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第10章
10-237 ガウゼの法則Part.2
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西アフリカに対するセロの総攻撃は、始まっていない。前回の攻撃は、威力偵察。ヒトの防衛態勢を探ってきた程度。
梨々香は、クマン政府がクマンの子どもたちを湖水地域に疎開させる計画であることに心を痛めた。
サクラは、すべてに怒っている。セロにも、セロの攻撃を阻止できないヒトにも。
梨々香の仲間に女性1人と男性1人が加わり、それは同時に隆太郎の影響下にあるグループが拡大したことになる。
しかし、そんなことよりもセロとどう対峙するのか、マハジャンガの方針を決めなくてはならない。
隆太郎は代表特別補佐だが、代表と面会することは非常に少ない。
ただ、セロの件は捨て置くことができない。だから、代表に面会を求めた。
隆太郎に与えられた時間は、わずか15分だった。
「代表、お時間をいただきありがとうございます」
「ごめんなさいね。
議会の廊下で」
「いえ、かまいません。
早速ですみません。手短に」
「そうですね」
「西アフリカに派遣した部隊ですが、機に搭載した40ミリ機関砲は効果が限定的です。
搭載弾数が少ない。
発射速度が遅い。
初速も遅い。
重量過大で、機の機動性を下げてしまう……」
「最悪ですね」
「派遣部隊から防衛隊のしかるべき部署に報告があると思いますが、たぶん握り潰されます。
この問題は、そもそも技術側、民間のメーカー側から指摘されていたことなので……」
「そう、なんですか?」
「防衛隊制服組上層部は、巨砲主義だそうです」
「私にどうしろと?」
「報告書が上がってきたら、目を通してください。斜め読みでいいので……」
「わかりました。
防衛長官に指示します」
「それと、もう1つ。
西アフリカの海岸線を突破されたら、セロの飛行船はここまで来ます」
ゆっくりだが歩いていた代表が足を止める。「戦争ですか?」
「はい……。
和平はありません。
殺すか殺されるかです」
「どうしたらいいと思いますか?」
「マハジャンガがクマンの防空を支援しては、どうかと……」
「何をすればいいですか?
防衛隊には余力がありません」
「義勇兵を募ります。
機材を用意していただけないかと……」
「各方面と調整しましょう」
「平和を守れるなら、何でもします。
平和であれば、マハジャンガは発展します」
「承知しています」
秘書が声をかける。
「代表、お時間が……」
「萱場さん、ごめんなさい」
「お目にかかれましたこと、ありがとうございます」
議会の駐車場で、スクーターに乗ってきた鏑木健介と出会う。
「鏑木さん!」
「萱場さん?
議会に来るなんて珍しい」
「西アフリカ、かなりヤバイです」
「そんな噂、漏れてるね」
「義勇兵を募ります。
協力してください」
「義勇兵?
そりゃぁ、物騒だな。
そんなに厳しいの?」
「えぇ。
のんびりしていると、後手に回ります」
セロが西アフリカを攻撃したことは、ニュースで大々的に取り上げられた。
クフラックは洋上防空に失敗し、政治的拠点であるカナリア諸島に投弾を許した。
バンジェル島は、西島に防空隊を前進させて、領域内侵入を防ごうとしたが、迂回され迎撃は空振りとなり、南島と北島に投弾されてしまう。
これらは、画像や動画として伝えられ、セロとの戦いが容易でないことをマハジャンガの住民に知らせた。
マハジャンガに移住していた北方人や精霊族は、セロの恐ろしさをよく知っており、彼らの証言が情報サイトで取り上げられた。
隆太郎は疲れ切っていたが、久々に学術調査会の面々から飲みに誘われて、気分転換もあって参加する。
だが、彼の期待とは裏腹に、話題はセロが中心になった。
節足動物の研究が専門の生物学者が、たこ焼きを頬張りながら「ガウゼの法則が発動しているんだ。この見解は西アフリカや北アフリカの研究者が指摘しているけど、まず間違いない」と断言する。
この説は、隆太郎は何度も聞かされてきた。
だが、文明を有する知的生命体が、そんな原初的な本能に動かされるとは思えなかった。
生物学者が続ける。
「文字を発明しようが、核を制御できようが、そんなものは関係ないんだ。
生物には、絶対不変の法則がある。
その法則には従わなくてはならない。
ヒトが200万年後にやって来た以上、ヒトは外来生物なんだ。
生態系を破壊する悪の存在。
セロは、それを訂正しようとしているだけ。
で、黙って排除される?
俺はイヤだね」
隆太郎が若手研究者に意地悪な質問をする。
「先生、マハジャンガがもし義勇兵を派遣するとしたら、参加します?」
隆太郎の予測と違う即答となった。
「あぁ、俺は参加する。
生物学者として、競争排除則の最前線を見てみたい」
マハジャンガには、クマンから多くの政府関係者・軍人が訪れていた。
陸海はともかく、空軍戦力を持たないクマンは対空砲以外の防空をバンジェル島に依存していた。
しかし、数十年前まではともかく、時間の経過とともにあてにはできなくなっていた。
頭髪と髭が白い予備役軍人は、久々に軍服に袖を通し、マハジャンガにやって来た。
クマンは自前で輸送機を用意できず、マハジャンガのダッシュ8で訪れた。このこと自体、彼にとっては屈辱に近い感情を抱かせた。
輸送機から降り、立派とはいえないターミナルに向かう途中、半田辰也とすれ違った。
予備役軍人が振り向く。
彼は将星まで上り詰めたわけではなかったが、クマン軍における航空に関しては権威だった。
「王子?」
歩みを止めた予備役軍人に引きずられて、彼の副官を命じられた若い下級将校も立ち止まる。
「大佐、何か?」
「あのお方だが……」
「パイロットスーツの若い男性ですか?」
「そうだ。
王子殿下に似ているような……」
「王子?
どちらの王家の?」
この頃のクマンには、王制の名残はあったが王家は残っていなかった。
「クマン最後の王族、パウラ・ド・クマンⅠ世のお孫様……」
「行方不明とか……」
「出奔されたのは事実だが、お亡くなりになったとは聞いておらん」
海斗が走り寄る。
「おい、辰也!
おまえ、志願すんのか?」
「いや、俺はクマンには行かない」
「いま、タツヤ、と呼ばれたな」
「確かに」
「タツヤ王子殿下かもしれん。
至急調べよ」
「海斗、おまえはどうするんだ?
戦女神花山真弓将軍の直系なんだろ!」
辰也の意地悪な目を海斗がスルーする。
「迷ってる。
アラセリは志願するって。
サリューとエリシアも。
カプランは迷っている。あいつ、クマンとは関係ないし……」
「肝の据わった女と、優柔不断な男」
「女々しい女はいないけど、男は全員女々しいんだってさ」
「そりゃ、言えてる」
「辰也、おまえ、クマンかバンジェル島の出身なんだろ?」
「……、答えたくない」
2人の会話が、途切れ途切れながら予備役に編入された老大佐の耳に届く。
老人の足が動く。副官が追う。
「失礼ながら……」
老軍人が制帽をとる。
「パウラⅠ世陛下のご嫡孫、タツヤ王子殿下ではございませんか?」
海斗が慌てる。
「え!
えぇぇぇぇ~!
おまえ、半田隼人の子孫かぁ?
まさか、半田千早の孫!」
老軍人が片膝をつこうとして、辰也が慌てて止める。
「そんなことをされては困ります!
パウラ・ド・クマンⅠ世は確かに私の祖母です。
ですが、私は王子などではありません。
ただの放浪者」
「そのお姿、パイロットなのですか?
王子殿下はマハジャンガのパイロットなのですか?
ならば、クマンの危機をお救いください!」
老軍人と彼の副官は、ともにパイロット。ブリーフィングルームの雰囲気は、他国のそれであっても心地よかった。
海斗のニタニタ顔が気持ち悪い。
「みんな聞いてくれ!
ここにいる辰也は、半田隼人の子孫、半田千早とパウラ・ド・クマンⅠ世の孫だ」
サリュー、アラセリ、エリシアが驚く。
老軍人は、ブリーフィングルームに入ってから、1人の女性を見ている。
辰也へのからかいを無視して、その女性に近付く。
「率爾〈そつじ〉ながら」
アラセリが身構える。
「アルベルティーナ妃の……。
失礼を!
お顔立ちがそっくりなので……」
アラセリは隠し通せないと覚悟する。
一瞬で辰也は無視され、全員の目がアラセリに向く。
「私はアラセリ。
アルベルティーナ妃と似ているとは、光栄なこと。見ての通り、私はチャド湖南岸の出。それで、似ているように見えるのでしょう。
他人のそら似、です」
老軍人がパイプ椅子にどかっと座り込む。
「信じられん!
マハジャンガに英雄の子孫が集まっているなんて!」
彼は、アラセリの説明を信じてはいない。ここにいる誰もが、アラセリがアルベルティーナ妃と何らかの関係があることは察知している。
サリューが「お爺さん、この生意気そうな女だけど、ブルマンの英雄ミエリキの孫だよ」
と。
「あり得ん!」
予備役に編入されている老軍人は、興奮のため呼吸を荒くしていた。
辰也が不愉快そうに呟く。
「バレたからしょうがない。
俺も義勇航空隊に志願する。
海斗、おまえも参加しろ。
カプランも付き合え」
西アフリカ義勇航空隊のメンバーは、かなり変わっていた。
航空機工場や飛行場の職員、航空機メーカーの社員はもちろん、学術調査会の科学者たちも参加する。
生粋の軍人はおらず、軍事に関してはほぼ素人集団。
クマンに派遣されている西アフリカ派遣航空隊の指揮下に入る。
前線で戦闘するだけではなく、オライオン2機、ネプチューン、飛行艇US-1綾波、大型ヘリコプターのチヌークからなる航空輸送隊も結成される。
戦闘機は、短胴型MU-2を改造した重戦闘機となった。ブッシュマスターⅡ30ミリ機関砲1門、20ミリリヴォルバーカノン2門を装備し、翼端にはマハジャンガが“空中魚雷”と呼ぶ新開発の45センチ無誘導ロケット弾を装備する。
このロケット弾は、76.2ミリ無誘導ロケット弾と同程度の威力でありながら、長射程、良好な弾道特性、軽量化を実現していた。
マハジャンガは高知にいた頃、何度も杭州にあるオークの拠点を爆撃している。
嫌がらせ程度の効果しかないが、オークの計画を妨害していたことは確か。
この作戦には、いろいろな機体が使われたが、中翼配置で爆弾倉を設置しやすいP-2Jネプチューンは多用された。
高翼のダッシュ8も胴体に爆弾倉を設置して、爆撃機として使用したことがある。
どちらにしても、第二次世界対戦型の爆撃機だが、一定の戦術的効果が確認されている。
「なぜ、ダメなの?」
西アフリカの基地、格納庫でのブリーフィングで、隆太郎は海斗に詰め寄られて少し口籠もる。
「マハジャンガが目立つことがイヤなんだろうね」
辰也が「ちっちぇなぁ」と蔑みともとれる言葉を発する。
アラセリが「MU-2で、アゾレス諸島を叩けないわけね」と確認する。
MU-2の短胴型ソリティア、長胴型マーキス全機によるマデイラ諸島を経由しての、セロの前進拠点であるアゾレス諸島空襲は、同諸島を管理するクフラックによってあっさりと拒否された。
