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番外編
ディシール視点
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「うわあ、すごーい」
王宮の庭園で自主訓練をしていると、呑気な声が響いた。
汗だくで、土と埃だらけの自分に、興味津々で、恥ずかしがりもせずに近寄ってきた娘が、マリエ様だった。
彼女には、天真爛漫という言葉が良く似合う。
いつもニコニコしていて、一緒にいれば、華やかな雰囲気になる。
そして、
「すごいですわ!すごい、格好いい!」
手放しの賛辞に、自分はもっとできるのだと、見せつけたかった。
言葉は、いつも「すごい」「格好いい」だけだったが、それでも充分だった。
浴びせるほどの褒め言葉は、今までもらったことがなかった。
賛辞は、いつも兄のものだったから。
「格好いい」
うっとりと見上げられれば、自分が世界で一番優秀な人間になった気にさせてもらえた。
私は、その心地よい言葉に絡められて、夢心地だった。
マリエ様が、殿下に恋をするまでは。
「好きな方がいるの」
そう言って頬を染める彼女を、呆然と見下ろした。
好き?好き・・・とは、私ではなく?
「だけど・・・邪魔をされて、困っているの。オルガ様は、私を想ってくださっているわ。――――お願い。協力して?」
涙で潤んだ瞳に見上げられて、言葉に詰まった。
口を開かない私を見て、マリエ様が眉をひそめる。
「ダメなの?……無理?」
心臓が嫌な音をたてた。
無理?無理だって?
「いや、……できるよ。あなたの望むままに」
息苦しさを我慢して、無理矢理了承した。
彼女の口から、失望の言葉を聞きたくなくて。
聞いてしまえば、自我が崩壊するような気さえした。
「嬉しい!ありがとう。さすがディシールだわ!」
望みの賛辞が降ってきたけれど、その言葉は空っぽの様な気がして、いつものようには満たされなかった。
そうして、マリエ様をオルガ=ブラックストーン殿下・・・この国の王太子の部屋まで案内することになったのだ。
事前に、殿下に話は通していた。
だが、子爵令嬢を殿下の私室に、理由もなく通すわけにはいかず、警備をかいくぐるしかなかった。
勝手に警備の人員を変更し、自身が殿下の私室の警護に当たることにした。
共に警備する人間がいては不都合なので、二種類の警備計画書を作成し、自分の名前がないものの方をそれぞれの警備に見せた。
誰も殿下の前の警備が自分だと認識しない状態が出来上がった。
どこかで警鐘が鳴る。
どれだけの大罪か分かっているのか。
この間に、何かが起こったらどうするつもりだ。
責任の重さに、冷たい汗が流れ落ちていく。
マリエ様を待たせていた王宮中庭まで行くと、そこにはシアがいた。
「ディシールだけでは不安でしょう?シアにも一緒に行ってくれるようにお願いしたの!」
不安?
誰が?
……あなたが?
シアに視線を向けると、暗い表情で一度だけ頷いた。
シアは、魔術師団長だ。
あらゆる魔術に精通し、シアがいれば、そう―――安心だろう。
幼いころからの知り合いだが、ここ最近は会ってもいなかった。
久しぶり。なんて、言える雰囲気でもなく、マリエ様だけがニコニコとしながら、3人で歩き出した。
殿下の私室前につくと、話し声がした。来客だろうか。
それならば、時間を改めなければならないと思ったところで、マリエ様がいきなり、私室の扉をノックした。
そればかりか、返事も聞かずに、いきなり扉を開けたのだ。
止める間もなかった。
そんなことをするとは思ってもいなかったのだ。
王宮の庭園で自主訓練をしていると、呑気な声が響いた。
汗だくで、土と埃だらけの自分に、興味津々で、恥ずかしがりもせずに近寄ってきた娘が、マリエ様だった。
彼女には、天真爛漫という言葉が良く似合う。
いつもニコニコしていて、一緒にいれば、華やかな雰囲気になる。
そして、
「すごいですわ!すごい、格好いい!」
手放しの賛辞に、自分はもっとできるのだと、見せつけたかった。
言葉は、いつも「すごい」「格好いい」だけだったが、それでも充分だった。
浴びせるほどの褒め言葉は、今までもらったことがなかった。
賛辞は、いつも兄のものだったから。
「格好いい」
うっとりと見上げられれば、自分が世界で一番優秀な人間になった気にさせてもらえた。
私は、その心地よい言葉に絡められて、夢心地だった。
マリエ様が、殿下に恋をするまでは。
「好きな方がいるの」
そう言って頬を染める彼女を、呆然と見下ろした。
好き?好き・・・とは、私ではなく?
「だけど・・・邪魔をされて、困っているの。オルガ様は、私を想ってくださっているわ。――――お願い。協力して?」
涙で潤んだ瞳に見上げられて、言葉に詰まった。
口を開かない私を見て、マリエ様が眉をひそめる。
「ダメなの?……無理?」
心臓が嫌な音をたてた。
無理?無理だって?
「いや、……できるよ。あなたの望むままに」
息苦しさを我慢して、無理矢理了承した。
彼女の口から、失望の言葉を聞きたくなくて。
聞いてしまえば、自我が崩壊するような気さえした。
「嬉しい!ありがとう。さすがディシールだわ!」
望みの賛辞が降ってきたけれど、その言葉は空っぽの様な気がして、いつものようには満たされなかった。
そうして、マリエ様をオルガ=ブラックストーン殿下・・・この国の王太子の部屋まで案内することになったのだ。
事前に、殿下に話は通していた。
だが、子爵令嬢を殿下の私室に、理由もなく通すわけにはいかず、警備をかいくぐるしかなかった。
勝手に警備の人員を変更し、自身が殿下の私室の警護に当たることにした。
共に警備する人間がいては不都合なので、二種類の警備計画書を作成し、自分の名前がないものの方をそれぞれの警備に見せた。
誰も殿下の前の警備が自分だと認識しない状態が出来上がった。
どこかで警鐘が鳴る。
どれだけの大罪か分かっているのか。
この間に、何かが起こったらどうするつもりだ。
責任の重さに、冷たい汗が流れ落ちていく。
マリエ様を待たせていた王宮中庭まで行くと、そこにはシアがいた。
「ディシールだけでは不安でしょう?シアにも一緒に行ってくれるようにお願いしたの!」
不安?
誰が?
……あなたが?
シアに視線を向けると、暗い表情で一度だけ頷いた。
シアは、魔術師団長だ。
あらゆる魔術に精通し、シアがいれば、そう―――安心だろう。
幼いころからの知り合いだが、ここ最近は会ってもいなかった。
久しぶり。なんて、言える雰囲気でもなく、マリエ様だけがニコニコとしながら、3人で歩き出した。
殿下の私室前につくと、話し声がした。来客だろうか。
それならば、時間を改めなければならないと思ったところで、マリエ様がいきなり、私室の扉をノックした。
そればかりか、返事も聞かずに、いきなり扉を開けたのだ。
止める間もなかった。
そんなことをするとは思ってもいなかったのだ。
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