どちらと結婚するのですか

ざっく

文字の大きさ
19 / 35
番外編

ディシール視点

しおりを挟む
 「うわあ、すごーい」
 王宮の庭園で自主訓練をしていると、呑気な声が響いた。
 汗だくで、土と埃だらけの自分に、興味津々で、恥ずかしがりもせずに近寄ってきた娘が、マリエ様だった。

 彼女には、天真爛漫という言葉が良く似合う。
 いつもニコニコしていて、一緒にいれば、華やかな雰囲気になる。
 そして、
 「すごいですわ!すごい、格好いい!」
 手放しの賛辞に、自分はもっとできるのだと、見せつけたかった。
 言葉は、いつも「すごい」「格好いい」だけだったが、それでも充分だった。
 浴びせるほどの褒め言葉は、今までもらったことがなかった。

 賛辞は、いつも兄のものだったから。

 「格好いい」
 うっとりと見上げられれば、自分が世界で一番優秀な人間になった気にさせてもらえた。

 私は、その心地よい言葉に絡められて、夢心地だった。

 マリエ様が、殿下に恋をするまでは。

 「好きな方がいるの」
 そう言って頬を染める彼女を、呆然と見下ろした。
 好き?好き・・・とは、私ではなく?
 「だけど・・・邪魔をされて、困っているの。オルガ様は、私を想ってくださっているわ。――――お願い。協力して?」
 涙で潤んだ瞳に見上げられて、言葉に詰まった。
 口を開かない私を見て、マリエ様が眉をひそめる。
 「ダメなの?……無理?」
 心臓が嫌な音をたてた。
 無理?無理だって?
 「いや、……できるよ。あなたの望むままに」
 息苦しさを我慢して、無理矢理了承した。
 彼女の口から、失望の言葉を聞きたくなくて。
 聞いてしまえば、自我が崩壊するような気さえした。

 「嬉しい!ありがとう。さすがディシールだわ!」

 望みの賛辞が降ってきたけれど、その言葉は空っぽの様な気がして、いつものようには満たされなかった。

 そうして、マリエ様をオルガ=ブラックストーン殿下・・・この国の王太子の部屋まで案内することになったのだ。

 事前に、殿下に話は通していた。
 だが、子爵令嬢を殿下の私室に、理由もなく通すわけにはいかず、警備をかいくぐるしかなかった。
 勝手に警備の人員を変更し、自身が殿下の私室の警護に当たることにした。
 共に警備する人間がいては不都合なので、二種類の警備計画書を作成し、自分の名前がないものの方をそれぞれの警備に見せた。
誰も殿下の前の警備が自分だと認識しない状態が出来上がった。
どこかで警鐘が鳴る。
 どれだけの大罪か分かっているのか。
 この間に、何かが起こったらどうするつもりだ。
 責任の重さに、冷たい汗が流れ落ちていく。

 マリエ様を待たせていた王宮中庭まで行くと、そこにはシアがいた。
 「ディシールだけでは不安でしょう?シアにも一緒に行ってくれるようにお願いしたの!」
 不安?
 誰が?
 ……あなたが?

 シアに視線を向けると、暗い表情で一度だけ頷いた。
 シアは、魔術師団長だ。
 あらゆる魔術に精通し、シアがいれば、そう―――安心だろう。
 幼いころからの知り合いだが、ここ最近は会ってもいなかった。
 久しぶり。なんて、言える雰囲気でもなく、マリエ様だけがニコニコとしながら、3人で歩き出した。

 殿下の私室前につくと、話し声がした。来客だろうか。
 それならば、時間を改めなければならないと思ったところで、マリエ様がいきなり、私室の扉をノックした。
 そればかりか、返事も聞かずに、いきなり扉を開けたのだ。
 止める間もなかった。

 そんなことをするとは思ってもいなかったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」 幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

愛されない女

詩織
恋愛
私から付き合ってと言って付き合いはじめた2人。それをいいことに彼は好き放題。やっぱり愛されてないんだなと…

幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ

猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。 そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。 たった一つボタンを掛け違えてしまったために、 最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。 主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?

処理中です...