200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚

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第10章

10-235 完新世の終焉

 レイク・レネゲードの無線は、受信はできるが送信ができない。
 桃華は誰かと通信する意思がなかったので、送信を試したことがなかった。だから、無線が故障していることに気付いていなかった。

 サクラは無線交信に固執しなかった。どこの飛行機かはわからないが、可能性としてはクフラックが一番だろう。
 探検船を使うバンジェル島は、陸上の観測基地少ない。
 だが、どんなに奇妙奇天烈な形状だろうと、単発であることが解せなかった。
 サクラは迷ったが翼を振って、帰投に着いた。

 桃華は「日本語だったよ。聞いたでしょ。日本語だよね」と太志に確認する。
「あぁ、日本語だった。
 追うんだ。無理してでも追うんだ」
 胡桃は大喜びで「行けぇ~!」と大はしゃぎ。

 フロート付きのセスナ172では、巡航時速は230キロ程度。ターボプロップなのでパワーがあり、かなりの性能向上を果たしているのだが……。
 一応、下駄履きでありながら、速度が出る。
 だが、レイク・レネゲードもターボプロップに換装している。こちらは、空力がいいので、もっと速い。

「追いかけてくるよ」
 サクラの発言に、乗客全員が見にくい後方を確認しようとする。
「左翼側、後方100メートル」
「ホントだね。
 追ってくる」
 海洋学者の確認にサクラが疑問を伝える。
「クフラックじゃないのかな?
 クフラックのこと、なぁ~んにも知らないけど」
「クフラックじゃないだろうねぇ。
 クフラックならフロート付きのツインオッターだろうし……」
 海洋学者の解説に乗客の全員が賛成する。
「誰かわからないヒトを連れ帰っていいのかなぁ?」
「サクラちゃん、そんなことは船の連中に任せよう。
 それに、困っているのかもしれないし」
「例えばぁ?」
「燃料が足りないとか、食糧がないとか。
 行き場所がないとか」
「わかったぁ~」

 サクラが左後方に占位する単発プッシャー式中翼機に通信する。
「ヘンな飛行機、聞こえてる?」
 うっかり日本語で語りかけたが、正体不明機は主翼を振った。
「え!
 日本語わかるの?」
 また主翼が振られる。
「ついてきて、400キロくらい飛ぶよ」
 もう一度、主翼を振る。

 桃華は前方を飛ぶフロート付きのセスナに聞きたいことがたくさんあった。
 追及していくことが正しいのか、安全なのか、まったくわからない。
 だが、このままでは早晩行き詰まる。それだけは確かだった。
 彼女は心の中で「恐竜と戦いながら生きていくなんてできない」と呟いていた。
 だから、心の中で急速に顕在化していく不安を太志には伝えなかった。

 胡桃は、地質学者の独り言ちを無線を介して聞いていた。機内の会話は、探検船ラス・ダジャンがモニターしている。これは、主に非常時の対応を目的にしていた。

「新生代第四紀完新世は、大消滅で終わった……。大消滅は大災厄によって進んでいた生物絶滅を決定的にした。
 大災厄の1万1000年前に更新世が終わるが、257万年続いた更新世に対して、完新世はたった1万数千年。
 バランスが悪いねぇ。新第三紀の鮮新世は242万年、中新世は1800万年続いた。
 この短さは、何なんだ。
 もしかしたら、完新世なんてなかったんじゃないか?
 完新世は、更新世末の絶滅期でしかなかったんじゃないか?
 ヒトが文明を築いた時代じゃなく、ヒトを含めた一部生物の絶滅がゆっくりと進んだ期間じゃなかったのか、と思うんだよねぇ。
 大災厄と大消滅が終焉を決定したとしても、それも過程の一部だったんじゃないかって……」
 海洋学者が「完新世はなかった、という説はおもしろいね」と相槌を打つ。
 地質学者が続ける。
「あったとしても、とっくに終わっている。
 いまは新しい地質年代なんだ。
 名前はまだないけどね」
 海洋学者が「で、いまはどういう地質年代なの?」と問う。
 地質学者が少し考える。
「不思議だね。
 地質年代は、生物種の栄枯盛衰から地球規模の事変を階層化したものだけど……。
 現在、ユーラシアの東側は有胎盤類よりも有袋類のほうが繁栄している。
 ユーラシアの西側と赤道以北アフリカは有胎盤類が主だけど、赤道以南アフリカではクルロタルシ類が繁栄している。
 陸棲ワニなんて、まるで恐竜だ。
 一方、マダガスカルは鳥が支配している。
 オーストラリアやニュージーランドがどうなのか、まったくわからない。
 まだ、調査していないからね。
 大災厄から200万年を経て、いまだ世界の生物相は安定していないのかもしれない」

