牧民で、北部諸族は越境してくる彼らを保護した。森での狩りを認め、ヒツジの放牧地を与える。
香野木恵一郎はレムリアに留まっている。ティターンの次の一手が見えないからだ。
そして、難民は多くはないが、ここを突いてくる可能性を感じていた。難民の発生は予測しておらず、越境者の扱いは協定に規定がないからだ。
香野木は新総督からの“抗議”を期待していたが、花山真弓は違った。
「ティターンは単純だから、そんな面倒なことはしないよ。
一切の通告なく、越境してくるよ」
香野木は、反論しなかった。2人の会話を第三者は聞いていないし、反論してもやり込められるだけだから。
香野木は、花山と里崎杏、長宗元親の4人での会議を行った。
花山と里崎の対応策は同じだった。
里崎が「30メートル級とハンマーヘッド級武装艇各2隻をファング村沖に派遣しよう」と提案すると、花山は賛成を即答した。
新たに派遣されたハンマーヘッド級には、3連装大型ロケット発射基が船体後部に装備されている。
対地攻撃に使えば、絶大な威力を発揮する。
王冠湾地区は、ドミヤート地区ともめ事を抱えていた。ズラ村に派遣されている60輌の軽戦車“スカニア”は、ドミヤートに所有権がある。
つまり、ドミヤート所有の軽戦車を王冠湾が砲塔を外し、王冠湾所有の車体に移植したのだ。
これは、重大な問題だった。
王冠湾側はフルギア金貨での購入を打診したが、ドミヤート地区はコムギとの交換を提案してきた。
ドミヤート地区とタザリン地区は、コムギの確保に苦労していた。そのことは、王冠湾地区は知っていた。
しかし、コムギは貴重。安易に交換には応じられない。金貨を握りしめて、餓死したくはない。
王冠湾の区長である井澤貞之は、花山真弓に「至急コムギ50トンを送れ」と連絡する。
幸運にもカルタゴに向かっていた輸送船には、コムギ200トンを積んでいた。カルタゴへの寄港を取りやめ、王冠湾に直行する。
北アフリカでは、コムギの確保に困ることは少なかった。だが、ジブラルタル海峡以西では十分な需要を満たしていない。
アトラス山脈以東、西サハラ湖西岸との交易が成立していない現状では、安定供給は難しい。西サハラ湖東岸では、農作物の増産が行われているが、十分な供給量ではない。
土井将馬は「クフラックの提案は乗るべきだよ」と主張するが、井澤貞之は「う~ん」と唸ったまま。
「土井さん、飛行機が足りないことは理解しているけど、クフラックはガラクタを押し付けて、代わりにコムギがほしいって言ってるんだろう?
それって、かなり図々しい提案だよ」
「わかっているよ、井澤さん。
だけど、リストを見る限り、悪くはない」
「全部、グラマンって言うメーカーの飛行機みたいだけど……」
「意味はないと思います。たまたま、でしょう。
G-44ヴィジョンは5人乗りの飛行艇、C-1トレーダーは1.6トン積みの輸送機、G-164アグキャットは複葉の農業機。
トレーダー輸送機は、ノイリンから買ったみたい」
「複葉機は……、いる?」
「いらないかも、だけど部品取りにはなるかも……」
「ガラクタ……」
井澤の言葉を土井が遮る。
「ポンコツ……」
「そのポンコツ3機とコムギ50トンは、適正な交換レートかな?」
「……ではないかな。
払いすぎだよ」
「では土井さん、30トンで交渉して。
40トンまでは妥協してもいいかな」
土井はカナリア諸島に向かい、クフラック政府と交渉を重ねた。
クフラックは、コムギ50トンを緊急に必要としており、ルーマニア製Yak-52練習機を加えると通知した。
王冠湾側はP&WC PT6ターボプロップエンジンを希望したが、クフラック側は応じなかった。代案として、ワルターM601系4基を提案してきた。回収後、使うことなく死蔵していたものだ。
この提案に王冠湾は同意する。G-44ヴィジョン双発飛行艇1機、C-1トレーダー双発輸送機1機、ワルターM601ターボプロップエンジン4基とコムギ50トンとの交換が成立する。
ズラ村の維持は、王冠湾にとって大きな負担だった。移住後の混乱で、王冠湾以外はレムリアに関心を示さないが、数年後にはたくさんの船が訪れる。
レムリアの中心は、浅海に囲まれる西岸であり、この海域では吃水の深い大型船は座礁の危険が高い。
