物語のように

ざっく

文字の大きさ
6 / 9

奪い合う二人

しおりを挟む
スズからは見えないが、激しい光と爆音が何度も聞こえる。

聞こえて、地面が揺れるだけで、ここにはまだ炎も風も届いていない。だけど、漏れ聞こえる音と光で、外がひどいことになっていることが分かる。
外で何が起こっているのだろう。
アイラーテ様を家の中に入れなければと思うのに、恐怖に足がすくむ。彼女も、立ち尽くして動けなくなっているようだ。
それほど、怒りの波動を感じるのだ。
これは、ロン様ではない?

「ふざけるな!ロン!いつから私の番を隠していた?この家の結界を解け!」
「それだけはできませんっ!彼女は私の--っぐ」

大きな言い争う声が途切れた。
アイラーテ様が悲鳴をあげる。
「ロンっ!」
アイラーテ様がなんと、外に一歩踏み出してしまった。
それはいけない。この家の中にいるから安全だというのに。
スズは固まっていた足を必死で動かして彼女にしがみつく。
「ダメです!危険です!」
「放して!~~~~っロン!」
アイラーテ様は、スズよりも体が大きい。そして、竜人に愛されているからか、体力もスズに勝る。
家の中に押しとどめられずに、さらに一歩、外に出てしまう。
途端に突風にあおられる。

見上げると、そこには宙に浮かんだ二つの影。
背中からは、大きな羽を生やして、空中にとどまっている。
片方はロン様だ。もう一人は……シグルト様だ。
二人が争っている様子に、スズは息をのむ。
先日はあんなに仲が良さそうだったのに、今や二人とも傷だらけだ。……いや、シグルト様にはほとんど傷がついていない。ロン様の方は、血がにじんでいるのがこの距離からでも見える。
「家の中に入っていてくれ!」
ロン様が叫ぶ。
「俺の番だ!」
俺の、番。
彼は必死の形相でそう叫んでいる。
ロン様はそれを阻む。
「違います!彼女は私の番です!」
二人の番が同じになるなんて聞いたことは無かった。
そんなこと、尋ねてみたことも無いのだ。もしかしたら、そういうこともあるのかもしれない。
執着心の強い竜人が一人を取り合ったら、どれだけの被害が出るのだろう。

彼らの言い争う声を聞いて、スズはアイラーテ様に向き直る。

「アイラーテ様。私は、何があってもあなたの味方です」

真っ青な顔をしながらも、アイラーテ様はスズに顔を向けてくれる。
スズは、彼女の手を握って、真剣な表情で問う。
「どちらがお好きですか?どちらでも、私はアイラーテ様を応援します」
二人をこのまま争わせるのではなく、アイラーテ様が気落ちを固めてしまえばいいのだ。
最愛の人の言うことならば、竜人だっていうことを聞いてくれるはずだ。
アイラーテ様は目を見開いて、首を横に振る。
「考える間でもないわ。ロンよ」
それを聞いて、スズはほうっと息を吐く。
言葉に嘘はなかったが、失恋後に主人の夫となった彼とずっと顔を突き合わせるのは勘弁してほしいところだ。
「だったら、家の中に入りましょう。ここは危険です。ロン様が帰っていらっしゃるのを待ちましょう」
アイラーテ様が、唇を噛んで黙ったままこくんと頷いた。
踵を返して家の中に入ろうとした時、ひときわ大きな音がした。

驚いて振り向いて見上げた先には、二人分の影が、高い空から急降下で向かってくる。

「ついに、俺の――!」
「やめろー!」

片方はロン様だ。遠目に見るだけでも赤く染まってひどいけがをしているように見える。
スズはアイラーテ様にしがみつき、どうにかシグルト様から彼女を守れないかと願った。
竜人二人から奪い合われたらアイラーテ様はどうなってしまうだろうか。
何もできない私だけど、盾にくらいは――。
そんな意思を感じ取ったのか、アイラーテ様も、スズに抱き付く。

言葉を発する暇もないうちに、スズとアイラーテ様は引き離された。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

義兄のために私ができること

しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。 しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。 入り婿である義兄はどこまで知っている? 姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。 伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。

【完結】うちの悪役令嬢はヒロインよりも愛らしい

らんか
恋愛
前世の記憶を思い出した今なら分かる。  ヒロインだからって、簡単に王子様を手に入れていいの?  婚約者である悪役令嬢は、幼い頃から王子妃になる為に、厳しい淑女教育を受けて、頑張ってきたのに。  そりゃ、高圧的な態度を取る悪役令嬢も悪いけど、断罪するほどの事はしていないでしょ。  しかも、孤独な悪役令嬢である彼女を誰も助けようとしない。    だから私は悪役令嬢の味方なると決めた。  ゲームのあらすじ無視ちゃいますが、問題ないよね?

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

あなたがそのつもりなら

素亭子
恋愛
リリアーナはランス侯爵からの求婚をうけて結婚したが、わずか一年で夫は愛人を持った。リリアーナの仕返しの話です

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...