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第四章
公爵閣下
普段から、時々目にしていた令嬢の、あまりの変わりように驚いた。
殿下に呼び出されて参上した殿下の私室に、彼女はいた。
私が入室してもチラリと視線を向けられるだけで、考えているような態度を変えない。
・・・・・・?
どうやら、私が分かっていないような顔つきだ。
普段ならば私が入室していたことを知れば、立ち上がって挨拶でもしそうなものだ。
何か、必死で頭を働かせているようにみえる。
その態度をおかしいと思いつつも、自分には関係ないと何が起ころうと部屋の片隅に控えていた。
令嬢の登場に、近衛と魔術師、公式書記官まで。
この問題の解決にまた時間を取られると頭を痛めた。
この王太子は大丈夫だろうかと思う。私がまた跡継ぎ候補に上るのは勘弁してもらえないだろうか。面倒くさい。
ため息を吐きたくなるのをこらえていると、令嬢が爆発した。
怒り狂ったのではない。冷静に、殿下を切って捨てた。
彼が準備した公式書記官を利用し、公式記録として婚約破棄の宣言を彼が準備した魔術師の手によって司法院に送るまでのことをやってのけた。
―――なんて、おもしろい。
もっとおもしろくしようと、求婚までして部屋に連れ帰った。
侯爵令嬢たる彼女に求婚したのだから、実際に結婚させられるかもしれないが、それでもかまわないと思う。
彼女の算術の知識は有用だ。少ししか見てはいないが、あれだけの計算が一分かからずにできる人間など、この国にはいない。
そんな、打算だらけで戻った執務室で話している中。
ディシールが落ちた。落ちた瞬間を見てしまった。
人はこうやって恋に落ちるものなのか。
そして、それを全く理解せずにやってのけ、「やばい」とでも思っていそうな令嬢に呆れた視線を投げかけた。
さらに、その視線を受けて、「私は悪くない」とでも言うように、睨んできた。
いじめたとは思っていないよ・・・。逆にすくい上げたんだ。救って・・・心を奪った。
あたふたと視線をさまよわせるタラシを放って、視線を落とせば、何故か、シアの前にお菓子を積み上げている。
何の嫌がらせかと思えば、欲しいのかと不思議そうにこちらを見てくる。
アリティでは話にならないと、シアに視線を移せば、目を見開いて固まっていた。
アリティが言うには、シアはお菓子が好きなのだそうだ。
誰にでも好物はあって、この場で甘いものを食べるのがアリティ自身とシアだけなのだからシアの好物を皿に山盛りにした。ただそれだけだと。
ディシールは食べないと、断言した。私には、食べるかと聞いてきた。
ディシールが食べないことを知っている。私は、気が向いた時だけ食べるのだと知っている。
ただの噂好きかと思えば、いろいろと観察されているらしい。
そして、シアまでも落ちていたのだと知った。
二人が両側から彼女を見る視線に、少しイラッとした。
君たちにはそんな権利はもうないと言えば、挑戦的な目で見返された。
だが、すでに結婚の権利は自分にある。
彼らの態度を鼻で笑って、アリティを追い詰めた。どうせ逃げられないのだからと。
その時の、彼女の辛そうな顔を見た時に胸に軽い痛みが走った。
その理由を探す前に、両側までも彼女に求婚しやがった。
目も口も見開いた彼女は、次の瞬間、
「まともなのはいないのっ!?」
そう叫んで、真っ赤な顔で帰ってしまったのだけれど。
―――とてもおもしろくなりそうだ。
殿下に呼び出されて参上した殿下の私室に、彼女はいた。
私が入室してもチラリと視線を向けられるだけで、考えているような態度を変えない。
・・・・・・?
どうやら、私が分かっていないような顔つきだ。
普段ならば私が入室していたことを知れば、立ち上がって挨拶でもしそうなものだ。
何か、必死で頭を働かせているようにみえる。
その態度をおかしいと思いつつも、自分には関係ないと何が起ころうと部屋の片隅に控えていた。
令嬢の登場に、近衛と魔術師、公式書記官まで。
この問題の解決にまた時間を取られると頭を痛めた。
この王太子は大丈夫だろうかと思う。私がまた跡継ぎ候補に上るのは勘弁してもらえないだろうか。面倒くさい。
ため息を吐きたくなるのをこらえていると、令嬢が爆発した。
怒り狂ったのではない。冷静に、殿下を切って捨てた。
彼が準備した公式書記官を利用し、公式記録として婚約破棄の宣言を彼が準備した魔術師の手によって司法院に送るまでのことをやってのけた。
―――なんて、おもしろい。
もっとおもしろくしようと、求婚までして部屋に連れ帰った。
侯爵令嬢たる彼女に求婚したのだから、実際に結婚させられるかもしれないが、それでもかまわないと思う。
彼女の算術の知識は有用だ。少ししか見てはいないが、あれだけの計算が一分かからずにできる人間など、この国にはいない。
そんな、打算だらけで戻った執務室で話している中。
ディシールが落ちた。落ちた瞬間を見てしまった。
人はこうやって恋に落ちるものなのか。
そして、それを全く理解せずにやってのけ、「やばい」とでも思っていそうな令嬢に呆れた視線を投げかけた。
さらに、その視線を受けて、「私は悪くない」とでも言うように、睨んできた。
いじめたとは思っていないよ・・・。逆にすくい上げたんだ。救って・・・心を奪った。
あたふたと視線をさまよわせるタラシを放って、視線を落とせば、何故か、シアの前にお菓子を積み上げている。
何の嫌がらせかと思えば、欲しいのかと不思議そうにこちらを見てくる。
アリティでは話にならないと、シアに視線を移せば、目を見開いて固まっていた。
アリティが言うには、シアはお菓子が好きなのだそうだ。
誰にでも好物はあって、この場で甘いものを食べるのがアリティ自身とシアだけなのだからシアの好物を皿に山盛りにした。ただそれだけだと。
ディシールは食べないと、断言した。私には、食べるかと聞いてきた。
ディシールが食べないことを知っている。私は、気が向いた時だけ食べるのだと知っている。
ただの噂好きかと思えば、いろいろと観察されているらしい。
そして、シアまでも落ちていたのだと知った。
二人が両側から彼女を見る視線に、少しイラッとした。
君たちにはそんな権利はもうないと言えば、挑戦的な目で見返された。
だが、すでに結婚の権利は自分にある。
彼らの態度を鼻で笑って、アリティを追い詰めた。どうせ逃げられないのだからと。
その時の、彼女の辛そうな顔を見た時に胸に軽い痛みが走った。
その理由を探す前に、両側までも彼女に求婚しやがった。
目も口も見開いた彼女は、次の瞬間、
「まともなのはいないのっ!?」
そう叫んで、真っ赤な顔で帰ってしまったのだけれど。
―――とてもおもしろくなりそうだ。
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