ヴルマンはクレタ島を確保しているが、航空機による輸送では量に限界がある。
移住に際して、たくさんの船舶を建造したが、これら移住用急造船の多くは、航続距離が2000キロ前後と短い。
ズラ湾からクレタ島まででも3000キロ近くあるのだから、これら急造船は使えない。エンジンも強力ではなく、船速は遅い。
だが、混乱から抜け出したグループは、時を置かずにレムリアにやって来る。
クマンや湖水地域は、西サハラ湖方面との交易に全力を傾けている。しかし、それが落ち着けば、レムリアにも目を向ける。
王冠湾がレムリアとの交易を独占できるのは、極めて短い。
だが、レムリアの北部以外、マダガスカル、アフリカ東岸の全貌は、まったくわかっていない。わかったことは、アフリカ内陸海路の海中は無酸素状態であることくらいだ。全域で海水が無酸素であることから魚が棲息せず、魚を餌とする海棲爬虫類がまったくいない。
レムリアでは、漁労は湖と河川で行われる。
誰もが体系的な調査の必要性は十分に感じているが、ティターン対策でその余裕がない。北部に対するティターンの野心を打ち砕かないと、すべきことが進まない。
香野木を含めて、誰もが焦りを感じていた。誰も声高に強硬論を唱えることはないが、誰もが内心ではその必要性を感じていた。
ティターン中北部総督からの使者が、ファング村に現れた。使者の書簡は、香野木恵一郎宛だった。
書簡は、陸路でアリギュラを経て、ズラ村にもたらされた。書簡が到着するのに5日を要した。
アクシャイが書簡を読み、翻訳して内容を口頭で伝える。場所は、司令官棟だ。
「短い内容です。
ズラ村の長に中北部総督府に出頭するよう命じています。
要請ではありません。
命令です」
アクシャイは深刻な顔をしているが、香野木は微笑んだ。長宗元親は呆れ顔で、花山真弓と里崎杏はウンザリしている。
花山が「ティターンって、理解しがたいところがあるね」と言い、里崎は「何をされたら、理解できるんだろう」とやや困惑気味に答えた。
長宗が香野木を見て「行くのか?」と問う。ノコノコ出向くなんてしないよね、と声音が告げている。
「行ってみよう。
カルルス・アフリカヌスを見てみたい。
里崎さん、スピードの出る船は?」
「哨戒艇はアリギュラに入港している」
香野木は少し考える。
「陸路でアリギュラに向かい、そこから哨戒艇4隻で総督府に行こう。
で、総督府はどこにあるの?」
アクシャイが答えた。
「ブティバという街です。
中北部最大の街だと聞いています」
花山が地図を出す。空白だらけの地図だ。
「ざっと、1600キロね。アリギュラから……」
香野木は里崎に「哨戒艇4隻で向かいたい」と告げる。
アクシャイには「すまないけど、通訳として同行してもらえないかな?」と頼む。
アクシャイは恐ろしかった。ティターンの残虐さはよく知っていたし、総督府に乗り込んで何事もなく帰れるとは思えない。
「ティターンは、私たちを蛮族と呼びます。家畜と同じに見ています。
無事に帰れるとは……」
香野木が里崎を見る。
「里崎さん、哨戒艇の装備は?」
里崎には別の心配があった。
「30メートル級哨戒艇の航続距離は、1000キロ程度。2回補給しないと、往復できない」
花山が提案する。
「補給部隊とともに、戦闘車10輌、装甲車10輌の部隊で南下する。補給部隊は、オート三輪20輌で編制し、燃料、食料、弾薬を運ぶ。
海岸に沿って道があるけど、整備状況はわからないから、装輪車よりも装軌車のほうがいいけど、装甲車は装輪しかない……。
オート三輪のうち1輌は、健昭の後部履帯車を使う」
香野木が顔を崩す。
「健昭が、連れていけ、と駄々を捏ねるぞ」
花山も顔を崩す。
「あの子は、あなたが躾ることになっているでしょ」
香野木は、そんなことがいつ決まったのか知らない。だが、反論はしない。反論しても、負けるし……。
この作戦において、最大の問題は、やはり花山健昭の処遇だった。
「ズラ村に残れ」
「ヤダ!」
この応酬で、たいへんだったが、長宗の頭頂部への拳骨で解決した。口を尖らし、半べそをかく、香野木には健昭がかわいそうに思えた。
「父さんも、母さんも、死んでしまったらどうしたらいいの?」
そう言われて香野木はグッときたが、すぐに嘘と気付く。健昭は、それほど殊勝ではない。
ファング村を発し、境界とされている幅2メートルほどの小川を渡ると、当然だが、ティターン軍守備隊が誰何する。
アクシャイが「中北部総督から招かれている」と告げ、出頭命令書を見せると、守備隊長が呆れ顔をする。
香野木たちにではない。中北部総督に対して。現実を知る彼らからすれば、強大な敵を本拠に招き入れるなど、正気の沙汰ではない。
中北部総督府は、ティターンの総統府ほどではないが、十分に贅をつくした石造建築だ。総督府としては、もっとも豪華とされる。
カルルス・アフリカヌスは、この総督府を見れば、北部の蛮族が地にひれ伏すことを確信していた。
しかし、北部に“出頭命令書”を渡したとの報告は受けていたが、ズラ村からの返答はなかった。
境界を越えたとの報告もないし、関所を越えたという情報もない。
カルルス・アフリカヌスは“出頭命令書”が無視されたと、判断する。ズラ村が無視した以上、越境攻撃の正当な理由になると考えていた。
それと、無視すると予想していた。恐怖は足をすくませる。総督の“出頭命令書”を受け取り、怯えきっているズラ村の長を気の毒にさえ思っていた。
カルルス・アフリカヌスは早朝、副官の報告に耳を疑った。
「ズラ村の長がブティバの北、ウマで1日の距離に現れました」
一瞬、彼は沈黙してしまった。
「なぜ、いままで報告がなかったのだ」
務めて落ち着いた口調で問うが、内心は驚愕していた。
「境界を越えたのが4日前、早馬を飛ばしても4日では……」
「船か?」
「いいえ、馬車とか」
「馬車……?」
「総督閣下、明日の昼前には城外に達するかと」
「そうか、迎える準備をせよ。
蛮族を迎える支度だ。
わかっているな」
「御意!」
だが、副官が次に総督の前に現れたとき、彼はひどく狼狽していた。
「総督閣下、蛮族が城外に達しました!」
明日の昼との予想が、今日の昼になってしまった。
香野木恵一郎は4輪装甲車を降りて、固く閉じられた城門を眺めている。
門衛は、30輌の自動車化部隊を目視すると、大慌てで城門を閉じた。城外には城内の住民や物売りの商人たちが、取り残されてしまった。
ここに至るまで、いくつかの関所が封鎖を試みたが、すべて強行突破してきた。今回も城門を破壊すればいいだけだが、関所の薄っぺらな防御とは異なり、ブティバの城壁は7メートルの高さがある。城内の様子がわからないので、花山真弓は強行策を躊躇った。
城門が開かない。
まもなく日没。
香野木は、大きなあくびをした。
カルルス・アフリカヌスは、ウマのいない馬車を初めて見たし、鉄板で囲まれた馬車も初めてだった。
どうしたらいいのかわからず、無為に時が過ぎていく。追い返せば、臆したと噂される。迎え入れたら、どうなるのか不安だ。
彼は、ドラゴンの炎と雷鳴魔法を信じていなかった。しかし、ウマが牽かなくても走る馬車があるなら、噂ほどではないにしても何かしらあるかもしれないと案じた。
香野木は、イラついていた。
「アクシャイ、一緒に来てくれる?」
アクシャイは、ぎこちなく頷く。2人とも迷彩服を着て、ボディアーマーを装着し、ヘルメットを被る。
花山が制止するが、香野木は振り返って微笑み、歩みを止めなかった。
カルルス・アフリカヌスは、奇妙な模様の軍装をした2人の男が近付いてくる様子を、戸惑いながら見ていた。
副官に尋ねる。
「冑はわかる。
身体に巻いているのは甲冑か?」
副官にもわからない。
「布では、刃を防げませんが……。
それにしても、華のない具えですね。
蛮族らしく、みすぼらしい」
そうは言ったが、副官は戦いに徹した軍装と感じていた。
香野木はレンズがミラーのサングラスをしていた。城門の上から見下ろすティターン兵たちには、香野木の目が見えない。
見上げている男の目が見せないことで、見下ろしている兵士たちを威圧している。
香野木は、アクシャイに「適当に訳せ」と言った。
「そこに総督閣下はいるか?
いないなら伝えろ!」
香野木は、アクシャイが訳しやすいように言葉を短く切る。
「俺は、わざわざズラ村から来た。
にもかかわらず、出迎えもしない。
無礼だろう!」
ここで区切る。アクシャイは十分に声を張っている。
「どうしたい。
城内には入れてもらえす、帰るか?
