200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚

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第9章

09-217 海賊襲来

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 レムリアの東海岸には、大きな街どころか、小さな村さえない。
 例外はズラ村。
 いまだに村と呼ばれているが、東アフリカ内陸海路に面した西岸商業都市と比肩する発展を遂げている。
 そして、ザンジバルも発展している。海賊の大拠点であり、海賊たちの連合国家となっている。
 海賊たちには明確な目的があった。
 紅海を越えてやって来るアフリカ住民たちを襲うこと。
 彼らはかつて、ティターン海軍の精鋭であった。文明の極にあったティターンを貶め、野蛮人扱いするアフリカ住民に鉄槌を下す。
 ティターン軍が動けば報復されるので、海賊となってティターンの名誉のために戦い続けている。
 名目上は。
 その戦力は帆走・櫂走船80隻を超え、兵力はザンジバルの陸上防衛戦力を含めると1万に達する。
 この海賊船団の頭目は、若年の女性だという以外、よくわかっていない。父親の跡を継いだとも伝えられるが、それが真実だとする根拠はない。
 だが、世代を重ね、時間の経過とともにティターンとの関連性は薄れていた。
 いまでも、ティターンの名誉のために戦ってはいるが、それは表向きで、実際は私掠であり、海賊行為自体はザンジバルの海賊個々勢力の経済活動となっていた。

 インド洋を帆走する10隻の海賊船は、マダガスカル島のインド洋に面するアントゥンギル湾の入口付近に集結していた。
 アフリカ住民を捕らえて身代金を要求することが目的だが、キヌエティと呼ばれる奇妙な形状の船の乗員ならば無条件に殺すつもりだ。
 キヌエティがインド洋に出て南下を始めてから、船速で劣る帆走船のリレーで、どうにか追跡してきた。

「お頭、陸にいるのは20人ほどらしい」
 端整な顔立ちの女性は、父の副官だった男性から報告を受けていた。
「その20人、すべて殺せ」
 海賊たちの大部分は、ティターンへの忠誠心が薄れている。しかし、キヌエティは過去数十年間、多くの海賊船を沈めている。それは、見過ごせないことだった。

 2機のベル214が着陸すると、機外に飛び出してきた乗員が奇妙なことを叫んだ。
「湾内に帆船の船団がいる!
 帆に髑髏〈どくろ〉が描いてある!」
 探検船キヌエティの乗員なら誰でも知っている。
「海賊だ!
 海賊船だ!」

 海賊は、探検船キヌエティを目の敵にしている。それは、花山海斗が乗船したときに聞かされていた。
 上陸隊の隊長が海斗に「乗せられるだけ乗せて、すぐに飛べ」と命じる。
 隆太郎たちはウロウロ、オドオドしているだけだが、キヌエティの科学者たちは許可を待たずにベル214に乗り込もうとしている。

 3機のヘリコプターが離陸し、ポーターも続く。DUKWは内陸に向かって草原を走る。ポーターには、最初に接触した女性科学者と男性科学者が乗る。
 コミックの海賊旗を持つ一団が海岸方面から疎林を抜け、飛び去るヘリコプターを見上げてから、DUKWに弓を射かけてきた。
 すでに弓の射程外だったが、何本かは大落射角で、車体にあたった。

 海斗はエキュレイユの操縦をしながら、不審に感じていた。
「どこに行くつもりだ?」
 後席の便乗者2人は無言だが、エリシアが応じた。
「ほぼ真西に向かっているけど、マダガスカルの西岸には何もない。
 モザンビークじゃないのかな?
 あそこには、クフラックの拠点があるから……。
 あいつら、妙にとぼけていたけど、クフラックじゃないのか?」
「エリシア、だとしたらたいへんだ。
 950キロはある。
 エキュレイユで飛べる距離じゃない。
 それに、いくら中型でも、あれだってそんなには飛べないだろう?」
「いや、飛べるかもしれない。
 クフラックは2000キロ以上飛べるヘリを持っていたと聞いたことがある」
 海斗は少し考える。
「だとしても、いまはついていくしかない。
 いざとなれば、不時着する。
 海の上以外なら、どこにでも降りられる」

