200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚

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第1章

第一三話 第二次北方調査-1

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 由加とベルタが、単管パイプで組み立てたフレームにブルーシートを屋根材代わりにしたターフの下で、俺たちが持ち帰った銃器の点検をしている。
 銃の数は多くない。だが、掘り出し物があった。ドイツ軍制式の二挺のMG3汎用機関銃と、四挺のAK‐47アサルトライフルだ。他はM16系列と猟銃が数挺。
 俺は二人に話しかけた。
「使えそう?」
 由加が答える。
「手入れをすれば、使えると思う。機関銃は非分離型のベルトリンクだから、リンクは何度でも使える。機関銃用の弾帯が少ないから、これを修理できれば心配事が一つ減る……」
 俺はAK‐47を指差した。
「カラシニコフは拾いものだったね」
 ベルタが答える。
「残念。これは五・五六ミリNATO弾仕様なの。ポーランド製のベリルよ。
 でも、私たちの武器のなかでは新型の部類ね」
 それを聞いて、俺は結構落ち込んだ。旧ソ連が開発した七・六二×三九ミリ弾はドラキュロに有効だが、五・五六×四五ミリNATO弾では至近で命中させてもあの動物の突進を止められない。
 それは経験で知っていた。また、七・六二×三九ミリ弾は、人間相手の戦闘でも有効だ。この世界では、すべての非常事態に対応できる効果的な弾種なのだ。七・六二×五一ミリNATO弾は、ドラキュロの行動を阻止できるが、M14と64式小銃のどちらも弾倉は二〇発。ドラキュロとの戦いが始まれば、弾倉交換の余裕はない。
 その点、AK‐47は三〇発だ。
 デリング一家との抗争はあったが、俺たちにはこの世界の人々と争うつもりはない。だから、対人戦闘用の五・五六×四五ミリNATO弾は、あまり重要ではなかった。
 また、据え置きで使う汎用機関銃も、動作の激しいドラキュロには効果的ではない。
 北方調査で持ち帰った物資では、車輌二輌を除けば、大した成果はなかったことになる。
 だが、無線機、鉄板や鉄網などの物資・資材は思った以上に役立っている。もっとあれば、本当に助かる。
 我々は、この地に居着くことは考えていなかったが、それでも数カ月単位で留まることに決めていた。
 そのための物資が欲しかった。
 それと、この世界の人々に対して、シンパシーというか、信頼感というか、そういう感情が抱けない。彼らに対して、表現のしようのない違和感を感じていた。
 俺は、彼らとの争いが起こることを何となく予感していた。
 昨夜、由加と話をした際、彼女もイサイアスが警告する〝襲撃〟を案じていた。彼らが我々を襲う理由は少ない。価値ある物資は車輌くらいだ。由加は論理性の乏しい不安だといっていた。

