200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚

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第1章

第六話 接触

 キャンプに戻ると、相馬と金沢も戻っていた。
 俺と斉木は、トランシーバーで「道を発見した」ことは知らせていたが、俺と斉木の衝撃は伝わっていなかった。
 むしろ、相馬と金沢の発見のほうが、関心を持たれていた。

「たぶん、コッカリル九〇ミリ砲を搭載したスコーピオン軽戦車です」と金沢がいった。
 歩哨に立つ、金吾と珠月を除く全員がノートパソコンの画面を凝視している。
 由加が、「脱出口の上の方の断面を見たとき、溶断したのではなく、戦車砲で撃ったように見えたのだけど、この戦車の主砲だったのね」と断定的にいった。
 能美が、「私たちの戦車と同じ車種なの?」と金沢に尋ねる。
「ええ、主砲が違うだけです」
 納田が、「私たちの戦車と一緒に来たのかしら?」
 相馬が、「違うと思いますよ。かなり朽ちています。キャタピラとか残っていないし、主砲の砲身もぼろぼろに錆びていますからね」
 金沢が、「車体はアルミだから残ったのでしょう。他にもクルマがあったのかもしれないけど、土に帰ったと思いますね」
 納田が、「いつ頃のもの?」
 相馬が、「百数十年前か数百年前?」

 斉木が自分のノートパソコンに映像を映して、俺たちの発見を見せた。
 能美が「道ね」といい、納田が「人がいるってこと?」と誰にともなく尋ねた。
 片倉が「アフリカの草原ぽい風景ね」と感想を述べると、相馬が「北米や南米にもこういった風景はありますよね」と相槌を打つように答える。
 由加が、「道を行く? それとも避ける?」と問うた。
 斉木が、「北に行くか、それとも南か?」と。

 金吾が飛び込んできた。
「南西の方向に煙が見えます!」
 全員が天幕の外に飛び出す。
 煙が一筋、空へ上っていく。
 斉木が「焚き火の煙だ」というと、納田が「やはり、人がいるのね」と不安と期待が入り交じる声音を発した。
 由加が、「二〇キロは離れていない」と断言した。

 我々は、人に近付くか、それとも距離を保つかの決断を迫られた。

 翌朝、キャンプをたたみ、一〇キロ西に向けて移動を始めた。
 まず、エノク軽装甲車とハンバー・ピッグ重装甲車二台、そして二号車が軽トラとともに進出し、拠点を確保。その後、一号車スコーピオン軽戦車、大型車三台が続く。

 川から離れる我々は水の確保を心配し、ありとあらゆる容器に湧水池から汲んだ水を入れた。

 発見した道まで一五キロ、森の西端まで一〇キロ西の地点で、キャンプを設営する。周囲に灌木が点在し、南の山脈北麓の木々はカバノキから針葉樹に変わっていた。
 小河川が減り、湧水もない。明らかに乾燥の傾向が強まっている。

 やはり、一〇キロ進むのにまる一日を要した。大型車の機動は緩慢で、スタックしてしまえば脱出に時間を要する。特に全輪駆動でないダンプローダートラックは足手まといだ。
 だから、スタックしないように確認しながら進む。結果、徒歩よりも遅くなる。

 我々は徹底的に用心し、状況の確認ができるまでは、煙が立ち上る焚き火を控えた。
 片倉・納田グループは五kVA級の携帯発電機と炊飯器を持っており、片倉は炊飯器で米を炊き、パンも焼いた。俺たちも携帯発電機を持っていたが、一kVA級のパワーが小さいものだった。
 片倉・納田グループの〝道具〟には、いつも助けられている。
 食べることに関しては、相馬・金沢グループも感心する。自作の携帯燻製器を持っていて、何でも燻製にしてしまう。川や湧水池で魚をルアーで釣り上げ、燻製にしていた。かなり、美味で、希少な酒の消費が増えた。

 明日、焚き火の煙が発生したあたりに、俺、珠月、相馬の三人で向かう。
 直線距離で七キロか八キロほどと推定し、徒歩で行動する。
 俺たち三人は、弁当一食分と非常食二食分を携行し、完全武装で出発した。