 モザンビーク海峡は潮の流れが速い。海流は北から南に流れ、海峡の中心部は非力な蒸気レシプロ船では流れに抗いきれない。
 帆走や櫂走船では、流されるだけ。
 海岸付近の海流は弱いが、櫂走で南から北に向かうことは不可能だ。
 また、マダガスカル島の東岸にも北から南への海流があり、この島の周囲を帆走や櫂走で航海することが難しい。
 これが理由で、レムリアはマダガスカル島に進出しなかった。長い歴史の中で、一時的に進出しても、事実上海路が遮断されているので、孤立してしまう。
 このため、現在でもマダガスカル島はヒトの版図にない。
 ドラキュロがいないのに……。

 海斗はベル214を追跡しながら、後席の科学者2人の会話を聞いていた。不安からか、年嵩の科学者が一方的に話し、若い女性の科学者が「そうですね」と気鬱気味に合いの手を入れている。
「マダガスカルには噛みつきがいない。
 とするならば、存在が推測されているサフルランドやジーランディアにもいないだろう。
 南北アメリカにもいない。
 南アメリカにいないのはパナマ海峡で隔てられているからだろうが、北アメリカはどうしてなのか?
 ベーリンジアでユーラシアとは陸続きなはずだし、ベーリンジアの南側と北アメリカの太平洋側には凍結していない通路があるはず。
 全部、推測だけど……」
 女性の科学者は、上の空ではあるが、同僚の話を聞いてはいた。
「先生、過去200万年でいまが一番暖かいそうですよ。
 全球凍結は免れたけど、一時は北緯35度より北は氷河に覆われたことは確実ですから。
 南半球はマシだったけど、それでも南緯45度以南が氷に覆われた……。
 先生、ヒトはアフリカでしか生きていけないのです。いままでも、これからも……。
 気温の上昇はゆっくりで、ときどき寒冷化するそうです。
 そして、あまり暖かくはならないとか。
 たぶん、アラスカは厚い氷に覆われていますよ」
 年嵩の科学者は反論したかったが、論拠が乏しい。それに、ベーリンジアが氷雪に覆われている論拠も乏しい。彼女もそれを知っている。
 北アメリカにもドラキュロはいるかもしれない。ただ、セロはヒト科でもヒト属でもない。
 ドラキュロは希に、セロをヒトと誤認することはあるが、種としてヒトから遠いセロを通常は襲わない。
 ベーリンジアに温暖な回廊があったとしても、ヒトがいない北アメリカには、ドラキュロがいない可能性がある。
 ドラキュロが侵入する理由がないからだ。

 途中、平原に着陸し、燃料を補給する。エキュレイユの残燃料を尋ねられた海斗は「まだ350キロは飛べる」と答えると、ベル412のパイロットは「じゃぁ、大丈夫だ」と返答した。海斗には何が大丈夫なのかわからなかった。
 単発の固定翼機は、姿が見えない。
 1回の着陸を含めて、2時間ほど飛行すると、眼下に街が見えてきた。
 海斗の知識が正しければ、あり得ない。
 同時に年嵩の科学者が叫ぶ。
「あり得ない!
 マダガスカルにヒトの街はない!
 痕跡と遺跡以外は!」
 女性の科学者がポツリと。
「去年はなかったと思うけど……」
 2人とも動揺している。

 飛行場に着陸すると、エリシアが巨大な4発機に向かって走り出す。
 上空から見えた機体だが、それ以外に数機が屋根付き掩体に格納されている。1機は高翼の輸送機、もう1機は低翼の輸送機。中翼の双発機もある。
 小型と中型機多数。
 見慣れた機体もある。
 カイユース、ディフェンダーあるいはフライングエッグと呼ばれる小型ヘリコプターだ。

 エリシアは感情を表に出さないクールな女性だが、飛行機に対しては違う。
 巨大な4発機が貨物輸送機だと知ると、興奮なのか何を言っているのかわからないほどの早口でしゃべっている。
 共通アフリカ語ではなく、ブルマン固有のブルマン語で!
 理解できたのは「エンジンの名はT56-A-15で、4500馬力を出すそうだ!」と叫んだことくらい。
 確かに大出力で、王冠湾、バンジェル島、クフラックでもこのクラスのターボプロップエンジンはない。
 バンジェル島が少数製造する2500馬力から3000馬力クラスのダートが最大だ。
 海斗は4枚ローターの中型ヘリコプターは、PT6系列の双発を搭載していると聞いた。
 航空機に関する限り、バンジェル島やクフラックとは別系統ではないか、と考えている。ならば、彼らはアフリカに住むヒトではない。
 海斗は、カラバッシュ、救世主、アトラス山脈東麓の航空機についての知識もある。
 この飛行場にある機体は、それらとも系統が違う。ただ、一部は重複するのだ。
 カイユースがそうだし、セスナはアトラス山脈東麓が製造している。
 海斗の判断では、アフリカ諸地域とまったく無関係ではないようにも感じるのだ。

 梨々香は飛行場での騒ぎを知っていた。
 知らないはずがない。
 200万年後のヒトがヘリコプターに乗って現れたのだから。どんな姿なのか見たかったが、見物に行く暇がなかった。

 マハジャンガの開発は遅れてはいなかったが、順調とも言いがたかった。
 この地にやって来て1カ月強、できることは限られ、すべきことが多すぎた。
 植物由来のディーゼル用燃料の供給は順調で、農機や建機、ディーゼル車は動かせるが、ガソリン車や航空機は使用を制限されていた。
 しかし、上空からなら“立派な街”の体裁になっている。

 花山海斗は、どうすべきか思案している。
 飛行場には、見たことのない型式の戦車4輌が警戒にあたっている。
 高射砲もある。
 これだけの兵器を有しているのだから、戦う相手がいることになる。
 それが、ドラキュロやセロならばいい。しかし、ヒトであった場合は異なってくる。
 邪悪なヒトの集団は存在する。たいていは狂信者の小集団だが、ティターンのような例外もある。
 警戒している。

 エリシアは一時の興奮から冷めている。
「エリシア、いざとなったら、あのカイユースをかっぱらえるか?」
 海斗は顎をしゃくって、卵形の胴体をした小型ヘリコプターを示す。
「悪いヒトたちじゃなさそうだよ」
「でも、警戒はしたほうがいい。
 エキュレイユに6、カイユースに4、全員が乗れる。
 小型機は無武装のようだから、追跡を振り切れる。いや、追われはしないだろう」
「残念だね。
 ヘリの操縦は経験がないんだ。
 あの中型ヘリは飛ばせない?」
「どうかな。
 どうやって飛ばすんだ?
 それに、エキュレイユを残してはいけないし……」

 カイトとエリシアの企みは、2人の男性によって中断された。飛行場の職員らしが、伝えられたのは「事情を尋ねたい」だった。
 海斗は「この場なら応じるが、ヘリからは離れない」と答えた。
 2人は微笑んで、了解する。

 互いの言葉は、ゆっくりとしている。完全には理解できず、会話の内容は6割から7割が疎通の範囲。当然、質問は簡単な事柄に限られる。
 質問に答える役は海斗だった。
「どこから来ましたか?」
「船が発したのは、王冠湾。
 最後に寄港したのはズラ湾」
「船?
 どんな船ですか?」
「探検船キヌエティで、総トンで1万トンくらいの大型船だ」
「その船の目的は?」
「マダガスカルとアフリカ南部東岸を調査していた。
 俺と彼女はキヌエティの乗員で、俺はヘリのパイロット兼整備士兼雑用係。
 彼女は整備士兼固定翼機のパイロット」
「固定翼機も搭載しているのですか?」
「小型機を積んでいる」
「あなたのヘリは?」
「機体開発はクフラックで、王冠湾がノックダウンしている。
 エンジンはバンジェル島製」
「その島は大きいのですか?」
「バンジェル島を知らないのか?」
「……」
「あんたたち、何者だ?」

 探検船キヌエティは、上陸隊から「海賊襲来」の一報を受けてから、船首を北に向けた。
 その後、搭載機からの「謎の中型ヘリに追従」の報告を受け、最大船速で北上を始める。
 さらに、搭載機は「西岸の街に着陸する」と報告してきたが、この「西岸の街」がどこにあるのかがわからなかった。
 西岸とはマダガスカル島の西岸と解せるが、そこに街はない。アフリカなら東岸になる。
 そのアフリカにも街はない。
 ただ、搭載機は「真西に向かっている」とも伝えている。
 船長は、半田辰也にマダガスカル島西岸への捜索飛行を命じた。

 巨大移住船の航空機には、大きな欠陥があった。
 移住委員会が所有する即飛行可能な小型機がないのだ。
 理由は残留者との物資の分配の問題で、行政が保有する飛行可能な小型機が残されたからだ。
 移住者たちは、表向きの移送を4発固定翼機機1機、双発固定翼機3機、中型回転翼機2機、小型回転翼機4機としたが、実際には他にも航空機を船倉に積んでいた。
 小型固定翼機もあるが、こちらは個人所有のセスナ172だ。このセスナ172を所有者たるパイロットごと、移住委員会が借り上げる。