「西アフリカの大陸からでは、ハーキュリーズでも往復できないよ」
エリシアの見解は正しい。
太志は発言するつもりはなかったが、どうしても確認したかった。
「作戦機が14機じゃ、クマンの空を守れないんじゃ。
カラバッシュからの話はどうなっているんですか?」
隆太郎は、カラバッシュの提案をどう判断するか迷っていた。
「カラバッシュが全幅20メートル、双発双尾翼単胴輸送機の機体のみを売り込んできている。
これは、みんな知っているよね。
T64-IHI-10Jを搭載すれば、相応の性能になる。機体は、こちらがほしいだけ納入できるそうだ。
輸送機とは表向きで、仕様次第だけど爆弾倉が設置でき、外翼にはロケット弾左右各3発が懸吊できる。
爆弾の搭載量は、1800キロまで」
ティシット予備役大佐は驚き、黙っていられなかった。
「カラバッシュが飛行機を供給してくれるのですか?」
隆太郎はできるだけ丁寧に答えようと努める。
「大佐、かなり強烈な売り込みをかけられているんです。
ただ、カラバッシュではなく、クフラックの思惑がわからないので、こちらの腰が引けています。
それに、予算が……。
マルシェで中古のジャケットを買うのとはわけが違いますから……」
「我がクマンが買うことはできますかな?」
「どうでしょうね。
ただ、契約には第3国への譲渡を禁じる条項がないんです。それと、あくまで現物売買で、ノーキャンセル、ノークレーム、ノーリターンと……」
「特別補佐、小官が思うに、カラバッシュはクフラックから要求されている戦費の工面に苦労しているのでは?
背に腹は代えられず、貴国に売り込んできたのでは……」
「大佐、クフラックは、もっと狡猾なのではないのですか?」
「いやぁ、意外と正直者ですよ。
やや抜けたところもあるし……。
だから、カラバッシュのような異質なグループも組みするんですよ。
精霊族はウソをつけないと聞きます。少なくとも、上手なウソは無理でしょう」
「大佐、ギャレットの最高出力型は貴重なエンジンです」
「たくさんは、ないのですか?」
「いや、そこそこありますし、製造していますし……。
でも、何をするにも簡単では……。
それに、飛行機があってもパイロットがいなくては……」
「クマンの勇敢な若者では、ダメですか?
代表特別補佐?」
「……」
クマンの資金で、カラバッシュから8機の双発機の機体を購入し、マハジャンガは16機のT64ターボプロップエンジンを供給した。
初等訓練を終えたクマンのパイロット16人が、義勇航空隊に加わった。
クマンを含めて、西アフリカ諸勢力は、セロとの戦いを長期戦と受け止めている。
まず、大西洋を渡って、フロリダ半島にあるセロの中心拠点を叩けないし、侵攻拠点であるアゾレス諸島さえ攻撃できない。
ヒトは、完全に受け身だった。
マハジャンガはズルズルと長引くことは好まないが、東アフリカ勢力の一画でしかないことから、西アフリカの勢力に合わせるしか処し方がない。
細く長く付き合うしかない。
クマン政府は、首都の北20キロに広大な土地をマハジャンガに提供し、ここに航空機整備工場を建設するよう要請する。
カラバッシュの双発双尾翼単胴機の最終製造工場となる。
カラバッシュが供給するのは貨物機型と旅客機型の機体だけで、内装や座席の設置はクマンの工場で行う。
2000メートルの滑走路が併設され、管制機は工場から進空できる。
これにより、クマンは航空機製造国となる。
半田辰也は、猛烈に抵抗したが結局は萱場隆太郎の秘書官として、クマンの首都に向かった。
政府要人との会談は、ティシット退役大佐が手配してくれた。彼は、半田辰也がクマン王家の直系であることを知っており、副官には「言いふらしてはならぬが、噂は立てよ」と命じていた。
そして、生育過程を調査させた。
バンジェル島で育ち、クマンとの縁は薄いが、王家直系であることは事実だ。
ティシット退役大佐は王家復興を望むものではないが、マハジャンガとクマンの接点として王家直系の辰也を利用できないか考えていた。
これは、辰也が最も望まないことだった。
気まずい沈黙が支配する部屋。
パウラ・ド・クマンⅡ世と半田辰也は初見だったが、互いに共感するものは感じなかった。
パウラは辰也の存在を知っていたし、辰也もパウラの過去と現在を知っていた。
この時点で、ティシット退役大佐は、この面談が彼の願望とはほど遠い結果になることを予期している。
「こちらの半田秘書官は……」
パウラが「知っています」と端的に答えた声音は、驚くほど冷たかった。
「お噂はかねがねうかがっています」
辰也の声にも抑揚がない。
「私もあなたのことはいろいろと」
「悪行の数々をして、逐電したとか?」
「まぁ、そんなところです」
「マハジャンガにいたのですね?」
「えぇ、相変わらず、素行の悪い連中とつるんでいます」
隆太郎はガラにもないことを伝える。
「半田操縦士は、ターボプロップを搭載したNA-40を初めて飛ばしました。
腕のいいパイロットです」
パウラは警戒を解かない。バンジェル島では、よほどの悪行を重ねていたらしい。あるいは、身内から疎まれていたか?
