16 / 35
第二章
覚えのない記憶
しおりを挟む
「これは、今日のおかしな行動にも繋がるね?」
閣下が面白そうに聞いてくる。
算術のことといい、もう言い逃れはできないだろう。
言い逃れようにも、自分でも整理ができていなくて言葉にできない。
自分の記憶と、誰かの記憶と思考が混濁して、どれが本物かが分からなくなってしまう。
そのために、ここで紅茶など飲んでいるのだから。
「ええ、先ほど・・・王宮に上がる前から、覚えのない記憶が思い出されまして」
首を傾げた閣下が、不思議そうに聞いてくる。
「覚えのない・・・?記憶って呼ばないだろう、それ」
疑わしそうな顔をして、言葉のおかしさを取り上げられる。
「私自身の記憶ではありません。この世界でも・・・無い気がします」
言葉を探すように、首を振るけれど、うまく言葉にできない。
「数時間前、この記憶を手に入れた時から、私は、少々変わったのではないかと思います」
目を閉じて、自分の姿を思い浮かべる。
「私は、記憶を手に入れる前の自分を、しっかりと思いだし、その立ち居振る舞いをしようと思えば、できると思います。けれど・・・知識を手に入れた自分では、ちょっと、その態度は恥ずかしくて・・・」
言いよどめば、他の3人がなるほどというように、大きく頷く。
そこは頷くな。
それなりに、麗しかったはずだ。傲慢な感じで。
「なるほどね。昨日までのあなたなら、マリエ嬢が乗り込んできた時点で、わめき散らしていたと思うよ。そのために、殿下はあなたを怒らせる態度を取っていたはずだしね。その冷静さを欠いた令嬢相手に、どんなことを計画していたのかは分からないけれど」
馬鹿にするように笑っているけれど、見られても構わない書類を欲しがった殿下が、何かを画策していることは分かっていたはずだ。
放置したのだから、馬鹿に出来る立場でもない。
そんなことを考えながら、閣下を見つめれば、「それはそうなんだけどね」とでも言いそうに、口元をにやりと歪めた。
「怒声が来ると思っていた相手から、冷静に対処されて、驚いただろう?」
最後の問いかけは、私の両隣に向けてだ。
二人は何も言わない。それが、正解であるから。
あの時は、自分も自分の中の記憶を探りながらだったから、他を気にする余裕はなくて。
殿下の態度が失礼だと思いはしても、怒りにはつながっていなかった。
「それで、どうして、別世界だと?」
疑わしげな顔を前面に出さないでほしい。
貴族なんだから……というか、閣下はポーカーフェイス得意でしょう?もっと表情を隠してくれないかな。
一つ、息を吸い込んで、言った。
「閣下、ご無礼をお許しください」
「うん?」
突然の私の謝罪に、閣下は不思議そうにしながらも、首肯した。
「先ほどの謝罪の時に、私が思っていたことです。……誓約の石板を、書記官なしに光らせて完了させちゃうなんて、何そのチート。無駄にチートすぎる力持った公爵閣下が、掛け算九九できないなんて、チョーウケる」
「………………………」
閣下が、笑顔のまま固まった。
言質は取っている。不敬だとか言われても知るか。
「誓約の石板を、書記官がいないのに完了させることがどれだけ無駄な……失礼、すごい能力であるかが分かり、それを、”チート”という、この世界にはない言葉で表現しています。また、掛け算がないこの世界で、九九がないことを知って、それを閣下が知らないことを理解し、そのことについて、笑えると、嘲っているわけです」
閣下が面白そうに聞いてくる。
算術のことといい、もう言い逃れはできないだろう。
言い逃れようにも、自分でも整理ができていなくて言葉にできない。
自分の記憶と、誰かの記憶と思考が混濁して、どれが本物かが分からなくなってしまう。
そのために、ここで紅茶など飲んでいるのだから。
「ええ、先ほど・・・王宮に上がる前から、覚えのない記憶が思い出されまして」
首を傾げた閣下が、不思議そうに聞いてくる。
「覚えのない・・・?記憶って呼ばないだろう、それ」
疑わしそうな顔をして、言葉のおかしさを取り上げられる。
「私自身の記憶ではありません。この世界でも・・・無い気がします」
言葉を探すように、首を振るけれど、うまく言葉にできない。
「数時間前、この記憶を手に入れた時から、私は、少々変わったのではないかと思います」
目を閉じて、自分の姿を思い浮かべる。
「私は、記憶を手に入れる前の自分を、しっかりと思いだし、その立ち居振る舞いをしようと思えば、できると思います。けれど・・・知識を手に入れた自分では、ちょっと、その態度は恥ずかしくて・・・」
言いよどめば、他の3人がなるほどというように、大きく頷く。
そこは頷くな。
それなりに、麗しかったはずだ。傲慢な感じで。
「なるほどね。昨日までのあなたなら、マリエ嬢が乗り込んできた時点で、わめき散らしていたと思うよ。そのために、殿下はあなたを怒らせる態度を取っていたはずだしね。その冷静さを欠いた令嬢相手に、どんなことを計画していたのかは分からないけれど」
馬鹿にするように笑っているけれど、見られても構わない書類を欲しがった殿下が、何かを画策していることは分かっていたはずだ。
放置したのだから、馬鹿に出来る立場でもない。
そんなことを考えながら、閣下を見つめれば、「それはそうなんだけどね」とでも言いそうに、口元をにやりと歪めた。
「怒声が来ると思っていた相手から、冷静に対処されて、驚いただろう?」
最後の問いかけは、私の両隣に向けてだ。
二人は何も言わない。それが、正解であるから。
あの時は、自分も自分の中の記憶を探りながらだったから、他を気にする余裕はなくて。
殿下の態度が失礼だと思いはしても、怒りにはつながっていなかった。
「それで、どうして、別世界だと?」
疑わしげな顔を前面に出さないでほしい。
貴族なんだから……というか、閣下はポーカーフェイス得意でしょう?もっと表情を隠してくれないかな。
一つ、息を吸い込んで、言った。
「閣下、ご無礼をお許しください」
「うん?」
突然の私の謝罪に、閣下は不思議そうにしながらも、首肯した。
「先ほどの謝罪の時に、私が思っていたことです。……誓約の石板を、書記官なしに光らせて完了させちゃうなんて、何そのチート。無駄にチートすぎる力持った公爵閣下が、掛け算九九できないなんて、チョーウケる」
「………………………」
閣下が、笑顔のまま固まった。
言質は取っている。不敬だとか言われても知るか。
「誓約の石板を、書記官がいないのに完了させることがどれだけ無駄な……失礼、すごい能力であるかが分かり、それを、”チート”という、この世界にはない言葉で表現しています。また、掛け算がないこの世界で、九九がないことを知って、それを閣下が知らないことを理解し、そのことについて、笑えると、嘲っているわけです」
82
あなたにおすすめの小説
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた
黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」
幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。
幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。
そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。
たった一つボタンを掛け違えてしまったために、
最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。
主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる