どちらと結婚するのですか

ざっく

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第二章

覚えのない記憶

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 「これは、今日のおかしな行動にも繋がるね?」

 閣下が面白そうに聞いてくる。
 算術のことといい、もう言い逃れはできないだろう。
 言い逃れようにも、自分でも整理ができていなくて言葉にできない。
 自分の記憶と、誰かの記憶と思考が混濁して、どれが本物かが分からなくなってしまう。

 そのために、ここで紅茶など飲んでいるのだから。

 「ええ、先ほど・・・王宮に上がる前から、覚えのない記憶が思い出されまして」
 首を傾げた閣下が、不思議そうに聞いてくる。
 「覚えのない・・・?記憶って呼ばないだろう、それ」
 疑わしそうな顔をして、言葉のおかしさを取り上げられる。
 「私自身の記憶ではありません。この世界でも・・・無い気がします」
 言葉を探すように、首を振るけれど、うまく言葉にできない。

 「数時間前、この記憶を手に入れた時から、私は、少々変わったのではないかと思います」
 目を閉じて、自分の姿を思い浮かべる。
 「私は、記憶を手に入れる前の自分を、しっかりと思いだし、その立ち居振る舞いをしようと思えば、できると思います。けれど・・・知識を手に入れた自分では、ちょっと、その態度は恥ずかしくて・・・」
 言いよどめば、他の3人がなるほどというように、大きく頷く。

 そこは頷くな。
 それなりに、麗しかったはずだ。傲慢な感じで。
 「なるほどね。昨日までのあなたなら、マリエ嬢が乗り込んできた時点で、わめき散らしていたと思うよ。そのために、殿下はあなたを怒らせる態度を取っていたはずだしね。その冷静さを欠いた令嬢相手に、どんなことを計画していたのかは分からないけれど」
 馬鹿にするように笑っているけれど、見られても構わない書類を欲しがった殿下が、何かを画策していることは分かっていたはずだ。
 放置したのだから、馬鹿に出来る立場でもない。
 そんなことを考えながら、閣下を見つめれば、「それはそうなんだけどね」とでも言いそうに、口元をにやりと歪めた。
「怒声が来ると思っていた相手から、冷静に対処されて、驚いただろう?」
 最後の問いかけは、私の両隣に向けてだ。
 二人は何も言わない。それが、正解であるから。
 あの時は、自分も自分の中の記憶を探りながらだったから、他を気にする余裕はなくて。
 殿下の態度が失礼だと思いはしても、怒りにはつながっていなかった。

 「それで、どうして、別世界だと?」
 疑わしげな顔を前面に出さないでほしい。
貴族なんだから……というか、閣下はポーカーフェイス得意でしょう?もっと表情を隠してくれないかな。
 一つ、息を吸い込んで、言った。
「閣下、ご無礼をお許しください」
 「うん?」
 突然の私の謝罪に、閣下は不思議そうにしながらも、首肯した。
 「先ほどの謝罪の時に、私が思っていたことです。……誓約の石板を、書記官なしに光らせて完了させちゃうなんて、何そのチート。無駄にチートすぎる力持った公爵閣下が、掛け算九九できないなんて、チョーウケる」
 「………………………」
 閣下が、笑顔のまま固まった。
 言質は取っている。不敬だとか言われても知るか。
 「誓約の石板を、書記官がいないのに完了させることがどれだけ無駄な……失礼、すごい能力であるかが分かり、それを、”チート”という、この世界にはない言葉で表現しています。また、掛け算がないこの世界で、九九がないことを知って、それを閣下が知らないことを理解し、そのことについて、笑えると、嘲っているわけです」
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