霞んだ景色の中で

ざっく

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霞んだ景色

帰り道

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 「うっ・・・わあ!」
 階段が終わったかと思って気を緩めたのが間違いだった。もう一段残っていたようで、滑って、階段で尻餅をついた。
 地味に痛い。

 「またこけてるのか」
 聞き覚えのある美声がして降り向くと、今度は学生服を着ているらしき人影が見えた。
 「西田、先輩?」
 自信がなくて問いかけるように呼ぶと、不思議そうな声が返ってきた。
 「そう。見えていないのか?」
 「恥ずかしながら、眼鏡がないと見えなくてですね」
 目の前に立たれたので、慌てて立ち上がった。
 立ち上がって、驚く。
背が高い。
 大きそうだとは思っていたが、これほど身長差があるとは思わなかった。
 千尋の目の前に彼の胸元があった。
 「ああ、そうか。・・・・・・家はどこだ?」
 「いえ!そこまでお世話にはなれません!」
 きっぱりと断った。
 本当は、連れて帰ってほしいところだが、会ったばかりの先輩に、そんなことをお願いするわけにはいかない。
 「何度もこけておいて何言ってるんだ。同じ方向のやつがいたらついて行ってもらうから、言え」
 な、なるほど。先輩自身が付いてきてくれるわけではなく、同じ方向の人をつけてくれると言うことか。
 それは非常に魅力的な提案で、千尋は家の場所を教えた。
 「ああ、なんだ」
 気が抜けたような声がして、ひょいと腕を捕まれた。
 「オレの通学路だ」
 捕まれたまま、連行されているように見える格好で昇降口まで行った。
 「何組だ?」
 「1組です」
 簡潔な言葉だけで、躓きそうなところは腕が持ち上がるのでなんとなく分かる。
 名前を探している気配があって、すぐに、足下に靴が置かれた。
 「ここで待ってろ」
 そう言って離れていって、千尋が靴を履き終わったときには戻ってきた。早い。
 千尋が普段通り眼鏡をかけていても、ここまでは早くないと思う。
「よし、行くぞ。オレ、チャリ通だから、後ろに乗れ」
 「は、はい!全力を尽くします」
 「・・・・・・まあ、落とさないように気をつけるよ」
 緊張した様子の千尋に何か感じるものがあったのか、笑う声がした。
 自転車置き場まで連れて行かれ、手を離されると、その場で待ての合図らしく、千尋はおとなしく西田先輩が自転車を押してくる姿を見ていた。
 「ここだ。座れ」
 どうやら、珍しいことに荷台が付いた自転車らしい。手触りで確認していると、
 「防具乗せることもあるから」
 千尋が思った疑問が分かったのか、答えが返ってきた。
 さて・・・・・・どうやって乗ろう。
 当然だが、千尋は制服のスカートだ。だが、安全のためには跨ぐべきか。
 「スピード出さないから、横座りで頼む。目の毒だ」
 千尋がスカートをまくり上げたところで、ストップがかかった。
 「そうですか。・・・・・・えへへ」
 「なんだ?」
 千尋が思わずこぼした笑みに疑問の声がかかる。
 「なんだか青春ドラマみたいです」
 川沿いを男女二人が自転車に乗って走るなんて胸キュンのドラマを思い出す。
 「あほか」
 ばっさり切られてしまったが。
 まあ、そんな感じがするというだけで、実際は普通に住宅街を抜けていくし、甘酸っぱい関係でもない…というか、迷惑をかけっぱなしのチビが荷台に乗るだけなのだから、仕方がないだろう。
 「行くぞ」
 「は、はい!」
 大きな背中に目いっぱいつかまって、でもシチュエーションだけは、どきどきものだと再確認した千尋だった。
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