 航空機用燃料は枯渇している。かき集めても、どうにか何機か1回を飛ばせる程度しかない。
 その燃料をベル412で使ってしまった。
 しかし、航空ガソリンなら少しはある。
 正体不明のヘリコプターが飛んで来たことから、哨戒飛行が必要になった。
 そこで、慌ててフロート付き水陸両用のセスナ172の整備が始まる。

 梨々香は200万年後のヒトを見てみたかった。
 単なる好奇心であり、梨々香としてはサクラに話してあげたかった。
 200万年後のヒトについては、珍しい動物のような感覚だった。

 梨々香は飛行可能な航空機が、非常に少ないことは知っていた。大消滅後、日本で無事だった空港は高知空港だけで、それ以外は航空自衛隊岐阜基地のみ。
 この2カ所にあった機体だけが、無事だった。だが、大災厄以後の混乱と、大消滅による整備用部品の枯渇によって、飛行可能な機体は急速に減じていった、と聞いていた。
 結局、部品の共食いができる機種を再整備することで、小数機だけが整備・維持された。

 各機の整備は、完全な人力作業だった。脚立さえ不足していて、ドラム缶で代用している。
 セスナ172の機首を上げるために、4人が後部胴体に乗って重りの代わりをした。
 格納庫内で作業せずに、屋外ならクレーンが使えるだろうに、と梨々香は思ったが、たぶん、200万年後のヒトたちに見られたくないのだろう。
 梨々香は、飛行場の支援要請を受けて指定された格納庫に仲間とともに出向いていた。
 梨々香は作業中に、このセスナ172が航空博物館に展示されていた機体の部品を流用しながら、完全分解後に再生された機体なのだと聞いた。
 小型ヘリコプターのローター取り付けも手伝った。その機はベル206Aジェットレンジャーで、モスボールを完全に剥ぎ取られていない。
 それと、梨々香にも理解できる情報も聞かされた。
「エンジンはアリソン250、PT6系、T64-IHI-10J、T56-A-15の4種類を使っているんだ。
 ガスタービン発電用はアリソンT56-A-15なんだ。このエンジンは、P-3Cオライオンから外したものだよ。
 こいつの整備も我々の担当だ。 
 だけど、飛行機の絶対数が足りない。
 我々は、切羽詰まっているんだ」
 梨々香は、その言葉の意味をよく理解できた。
 農機、建機、自動車が使っているエンジンだって、大消滅以前に製造されたものだ。
 ただ、自動車のエンジンは航空機エンジンと比較すれば、大量にあった。自動車については融通が利くが、量的に少ない航空機エンジンは自動車よりも切羽詰まっていることは事実だ。
 岐阜にあった解体機の残骸から回収した部品やエンジンだって大事に保管している。

 セスナ172のモスボールを解くと、テント倉庫を使った格納庫の扉が開かれ、機体を太陽の下に引き出す。
 この機体はまだ飛べないのだが、すぐに飛べそうな機体を見せることで、200万年後のヒトを牽制しようとしている。
「逃げても、追えるぞ」と。

 エリシアが海斗の袖を引っ張る。
「見て」
「小型機か?
 横に立っているのは、パイロットか?
 あれに追われると、厄介だぞ。
 下駄履きだがヘリよりも絶対に速い」
 エリシアが舌なめずりをする。
「あれなら、私でも飛ばせる」
 海斗が慌てる。
「やめておけ。
 もめ事を起こすのは、もう少し様子を見てからだ」
「そうだね。
 どうせ盗むなら、あの4発機よ」
 彼女が見ているのはC-130ハーキュリーズで、双発のビーチクラフト系列はまだ格納庫内にある。
 海斗は、ブルマン出身の少女の言に略奪民族たる彼女の祖先の面影を見ていた。

 半田辰也は、単独で飛んでいた。偵察員を乗せるべきだとは思うのだが、船長から「その必要はない」と彼の意見は却下された。
 理由はわからない。

 アントゥンギル湾の最深部には、12隻の帆走・櫂走船が群がっていた。
 帆を下ろしているが、ティターン系の海賊船団だ。
「ティターン船を発見。
 12隻。
 観測基地に人影なし。
 ヘリとDUKWもなし。
 内陸に向かって捜索範囲を拡大する」

