7 / 35
第一章
可愛い婚約者
しおりを挟む「ディシール。あなたにはがっかりしました。ご自分の裁量がどこまでかも、理解していなかった、ということですか?」
厳しく問えば、項垂れた頭から、声が届いた。
「返す言葉もございません」
視線を横にずらして、呆然と立ち尽くしている殿下を見る。
「殿下、婚約者とのことですが」
「あ、ああ・・・」
歯切れが悪い。
「そうです!婚約者なのに、許可がいるとおっしゃるのですか!?」
『婚約者』という言葉が出てきただけで騒ぎ出す令嬢。
うるさい。
「シア、黙らせなさい」
魔術師に視線もむけずに命じれば、沈黙の魔術が動く気配がした。
驚いたように目をむくマリエが、魔術師に向く。
「私がいるのです。当たり前でしょう。殿下が私に許可を得て、その上で入室を許可したならば、このような状態にはありません」
王族とはいえ、侯爵たるわが家も、王家に連なるもの。
それが同席していると言うのに、得体のしれない人間を勝手に招待するなど、侮辱ととらえられても仕方がないのだ。
マリエが身についけている指輪に目を走らせれば、細い指に不釣り合いなほど大きな宝石の付いた指輪をはめていた。
「殿下、婚約はどのように決定するか、ご存知ですか」
「……知っている」
ええ、知っているのは分かっていて、訊いた。
「私との婚約はお嫌だったようで」
「そんなことはっ……!」
殿下が叫ぶ手には、計算を正しくした書類がある。
私の価値が高まったということだろうか。
空々しくて、いっそ、笑える。
王太子という立場にある殿下の婚約者となれば、将来は王妃となる。
資質も、才能も、家柄も、民からの人気も必要となるのだ。
それを見極めるために、元老院が動く。
一朝一夕に決定されるものではない。
そのために、アリティも努力していた。
婚約者として、認められるために。
というか、資質、才能、家柄までは、アリティはクリアしていたので、問題は性格だったのだが。
傲慢でワガママ。
けれど、外で猫を被れるのだから、民からの人気も得られるだろうと判断されそうなところまでいっていると聞いていた。
それゆえ、アリティのワガママは、王宮に押し掛けることさえ許されていた。
このままいけば、ほぼ、確実にアリティが婚約者として立ち上がり、結婚までいくことだろう。
それが、王太子は気に入らなかったのだろう。
可愛い花嫁が欲しかったのか、マリエに気持ちが向かったのだ。
77
あなたにおすすめの小説
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
裏切りの街 ~すれ違う心~
緑谷めい
恋愛
エマは裏切られた。付き合って1年になる恋人リュカにだ。ある日、リュカとのデート中、街の裏通りに突然一人置き去りにされたエマ。リュカはエマを囮にした。彼は騎士としての手柄欲しさにエマを利用したのだ。※ 全5話完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる