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第3章
第七一話 侵略
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街には一五〇人ほどのヒトが住んでいる。そのうち三〇人は駐在する商人やその家族。
二〇人は、ヒトのテリトリーから離れていたい人々だ。
離れていたい理由は殺人などの犯罪に関わることではなく、いわゆる人間関係というものが大半。
ディーノが属していたグループの生き残りや、さらにそれよりも前、三五〇人規模で移住した人々もいる。
このグループは若手の科学者とその家族で構成されていたが、例の鍋地形が運よく砂で満たされていて、物資のすべてを持ち出せた。
生存可能性は高かったが、旧アルプス南麓に迷い込み、最初の冬に寒さで二五〇人を失い、春になって低地に降りたが、ここでドラキュロと遭遇。一〇〇人を失った。現在は一〇人ほど。ほぼ全滅ということだ。
彼らの多くは、この世界で新たな家族を得ていた。生き延びるためには、新たな群を形成する必要があったのだ。
ティッシュモックの〝講和派〟を含めると、総勢二〇〇人がノイリンへの移住を望んでいた。
二〇〇人の引っ越しは簡単ではない。すぐに出発とはならない。それに、彼らの家族には、不安を訴えたり反対しているものもいるらしい。
二〇〇人もいれば、意見の集約に時間がかかる。だが、精霊族に囲まれての生活は、ヒトにとっては快適ではないようだ。ヒトと精霊族では、文化がかなり違う。確かに生活していくには、困難が多すぎる。
彼らは、かなり以前からノイリン北地区への移住を考えていたらしい。実際に何度も視察に訪れていたとか。真の冬の間も訪問していたそうだ。
彼らの家族には精霊族とのハーフやクオーターもおり、異種族を受け入れてくれる寛容な街を探していた。
ノイリン北地区には、精霊族の母娘が住んでおり、娘がヒトの子たちと仲よく遊んでいるところを見て、決心したそうだ。ミューズとララの母娘のことだろう。
だが、その目撃を信じない大人もいて、疑念や猜疑の心が働いてしまっている。簡単に意見集約できる状況じゃない。
俺は、三人と話し合っている。話し合う時間などないのだが、三人が強く望んだ。
移住希望者にリーダーはいないが、レフ・ヨンストンが臨時の代表者となった。
ディーノの元グループの代表はアルトゥル・バルトン。鍋の中でディーノたちのグループと出会い、合流したそうだ。
科学者グループの代表はルーロフ・ストッケル。
アルトゥルは元世界では小さな街の市長、ルーロフは植物学者だ。
ルーロフが話を始める。
「私たちは、ヒトを避けて生きてきました。いろいろと、あってね。
この街で一生を終えることも選択肢ではあります。
ですが、やはりヒトの街で暮らしたい……」
アルトゥルが言葉をつなぐ。
「精霊族は寛容ですが、精霊族の街でヒトが暮らしていくことは、かなり厳しいんだ。
習慣はまったく違うし、言葉も通じないし、考え方や感じ方も違うからね……」
レフが望みをいう。
「ノイリン北地区に移住させてもらえないか?」
俺が答える。
「ノイリン北地区は、住民が少なくて困っているんだ。だから、基本は移住者を歓迎する。
だが、いまその話をしている時間はないんだ。
セロが攻めてくる……」
「そのセロだが、飛行船を使うと聞いた」
「そうだ」
「一回の戦いでは終わらないだろう?」
「たぶんね」
「我々は力になれる」
「武器ならある」
「いや、武器じゃない。
武器はあっても、すぐに使い果たす」
「だから、作っている」
「知っている……。
それを手伝える」
「知識がある?」
「科学者も技術者もいる。
私自身、航空機関連の技術者だ」
「なぜ、いままで生かさなかった?」
「ここの人数では無理なんだ。
力を合わせても、生きていくだけでギリギリだった。
それが精一杯なんだ。
ノイリン北地区には、文明を取り戻せる可能性がある」
「医療従事者は?」
「医師はいないが、歯科医師と獣医師がいる」
「獣医?」
「ヒトも獣だ。ヒトも診てくれる」
レフが少し笑った。
俺がいう。
「我々は、西欧的な文明社会を取り戻そうとは思っていない」
「それは同じだよ。
私自身、西欧人じゃない。スラブ系の東欧人だ」
「キリスト教的世界観とも無縁だぞ」
「それも受け入れる。
ここにいるのは、例外なく不信心者なんだ。
それが原因で〝仲間外れ〟になった」
「どういうことだ?」
「ヨーロッパ系の移住者は、この世界に新たな機械文明世界を建設しようと意気込んでやって来る。
だが、この世界ではそれができない。
できない事実を受け入れないんだ。
特に信仰心のあつい連中は、決して受け入れない。
大人数だと、現実を受け入れて先に進もうという我々と、神の意志やら教義やらを持ち出して立ち止まってしまう人々に分かれるんだ。
そして、少数者ははじき出される。
はじき出された……我々がね。
でも、生き残った。
現状を受け入れたから……。
あなたたちも受け入れている。
同類なんだ。
だから、仲間にしてくれ」
「説得力に欠けるね。
だけど、歯医者は欲しい。
奥歯がちょっとね」
「まだ反対があるんだ。
説得しなければならない」
「説得が終わったらいってくれ。
俺たちは、取りあえずノイリンを守らなくてはならない」
俺は、降魔の家族と自衛隊とポーランド軍グループの関係が気になった。アルトゥル・バルトンとルーロフ・ストッケルが退室したあと、この疑問をレフ・ヨンストンにぶつけた。
「降魔は、あなたたちのリーダーではないのか?」
「それは違うかな。彼はリーダーのタイプじゃない。強いリーダーシップがあれば、現在のような状況にはならないよ。
だけど、彼はティッシュモックを愛している。
一八年間いろいろとあったけど、我々を追い出そうとする勢力なんてなかった。
ある意味、当然だね。我々が作った街なんだから。
でもね、フルギアに抗いすぎたんだ。軍事力では簡単に落とせないと悟ったフルギアは、街の中に手を突っ込んできた。
間者を潜入させ、街の有力者に仕立て、そして、いまや我々の追い出しに成功しかけている。
