隣人よ、大志を抱け!

ざっく

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獣人の国へ

かわいいもの天国

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「どうして、こちらの国はこんなに自然が広がっているのかしら」

あまりにスペシーズ王国と違う風景に、フィリアは小さく呟いた。
これだけの自然があれば、食べるものに困らないような気がする。羨ましいと感じた。
「人間と獣人の身体能力の差だな」
またも独り言に返事。
話しかけているわけではないことは分かっているだろうに、暇なのだろうか、わが父は。
「石を一つ運ぶだけでも、人間と獣人では、必要となるものが違う」
話せることが見つかって、急に饒舌になる父。
―――本当に暇だったのだろう。

獣人の国、ブルタル王国。
人間の国と同じ広さを持ち、山も川も、自然を生かした状態で発展を遂げた。
獣人の身体能力があって成し遂げたこと。
人間では道を作らなければ山から岩を下ろせないのに、獣人は必要最低限の開拓ですべてを作っていく。
そのため、ブルタル国には多くの緑が残り、人間は切り開いていった森がそのまま残っているのだ。
元々、望むものも違ったのだろう。
人間は富と名声を。
獣人は自然と自由を。
それぞれのやり方で国を作っていって、こんなに変わってしまった。
「ブルタル王国の様子をスペシーズ王国で話すことは禁じられている」
父は宰相として、この国を訪問したこともあるのだという。
その時の様子を語って、獣人にこちらの技術と引き換えに労働力を提供してもらえないかと考えたそうだ。
そうすれば、もう山を削らなくて済む。川を汚さなくても、埋めなくてもいい。
だが、その反応は『売国奴』の汚名。
あんな野蛮な獣に仕事を手伝ってもらえと言うのか。人間の誇りはないのか。
知識があるだけで、常識のないやつは―――。

「自分はえらい。何でもわかると思っている奴ほど愚かな者はいない」
はん。と鼻で笑い飛ばす父は、非常に性格が悪そうな顔をしている。
気に入らないけれど、生活のためだけに仕事をしていたと言い切った。
公爵が何を言っているのかと呆れる。
母に最善の医療を受けさせた後、父は呆け始めたらしい。
……初耳だ。
「というわけで、俺は晴れて普通の呆け老人だ!介護頼んだぞ!」
「元気すぎるわ!」
嬉しげにのたまう父にクッションをぶつけておいて、大きなため息を吐いた。

兄は、大丈夫だろうか。
本気で……思っていたよりもずっと、価値の分からない愚か者の国だったらしい。


フィリアは、改めて、ここブルタル王国に来ることができてよかったと思う。
広い広い草原を越えて、舗装された道路になり、建物が立ち並ぶ街並みが現れて、改めてそう思った。

なに、この可愛いもの天国。

耳だ。しっぽだ。ふさふさだ。
人間には、獣人と普通の動物の見分けがつかないため、動物を飼うことは禁止されていた。
フィリアが、家庭教師に獣人は動物の姿になれるのかと聞けば、「多分、なれる」と言う。
なれないという文献もあれば、なったという文献もある。
獣人に聞いても、なれると言ったりなれないと言ったり。
本当のことは言わないので、定かではないが、きっと変身できるらしい。

結論、分からない。

隣国の情勢がそれでいいのか。
しかし、正式な記録が残るようになった昨今では、人間が獣人の変身を目撃したという記録はないらしい。
だったら、耳としっぽがあるだけで、全身の変身は無理ではないかという結論にフィリアは至った。
耳の形が人間と違うだけなのだろうと思っていたのだが。

「くまさんよ!くまさんが歩いているわ!」
両手を頬に当ててフィリアは興奮気味に呟いた。
森の中で会いそうな熊さんが、服を着て歩いているのだ。
ああ、どこまで熊さんなのだろう。触ってみたい。
「フィリア。いきなり触らせてほしいと言えば、お前は変態だぞ」
興味なさげに呟く父の言葉が痛い。
そうだ。セオにも似たようなことを言われたことがある。
人間はそんなに簡単に体に触れさせるのかと。
道ですれ違った人に、いきなり抱き付かせてくださいだなんて言えない。
ちらりと父に視線を向けられて、フィリアはびくりと体を揺らした。
「あの人たちは、動物ではない。私たちと同じ人間だぞ?」
フィリアは、浮かれていた気持ちを引き締めた。

フィリアは、動物を可愛がっているところを見られるだけでも、獣人とつながっていると疑われる可能性があるので、父が宰相という重役についていることもあって、馬以外の動物に触ったことがなかった。
馬のような、人間に使役されているようなものには獣人がならないだろうとみなされているのだ。
だけど、もっと毛の長い犬や猫の、あの柔らかそうな毛に、一度でもいいから触れてみたいと思っていた。
それが、目の前にあると言うのに、我慢が必要とは。
はああぁ。
大きな、大きなため息を吐いたフィリアを呆れたように眺めて、父は言った。
「いや、獣人じゃなくて、動物なら普通に触ればいいだろ」

………盲点だった。
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