200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚

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第3章

第七九話 艦隊戦

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 ノイリン西地区製PT6ターボプロップエンジン四基と交換したFMA IA 58プカラ双発攻撃機は、主翼と胴体に分解されてノイリン北地区に水路で運ばれた。

 クフラックとノイリン間は、直線で四〇キロほど離れている。
 そして、道はない。
 航空機を入手する以前、我々はクフラックの位置と地形を正確には知らなかった。
 ソーヌ川沿いであることは確信していたが、ロワール川かその支流の至近にある可能性もあった。
 航空偵察でわかったことは、クフラックは北から南に流れるソーヌ川分流の西側にあり、北から南に流れ、西に向きを変えてロワール川に注ぐ川幅の広い河川の東側にある。
 つまり、クフラックは、ソーヌ・ローヌ川流域とロワール川流域のどちらにもアクセスできる産業上極めて有利な位置にあるわけだ。
 しかも直径二〇キロにも達する巨大稜堡式要塞だ。
 ノイリンとは街の規模が違う。

 一時期クフラックを占拠していた東方フルギア人は、この周辺一帯にはいない。
 フルギア人は本来、ライン川以東に住んでいた人々で、ドラキュロに追われて西方に移動し、現在のフルギア人の領域であるロワール川中流から下流に住み着いた。
 東方フルギア人は西方移住後、フルギア帝国が成立してさらにのちに東方に移動した人々だ。
 フルギア人の文化を引き継ぎながら、新参者を捕らえて、彼らから二〇〇万年前の機械文明を取り入れようとした。
 しかし、所詮まねごとに過ぎず、現在は完全に瓦解し、西方に移動してフルギア人社会に吸収された。
 また、クフラックは黒魔族の占領下にあったこともある。数百年前には、半龍族の拠点であった時期もあるようだ。
 だから、クフラックには底知れぬ謎がある。

 プカラ双発攻撃機を運んだのは、クラウスの河川輸送船三隻だ。
 このプカラは、ノイリン西地区製のPT6ターボプロップエンジンに換装する。パワーが倍以上に向上するので、飛躍的な性能向上が期待できる。
 取り外したチュルボメカ・アスタゾウは、修理を試みる。動いてくれれば、ガスタービン発電に使う。
 この世界には、捨てるものなんてない。

 ウルリカが奔走し、ユリアナやアビーが協力して、ジブラルタルの移住者成人全員からC‐119フライングボックスカー二機の購入の同意を得た。
 代金を均等にジブラルタルの移住者の乳児を含めた頭数で支払うことに決まった。
 ジブラルタルの移住者の多くは経済的に困っており、航空機二機の代金を二〇〇人弱で均等に分けても、数年は楽に生活できる資金を得られる。
 燃料がなくて飛べない飛行機二機は、格安だった。
 彼らは、金貨での支払いを希望した。
 さらに、ジブラルタルからの移住者は残り二機の購入も要求してきたが、ウルリカは「燃料がない。交換するエンジンがない」と断り続ける。
 結果、先行二機の半値以下での購入に成功する。
 だが、実際にエンジンも燃料もない。

 この四機の購入で、ノイリン北地区は財政的に逼迫する。

 金沢は、旧アルプス山脈南麓の洞窟から回収した物資の中にあった、航空機のエンジンとナセル付きの内翼は、デ・ハビランド・カナダDHC‐5バッファローのものだと判定していた。
 エンジンは三一三二軸馬力を発生するGE製CT64‐820‐4ターボプロップであった。交換用エンジンも二基ある。
 計四基の三〇〇〇軸馬力級エンジンがあり、C‐119の三四〇〇馬力を発生する空冷二重星形一八気筒エンジンと交換しても、十分すぎるほどのパワーがある。
 CT64エンジンの始動に成功すれば、C‐119は大きな力になるし、予備のエンジン二基は始動に成功していた。
 さらに、エンジンナセルの再設計やエンジンが大幅に軽量化するための重心位置調整、などの改造計画が進んでいる。
 購入完了と同時に、改造に着手している。

