200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚

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第1章

第一五話 中央平原

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 ディーノと金吾は、短波の送信を続けていた。間違いなく、通信は先方に届いている。しかし、応答はない。それでも、ディーノと金吾は忍耐強く、送信を続けていた。

 俺は、斉木の菜園の収穫に合わせて、一カ月後の移動を全員に個別に打診していた。
 マーニは、「ちーちゃんと一緒に行きたい!」と一発回答だった。単純で直情的だが、同時に素直な判断でもある。チュールは、「マーニと一緒にいます」といった。これもまた、素直な判断だ。

 だが、どこへ行けばいいのか、俺にはわからない。しかし、この地にはいられない。

 金吾は見張り台で、涼んでいた。太陽が沈むと、気温は下がり明らかに寒い。しかし、金吾は熱かった。そして、怒っていた。「なぜ応答しない」と。
 そんな金吾を横目に、金沢は見張りを続けていた。ワン太郎は、金吾のいらつきを察して、金沢の足下で丸くなっていた。
 金吾が丸太を杭状に打ち込んだ木柵の上端に手をかけた。
 瞬間、銃声が一発。金吾が倒れ、大量の血が流れる。金沢が「撃たれた!」と叫んだ。
 キャンプの静寂が破られ、全員が臨戦態勢に移る。

 金吾は上腕を撃たれ、静脈を傷つけられていた。能美と納田による緊急手術が始まり、珠月が涙を流す。
 由加の狼狽は母親のものだった。ちーちゃんが俺の手を強く握り、ケンちゃんは俺が抱いている。マーニは俺に抱きついている。テュールは珠月の隣にいる。

 イサイアスの怒りはすごかった。
「皆殺しにしてやる!」といった。
 だが、ベルタが「待て!」と止めた。
 数分後、俺たちのキャンプの外で、爆発が起こる。
 俺は、ちーちゃんとマーニ、そしてケンちゃんをテュールに預け、木柵に向かう。
 斉木と相馬も飛び出してきた。
 ベルタとイサイアスが歩いてくる。ベルタは、カールグスタフを抱えている。イサイアスが妙に勇ましい歩き方だ。
 俺の前でベルタが立ち止まり、「発射テストをしただけだ」と告げた。
 俺は金沢のいる見張り台に向かって走る。

 金沢は身を木柵に隠して、暗視スコープを使って見張りを続けていた。
 俺が屈んで見張り台に上っていくと、一瞬だが銃口を向けた。
 俺が、「何があった?」と問う。
 金沢は、「わかりません。金吾は銃さえ持っていませんでした。突然、狙撃されたんです。月が出ているので、見えたんでしょう」と答える。
「一発だけか?」と尋ねる。
「一発です。威嚇発砲ではないです。明らかに狙っていたと思います。金吾のほうが背が高いので、狙われたんだと……」
「ベルタは何を……」
「イサイアスとやって来て、無反動砲を撃ちました」
「命中したのか?」
「まぐれ当たりみたいですが……」
「で、連中はどうした」
「負傷者と死体を置いて、逃げたみたいです。周囲に人影は見当たりません。焚き火も消えています。
 相当に驚いたようです。いままで威嚇発砲に反撃しなかったので、銃弾一発で、いきなり大砲を撃つとは思っていなかったのでしょう。
 敵も一発、こっちも一発。
 文句をいわれる筋合いじゃ、ありません。
 ところで、金吾は?」
「大丈夫だ。能美先生と納田さんが手術している」
「手術?」
「静脈が傷ついた」
「今度、威嚇してきたら撃ちますよ」
「あぁ、そうしてくれ。甘い対応をしていると、図に乗るバカどもらしいからな」

 翌日、連中が設置した馬防柵のような防護柵だけが残されていた。
 検問所のような拠点は残っているが、人影はない。

 この日の会議は紛糾した。紛糾の理由は、相手の目的がわからないからだ。考えられるのは、我々が保有する物資だが、それだけが目的ではないらしい。
 この地方の出身ではないルサリィはもちろん、この地で生まれたイサイアスやネミッサにもわからない。
 ただ、ネミッサが「子供たちが欲しいのかも……」との発言が俺たちの心を揺さぶった。ネミッサは自身の体験や友人たちの話から、神とは白魔族のことで、白魔族との交易品は農産物だけではなく、人間の子供も含まれる、と推測していた。
 だが、ネミッサの推測は、一種の都市伝説的要素が強く、真実とは思えない。そのことは、ネミッサも理解していて、噂として紹介したのだが……。
 しかし、我々は、その都市伝説が真実である可能性を否定するほどの情報を持ってはいない。
 斉木が、「子供たちの行動に細心の注意を……」と述べて、会議を締めくくった。

 由加とベルタは、交代でにわか兵士たちを特訓している。教練銃は、四挺のイシャポール2A1ボルトアクション小銃だ。
 この訓練を免除されたのは、一二歳以下の子供たちと俺、金吾、珠月の三人だけ。
 優秀な生徒は、ルサリィ、イサイアス、ネミッサの三人。まぁまぁ優秀は、相馬と金沢の二人。
 一〇代グループでは、トゥーレ、アマリネ、アビーが頑張っている。シルヴァは体力がなく、能美が健康状態をかなり心配している。彼女は一二歳以下グループに含めた。

 包囲していた連中が去った一〇日後、名門マザーリ家の末裔にして密造酒醸造を生業とするアンティがウマでやって来た。
 アンティはウマから降りると、「ここにかなりの数が攻めてくる。すぐに逃げろ!」といった。
 イサイアスが、「逃げねぇよ。農場の収穫がまだだしな」と応じた。
 アンティは我々ではなく、イサイアスとネミッサを心配してやって来たのだ。
 アンティは、「農場? おまえバカか? 畑仕事をするガラじゃないだろ!」とイサイアスを諫める。
 イサイアスが、「俺、読み書きを習ってんだ」と答えた。
 アンティが「おまえ、正気か?」と問うと、イサイアスが「わかんねぇ。でも、ここにいればネミッサは安全だ。ネミッサはゆっくり眠れる。俺はネミッサのために生きている」と答えた。
 アンティは、イサイアスが手にするツァスタバM70に目をやる。
「それ、銃か?」
「あぁ、これ一挺で一〇〇頭の噛みつきを殺した男がいる」
「……」
「信じられないだろ。俺もこの目で見なけりゃ、信じないさ。両手と両足の指の数を数える間に、襲いかかる一〇〇頭の噛みつきを殺したんだ」
「それ、もらったのか?」
「いや、俺が使っていい銃だ。俺の専用だ。ネミッサは別なのを持っている」
「そんなものは返して、ここを出よう」
「嫌だね。俺はネミッサを守る」
「森から出なければ、ネミッサは守れる」
「クマみたいに暮らせってか?
 ネミッサはクマじゃない」
「わかった。俺もここにしばらく残る。弟分のおまえを見捨てられない」
「俺のほうが年上だぞ」
「でも、俺のほうが頭はいい。読み書きもできるしな」
 俺は二人のやりとりを相馬と聞いていた。早口で所々意味はわからないのだが、アンティという男が善人か悪人かは別にして、イサイアスを心配していることだけは伝わっていた。
 俺と相馬は独断で、アンティの二日間の滞留を許可した。

 利き腕を負傷した金吾に代わり、ディーノがパソコン経由で通信を再開した。
 ディーノは二日間通信が途絶えた理由を、「キンゴが地元民に撃たれて負傷した」と伝えた。
 いままで、まったく応答がなかったのだが、初めて「医者はいるのか」と返信があった。
 ディーノはキャンプ中に「応答があったぞ!」とふれ回った。
 金吾の負傷は、我々の活路につながった。

 俺たちが回収してきた銃のなかには、使えそうにない骨董品も多かった。特に猟銃は、弾種がないものがほとんどだ。
 イシャポール2A1と一緒に回収した軽機関銃は、なんと第二次世界大戦期の骨董品だ。
 だから、由加とベルタは、鉄屑程度にしか考えていなかった。
 だが、金吾が狙撃されたことにより、事情が変わった。現時点において、最大の脅威はヒトだ。ドラキュロではない。
 骨董品の軽機関銃は四挺ある。金沢によれば、イギリスが第二次世界大戦において主用したブレンガンだという。
 原型は一九二六年にチェコスロバキアで開発されたブルーノZB26で、非常に優秀な軽機関銃だそうだ。三〇発弾倉を機関部上方から差し込む方式で、回収したブレンガンは戦後型の七・六二ミリNATO弾仕様のL4。交換用の銃身もある。
 すでに数種類の機関銃を保有していたが、分離型ベルトリンク式は弾数が少なく、使用を避けていた。MG3は再利用可能な非分離型ベルトリンクだが、ベルト自体が少ないので、使用は限定される。
 結果として、銃身の交換ができないRPK軽機関銃を多用していたのだが、アサルトライフルからの転用なので、長時間射撃すると銃身の加熱で使用できなくなる可能性がある。
 また、交戦距離が長い平原では、射程距離が不足する。
 そこで、二人は慌ててブレンガンL4の修理に取りかかった。
 俺たちは、第二次世界大戦という歴史上の戦争時に開発された、骨董品的な各種武器で戦わなくてはならないのだ。
 争いのない世界を求めて、二〇〇万年後にやって来たが、我々は戦わなくては生存ができない状況に追い込まれようとしていた。

 由加とベルタの作業と片倉と金沢の取り組みが結びついた。車輌への機関銃装備が始まった。
 そして、一二歳以上、または身長一五〇センチ以上の全員が車輌の運転ができるように、訓練が始まった。
 どういうわけか、射撃・戦闘訓練と運転の練習にアンティも加わっている。
 彼は二日を過ぎても帰ろうとしなかった。

 キャンプ内の緊張が日に日に増していき、大人たちが子供たちへの目配せが十分でなくなってきたある日、ちーちゃんが発熱した。
「喉が痛いの」
 扁桃腺がまた腫れたのだ。ちーちゃんの持病でもある。俺と由加も、そして本人も気を付けてはいるのだが、数カ月に一度は高熱を出す。今回は久しぶりだ。
 能美が診察をしてくれ、持参の薬を見せると、服用を了承してくれた。
 俺と由加、そして本人も、いつものことなので心配していない。
 だが、マーニは違った。彼女は、ちーちゃんの死を感じていた。そして、どうしても助けたかった。
 そして、マーニはどんな病気でも必ず治せる方法を知っていた。
 北の村チクタンの遙か北、聖なる湖の北岸にある〝精霊の木〟に祈りを捧げる……。
 この伝承をマーニは信じていた。子供の純真さで……。

 マーニは準備を調えていた。徒歩で片道一日、往復で二日。夜間は凍える寒さになるから、由加からもらった厚手のコートを着た。そして、お菓子が入ったポーチ。クッキーとフルーツバーが入っている。水筒代わりの小さなペットボトルとバスタオルを入れたデイパック。デイパックはかわいいドット柄で、珠月からもらった。
 準備は完璧だ。
 そして、出発の朝。マーニはキャンプを出ようと走った。
 キャンプの最終線である傾斜路を駆け下りようとしているマーニを、見張り台にいたネミッサが見つけた。近くで朝日を見ていたトゥーレを呼び、マーニを追うように指示する。
 トゥーレは、マーニを追いながら毎朝ボーッと冷気にあたる相馬に報告した。慌てて、相馬も追った。
 マーニは傾斜路を下りきったところで、トゥーレに追いつかれた。
 マーニとトゥーレを見つけた騎馬が二騎、全速で走ってくる。丸腰の相馬も追いつき、二人をキャンプに連れ戻そうとする。
 ネミッサが上空に向けて威嚇発砲するが、二騎は威嚇は承知と速度を緩めない。
 一騎が長刀を抜く。相馬がマーニとトゥーレを抱きかかえ、背を騎馬に向ける。
 ルサリィが傾斜路の最上部からSKSカービンで一発発射した。
 威嚇ではなかった。長刀を抜いた一騎が、額を撃ち抜かれて後方に吹き飛ぶ。
 もう一騎は、突進を断念した。
 俺は丸腰でルサリィの真後ろにいた。隣に斉木がいる。斉木はバールを握っていた。
 生き残った騎兵が、凄まじい怒気と悪意で俺たちをにらみ付けている。俺たちから一〇〇メートルも離れているのに、その気が大気を振るわせて伝わってくる。

 相馬がマーニとトゥーレを連れ帰った。マーニが泣いている。
 ルサリィがマーニに、なぜキャンプを出ようとしたのか、優しく尋ねた。
「あのね、精霊の木にちーちゃんが治りますように、ってお願いするの」
 テュールが走ってきて、妹を咎めようとする。それをトゥーレが強く制した。
 相馬が、「よし、精霊の木にお祈りに行こう!」といった。
 マーニがニコリと頷く。
 相馬は、「例の装甲車、ハームリンだっけ、それの試運転ということで、ちょっと行ってきます」と俺に告げた。
 俺は条件反射的に頷いた。
 ルサリィが、「私も一緒に行く」といった。
 金沢がハームリン装甲車を用意し、相馬が運転席に、ルサリィとマーニは何もない兵員室に乗り込んだ。
 そして、三人は西に向かっていった。
 わずか、一〇分ほどの出来事だった。
 由加と片倉は、マーニが朝食を食べていないことをひどく怒っていた。マーニに対してではなく、相馬に。

 精霊の木は、湖沼というよりは小さな池の北岸に超然とたたずんでいた。池の周囲は小高い丘陵が連なり、下草は芝生のように短く、丘の頂上に一本だけ巨樹がある。樹種はカバの仲間か。
 精霊の木に向かって、人一人分の道幅しかない小道が池の畔から続いている。
 マーニは、この場所をよく知っていた。父の回復を祈るために、兄と何度もやって来た。薬はなく、食べ物も少ない兄と妹は、父の回復を精霊に祈るしか術がなかったのだ。
 相馬は、マーニの指示で路外を走り、精霊の木の直近まで迫った。

 精霊の木には、先客がいた。
 身長とほぼ同じ丈の質素なフードを被った女性だ。
 蒸気トラクターが牽引する古いが立派なワゴン、蒸気車を運転する身なりのいいドライバー、女性の護衛と思われる壮年の兵士。裕福ではないかもしれないが、特別な人物であろうことは察せられた。
 護衛は我々を警戒し、ドライバーは護衛に銃を渡した。ドライバー自身も銃を手にする。
 マーニが走って精霊の木に近寄ろうとすると、護衛が制した。
 だが、女性が「よいのです」と護衛にいった。
 そして、「一緒にお祈りしましょう。声を出してはなりませんよ」と優しくマーニに語りかけた。
 マーニは両膝を地に着けて、膝立ちし、両手を組んで口にあて、祈った。
 祈りは五分を超えた。
 マーニは立ち上がり、走って戻る。ルサリィがハームリンの車内に導こうとする。
 ワゴンが動き出し、護衛がウマに乗り、ワゴンの後を追う。
 マーニたちは、この素晴らしい風景を数分間眺めていた。午前の優しい陽射しは、空の青、雲の白、大地の緑の三色だけで描かれた自然の芸術だった。

 銃声が一発。

 ルサリィがマーニをハームリンに押し込み、相馬とルサリィが顔を見合わす。
 銃声は遠い。先ほどの女性が狙撃された、と二人は察した。
 相馬が運転席に移り、ルサリィも兵員室に飛び乗る。
 そして、ワゴンが去った方向に急ぐ。

 女性と護衛は、ドライバーをワゴンの下に押し込もうとしていた。
 ハームリンは発車して三分後にはワゴンを遠方に目視していた。周囲に遮蔽物はなく、また視界を遮る何物もない。
 襲撃者は一人ではない。ざっと二〇人はいる。ワゴンは丘陵と丘陵の境目、ちょうど浅い谷間のような地形の直前で泊まっている。道は細く、馬車一台がやっと通れる程度。丘陵の斜度は最大でも五度程度の緩斜面だ。
 連続した狙撃と、斜面を下り降りる一五名ほどの小銃兵。服装は雑多で、盗賊か民兵らしい。
 ワゴンの護衛が乗っていたウマは見当たらない。銃声に怯えて、逃げたようだ。
 襲撃者である盗賊か民兵が善で、ワゴンの三人が悪である可能性は否定できない。しかし、歴史小説大好き、歴史ロマンに溺れている相馬は、ワゴンの三人を善とした。そのほうが、物語が面白くなる。
 丘陵を駆け下る襲撃者の足が止まった。急接近してくるハームリンを視認したのだ。
 相馬は南に向かう道を左にそれて路外を走り、ワゴンを追い越して右に旋回し、襲撃者に車体側面を向けて、ワゴンの右隣に止めた。
 ルサリィはマーニに「一番後ろでうずくまっていなさい!」と伝え、マーニが頷いたところで、車体右側のドアから外に出る。
 SKSカービンを連射して、突進してくる襲撃者の足を止める。
 その間に相馬も車外に出て、AK‐47を構える。安全装置の解除を忘れて引き金を引こうとして慌てる。
 襲撃者は直近まで迫っていて、ルサリィがSKSカービン備え付けの銃剣のロックを解除して一八〇度回転させて、着剣状態にする。ルサリィは白兵戦を覚悟した。
 護衛はレバーアクションのカービンを撃ち、女性は装飾が施されたリボルバー拳銃を手にしている。すでに数発を発射しているが、倒した襲撃者は三人ほどだ。
 相馬が安全装置を解除して、突進してくる襲撃者たちに斉射した。間合いは幸運にも寄せ手を引きつけるタイミングに合致していた。
 ルサリィの正確無比な射撃と、護衛の華麗なガンさばきで、襲撃者は半分に減っていた。
 そのとき、襲撃者の一人が、背後に回り込み女性にサーベルを振り下ろそうとする。
 言いつけに反して、ハームリンの助手席に座っていたマーニが悲鳴のような警告を発する。
 相馬が抜刀し、襲撃者の胴を払う。銃と異なり、相馬の剣技は卓越していた。
 ルサリィが連射すると、襲撃者は引いていった。
 しかし、左右丘陵頂上付近からの狙撃は収まらず、ハームリンの車体には敵弾が当たり続けている。
 相馬は女性を促して車内に入れ、ルサリィの援護射撃の間に、護衛と一緒に負傷しているドライバーを車内に運び込んだ。
 ルサリィが車内に入ると同時に、相馬はハームリンを発車させた。

 襲撃者は蒸気車数台で追撃を始める。

 ハームリンは路外を走り、追撃を振り切ろうとする。
 負傷したドライバーの出血が激しい。女性が動揺して、パニックになりかけている。ドライバーに「おじさま!」と何度も呼びかけている。
 ルサリィは無線で、襲撃を受け負傷者がいることを、キャンプに知らせた。
 すぐに動ける車輌は、軽トラしかなかった。
 俺が軽トラに乗り込むと、納田が救急装備一式を抱えて助手席に飛び込む。
 邂逅は南北を結ぶ街道を、俺たちは南に、相馬たちは北に走ることにした。
 納田は救急装備の他にAK-47も忘れなかった。俺はM14を持ってきた。

 相馬たちは追っ手を振り切りかけていたが、襲撃者たちは諦めていなかった。
 俺たちは南北に延びる街道に突き当たり、左折してから二キロほど進んで、ハームリンを目視した。
 軽トラを路外に出して、ハームリンを待ち構える。
 ハームリンの後方に蒸気車が見える。
 俺と納田は車外に出て、銃を構えた。
 ハームリンが軽トラの横に止まる。
 相馬、ルサリィ、そして男が車外に飛び出し、銃を南に向ける。
 納田がハームリンに入る。
 マーニが恐怖で泣いている。
 女性が「血が止まらない」と狼狽している。
 俺が納田に「どうだ!」と問う。
「出血が激しい。止血をしないと持たない。応急処置をして、キャンプに連れて帰らないと。弾が抜けてないから手術が必要!」と返した。
 俺は軽トラの無線で、キャンプに状況を伝える。
 ルサリィが撃ち始め、護衛も発砲した。
 俺と相馬も発射する。

 襲撃者たちは、援軍が現れたことから、後退して、いったん視界から消えた。
 納田の応急処置が続いている。
 男が女性に首を左右に振った。
 負傷者は助からない、という意味だと思った。
 ルサリィが俺に、「あの傷では助からない」と耳打ちする。

 マーニを軽トラに乗せて、俺は一足先にキャンプに戻る。
 ハームリンは負傷者を気遣いながら、キャンプに戻ってきた。

 能美は手術の準備を調えていた。納田の的確な情報によって、能美は完璧に状況を把握している。

 能美と納田による手術が始まった。
 俺たちは、ただ待つしかなかった。

 キャンプに着いたとき、女性は負傷したドライバーの命を諦めていた。
 そして、自分を責めていた。精霊の木に父親の快癒を祈りたいと願ったのは、彼女だった。ドライバーと護衛は危険すぎると諫めたが、彼女は承知いなかった。
 その結果が、彼女の生死ではなく、ドライバーの生死となった。

 マーニは怯えているが、アマリネとシルヴァが一緒にいる。

 斉木の農場では収穫が始まっているが、由加、ベルタ、イサイアス、ネミッサが完全武装で警戒にあたっている。

 俺と相馬、そしてルサリィは、世間話を装って女性と護衛に対して尋問を始めていた。
 だが、俺たちの尋問計画は、アンティの一言で消滅する。
 アンティは女性に、「エイバック家の姫様が、どうして命を狙われたんだ?」といった。
 女性と護衛が身構える。
「あんた、エイバック家の長子、ウルリカだろ?」
「……」
 女性は答えない。
「助けてもらって、名前さえ教えないとは、エイバック家の躾もなってないな。
 それとも、名門エイバック家は特別か?
 そして、あんたはあの剣聖デュランダルだろう?
 あんたもエイバックの血筋だ」
 デュランダルと名指しされた護衛がアンティを見た。
「君は誰だ」
「俺か。俺はあんたたちと同じ没落名家のマザーリ家の末裔だ。
 子供の頃、剣聖デュランダルに憧れてね。親父と一緒に、あんたと会っている」
「もしや、マザーリ家末子のアンティ王子では?」
「いまじゃ、ただの密造酒屋だよ」
「生きているという噂は聞いていたが……」
「殺されかけたが、殺されはしなかった」
 俺はアンティに、「この方たちは?」と尋ねた。
「中央平原の四名家の一家、エイバック家の人たちだ。
 名家といっても、俺ほどじゃないが、十分に落ちぶれているけどね」
 女性がいった。
「皆様には、お助けいただきありがとうございました。
 私は、エイバック家当主コンスタン一世の娘でウルリカと申します」
「俺はハンダ。我々は数カ月前にこの土地にやって来た。一時、ここに住まわせてもらっている」
「存じております。武勇に秀でた方々とうかがっております」
 アンティが苦笑した。
「武勇に秀でた?
 本当は無法者と聞いたんだろう」
「……」
 ウルリカは沈黙した。
 俺は核心を尋ねた。
「貴方たちは、誰に狙われたのですか?」
 デュランダルが答えた。
「確証はないが、バグラーン家の縁につながる誰かか?……」
 アンティが受けた。
「やはりな。バグラーン家が絡んでいるとすれば、白魔族が関係しているな」
 この時点で、俺には皆目理解できていなかった。相馬が俺を見た。相馬は話の流れをトレースしようとしている。言葉が不自由な俺に「余計なことは聞くな」と目配せする。
 ウルリカが答える。
「マザーリ家、エイバック家、テルメス家は、ともに白魔族との取引に反対の立場です」
「まぁ、理由は微妙に違うけどね」
「ですが、子供を差し出すなど、人の道に背くことです」
「だが、バグラーン家の主張にも一理ある。
 すべての女性が子供を五人産み、うち二人を白魔族に差し出せば、文明が得られるんだから……」
 アンティの発言にウルリカが語気を強めた。
「文明は自ら生み出すものです!」
「あぁ、だからマザーリ家は反対していたんだ。
 でもね、エイバックの姫さん。
 人間はきれい事じゃ、生きていけないんだよ。
 俺は密造酒を造っているが、そのための銅管は白魔族が作ったものなんだ。
 一〇〇〇年かけて、白魔族なしじゃ生きられないようになったんだ」
「それが、マザーリ家の総意ですか?」
「そうだ。マザーリは俺一人だけなんだから。俺がマザーリを代表している」
「それでいいのですか?」
「よかないね。
 だから、ここにいる」
「どういうことです?」
「ここの人たちは、自分たちが何をしているのかわかっちゃいないが、白魔族に楯突いているんだ。
 俺の親父も、俺の爺さんも、できやしなかったことをやっている」
 ウルリカが俺たちを見る。
 俺たちはアンティがいったことの意味が理解できていなかった。
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