反ゴーマ派は、いくつものグループがあるんだ。あの街に深く根を下ろしていて、簡単には引っこ抜けない。
フルギアの間者には、最近の移住者もかなり多い。連中は、同時代人だから、我々の考え方や行動がわかる。
そして、少しずつ先手を打たれてきた。気がついたら、簡単には排除できなくなっていた。
我々は負けたんだ。
と、私は思っている。ゴーマは認めないだろうが……」
「降魔はどうすればいいと?」
「ゴーマは、家族を連れて街を出るべきなんだ。家族のためにね」
俺は、降魔とレフとの間にかなり深い溝があるように感じた。互いに反目しているのではなく、手を握れない距離ができた感じだろうか。
その日の午後、ノイリンは突如セロとフルギアの連合軍に急襲された。
ヒトの作った飛行船は、最大時速一三〇キロほどで飛行する。機体後部に巨大なプロペラを備えた、セロの飛行船も似たような性能だろう。
空気抵抗の大きい飛行船が飛行機ほど高速で飛行できないことは、自然の摂理なのだから。
高度五〇〇メートルを推定時速一二〇キロで、八隻の飛行船艦隊がノイリンに接近してくる様子は、四〇分以上前に発見されていた。
飛行場は、飛行可能な全機を離陸させた。
問題は東地区だった。
東地区の指導者キリーロは、「今日、我々はセロをノイリンに招いた。文明と文明の邂逅だ!」と中央評議会議場前の広場で、多くのノイリン街人に対して宣言した。
キリーロと東地区住民の一部は、高揚していた。彼らは真に、セロとの友好が成り立つと考えている。
防衛態勢をとろうとする北地区と西地区に対して、妨害を始めた。妨害は実力を伴うものではなく、言論的扇動によるものだった。妨害行為としての効果は低かったが、短時間で防衛態勢に移行しなければならない事態にあっては、相応の実効性があった。
また、中央地区と東地区を除く各地区へと向かう道路にバリケードを築いて、西南地区、東南地区、北地区、西地区の住民の移動を妨げた。
中央地区は、東地区の一部住民によって占拠された。
チェスラクは、旧飛行場隣接の高射砲陣地に自分の足を使って急いでいた。七六・二ミリ高射砲四門と一〇五ミリ高射砲が一門据えてある。
黒魔族の飛翔型ドラゴンは、七六・二ミリ高射砲で十分に撃退できる。高射砲ではドラゴンを撃墜できないが、弾幕で寄せ付けないし、追い払える。俯仰旋回に動力を使わない一〇五ミリ高射砲は重く鈍重なので、ドラゴンの機動には追従できない。
しかし、急造の一〇五ミリ高射砲に期待がかかっている。
大口径砲弾ならば、セロの飛行船を撃墜できるかもしれないからだ。
北地区の高射砲陣地は二カ所あった。一カ所はチェスラクが向かっている旧滑走路隣接の陣地、もう一カ所は新飛行場である〝空港〟直近にあった。どちらも、上空からは発見されないように、巧妙に擬装・隠蔽してある。
双発大型機四機は掩体壕に入れて露天駐機しており、他の機には半地下式の格納庫がある。
離陸したのは、Mi‐8汎用ヘリコプター二機と単発の武装練習機四機だ。それ以外は、整備中や修理中で動けなかった。
空港周辺には、一〇五ミリ高射砲一門と七六・二ミリ高射砲六門が分散して配備されている。
東地区が中央地区を占拠したため、各地区間の移動が困難になっていた。だが、東地区が行った占拠は完全ではなく、抜け道はいくつもあった。
チェスラクは、路地から路地に移動しながら北地区を目指している。
北地区には明確な交戦規定があった。先制攻撃の禁止だ。銃を先に抜かない。先に撃たない。
この世界では、普遍の交戦規定だ。善良なヒトはこれを守るし、無頼のヒトも原則守る。
誰であれ、この交戦規定に異議はない。
だから、高射砲は発射されていない。セロは姿を現しただけで、銃弾一発さえノイリンに発射していないのだ。
チェスラクは自分がいなくても、きちんと対処できると信じていたが、それでも微妙な判断が生じた場合は自分が必要になると確信していた。
チェスラクの前を走る一〇歳の男の子は、時々チェスラクの追及を確認するように振り返るが、一切の迷いなく子供しか知らない秘密の経路を進んでいく。
大艦隊はロワール川に沿って北から進んでくる。大艦隊の先頭を進む二五〇メートル級戦列艦二隻が、距離五〇〇メートルで船首を東に向け、機体下部の三連装発射管をノイリンに向ける。
チェスラクが路地を抜けたとき、わずかに視界が広がり、発射管がノイリンに向けられていることを目撃する。
「撃て!」
チェスラクは叫んだが、北地区も西地区も高射砲を撃たなかった。
東地区の中央地区占拠は、占拠側が考えた以上にノイリンの防衛態勢を寸断していた。
ノイリンの防衛は、パートタイムの兵士が担っている。普段は農業や商業で生計を立て、いざとなれば銃を担いで兵士になるのだ。
当然、四六時中、陣地・拠点に張り付いているわけではない。
誰もが、自分の持ち場に急いでいたが、誰もが移動を阻害され、誰もが焦っていた。
三連装発射管六基から一八発、二隻で三六発が北地区と西地区に向けて放たれた。
すさまじい爆発と火災が起きる。
ベルタは、学校で教師役の当番だった。屋内にいて視認が遅れ、飛行船の接近を知ったのは、子供たちが騒ぎ始めたからだった。
銃の作業場にいたデュランダルが教室に飛び込んできた。
「子供たちをシェルターに!」
シェルターは旧飛行場にある旧格納庫だ。
学校は新居館の二室を使っていたが、新居館の周囲にも二発が着弾。
一発は小さな家屋四棟を吹き飛ばした。
この家は、片倉が真の冬が始まる前に森に住む子供たちのために建てたものだ。
長く森に住むと、子供たちは極端に拘束を嫌うようになる。だから、自由に使える一室だけのバンガローのような家を建てたのだ。
幼い女の子が「お兄ちゃんと私の家が燃えちゃう」と叫ぶ。
だが、どうすることもできない。
第一斉射後、一五〇メートル級四隻がノイリン上空に侵入した。
一隻は〝空港〟からほど近い農地に、一隻は旧滑走路に長い時間をかけて着陸した。
他の二隻は西地区と西南地区に降りた。
第二斉射は、東南地区に集中された。
旧滑走路に降りた一五〇メートル級揚陸飛行船が、兵一〇〇と物資を降ろし、離陸する寸前、チェスラクは一〇五ミリ高射砲の掩体に飛び込んだ。案内をしてくれた男の子も一緒だ。
「何をしている!
