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「アイラーテ……!」
ロン様がアイラーテ様を抱きしめて、誰にも触らせないようにきつく抱きしめる。
そして
「……あれ?」
スズもまた、捕まっていた。
アイラーテ様にしがみついていた手は、腕ごと抱きしめられて、指の一本くらいしか動かせない。
アイラーテ様も目を丸くしてこちらを見ている。
「……あぁ、勘違いしていた。そういえば、この家にはもう一人いたんだったな」
毎日、近くで仕事しているというのに、ロン様の何気にひどい言葉が聞こえた。
そちらに意識を取られていると、ぐいとあごが掴まれた。
腰を引き上げるように抱かれたまま、顔だけ上を向かされる。
そこには、つい先日見たばかりの、麗しい竜人の王。
「私の腕の中にいるというのに、他に意識を向けるか?」
その顔に笑顔はなく、射抜くような厳しい瞳だった。
抱きしめられていると頬を染めるような時間もない。
「え、何がですか?って、はっ……離してください」
孤児だった時はともかく、城に勤め始めてからは男性とほとんど近づいたことすらない。
それなのに、この羽交い絞めはいきなり怖すぎる。
自分の状況を段々と把握できて、スズはふるふると震え始める。
「スズを離しなさい!彼女は私の侍女よ!」
アイラーテ様が、叫ぶ。
同時に、目の前の男性から怒りの波動が漏れる。
アイラーテ様が、ロン様に止められながらもスズをかばおうとしてくれている。
本当だったら、ここでシグルト様の怒りを感じ取り、彼女を守るために動かなければならないはずだった。
しかし、スズはさきほどの爆音と突然捕まえられたことに混乱してパニック状態だった。
結果。
今まで流したことがないほど、大量に涙があふれてきた。
ここにいるスズ以外の全員がぎょっとしたのが分かった。
「す、スズ……?どうした?すまん、痛かったか?あまりに慌てていたものだから、力加減がうまくできなかった」
シグルト様がスズを覗き込んでくるけれど、それを首を横に振って避ける。
「スズ!急に捕まえられて怖かったのでしょう?こっちにきなさい」
慣れ親しんだ声が聞こえる。
彼の腕の力が緩んでいることもあって、スズはするりとアイラーテ様の方へ向かう。
べそべそ泣きながら寄ってくるスズを、アイラーテ様が優しく抱きとめてくれる。
「スズ。もう大丈夫よ」
「はい……。ありがとうございます」
一生懸命に出した声は、鼻声で、うまくしゃべれなかった。
スズがアイラーテ様の胸に顔をうずめて泣いている時、彼女は顔を上げてシグルト様を睨み付けていた。
「いきなり攻撃を仕掛けてくるだなんて。こんなにおびえているわ。なんてひどい」
アイラーテ様の言葉が入ってこない。
失恋したばかりの相手が攻撃してきて、捕まえられて、何だか怒られたような気もする。
「攻撃は……その、ロンの家に……」
「私たちがここに居ると知りながらやったことでしょう?ロンまでこんなに傷つけて」
アイラーテ様が、スズを腕に抱いたままロン様にも手を伸ばす。
しかし、ロン様は難しい顔をしてそっと距離をとる。
「アイラーテ。君には近づきたいのだが、腕の中の侍女を離してから来てくれないか。見出されたばかりの番に、別の異性が近づくわけにはいかない」
「番じゃないわっ」
アイラーテ様が、スズをさらにぎゅっとだきしてめて叫ぶ。
「番なら、ロンのように優しく迎えに来てくれるものでしょう?それが、いきなり爆音から始まるなんて。最初にかける言葉が、文句なんて。文句でしたわよね、今!」
腕の中で見上げた冷たい視線がまた思い出されて、スズは震える。
――あれは、怖い。
シグルト様に抱きしめられたことを思い出した。
最初は、驚いて、次いで抱きしめられていると思ったのだ。だけど、それはすぐにひっくり返されて、何かの怒りを買って捕まっているのだと分かった。
驚いて期待して、真実を知った後に、全てが無かったことになる。
「すまない。あれは、気が高ぶりすぎていて――」
「おひきとりください」
アイラーテ様の厳しい声に、シグルト様からの返事はなかった。
静かな時間が流れる。
ただ、スズが震えながらか細い声で泣く声だけが響き渡る。
いい加減、泣き止まなければと思う。きっと、普段涙を流し慣れていないから出始めたらなかなか止まらないのだ。そもそも止め方が分からない。
ふわっと風が舞った。
その優しい風に、スズの涙がようやく止まり、顔を上げることができた。
しかし、後ろを向くためにと首をまわしたら、そこにはシグルト様はいなかった。
――やっぱり、夢だった。
期待してはダメ。真実を知った時にさらに傷つくと思っていたのに。
スズは、またも期待していたらしい。
彼がそこにいないことが悲しかった。