 おおよその目標地点は、南に森林があり、森林の北辺にかなり大きな沼がある。沼の周囲は泥濘だが、少し離れると地面は乾いている。沼の北岸は三〇センチほどの草が茂り、灌木がまばらに生えている。
 風景としては最高にいいが、俺たちの心拍数は上がっていた。
 相馬がアサルトライフルの安全装置を外し、コッキングボルトを引く。

 銃声が二発轟いた。

 小川の上流だ。
 三人は身を屈めて走った。俺が先頭、相馬、珠月の順だ。

 東側から人の声がする。何をいっているのかわからないが、興奮した女性のようだ。
「ウォー!」という男の悲鳴がした。
 沼から川に流れる小川の畔で、三人の〝何か〟が取っ組み合っている。
 ヒトの女らしい動物を、ヒトとは思えない二メートル数十センチの〝巨人〟が羽交い締めにしている。
 その羽交い締めにされたヒトの女らしき動物の前で、禿の巨体が股間を押さえて呻いている。
 相馬が銃を構える。
 俺は、すかさず制した。
「よく見ろ、三人とも服を着ている」
 女は植物繊維らしい布で作ったズボンとシャツを、長身痩躯で銀髪の巨人は茶色の毛織物らしいコートと革のブーツを着けている。端整な顔立ちだが、ヒトという雰囲気ではない。
 股間を押さえてうずくまる禿の巨体は、布の服と造作のいい革製の鎧を着けている。履き物は編み上げ靴のようだ。顔には濃いひげが生えている。キモカワ系だ。
 女の履き物は、踝まであるブーツだ。
 全裸のドラキュロとは、決定的に違う動物だ。
 三体の動物が俺たちに気付いた。
 相馬が激しく動揺している。
 俺が彼らの後方を指差す。
 三体の動物が振り返る。
 クマがシカを咥えて逃げていく。
 女が大暴れで羽交い締めを振り解き、石を拾いクマに向かって投げつける。
 そして、大声で何かをいった。
 さらに、銀髪の巨人と禿の巨体に凄い剣幕で文句をいっている。
 何をいっているのかまったくわからないが、文句だ。絶対に文句だ。
 巨人はやりきれなさそうな表情で、禿の巨体は何かを女にいい返している。
 女が禿の巨体の脛を蹴った。

 俺は何となく、銃のスリングを肩にかけて、この争いを止めようとした。
 ウマのいななきが聞こえた。
 その方向を見ると、化け物のようにでかいウマ、肩までの高さが二メートル以上ありそうだ。体重は軽く一トンを超えるだろう。
 そのウマを見て、珠月が怯える。
 そんなばかでかいウマが、二頭もいる。

 銀髪の巨人の様子は、昼飯を食い損なったサラリーマンに似ている。
 女と禿の巨体のいい争いが続く。
 俺がもう一度宥めるような仕草をすると、二体の動物はようやく落ち着いた。
 女はどう見てもヒトのようで、年齢は一〇代中頃だろうか。
 俺たちの言葉はまったく通じないし、彼らの言葉もまったくわからないが、三体とも相互に敵意はないようだ。
 獲物の分け前か何かでもめたのだろう。
 女が座り込んで泣き出した。
 銀髪の巨人が同情したのか、たすき掛けしていたミュゼットバッグ風の鞄から何かを取り出して渡した。
 三体の動物は薪を集め始め、俺たちにも手伝えと、身体の動きで指示する。
 女が小石を集めて炉を作り、そこに集めた薪を入れる。巨人が丁寧に薪を並べ替え、禿の巨体が小川から薬缶らしき金属器に水を汲んできた。
 ヒトの女らしき動物は、まだ泣いている。巨人と多毛の巨体は、ウマから何かを持ってきた。
 パンだ!
 それぞれが、パンを少しずつ切り分けて、ヒトの女らしき動物に渡す。
 泣きながら食べている。量が少なく、すぐに食べ終わった。
 珠月が焼いた鱒入りの焼きおにぎりを女に見せると、一つとった。珠月が食べると、彼女も食べる。
 俺が焼きおにぎりをザックから出し、巨人と多毛の巨体に差し出すと、不審げにそれを受け取り食べた。
 二体ともうまそうな表情をする。
 相馬が俺に焼きおにぎりを一つくれた。
 禿の巨体がお茶を入れてくれて、それを飲んだ。爽やかな香りと繊細な味の飲み物だった。

 言葉のわからない同士の出会いは、四〇分ほどで終わった。
 禿の巨体はウマを引いて立ち去り、銀髪の巨人はウマに乗って別方向に向かった。このとき初めて、この二体の動物が仲間でないことを知った。

 ヒトらしい女は、どういうわけか俺たちに着いてくる。珠月に盛んに話しかけ、珠月も邪険にしない。
 ヒトらしい女の持ち物は、皮のコート、たたんだシート、弓と数本の矢、それと銃身の長いリボルバー拳銃だ。
 最後部を歩く相馬が走り寄ってきた。
「どうします?
 キャンプにつれて戻るんですか?」
「相馬さんの心配もわかるけど、まぁ、危険は低いかなと。
 それに、身振り手振りでも情報は採れないかなと、思うんだけど」
「マゼランの世界一周ではないんですよ!
 それに、あのばかでかいウマを見たでしょ。
 あの女が、二、三歳だったらどうします?」
「そりゃないだろ」
「なぜです?」
「結構、オッパイがでかい」
「一言いいですか?」
「どうぞ」
「僕も変人ですが、半田さんと城島さんには負けます」
「で、あの子をどうする?」
「連れて行きましょう。ヒトがいるという証拠ですからね」

 二時間歩いて、キャンプに戻った。
 連れ帰った一〇代と思えるヒトらしい女は、我々のキャンプに近付くと、一気に走り出した。
 歩哨であった金吾は珠月と誤認し、通り過ぎた後、慌てて追う。
 好奇心が強いらしく、何でも覗く。ちーちゃんが怯えて、由加の後ろに隠れた。
 ケンちゃんは真逆で、彼女を追い回す。
 ショウくんとユウナちゃんは、唖然呆然。
 キャンプ残留組は、全員が呆気にとられている。

 キャンプではヒトがいる可能性を考え、非常な警戒心を持って作業をしていた。
 由加はスコーピオン軽戦車の主砲と同軸機銃を点検し、特に同軸機銃は車体から降ろして発射が可能なように整備した。
 タンクローリーと八トン車のキャビンは詳細に点検され、タンクローリーのシート後部のベッド下の引き出しに、コルトM4カービン一挺、弾倉一二個が装備してあった。
 隠されていたわけではなく、俺が引き出しの存在に気付かなかっただけだ。
 俺は由加から「探し方が悪い。整理整頓ができない」とさんざんないわれようだ。
 八トン車からは、何も出てこなかった。ドライバーがすべて持っていったようだ。

 夕食は、日没前に始まった。ちーちゃんが食事の前に、ヒトらしい女=少女に石鹸での手の洗い方を教えた。
 様子から、少女が石鹸を知っているように感じた。
 少女はよほど空腹だったらしく、凄い勢いで食べた。だが、ご飯をスプーンで食べ、フライパンで焼いた鱒の切り身をフォークで口に運んでいた。
 決して非文明的な生活をしてきたわけでなく、現在が彼女にとってのサバイバルであるように感じられる。
 食後の食器を洗う作業も手伝っていたし、自分の荷物の置き場所について許可を求めるような手振りもあった。