撃て!」
とは命じたが、砲員二人ではどうにもならない。男の子も手伝い、一〇五ミリ砲弾を装填し、照準を定める。
飛行船の動きは緩慢で、ドラゴンに比べたら、静止しているのも同然だ。
「テッ!」
仰角二〇度で、触発信管付き一〇五ミリ砲弾が砲口から飛び出し、砲身が後座すると、自動的に排莢する。
「次弾装填急げ!」
高射砲の発射を見て、他地区の大人たちが掩体に飛び込んできた。
そして、チェスラクの命令に従って、砲弾を運んだり、空薬莢を始末したりの協力を始める。
ノイリンの街人の多くは、いまここでできることをやる、方針に切り替えた。持ち場に戻る時間的余裕がないのだ。
わずかに遅れて、七六・二ミリ高射砲も発射を始める。
砲弾が次々と命中し、一五〇メートル級揚陸飛行船はいったん浮き上がったが、すぐに降下を初め、旧滑走路の南端に閣座した。
そこにクラウスたちの装甲車が襲いかかる。クラウスは水陸両用車を好み、また二〇ミリ機関砲搭載車を主用し始めていた。
カスカベルの九〇ミリ低反動砲やルーイカットの七六・二ミリ戦車砲では、盗賊に対してオーバースペックなのだ。
車輌の都合が付かなければ大口径や長砲身の装砲車を使うが、通常は二〇ミリ機関砲搭載のウルツや短砲身砲搭載のクーガーを運用している。
この日は、幸運にもカスカベル全二輌とルーイカットがノイリンにあった。
閣座した一五〇メートル級揚陸飛行船は、機体内から火災を発し、その火は浮体に燃え移った。
これが初の撃墜となった。
北地区が管理する外郭の農地に降りた一五〇メートル級揚陸飛行船は、兵一〇〇を降ろし、我々の〝空港〟の制圧に向かっていた。
同時にロワール川岸の我々の港にカンガブル船に擬装したフルギア船が強行接舷し、大軍を上陸させる。
港の警備隊は持ちこたえられず、計画通りに誰彼かまわず民間人を伴って〝空港〟に向かう。
空港には整備士や空港職員、その他の作業をするために、比較的多くの北地区以外からの街人が働いていた。
彼らは本来、自分の居住地区に戻って、防衛に努めなくてはならないが、実質不可能なので、多くがとどまって戦う支度を始める。
七六・二ミリ高射砲が畑に着陸しようとする一五〇メートル級揚陸飛行船に向けて発射。やや遅れて、一〇五ミリ高射砲が直上五〇〇メートル付近を飛行している二五〇メートル級戦列飛行船に向けて、真下から発射。この砲弾は機体を直撃し、浮体と機体をつなぐ支柱をも破壊。傾いた機体の破口からセロが水道管から水滴が漏れるように落ちてくる。
西地区に侵入した一五〇メートル級揚陸飛行船に対して、七五ミリ高射砲が集中砲火を浴びせている。
すでに機体と浮体は燃えていて、離脱を図ろうとするかのように、ロワール川左岸(西方向)に向かっている。
だが、浮揚ガスを大量に失っているらしく、急速に高度を下げていく。
そして、川面に接触。船の最後である沈没に至る。浮体の一部を水面に出して、着底する。
これで、ノイリンはセロの飛行船を二隻沈めた。一隻は北地区旧滑走路南端で閣座炎上。もう一隻はロワール川中程で沈没着底。
セロの揚陸兵によって、多大な人的物的被害を被ってはいたが、この二隻の撃沈によって、ノイリン側の士気は最高潮に達していた。
確かに、ノイリン側は劣勢に立たされているが、揚陸してきたセロ兵は三〇〇に満たない。兵力は圧倒的にノイリンが多い。
由加は珍しく店番をしていた。俺がティッシュモックに向かったので、ローテーションが崩れたからだ。
俺たちの店に、中央地区に出向いていて銃を持たない街人が殺到した。
由加は店の在庫五〇挺のすべてを、街人に配った。セロと戦うためだ。
他の銃器店も店を解放した。弾薬店も。
商売よりもノイリン防衛が優先だ。
由加は銃を配り終えると、中央地区解放のために東地区の街人と対峙した。
子供たちの元に向かえず、彼女は極限の焦燥感に陥ると同時に、普段は隠している凶暴性が目を覚ましつつあった。
由加が店を出ると、イサイアスが走ってくる。
「ユカ、酒屋にみんなが集まっている。
指揮してくれ」
由加は頷き、イサイアスとともに酒屋に向かう。
ノイリン内郭の外。農地と工場の地域。
農場、車輌工場、酒蔵、兵器工場、空港では、他地域の街人が多く働いている。燃料工場は、北地区の街人だけで運営している。
北地区の街人は事前に定められた通り、その場に留まって、防衛態勢に入る。
他地域からの働き手は、自分たちの家族を守るため、家に帰ろうとして、多くが内郭に向かった。
車輌工場には修理中の軽装甲機動車が四輌残されていた。キャビンに装甲を施した1トン半トラックや1/2トントラック(通称パジェロ)とポーランド軍のターパン・ホーカー小型四駆は、すぐに修理されたが、この小型装甲車は後回しにされていた。
だが、四輌とも修復が終わり、各種の検査を待つ段階になっていた。
ウィルは、軽装甲機動車全車のルーフにラインメタルMG3を載せるようと急いでいた。戦いに使えそうな車輌は、この四輌しかないのだ。
農場には、たくさんの車輌があった。ノイリン北地区が保有する小型車輌の半数がここにある。
斉木は、予定通りに防衛に徹するつもりだ。畑に出ていた全員が管理棟に戻り、塹壕と土嚢で守られた陣地の内側にいる。
武器と弾薬、食料の備蓄があり、しばらくは籠城できる。
燃料工場では、イアンが指揮していた。当初の計画通り、酒蔵からの援軍を待つ。
酒蔵には、大人に混じって多くの子供が働いていた。ユリアナは、不安と恐怖に陥っている子供たちをどうにか掌握していたが、車輌不足で全員は乗れず、燃料工場への移動には躊躇いがあった。
それそれの拠点は孤立していたが、通信手段は確保されていた。西地区が設置したWiFiのおかげだ。
セロは発電機には興味がないようで、電力は切れていない。理解できないのかもしれない。
小水力発電機は無人だし、太陽光パネルは新居館の屋根に設置している。ディーゼル発電機は堅牢な建屋内にあるし、ガスタービン発電機はまだ稼働していない。
どちらにしても、北地区管理下の外郭部には電力が供給されている。
電力供給と通信設備が破壊されていたならば、各拠点は連携を欠いていた。
セロはヒトを殺すこと以外に興味はなく、ヒトの本質を理解していない。
ヒトはコミュニケーションが確立できていれば、相互に連携できる。その点で、ノイリンは最強の街だった。
畑に降りたセロは東から、フルギアは南から空港に向かって進撃している。
農場の守備隊は、重量二キロほどの背負い式携帯無線機を装備して、四隊を徒歩で偵察に出した。
この偵察部隊によって、セロとフルギアの動きは、ある程度把握している。
二五〇メートル級戦列飛行船は、降下させた歩兵一〇〇を支援するために空港に接近していた。
セロのロケット砲は射程が短く、目標に対してピンポイントの攻撃を仕掛けるには、五〇〇メートル以内まで接近する必要があった。
空港周辺には、高射砲のほか、二〇ミリの対空機関砲陣地がいくつもある。また、三〇ミリラーデン砲搭載のセイバーとシミターも配備している。
二五〇メートル級戦列飛行船は極端に動きが鈍く、我々の航空機にとっては格好の攻撃目標だった。
ただ、あまりにも巨大だ。元世界最大の航空機であるアントノフAn‐225〝ムーリア〟でさえ、全長八四メートル、全幅八九メートルなのだ。このサイズは、ボーイング747‐8よりも一回り以上大きい。