 夜、片倉が内々の相談をしたいと、俺が寝床にしているタンクローリーにやって来た。だが、先客がいた。能美だ。
 能美は、俺たちが常時監視されていることについての意見を求めていた。
「夜になるとキャンプが焚き火に囲まれているでしょ。それが、何となく不安で……」と能美がいった。
 確かに、夜になるとキャンプを取り囲むように、三〇以上の焚き火が見える。
 昼間も包囲されているのだが、夜のほうが焚き火によって威圧感があるのだ。
 片倉も同じだった。
「私もそれが気になっていた……。
 なぜ、私たちを見張っているのかな。何かすると思われているのかな?
 誤解なら解かなくちゃいけないし……。
 それとも、この世界の人たちは、私たちに対して悪意があるのかな……」
 俺は、単純にこの世界の人々が我々を警戒しているだけ、と考えていた。包囲はしているが、キャンプからの出入りを制限しているわけではない。
「俺は、単に警戒しているだけだと思うよ」
 片倉が、「でも、ヘンなの。東の村、中央の街、そのどちらにも町工場さえないの。ウマの蹄鉄を作る鍛冶屋さえもない……。
 農具、銃、クルマは、誰がどこで作っているのか。何だか不思議……」
 能美が片倉の疑問に同意する。
「確かに。工業製品はどこから入手しているのか……。少なくとも彼らは作っていないように思う。銃も、弾も。南の街から交易で手に入れるんだ、とは聞いたけど、〝そうなんだ〟と納得できない部分があるの」
 能美と片倉は、我々のなかではこの世界の人々との接触が多い。
 この世界の人々の武装は、ライフル、リボルバー、長刀の三種が標準。
 ライフルは、ポンプアクションとボルトアクションの二種。拳銃はハンドイジェクトとトップブレイク。弾薬は、四四口径、薬莢長五〇ミリ、弾頭は平頭弾、発射薬は黒色火薬の一種のみ。長刀は刃渡り七〇センチほどの反りの大きい刀身に、護拳の付いた柄の組み合わせで、片手で使うタイプ。鞘や護拳の形状はほぼ同じだ。
 合理性を追求した量産主義と考えればそうなのだろうが、異常なほど多様性がないのも事実だ。
 そして、彼らの生活圏で五年を過ごしたディーノの証言。
「カーダングを中心とした、東西と北の三村に機械文明を維持するための工業設備は皆無。彼らは、包丁一本さえ製造できない」
 また、イサイアスは「銃器、刃物、蒸気車は、南部に住む人々から交易によってもたらされる、と聞いている」と述べ、同時にそれ以上は知らないようだ。彼は「修理をする鍛冶はいるが、道具をゼロから作る職人はいない」ともいっていた。
 確かに歪な社会だ。
 片倉は、「街と村の人々から、私たちが必要なのもが手に入らないならば、自分たちで調達する以外に道はないと思うの。
 もう一度、五年前の人たちの残した物資を取りに行けないかな?」といった。
 能美も、「包囲されてから、キャンプに逃げ込む人がいなくなったでしょ。
 この包囲は私たちを見張ると同時に、このキャンプにやって来る人たちを阻止する狙いもあるんじゃないかな?
 弾薬はあるけど、武器が不足って城島さんが言っていたの。ドラキュロと戦うには、有効な武器が少ないって。人間と戦うには十分だけど……って。
 五年前の人たちは非武装主義だそうだけど、まったくの丸腰じゃなかったんだから、他にもあると思うの。非武装主義を騙っていた人もいたって、ディーノさんがいっていたし……。五〇〇人もいたのだから、考え方にも強弱があったと思うし……」
 能美の包囲に関する論点、〝包囲はキャンプを訪れる人物の阻止が目的〟はありうることだと思う。
 テュール、マーニ、イサイアス、ネミッサ、トゥーレ、アマリネの六人を除けば、俺たちと深く接触する、この世界の人々は誰もいない。一時期は物売りもやって来たが、包囲後は誰も来なくなった。我々の側も警戒を強めて、不必要にキャンプから出なくなっていた。

 俺たちは六人で二〇〇万年後にやって来た。そして、出口側〝ゲート〟のなかで八人と一匹に出会いチームを組んだ。
 さらに、五年前の転移者二人、三年前の転移者二人、そして数百年前の転移者の子孫六人が加わった。
 二六人もの大所帯だ。すべての物資が早晩不足する。五年前の食料でも、缶詰や瓶詰ならば容器が損傷していなければ食べることはできる。賞味期限など知ったことか。
 物資調達のための、第二次北方調査の必要性は、切実であった。

 全員が参加する会議を昼間に行った。この頃から、我々はこの世界の人々による夜襲を強く警戒し始めていたからだ。
 議題は、第二次北方調査だ。
 論議の口火は由加が切った。
「ドラキュロと戦うには、武器が不足しています。
 この世界の銃でも代用できるけど、銃と弾薬の入手ができるかどうか……。この世界の人たちに武器と弾薬が不足していると誤解されると、無用なトラブルの原因になるかもしれないし……」
 イサイアスがアドバイスする。
「街や村では無理だ。銃は代々受け継ぐもので、供給は年に数十挺程度らしいから……。
 闇で手に入れるなら、東の解放地区まで行かないと……」
 斉木がイサイアスに尋ねる。
「解放地区?
 それは何だね?」
 イサイアスではなく、ディーノが答える。
「解放地区、または自由地帯……。
 そう呼ばれている一帯があるんです。無法が蔓延る地獄だとも、食料が豊かな楽園だとも……」
 イサイアスがディーノの説明を引き継ぐ。
「神を信じない人々が集まっているそうだ。俺も神なんて信じちゃいないが……」
 ネミッサが発言。
「神は実在します。神から逃げてきた私の友達がいました。恐ろしい神だそうです。
 彼女は解放地区に逃げようとして、街の人たちに捕まりました。その後のことはわかりません」
 ルサリィがネミッサを見た。
「神って、ヒトに似たちんちくりんな動物のこと?
 大昔に一度、私の住んでいた街にも攻めてきたけど、こてんぱんにやっつけたそうよ」
 ディーノが解説する。
「私の個人的な見解なんですが……。
 神は白魔族だと思うんです。神とは創造主のことで、創造するものは包丁から蒸気車まで様々。ようは、工業力を有した種族のことだと思うんです。
 それが、我々と同じ種なのかはわかりませんが……。
 彼らと交易するには、代価の他に貢ぎ物が必要だと……。
 噛みつきよりも危険かもしれない……。
 その神に頼らずに、道具を創造できる人たちの集団が、解放地区にいるとか……」
 俺がディーノに尋ねる。
「解放地区に行くべきと?」
 ディーノが答える。
「解放地区に行くならば、街の人たちとの一戦は覚悟しないと……」
「その危険は冒せない。まだ、北方調査のほうが、実情に合っているね」
 俺の意見に異議を述べるメンバーはいなかった。
 片倉が彼女の希望を述べた。
「なるべくたくさんの鉄材、H鋼、丸形鋼管、角形鋼管、金属製のネット、鉄板、強化板ガラス、アクリル板、鋼製ワイヤー、その他何でも。溶接機や工作機械も。
 使えそうなものならば何でも」
 能美が問題を提示した。
「北の峠のさらに北は、戦車でなければ行けないのでしょ?」
 相馬が答えた。
「キャタピラ付きの車輌なら走れます。持ち帰った大型車用のオムスビ型クローラーを修理したので、ハンバー・ピッグ重装甲車か八トントラックに着けられます」
 俺が、「それとダンプで行けば、相当な物資の回収ができますね」
 斉木が、「装甲がないけど、大丈夫?」と心配する。
 俺は、「ドラキュロとの接触を避ける以外ないでしょうね。それと、北に進むと気候のためかドラキュラはいないので……」
 ベルタが、「でも、南の方が車輌が多いのでは?」
 俺は、「無理をせず。できるだけ多くの物資を持ち帰ります。
 それ以外に方法はないでしょ」
 ディーノが、「武器を積んだ車輌は、あったようです。私が見たのは、黒塗りのバンでした……」
 ディーノは続けた。
「私は、怖くて行けない……」
 ベルタも、「私も……」
 俺は、「私、城島、片倉さんの三人で行きます」
 イサイアスが、「俺も行く。面白そうだ。もし銃を手に入れたら、俺にもくれ。あんたたちの銃は、すごい威力だからな」

 相馬が八トン車にオムスビ型クローラーを取り付け、由加が機動隊の防弾装備を引っ張り出して、四人がそれを装着し、身体を動かせるようになるまで二日を要した。
 イサイアスは、機動隊の重い装備をいやがったが、「着けなければ連れて行かない」と説得した。これがあればドラキュロとの白兵戦も可能かもしれない。

 俺たちは、ベルタとアビーが拠点にしていた崖から突き出た狭い棚のような場所にいた。北面は急な崖、南側はそびえ立つ絶壁、東側は断崖、西にだけ通路が開く。
 北方が一望でき、双眼鏡や単眼鏡を使えば十数キロ程度の遠距離まで観察できる。
 俺たちは、ここからめぼしい車輌を探し、ピンポイントで調査と物資の確保を進める。
 ディーノによれば、彼らのグループは約一〇〇台の車輌でこの世界にやって来た。脱出までの二カ月間で、後からやって来た二〇台以上が増え、鍋の外に出たのは一二〇から一三〇台ほどだという。
 ベルタは、北の山脈北麓付近の車輌は調べ尽くし、食料、衣類、武器・弾薬は回収したという。
 彼女たちが手を付けなかったのは、北麓から一〇キロ以上北方だそうだ。一〇〇倍の単眼鏡、双眼鏡で観測すると、西の山脈山麓に沿って流れる川に向かって、鍋から北西方向に点々と車輌が放棄されている。
 モンブラン山を望む氷河湖近くの石の村跡には、二〇台ほどの車輌があった。
 ならば、草原には八〇台以上の車輌が放棄されているはず。そのうち、五〇台は北の峠からそう遠くない位置に集中している。これらは、ベルタたちが調べ尽くしている。武器・弾薬の類はない、と判断していい。
 車輌のほとんどは民間車で、人手をかけずに路外走行ができるような車種ではない。ドラキュロに襲われて、瞬く間に遺棄されたのだろう。
 だが、ベルタたちは、鉄材などは利用しなかった。これら重量のある物資は、早々に放棄されたようで、北の峠から東に、山麓に沿って点在している。
 こちらの回収は、目処が立てやすい。

 俺たちの拠点から五キロほど東に、細いH鋼材を積んだトラックがある。そのさらに東二キロにも金属材を積んだトラックが擱座している。
 この二台の周辺から調べることにした。
 ドラキュロの群れは見えない。もっと北にいるのかもしれない。あの動物の移動は素早いから、油断はできない。

 エンジンの排気音と走行音以外を立てずに、最初のトラックに近付く。トラックは一・五トン積みの小型四駆車で、長さ五メートルの断面一〇×一〇センチほどのH鋼材を二〇本ほど積んでいる。鋼材は酷く錆びている。
 これを片倉が手際よく、クレーンを使って八トン車に積み込む。H鋼材は荷台前方の鳥居に斜めに立てかけられていたので、比較的簡単に回収できた。H鋼材の下に有刺鉄線と一メートル四方ほどのスリット状有孔鋼板があったので、これも回収。
 次のトラックに向かう。

 ドラキュロの姿はない。

 次のトラックも車種は同じ。FUMOという名らしい小型トラックだ。
 こちらが積んでいたのは、軽合金板だ。荷台が狭いので、軽合金板は台座を使って三角形に立てかけられている。幅二×長さ三メートルほど。
 これも回収。近くに大型のトラックが地面に半没しており、荷台には三〇×三〇センチのH鋼材が積まれている。こんな重量物は、どうにもならない。
 板倉は、断面が丸か四角の鋼管を探しているが、見当たらない。近くに五×五センチのH鋼材を積んだ小型トラックがある。
 これを回収する。

 ドラキュロに見つかった。一頭がにじり寄ってくる。
 俺たちは山麓の拠点に戻った。

 ベルタとアビーが拠点にしていた断崖中腹の棚台は、麓からはまったく見えず、崖の上にひさしのような出っ張りがあって、上からも見えにくい。身を隠すにはうってつけだ。
 ここで回収した物資を点検した。H鋼材は錆びてはいるが、表面だけ。軽合金板はややU字型に歪んでいる。
 八トン車にはまだ余裕があるが、鋼材・金属材はこのくらいで、以後は武器・弾薬と工作機材、食料の捜索に絞った。

 翌朝、朝日の加減でかなり遠方までよく見えた。丹念に車輌を観察していると、二トン車ほどの大きさで、車体が赤色塗装の荷台後部にシャッタードアが付いた車輌を見つけた。車体側面は見えない。
 その他、その車輌の数キロ手前に、黄色塗装のパネルトラックが横転している。
 今日は、その二台に絞ることにした。

 ダンプを先頭に縦隊で横転しているパネルトラックに向かう。遠方から見た車体形状は、缶飲料の運搬車のようだ。
 途中、車体前部が半没し、後部車輪がわずかに浮き上がってしまったランドローバーを見つける。運転席側のドアが開いている。
 車内を覗くと、助手席側にボルトアクションの旧式小銃らしいライフルが見えた。クリップの小銃弾が助手席の床に散乱している。
 ライフルは旧式な軍用小銃で、ボルトは動かない。車体後部荷室にクーラーボックスが四個とプラスチック製トランクが置かれている。
 俺たちは、一応調べてみることにした。
 クーラーボックスの中身は、七・六二ミリNATO弾がぎっしり。木箱のなかには、助手席と同じタイプの小銃が四挺。六挺入っていたようだ。一挺は助手席の銃だろう。トランクの銃のボルトは動く。
 クーラーボックスとトランクを、八トン車の荷台に放り込む。

 横転しているパネルトラックに向かう。

 横転しているパネルトラックは、大直径のタイヤを着けた四駆車だった。車体後部のシャッターは施錠されていたが、俺が運転席に潜り込んでキーを回収し、それを由加に渡した。
 シャッターの動きが悪く、開けるのに苦労したが、荷台の積荷は目当てのものだった。
 M14によく似た自動小銃が地面に接している側面に並べられている。その数、二四挺。すべて回収し、反対側面、上向き側の側面に固定されている弾薬もすべて回収。
 自動拳銃もある。それらも回収する。
 弾薬缶が何度か落下して、大きな音を出した。
 ドラキュロは、眼、耳、匂いに敏感だ。ダンプの荷台で監視を続けるイサイアスが、警告した。
 弾薬の一部を残したが、シャッターを閉めて、次の目標に移動する。
 銃と弾薬は、ダンプに積んだ。

 ドラキュロは、クルマを人間が乗る乗り物とは解さないらしい。
 こちらの姿が見えないと、岩か立ち木のように素通りする。これは大発見だ。だが、不審に感じたり、匂いを嗅ぎつけられるとしつこい。それと、エンジンの排気を嫌う。これも発見だ。
 俺たちは最後の目標に向かった。

 そのトラックは消防のレスキュー車のような外観ではあるが、荷台に自動車の修理工具を搭載した工作車だった。旋盤や溶断・溶接機材もある。タイヤ修理も可能。
 遠望した際は小型車と思ったが、かなり大きい。セミキャブオーバーで全長は七メートル近くある。荷台の側面に乗降ドアがあり、荷台後部にシャッターがある。荷台の前後に車体を固定するアウトリガーが搭載してある。
 車体は左に傾いていて、簡単には掘り出せない。機械の移送はほぼ不可能。溶断機と溶接機の回収で諦めたいが、片倉はそうは思っていない。
 また、車輌を稼働状態まで修理する時間的余裕はない。後方に引っ張ったほうが引き出せる可能性が高い。
 俺が工作車の運転席に乗り、片倉が八トン車で引っ張ることにした。
 由加はダンプのキャビン、イライアスはダンプの荷台で周囲を見張る。
 もしドラキュロが現れたら、ダンプは逃走、八トン車は排気をまき散らして、ドラキュロを追い払う。
  引き出す前準備として、俺とイライアスで後輪後部の泥土を排除する。前輪側も用心しながら少し掘った。一五度ほど傾いているので、横倒しになりそうな感じではある。もし横倒しになってしまったら、溶接機と溶断機のみを回収する。
 履帯付きの八トン車のパワーはすごかった。排気をまき散らしながら、ゆっくりと工作車を引っ張り出す。
 八トン車を工作車の前に出し、牽引の準備をしていると、突如ドラキュロが現れた。
 イライアスが発砲すると、銃声を聞いたドラキュロが集まり始める。
 イライアスを荷台に乗せたダンプが南に向かって走り出す。
 牽引の準備が整わないまま、俺は工作車のキャビンに逃げ込む。
 俺は無線で、片倉に拠点に戻るよう意見する。
 今夜一晩、俺はこの走行不能なクルマの埃っぽいキャビンで過ごすことにした。
 武器は拳銃と刃物のみ。水と食料は少しある。恐ろしくて、トイレには行けない。

 眠れぬ夜は、不必要なことを思い出す。俺は不安と恐怖に耐えるため、ディーノから聞いた、彼がこの世界にやって来たいきさつを思い出していた。
 ディーノがドイツ北部ブレーメン近くの〝ゲート〟に突入したのは、俺たちの四四時間ほど前だった。
 彼の家族は幼子を連れて逃げ惑い、食料はなく、車輌も失い進退窮まっていた。
 そんなとき、二億年後に向かう〝同志〟を募る張り紙を見た。投資で財をなした資産家が、一族郎党を引き連れて二億年後に向かうが、彼らと同行する技術者を求めていた。
 ディーノは激しく逡巡したが、腹を空かせている孫を見て、応募するだけで食料がもらえる、という、うますぎる話を信じて応募した。
 ディーノ自身は、電子機器の技術者として自分を冷静に評価した場合、選ばれることはないと考えていた。息子夫婦は技術者ではなかった。
 しかし、幸運か、不運かは別にして、選抜された。息子夫婦と孫のシルヴァも同行できる。
 ディーノは二億年後に活路を求めた。
 そして、ディーノは俺たちと出会うまで、この世界は二億年後だと信じていた。
 彼は騙されて連れてこられたらしい。
 投資家の郎党は五〇人。その五〇人を支える技術・技能者とその家族が四五〇人。車輌は一〇〇台に達し、膨大な物資を輸送した。
 その物資のなかにシコルスキーS‐64クレーンヘリがあった。ヘリコプターはこれ一機で、このヘリがなければ鍋の内側から外部に出ることはできなかった。
 分解して運ばれたクレーンヘリを組み立て、運用できるようにすることに二カ月もかかってしまった。
 そして、宣誓・誓約を反故にして、二〇〇万年後を目指す人々が次々とやって来る。
 これは想像でしかないが、投資家は後続者をも利用しようと考えた。
 そして、吊り上げ能力一〇トンものパワーがあるクレーンヘリで、この草原のどこかに車輌一二〇台以上を移送した。
 そして、ドラキュロに襲われる。
 投資家と郎等たちは、二〇台の装甲車に乗っていたそうだ。一五台は人員輸送型、五台が重要物資輸送型。その他に輸送車、作業車、建設機械があった。技術系の同行者は、投資家が用意した中型四輪駆動車か各個人が用意した小型四輪駆動車で参加した。
 車輌は、積載状態で総重量七トンを超えてはならない、という制限があったそうだ。
 ということは、その投資家は出口側〝ゲート〟の地形を知っていた可能性がある。そうでなければ、クレーンヘリなんて用意しない。
 ディーノが最後にクレーンヘリを見たのは、北に向かって飛んでいく後姿だったそうだ。

 アビーはミーティングには出席していたが、発言はしなかった。ただ、金吾に「麓から北に一〇キロほど離れた川沿いに、コンテナを積んだ四輪のトラックがあり、荷台に缶詰がたくさん積んである」と語っていた。
 これが、彼女が提供した唯一の情報だった。

 ドラキュロは日の出とともに、東に向かって移動を始めた。
 昨夜一晩、連中の様子を観察したが、社会性をほとんど感じさせなかった。群にボスがいるわけでなく、単に群れているだけ。ドラキュロ個々に関係性はなく、群には上位下位の階層もない。
 昨日日没の直前、弱ったドラキュロなのだろうか、数頭が仲間に食われたようだ。ドラキュロの絶叫が、四回聞こえた。
 シカやスイギュウのような動物が近くを通ったが、襲おうとはしなかった。旺盛な食欲で、イナゴの大群のようにすべての生命を食い尽くすわけではなさそうだ。

 ドラキュロが完全に去った後、俺はトラックの屋根に登った。
 そして、川の方向に双眼鏡を向ける。
 この態勢が一番危険で、俺の姿を見たドラキュロが音もなく忍び寄ることを警戒しなければならない。
 トラックの高さは地上から四メートル近くあるが、ドラキュロはこの程度ならば助走なしでジャンプする。
 ドラキュロの気配を感じたときは、死を迎える直前だ。
 俺は、日本警察の機動隊が装備する鎧のような装備に身を固めていた。ヘルメットを被り、拳銃はいつでも抜けるようにしている。
 双眼鏡は一〇秒以上覗かない。

 幸い、ドラキュロは現れない。
 そして、アビーが見たというコンテナを積んだ、それらしいトラックを見つけた。
 缶詰が手に入る。
 そして、巨大なネコ。アメショーの体重がトラに匹敵する三〇〇キロに拡大したような、巨大なネコが群れている。ドラキュロは、このネコを避けたのだ。

 トランシーバーの通信距離は長くない。由加からの連絡は、かなり近付かないと届かない。
 昼まで待ったが連絡がない。
 心配になってきた。
 峠まで一〇キロ強。歩いても二時間あれば着く。
 しかし、ドラキュロがうろつく草原を、徒歩で一〇キロ進むなど自殺行為だ。もう少し、一時間だけ待とう。
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