16 / 244
第1章
第一四話 第二次北方調査-2
しおりを挟む
第一四章 第二次北方調査2
由加、片倉、イサイアスの三人は、戻ってこない。
太陽が完全に地平線から離れて、すでに七時間を経過している。何かがあったと考えるべきだ。
俺は、どうするかを思案した。俺が乗っている動かない四輪駆動トラックは、荷室に大量の自動車修理用工具と部品を積んでいる。そして荷室の天井には太陽光パネル。その上には、砂が五ミリほどの厚さで積もっている。
運がよければ、このクルマの機材・資材で、修理できるかもしれない。
まぁ、五年間野ざらしのクルマが簡単に動くわけはない。だが、何を積んでいるのかを詳しく調べる必要はある。幸運ならば、武器になるものが手に入るかもしれない。
俺は車体側面の梯子を使って、地上に降りた。そして、車体後部に向かい、ステンレス製無塗装のシャッターを開ける。
荷室の奥行きは五メートル以上。十分な整備ができる工具と部品が整然と積まれている。
車体後部にタラップがあるが、電動か油圧で動くようだ。作動しないので、荷室によじ登る。
車内は数年ぶりに光が入り、薄く埃を被っているが、機能的で整然としたある種の美しさを見せている。
長さ一メートルほどのバールがある。これは使える。床に扉がある。開けると、ピカティニーレールが装着されたAK‐47系列の自動小銃三挺と弾倉二四個が収納されていた。
ドットサイトの付いた一挺を取り出し、安全装置を下げてボルトを引く。正常に動く。
触るとべたつくので、油を引いていたようだ。
その油を近くにあったウエスで拭く。弾倉には弾が入っていない。荷室を丹念に調べるが、やはり弾はない。
仕方なく、銃を元の場所に戻す。
俺はバールを手に車外に出て、シャッターを下げた。
川岸に向かう。左手にバール、右手に拳銃。
下草の丈が短く、視界はいい。空気が澄んでいて、視程もある。
一頭の大ネコが俺を目で追う。だが襲ってくる素振りはない。ドラキュロは大ネコを避けて移動したように思う。そうならば、付近にドラキュロはいない。危険動物は、大ネコだけだ。この動物のほうが、ドラキュロよりも知性を感じる。
だからなのか、ドラキュロほど恐ろしいとは思わない。
川沿いの道には三五分歩いて出た。平坦だが、足下には危険が潜んでいる道のりだった。
道を北に向かう。バールを刀のように腰に差し、自動拳銃を両手で構え道の中央を進む。
川の東岸は、丈が二メートル近いアシに似た植物で覆われている。道を挟んだ東側草原の草の丈も増している。五〇センチ以上ある。
視界が悪く、恐怖が募る。だが、草は北に向かって丈が低くなり、例の大ネコが闊歩している。道の遙か北の彼方に大ネコが数頭寝そべっている。
ドラキュロはいないのか?
俺は、前後左右を最大限の警戒で北に向かって進む。かつての東京ならば、十分なほど挙動不審な行動だ。
警戒行動中、西の川側を見ると、ライトブラウンの金属扉が飛び込んできた。突然のことで、いささか動揺する。
道から一メートルも離れていないが、丈の高い草に覆い隠されている。
車体後部の形状は、天井側が後方に突き出ている。金属扉は、装甲車の後部乗降ドアだ。いまでも鮮やかな赤色の塗装が残るハンドルを下方向に回す。
ダンパーが効いた状態で、後部乗降ドアが下部を起点に回転して降りてくる。
内部にはぎっしりとプラスチック製ケースが積まれている。運転席まで見えない。
ケースの一つに目をやる。〝5.56mm NATO〟の手書き文字。弾薬だ。
俺はドアを閉めた。いまは、回収できない。
そして、さらに北に向かう。
弾薬を積んだクルマから二〇分北に歩いて、食料を積んでいると思われるパネルトラックを見つけた。
俺が一晩明かした工作車も、弾薬を積んだ装甲車も、そしてこのパネルトラックも、ベースはドイツ製ウニモグ多目的作業車だ。ほぼ間違いない。
そして、パネルトラックは全長八メートル近い大型の六輪駆動車だ。
車体前方を川に向けて、路肩から一メートルほど落ち込んでいる。エンジンが始動すれば、このクルマであれば脱出できるだろう。しかし、ドラキュロに追われて狼狽しているドライバーに、それができただろうか?
大ネコが俺に少し近付いてきた。距離は一〇〇メートルほどあり、威嚇の素振りを見せないので、こちらを獲物と見定めている可能性もある。
だが、大ネコがいれば、ドラキュロの危険は相対的に減じる。同じ危険でも、大ネコのほうがいい。大ネコは怖いが、ドラキュロは気味が悪い。大ネコに生理的嫌悪感はないが、ドラキュロにはある。
白色塗装の六輪ウニモグは、車体後部にリフトゲートを備えている。これが動かないと、荷台の積荷を確認できない。
アビーはどうやって、積荷を見たのか?
荷台側面を観察すると、乗降ドアがある。
俺は草むらに入って、その乗降ドアまで行く。ドアノブはドアの下部に付いている。車高が高いからだ。
そのドアを開けると、ミックスフルーツの缶詰の絵が描かれたダンボール箱が天井まで積まれている。
俺がドアから手を離すと、車体の傾斜のために重力に引かれて閉まった。少し、大きな音がする。
大ネコが驚いて立ち上がり、こちらを見ている。
頼むから、逃げないで!
例の大ネコは逃げなかったが、別の個体がやってきた。徐々に個体数が増えてくる。
さすがに怖い。
運転席に潜り込めるか調べようと、川岸に向かって草をかき分けていると、無線が入った。
由加だ!