 夕食がすみ日没となった後、焚き火が始まる。歩哨に立つ、相馬、片倉、斉木もすぐ近くにいる。
 由加が武器の現状を説明する。
「軽戦車の主砲は使えると思います。発射テストはしていませんし、砲身内部が錆びているけど、できるでしょう。
 弾薬を回収する際、時間がなく一部を残さなくてはなりませんでしたが、手榴弾の一部と小銃以外はすべて持ち出せました。
 小銃は足りていますから、最悪のことですが、戦いになったとしても身を守ることはできるでしょう」
 能美が由加に尋ねる。
「弾はどれくらいあるの?」
 由加が答える。
「戦争できるくらい」
 斉木が単純な疑問を言葉にした。
「なんで、そんなに弾薬が必要だったのだろう?」
 この疑問は、誰にも答えられないのだが、由加が引き受けた。
「金沢さんによると、軽戦車はイギリス製のスコーピオンという偵察用です。車体はアルミできています。ですから、装甲の防御力は高くありません。
 小銃弾や機関銃弾は貫通しませんが、対戦車兵器には無力です」
 由加は少し笑いながら、軽戦車の説明を続けた。
「この軽戦車は、たぶん東南アジアの国の陸軍が保有していたものではないかと……。
 根拠は希薄なんですが、車内にローマ字の落書きがあって、それが東南アジア系の言葉じゃないかと……。
 ただ、国籍標識は完全に剥がされていて、国や地域、部隊や組織を示すマーク類が一切ありません。
 どこかの国の軍隊に所属する戦車ではないと思うのです。
 弾薬類も同じで、量は凄いですが、運んでいたのは、ありふれた民間の後輪駆動トラックです。
 民間が軍の装備を運んでいたことも考えられますが、何となくですが、違うように思うんです」
 納田が「どういうことですか?」と、由加の結論を尋ねた。
 由加は、「民間の軍事組織ではないか、と。武装しようとした民間人、犯罪組織や宗教的武装集団とか……。プロの軍人じゃなくて……」と答えた。
 相馬が、「どちらにしても、物騒な連中がこの時代に入り込んでいる可能性があるということですね」と確認する。
 由加が頷く。
 由加が金沢を指名した。
「あの、本当は城島さんに説明してもらいたいのですけど……。
 でも、何か、すみません」
 金沢の知識は、由加とは異なるもので、彼はいわゆるミリタリーオタクだ。
「最初に、自分はただのミリオタです。
 まず、斉木先生と真希先生のジープタイプの四駆車は、ドイツ陸軍の軽装甲車です。自衛隊の軽装甲機動車に相当する車輌です。
 ですから、比較的安全な車輌です。
 それと、二台の重装甲車ですが、イギリス製のハンバー・ピッグです。一九九〇年代まで現役でしたが、退役後は民間に払い下げられて、マニアのコレクションの対象とかになっていました。
 小型のボンネットトラックに装甲を被せたような、無骨というか、古くさい格好ですが、長く使われた優秀な車輌です。警察車輌としても使われていました。
 小銃弾や機関銃弾には耐えるだけの装甲があります。
 シャーシとボディ以外は、すべて新造だと思います。原型は一二〇馬力のガソリンエンジンでしたが、手に入れた車輌は二四〇馬力の日本製ディーゼルターボエンジンを搭載していました。
 片倉さんと納田さんは、乗り換えて正解でした。
 ドラキュロにも、得体の知れないヒトにも、対応できますからね」
 能美が替わった。
「納田さんと調べたのですが、医薬品や医療器具は、結構使えるものがありました。
 どんなことが待ち受けているのかわかりませんが、一定の治療はできます。
 輸血が必要な場合は、協力し合うしかありませんが……」
 俺が、「これからどうするか、ですが……」と問いかける。
 相馬が密かに撮影した、禿の巨体と銀髪の巨人の写真をスマホの画面に映す。
 全員が押し黙る。そして、狼狽える。
 斉木が紙に地図を描き始め、その地図に相馬が発見した道を描き込んだ。
 そのポンチ絵のような貧弱な地図の上に、精巧な地図が重ねられた。
 全員が地図の持ち主を見た。
 俺たちに着いてきた少女だ。
 彼女は自分を右手の人差し指で指し示し、小さな声で「ルサリィ」といった。
 それが彼女の名前であることは、誰もが同時に理解した。
 水口珠月が、「ミヅキ」と名乗った。ルサリィの眼に涙が溢れてくる。
 ルサリィは、彼女の行動経路を地図上で指を使ってなぞった。
 相馬が、「鍋のさらに東南から、鍋と盆地北側山脈の北麓に沿ってやって来たのか。
 確実に三〇〇キロ以上あるぞ!」
 彼女は、両手の人差し指を下に向けて、それを口にあてた。
 明らかに、ドラキュロを意味する。
 そして、拳銃を見せた。
 大柄な六連発リボルバーだ。形状は、S&WのNo・3リボルバーに似ている。
 この銃で戦ってきたということか?
 元々一人だったのか、仲間がいたのかは不明だが、彼女が生き残ったことは奇跡に近い。