ムーリアを凌ぐ巨大飛行物体をどのように攻撃するのかは、航空機パイロットにとっては難問だった。
サビーナの方針は「無理をしない」だ。離陸した四機のフェネク練習機は、機関銃弾以外は搭載していない。空対空ロケット弾を搭載する時間的余裕がなかった。
一二・七ミリNATO弾をどれだけ撃ち込んでも、たいしたダメージを与えられないことは承知している。
ならば割り切って、対地攻撃に徹したほうがいい。セロに対しても、フルギアに対しても、空からの機銃掃射は絶大な威力を発揮するはずだ。
サビーナたちは、二五〇メートル級戦列飛行船を無視して、セロの地上部隊に対して機銃掃射を開始する。
フィー・ニュンが指揮する二機のMi‐8汎用ヘリコプターは、各機六発の空対空ロケット弾を懸吊している。一二・七ミリ固定機関銃と七・六二ミリのドアガンもある。
十分すぎるほどの重武装だ。
彼女は、二機で計一二発のロケット弾を手負いで遊弋する二五〇メートル級戦列飛行船に発射しようと考えた。
「大物の左舷だけを攻撃する。
続け!」
フィー・ニュンが命じると、僚機が追及してくる。
飛行船は巨大で、距離感がつかめない。接近しすぎれば、発射後待避できないし、遠射になれば命中しない。
フィー・ニュンは、飛行船の浮体だけしか見えない距離まで接近し、ホバリングして空中で静止。六発を発射。僚機もほぼ同時に発射。
一二発が命中し、左舷に大きな破口を作る。浮揚ガスが漏れ、飛行船の姿勢が安定しない。飛行船は六発のロケット弾を発射したが、ロワール川を越えて対岸に着弾。
追い打ちをかけるように、高射砲が発射を開始。一弾が機体に命中。さらにもう一発が命中。
二五〇メートル級戦列飛行船はふらつきながら、戦場を離脱しようとする。
高射砲は、二五〇メートル級戦列飛行船を確実に捕らえていた。七六・二ミリ高射砲は、一分間に一五から二〇発の発射速度があり、三発までは連続射撃ができる。一〇五ミリ高射砲は一分間に二発程度発射できた。
六門の七六・二ミリ高射砲弾が、一分間の間に七〇発以上、一〇五ミリ砲弾も二発を命中させていた。
二五〇メートル級戦列飛行船のプロペラは回っているが、浮揚ガスの漏出のほうが推力があるらしく、船体は奇妙で不規則な挙動をしながら、やや東に流されていく。
しばらくすると上下動が激しくなり、高射砲の照準が難しくなる。
それでも高射砲は発射を続け、激しい砲撃に耐えかねたのか二五〇メートル級戦列飛行船は東地区管理下の農地に軟着陸した。
ノイリン北地区旧滑走路に降下したセロは、北にある居住区域を目指す。
目的は、一人でも多くのヒトを殺すためだ。セロの論理では、セロの新天地にはびこる害獣であるヒトは駆除しなければならない。ヒトを殺し、ヒトの街を破壊し、ヒトが開墾した農地を奪う。
そして、本来の持ち主であるセロのものにする。
そのために、セロはここに来た。
セロは、手当たり次第にヒトを殺そうとしていたが、北地区居住区にはヒトはほとんどいなかった。
商用は中央地区が中心だし、人口の少ない北地区には市場もない。昼間、大人の大半は職場に行っているし、子供は学校だ。学校と呼んではいるが、〇歳から一三歳までが通っている。
教師役は持ち回りだ。
にわか教師たちは、子供を対ドラキュロ用シェルターに移動させようとした。だが、セロはシェルターがある旧飛行場に降下した。
非常時の計画は、完全に頓挫していた。
学校はレンガ造り二階建ての新居館内にある。教室は一階の二室。乳児用に一室、幼児用に一室、計四室を使っている。
ベルタとデュランダルは、子供を含む全員をすべて二つの教室に集め、セロを迎え撃つ準備を始める。
小銃と弾薬は十分にあるが、機関銃やRPG‐7対戦車擲弾発射器は欠いている。
金吾と珠月、ウルリカの三人は、デュランダルを追って学校に向かおうと、銃器修理の作業場を出たが、若年の数人と出会い、相談の結果、車庫に向かうことにした。
ここには、二〇ミリ機関砲を搭載するアルビスFV4333ストーマー装甲車が四輌ある。BTR‐DとBMD‐1、M24軽戦車もここに保管している。
金吾は「人手がいる。仲間を集めるんだ」といった。全員が頷く。
車庫の方向から信号弾が打ち上げられる。
それを見て、金吾たちは急いだ。
能美、シャーマン・マリたち医療班は、診療所に立て籠もっていた。患者を移動するための人手がないからだ。
診療所は、新居館に隣接していた。新居館から年長の子供数人が診療所に向かった。医療班と患者を教室に移動するためだ。
年長の男の子たちが担架とストレッチャーで、四人の重傷・重病者を運んだ。
セロが迫り来る中で、医療班と患者は教室との合流に成功した。
車庫から上がった発煙弾は、付近にいたノイリンの街人を呼び寄せた。
北地区以外の街人は学校に向かい、北地区の人々は車庫に残った。装甲車で反撃に出るためだ。
片倉は、新居館と旧滑走路の中間にある建設重機の車庫にいた。ここはユニック四トン車やダンプ、大型トラック、ブルドーザー、パワーショベルの保管場所になっている。
片倉がここに来たのは、ユニック車を運ぶためだった。
多くは出庫しているが、双腕重機は残っていた。この巨大な車輌は、燃料を大量に消費する大食漢で気軽に動かせないからだ。
この大型建機が必要な案件もなかった。
建設重機車庫には、三人しかいない。飛行船の侵入に気付いてから、安全とわかるまでここに隠れることにした。
西地区との境界付近から、フルギアが侵入している。
WiFiの音声通話はパケットが飽和状態で接続できないが、メールは生きていた。北地区は南から北に攻め上げられていて、追い詰められている。
東地区の多くの街人は今日この瞬間まで、セロの飛来を知らなかった。だが、地区の指導層がフルギアを仲介にしてセロとの〝話し合い〟を行っていることは知っていた。
また、それは二つの文明が〝邂逅〟するにあたって、必要不可欠なことだと信じていた。東地区には階級制があり、上位階級の街人は、彼らの指導層を支持していた。
だが、セロの飛行船が上空に現れると同時に砲撃を始め、東地区を除く全地区に侵攻した。
それは中央地区にいるとよくわかった。この事実は口伝で東地区街人に伝えられ、彼らは動揺していた。
東地区がセロを招き入れて、ノイリンの街人を襲っている。セロのノイリン侵攻に手を貸したのだ。
東地区の街人には、二つの選択肢しかなかった。このままセロとフルギアの手先となり、ノイリン侵攻の手助けをするか、誤りを認めて侵略阻止に動くか、だ。
仮に阻止に動いたとしても、奇襲を受けたノイリンに勝ち目はないだろうし、阻止に成功したとすれば、他の地区が東地区を無罪とすることはないだろう。
ならば、セロとフルギアに味方するほうが得策だ。
不安もある。すでに、飛行船が二隻も撃墜されている。他地区がセロとフルギアを撃退したら、東地区は無傷とはならない。皆殺しにされても文句はいえない。
それと、セロは平和的にノイリンを〝訪問〟するはずだったのに、先制攻撃をするとはまったくの予想外だった。
それは指導層も同じだ。
結果、東地区は四分五裂となる。
由加は、中央地区にいた北地区街人を集めて部隊を編制した。七〇人近い兵力が集まっている。その後も続々と集まっている。
重火器や装甲車はないが、小銃は十分にある。
これで、セロとフルギアの背後を突く。
その前に東地区街人と戦わなくてはならない。