「いま、どこにいるの!」
「川沿いの道を北に向かって、約五キロだ」
「なぜ、そんなところにいるの!」
「いや、退屈だったから……」
「バカじゃないの!」
二〇分ほどで、ダンプと八トン車がやって来た。
ウニモグの運転席側のドアは開いていた。運転席には、大量の血痕跡と思われるシミがあった。臭いはすでにない。
だた、スピードメーターを覆い隠すほどの大量の血液が飛び散った跡が明瞭に残っている。
五年経っていても、その凄惨さは変わらない。
車体前部は何度か水に浸かったようだ。エンジンルームのなかに泥が溜まってしまっている。
とても修理できる状態ではない。
缶詰を一缶開けて食べてみる。腐敗はしていない。しばらくぶりの甘味はうまい。
四人で一缶ずつ食べた。
イサイアスが何かをいっているが、意味がよくわからない。しかし、食べ続けているので、不味いわけではなさそうだ。
側面のドアを開け、閉じないようにロープで車体に縛り付けて、缶詰の移送を開始する。
八トン車の積荷はすべてダンプに積み替え、八トン車に缶詰を載せていく。
作業は日没まで続いた。
この日は、道に停車して夜明けを待った。
由加たちは、八トン車にばら積みしていた物資を整頓してダンプに積み替えようとしたが、予想外に時間がかかり、また途中でドラキュロが現れたので車外に出ることができず、時間を費やしてしまったそうだ。
まぁ、そんなところだろうとは思っていた。お互い無事でよかった。
ダンプに俺とイサイアス、八トン車に由加と片倉が乗り、夜が明けるのを待った。
交代で少し眠ったが、眠った記憶さえ定かでないほど、浅い眠りであった。
夜明け前、大ネコが去り、ドラキュロが現れた。
だが、巨大なイヌ科動物、青味を帯びた毛並みのオオカミが現れて、ドラキュロを追い散らした。
俺たちが車輌のUターンを試み始めると、ブルーウルフがにじり寄ってくる。こいつらは大ネコと違って、激しい威嚇行動をしてきた。
次の目標は、弾薬を積んだ装甲車だ。
装甲車は八トン車で牽引して、強引に引っ張り出した。車体後部に牽引フックが見当たらず、リアアクスルにロープを巻き付けて引っ張った。
車体の回収は望んでいなかったが、この場で積み替えはしたくなかった。
大ネコとブルーウルフがいない。ならば、ドラキュロがいる。
この装甲車には車体前部にも牽引フックがない。さらに、排障器が取り付けられていて、牽引ロープの取り付けに手間がかかった。フロントアクスルにロープを結びつけて、それに牽引ロープをつないだ。
不安定な牽引だが仕方ない。
そして、牽引の抵抗を減じるために、タイヤに空気を入れた。パンクはしていなかった。幸運だ。
次に工作車。
イサイアスを八トン車に残し、俺、由加、片倉の三人で、ダンプに乗って工作車に向かう。
こちらは、牽引ロッドをつないで、タイヤに空気を入れれば牽引できる。
空気は電動コンプレッサーを持ってきている。
前輪にエアを入れたところで、ドラキュロが現れたので、俺が工作車に乗り、牽引されて八トン車に向かう。
工作車にイサイアスが乗り、俺が装甲車に乗って、キャンプを目指す。
日没前には到着できるはずだ。
北の峠の登り口まで、あと二キロの地点で、行く手にドラキュロの群が現れた。
通常、ドラキュロは一〇から二〇頭ほどのオスだけの群を構成する。
だが、前方の群は一〇〇頭近くいる。複数の群が集まったクラスターだ。
強行突破したいが、こちらは無可動車を牽引している。速度は出せないし、これから登に入るから機動も緩慢になる。ドラキュロの脚力なら、長時間にわたって追われることになる。かなり危険だ。
俺は、RPK軽機関銃の七五発ドラム弾倉を取り外し、点検してから装着し直した。
無線で由加を呼び出し、「ドラキュロを倒して前に進む」とだけ伝えた。由加から応答があったが、無視した。後方にいた片倉が八トン車から顔を出して俺を見た。
イサイアスがレバーアクションのライフルを抱えて、工作車から降りてきた。
俺に走り寄ってくるが、その挙動は不自然なほど激しい。
ドラキュロは恐ろしい動物だ。ヒトの何倍もの身体能力があり、そしてヒトを攻撃する能力に長けている。
イサイアスは、「どうする気だ」と小声でいった。
ドラキュロは、俺たちに気付いている。俺たちを切り裂こうと身構えている。
「駆除する」
「クジョ?」
「背中を守ってくれ」
俺はRPK軽機関銃のボルトを引いて、初弾を装填した。
ドラキュロは、距離二〇〇メートルまで高速で近付き、それ以後はゆっくりと取り囲むように、接近する。
俺はダンプの前に出て、ドラキュロに向かって前進する。
イサイアスが、「おい!」と声をかけたが無視する。
振り返ると、泣いている由加の顔がフロントガラスを通して見えた。俺は、泣いている由加に向かって笑った。余裕の笑いではない、恐怖が極限を超えて精神が破綻したのだ。
そして、腰だめに構えて引き金を引いた。
七五発の銃弾が七・五秒で銃口から飛び出した。
立っているドラキュロは少数だが、こちらに突進してくる。致命傷を負っていないドラキュロが立ち上がる。
イサイアスが卓越した銃さばきで、俺が弾倉を交換するまでの時間を稼ぐ。
ドラム弾倉ではなく、AK‐47用の三〇発弾倉に交換して、再度連射する。
三〇発弾倉を三回換えたところで、動いているドラキュロはいなくなった。
イサイアスが呆然としている。
俺は、地面に落とした弾倉を拾い回収する。一五メートル以内まで突進できたドラキュロは数頭だけ。
俺たちの完勝だ。
俺はイサイアスの背中を平手で軽く叩き、「行こう」と促した。
イサイアスは周囲を警戒しながら、八トン車が牽引する最後部の工作車に向かう。
俺はイサイアスが運転席に乗るところを確かめてから、装甲車の車内に入った。
由加は路上に散乱するドラキュロの死体を避けるため、東側の路外に出て、ゆっくりと北の峠に向かっていく。
俺たち四人は、日没の直前、キャンプに着いた。
南の峠を下り始めたたところで、キャンプで起きた異常を知った。
数発だが、銃撃された。そして、我々がキャンプする高台を取り囲むように、丸太を組んだ柵が作られ始めていた。
あの戦いの最中、八トン車の荷台にドラキュロが二頭飛び乗っていた。
最後尾を走るイサイアスが気付いて、トランシーバーで知らせていたが、そのまま走り続けて、南の峠を下る直前に処置するつもりだった。
しかし、キャンプでの出来事を知り、そのまま乗せてきた。
キャンプまで五キロの地点に検問が作られていて、俺たちの車列は停止させられた。
厳つい男が窓を開けろと、ダンプのドアを拳で叩いている。周囲には五人の屈強な男がいる。
由加は停止したが、窓を開けない。開けるはずがない。八トン車の荷台にはドラキュロがいるのだ。
男は高圧的で暴力的な臭いを振りまきながら、ついには窓越しに由加に銃を向けた。
瞬間、二頭のドラキュロが厳つい男に襲いかかる。
俺たちは封止線を一気に突破。キャンプに戻る。
銃声は一〇分以上続き、その後の様子はまったく不明。
今回の物資確保作戦は、大きな成功であった。重さにして一トン弱の弾薬を獲得し、必要なH鋼材や鋼板、軽合金板などの資材を確保でき、食料も得られた。
武器・弾薬は、由加とベルタが修理と整理を担当、各種機械と資材関連は片倉と相馬が仕分けし、食料は能美と納田が安全性を確認すること、つまり試食することになった。
牽引してきた二台の車輌は、金沢の見立てによると、工作車は全長六・五メートルの大型ドイツ製多目的作業車ウニモグ四輪駆動車で、荷室に工作機械を設置して主に車輌の修理・点検が可能。溶接機材や自動車部品も多数装備している。
装甲車は、こちらもウニモグベースのTM‐170ハームリンだとされた。
弾薬輸送車としての改造を受けており、後部兵員室は座席が撤去されて荷台になっている。
両車とも修理の可否は、現状では不明だ。一台ずつ、俺と金沢で修理・再稼働を試みることになった。
装甲車には、大量の手榴弾が積まれていた。旧ソ連が開発したRGD‐5系列で、ロシア製だけでなくユーゴやポーランド製も含まれている。
それと発射機は一基だけだが、RPG‐7対戦車擲弾発射機があった。ロケット弾も九六発ある。
その他は、五・五六ミリNATO弾だ。銃器は積まれていなかった。
横転していた銃を搭載していた輸送車から回収した物資は、ベレッタM59バトルライフル、ベレッタM92自動拳銃、七・六二×五一ミリNATO弾、九ミリパラベラム弾だ。
ベレッタM59はイタリア軍の制式小銃で、アメリカ軍制式M1ガーランド半自動小銃から改良・発展している。
M1は八発のエンブロッククリップという一種の簡易弾倉を使用するが、M59は二〇発の箱形弾倉を銃の下部から差し込む。
設計思想自体は、M1の後継であるM14と同じだが、M59のほうがM1に近い。
使用弾薬は、M1の七・六二×六三ミリスプリングフィールド弾ではなく、M14と同じ七・六二×五一ミリNATO弾だ。弾倉が大量にあり、これは助かる。
俺たちが持ち帰った銃には、二脚と擲弾発射用の照準器がなかった。外観だけならば、M1ガーランドが、二〇発箱形弾倉になっただけのようだ。
まぁ、旧式小銃には違いないが、現状を考えれば、俺たちには重要な武器だ。
その他、インド製イシャポール2A1ボルトアクション小銃、ユーゴ製ツァスタバM70アサルトライフルがある。前者は二〇世紀初頭にイギリスで開発され、第二次世界大戦では英連邦軍の主力小銃であった一九六〇年代に製造された超旧式小銃。後者は、ユーゴ製のAK‐47で、ピカティニーレール付きの新造銃だ。俺たちの武器のなかでは、新型に分類できる。ピカティニーレールに取り付けるドットサイトやスコープもある。
缶詰は、食べることはできる。フルーツ缶、ツナ缶、コーン缶、ホールトマト缶、その他いろいろ。短期間では消費しきれない量だ。
片倉は、二号車損傷の経験を踏まえて、新たな提案を行った。
回収してきたH鋼を使用した、非装甲車輌の防御力強化策だ。
トラックのキャビン全体をロールバー樣のH鋼で囲み、フロントとサイドのウインドウには鋼製の網を張り、ラジエーターグリル前方に軽合金板を取り付ける。
この案は即時採用され、片倉の指揮の下、改造に取りかかった。
この改造は、全非装甲車輌に施される。
現在、車輌自体は十分すぎるほどあり、そのすべてを移動に使うことはできない。一部はこの地に残置することになるが、どれを使い、どれを残すかが問題になっていた。
物資輸送用に八トン車とダンプローダートラック、燃料輸送用にタンクローリー。この三台は輸送には欠かせない。
だが、六輪後四輪駆動(6×4)のダンプローダートラックは、ここにたどり着くだけで精一杯だった。特に後輪の径が小さく、ロードクリアランスが少ないので、簡単に亀の子状態になる。
走行性能上、残置は仕方ない。
八トン車は大柄だが四輪駆動なので、意外なほど悪路に強い。車体下部のスペアタイヤなど取り外せる部品を移せば、さらに走破性が高まる。
中国製の六輪駆動タンクローリーは、高い路外走行性能を示している。それに、燃料輸送を代替できる車輌はない。頑張ってもらうしかない。
我々の物資は、すでに膨大な量に達していた。メンバーは二四人に増えているが、数カ月単位で考えれば、十分すぎるだけの量がある。
しかし、年単位で見れば、いつかは欠乏する。そうであるならば、物資の残置はしたくない。
俺の概算では、ダンプローダートラックの残置・遺棄、そして新たに獲得した物資の輸送を考えると、全輪駆動の四トン級トラックが二台必要になる。
子供は六人、この世界の人が七人。クルマの運転ができるのは一一人。最大でも一一台しか使えないのだ。
それに、この世界の人たちは、この地に留まるかもしれない。
考えれば、考えるほど、見通しは暗い。
俺はこのことを、内々に斉木と相馬に相談することにした。
夕方の夕食前、手を洗う斉木と相馬を呼び止めて、俺はこの話を持ちかけた。
俺は、「疲れているところすまないが、相談がある。
ダンプローダートラックは、これ以上は走れない。ここに置いていくしかない。そうすると、トラックが足りない」といった。
斉木は、少し驚いていた。結果、無言だった。
だが、相馬は違った。
「その件だけど、キンちゃんから名案を聞いたよ。ただし、いろいろと問題があるけどね」
俺は、「名案?」と金沢の考えを相馬から聞き出そうとした。
相馬が少し笑った。
「キンちゃんの案では、ダンプに着いているオムスビを取り外して、アダプターを新造した上で、ダンプローダーの後輪四輪と付け替えるんだそうだ。
後軸の車高が上がってしまうから、前輪車軸をかさ上げして、車輪をウニモグのものと交換する、といっていた」
斉木が、「ダンプのオムスビは、半田さんたちのもの。勝手はできないよ」と正論を述べる。
俺は、「いや、そんなことにこだわっていたら死んでしまう。それが有効ならば、そうしよう」と答えた。
斉木が、「反対だね。ダンプの牽引力が弱まれば、それはそれで問題だよ。スタックしたときの脱出方法が限られてしまう」と応じた。
相馬は、「あぁ、それもキンちゃんは心配していました。
で、キンちゃんの最終的な解決策は、後輪二軸を履帯化すること、だそうです」と答えた。
俺と斉木は顔を見合わせた。
相馬が続ける。
「キンちゃん案なんですが、ミニショベルの予備のゴムのキャタピラがあるでしょ。
あれを、後輪に巻くんです。そうすれば、後輪がキャタピラになるわけで、走破性能が飛躍的に上がるらしいです。
キンちゃんは、実寸で巻けることは確認しているけど、本当にうまくいくかどうかは、やってみなければわからない、といってましたが……」
斉木が、「どうやって巻くの?」と尋ねた。
相馬は、「それは聞いていない……」といい、走ってどこかに行き、数分で金沢を連れて戻ってきた。
金沢の服装はかなり汚れていて、まだ作業中だったようだ。
金沢は、「相馬さんから聞きました。僕の案に興味があるとか?
ちょっと嬉しいですね。
巻き方なんですが、タイヤからエアを抜いちゃうんです。
タイヤは風船みたいなものだから、空気が出ちゃうとしぼむでしょ。
手順なんですが、まず、後部をリフトアップしてタイヤ交換ができる状態にします。
後輪はダブルタイヤなので、外側のタイヤを外します。そして、内側のタイヤのエアを抜きます。
そこに、ミニショベルのゴム履帯を押し込みます。履帯はセンターガイド方式なので、内側と外側のタイヤに挟まれて、履帯は外れなくなるはずです。
内側のタイヤにエアを入れ、エアを抜いた外側のタイヤを入れて、エアを吸入すれば完了」
俺は金沢の案に驚いていた。
金沢は続けた。
「でもダメでしょうね。たぶん、負荷がかかると履帯は外れちゃうと思うんですよ。
それと、ロードクリアランスは上がりませんから、相変わらず亀の子状態には苦しみますね。
それならば、いっそのこと大改造して、大直径タイヤに交換してしまえばいいのではと思うんです。
トラックシャーシなんで、どんな改造もできるかと……。
部品も工具もあるのだから……」
俺は、金沢の説明をもう少し聞きたかった。
「どういう、改造をするのかな?」
「車高を持ち上げます。サスペンションの取り付け位置を変更して……。
後輪の径が小さいので、前輪と後輪では車軸の中心の位置が違うんです。
これを同じにして、後輪と前輪のタイヤの径を同じにすれば、亀の子状態になってしまうことは解決します。
駆動力の低さはどうにもなりませんが……」
斉木が尋ねる。
「その改造にどれくらいかかるの?」
「今回持ち帰った車輌のうち、僕が見たところ、工作車のほうは修理は無理です。オイルパンが割れていて、エンジンオイルが全部抜けてしまっていました。そのためでしょう、エンジンが焼き付きを起こしていたんです。
でも、装甲車のほうは修理できそうです。浮航能力があるので、偵察とかに便利です」
斉木が「フコウ能力?」というと、金沢は「ええ、水上を浮いて進めます。水陸両用車みたいに……」
俺と斉木は互いの顔を見合わせた。
俺は、「それは掘り出し物だ」
続けて、「先生、収穫はいつ頃?」
斉木は、「あと一カ月、かな」
俺は、「それじゃ、一カ月後にここを離れましょうか?」といった。
二人は頷いた。
由加、片倉、イサイアスの三人は、戻ってこない。
太陽が完全に地平線から離れて、すでに七時間を経過している。何かがあったと考えるべきだ。
俺は、どうするかを思案した。俺が乗っている動かない四輪駆動トラックは、荷室に大量の自動車修理用工具と部品を積んでいる。そして荷室の天井には太陽光パネル。その上には、砂が五ミリほどの厚さで積もっている。
運がよければ、このクルマの機材・資材で、修理できるかもしれない。
まぁ、五年間野ざらしのクルマが簡単に動くわけはない。だが、何を積んでいるのかを詳しく調べる必要はある。幸運ならば、武器になるものが手に入るかもしれない。
俺は車体側面の梯子を使って、地上に降りた。そして、車体後部に向かい、ステンレス製無塗装のシャッターを開ける。
荷室の奥行きは五メートル以上。十分な整備ができる工具と部品が整然と積まれている。
車体後部にタラップがあるが、電動か油圧で動くようだ。作動しないので、荷室によじ登る。
車内は数年ぶりに光が入り、薄く埃を被っているが、機能的で整然としたある種の美しさを見せている。
長さ一メートルほどのバールがある。これは使える。床に扉がある。開けると、ピカティニーレールが装着されたAK‐47系列の自動小銃三挺と弾倉二四個が収納されていた。
ドットサイトの付いた一挺を取り出し、安全装置を下げてボルトを引く。正常に動く。
触るとべたつくので、油を引いていたようだ。
その油を近くにあったウエスで拭く。弾倉には弾が入っていない。荷室を丹念に調べるが、やはり弾はない。
仕方なく、銃を元の場所に戻す。
俺はバールを手に車外に出て、シャッターを下げた。
川岸に向かう。左手にバール、右手に拳銃。
下草の丈が短く、視界はいい。空気が澄んでいて、視程もある。
一頭の大ネコが俺を目で追う。だが襲ってくる素振りはない。ドラキュロは大ネコを避けて移動したように思う。そうならば、付近にドラキュロはいない。危険動物は、大ネコだけだ。この動物のほうが、ドラキュロよりも知性を感じる。
だからなのか、ドラキュロほど恐ろしいとは思わない。
川沿いの道には三五分歩いて出た。平坦だが、足下には危険が潜んでいる道のりだった。
道を北に向かう。バールを刀のように腰に差し、自動拳銃を両手で構え道の中央を進む。
川の東岸は、丈が二メートル近いアシに似た植物で覆われている。道を挟んだ東側草原の草の丈も増している。五〇センチ以上ある。
視界が悪く、恐怖が募る。だが、草は北に向かって丈が低くなり、例の大ネコが闊歩している。道の遙か北の彼方に大ネコが数頭寝そべっている。
ドラキュロはいないのか?
俺は、前後左右を最大限の警戒で北に向かって進む。かつての東京ならば、十分なほど挙動不審な行動だ。
警戒行動中、西の川側を見ると、ライトブラウンの金属扉が飛び込んできた。突然のことで、いささか動揺する。
道から一メートルも離れていないが、丈の高い草に覆い隠されている。
車体後部の形状は、天井側が後方に突き出ている。金属扉は、装甲車の後部乗降ドアだ。いまでも鮮やかな赤色の塗装が残るハンドルを下方向に回す。
ダンパーが効いた状態で、後部乗降ドアが下部を起点に回転して降りてくる。
内部にはぎっしりとプラスチック製ケースが積まれている。運転席まで見えない。
ケースの一つに目をやる。〝5.56mm NATO〟の手書き文字。弾薬だ。
俺はドアを閉めた。いまは、回収できない。
そして、さらに北に向かう。
弾薬を積んだクルマから二〇分北に歩いて、食料を積んでいると思われるパネルトラックを見つけた。
俺が一晩明かした工作車も、弾薬を積んだ装甲車も、そしてこのパネルトラックも、ベースはドイツ製ウニモグ多目的作業車だ。ほぼ間違いない。
そして、パネルトラックは全長八メートル近い大型の六輪駆動車だ。
車体前方を川に向けて、路肩から一メートルほど落ち込んでいる。エンジンが始動すれば、このクルマであれば脱出できるだろう。しかし、ドラキュロに追われて狼狽しているドライバーに、それができただろうか?
大ネコが俺に少し近付いてきた。距離は一〇〇メートルほどあり、威嚇の素振りを見せないので、こちらを獲物と見定めている可能性もある。
だが、大ネコがいれば、ドラキュロの危険は相対的に減じる。同じ危険でも、大ネコのほうがいい。大ネコは怖いが、ドラキュロは気味が悪い。大ネコに生理的嫌悪感はないが、ドラキュロにはある。
白色塗装の六輪ウニモグは、車体後部にリフトゲートを備えている。これが動かないと、荷台の積荷を確認できない。
アビーはどうやって、積荷を見たのか?
荷台側面を観察すると、乗降ドアがある。
俺は草むらに入って、その乗降ドアまで行く。ドアノブはドアの下部に付いている。車高が高いからだ。
そのドアを開けると、ミックスフルーツの缶詰の絵が描かれたダンボール箱が天井まで積まれている。
俺がドアから手を離すと、車体の傾斜のために重力に引かれて閉まった。少し、大きな音がする。
大ネコが驚いて立ち上がり、こちらを見ている。
頼むから、逃げないで!
例の大ネコは逃げなかったが、別の個体がやってきた。徐々に個体数が増えてくる。
さすがに怖い。
運転席に潜り込めるか調べようと、川岸に向かって草をかき分けていると、無線が入った。
由加だ!
「いま、どこにいるの!」
「川沿いの道を北に向かって、約五キロだ」
「なぜ、そんなところにいるの!」
「いや、退屈だったから……」
「バカじゃないの!」
二〇分ほどで、ダンプと八トン車がやって来た。
ウニモグの運転席側のドアは開いていた。運転席には、大量の血痕跡と思われるシミがあった。臭いはすでにない。
だた、スピードメーターを覆い隠すほどの大量の血液が飛び散った跡が明瞭に残っている。
五年経っていても、その凄惨さは変わらない。
車体前部は何度か水に浸かったようだ。エンジンルームのなかに泥が溜まってしまっている。
とても修理できる状態ではない。
缶詰を一缶開けて食べてみる。腐敗はしていない。しばらくぶりの甘味はうまい。
四人で一缶ずつ食べた。
イサイアスが何かをいっているが、意味がよくわからない。しかし、食べ続けているので、不味いわけではなさそうだ。
側面のドアを開け、閉じないようにロープで車体に縛り付けて、缶詰の移送を開始する。
八トン車の積荷はすべてダンプに積み替え、八トン車に缶詰を載せていく。
作業は日没まで続いた。
この日は、道に停車して夜明けを待った。
由加たちは、八トン車にばら積みしていた物資を整頓してダンプに積み替えようとしたが、予想外に時間がかかり、また途中でドラキュロが現れたので車外に出ることができず、時間を費やしてしまったそうだ。
まぁ、そんなところだろうとは思っていた。お互い無事でよかった。
ダンプに俺とイサイアス、八トン車に由加と片倉が乗り、夜が明けるのを待った。
交代で少し眠ったが、眠った記憶さえ定かでないほど、浅い眠りであった。
夜明け前、大ネコが去り、ドラキュロが現れた。
だが、巨大なイヌ科動物、青味を帯びた毛並みのオオカミが現れて、ドラキュロを追い散らした。
俺たちが車輌のUターンを試み始めると、ブルーウルフがにじり寄ってくる。こいつらは大ネコと違って、激しい威嚇行動をしてきた。
次の目標は、弾薬を積んだ装甲車だ。
装甲車は八トン車で牽引して、強引に引っ張り出した。車体後部に牽引フックが見当たらず、リアアクスルにロープを巻き付けて引っ張った。
車体の回収は望んでいなかったが、この場で積み替えはしたくなかった。
大ネコとブルーウルフがいない。ならば、ドラキュロがいる。
この装甲車には車体前部にも牽引フックがない。さらに、排障器が取り付けられていて、牽引ロープの取り付けに手間がかかった。フロントアクスルにロープを結びつけて、それに牽引ロープをつないだ。
不安定な牽引だが仕方ない。
そして、牽引の抵抗を減じるために、タイヤに空気を入れた。パンクはしていなかった。幸運だ。
次に工作車。
イサイアスを八トン車に残し、俺、由加、片倉の三人で、ダンプに乗って工作車に向かう。
こちらは、牽引ロッドをつないで、タイヤに空気を入れれば牽引できる。
空気は電動コンプレッサーを持ってきている。
前輪にエアを入れたところで、ドラキュロが現れたので、俺が工作車に乗り、牽引されて八トン車に向かう。
工作車にイサイアスが乗り、俺が装甲車に乗って、キャンプを目指す。
日没前には到着できるはずだ。
北の峠の登り口まで、あと二キロの地点で、行く手にドラキュロの群が現れた。
通常、ドラキュロは一〇から二〇頭ほどのオスだけの群を構成する。
だが、前方の群は一〇〇頭近くいる。複数の群が集まったクラスターだ。
強行突破したいが、こちらは無可動車を牽引している。速度は出せないし、これから登に入るから機動も緩慢になる。ドラキュロの脚力なら、長時間にわたって追われることになる。かなり危険だ。
俺は、RPK軽機関銃の七五発ドラム弾倉を取り外し、点検してから装着し直した。
無線で由加を呼び出し、「ドラキュロを倒して前に進む」とだけ伝えた。由加から応答があったが、無視した。後方にいた片倉が八トン車から顔を出して俺を見た。
イサイアスがレバーアクションのライフルを抱えて、工作車から降りてきた。
俺に走り寄ってくるが、その挙動は不自然なほど激しい。
ドラキュロは恐ろしい動物だ。ヒトの何倍もの身体能力があり、そしてヒトを攻撃する能力に長けている。
イサイアスは、「どうする気だ」と小声でいった。
ドラキュロは、俺たちに気付いている。俺たちを切り裂こうと身構えている。
「駆除する」
「クジョ?」
「背中を守ってくれ」
俺はRPK軽機関銃のボルトを引いて、初弾を装填した。
ドラキュロは、距離二〇〇メートルまで高速で近付き、それ以後はゆっくりと取り囲むように、接近する。
俺はダンプの前に出て、ドラキュロに向かって前進する。
イサイアスが、「おい!」と声をかけたが無視する。
振り返ると、泣いている由加の顔がフロントガラスを通して見えた。俺は、泣いている由加に向かって笑った。余裕の笑いではない、恐怖が極限を超えて精神が破綻したのだ。
そして、腰だめに構えて引き金を引いた。
七五発の銃弾が七・五秒で銃口から飛び出した。
立っているドラキュロは少数だが、こちらに突進してくる。致命傷を負っていないドラキュロが立ち上がる。
イサイアスが卓越した銃さばきで、俺が弾倉を交換するまでの時間を稼ぐ。
ドラム弾倉ではなく、AK‐47用の三〇発弾倉に交換して、再度連射する。
三〇発弾倉を三回換えたところで、動いているドラキュロはいなくなった。
イサイアスが呆然としている。
俺は、地面に落とした弾倉を拾い回収する。一五メートル以内まで突進できたドラキュロは数頭だけ。
俺たちの完勝だ。
俺はイサイアスの背中を平手で軽く叩き、「行こう」と促した。
イサイアスは周囲を警戒しながら、八トン車が牽引する最後部の工作車に向かう。
俺はイサイアスが運転席に乗るところを確かめてから、装甲車の車内に入った。
由加は路上に散乱するドラキュロの死体を避けるため、東側の路外に出て、ゆっくりと北の峠に向かっていく。
俺たち四人は、日没の直前、キャンプに着いた。
南の峠を下り始めたたところで、キャンプで起きた異常を知った。
数発だが、銃撃された。そして、我々がキャンプする高台を取り囲むように、丸太を組んだ柵が作られ始めていた。
あの戦いの最中、八トン車の荷台にドラキュロが二頭飛び乗っていた。
最後尾を走るイサイアスが気付いて、トランシーバーで知らせていたが、そのまま走り続けて、南の峠を下る直前に処置するつもりだった。
しかし、キャンプでの出来事を知り、そのまま乗せてきた。
キャンプまで五キロの地点に検問が作られていて、俺たちの車列は停止させられた。
厳つい男が窓を開けろと、ダンプのドアを拳で叩いている。周囲には五人の屈強な男がいる。
由加は停止したが、窓を開けない。開けるはずがない。八トン車の荷台にはドラキュロがいるのだ。
男は高圧的で暴力的な臭いを振りまきながら、ついには窓越しに由加に銃を向けた。
瞬間、二頭のドラキュロが厳つい男に襲いかかる。
俺たちは封止線を一気に突破。キャンプに戻る。
銃声は一〇分以上続き、その後の様子はまったく不明。
今回の物資確保作戦は、大きな成功であった。重さにして一トン弱の弾薬を獲得し、必要なH鋼材や鋼板、軽合金板などの資材を確保でき、食料も得られた。
武器・弾薬は、由加とベルタが修理と整理を担当、各種機械と資材関連は片倉と相馬が仕分けし、食料は能美と納田が安全性を確認すること、つまり試食することになった。
牽引してきた二台の車輌は、金沢の見立てによると、工作車は全長六・五メートルの大型ドイツ製多目的作業車ウニモグ四輪駆動車で、荷室に工作機械を設置して主に車輌の修理・点検が可能。溶接機材や自動車部品も多数装備している。
装甲車は、こちらもウニモグベースのTM‐170ハームリンだとされた。
弾薬輸送車としての改造を受けており、後部兵員室は座席が撤去されて荷台になっている。
両車とも修理の可否は、現状では不明だ。一台ずつ、俺と金沢で修理・再稼働を試みることになった。
装甲車には、大量の手榴弾が積まれていた。旧ソ連が開発したRGD‐5系列で、ロシア製だけでなくユーゴやポーランド製も含まれている。
それと発射機は一基だけだが、RPG‐7対戦車擲弾発射機があった。ロケット弾も九六発ある。
その他は、五・五六ミリNATO弾だ。銃器は積まれていなかった。
横転していた銃を搭載していた輸送車から回収した物資は、ベレッタM59バトルライフル、ベレッタM92自動拳銃、七・六二×五一ミリNATO弾、九ミリパラベラム弾だ。
ベレッタM59はイタリア軍の制式小銃で、アメリカ軍制式M1ガーランド半自動小銃から改良・発展している。
M1は八発のエンブロッククリップという一種の簡易弾倉を使用するが、M59は二〇発の箱形弾倉を銃の下部から差し込む。
設計思想自体は、M1の後継であるM14と同じだが、M59のほうがM1に近い。
使用弾薬は、M1の七・六二×六三ミリスプリングフィールド弾ではなく、M14と同じ七・六二×五一ミリNATO弾だ。弾倉が大量にあり、これは助かる。
俺たちが持ち帰った銃には、二脚と擲弾発射用の照準器がなかった。外観だけならば、M1ガーランドが、二〇発箱形弾倉になっただけのようだ。
まぁ、旧式小銃には違いないが、現状を考えれば、俺たちには重要な武器だ。
その他、インド製イシャポール2A1ボルトアクション小銃、ユーゴ製ツァスタバM70アサルトライフルがある。前者は二〇世紀初頭にイギリスで開発され、第二次世界大戦では英連邦軍の主力小銃であった一九六〇年代に製造された超旧式小銃。後者は、ユーゴ製のAK‐47で、ピカティニーレール付きの新造銃だ。俺たちの武器のなかでは、新型に分類できる。ピカティニーレールに取り付けるドットサイトやスコープもある。
缶詰は、食べることはできる。フルーツ缶、ツナ缶、コーン缶、ホールトマト缶、その他いろいろ。短期間では消費しきれない量だ。
片倉は、二号車損傷の経験を踏まえて、新たな提案を行った。
回収してきたH鋼を使用した、非装甲車輌の防御力強化策だ。
トラックのキャビン全体をロールバー樣のH鋼で囲み、フロントとサイドのウインドウには鋼製の網を張り、ラジエーターグリル前方に軽合金板を取り付ける。
この案は即時採用され、片倉の指揮の下、改造に取りかかった。
この改造は、全非装甲車輌に施される。
現在、車輌自体は十分すぎるほどあり、そのすべてを移動に使うことはできない。一部はこの地に残置することになるが、どれを使い、どれを残すかが問題になっていた。
物資輸送用に八トン車とダンプローダートラック、燃料輸送用にタンクローリー。この三台は輸送には欠かせない。
だが、六輪後四輪駆動(6×4)のダンプローダートラックは、ここにたどり着くだけで精一杯だった。特に後輪の径が小さく、ロードクリアランスが少ないので、簡単に亀の子状態になる。
走行性能上、残置は仕方ない。
八トン車は大柄だが四輪駆動なので、意外なほど悪路に強い。車体下部のスペアタイヤなど取り外せる部品を移せば、さらに走破性が高まる。
中国製の六輪駆動タンクローリーは、高い路外走行性能を示している。それに、燃料輸送を代替できる車輌はない。頑張ってもらうしかない。
我々の物資は、すでに膨大な量に達していた。メンバーは二四人に増えているが、数カ月単位で考えれば、十分すぎるだけの量がある。
しかし、年単位で見れば、いつかは欠乏する。そうであるならば、物資の残置はしたくない。