 前年の秋に蒔いた秋蒔き小麦の収穫期には、四機のPZL‐130オルリク練習機は進空し、訓練任務に充てられた。
 我々の航空戦力は、確実に向上している。

 常用している輸送機は、ショート・スカイバン(双発、貨物)、ブリテンノーマン・アイランダー(双発、人員)、デ・ハビランド・カナダDHC‐2ビーバー(単発、人員、水陸両用フロート付き)の三機。
 アイランダーとビーバーは、ターボプロップに換装。ターボアイランダーには、内翼に懸吊する固定式の増加タンクが用意され、航続距離は二五〇〇キロに達している。
 三機とも非常に役立っている。
 これにターボボックスカーが加われば、大きな戦力だ。ターボアイランダーにエアトラクター用のフロートを付けて、水陸両用機化する計画もある。

 ノイリンからバラカルドまで、直線で六五〇キロある。真西に飛んで、大西洋岸に出て、海岸線に沿うと八五〇キロだ。
 我々のターボアイランダーは、ノイリン←→バラカルド間を何度も飛行し、物資と人員の輸送に活躍している。
 バラカルドには、ターボアイランダー用の田舎道のような未舗装一〇〇〇メートル滑走路がある。
 空路以外は海路だけが、ノイリンとの連絡になる。
 バラカルドはコーカレイに比べて、はるかに厳しい住環境だ。古代の石の壁に草葺きの屋根を載せて、全員がそこで寝起きする。ベッドはなく、地面に敷いた毛布にくるまる。
 常駐は八人。これは、ターボアイランダーの乗客数と同じだ。
 つまり、輸送機の搭乗人数=バラカルドの要員数なのだ。
 初期は二カ月交代を計画していたが、それでは誰も耐えられない。二週間交代になってしまった。
 ターボアイランダーは一週間に一度飛来し、交代要員四人と物資を載せて来る。

 俺は、俺との一時交代でやってきた金吾と話している。
「半田さん、ヒトを見ましたか?」
「いや、まったく。
 この遺跡だって、ヒトが造ったものか、わからない」
「壁画ですが、ヒトには見えませんね」
「ドラゴンが描かれているね」
「ですが、黒魔族のドラゴンとはかなり違いますよ」
「角が生えていない」
 俺の言葉に金吾が笑う。
 壁画のドラゴンには角はなく、トカゲの前肢が翼になったような動物だ。黒魔族のドラゴンは、ワニが含まれるクルロタルシ類、恐竜類、鳥類が属する主竜類から進化したことは確実。指の数から、クルロタルシ類に近縁だと思う。
 壁画のドラゴンは、もっとトカゲ的なのだ。この壁画はフレスコ画のような、ある程度のリアリティがあり、まったくの想像で描かれた可能性もある。
 だが、ドラゴンは、ヒトらしい動物と戦っていた。平易に考えれば、黒魔族のドラゴンがヒトを襲っているのだが、壁画はどうも違うように見える。
 金吾が同様の感想をいう。
「あの壁画なんですが、ヒトがドラゴンを狩ってるように見えるんですけど……」
「確かにね。
 狩猟のように見える」
「この辺はトカゲが多いんですか?」
「多いね。
 哺乳類よりも爬虫類を目にする」
「でかいトカゲは?」
「俺は見ていないが、何人かが見た」
「どんなトカゲです?」
「メガラニア並みの巨大さで、全長七メートル。
 推定だけどね。
 草むらから出ていた尻尾は、倒木と見間違ったそうだ」
「確実にトカゲですか?」
「足跡から、ほぼ間違いない。
 陸棲ワニの足跡とは違ってたからね」
「陸棲ワニ?」
「体長五メートル級で、かなりすばしっこい。脚が長いワニがいる」
「それがドラゴンなんじゃ?」
「壁画に描かれているドラゴンの可能性はある。
 ドラゴンは、有翼種だけじゃないからね」
「もしかしたら、有翼のドラゴンに似た生物が二種いるのかも?」
「その可能性はある。
 それと、この一帯にはドラキュロがいない。
 たぶん、直立二足歩行する動物がいないんだ」
「じゃぁ、この遺跡は?」
「数千年以上前のものだろう」
「すると、ヒトの遺跡じゃない?」
「たぶん」
「根拠は?」
「この遺跡は堅い花崗岩を積み上げて造られている。
 その花崗岩の表面が風化している。
 結晶が大きい花崗岩は、気温差が大きいと、構成する鉱物の熱膨張率の違いから風化しやすくなる。
 膨張と収縮を繰り返して、花崗岩は風化していくのだけれど、途方もない時間がかかる。
 この遺跡の花崗岩は表面の風化が始まっている。
 おそらく、数千年前、一万年以上前かもしれない……に建設されたんだ。
 だとすれば、ヒトが造ったものじゃない」
「精霊族か、鬼神族の祖先の遺跡ですかね?」
「そうとも限らないだろう。
 半龍族かもしれないし、すでに絶滅したヒト科動物かもしれない。
 いや、ヒト科動物以外かもしれない」
「セロを倒しても……」
「セロを倒しても、新たな敵が現れるかもしれない。
 でも、だからといって生存をやめることはできない」
「そうですけど……」
「セロは例外な可能性もある。
 実際、精霊族、鬼神族、半龍族は、友好的だし、取引もある。
 セロのような動物は、例外なんだと思う」
「そうならば、いいんですけどね。
 トカゲ人間とか、いますかね」
「それは、いないだろうな」
 俺と金吾は笑った。

 しかし、トカゲ人間を全否定するほど、二人の頭はおめでたくない。

 午後、俺は金吾に一時的に指揮を任せ、ノイリンへの帰途についた。
 若い機長は「海岸線は気流が悪いので、海上に出ます」と、離陸前に告げている。
 ターボアイランダーは、右手に陸地を見ながら、海岸線に沿って海上を飛行する。高度は三〇〇〇メートル。

 ビスケー湾上空は穏やかだ。
 俺は少し微睡んでいた。飛行機のわずかな揺れが心地よく、また疲れもあった。
 それに、最近のノイリン機は安定していて、信頼感がある。

 俺が目を閉じていると、副操縦士兼航法士に叩き起こされる。
「下方を見てください!
 ノイリン王!」
 副操縦士兼航法士は、蛮族だ。俺はノイリン王と呼ばれて、どうでもいい判断をしていた。
 心地よい昼寝から無理矢理起こされた俺は、少し寝ぼけていた。
 そんな俺の状態を無視して、副操縦士兼航法士が眼下を見ろと窓の外を指さす。

 二五〇メートル級戦列飛行船一二隻が、陸に向かって飛行している。
 大艦隊だ。
 陸側を見ていた乗客(バラカルドの隊員)が叫ぶ。
「陸側からも飛行船です」
 俺は席を移動し陸側を見る。
 陸側からは八隻の飛行船。二五〇メートル級二隻、一五〇メートル級六隻。
 俺は、二〇隻ものセロの飛行船を一度に見て、戦慄した。
 こんな大艦隊に攻撃されたら、いまのノイリンは陥落してしまう。

 だが様子がおかしい。
 陸側から海上に抜けようとしている飛行船八隻が、ロケット砲の三連装発射筒を九〇度旋回したのだ。
 陸側の艦隊は銀色の塗装、海側の一二隻は明るい空色の塗装だ。
 俺は副操縦士兼航法士にいった。
「高度を下げられないか?
 もっと近くで見たい」
 副操縦士兼航法士は機長にそれを伝えると戻ってきた。
「副操縦士席に座ってください。
 指示は直接機長にお願いします」
 俺は降下を始める直前の機内を前方に進み、狭い副操縦士席に座る。
 機長がヘッドセットの使用を手の動きで促す。
「機長、高度を下げて、安全な距離を保ってくれ」
「こちらの方が優速ですから、いつでも離脱できます。
 高度を下げ、艦隊の右に出ます」
「そうしてくれ」