 斉木は彼女に関心を示さず、地図を凝視している。
 そして、地図の一点を指差し、彼女の袖を引いて「カーダング?」と尋ねた。
 彼女は、「カーダング」と答える。
 全員が斉木を見る。
 斉木が「地図の文字だけど、アルファベットだよ。ローマ字読みしてみただけなんだ……」とぼそりという。
 確かに奇妙な筆記体風だが、アルファベットらしい。
 地図上に■があり、その横に文字が並ぶ。地名か?
 ■を指差し、タブレットに〝TOWN?〟と書いてみた。
 ルサリィは少し考えて、何度も首肯する。
 ヒトが住む街があることは確かなようだ。それが、ホモ・サピエンスだとすれば、この一年数カ月の間にやって来た人たちだ。ルサリィもその一人だ。
 ただし、一〇〇〇倍の時間経過がある。一年違えば、一〇〇〇年の差になる。一カ月でも八三年だ。一日の違いは二年九カ月の差になる。
 ルサリィは、俺たちが住んでいた世界を知らない可能性が高い。事変前の世界の有り様と、事変後の地球規模の混乱も知らないだろう。
 どれだけの人々が二〇〇万年後を目指したのかは、皆目見当がつかないけれど、どちらにしても、千数百年間もの時間のなかにばらまかれた。しかし、人の寿命は一〇〇年ほどあるのだから、何とか記憶をつなげていくことができたかもしれない。
 相馬が、「地図を見る限り、北には街がなく、南にはいくつかのヒトの生活圏があるということか」と独り言のようにいった。
 相馬が北を指差すと、ルサリィが俺が置いたメモに〝TUSK〟と書いた。
 片倉が、「キバね。ドラキュロのことで間違いないでしょう」と相馬の眼を見た。
 相馬が、「では、南に行くしかないですね」と断定した。
 異なる意見は誰もいない。
 俺たちは、ヒトという危険な生き物がいる南を目指すことにした。

 しかし、ルサリィの情報だけを信じることの危険もある。ルサリィが完璧な情報を持っているとは限らないし、あるいは誤った情報を信じている可能性もある。
 俺は本心を隠して、提案をした。
「道に出る直前に停車して、軽トラで北と南を偵察したらどうだろう。
 まず、北を偵察し、次に南を偵察する、という手順で……」
 相馬が対案を出した。
「南は、私とキンちゃんの二人で偵察します。私たちのクルマは身軽ですから」
 俺に異存はない。
 北には俺と斉木、南には相馬と金沢が向かう。南北の峠の各最高点まで進出することが決まった。

 翌朝、キャンプを撤収し、西へ向かう。道までは一〇キロ。地面は固いが、ところどころに動物が掘ったと思われる穴がある。車重のある大型車が乗ると簡単に陥没し、自力での脱出ができなくなる。
 進路は、徒歩で地面の状態を目視しながら進まなければならない。
 クレーン車にはキャビンと荷台の間にアウトリガーが付いているので、これをジャッキ代わりに前輪を持ち上げれば、比較的簡単に脱出できる。後輪が落ちた場合はジャッキアップしか方法はないが、これについても油圧ジャッキなど相応の装備を持っていた。
 車列は時々によって変化したが、大型車は車重が七トンもあるハンバー・ピッグで路面の安全を確認し、二軸のクレーン付き八トン車で実証し、前一軸後二軸のダンプローダートラックが続き、最後に前一軸後二軸のタンクローリーが進んだ。
 牛歩の歩みには違いないが、スタックは免れている。