それとも城門を破壊し、城内に入ろうか?」
アクシャイは少し怯えている。それが声音に出たのか、「城門を壊す」と訳して笑われた。調子に乗った兵士が囃し立てる。
香野木は花山の気の短さに危険を感じることがある。だが、花山に言わせれば、香野木のほうが短気。香野木はそうは思わない。
背後でドンと発射音がした。
同時に76.2ミリ榴弾が城壁に命中。城壁の石が飛び散り、ごく一部だが崩れた。
やはり、花山真弓は短気だ。無線を通じて香野木の言葉を聞き、即断した行動だろうが、やり方が荒っぽい。
轟音のあとの静寂は長かった。
「もう一度言う。
城門を壊して城内に突入するか、城門を開いて総督府まで案内するか、どちらか選べ」
カルルス・アフリカヌスは、香野木の要求をどちらも選択しなかった。
城外の草原に豪奢なターフを設置して、会見場を設けたのだ。この会見場ならば、城外であるので、蛮族を招き入れなくてすむ。
一方、四方が解放されているので、会見の様子が丸見え。カルルス・アフリカヌスにとっては、賭けになる。臆した様子を寸分でも見せたなら、彼の地位は危うくなる。
その点、香野木は気楽だ。花山真弓が戦闘車の主砲を発射した際にも、驚いて首をすくめ頭を抱えている。
会見は衆人環視の下で始まる。城壁には、多くの下級兵士たちが群がっている。
城門側には、完全装備の重騎兵が400。会見場を挟んで北側には、花山真弓率いる自動車化部隊30輌が2列横隊を作る。
花山は完璧な横隊を見せるため、戦闘車と4輪装甲車を互い違いに並べさせ、オート3輪は後列に配置する。
各車の前には、休めの姿勢で車体前方に車長だけが立つ。
会談は、重厚な木製のテーブルを挟んで始まる。香野木恵一郎とカルルス・アフリカヌスとの距離は約2メートル。
香野木は着座する前にヘルメットを脱ぎ、テーブルの上に置く。
真似をしたわけではないのだろうが、カルルス・アフリカヌスも赤い鶏冠付きの冑を脱ぎ、香野木と同様にテーブルに置く。
香野木は左手で日本刀を腰から鞘ごと抜き、右手に持ち替えて肘掛けのあるダイニングチェアーのような椅子に座る。
テーブルとチェアーの造作は、とんでもなく精緻だ。大災厄前の家具センターには、これほどの品は売っていないだろう。
給仕が彫刻を施した銀の杯に赤ワインを注ぐ。
カルルス・アフリカヌスが杯を掲げて、一口飲む。
「毒など入っていない。
飲め」
香野木恵一郎は、どう答えるか考えた。名案が思いつかないので、飲むことにする。
杯を掲げ、一口飲む。十分に発酵しておらず、糖度の高いワインのような飲み物は、水で割っているが美味くない。
カルルス・アフリカヌスがもう一口飲む。「どうだ、美味いだろう?
ティターンでも最高のワインだ」
耳元で通訳のアクシャイがささやく。
「馳走になった。
我々の酒を何本か届けよう」
カルルス・アフリカヌスが笑う。
「蛮族の酒か?」
香野木は、見下されていることは承知している。だが、カルルス・アフリカヌスには、見下すための材料がない。
「総督閣下の冑は、鉄か?」
カルルス・アフリカヌスは、この問いに対して明確に見下した態度を見せた。
「蛮族の冑は鉄ではないのか?」
香野木は、この反応を予測していた。
「私のテッパチは鉄製ではない。
88式鉄帽2型はアラミド繊維製だ。鉄よりも防護性能に優れ、なおかつ軽い」
カルルス・アフリカヌスの目が泳ぐ、どう反応していいかわからないのだ。唐突に“アラミド”と言われても、何のことだか皆目わからない。
だから、無視する。
「北の蛮族と戦った我がほうの兵は、雷鳴の魔法やドラゴンの炎といった呆けた話を持ち出して、敗北を正当化している。
それについては、蛮族であるおまえはどう思う?」
香野木は、この情報を得ていた。
「雷鳴の魔法は、先ほど見せたものだ。城壁の一部を壊したあれだ。
ドラゴンの炎とは、航空機から投下するナパーム弾のことだ。我々のターボコブラは、ナパーム弾を2発搭載できる。
空からの攻撃に対して、ティターン兵は無力だ。ドラゴンに襲われたと考えても仕方あるまい」
明確ではないが、香野木から「空を飛べる」と解せる言質を得て、そのような嘘が通じると考える蛮族の愚かさにカルルス・アフリカヌスは哀れを感じた。
「空を飛ぶ、か」
カルルス・アフリカヌスは、声を上げて笑った。
香野木は、どう対処するか考える。名案がないので、ポケットからスマホを出した。
「戦闘爆撃機のターボコブラではないが、ターボマスタングの動画がある」
セロの飛行船を攻撃するターボマスタングの動画を再生し、スマホをテーブルで滑らせて渡す。
カルルス・アフリカヌスは、明確に動揺している。空を飛ぶ機械に対してなのか、それとも絵が動くことに驚いているのか、そこはわからない。
香野木はとどめを刺す。
「我々は、ティターンよりも高度な科学技術を持っている。
蛮族なので、野蛮な行為は大好きだ。
北には手を出すな。
総督閣下の手柄は、北では得られない。手を出せば、軍歴に傷が付くことになる。ティターンに凱旋できなくなるぞ。蛮族の地で生涯を終えたくはないだろう?」
見事なほどの偉丈夫であるカルルス・アフリカヌスは、貧相な体格の蛮族に脅された。そして、打ちのめされるほどの威圧を感じていた。
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