「見つけた。
 海岸から約2キロ北にDUKWがいる。
 その前方に見たことのない小型機が飛んでいる。
 明らかにキヌエティの搭載機ではない」

 辰也は、キヌエティからすぐに応答がないことに苛立っている。
 海賊船団は想定の範囲内だが、眼下を飛ぶ単発機が何なのか理解できない。

 キヌエティの船内は混乱していた。
「単発機とは何か?
 所属はわかるか?」
 辰也は答えようがなかった。
「高翼の単発機。でも、サファリではない……。キャビンは主翼の下にあって、上からだとセスナに似ている」
「アトラス山脈の飛行機じゃないのか?」
「いや、そうは思えない」
「軍用機か?」
「いや、違う」
「では、何なんだ?」
「わからない。
 上空からだと、民間機に見えるけど……」

 しばらく反応がなく、辰也は上空の旋回を続ける。
 DUKWの車上から数人が手を振っている。辰也は危険を承知で、高度を下げる。
 周囲の森の樹高は高くない。せいぜい25メートルほど。現在でも十分に低空だが、正体不明の高翼機に比べると高度が高い。

 DUKWの周辺を旋回する高翼機は、単発だがかなりの大型だった。辰也は自機が発見されることを恐れて、高度を上げていた。
 地を這うような超低空の旋回を2回して、大型単発機はスロットルを開いて上昇に移る。
 辰也も呼応して、高度を上げる。
 同時に新たな指示を受ける。
「真西の海岸に街があるか確認せよ」
 マダガスカル島に街はない。村もない。遺跡以外にヒトの痕跡はない。その遺跡にしてもヒトのものかわかっていない。
 無駄だとは思うが、辰也は気楽に飛ぶことにする。

 辰也は真西よりもやや北西寄りに飛ぶ。
 そして、西岸の海岸線に達すると機首を南に向ける。

 15分ほど飛行すると、街があった。
 街だけではない。巨大船もある。
 辰也は上部構造を解体中の巨大移住船を建造中だと誤認した。
「人口1万規模の街と、建造途中の巨大船を発見!」
 同じ言葉を2度繰り返し、場所を告げる。
 最後に「こんなデカイ船、見たことがない!」と。
「場所は、ボンベトカ湾北岸!
 湾の最深部付近!」
 辰也は興奮していたが、すぐに覚める。
 複数の高射砲を認めたからだ。
「対空兵器多数。
 いったん離れる」
 辰也は命令を待たずに、謎の街の上空から離れる。
 行動の選択肢はなく、アントゥンギル湾のやや北を航行しているはずの探検船キヌエティに向かう。
 燃料は、どうにか足りるはず。しかし、母船の発見に手間取ると、不時着することになる。
 悪い考えを振り払って、東に向かって飛ぶ。

 マダガスカル島の地理・地形は、基本的には200万年前と大きな違いがない。
 南北に延びる山脈は東に寄っていて、東の山麓には森林が広がる。雨の多い東側も海岸部は、草原と疎林が半ばする。
 西側は平地が多く、山岳部を除けば、ほとんどが草原で疎林が混じる。海岸には広い砂浜が広がり、乾燥化の傾向はあるが砂漠化はしていない。

 マダガスカル島に哺乳類がいないことは、アフリカに進出したヒトによって早くから知られていた。
 200万年前は原猿の楽園だったが、200万年後は走鳥の天下だ。走鳥はスズメ程度の大きさから、頭頂部まで5メートルに達する大型種まで多種多様に存在する。
 ヒトが住みやすいか、と問われれば、否との答えが多い。
 ナイル川河口部流域など、ヒト科が進出していないもっと住みやすい場所がある。

「なぜ、マダガスカルなんだ?
 もっといい土地があるだろう?」
 半田辰也は、余計な考えをしながら、標高2000メートル級の山脈を飛び越えた。

 特筆するほど高くない山脈だが、雲がかかる。この雲が東麓に大量の雨を降らせ、山脈を越えた雲は西麓に適量の雨を降らせる。
 森林の多い東麓は小型の走鳥が多く、草原の多い西麓は巨大で多様な恐鳥が跋扈する。
 その恵みの雨を降らせる雲は、辰也にとっては邪魔でしかなかった。
 地上・海上が見えないからだ。
 海岸に向かって飛び、雲の切れ目を見つけて高度を下げる。
「大当たりだ!」
 辰也が推測した通りの位置を、探検船キヌエティが北に向かって航行している。
 辰也は操縦には自信があるが、航法には一抹の不安があった。これが、彼の自己評価だったのだが、今回はどうにかなった。
 次も上手くいくか?
「幸運なだけ」
 小声で自己評価のアップを否定する。
 もともと自己評価が低いが、その低さが用心深さにつながっている。

 辰也は、探検船キヌエティの船尾から着船体勢に入り、アレスティング・フックを確実にワイヤーに引っかけた。

 その直後、辰也のサファリを飛び越して、例の単発高翼機が着船したのだ。アレスティング・ワイヤーを頼らず、たった10メートルの滑走で着船した。

 半田辰也は、船長と航海士から事情を聴取されたが、航海士の口調は尋問のようだった。
「エキュレイユは、地上にあったのか、なかったのか!」
「俺は見ていない」
「見ていないとはどういう意味だ!」
「地上には、複数の格納庫があった。
 掩体も。
 上空からでは格納庫の内部はわからない。
 地上には、4発の大型と単発の固定翼機が駐機していた。小型のヘリも1機。ヘリはたぶんカイユースだ。
 中型ヘリも駐機していた。
 小型ヘリは絶対にエキュレイユではない。
 で、航海士“閣下”はビデオを見たのか?」
 地上は映像として記録されている。それを見れば一目瞭然なのだが、航海士はそんな基本的なことを怠っていた。
 辰也が発した“閣下”の敬称に船長が失笑し、辰也と航海士を「まぁ、まぁ」となだめる。
 船長が辰也に「偵察、ご苦労でした。ゆっくり休んでください」と慰労し、航海士は憮然とする。

 サリューは海斗が心配だったので、食堂にいる辰也を見つけて“尋問”する。
 だが、彼女の心配はよく理解できたので、立腹することはなかった。
「大きな街だった。
 突然、あんな街ができるなんてあり得ない。
 普通なら何年もかかる」
「タツヤ、飛行場はあったの?」
「あったよ。
 滑走路が1本。巨大な格納庫が6つ。土を固めた掩体に囲まれていたから、戦いを知らないわけじゃないと思う。
 つまり、平和な連中じゃない」
「エキュレイユは?」
「なかった。
 少なくとも見なかった。
 擬装されたか、格納庫の中だ。建物の陰だったかもしれない。
 飛行場に複数の対空砲を配置して、掩体を造るような連中なんだから、戦い慣れしている。
 拿捕か、鹵獲か、救助かは別にして、エキュレイユを視界に晒したりはしないよ。
 無事かどうかは別だが、海斗は生きているはず」
「墜落は?」
「サリュー、それはない。
 海斗は着陸すると報告したし、撃墜されたような痕跡はなかった」
「タツヤ、これからどうするのかな?」
「船長がどうしたいかだが、まずDUKWを回収しないと。
 それと、強行着船した高翼機が何者なのか?」

 鮎原梨々香は、花山海斗の話を聞いて狼狽していた。海賊に襲われたとの説明だが、梨々香の海賊に対する知識はアニメとコミックしかない。
 どう理解したらいいのかわからず、不安が募っていた。

 海斗たちには、行動の制限がかけられなかった。ただ、「飛行場外へは出ないでほしい。飛行機には近付かないように」と言われただけ。
 殺風景な飛行場だが、パイロットの待機所や整備員たちの休憩所があり、会話も制限されなかった。
 ライチジュースが飲み放題なのは気に入った。
 整備士はエキュレイユをチェックしてくれていて、パイロットたちからも話しかけられた。

 燃料を他の飛行機から抜いて、カイユースに回し、ポーターの捜索に行く検討がされていた。
 梨々香は同行したかったが、サクラのことを考えると躊躇われた。

 探検船キヌエティ着船前に戻る。
 ポーターの無線では山脈が障害になり、マハジャンガには届かない可能性がある。
 萱場隆太郎と調査員は、通信を諦めかけていた。
「どうする?
 萱場さん、不時着する?」
「どうしましょうね。
 あの船に降りましょうか?
 あの船に興味がありますけど……」
「あの探検船に?」
「えぇ。
 選択肢もありませんし……」
「じゃぁ、そうしましょう」

 調査員が大声で後部座席の便乗者に伝える。
「あんたたちの船に降りる。
 生命を保証してくれ!」

 隆太郎は、翼よりも前にキャビンがあるMFI-15サファリが着船する間隙を利用して、全通飛行甲板よりも低空で接近し、一瞬だけホップし降りた。
 辰也は、その着船を間近で見た。
「曲芸だな」
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この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

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