 道まで五〇〇メートルに迫った地点で、全車が停止する。全車を横一列に並べ、防御態勢をとる。
 一号車で牽引している軽トラをトレッカーから降ろし、偵察の準備をする。
 周囲に動物が散見できる。小型のシカの群れや体躯の大きくないウマもいる。シマウマの縞を太くして茶色に変えたような体毛をしている。
 全長六メートルに達する巨大な草食獣もいる。尾が長く、前肢に巨大な爪を持ち、後肢で立ち上がることができる。がっしりとした体型で、体重は三トンに達するかもしれない。
 どうも貧歯類の仲間のようだ。地上性ナマケモノか?
 ハイエナに似た肉食動物もいる。ハイエナはイヌに姿が似ているが、ジャコウネコに近い。腐肉食のイメージが強いハイエナだが、実際は時速六五キロで走り、群れで狩りをする優秀なハンターだ。頭骨と顎骨が強力で、消化能力にも優れている。
 俺たちが見ているハイエナ似の動物は、ハイエナよりも痩躯で後肢が長い。動きも敏捷に感じる。
 恐ろしい動物であることに間違いないので、子供たちは車内に閉じ込めた。
 相馬・金沢グループは、すぐに南に向かって出発していた。
 俺と斉木は二〇分ほど遅れて、出発する。

 北の峠の最高点には昼過ぎに着いた。道は北に向かっていて、終点は見えない。
 北は大草原だ。そして、ドラキュロの群れが複数確認できる。
 西には屏風のようにそびえ立つ山脈が、東の様子はよくわからないが、彼方に山脈が見える。北は地平線の遙か彼方に大山脈が見える。
 川は幾筋かあるが、西の山脈を水源とする大河が北に向かって流れている。
 道は、その大河の東岸を北に延びている。大河はやや東に方向を変えながら、草原のなかをゆっくりと流れる。
 そして、意外な物が見える。大河の視界が効く限界あたりに、巨大な壁が築かれているのだ。万里の長城というよりは、ハドリアヌスの長城を巨大化したような石を積んだ壁だ。
 それ以外の建造物は見えない。
 北にも人がいるのか、それともいたのか?
 この絶景を斉木が映像に残し、俺たちは帰路についた。

 相馬たちの映像は、車輌が通るには限界に近い急峻な峠道が南に下っていき、それが西の山脈を越えていく様子だった。
 道は南にも延びているが、ほぼ獣道みたいなものだ。だが、道は一本ではない。枝分かれして、それらは東西に向かう。
 南には草原が広がっていて、無数の湖沼がある。森も点在していて、森を抜ける道もある。
 東と西に山脈があり、南は地平線まで開けている。海は見えない。
 東西の山脈から流れ出る無数の沢は、東西それぞれに川を作り、それが山脈に沿って南に流れていく。西側の川は大河となり、この平原のほぼ中央を流れていく。
 映像には、人口の構造物は一切映っていない。
 相馬は別の映像を見せた。
 朽ちた四輪の装軌装甲車四台が映し出された。
「盆地のなかで見た軽戦車の仲間でしょうか?」と、相馬が問う。
 俺が、「わからないが、車体の状態は似ているね」と応じる。それに、斉木と由加が賛成する。
 金沢が「ホイールなどの鉄の部品はぼろぼろで、原形をとどめているとはいえない状態でした。
 車体がアルミだったので、残ったのだと思います。
 どこの国の車輌なのかは、皆目見当が付きません。
 周囲にエンジンの残骸が七台分ありましたが、もっとあるのかもしれません。トラックなどの自動車のものだと思います」
 片倉が「数百年前の人たちは、ここで……」というと、由加が「全滅……」と受けた。
 その可能性はあるが、生き残りがいなかったとする根拠はない。大きな損害を被ったのは確かだろうが、ヒトは結構しぶとい。
 能美が「ドラキュロにやられたのかしら」と問うと、誰もが黙った。
 それ以外考えられない。
 次に相馬が映した映像は、衝撃的であった。草の生い茂る草原に降り立った、原形を完全にとどめる大きなヘリコプターだったのだ。

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