ロン様がアイラーテ様を抱きしめて、誰にも触らせないようにきつく抱きしめる。
そして
「……あれ?」
スズもまた、捕まっていた。
アイラーテ様にしがみついていた手は、腕ごと抱きしめられて、指の一本くらいしか動かせない。
アイラーテ様も目を丸くしてこちらを見ている。
「……あぁ、勘違いしていた。そういえば、この家にはもう一人いたんだったな」
毎日、近くで仕事しているというのに、ロン様の何気にひどい言葉が聞こえた。
そちらに意識を取られていると、ぐいとあごが掴まれた。
腰を引き上げるように抱かれたまま、顔だけ上を向かされる。
そこには、つい先日見たばかりの、麗しい竜人の王。
「私の腕の中にいるというのに、他に意識を向けるか?」
その顔に笑顔はなく、射抜くような厳しい瞳だった。
抱きしめられていると頬を染めるような時間もない。
「え、何がですか?って、はっ……離してください」
孤児だった時はともかく、城に勤め始めてからは男性とほとんど近づいたことすらない。
それなのに、この羽交い絞めはいきなり怖すぎる。
自分の状況を段々と把握できて、スズはふるふると震え始める。
「スズを離しなさい!彼女は私の侍女よ!」
アイラーテ様が、叫ぶ。
同時に、目の前の男性から怒りの波動が漏れる。
アイラーテ様が、ロン様に止められながらもスズをかばおうとしてくれている。
本当だったら、ここでシグルト様の怒りを感じ取り、彼女を守るために動かなければならないはずだった。
しかし、スズはさきほどの爆音と突然捕まえられたことに混乱してパニック状態だった。
結果。
今まで流したことがないほど、大量に涙があふれてきた。
ここにいるスズ以外の全員がぎょっとしたのが分かった。
「す、スズ……?どうした?すまん、痛かったか?あまりに慌てていたものだから、力加減がうまくできなかった」
シグルト様がスズを覗き込んでくるけれど、それを首を横に振って避ける。
「スズ!急に捕まえられて怖かったのでしょう?こっちにきなさい」
慣れ親しんだ声が聞こえる。
彼の腕の力が緩んでいることもあって、スズはするりとアイラーテ様の方へ向かう。
べそべそ泣きながら寄ってくるスズを、アイラーテ様が優しく抱きとめてくれる。
「スズ。もう大丈夫よ」
「はい……。ありがとうございます」
一生懸命に出した声は、鼻声で、うまくしゃべれなかった。
スズがアイラーテ様の胸に顔をうずめて泣いている時、彼女は顔を上げてシグルト様を睨み付けていた。
「いきなり攻撃を仕掛けてくるだなんて。こんなにおびえているわ。なんてひどい」
アイラーテ様の言葉が入ってこない。
失恋したばかりの相手が攻撃してきて、捕まえられて、何だか怒られたような気もする。
「攻撃は……その、ロンの家に……」
「私たちがここに居ると知りながらやったことでしょう?ロンまでこんなに傷つけて」
アイラーテ様が、スズを腕に抱いたままロン様にも手を伸ばす。
しかし、ロン様は難しい顔をしてそっと距離をとる。
「アイラーテ。君には近づきたいのだが、腕の中の侍女を離してから来てくれないか。見出されたばかりの番に、別の異性が近づくわけにはいかない」
「番じゃないわっ」
アイラーテ様が、スズをさらにぎゅっとだきしてめて叫ぶ。
「番なら、ロンのように優しく迎えに来てくれるものでしょう?それが、いきなり爆音から始まるなんて。最初にかける言葉が、文句なんて。文句でしたわよね、今!」
腕の中で見上げた冷たい視線がまた思い出されて、スズは震える。
――あれは、怖い。
シグルト様に抱きしめられたことを思い出した。
最初は、驚いて、次いで抱きしめられていると思ったのだ。だけど、それはすぐにひっくり返されて、何かの怒りを買って捕まっているのだと分かった。
驚いて期待して、真実を知った後に、全てが無かったことになる。
「すまない。あれは、気が高ぶりすぎていて――」
「おひきとりください」
アイラーテ様の厳しい声に、シグルト様からの返事はなかった。
静かな時間が流れる。
ただ、スズが震えながらか細い声で泣く声だけが響き渡る。
いい加減、泣き止まなければと思う。きっと、普段涙を流し慣れていないから出始めたらなかなか止まらないのだ。そもそも止め方が分からない。
ふわっと風が舞った。
その優しい風に、スズの涙がようやく止まり、顔を上げることができた。
しかし、後ろを向くためにと首をまわしたら、そこにはシグルト様はいなかった。
――やっぱり、夢だった。
期待してはダメ。真実を知った時にさらに傷つくと思っていたのに。
スズは、またも期待していたらしい。
彼がそこにいないことが悲しかった。
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