 桃華と太志が顔を見合わす。
「大災厄から200万年って……」
「あぁ、確かに聞いた。
 どういううことなんだ?」

 サクラは、地質年代についてはよくわからない。だが、200万年後が200万年前とは、まったく違っていることはわかる。
 房総であれほど悩まされたニホンザルだが、サルはレムリアにもアフリカにもいない。
 南アメリカの広鼻猿についてはわかっていないが、ユーラシアやアフリカの狭鼻猿は絶滅したらしい。ヒト科以外の霊長類は、セロしか見つかっていない。
 そのヒト科だが、ヒト属以外はすべて滅んだ。ヒト亜科のチンパンジー属とゴリラ属、オランウータン亜科のオランウータン属は発見されていない。
 環境の変化に適応できず、滅んだ。
 ただ、北方人から森のヒトの存在を聞いていた。マハジャンガが知っていることは、あまりにも少ない。
 サクラは探検船に乗ってから、世界のすべてを知りたいと思うようになっていた。

 探検船ラス・ダジャンは、棚氷の一部崩落が引き起こす津波を警戒して、アフリカ東岸の名もない内湾に全速で向かっていた。
 海面が穏やかな内湾のほうが水上機を回収するのに都合がいいことも理由だった。

「見えたよ。
 ラス・ダジャンだ!」
 サクラが湾の深部に向かう船のウェーキを見つける。
 同時に高度を下げていく。

「両舷停止」
 船長の指示で、探検船ラス・ダジャンのスクリュー・プロペラが回転を止める。船は、惰性で進む。

「お姉ちゃん、大きな船だよ!」
 胡桃の驚きは、桃華と太志の驚きでもあった。
「水上機、着水する気だね」
 桃華の言葉に震えがある。
「ここが200万年後ならば、俺たちだけでは生きていけない。
 あの船に賭けてみる?」
 桃華は不安だった。
「無謀な賭だよ」
 胡桃は違った。
「あの水上機のパイロット、私と同じくらいの子だったよ。
 友だちになってくれるかなぁ」
 桃華には友だちがいない。胡桃にもいない。太志にもいない。友だちとは何かを桃華と太志は知っているが、胡桃は知らない。
「私たちも降りよう」
 桃華は意を決した。

 探検船ラス・ダジャンの船上は大騒ぎだった。
 正体不明の単発飛行艇が現れたからだ。
 だが、船長は迷わなかった。
「どこの機であれ、この状況では支援すべきだ。まぁ、クフラックかバンジェル島の観測機か偵察機だろう。
 支援をすれば、それなりの接触にもなるし……」

 水上機がクレーンで吊り上げられる。
 太志は機体の上によじ登り、クレーンのフックをレイク・レネゲードにかける準備をする。
 単発飛行艇が引き上げられていく間、太志はエンジンナセルにしがみついていた。

 3人は船内の狭い部屋に通された。拘束されている様子はなく、茶と菓子が振る舞われた。ただ、ドアの外には見張りがいる。
 ドアの外で幼い声が聞こえる。
「えぇ~、どうして会っちゃ行けないのぉ~」
「船長がお話になってから!」
「つまんなぁ~い」