パウラが少し興味を示す。
「旅客機型があるとか?」
「輸送機型もあります。
貨物なら2トン、旅客なら24人が乗れます」
「クマンで作られているのですね?」
「機体や主翼はカラバッシュから輸送されてきます。
それに、マハジャンガから供給されるエンジンを取り付けます。
輸送機としては中途半端なサイズの機体ですが、機数を揃えられます」
「私たちは、ダッシュ8を希望しています」
「NA-40は与圧がないから、ダッシュ8よりも安価だし、エンジンも余力をもって量産しているので供給に不安がありません。
ギャレットのパワーでは、対応できる機体規模の最大でしょう。
最大積載で2500キロ飛べます。
あとは、空飛ぶ2トントラックに価値があるかどうか……」
「導入を薦めているのですか?
私に?
私たちの会社に?」
「すべてではないけれど、クマンが作っている機です。
私なら、見るくらいはする……」
「そうですね。
機会があれば……」
ティシット退役大佐は、パウラと辰也が親しく会話しないことに愕然とする。パウラは辰也を警戒しているし、辰也はパウラを単なる商談相手としてしか見ていない。
彼は内心で「失敗だ!」と叫んでいた。
NA-40を1機でも多く製造したいティシット退役大佐の計画は頓挫した。
ヒトが浮き世の義理と損得であれこれと画策している間に、セロはアゾレス諸島に着々と物資を集積していた。
マハジャンガからすると意図はわからないが、クフラックはこれを放置している。
工場内でNA-40の主翼外翼の取り付けを眺めながら、隆太郎と鏑木が会話する。
「この飛行機を売ってくれるとはねぇ」
「クフラックは戦費の調達に苦労しているようですね」
「クマンやブルマン、湖水地域に航空の萌芽があったのに潰しちゃったからねぇ。
クフラックとバンジェル島は、ヒト社会での立場を重視するあまり、全生物界でのニッチを固めることを忘れたんだって。
生物の学者さんがそう言ってた。
萱場さんはどう思う?」
隆太郎は、生物云々には答えなかった。
「航空産業をもう少し育てていれば、いまほど不利にはなっていなかったでしょうね」
「いろいろと調べたんですが、この飛行機は第二次世界大戦時のアメリカの爆撃機に外見が似ているんです。
だけど、構造まで同じかはわかりません。
たぶん、違うと思います。原形は、現物があったんじゃないかと思います。現物がなくても、詳細な資料があったとか……。
どちらにしても、200万年前にルーツがある飛行機です。
たぶん、4発型が最初に作られ、それをシュリンクした双発型をあとから作った……。
たぶん、間違いないです」
「萱場さん、4発機は価値がないの?」
「ペイロードは4トンです」
「そのまま使える?」
「エンジンを交換するから、いろいろと変更するところはできてますね。
それなら、ダッシュ8を製造したほうがいいですよ」
「ダッシュ8だけど、長胴型が開発中なんだって?」
「計画はありますが、エンジンがないんです」
「デッカイほうのアリソンじゃダメなの?」
「パワー不足なんです」
「4発にするとか?」
「機体コストが上がり、整備性が悪化します。
何を考えているんですか?」
「西アフリカから飛び立って、アゾレス諸島を爆撃し、帰還する方法」
「現状では無理です。
往復5000キロ、一番飛べる機はオライオンで6700キロ。
でも、低翼のオライオンは爆撃機にはならない……。
それに2機しかない……」
「爆撃機を新造するなんて、不経済だしね」
「この戦争、早く終わらせたいですよ」
「ヒトの戦争は、結局はゼニカネの問題。
妥協の余地はいくらでもある……。
しかし、セロはヒトを殺すこと自体が戦争の目的。最後の1人まで駆除するそうだ。
萱場さん、本当にそうならば、妥協の余地はないよね」
「クマンやバンジェル島は、過去に何度もセロと対話しようとしたようです。
会話は成立しなかったとか。
ヒトとセロの共存は、ガウゼの法則で完全に不可能らしいです。
鏑木さん、このままダラダラと戦い続けるしかないのかも……。
ヒトが決着しようとすれば、必然的にヒトかセロのどちらかが滅びることになります」
「それは、生物の基本法則なのだから仕方ないでしょう。
萱場さん、違う?」
「ヒトが滅ぶかも。
だから、クフラックは決着を避けているんじゃないですかね」
この日の夜、隆太郎はクフラックとバンジェル島の連合軍が、50機の大編隊でアゾレス諸島を襲ったことを知る。
目的は、セロによる西アフリカへの爆撃阻止で、アゾレス諸島に集積している物資と飛行船の破壊だった。
作戦は概ね成功し、西アフリカへの集中攻撃は回避された。
だが、ガウゼの法則が無効になったわけではない。
1カ月後、一時的な処置として、航空義勇兵部隊は解隊した。
梨々香は、クマン政府がクマンの子どもたちを湖水地域に疎開させる計画であることに心を痛めた。
サクラは、すべてに怒っている。セロにも、セロの攻撃を阻止できないヒトにも。
梨々香の仲間に女性1人と男性1人が加わり、それは同時に隆太郎の影響下にあるグループが拡大したことになる。
しかし、そんなことよりもセロとどう対峙するのか、マハジャンガの方針を決めなくてはならない。
隆太郎は代表特別補佐だが、代表と面会することは非常に少ない。
ただ、セロの件は捨て置くことができない。だから、代表に面会を求めた。
隆太郎に与えられた時間は、わずか15分だった。
「代表、お時間をいただきありがとうございます」
「ごめんなさいね。
議会の廊下で」
「いえ、かまいません。
早速ですみません。手短に」
「そうですね」
「西アフリカに派遣した部隊ですが、機に搭載した40ミリ機関砲は効果が限定的です。
搭載弾数が少ない。
発射速度が遅い。
初速も遅い。
重量過大で、機の機動性を下げてしまう……」
「最悪ですね」
「派遣部隊から防衛隊のしかるべき部署に報告があると思いますが、たぶん握り潰されます。
この問題は、そもそも技術側、民間のメーカー側から指摘されていたことなので……」
「そう、なんですか?」
「防衛隊制服組上層部は、巨砲主義だそうです」
「私にどうしろと?」
「報告書が上がってきたら、目を通してください。斜め読みでいいので……」
「わかりました。
防衛長官に指示します」
「それと、もう1つ。
西アフリカの海岸線を突破されたら、セロの飛行船はここまで来ます」
ゆっくりだが歩いていた代表が足を止める。「戦争ですか?」
「はい……。
和平はありません。
殺すか殺されるかです」
「どうしたらいいと思いますか?」
「マハジャンガがクマンの防空を支援しては、どうかと……」
「何をすればいいですか?
防衛隊には余力がありません」
「義勇兵を募ります。
機材を用意していただけないかと……」
「各方面と調整しましょう」
「平和を守れるなら、何でもします。
平和であれば、マハジャンガは発展します」
「承知しています」
秘書が声をかける。
「代表、お時間が……」
「萱場さん、ごめんなさい」
「お目にかかれましたこと、ありがとうございます」
議会の駐車場で、スクーターに乗ってきた鏑木健介と出会う。
「鏑木さん!」
「萱場さん?
議会に来るなんて珍しい」
「西アフリカ、かなりヤバイです」
「そんな噂、漏れてるね」
「義勇兵を募ります。
協力してください」
「義勇兵?
そりゃぁ、物騒だな。
そんなに厳しいの?」
「えぇ。
のんびりしていると、後手に回ります」
セロが西アフリカを攻撃したことは、ニュースで大々的に取り上げられた。
クフラックは洋上防空に失敗し、政治的拠点であるカナリア諸島に投弾を許した。
バンジェル島は、西島に防空隊を前進させて、領域内侵入を防ごうとしたが、迂回され迎撃は空振りとなり、南島と北島に投弾されてしまう。
これらは、画像や動画として伝えられ、セロとの戦いが容易でないことをマハジャンガの住民に知らせた。
マハジャンガに移住していた北方人や精霊族は、セロの恐ろしさをよく知っており、彼らの証言が情報サイトで取り上げられた。
隆太郎は疲れ切っていたが、久々に学術調査会の面々から飲みに誘われて、気分転換もあって参加する。
だが、彼の期待とは裏腹に、話題はセロが中心になった。
節足動物の研究が専門の生物学者が、たこ焼きを頬張りながら「ガウゼの法則が発動しているんだ。この見解は西アフリカや北アフリカの研究者が指摘しているけど、まず間違いない」と断言する。
この説は、隆太郎は何度も聞かされてきた。
だが、文明を有する知的生命体が、そんな原初的な本能に動かされるとは思えなかった。
生物学者が続ける。
「文字を発明しようが、核を制御できようが、そんなものは関係ないんだ。
生物には、絶対不変の法則がある。
その法則には従わなくてはならない。
ヒトが200万年後にやって来た以上、ヒトは外来生物なんだ。
生態系を破壊する悪の存在。
セロは、それを訂正しようとしているだけ。
で、黙って排除される?
俺はイヤだね」
隆太郎が若手研究者に意地悪な質問をする。
「先生、マハジャンガがもし義勇兵を派遣するとしたら、参加します?」
隆太郎の予測と違う即答となった。
「あぁ、俺は参加する。
生物学者として、競争排除則の最前線を見てみたい」
マハジャンガには、クマンから多くの政府関係者・軍人が訪れていた。
陸海はともかく、空軍戦力を持たないクマンは対空砲以外の防空をバンジェル島に依存していた。
しかし、数十年前まではともかく、時間の経過とともにあてにはできなくなっていた。
頭髪と髭が白い予備役軍人は、久々に軍服に袖を通し、マハジャンガにやって来た。
クマンは自前で輸送機を用意できず、マハジャンガのダッシュ8で訪れた。このこと自体、彼にとっては屈辱に近い感情を抱かせた。
輸送機から降り、立派とはいえないターミナルに向かう途中、半田辰也とすれ違った。
予備役軍人が振り向く。
彼は将星まで上り詰めたわけではなかったが、クマン軍における航空に関しては権威だった。
「王子?」
歩みを止めた予備役軍人に引きずられて、彼の副官を命じられた若い下級将校も立ち止まる。
「大佐、何か?」
「あのお方だが……」
「パイロットスーツの若い男性ですか?」
「そうだ。
王子殿下に似ているような……」
「王子?
どちらの王家の?」
この頃のクマンには、王制の名残はあったが王家は残っていなかった。
「クマン最後の王族、パウラ・ド・クマンⅠ世のお孫様……」
「行方不明とか……」
「出奔されたのは事実だが、お亡くなりになったとは聞いておらん」
海斗が走り寄る。
「おい、辰也!
おまえ、志願すんのか?」
「いや、俺はクマンには行かない」
「いま、タツヤ、と呼ばれたな」
「確かに」
「タツヤ王子殿下かもしれん。
至急調べよ」
「海斗、おまえはどうするんだ?
戦女神花山真弓将軍の直系なんだろ!」
辰也の意地悪な目を海斗がスルーする。
「迷ってる。
アラセリは志願するって。
サリューとエリシアも。
カプランは迷っている。あいつ、クマンとは関係ないし……」
「肝の据わった女と、優柔不断な男」
「女々しい女はいないけど、男は全員女々しいんだってさ」
「そりゃ、言えてる」
「辰也、おまえ、クマンかバンジェル島の出身なんだろ?」
「……、答えたくない」
2人の会話が、途切れ途切れながら予備役に編入された老大佐の耳に届く。
老人の足が動く。副官が追う。
「失礼ながら……」
老軍人が制帽をとる。
「パウラⅠ世陛下のご嫡孫、タツヤ王子殿下ではございませんか?」
海斗が慌てる。
「え!
えぇぇぇぇ~!
おまえ、半田隼人の子孫かぁ?
まさか、半田千早の孫!」
老軍人が片膝をつこうとして、辰也が慌てて止める。
「そんなことをされては困ります!
パウラ・ド・クマンⅠ世は確かに私の祖母です。
ですが、私は王子などではありません。
ただの放浪者」
「そのお姿、パイロットなのですか?
王子殿下はマハジャンガのパイロットなのですか?
ならば、クマンの危機をお救いください!」
老軍人と彼の副官は、ともにパイロット。ブリーフィングルームの雰囲気は、他国のそれであっても心地よかった。
海斗のニタニタ顔が気持ち悪い。
「みんな聞いてくれ!
ここにいる辰也は、半田隼人の子孫、半田千早とパウラ・ド・クマンⅠ世の孫だ」
サリュー、アラセリ、エリシアが驚く。
老軍人は、ブリーフィングルームに入ってから、1人の女性を見ている。
辰也へのからかいを無視して、その女性に近付く。
「率爾〈そつじ〉ながら」
アラセリが身構える。
「アルベルティーナ妃の……。
失礼を!
お顔立ちがそっくりなので……」
アラセリは隠し通せないと覚悟する。
一瞬で辰也は無視され、全員の目がアラセリに向く。
「私はアラセリ。
アルベルティーナ妃と似ているとは、光栄なこと。見ての通り、私はチャド湖南岸の出。それで、似ているように見えるのでしょう。
他人のそら似、です」
老軍人がパイプ椅子にどかっと座り込む。
「信じられん!
マハジャンガに英雄の子孫が集まっているなんて!」
彼は、アラセリの説明を信じてはいない。ここにいる誰もが、アラセリがアルベルティーナ妃と何らかの関係があることは察知している。
サリューが「お爺さん、この生意気そうな女だけど、ブルマンの英雄ミエリキの孫だよ」
と。
「あり得ん!」
予備役に編入されている老軍人は、興奮のため呼吸を荒くしていた。
辰也が不愉快そうに呟く。
「バレたからしょうがない。
俺も義勇航空隊に志願する。
海斗、おまえも参加しろ。
カプランも付き合え」
西アフリカ義勇航空隊のメンバーは、かなり変わっていた。
航空機工場や飛行場の職員、航空機メーカーの社員はもちろん、学術調査会の科学者たちも参加する。
生粋の軍人はおらず、軍事に関してはほぼ素人集団。
クマンに派遣されている西アフリカ派遣航空隊の指揮下に入る。
前線で戦闘するだけではなく、オライオン2機、ネプチューン、飛行艇US-1綾波、大型ヘリコプターのチヌークからなる航空輸送隊も結成される。
戦闘機は、短胴型MU-2を改造した重戦闘機となった。ブッシュマスターⅡ30ミリ機関砲1門、20ミリリヴォルバーカノン2門を装備し、翼端にはマハジャンガが“空中魚雷”と呼ぶ新開発の45センチ無誘導ロケット弾を装備する。
このロケット弾は、76.2ミリ無誘導ロケット弾と同程度の威力でありながら、長射程、良好な弾道特性、軽量化を実現していた。
マハジャンガは高知にいた頃、何度も杭州にあるオークの拠点を爆撃している。
嫌がらせ程度の効果しかないが、オークの計画を妨害していたことは確か。
この作戦には、いろいろな機体が使われたが、中翼配置で爆弾倉を設置しやすいP-2Jネプチューンは多用された。
高翼のダッシュ8も胴体に爆弾倉を設置して、爆撃機として使用したことがある。
どちらにしても、第二次世界対戦型の爆撃機だが、一定の戦術的効果が確認されている。
「なぜ、ダメなの?」
西アフリカの基地、格納庫でのブリーフィングで、隆太郎は海斗に詰め寄られて少し口籠もる。
「マハジャンガが目立つことがイヤなんだろうね」
辰也が「ちっちぇなぁ」と蔑みともとれる言葉を発する。
アラセリが「MU-2で、アゾレス諸島を叩けないわけね」と確認する。
MU-2の短胴型ソリティア、長胴型マーキス全機によるマデイラ諸島を経由しての、セロの前進拠点であるアゾレス諸島空襲は、同諸島を管理するクフラックによってあっさりと拒否された。
「西アフリカの大陸からでは、ハーキュリーズでも往復できないよ」
エリシアの見解は正しい。
太志は発言するつもりはなかったが、どうしても確認したかった。
「作戦機が14機じゃ、クマンの空を守れないんじゃ。
カラバッシュからの話はどうなっているんですか?」
隆太郎は、カラバッシュの提案をどう判断するか迷っていた。
「カラバッシュが全幅20メートル、双発双尾翼単胴輸送機の機体のみを売り込んできている。
これは、みんな知っているよね。
T64-IHI-10Jを搭載すれば、相応の性能になる。機体は、こちらがほしいだけ納入できるそうだ。
輸送機とは表向きで、仕様次第だけど爆弾倉が設置でき、外翼にはロケット弾左右各3発が懸吊できる。
爆弾の搭載量は、1800キロまで」
ティシット予備役大佐は驚き、黙っていられなかった。
「カラバッシュが飛行機を供給してくれるのですか?」
隆太郎はできるだけ丁寧に答えようと努める。
「大佐、かなり強烈な売り込みをかけられているんです。
ただ、カラバッシュではなく、クフラックの思惑がわからないので、こちらの腰が引けています。
それに、予算が……。
マルシェで中古のジャケットを買うのとはわけが違いますから……」
「我がクマンが買うことはできますかな?」
「どうでしょうね。
ただ、契約には第3国への譲渡を禁じる条項がないんです。それと、あくまで現物売買で、ノーキャンセル、ノークレーム、ノーリターンと……」
「特別補佐、小官が思うに、カラバッシュはクフラックから要求されている戦費の工面に苦労しているのでは?
背に腹は代えられず、貴国に売り込んできたのでは……」
「大佐、クフラックは、もっと狡猾なのではないのですか?」
「いやぁ、意外と正直者ですよ。
やや抜けたところもあるし……。
だから、カラバッシュのような異質なグループも組みするんですよ。
精霊族はウソをつけないと聞きます。少なくとも、上手なウソは無理でしょう」
「大佐、ギャレットの最高出力型は貴重なエンジンです」
「たくさんは、ないのですか?」
「いや、そこそこありますし、製造していますし……。
でも、何をするにも簡単では……。
それに、飛行機があってもパイロットがいなくては……」
「クマンの勇敢な若者では、ダメですか?
代表特別補佐?」
「……」
クマンの資金で、カラバッシュから8機の双発機の機体を購入し、マハジャンガは16機のT64ターボプロップエンジンを供給した。
初等訓練を終えたクマンのパイロット16人が、義勇航空隊に加わった。
クマンを含めて、西アフリカ諸勢力は、セロとの戦いを長期戦と受け止めている。
まず、大西洋を渡って、フロリダ半島にあるセロの中心拠点を叩けないし、侵攻拠点であるアゾレス諸島さえ攻撃できない。
ヒトは、完全に受け身だった。
マハジャンガはズルズルと長引くことは好まないが、東アフリカ勢力の一画でしかないことから、西アフリカの勢力に合わせるしか処し方がない。
細く長く付き合うしかない。
クマン政府は、首都の北20キロに広大な土地をマハジャンガに提供し、ここに航空機整備工場を建設するよう要請する。
カラバッシュの双発双尾翼単胴機の最終製造工場となる。
カラバッシュが供給するのは貨物機型と旅客機型の機体だけで、内装や座席の設置はクマンの工場で行う。
2000メートルの滑走路が併設され、管制機は工場から進空できる。
これにより、クマンは航空機製造国となる。
半田辰也は、猛烈に抵抗したが結局は萱場隆太郎の秘書官として、クマンの首都に向かった。
政府要人との会談は、ティシット退役大佐が手配してくれた。彼は、半田辰也がクマン王家の直系であることを知っており、副官には「言いふらしてはならぬが、噂は立てよ」と命じていた。
そして、生育過程を調査させた。
バンジェル島で育ち、クマンとの縁は薄いが、王家直系であることは事実だ。
ティシット退役大佐は王家復興を望むものではないが、マハジャンガとクマンの接点として王家直系の辰也を利用できないか考えていた。
これは、辰也が最も望まないことだった。
気まずい沈黙が支配する部屋。
パウラ・ド・クマンⅡ世と半田辰也は初見だったが、互いに共感するものは感じなかった。
パウラは辰也の存在を知っていたし、辰也もパウラの過去と現在を知っていた。
この時点で、ティシット退役大佐は、この面談が彼の願望とはほど遠い結果になることを予期している。
「こちらの半田秘書官は……」
パウラが「知っています」と端的に答えた声音は、驚くほど冷たかった。
「お噂はかねがねうかがっています」
辰也の声にも抑揚がない。
「私もあなたのことはいろいろと」
「悪行の数々をして、逐電したとか?」
「まぁ、そんなところです」
「マハジャンガにいたのですね?」
「えぇ、相変わらず、素行の悪い連中とつるんでいます」
隆太郎はガラにもないことを伝える。
「半田操縦士は、ターボプロップを搭載したNA-40を初めて飛ばしました。
腕のいいパイロットです」
パウラは警戒を解かない。バンジェル島では、よほどの悪行を重ねていたらしい。あるいは、身内から疎まれていたか?
パウラが少し興味を示す。
「旅客機型があるとか?」
「輸送機型もあります。
貨物なら2トン、旅客なら24人が乗れます」
「クマンで作られているのですね?」
「機体や主翼はカラバッシュから輸送されてきます。
それに、マハジャンガから供給されるエンジンを取り付けます。
輸送機としては中途半端なサイズの機体ですが、機数を揃えられます」
「私たちは、ダッシュ8を希望しています」
「NA-40は与圧がないから、ダッシュ8よりも安価だし、エンジンも余力をもって量産しているので供給に不安がありません。
ギャレットのパワーでは、対応できる機体規模の最大でしょう。
最大積載で2500キロ飛べます。
あとは、空飛ぶ2トントラックに価値があるかどうか……」
「導入を薦めているのですか?
私に?
私たちの会社に?」
「すべてではないけれど、クマンが作っている機です。
私なら、見るくらいはする……」
「そうですね。
機会があれば……」
ティシット退役大佐は、パウラと辰也が親しく会話しないことに愕然とする。パウラは辰也を警戒しているし、辰也はパウラを単なる商談相手としてしか見ていない。
彼は内心で「失敗だ!」と叫んでいた。
NA-40を1機でも多く製造したいティシット退役大佐の計画は頓挫した。
ヒトが浮き世の義理と損得であれこれと画策している間に、セロはアゾレス諸島に着々と物資を集積していた。
マハジャンガからすると意図はわからないが、クフラックはこれを放置している。
工場内でNA-40の主翼外翼の取り付けを眺めながら、隆太郎と鏑木が会話する。
「この飛行機を売ってくれるとはねぇ」
「クフラックは戦費の調達に苦労しているようですね」
「クマンやブルマン、湖水地域に航空の萌芽があったのに潰しちゃったからねぇ。
クフラックとバンジェル島は、ヒト社会での立場を重視するあまり、全生物界でのニッチを固めることを忘れたんだって。
生物の学者さんがそう言ってた。
萱場さんはどう思う?」
隆太郎は、生物云々には答えなかった。
「航空産業をもう少し育てていれば、いまほど不利にはなっていなかったでしょうね」
「いろいろと調べたんですが、この飛行機は第二次世界大戦時のアメリカの爆撃機に外見が似ているんです。
だけど、構造まで同じかはわかりません。
たぶん、違うと思います。原形は、現物があったんじゃないかと思います。現物がなくても、詳細な資料があったとか……。
どちらにしても、200万年前にルーツがある飛行機です。
たぶん、4発型が最初に作られ、それをシュリンクした双発型をあとから作った……。
たぶん、間違いないです」
「萱場さん、4発機は価値がないの?」
「ペイロードは4トンです」
「そのまま使える?」
「エンジンを交換するから、いろいろと変更するところはできてますね。
それなら、ダッシュ8を製造したほうがいいですよ」
「ダッシュ8だけど、長胴型が開発中なんだって?」
「計画はありますが、エンジンがないんです」
「デッカイほうのアリソンじゃダメなの?」
「パワー不足なんです」
「4発にするとか?」
「機体コストが上がり、整備性が悪化します。
何を考えているんですか?」
「西アフリカから飛び立って、アゾレス諸島を爆撃し、帰還する方法」
「現状では無理です。
往復5000キロ、一番飛べる機はオライオンで6700キロ。
でも、低翼のオライオンは爆撃機にはならない……。
それに2機しかない……」
「爆撃機を新造するなんて、不経済だしね」
「この戦争、早く終わらせたいですよ」
「ヒトの戦争は、結局はゼニカネの問題。
妥協の余地はいくらでもある……。
しかし、セロはヒトを殺すこと自体が戦争の目的。最後の1人まで駆除するそうだ。
萱場さん、本当にそうならば、妥協の余地はないよね」
「クマンやバンジェル島は、過去に何度もセロと対話しようとしたようです。
会話は成立しなかったとか。
ヒトとセロの共存は、ガウゼの法則で完全に不可能らしいです。
鏑木さん、このままダラダラと戦い続けるしかないのかも……。
ヒトが決着しようとすれば、必然的にヒトかセロのどちらかが滅びることになります」
「それは、生物の基本法則なのだから仕方ないでしょう。
萱場さん、違う?」
「ヒトが滅ぶかも。
だから、クフラックは決着を避けているんじゃないですかね」
この日の夜、隆太郎はクフラックとバンジェル島の連合軍が、50機の大編隊でアゾレス諸島を襲ったことを知る。
目的は、セロによる西アフリカへの爆撃阻止で、アゾレス諸島に集積している物資と飛行船の破壊だった。
作戦は概ね成功し、西アフリカへの集中攻撃は回避された。
だが、ガウゼの法則が無効になったわけではない。
1カ月後、一時的な処置として、航空義勇兵部隊は解隊した。
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