 二つの飛行船艦隊は、明らかに反航戦を企図している。
 二艦隊は、すれ違いざまに砲撃戦を行う態勢だ。船速も早い。最大船速に近い大気速度で時速一〇〇キロ以上出ている。対地速度は時速八〇キロ以下だろう。

 ターボアイランダーの時速は三〇〇キロ。飛行船よりは圧倒的に速い。
 結果、二艦隊の周囲を旋回することが可能だ。

 銀色機体の艦隊は、フロリニア王国の国籍標識を描いている。
 空色機体の艦隊は、濃紺の円に白の×だ。これが国籍標識だとすれば、セロの国家間の戦いということになる。

 海から陸に向かって吹く風によって、空色艦隊のほうが対地速度が銀色艦隊よりも一・五倍ほど速い。
 相対速度は、時速二〇〇キロ。海上の艦隊決戦では相対速度時速八〇キロから一二〇キロくらいだからだいぶ速い。
 それと、相対速度時速二〇〇キロと速いのに、帆船での砲撃戦のように艦隊間の距離が近い。二〇〇メートルの距離ですれ違う態勢だ。

 単縦陣で進む空色艦隊一二隻の総延長は六〇〇〇メートルにもなるが、すれ違う時間は一一〇秒ほどだ。
 一一〇秒間の戦いが始まる。
 両艦隊が一斉にロケット砲を発射し、互いの機体を傷つける。
 空色艦隊はビスケー湾上空を陸に向かって進み、銀色艦隊は急速反転して、空色艦隊の追撃に移る。

 銀色艦隊は空色艦隊を追撃するが、なかなか追いつけない。
 空色艦隊の一隻が速度を落とし艦隊機動から脱落しそうな状態になる。
 他艦も速度を落とし、僚艦を守るように飛行する。
 銀色艦隊が追いつく。

 同航戦が始まる。
 距離三〇〇メートルで、同一方向に並行に飛行しながら砲撃している。
 双方とも煙を出し、炎も見える。
 五分以上も砲撃し合っている。
 一〇分に達すると、まともに飛行できる飛行船は一隻もなくなっていた。
 それでも砲戦は続く。
 推進力を失っても、ロケット砲の発射は続く。

 この状況は、ヒトにどう見えたか。
 機長がいった。
「勇気ではないですね。
 狂気としか……」
 その通りだ。ただの破壊、ただの殺し合い。

 セロの二艦隊の周囲を何度旋回したのか、俺は数えていなかった。
 ターボアイランダーは陸地の上を飛んでいる。
 機長がいう。
「燃料が心配です。
 バラカルドに戻りますか?」
「コーカレイまでは無理か?」
「飛べます。
 ですが、航法を間違うと日没前に着けないかもしれません。
 私は夜間着陸の許可がありません」
 俺は逡巡したが、コーカレイを選んだ。
「機長、コーカレイに降りたことは?」
「あります」
「では、コーカレイに向かおう。
 無線で見たことを報告しなければ……」
「コーカレイに向かいます。
 ノイリン王!」
 機長も蛮族だ。

 ターボアイランダーは、燃料に若干の余裕を残して、コーカレイの滑走路に着陸した。
 機長は用心深く、一回の着陸復行を行い、進入経路を確認する。
 着陸は衝撃をほとんど感じなかった。

 デュランダル、相馬、片倉の三人が心配顔で出迎えてくれた。
 俺が機外に出ると同時にデュランダルが問う。
「どうした、故障か?」
「いいや、燃料切れだ」
「燃料切れ?
 航法を間違えたのか?」
「洋上で、セロの艦隊同士が砲撃戦を始めたんだ。
 それを見物していた」
 相馬が尋ねる。
「セロ同士の戦闘ですか?」
「飛行船の国籍標識が異なっていた。
 たぶん、国が違うんだ。
 戦争だよ」
「どんな戦いでした」
「タブレットで撮影した。
 あとで見よう。
 ところで、あのテントは何?」
 片倉が答える。
「セロに襲われている遊牧民を助けたの。
 山脈のヒトみたい。
 言葉が通じないから、よくわからないのだけど」
 俺は立ち止まって、厚い白い布で囲まれた円筒形の大きなテントを見た。
 若い男が俺を見ている。不安げな顔だ。
 片倉が教えてくれる。
「彼が、現在の指導者。
 槍だけでセロに立ち向かった勇敢な若者よ」
「襲ったセロはどうしたの?」
 相馬が立ち止まった。
「装甲ドーザー四輌で……」
「やっぱり、セロは装甲車に弱いみたいだね。
 対戦車兵器を持たない部隊が、戦車と遭遇したら悲惨なことになる。
 セロは、騎兵と歩兵しかないようだ。
 いまのところは……、だけど……」
 デュランダルの意見。
「砲兵はいるよ。
 間違いない。
 ロケット砲の地上配備型があるはずだ」
 俺は同意する。
「そうだね。
 砲兵は絶対にいる」
 俺たち四人は城門をくぐった。
 デュランダルが続ける。
「遊牧民の保護をするので、コーカレイで適当な建物を探したんだ。
 家畜の飼料倉庫にヘリコプターが隠されていた」
「ヘリコプター?」
「小型のヘリコプターで、かなり使い込まれている」
 相馬が補足する。
「古い機体で、部品の供給用だったようです。
 部品の欠品が多いので、飛べはしないでしょう。
 白魔族は、飛行可能な同型を持っていた可能性が高いです。
 フルギア人の話しだと、ヘリを持ち出した様子がないので、コーカレイ内に隠されている可能性があります。
 調べています」
 デュランダルが話しを引き継ぐ。
「迂闊だったよ。
 もっとよく調べればよかった。
 ただ、隠し部屋や隠し倉庫は簡単にはね。
 偶然を期待するしかないのも事実で……。
 住宅の基礎の下に半地下の車庫があって、そこに戦車八輌が隠されていた」
「短砲身の三七ミリ戦車砲搭載型?」
「あぁ、いつものタイプだ」
「ヘリコプターと戦車は、あすノイリンに運び出す」
「六〇馬力のエンジンは使えるからね。
 車輌班が喜ぶ」
「いや、アシュカナンがヒト用への改造を希望している。
 アシュカナンはカンスクの突撃砲の影響を受けているんだ。
 以前から鹵獲車輌の売却を希望している。
 アシュカナンとの友好の観点からも、何も渡さないという選択はないよ。
 損傷痕のないコーカレイの車輌が一番いいだろう」
 片倉が自説をいう。
「セロと戦うには、戦車が必要。
 絶対に。
 リベットで装甲板をつなげているような戦車でも、役に立つよ。
 アシュカナンが装甲部隊を創設する手助けになると思うんだ」
 デュランダルの意見。
「練習用の戦車だよ。
 実戦には使わない」
 相馬がその意見を否定する。
「いやぁ、そうはならないでしょう。
 キンちゃんからの又聞きですが、第二次世界大戦の初期にドイツ軍が実戦投入したⅠ号戦車やⅡ号戦車は練習用だったわけですよ。
 アシュカナンも結果的に実戦に投入しますよ」

 四人は、司令部としている住宅に入った。
 フルギア人が造った建物なので、改装すればヒトにとって居心地はいい。
 白い壁、観音開きの窓、趣のある歪んだガラス、無垢の木製ドア。
 いい感じだ。
 デュランダルが楕円のダイニングテーブルに四つのグラスと、ジャガイモ焼酎のボトルを置く。
 グラスに二センチほどの深さで焼酎を注ぐ。
 四人は立ったまま、クラスを掲げ、飲み干した。
 これは、中央平原の再会を祝う風習だ。
 四人はほぼ同時に飲み干し、音を立ててテーブルにグラスを置く。
 そして、椅子を引いて座る。

 片倉がコーカレイの感想をいう。
「ここのほうが、ノイリンよりもヒトの街らしい」
 デュランダルが賛成する。
「確かにね。
 だけど、人食いに襲われたら長くは持たない。
 残念だけど、生き残るにはノイリンがいい」
 片倉が微笑む。
「では、ノイリンをもっと快適にしないと」
 相馬が賛成する。
「そうだね」
 俺がデュランダルに尋ねる。
「コーカレイに農地はあった?」
「牧草以外は、まったく。
 白魔族は肉食だからね。
 でも、黒魔族と違って、低い階級は労働をする。カリブーの牧畜はさかんだったようだ。
 この周辺にいるカリブーに似た動物は、白魔族が残していった家畜が野生化したんだ。
 放牧が主流だったようで、牧草の栽培は限定的だったらしい。
 農地は休耕地を含めてほとんどないよ」

 ノートパソコンの画面にセロの艦隊戦が再生される。
 相馬が分析する。
「空色の先頭から二隻目の命中弾なんだけど、映っているだけで二五発もある。
 なのに、落ちない……」
 デュランダルが相馬の意見を代弁する。
「飛行船は落ちないように作られていて、セロは敵国の飛行船でも撃墜はしないんじゃないかな。
 あるいは、敵の飛行船を奪い自軍で再利用しているとか。
 機体は破壊されたり、放棄したりするけれど、浮体は再生・再利用を繰り返すんだ。
 浮体は簡単には製造できないから、飛行船の数は限られる。
 飛行船の総数が一〇〇なのか、それとも一〇〇〇なのかはわからないけれど、限りがあるんだ」
 相馬が頷く。
「セロとの戦いようはあるよ」

 ターボアイランダーは、日の出とともに離陸。ノイリンを目指す。同じ機で、相馬がノイリンに戻る。
 四時間の飛行で、ノイリンの空港に着陸した。

 俺が不在の間、ウルリカの提案から、ノイリン北地区には〝防衛班〟という業務グループが誕生していた。
 業務グループは頻繁に分離と統合を行っていたが、軍事的な役割を担う業務グループは防衛班が初めてだ。
 防衛班は他業務グループとの兼任とされたが、それでも非生産的な業務グループの誕生は画期的だった。
 防衛班は、安全保障会議と参謀本部を足したような組織で、ノイリン北地区の危機と判断した場合、北地区代表が招集する。
 メンバーは、由加、ベルタ、フィー・ニュン、サビーナ、チェスラク、クラウス、金沢の七人だ。
 軍事行動の判断、作戦の立案を担当する。

 セロとの戦いは避けられない。
 この事実は共有されているが、ことさらセロを恐れるヒト、意味なく侮るヒト、無関心なヒト、北地区内であっても個々に温度差がある。
 北地区は、人口一〇〇〇を若干超えると増加が止まった。北地区には、移住者が増えない要素があるようだ。

 新居館の自室に戻ると、ケンちゃんがまとわりついて離れない。
 ちーちゃんとマーニがいろいろな出来事を話してくれるのだが、登場人物の半分もわからない。
 三人の話しに必死でついていく俺を、半分呆れた目で由加が見ている。
 チュールは仕事だそうだ。午後は、農場で働いている。
 チュールの父親は死に際、彼に「よき農夫になれ」と諭したそうだ。
 俺は「ガンマンにはなるな」という意味と解したが、チュールはストレートに農夫になることを選んだ。
 が、斉木はチュールに農学だけでなく、化学や生命工学も教えている。相馬は数学と物理を教えている。
 特別な教育は、チュールだけではないのだが……。

 作物を植え、家畜を育て、魚を捕り、動物を狩る。
 生きていくための営みをしたいだけだ。
 セロがそれを邪魔するならば、戦うだけだ。ささやかな幸せを守るために。
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