 1時間以上、3人は緊張しながら待つ。
「お待たせしました」
 船長と航海士が入室する。
 太志と桃華が席を立ち、2人を見て胡桃も従う。
「おかけになってください」
 船長に促され着席する。
「どちらの方ですか?
 クフラック?
 それともバンジェル島?
 日本語がわかるから、バンジェル島でしょうか?
 このまま日本語でいいですか?
 私は、共通語があまり得意ではないのですが……」
 桃華が説明する。
「あの、私たち、海外残留の日本人です」
 船長が小首をかしげる。
「海外残留?」
「はい、大災厄後、海外に取り残されて、日本に戻れなかった海外残留日本人です」
「……?????」
 太志が尋ねる。
「この船は、どういう?」
「マダガスカル島マハジャンガの探検船ラス・ダジャンです。
 アフリカ南端付近東岸に巨大な棚氷が浮遊していることから、その調査に来ました」
「アフリカ……、ですか?
 俺たちニュージーランド南島東岸付近を飛行していたんです。
 突然、落雷に襲われて……」
「……。
 ここはアフリカの南端の近くで、いまは大消滅から200万年後です。
 時渡りしたんじゃないですか?」
 太志は少し狼狽していた。
「時渡りをする気はまったくありません。
 俺は何年も日本に帰るために足掻いていました。
 ビーバー、水上機ですけど、を燃やされてから、飛行機を探し歩いていたんです」
 船長は、しばしば聞く時系列破綻ではないかと感じた。
「時系列破綻って知っていますか?」
「それは、何ですか?」
「ゲートを開け閉めしながら、時渡りをすると、時間の前後が起こることです。
 場合によっては、誰もいない時代に時渡りしてしまう……」
 太志には何が起きたのかわからない。
 桃華が引き継ぐ。
「私たち、時渡りには懐疑的だったんです。
 だから、時渡りはしていないんです」
 船長にも3人の事情はわからない。
「ですが、ここは200万年後。
 あなたたちは時渡りしたんです。意図しないことかもしれませんが……」

 桃華と太志は衝撃を受け、今後どうすべきか、どうすることができるのかわからなくなってしまった。
 ただ、船医による健康診断は受け入れた。

 サクラは胡桃とすぐに仲良くなった。
 200万年前の房総で、数人で暮らしていたサクラには胡桃の戸惑いがよくわかる。
 だから、積極的に話しかけて、親しくなろうと努力した。胡桃には初めての友だちで、共通の話題は飛行機しかなかった。
 だが、ある意味、この話題は2人には好都合だった。

 探検船ラス・ダジャンは、マハジャンガに「時空遭難者発見」を知らせる。
 クフラックやバンジェル島は、希に時空遭難者と呼ばれる、たいした装備なしで時渡りをしてくる少人数のグループを発見している。
 ほとんどの場合、所持品と住居の痕跡や遺骨だ。
 こういった事例は、意図して時渡りしたが、先行するヒトを発見できなかった場合が多い。
 だが、書き残されたメモや手稿には、時渡りをした自覚のないヒトたちもいた。
 船長は、桃華たちを後者だと考えたし、乗船している科学者たちも同意見だった。

「あのね、お姉ちゃん!
 マハジャンガには学校があるんだって!
 サクラちゃんが言ってた」
 胡桃の期待が増すほどに、桃華の不安が増していく。3人はヒトの社会で生きていく術を知らない。
「どうやって生きていけばいいの?」
 桃華の問いに太志は答えられなかった。
「いまになって気付くんだけど、日本に戻ってからどうするのかを俺は考えていなかった。
 生きていく、生活する方法は俺たちに何かあるのかな?」

 船内の食事は、3人にはご馳走だった。船内にいる限り、食べることには困らない。
 しかし、その後は……。

 太志は船内図書室へ本を借りに行った。もう少し、読み書きの訓練をしたかったからだ。
 そこで、地理学者と生物学者に会う。
「佐竹太志さんでしょ」
 地理学者に声をかけられた。
「はい……」
 生物学者がジュール・ベルヌの『地底旅行』から目を離す。
「あなたの飛行機だけど、水面があればどこでも降りられるの?」
「あれは、俺の機じゃなくて、桃華と胡桃のもので……。
 1500メートル以上の水面があれば、どこにでも降りられます。水深は2メートル以上はあったほうが……」
「最近、リュウさんの付き合いが悪くて。飛行機ごと雇いたいって言ったらイヤかな?」
「雇う?
 お金を払ってくれる?」
「もちろんだよ。
 学術調査委員会からの支払いになるけど、飛行機も一緒ならそこそこ出るんじゃないかな?
 費用だけど……」
「はぁ、相談してみます」

 桃華、胡桃、太志の話し合いは、延々と終わらない。
 胡桃には、何が問題なのか理解できない。
「飛行機を飛ばしたら、お金をくれるんでしょ。
 それで、いいじゃん」
 胡桃の言葉遣いが、急速にサクラ化している。
「サクラちゃんのお父さん、本当のお父さんじゃないんだけど、サクラちゃんたちもパイロットとして働いたんだって。
 サクラちゃんのお父さんは、いまはナントカ補佐とかの偉いヒトなんだって!」
 桃華と太志は、固定翼機パイロットとして生きていく以外の選択肢がないことを理解し始めていた。
 同時に、この選択はそれほど悪くないとも……。

 探検船ラス・ダジャンは、モザンビーク海峡を北上している。
 目的地は、マハジャンガ。
 帰還ではなく、補給が目的。だが、一部は上陸する。この中に桃華たち3人も含まれている。

 レイク・レネゲードの無線は、船内で修理された。
 ボンベトカ湾内に降ろされたレイク・レネゲードは、桃華の操縦でマハジャンガの飛行場に移動した。
 太志と胡桃は、渡船で上陸する。

 民生部職員からの聞き取りがあり、検診を受け、住宅が割り当てられる。
 血液検査の結果が出るまでの数日は「外出を控えてください」と伝えられた。
 3人は、それを守る。

 探検船ラス・ダジャンは、棚氷の中心部まで飛べる水上機型ポーターⅡへの搭載機転換を進めた。
 水上機や飛行艇を運用できるパイロットは少ない。マダガスカル島沿岸の小規模基地への物資輸送は、水上機型のポーターⅡに頼っている。
 小規模基地の運用主体は学術調査会で、物資の輸送も行っている。
 そのため、太志の仕事はすぐに見つかった。マダガスカル島東岸(インド洋側)の小規模基地への物資輸送だ。
 飛行艇US-1綾波の遭難時期と重なったこともあり、深刻なパイロット不足から、この仕事を逃したとしても航空機関係の何かしらの役割を得ることはできた。

 桃華は飛行場で自機の点検をしていた。1カ月以内に何かしらの役割を担わないと、駐機料が発生してしまうので、気持ちが焦っていた。
 日本語しかわからないが、共通語は英語に近いので、まったく意思疎通ができないわけではない。
 奇妙な型式の単発飛行艇は注目されていて、航空機工場は見学程度だったが、裸島鉄工所航空機部と衣ヶ島航空機製造は共同で詳細に調べた。
 小型機が中心の裸島鉄工所は、小型飛行艇に関心があり特段の興味を示した。

 桃華は自機の調査に協力するだけで、相応の金額が支払われたことに驚く。
 収入の目処が立てば民生部からの生活支援が止まるが、2カ月か3カ月生活するには十分な収入になった。

「賀村さん、私たちはピラタスPC-6ターボポーターを双発化したツインポーターを商品化したのだけど、商品性でクフラックのツインオッターにかなわないの」
 専務からの話に桃華は、どう反応したらいいのかわからなかった。食糧と防寒のことだけを考えて生きてきた桃華には、国際情勢や国際経済の競争といった話題にはついていけない。
 専務が続ける。
「そこで、ブリテン・ノーマン・トライランダーと同規模の18席程度の双発機を計画していた。
 アイランダーの詳細な資料が残されていたし、実機もあった。
 ここにはないけど……。
 アイランダーの全長を3メートル、全幅を2メートル拡大して、胴体幅を広げれば、どうにか作れることはわかった。
 だけど、これだけじゃツインオッターのマーケットは切り崩せない。
 いま、安値攻勢を仕掛けられている……。
 クフラックは、単発のビーバーかオッターを作ってくるかもしれない。ポーターⅡの立場だって安泰じゃない。
 マハジャンガを叩くためなら、何でもしてくると思う。
 これは、経済の戦いでもあるし、技術の戦争でもあるの」
 桃華は専務が何を言いたいのかわからなかった。専務が続ける。
「賀村さん。
 賀村さんの機を見て、思い付いちゃった。
 飛行艇にしたらどうかなって。
 湖水地域はもちろん、クマンのも湖沼がたくさんあるし、西サハラ湖沿岸でも使いやすいんじゃないかなって。
 飛行場か滑走路があれば、そこに降りればいいし、なければ水面に降りられるでしょ」
 桃華は少し怖かった。
「私は何を……」
 専務の希望は明快だった。
「テストパイロット。
 飛行艇の」
「え!
 でも、飛行艇があるって……」
「1機だけ。
 大きな4発機で、数人が飛行させられる。
 だけど、飛ばせるのは数人だけ。
 飛行艇の操縦経験者は、彼ら以外は賀村さんだけなの」
「……!」
「開発に協力してほしいの。
 お給料は高くはないかもしれないけど……」
 桃華は生きていく術を考え続けていた。
「やります!
 やらせてください!」
「何としてでも、100日以内に進空させる」
「え!
 そんなに早く?」
 桃華は2度ビックリする。

 裸島造船が危惧していた通り、クフラックはターボ・ビーバーを投入してきた。
 機体はすでに進空しており、ポーターⅡの市場に殴り込みを仕掛けてきた。ダンピング的安価で、ポーターⅡ潰しが目的であることは明らかだった。

 桃華と専務はレイク・レネゲードに乗り、湖水地域とクマンへの営業に出発する。
 胡桃は学校が楽しく、またサクラに誘われて学術調査会に出入りすることで、興味の幅が急拡大していった。
 桃華がどこに行こうが、太志がどこに降りようが、あまり興味がない。
 それは、いいことだった。

 桃華は王宮のような邸宅で、彼女よりも少し若い女性と面談する。
「パウラ・ド・クマンⅡ世です」
 専務は桃華を紹介する。
「当社のテストパイロットの賀村桃華です」
「あの飛行艇を操縦してきた方?」
「そうです」
「アヤナミにはその大きさに驚かされましたが、小型の飛行艇もあるのですね」
 桃華は何を言えばわからなかった。
「飛行艇にしろ、水上機にしろ、陸上機と比べると空気抵抗上の欠点が多いんです。
 空力が悪ければ燃料を多く消費するし、飛行速度も出せません。
 水上機の場合、陸上機を水上で運用するために大きなフロートを取り付けなくてはなりません。
 中身のない金属の筒ですが、それでも無視できない重量になります。当然、ペイロードに影響を及ぼします。そして、大きな付属物は空気抵抗を悪化させます。
 その点、飛行艇は、胴体を水密構造にしているだけで、空気抵抗の悪化は最小限に抑えられます。
 ペイロードへの影響は、極限されます」
「なるほど。
 それで?」
 専務が交代する。
「現在、双発の20人乗り規模の飛行艇を計画しています。
 あのレイク・レネゲードに似ています。
 貴社にローンチカスタマーになっていただきたいのです」
「滑走路は、各地に設営しています。
 飛行艇や水上機の必要はないかと……」
 桃華には、予想された反応だった。
「今回は湖に着水しましたが、陸上の滑走路にも普通に着陸できます。
 私たちが計画している飛行艇は、全地形対応機なんです。
 水面があれば、どこにでも降りられます」
「全地形対応機、ですか?
 滑走路の整備が遅れている西サハラ湖沿岸にも就航できますね」
 専務が追い打ちをかける。
「赤道以北アフリカの内陸空路を、クマンと湖水地域が押さえられます」
 パウラが考え込む。
「なるほど、確かに魅力がるかも……。
 少し検討させてください。この問題、さすがに私の一存では決められません。
 国の上層部にも相談します」

 裸島造船は、航空機部が設計した胴体を造船部が製造した。製造にあたってはリベット打ちを少なくし、溶接を多用する。
 主翼と水平尾翼は航空機部が製造。尾翼はT字で、主翼は高翼配置。エンジンは、レイク・レネゲードと同様に胴体から延びた支柱にエンジンナセルを載せるレイアウトを採用。
 このナセルにタンデム双発とした。
 全長15メートル、全幅18メートル。
 翼端フロートは、PBYカタリナ飛行艇に似た引き込み式を計画したが、価格の面から固定式に変更となった。
 設計、製造、陸上からの進空まで95日で完了し、水上からの進空はその15日後だった。
 水上からの進空は、桃華がテストパイロットを務めた。
 計画開始から120日目には、湖水地域とクマンへのお披露目として飛行した。このパイロットは桃華が担当する。

 民間航空だけでなく、クマンと湖水地域の行政も2機ずつ導入を決める。クマン軍は4機。
 驚いたことに、救世主からも引き合いがあった。
 ツインオッターに完全に勝ったわけではないが、少なくともフロート付きは追い払った。
 このときを境に、マハジャンガとクフラックとの航空商戦は激化していく。

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