俺の概算では、ダンプローダートラックの残置・遺棄、そして新たに獲得した物資の輸送を考えると、全輪駆動の四トン級トラックが二台必要になる。
子供は六人、この世界の人が七人。クルマの運転ができるのは一一人。最大でも一一台しか使えないのだ。
それに、この世界の人たちは、この地に留まるかもしれない。
考えれば、考えるほど、見通しは暗い。
俺はこのことを、内々に斉木と相馬に相談することにした。
夕方の夕食前、手を洗う斉木と相馬を呼び止めて、俺はこの話を持ちかけた。
俺は、「疲れているところすまないが、相談がある。
ダンプローダートラックは、これ以上は走れない。ここに置いていくしかない。そうすると、トラックが足りない」といった。
斉木は、少し驚いていた。結果、無言だった。
だが、相馬は違った。
「その件だけど、キンちゃんから名案を聞いたよ。ただし、いろいろと問題があるけどね」
俺は、「名案?」と金沢の考えを相馬から聞き出そうとした。
相馬が少し笑った。
「キンちゃんの案では、ダンプに着いているオムスビを取り外して、アダプターを新造した上で、ダンプローダーの後輪四輪と付け替えるんだそうだ。
後軸の車高が上がってしまうから、前輪車軸をかさ上げして、車輪をウニモグのものと交換する、といっていた」
斉木が、「ダンプのオムスビは、半田さんたちのもの。勝手はできないよ」と正論を述べる。
俺は、「いや、そんなことにこだわっていたら死んでしまう。それが有効ならば、そうしよう」と答えた。
斉木が、「反対だね。ダンプの牽引力が弱まれば、それはそれで問題だよ。スタックしたときの脱出方法が限られてしまう」と応じた。
相馬は、「あぁ、それもキンちゃんは心配していました。
で、キンちゃんの最終的な解決策は、後輪二軸を履帯化すること、だそうです」と答えた。
俺と斉木は顔を見合わせた。
相馬が続ける。
「キンちゃん案なんですが、ミニショベルの予備のゴムのキャタピラがあるでしょ。
あれを、後輪に巻くんです。そうすれば、後輪がキャタピラになるわけで、走破性能が飛躍的に上がるらしいです。
キンちゃんは、実寸で巻けることは確認しているけど、本当にうまくいくかどうかは、やってみなければわからない、といってましたが……」
斉木が、「どうやって巻くの?」と尋ねた。
相馬は、「それは聞いていない……」といい、走ってどこかに行き、数分で金沢を連れて戻ってきた。
金沢の服装はかなり汚れていて、まだ作業中だったようだ。
金沢は、「相馬さんから聞きました。僕の案に興味があるとか?
ちょっと嬉しいですね。
巻き方なんですが、タイヤからエアを抜いちゃうんです。
タイヤは風船みたいなものだから、空気が出ちゃうとしぼむでしょ。
手順なんですが、まず、後部をリフトアップしてタイヤ交換ができる状態にします。
後輪はダブルタイヤなので、外側のタイヤを外します。そして、内側のタイヤのエアを抜きます。
そこに、ミニショベルのゴム履帯を押し込みます。履帯はセンターガイド方式なので、内側と外側のタイヤに挟まれて、履帯は外れなくなるはずです。
内側のタイヤにエアを入れ、エアを抜いた外側のタイヤを入れて、エアを吸入すれば完了」
俺は金沢の案に驚いていた。
金沢は続けた。
「でもダメでしょうね。たぶん、負荷がかかると履帯は外れちゃうと思うんですよ。
それと、ロードクリアランスは上がりませんから、相変わらず亀の子状態には苦しみますね。
それならば、いっそのこと大改造して、大直径タイヤに交換してしまえばいいのではと思うんです。
トラックシャーシなんで、どんな改造もできるかと……。
部品も工具もあるのだから……」
俺は、金沢の説明をもう少し聞きたかった。
「どういう、改造をするのかな?」
「車高を持ち上げます。サスペンションの取り付け位置を変更して……。
後輪の径が小さいので、前輪と後輪では車軸の中心の位置が違うんです。
これを同じにして、後輪と前輪のタイヤの径を同じにすれば、亀の子状態になってしまうことは解決します。
駆動力の低さはどうにもなりませんが……」
斉木が尋ねる。
「その改造にどれくらいかかるの?」
「今回持ち帰った車輌のうち、僕が見たところ、工作車のほうは修理は無理です。オイルパンが割れていて、エンジンオイルが全部抜けてしまっていました。そのためでしょう、エンジンが焼き付きを起こしていたんです。
でも、装甲車のほうは修理できそうです。浮航能力があるので、偵察とかに便利です」
斉木が「フコウ能力?」というと、金沢は「ええ、水上を浮いて進めます。水陸両用車みたいに……」
俺と斉木は互いの顔を見合わせた。
俺は、「それは掘り出し物だ」
続けて、「先生、収穫はいつ頃?」
斉木は、「あと一カ月、かな」
俺は、「それじゃ、一カ月後にここを離れましょうか?」といった。
二人は頷いた。
12
あなたにおすすめの小説
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
異世界で農業を -異世界編-
半道海豚
SF
地球温暖化が進んだ近未来のお話しです。世界は食糧難に陥っていますが、日本はどうにか食糧の確保に成功しています。しかし、その裏で、食糧マフィアが暗躍。誰もが食費の高騰に悩み、危機に陥っています。
そんな世界で自給自足で乗り越えようとした男性がいました。彼は農地を作るため、祖先が残した管理されていない荒れた山に戻ります。そして、異世界への通路を発見するのです。異常気象の元世界ではなく、気候が安定した異世界での農業に活路を見出そうとしますが、異世界は理不尽な封建制社会でした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる