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第一章
乱入
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「マリエ!ちょっと待て・・・」
書類に気を取られていたらしい殿下が、慌てたように立ち上がった。
殿下が厳しい声を出しても、その令嬢は止まらなかった。
「アリティ様!私、殿下をお慕いしているのです!」
その後ろに付き従うは、近衛騎士団副長と魔術師帳。
切なそうな顔をして、そう叫ぶマリエ様を見て、私に厳しい視線を向けた。
「だ、だから、私、殿下に婚約者として、認めていただきましたの!」
王太子の婚約者を殿下が認めるって、どういうこと?
そんな重要事項は議会を通すべきでしょう?
だれが、そんなものを勝手に認めたの。
・・・ちょっと頭が痛い。
「そうですか」
無視するのも何なので、一応、返事をしてみる。
他に何を言えっていうのよ、この状況で。
そんな反応に、本気にされていないと感じたのか、むっとした様子で言い募る。
「私、殿下に愛していると言っていただきましたの!それに、指輪だって!」
「その前に、よろしいですか?」
令嬢の言葉にかぶせるように発言して、令嬢の言葉を遮った。
大きな椅子から立ち上がり、令嬢の前に正面から向かい合い、無表情で令嬢を眺める。
後ろにいた近衛が動こうとしたが、視線だけで留める。
「あなたは、誰ですか?」
冷静に、真っ直ぐに目を見つめて問うた。
「……は」
「侯爵令嬢たる私に、まず挨拶も、名乗ることもせず、ファーストネームで呼びつけるあなたのお名前をうかがっています」
冷静な反応が返ってくるとは考えていなかった令嬢が、助けを求めるように視線をうろつかせる。
だが、助けられる人間など存在しない。
この場で、唯一、私よりも高位の殿下でさえも、私の質問が当然のものであることは分かっているはずだ。
誰の助けも得られないことが分かったのか、しばらく視線をうろつかせてから、答えた。
「マリエ=ランドルーザと申します」
小さな声だったけれど、一応名前は聞こえた。
なんとなく、聞き覚えはある。
けれど、私とは一度も話したことがなかったはずだ。
「ランドルーザ・・・子爵家の令嬢が、何故ここへ?」
問いただすように、後ろに控える近衛に視線を移すと、びくりと、その体が揺れた。
「私が殿下と・・・」
「あなたには聞いていません」
言い募る令嬢を一言で黙らせて、後ろの近衛・・・ディシール副長へ向き直る。
「この部屋は、殿下の私室です。言っている意味が分かりますか?」
「……はい」
ディシールは、真っ青な顔になって、直立不動のまま動かない。
殿下の私室は、厳しい警護がつけられている。
殿下が居室にいらして、侯爵令嬢の私までいる今の状況。
そう簡単に、人を通していいわけがないのだ。
王族、公、侯爵家に連なるものならまだしも、私に名前さえ知られていない貴族の令嬢が、いきなり入室してくるなど、あり得ない。
なんの爵位も権力も持たない者が、ノックひとつでこの部屋に入ってきた。
それは、ただの令嬢一人の力でできるわけもないことで。
書類に気を取られていたらしい殿下が、慌てたように立ち上がった。
殿下が厳しい声を出しても、その令嬢は止まらなかった。
「アリティ様!私、殿下をお慕いしているのです!」
その後ろに付き従うは、近衛騎士団副長と魔術師帳。
切なそうな顔をして、そう叫ぶマリエ様を見て、私に厳しい視線を向けた。
「だ、だから、私、殿下に婚約者として、認めていただきましたの!」
王太子の婚約者を殿下が認めるって、どういうこと?
そんな重要事項は議会を通すべきでしょう?
だれが、そんなものを勝手に認めたの。
・・・ちょっと頭が痛い。
「そうですか」
無視するのも何なので、一応、返事をしてみる。
他に何を言えっていうのよ、この状況で。
そんな反応に、本気にされていないと感じたのか、むっとした様子で言い募る。
「私、殿下に愛していると言っていただきましたの!それに、指輪だって!」
「その前に、よろしいですか?」
令嬢の言葉にかぶせるように発言して、令嬢の言葉を遮った。
大きな椅子から立ち上がり、令嬢の前に正面から向かい合い、無表情で令嬢を眺める。
後ろにいた近衛が動こうとしたが、視線だけで留める。
「あなたは、誰ですか?」
冷静に、真っ直ぐに目を見つめて問うた。
「……は」
「侯爵令嬢たる私に、まず挨拶も、名乗ることもせず、ファーストネームで呼びつけるあなたのお名前をうかがっています」
冷静な反応が返ってくるとは考えていなかった令嬢が、助けを求めるように視線をうろつかせる。
だが、助けられる人間など存在しない。
この場で、唯一、私よりも高位の殿下でさえも、私の質問が当然のものであることは分かっているはずだ。
誰の助けも得られないことが分かったのか、しばらく視線をうろつかせてから、答えた。
「マリエ=ランドルーザと申します」
小さな声だったけれど、一応名前は聞こえた。
なんとなく、聞き覚えはある。
けれど、私とは一度も話したことがなかったはずだ。
「ランドルーザ・・・子爵家の令嬢が、何故ここへ?」
問いただすように、後ろに控える近衛に視線を移すと、びくりと、その体が揺れた。
「私が殿下と・・・」
「あなたには聞いていません」
言い募る令嬢を一言で黙らせて、後ろの近衛・・・ディシール副長へ向き直る。
「この部屋は、殿下の私室です。言っている意味が分かりますか?」
「……はい」
ディシールは、真っ青な顔になって、直立不動のまま動かない。
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