どんな政権にも批判的な人々、あるいは反対派は存在する。それは正常なことだし、支持派と反対派が存在するから、議論は起きる。
当然、東地区にもキリーロ指導部に対する批判派や反対派はいた。
彼らは、セロの飛行船を目撃して以降、東地区から動かなかった。消極的支持派は、困惑していた。彼らはキリーロ指導部の社会制度・経済政策を支持していたが、セロに対する無定見で不用心な接触については懐疑的だった。
そのため、彼らも積極的には動かなかった。東地区で積極的な軍事行動に出ていたのは、一五〇人ほどと少なかった。
ノイリンは混乱している。
だが、情報の発信者がいて、どこで何が起きているのか、それは徐々にだが集約・整理されつつあった。
何よりも、ノイリン街人は、ノイリンを手放すつもりは欠片もなかった。
二〇人は、ヒトのテリトリーから離れていたい人々だ。
離れていたい理由は殺人などの犯罪に関わることではなく、いわゆる人間関係というものが大半。
ディーノが属していたグループの生き残りや、さらにそれよりも前、三五〇人規模で移住した人々もいる。
このグループは若手の科学者とその家族で構成されていたが、例の鍋地形が運よく砂で満たされていて、物資のすべてを持ち出せた。
生存可能性は高かったが、旧アルプス南麓に迷い込み、最初の冬に寒さで二五〇人を失い、春になって低地に降りたが、ここでドラキュロと遭遇。一〇〇人を失った。現在は一〇人ほど。ほぼ全滅ということだ。
彼らの多くは、この世界で新たな家族を得ていた。生き延びるためには、新たな群を形成する必要があったのだ。
ティッシュモックの〝講和派〟を含めると、総勢二〇〇人がノイリンへの移住を望んでいた。
二〇〇人の引っ越しは簡単ではない。すぐに出発とはならない。それに、彼らの家族には、不安を訴えたり反対しているものもいるらしい。
二〇〇人もいれば、意見の集約に時間がかかる。だが、精霊族に囲まれての生活は、ヒトにとっては快適ではないようだ。ヒトと精霊族では、文化がかなり違う。確かに生活していくには、困難が多すぎる。
彼らは、かなり以前からノイリン北地区への移住を考えていたらしい。実際に何度も視察に訪れていたとか。真の冬の間も訪問していたそうだ。
彼らの家族には精霊族とのハーフやクオーターもおり、異種族を受け入れてくれる寛容な街を探していた。
ノイリン北地区には、精霊族の母娘が住んでおり、娘がヒトの子たちと仲よく遊んでいるところを見て、決心したそうだ。ミューズとララの母娘のことだろう。
だが、その目撃を信じない大人もいて、疑念や猜疑の心が働いてしまっている。簡単に意見集約できる状況じゃない。
俺は、三人と話し合っている。話し合う時間などないのだが、三人が強く望んだ。
移住希望者にリーダーはいないが、レフ・ヨンストンが臨時の代表者となった。
ディーノの元グループの代表はアルトゥル・バルトン。鍋の中でディーノたちのグループと出会い、合流したそうだ。
科学者グループの代表はルーロフ・ストッケル。
アルトゥルは元世界では小さな街の市長、ルーロフは植物学者だ。
ルーロフが話を始める。
「私たちは、ヒトを避けて生きてきました。いろいろと、あってね。
この街で一生を終えることも選択肢ではあります。
ですが、やはりヒトの街で暮らしたい……」
アルトゥルが言葉をつなぐ。
「精霊族は寛容ですが、精霊族の街でヒトが暮らしていくことは、かなり厳しいんだ。
習慣はまったく違うし、言葉も通じないし、考え方や感じ方も違うからね……」
レフが望みをいう。
「ノイリン北地区に移住させてもらえないか?」
俺が答える。
「ノイリン北地区は、住民が少なくて困っているんだ。だから、基本は移住者を歓迎する。
だが、いまその話をしている時間はないんだ。
セロが攻めてくる……」
「そのセロだが、飛行船を使うと聞いた」
「そうだ」
「一回の戦いでは終わらないだろう?」
「たぶんね」
「我々は力になれる」
「武器ならある」
「いや、武器じゃない。
武器はあっても、すぐに使い果たす」
「だから、作っている」
「知っている……。
それを手伝える」
「知識がある?」
「科学者も技術者もいる。
私自身、航空機関連の技術者だ」
「なぜ、いままで生かさなかった?」
「ここの人数では無理なんだ。
力を合わせても、生きていくだけでギリギリだった。
それが精一杯なんだ。
ノイリン北地区には、文明を取り戻せる可能性がある」
「医療従事者は?」
「医師はいないが、歯科医師と獣医師がいる」
「獣医?」
「ヒトも獣だ。ヒトも診てくれる」
レフが少し笑った。
俺がいう。
「我々は、西欧的な文明社会を取り戻そうとは思っていない」
「それは同じだよ。
私自身、西欧人じゃない。スラブ系の東欧人だ」
「キリスト教的世界観とも無縁だぞ」
「それも受け入れる。
ここにいるのは、例外なく不信心者なんだ。
それが原因で〝仲間外れ〟になった」
「どういうことだ?」
「ヨーロッパ系の移住者は、この世界に新たな機械文明世界を建設しようと意気込んでやって来る。
だが、この世界ではそれができない。
できない事実を受け入れないんだ。
特に信仰心のあつい連中は、決して受け入れない。
大人数だと、現実を受け入れて先に進もうという我々と、神の意志やら教義やらを持ち出して立ち止まってしまう人々に分かれるんだ。
そして、少数者ははじき出される。
はじき出された……我々がね。
でも、生き残った。
現状を受け入れたから……。
あなたたちも受け入れている。
同類なんだ。
だから、仲間にしてくれ」
「説得力に欠けるね。
だけど、歯医者は欲しい。
奥歯がちょっとね」
「まだ反対があるんだ。
説得しなければならない」
「説得が終わったらいってくれ。
俺たちは、取りあえずノイリンを守らなくてはならない」
俺は、降魔の家族と自衛隊とポーランド軍グループの関係が気になった。アルトゥル・バルトンとルーロフ・ストッケルが退室したあと、この疑問をレフ・ヨンストンにぶつけた。
「降魔は、あなたたちのリーダーではないのか?」
「それは違うかな。彼はリーダーのタイプじゃない。強いリーダーシップがあれば、現在のような状況にはならないよ。
だけど、彼はティッシュモックを愛している。
一八年間いろいろとあったけど、我々を追い出そうとする勢力なんてなかった。
ある意味、当然だね。我々が作った街なんだから。
でもね、フルギアに抗いすぎたんだ。軍事力では簡単に落とせないと悟ったフルギアは、街の中に手を突っ込んできた。
間者を潜入させ、街の有力者に仕立て、そして、いまや我々の追い出しに成功しかけている。
反ゴーマ派は、いくつものグループがあるんだ。あの街に深く根を下ろしていて、簡単には引っこ抜けない。
フルギアの間者には、最近の移住者もかなり多い。連中は、同時代人だから、我々の考え方や行動がわかる。
そして、少しずつ先手を打たれてきた。気がついたら、簡単には排除できなくなっていた。
我々は負けたんだ。
と、私は思っている。ゴーマは認めないだろうが……」
「降魔はどうすればいいと?」
「ゴーマは、家族を連れて街を出るべきなんだ。家族のためにね」
俺は、降魔とレフとの間にかなり深い溝があるように感じた。互いに反目しているのではなく、手を握れない距離ができた感じだろうか。
その日の午後、ノイリンは突如セロとフルギアの連合軍に急襲された。
