召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく

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褒められ慣れてない

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「大丈夫」
ふいに、亜優の頭に大きな掌が置かれた。
「心配するな。お前は街に帰れるように取り計らってやるよ。俺たちと一緒にずっと外で生活する必要はない」
見上げると、アッシュが笑っていた。
亜優は、すでに二十五だ。しっかりと働いて自分で生計を立てていた大人で。
なのに、大きな手が亜優を安心させようとゆっくりと頭を撫でる感触に、心地よさを感じた。それがさらに恥ずかしくて、どうしようかと固まってしまった。
大体の女性は、親しくもない男性に頭を撫でられるのは嫌だと思うらしい。
かくいう亜優だってそうだ。
そう……な、はずだったのだが、見上げた先の無邪気な笑顔。
これは、イケメンに限るというやつだろうか。
イケメンと思った瞬間に、この世界にやってきたときに周りにいた人たちを思い出した。
――違う。
明確に違うと思った。あんな奴らに触られるのを考えただけで、イライラする。
アッシュの見た目がいいから嬉しいわけじゃない。彼の空気が、優しいからだ。
固まる亜優をいいことに、いつまでも頭を撫でられ続けている。
亜優が視線だけを上げてアッシュを見ると、さらに嬉し気に微笑まれた。
これは、どうしたらいいのだろう。
そろそろやめてくださいと避けてしまうと、彼が悲しそうな顔をするような気がする。でも、このままいつまで続くのか。
視線だけで周りを見ると、何故か微笑まし気に遠巻きにされている。
「取り計らうって……」
ようやく、それだけ声にすることができた。
亜優が恥ずかしがっている様子を楽しんでいるようなアッシュは、困ったように軽く首を傾げる。
「魔物に会ってしまっても、亜優は前に出るな。できるだけ接触しないように。そうしたら、街の入り口まで送ってやるよ」
「え?でも……」
彼の言葉に、亜優は思わず声をあげた。
亜優は、突然現れたイレギュラーな存在だ。
帰れるものなら、三か月も街の外にいる彼らこそ帰りたいだろう。
そんな彼らを差し置いて、守ってもらって一人で街に戻るのか。
そんなことができるなら、彼らこそ、入れ替わるように帰ればいいのに。
「気にするな。俺らのことを気にし始めたら、お前は帰れなくなるぞ」
大きなテントをたたみ終わったレキトが笑いながら横を通り過ぎる。
その言葉に、周りの人たちも、苦笑している。
彼らは、まさか……
亜優の視線に、アッシュは首を振る。
「諦めてはないよ。いつかは、帰りたい。それがいつになるかは……ちょっと、想像がつかないだけで」
そんな途方もないことを言う。
このまま魔物が増え続けていけば、人間がどうなるか分からない。
逆に、何かを境に魔物たちが消えるかもしれない。
ただ、その日を待つのだという。
「私も……」
言いかけて、やめた。
明らかに足手まといすぎる。
唯一の女はいろいろなところに気を遣われる。昨日のテントの中だって、突然来たというのに一番広いスペースを空けてもらった。
そうでなければ、あんな場所に戻って、一人ぼっちで生活していくよりも、昨日会ったばかりの彼らと居た方がいいかと思ったのだ。
だけど、そんな自分の都合を押し付けようとするなんて。どんだけ図々しいんだという話だ。
何も言えなくなった亜優の頭を、最後にクシャっと強めに撫でて、彼は笑う。
「亜優がいてくれたら楽しいだろうけど、危ないからね。帰れるときに帰っていた方がいい」
彼は優しい。
亜優は何も声に出せずに、小さく頷いた。
微妙な空気が流れてしまった。
「まあ、街に戻るのも不安なんだろうけどなあ。裁かれもせずに街の外に捨てられるなんて、お偉いさんの逆鱗にふれたとかだろ」
……当たらずも遠からずだ。
ただ、逆鱗など触れたことは無いと思うのだが。
「何もしてないんですけど」
誰になんと言われてもいいなんて考えたこともあったけど、彼らには誤解されたくなかった。
思わず口を吐いた弁解に、レキトまで笑う。
「どっかの気位の高い令嬢の彼氏とかに見初められたりしたんだろ?ムカつくから国外追放よ!とか簡単にやっちゃってるんじゃないか」
冗談めかして言ってはいるが、全く笑えない。
見初められるどころか、聖女を囲む彼らの視線に一瞬さえも入らなかったのに。

「ああ、亜優、美人だもんなあ」

「――はっ?」

思いがけぬ言葉に、亜優は素っ頓狂な声をあげた。アッシュが微笑んで亜優を見ていたのに、彼女の驚き具合に、同じように驚いた表情をして見せる。
「なんだ、その声。何を驚くことがある?」
何もかもだ。
亜優は、あまり身なりに構わない方で、スキンケアもしていない。
何せ、元の世界にいた時は、仕事でほとんど作業着であることが多かったし、こちらに来た後は、邪魔者扱いだ。
「そりゃ、そんなこと言われたこともないですし」
自分で鏡を見たって分かる。美人であるはずがない。
「マジで言ってんの?」
アッシュとレキトだけでなく、周りからも視線を感じる。見回してみれば、今の言葉が聞こえた全員が驚いてこちらを見ている。
「え?え?そちらこそ、マジですか?」
何だこの雰囲気。いつから自分が美人扱いになった。
きょろきょろと周りを見回して首を傾げる亜優に、彼らは大きなため息を吐いた。
「これだな。無意識に令嬢の反感を買ったんだ」
「ああ。自分の価値に気がついていない純粋培養で篭絡したんだ」
なんか、人聞きが悪い!
じわじわと顔が熱くなっていく。
こんなに真面目にほめられたことが無かっただけに、どう対応していいのか分からない。
「篭絡できるなら、篭絡してますよ」
出来なかったうえに、聖女に嫌われたからここに居る。
あの高位貴族の中の、誰か一人だけでも亜優が美しいと言って、救ってくれていれば。
夢物語だ。
涙がにじみそうになったけれど、ぐっとこらえた。

「ああ、でも、俺は……うん。篭絡されそう」
「お前が連れて来た時の態度からそうだろうなと思ったよ」

レキトが笑ってアッシュの肩を叩く。
言われた内容に、さらに頬が熱くなる。
「あ~……っと、ま、それは気にしなくていいから。俺はいつ戻れるか分からないしね」
その言葉に、熟れた思考から現実に引き戻される。
彼らは、いつ戻れるか分からないのに、亜優だけを帰そうとしてくれている。
このまま彼らについていても迷惑で、彼らが亜優をこのままこの場所に置いて行けるとも思わない。
だから、どうにか亜優だけでも街に帰すしか方法がない。

亜優は何も言えずに、ぺこりと頭を下げた。
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