ヒトの作った飛行船は、最大時速一三〇キロほどで飛行する。機体後部に巨大なプロペラを備えた、セロの飛行船も似たような性能だろう。
空気抵抗の大きい飛行船が飛行機ほど高速で飛行できないことは、自然の摂理なのだから。
高度五〇〇メートルを推定時速一二〇キロで、八隻の飛行船艦隊がノイリンに接近してくる様子は、四〇分以上前に発見されていた。
飛行場は、飛行可能な全機を離陸させた。
問題は東地区だった。
東地区の指導者キリーロは、「今日、我々はセロをノイリンに招いた。文明と文明の邂逅だ!」と中央評議会議場前の広場で、多くのノイリン街人に対して宣言した。
キリーロと東地区住民の一部は、高揚していた。彼らは真に、セロとの友好が成り立つと考えている。
防衛態勢をとろうとする北地区と西地区に対して、妨害を始めた。妨害は実力を伴うものではなく、言論的扇動によるものだった。妨害行為としての効果は低かったが、短時間で防衛態勢に移行しなければならない事態にあっては、相応の実効性があった。
また、中央地区と東地区を除く各地区へと向かう道路にバリケードを築いて、西南地区、東南地区、北地区、西地区の住民の移動を妨げた。
中央地区は、東地区の一部住民によって占拠された。
チェスラクは、旧飛行場隣接の高射砲陣地に自分の足を使って急いでいた。七六・二ミリ高射砲四門と一〇五ミリ高射砲が一門据えてある。
黒魔族の飛翔型ドラゴンは、七六・二ミリ高射砲で十分に撃退できる。高射砲ではドラゴンを撃墜できないが、弾幕で寄せ付けないし、追い払える。俯仰旋回に動力を使わない一〇五ミリ高射砲は重く鈍重なので、ドラゴンの機動には追従できない。
しかし、急造の一〇五ミリ高射砲に期待がかかっている。
大口径砲弾ならば、セロの飛行船を撃墜できるかもしれないからだ。
北地区の高射砲陣地は二カ所あった。一カ所はチェスラクが向かっている旧滑走路隣接の陣地、もう一カ所は新飛行場である〝空港〟直近にあった。どちらも、上空からは発見されないように、巧妙に擬装・隠蔽してある。
双発大型機四機は掩体壕に入れて露天駐機しており、他の機には半地下式の格納庫がある。
離陸したのは、Mi‐8汎用ヘリコプター二機と単発の武装練習機四機だ。それ以外は、整備中や修理中で動けなかった。
空港周辺には、一〇五ミリ高射砲一門と七六・二ミリ高射砲六門が分散して配備されている。
東地区が中央地区を占拠したため、各地区間の移動が困難になっていた。だが、東地区が行った占拠は完全ではなく、抜け道はいくつもあった。
チェスラクは、路地から路地に移動しながら北地区を目指している。
北地区には明確な交戦規定があった。先制攻撃の禁止だ。銃を先に抜かない。先に撃たない。
この世界では、普遍の交戦規定だ。善良なヒトはこれを守るし、無頼のヒトも原則守る。
誰であれ、この交戦規定に異議はない。
だから、高射砲は発射されていない。セロは姿を現しただけで、銃弾一発さえノイリンに発射していないのだ。
チェスラクは自分がいなくても、きちんと対処できると信じていたが、それでも微妙な判断が生じた場合は自分が必要になると確信していた。
チェスラクの前を走る一〇歳の男の子は、時々チェスラクの追及を確認するように振り返るが、一切の迷いなく子供しか知らない秘密の経路を進んでいく。
大艦隊はロワール川に沿って北から進んでくる。大艦隊の先頭を進む二五〇メートル級戦列艦二隻が、距離五〇〇メートルで船首を東に向け、機体下部の三連装発射管をノイリンに向ける。
チェスラクが路地を抜けたとき、わずかに視界が広がり、発射管がノイリンに向けられていることを目撃する。
「撃て!」
チェスラクは叫んだが、北地区も西地区も高射砲を撃たなかった。
東地区の中央地区占拠は、占拠側が考えた以上にノイリンの防衛態勢を寸断していた。
ノイリンの防衛は、パートタイムの兵士が担っている。普段は農業や商業で生計を立て、いざとなれば銃を担いで兵士になるのだ。
当然、四六時中、陣地・拠点に張り付いているわけではない。
誰もが、自分の持ち場に急いでいたが、誰もが移動を阻害され、誰もが焦っていた。
三連装発射管六基から一八発、二隻で三六発が北地区と西地区に向けて放たれた。
すさまじい爆発と火災が起きる。
ベルタは、学校で教師役の当番だった。屋内にいて視認が遅れ、飛行船の接近を知ったのは、子供たちが騒ぎ始めたからだった。
銃の作業場にいたデュランダルが教室に飛び込んできた。
「子供たちをシェルターに!」
シェルターは旧飛行場にある旧格納庫だ。
学校は新居館の二室を使っていたが、新居館の周囲にも二発が着弾。
一発は小さな家屋四棟を吹き飛ばした。
この家は、片倉が真の冬が始まる前に森に住む子供たちのために建てたものだ。
長く森に住むと、子供たちは極端に拘束を嫌うようになる。だから、自由に使える一室だけのバンガローのような家を建てたのだ。
幼い女の子が「お兄ちゃんと私の家が燃えちゃう」と叫ぶ。
だが、どうすることもできない。
第一斉射後、一五〇メートル級四隻がノイリン上空に侵入した。
一隻は〝空港〟からほど近い農地に、一隻は旧滑走路に長い時間をかけて着陸した。
他の二隻は西地区と西南地区に降りた。
第二斉射は、東南地区に集中された。
旧滑走路に降りた一五〇メートル級揚陸飛行船が、兵一〇〇と物資を降ろし、離陸する寸前、チェスラクは一〇五ミリ高射砲の掩体に飛び込んだ。案内をしてくれた男の子も一緒だ。
「何をしている!
撃て!」
とは命じたが、砲員二人ではどうにもならない。男の子も手伝い、一〇五ミリ砲弾を装填し、照準を定める。
飛行船の動きは緩慢で、ドラゴンに比べたら、静止しているのも同然だ。
「テッ!」
仰角二〇度で、触発信管付き一〇五ミリ砲弾が砲口から飛び出し、砲身が後座すると、自動的に排莢する。
「次弾装填急げ!」
高射砲の発射を見て、他地区の大人たちが掩体に飛び込んできた。
そして、チェスラクの命令に従って、砲弾を運んだり、空薬莢を始末したりの協力を始める。
ノイリンの街人の多くは、いまここでできることをやる、方針に切り替えた。持ち場に戻る時間的余裕がないのだ。
わずかに遅れて、七六・二ミリ高射砲も発射を始める。
砲弾が次々と命中し、一五〇メートル級揚陸飛行船はいったん浮き上がったが、すぐに降下を初め、旧滑走路の南端に閣座した。
そこにクラウスたちの装甲車が襲いかかる。クラウスは水陸両用車を好み、また二〇ミリ機関砲搭載車を主用し始めていた。
カスカベルの九〇ミリ低反動砲やルーイカットの七六・二ミリ戦車砲では、盗賊に対してオーバースペックなのだ。
車輌の都合が付かなければ大口径や長砲身の装砲車を使うが、通常は二〇ミリ機関砲搭載のウルツや短砲身砲搭載のクーガーを運用している。
この日は、幸運にもカスカベル全二輌とルーイカットがノイリンにあった。
閣座した一五〇メートル級揚陸飛行船は、機体内から火災を発し、その火は浮体に燃え移った。
これが初の撃墜となった。
北地区が管理する外郭の農地に降りた一五〇メートル級揚陸飛行船は、兵一〇〇を降ろし、我々の〝空港〟の制圧に向かっていた。
同時にロワール川岸の我々の港にカンガブル船に擬装したフルギア船が強行接舷し、大軍を上陸させる。
港の警備隊は持ちこたえられず、計画通りに誰彼かまわず民間人を伴って〝空港〟に向かう。
空港には整備士や空港職員、その他の作業をするために、比較的多くの北地区以外からの街人が働いていた。
彼らは本来、自分の居住地区に戻って、防衛に努めなくてはならないが、実質不可能なので、多くがとどまって戦う支度を始める。
七六・二ミリ高射砲が畑に着陸しようとする一五〇メートル級揚陸飛行船に向けて発射。やや遅れて、一〇五ミリ高射砲が直上五〇〇メートル付近を飛行している二五〇メートル級戦列飛行船に向けて、真下から発射。この砲弾は機体を直撃し、浮体と機体をつなぐ支柱をも破壊。傾いた機体の破口からセロが水道管から水滴が漏れるように落ちてくる。
西地区に侵入した一五〇メートル級揚陸飛行船に対して、七五ミリ高射砲が集中砲火を浴びせている。
すでに機体と浮体は燃えていて、離脱を図ろうとするかのように、ロワール川左岸(西方向)に向かっている。
だが、浮揚ガスを大量に失っているらしく、急速に高度を下げていく。
そして、川面に接触。船の最後である沈没に至る。浮体の一部を水面に出して、着底する。
これで、ノイリンはセロの飛行船を二隻沈めた。一隻は北地区旧滑走路南端で閣座炎上。もう一隻はロワール川中程で沈没着底。
セロの揚陸兵によって、多大な人的物的被害を被ってはいたが、この二隻の撃沈によって、ノイリン側の士気は最高潮に達していた。
確かに、ノイリン側は劣勢に立たされているが、揚陸してきたセロ兵は三〇〇に満たない。兵力は圧倒的にノイリンが多い。
由加は珍しく店番をしていた。俺がティッシュモックに向かったので、ローテーションが崩れたからだ。
俺たちの店に、中央地区に出向いていて銃を持たない街人が殺到した。
由加は店の在庫五〇挺のすべてを、街人に配った。セロと戦うためだ。
他の銃器店も店を解放した。弾薬店も。
商売よりもノイリン防衛が優先だ。
由加は銃を配り終えると、中央地区解放のために東地区の街人と対峙した。
子供たちの元に向かえず、彼女は極限の焦燥感に陥ると同時に、普段は隠している凶暴性が目を覚ましつつあった。
由加が店を出ると、イサイアスが走ってくる。
「ユカ、酒屋にみんなが集まっている。
指揮してくれ」
由加は頷き、イサイアスとともに酒屋に向かう。
ノイリン内郭の外。農地と工場の地域。
農場、車輌工場、酒蔵、兵器工場、空港では、他地域の街人が多く働いている。燃料工場は、北地区の街人だけで運営している。
北地区の街人は事前に定められた通り、その場に留まって、防衛態勢に入る。
他地域からの働き手は、自分たちの家族を守るため、家に帰ろうとして、多くが内郭に向かった。
車輌工場には修理中の軽装甲機動車が四輌残されていた。キャビンに装甲を施した1トン半トラックや1/2トントラック(通称パジェロ)とポーランド軍のターパン・ホーカー小型四駆は、すぐに修理されたが、この小型装甲車は後回しにされていた。
だが、四輌とも修復が終わり、各種の検査を待つ段階になっていた。
ウィルは、軽装甲機動車全車のルーフにラインメタルMG3を載せるようと急いでいた。戦いに使えそうな車輌は、この四輌しかないのだ。
農場には、たくさんの車輌があった。ノイリン北地区が保有する小型車輌の半数がここにある。
斉木は、予定通りに防衛に徹するつもりだ。畑に出ていた全員が管理棟に戻り、塹壕と土嚢で守られた陣地の内側にいる。
武器と弾薬、食料の備蓄があり、しばらくは籠城できる。
燃料工場では、イアンが指揮していた。当初の計画通り、酒蔵からの援軍を待つ。
酒蔵には、大人に混じって多くの子供が働いていた。ユリアナは、不安と恐怖に陥っている子供たちをどうにか掌握していたが、車輌不足で全員は乗れず、燃料工場への移動には躊躇いがあった。
それそれの拠点は孤立していたが、通信手段は確保されていた。西地区が設置したWiFiのおかげだ。
セロは発電機には興味がないようで、電力は切れていない。理解できないのかもしれない。
小水力発電機は無人だし、太陽光パネルは新居館の屋根に設置している。ディーゼル発電機は堅牢な建屋内にあるし、ガスタービン発電機はまだ稼働していない。
どちらにしても、北地区管理下の外郭部には電力が供給されている。
電力供給と通信設備が破壊されていたならば、各拠点は連携を欠いていた。
セロはヒトを殺すこと以外に興味はなく、ヒトの本質を理解していない。
ヒトはコミュニケーションが確立できていれば、相互に連携できる。その点で、ノイリンは最強の街だった。
畑に降りたセロは東から、フルギアは南から空港に向かって進撃している。
農場の守備隊は、重量二キロほどの背負い式携帯無線機を装備して、四隊を徒歩で偵察に出した。
この偵察部隊によって、セロとフルギアの動きは、ある程度把握している。
二五〇メートル級戦列飛行船は、降下させた歩兵一〇〇を支援するために空港に接近していた。
セロのロケット砲は射程が短く、目標に対してピンポイントの攻撃を仕掛けるには、五〇〇メートル以内まで接近する必要があった。
空港周辺には、高射砲のほか、二〇ミリの対空機関砲陣地がいくつもある。また、三〇ミリラーデン砲搭載のセイバーとシミターも配備している。
二五〇メートル級戦列飛行船は極端に動きが鈍く、我々の航空機にとっては格好の攻撃目標だった。
ただ、あまりにも巨大だ。元世界最大の航空機であるアントノフAn‐225〝ムーリア〟でさえ、全長八四メートル、全幅八九メートルなのだ。このサイズは、ボーイング747‐8よりも一回り以上大きい。
ムーリアを凌ぐ巨大飛行物体をどのように攻撃するのかは、航空機パイロットにとっては難問だった。
サビーナの方針は「無理をしない」だ。離陸した四機のフェネク練習機は、機関銃弾以外は搭載していない。空対空ロケット弾を搭載する時間的余裕がなかった。
一二・七ミリNATO弾をどれだけ撃ち込んでも、たいしたダメージを与えられないことは承知している。
ならば割り切って、対地攻撃に徹したほうがいい。セロに対しても、フルギアに対しても、空からの機銃掃射は絶大な威力を発揮するはずだ。
サビーナたちは、二五〇メートル級戦列飛行船を無視して、セロの地上部隊に対して機銃掃射を開始する。
フィー・ニュンが指揮する二機のMi‐8汎用ヘリコプターは、各機六発の空対空ロケット弾を懸吊している。一二・七ミリ固定機関銃と七・六二ミリのドアガンもある。
十分すぎるほどの重武装だ。
彼女は、二機で計一二発のロケット弾を手負いで遊弋する二五〇メートル級戦列飛行船に発射しようと考えた。
「大物の左舷だけを攻撃する。
続け!」
フィー・ニュンが命じると、僚機が追及してくる。
飛行船は巨大で、距離感がつかめない。接近しすぎれば、発射後待避できないし、遠射になれば命中しない。
フィー・ニュンは、飛行船の浮体だけしか見えない距離まで接近し、ホバリングして空中で静止。六発を発射。僚機もほぼ同時に発射。
一二発が命中し、左舷に大きな破口を作る。浮揚ガスが漏れ、飛行船の姿勢が安定しない。飛行船は六発のロケット弾を発射したが、ロワール川を越えて対岸に着弾。
追い打ちをかけるように、高射砲が発射を開始。一弾が機体に命中。さらにもう一発が命中。
二五〇メートル級戦列飛行船はふらつきながら、戦場を離脱しようとする。
高射砲は、二五〇メートル級戦列飛行船を確実に捕らえていた。七六・二ミリ高射砲は、一分間に一五から二〇発の発射速度があり、三発までは連続射撃ができる。一〇五ミリ高射砲は一分間に二発程度発射できた。
六門の七六・二ミリ高射砲弾が、一分間の間に七〇発以上、一〇五ミリ砲弾も二発を命中させていた。
二五〇メートル級戦列飛行船のプロペラは回っているが、浮揚ガスの漏出のほうが推力があるらしく、船体は奇妙で不規則な挙動をしながら、やや東に流されていく。
しばらくすると上下動が激しくなり、高射砲の照準が難しくなる。
それでも高射砲は発射を続け、激しい砲撃に耐えかねたのか二五〇メートル級戦列飛行船は東地区管理下の農地に軟着陸した。
ノイリン北地区旧滑走路に降下したセロは、北にある居住区域を目指す。
目的は、一人でも多くのヒトを殺すためだ。セロの論理では、セロの新天地にはびこる害獣であるヒトは駆除しなければならない。ヒトを殺し、ヒトの街を破壊し、ヒトが開墾した農地を奪う。
そして、本来の持ち主であるセロのものにする。
そのために、セロはここに来た。
セロは、手当たり次第にヒトを殺そうとしていたが、北地区居住区にはヒトはほとんどいなかった。
商用は中央地区が中心だし、人口の少ない北地区には市場もない。昼間、大人の大半は職場に行っているし、子供は学校だ。学校と呼んではいるが、〇歳から一三歳までが通っている。
教師役は持ち回りだ。
にわか教師たちは、子供を対ドラキュロ用シェルターに移動させようとした。だが、セロはシェルターがある旧飛行場に降下した。
非常時の計画は、完全に頓挫していた。
学校はレンガ造り二階建ての新居館内にある。教室は一階の二室。乳児用に一室、幼児用に一室、計四室を使っている。
ベルタとデュランダルは、子供を含む全員をすべて二つの教室に集め、セロを迎え撃つ準備を始める。
小銃と弾薬は十分にあるが、機関銃やRPG‐7対戦車擲弾発射器は欠いている。
金吾と珠月、ウルリカの三人は、デュランダルを追って学校に向かおうと、銃器修理の作業場を出たが、若年の数人と出会い、相談の結果、車庫に向かうことにした。
ここには、二〇ミリ機関砲を搭載するアルビスFV4333ストーマー装甲車が四輌ある。BTR‐DとBMD‐1、M24軽戦車もここに保管している。
金吾は「人手がいる。仲間を集めるんだ」といった。全員が頷く。
車庫の方向から信号弾が打ち上げられる。
それを見て、金吾たちは急いだ。
能美、シャーマン・マリたち医療班は、診療所に立て籠もっていた。患者を移動するための人手がないからだ。
診療所は、新居館に隣接していた。新居館から年長の子供数人が診療所に向かった。医療班と患者を教室に移動するためだ。
年長の男の子たちが担架とストレッチャーで、四人の重傷・重病者を運んだ。
セロが迫り来る中で、医療班と患者は教室との合流に成功した。
車庫から上がった発煙弾は、付近にいたノイリンの街人を呼び寄せた。
北地区以外の街人は学校に向かい、北地区の人々は車庫に残った。装甲車で反撃に出るためだ。
片倉は、新居館と旧滑走路の中間にある建設重機の車庫にいた。ここはユニック四トン車やダンプ、大型トラック、ブルドーザー、パワーショベルの保管場所になっている。
片倉がここに来たのは、ユニック車を運ぶためだった。
多くは出庫しているが、双腕重機は残っていた。この巨大な車輌は、燃料を大量に消費する大食漢で気軽に動かせないからだ。
この大型建機が必要な案件もなかった。
建設重機車庫には、三人しかいない。飛行船の侵入に気付いてから、安全とわかるまでここに隠れることにした。
西地区との境界付近から、フルギアが侵入している。
WiFiの音声通話はパケットが飽和状態で接続できないが、メールは生きていた。北地区は南から北に攻め上げられていて、追い詰められている。
東地区の多くの街人は今日この瞬間まで、セロの飛来を知らなかった。だが、地区の指導層がフルギアを仲介にしてセロとの〝話し合い〟を行っていることは知っていた。
また、それは二つの文明が〝邂逅〟するにあたって、必要不可欠なことだと信じていた。東地区には階級制があり、上位階級の街人は、彼らの指導層を支持していた。
だが、セロの飛行船が上空に現れると同時に砲撃を始め、東地区を除く全地区に侵攻した。
それは中央地区にいるとよくわかった。この事実は口伝で東地区街人に伝えられ、彼らは動揺していた。
東地区がセロを招き入れて、ノイリンの街人を襲っている。セロのノイリン侵攻に手を貸したのだ。
東地区の街人には、二つの選択肢しかなかった。このままセロとフルギアの手先となり、ノイリン侵攻の手助けをするか、誤りを認めて侵略阻止に動くか、だ。
仮に阻止に動いたとしても、奇襲を受けたノイリンに勝ち目はないだろうし、阻止に成功したとすれば、他の地区が東地区を無罪とすることはないだろう。
ならば、セロとフルギアに味方するほうが得策だ。
不安もある。すでに、飛行船が二隻も撃墜されている。他地区がセロとフルギアを撃退したら、東地区は無傷とはならない。皆殺しにされても文句はいえない。
それと、セロは平和的にノイリンを〝訪問〟するはずだったのに、先制攻撃をするとはまったくの予想外だった。
それは指導層も同じだ。
結果、東地区は四分五裂となる。
由加は、中央地区にいた北地区街人を集めて部隊を編制した。七〇人近い兵力が集まっている。その後も続々と集まっている。
重火器や装甲車はないが、小銃は十分にある。
これで、セロとフルギアの背後を突く。
その前に東地区街人と戦わなくてはならない。
どんな政権にも批判的な人々、あるいは反対派は存在する。それは正常なことだし、支持派と反対派が存在するから、議論は起きる。
当然、東地区にもキリーロ指導部に対する批判派や反対派はいた。
彼らは、セロの飛行船を目撃して以降、東地区から動かなかった。消極的支持派は、困惑していた。彼らはキリーロ指導部の社会制度・経済政策を支持していたが、セロに対する無定見で不用心な接触については懐疑的だった。
そのため、彼らも積極的には動かなかった。東地区で積極的な軍事行動に出ていたのは、一五〇人ほどと少なかった。
ノイリンは混乱している。
だが、情報の発信者がいて、どこで何が起きているのか、それは徐々にだが集約・整理されつつあった。
何よりも、ノイリン街人は、ノイリンを手放すつもりは欠片もなかった。
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これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
異世界で農業を -異世界編-
半道海豚
SF
地球温暖化が進んだ近未来のお話しです。世界は食糧難に陥っていますが、日本はどうにか食糧の確保に成功しています。しかし、その裏で、食糧マフィアが暗躍。誰もが食費の高騰に悩み、危機に陥っています。
そんな世界で自給自足で乗り越えようとした男性がいました。彼は農地を作るため、祖先が残した管理されていない荒れた山に戻ります。そして、異世界への通路を発見するのです。異常気象の元世界ではなく、気候が安定した異世界での農業に活路を見出そうとしますが、異世界は理不尽な封建制社会でした。
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